諦めかけていたもの (2002/10/02)

 
 某日。フランスから郵便が届いた。地図だった。
 フランス(以下某国)はコート・ドール県ジュブレ・シャンベルタン村の郵便局の消印は、23/07/02 17Hとある。つまり2002年7月23日の午後5時だ。ざっと2ヶ月以上も前に出された郵便だった。差出人は私。受取人も私。そうなのだ。この郵便物はこの夏某国から自分当てに送った地図。地図と言ってもただの地図ではない。たたみ一畳分より少し小さいくらいの大きさの地図が2枚、円筒形の箱に入っているのだ。予てより欲しかったコート・ド・ニュイ地区とコート・ド・ボーヌ地区の大銘醸畑の地図だった。

 某国の郵便事情は察していた。記念切手を貼ったりお洒落な絵葉書は、当局の心無い人々に窃盗されてしまうということだった。そのために某国宛の郵便は極力地味な封筒を用意したりしたものだった。今回は某国からの郵送だったため、途中でなくなることも覚悟し、実際2ヶ月も音沙汰なかったため、ほとんど諦めていたのだった。そこへ台風一過で蒸し暑い某日、自宅に届いたものだからうれしいではないか。

 いや。本当はそんなにうれしくない。筒の上下は雨風が入らないように頑丈にテープでぐるぐる巻きにしていたが、肝心の円筒が途中でグビリと折れていた。寂しい。せっかくの大地図なのに、所々に皺がよってしまい修復不可能なのだ。これは苦情の対象だろうか。某西友の偽装客とも違い、確かに自分で購入したものだから、文句のひとつも言ってもよさそうだ。保険対象になるのだろうか。そもそも保険に入ってないような気がする。などなどいろいろなことが少ない脳を駆け巡る。こんなことなら多少高くても日本国内で買えばよかったかなと後悔したりもする。

 しかし輸送費は、€ 5.64 = 約700円。エコノミーパック。Economique/Economy

 飛行機代に比べ遥かに安い価格で、遠路はるばる我が家に届けられた地図である。自分が歩いた足跡をたどりつつ、思わず笑みもこぼれるというものだ。この地図の販売担当の某氏とのやり取りや郵便局の親切なマダムとの会話も思い出される。そもそも紛失を覚悟していたものが、ひょっこり現れたのだ。これだけで良しとしよう。

 そうなのだ。実はうれしいのだ。ワイン各誌に掲載されている地図のほとんどがここからの転載と聞く。紙面の関係で村ごとに切り取られた地図からは確認できないものが、大地図からだとよく分かる。まるで鳥になったかのように、ジュブレ・シャンベルタン村からニュイ・サン・ジョルジュ村まで鳥瞰する様は結構うきうきだったりする。

 ブルゴーニュ。この細い帯状の畑こそ奇跡の大地であるのだと実感するところだ。
 そして某国および日本の郵便関係者に感謝するところである。


 おしまい


目次へ    HOME

Copyright (C) 2002 Yuji Nishikata All Rights Reserved.