フランスを巡る冒険 TGV編 (2003/07/05)

 
 フランスの地方に行こうシリーズの第三回目はフランス版新幹線のTGVについて。
 
 TGV (テージェーヴェー)はパリを基点に放射線状にフランス都市を結んでいて、一部は国境を越え、ロンドンやブリュッセル、アムステルダム、ケルンまでと続くフランス国鉄SNCF自慢の高速鉄道である。パリ - ディジョン間を例えると、(というか最近はこの路線しか乗っていない)、その距離315kmを約1時間半強で結んでいる。運行間隔は時間帯によって異なるが、午前中は2時間おき程度にしかなく、日本の新幹線のイメージで乗ろうとすると意外な少なさにスケジュール変更を余儀されるかもしれない。全席予約制で、一部座席指定のないフリーな乗車券もあるようだが、いずれにしても事前に申し込む必要がある。西ヨーロッパを自由に乗りまわれるユーレールパスでも乗れるが、この場合でも予約は必要だ。

 パリ市内での乗車券の購入は、各SNCFの窓口で行なっているので、比較的簡単だが、意外に時間がかかるので、慌てないためにも時間には十分余裕を持ったほうがいいようである。通常、駅の窓口は、二種類あって、その駅から発進の電車と、違う駅から出るものでは窓口が違う。概ね、その駅発の電車はその駅で購入した方がいい。圧倒的に購入までの時間が早いからである。例えば、ボルドー方面の始発駅モンパルナス駅で、ディジョン行きのチケットを購入する場合を例にとってみよう。ディジョンへは、モンパルナスからではなく、ギャール・ド・リヨン駅から発進するので、窓口は、国際線またはその他の乗車券売り場(ヨーロッパは地続きなので、電車にも国際線がある)の方へ並ぶわけだが、そこはモンパルナス発の電車の列に比べ、かなりの行列が形成されている。窓口は銀行のATMコーナーよろしく数ヶ所の担当窓口に対し、一列で並び、空いた順に振り分けられるシステムになっている。しかしここはパリの大拠点。ボルドーやスペイン方面へ行く人たちでごった返し、特にバカンスのシーズンはかなりの行列を覚悟しなければならないのだ。なぜそんなに待たされるのか。それはお客さんの多さに加え、窓口の少なさと、そこで旅の相談をしていると見受けられる人たちの多さも要因ではないだろうか。また国際色豊かなので言葉の問題もあるかもしれない。

 いずれにしてもここまで待たされて、ようやく自分の番が廻ってきたからには、少し知恵を絞りたくもなる。割引制度の活用である。もし自分が、25歳以下か60歳以上であるならば25%の割引を受けることが出来る。私は60歳に見られたことはないが、25歳以下かと問われたことは度々ある(ちょっと自慢)。ここでOuiと答えて割引料金を適用してもらいたい衝動にも駆られるが、ここで年齢を証明するパスポートの提示を催促されなくても、電車内の検札で対応を迫られた場合、追加料金をとられかねないので(犯罪なので当然だ)、ここはニコッと笑って正直に答えるべきだろう。また二人以上のグループで同一行動をする場合も割引の適用を受けられるが、あいにくこっちは一人旅だ。駅構内で目的地を同じにする人をナンパして友達になるという裏業もありそうだが、もうそんな歳じゃないでしょの一言であえなくボツだろう。しかしまだ割引制度の道は残されている。往復割引である。200km以上の往復で、滞在が土曜の夜から日曜を含む場合に適用される制度があるのだ。ディジョン往復は630kmなので全然クリアしているし、週をまたぐことは結構たやすかったりする。

 しかし、ここで盲点がある。各種割引チケットは電車ごとにその枚数が限られていて、そのチケットが完売されると例え他の席に余裕があっても正規料金になってしまうのだ。また割引率もその席によって違う可能性があり(詳細調査中)、いつも提示される金額が違うのだった。電車を一本ずらしただけで値段が変わってしまうという、よく分からない料金システムは、実際に該当の乗車券を買うまでそれがいくらか分からないことを意味し、貧乏人の財布のやりくりの障害になってたりする。仮にディジョンまでで片道44ユーロ
(ちょっと記憶がおぼろげですんません)だったとして、往復で88ユーロ。140円換算で12320円にもなってしまう。25%の割引が受けられると換算で3000円も得することになるので、一日の生活費ぐらいはカバーされてしまうのだ。(私の場合は宿泊費を除けば、5日くらい暮らせるが・・・) 割引を受けるためには一刻も早く、チケットの予約が必要だ。そして日程に余裕があり、財布にゆとりがないのなら、一本ずらしてでも安いほうを選んだ方がいいのかもしれない。また座席には一等と二等の二種類があるが、旅はユニクロの私はどちらか問われることはなく、必ず二等の席だったりもする。

 ところでTGVで注意することもある。通勤時間やバカンスシーズンなどでは、乗車券が売り切れの場合も多く、座席指定ゆえに乗車ができないこともあるからだ。きつきつのスケジュールで動いていると、思わぬ足止めも食らい兼ねないので、TGVのチケットは出来るだけ早く買ったほうが安心で、仮に予定が変更になっても変更は比較的容易なので、転ばぬ先のTGVの座席確保なのである。

 無事チケットを購入するといざ電車に乗り込むことになるが、モンパルナス駅からはディジョンに行けないので、メトロでリヨン駅に向かうことにする。リヨン駅では意外にも窓口が混んでおらず、なんだここで素直に買えばよかったと思ったりする。リヨン駅は東横線の渋谷駅を巨大にしたようなもので、どん詰まりの始発駅だ。ロビーには何番線から発車する旨の掲示板があるので、番号と電車番号をチェック。確認できたら、オレンジ色のコンポステという装置にチケットを当てて、ガチャンと刻印と小さい穴をあける必要がある。コンポステは駅改札のような役割を持っているようで、このコンポステを忘れると例え正規チケットを持っていても罰金の対象になるので、必ずコンポステはしなければならない。

 TGVは概ね長い。10数両編成もあり、車両番号によってはホームの端っこまで300Mくらいか、重い荷物をしょって歩かなければならなくなる。時間に余裕がないと、せっかくホームまで来ているのに乗り遅れるかもしれないので注意が必要だ。発車を知らせる呼び鈴などはなく、フランス語の案内の後、時間とともするりと発車する。

 車中、必ず車掌さんがやってきて、乗車券の確認をする。車両の両サイドから二人で来る場合もあり、無賃乗車は絶対阻止するという態度が明確だ。ここでコンポステがないと怒られるし、ユーレールパスや割引チケットの場合はパスポートの提示を求められることもあるようだ。もし幸運にも往復割引チケットで乗車できたのであれば、この検札の時には帰りの分のチケットも提示しないといけないし、帰りの電車では使用済みの行きのチケットも同時に提示する必要があるので、心にとどめておきたかったりする。ところで車掌さんの名札には話せる言語を知らせる国旗が貼ってある。たまに日の丸シールもあったりするので、「こんにちは」などと話しかけられることもあったりするので、フランスなのに日本語かよと面倒がらずにコミュニケーションに率先して参加しようではないか。車内アナウンスはヨーロッパの国際色をあらわしていて、フランス語、ドイツ語、英語、イタリア語(またはスペイン語?)と続き、日の丸おじさんが乗車していれば、日本語でも案内されることもあったりする。たどたどしくも正確な日本語に、心和むワンシーンなのである。

 TGVは快適である。クーラーも効いているし、読書用のライトもある。ゴミ箱もある。トイレも無料で使える。振動も少なく、窓にはカーテンもついている。車窓からの眺めもすばらしく、のどかな田園風景を眺めつつ、日本に例えれば、東京-名古屋間くらいかなどと感想を漏らしつつ、電車は一路ブルゴーニュへと向かうのであった・・・。


おしまい


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