自然派ワイン派は、どこまで自然か  にしかたゆうじ 2007/08/20

 最近、自然派といわれるワインから少しばかり遠ざかっている。(というか試飲的には少なくはないが、気持ち的に少し停滞しているという感じ) 

 おおむね栽培に関しては、ビオあるいは、ビオディナミ、または旧暦で行う農業の精神は理にかないつつ、すばらしいと思う。ただ今年のような多湿なビンテージに関しては、べト病等の大量発生に対処すべく、減農薬的手法も、やむをえないと思ったりする。(ビオディナミの真価が問われるという説もありますが・・・)

 また醸造に関しては、亜硫酸を多少なりとも使用したワインの安定感に、心許しがち。なかには、亜硫酸未使用ワインにも、少なからず、極めてすばらしいものが存在することは知りつつも、フォローできない醸造上の欠陥のあるワインに多数直面するたびに、自然派への気持ちは後退し、あの独特の濁りジュースのような感覚にも戸惑いを覚えたりする。(先日も埼玉の有名酒販店の某店主と酢エチ全開の白ワインについて、やりあったばかりですが・・・(笑))

 さて、表題の、自然派ワインはどこまで自然派なのか。今回は日本国内での流通・保管状況に注目しつつ、アプローチしてみたい。自然派を謳う多くのワインは、裏ラベルか輸入商社情報として、14℃以下での保存を提唱している。亜硫酸による抗菌作用が期待できないため、その温度での管理が必要なのだが、35℃以上という猛暑日をいくつも数える日本にあって、14℃の環境を作ることは、とても不自然だったりする事実に戸惑いを隠せない。

 猛暑日に14℃の室温を保つのは、相当なエネルギーが必要だろう。保管場所全体を冷やすなら、業務用の冷蔵庫が必要で、それを実践しているすばらしい酒販店もあるが、真夏の昼、14℃の環境下は、ワインにやさしくとも、人は生きてゆけない環境かもしれない。外気温との差=20℃以上は、生理的にも厳しいものがあり、メガネも曇るし、14℃と30℃超を、日に何度も往復することは、皮膚レベルで順応できそうもなかったりする。またワイン専用セラーで14℃を保つことも可能であるが、その電気は、原子力による発電を基にしていることも否定できず、また、より天然エネルギー的な風力発電でも、近隣住民との間に騒音問題を抱えているケースも少なくないと聞く。

 自然派ワインは、保管の上で自然でないケースが多い。自然派の精神を最後まで受け継ぐためには、温度管理は絶対的に必要なのではあるが、それを実現するためには、人工的な要素が不可欠だったりもする。誰もが地下に貯蔵庫を持っているわけでもなく、天然のトンネル跡地を利用した倉庫会社に預けたとしても、ワインを運搬する時に使用する車は、石化燃料で動く現実もある。原子力や石油によって守られる自然派という考え方。そこに不自然さを感じるこの頃だ。それはあたかもバイオエネルギーを確保するために、自然林が破壊され、誰かの口に入るべき食料が、車の燃料に回されることに似ているのかもしれない。(似てないかな)

 しかし、ふと考えると、この状況は亜硫酸をきっちり添加している普通のワインにも同じことが言える。普通のワインもきっちりと温度管理が必要で、決して30℃超の環境で長期の熟成に耐えることはないだろう。それに、普通のワインが入っている私のワインセラーの電源も普通に原子力発電所のそれとリンクしていそうだ。自然派と自然派でないワインとの保管の差は、程度の差であり、亜硫酸の効果が期待できないために、リスクの多い自然派が、より慎重になるだけのことのように思えてくる。ワインの保管・保存へのアプローチは、基本的に同じなのだから。それをことさら自然派を強調するほどに、なんだか違う意図を感じざるを得ないから不思議だ。逆に亜硫酸の効果が期待できれば、温度管理を幾分ゆるくすることもでき、それは、しいてはエコに繋がるのかもしれないし・・・。

 自然派ワイン。私はやっぱり、自然と派の間に、「に」を入れたい。自然に派

 亜硫酸を入れようが入れまいが、日本でそのワインを保管するには、人工的な冷気を作り出す必要があり、それはちっとも自然ではないのだから、もっとゆるゆるにワインと接したほうが健康的な気がするのは私だけだろうか。自然派にあらずんば、ワインにあらず、江戸末期の尊王攘夷ではないが、天然酵母尊王、亜硫酸攘夷派的な人に出会ってしまうと、なんとなく空虚な空気を感じてしまうこの頃だったりする。いわゆる自然派ワインは、地下数メートルに掘られた天然の空洞からサクッと持ってきて、(それはあたかもロワール渓谷の岸壁に作られた天然のカーブのように・・・)、ゴクっと飲める環境があれば、より自然に楽しめるのだろうけど、日本ではやっぱり難しい。

 自然派の自然を強調するほどに、なんとなく、違和感を感じるこの頃だったりする。そういえば、ペットボトルの緑茶には、ビタミンCという名のL-アスコルビン酸が添加されているし、納豆は一度天然酵母を死滅させてから、純粋な培養納豆菌だけで作られている。とかく、なぜに、ワインだけが天然酵母とあり亜硫酸無添加にこうも、躍起だつのだろう。不思議といえば、不思議かもしれない。

 個人的には、自然派云々ではなく、亜硫酸云々ではなく、そのワインを飲んで、ともにハッピーになりたいと思うのだが・・・。あれ。このワイン普通においしいね。それがいい。


おしまい


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