相模湾沿岸警備隊の盲点 (2003/10/28)

 
 最近、熱海から鎌倉にいたる相模湾沿岸のレストランやバーなどの夜のパトロールを任務 ? (または部活)としているが、ある場所だけぽっかりと空白の地帯があった。全国的にも有名なその場所には、なぜか立ち寄る機会がなく、部活動の盲点となっていた。ほぼ毎日のように通過する街ながら、通過するだけにとどまっていた街、それは茅ヶ崎である。

 先日、日本のレゲエ界の兄貴的存在のナンジャマンと飲む機会があり、(念じればちゃんと会えるからうれしい)、茅ヶ崎に不慣れな私は、平塚でお洒落な飲食店「Café & Dining Bar BRASSERIE H X M」を経営する某氏に紹介してもらった「Kumaya Dining」というレストランを某氏経由で予約した。ここは某氏の口調から食にこだわった居酒屋かな、くらいの安易な空想にもとづいて、ナンジャマンら男五人のラフな格好チームで訪ねたのだが、ちょっと私の空想は空振りに終わってしまった。

 エレベータの扉が開いた瞬間、やっちまったの後悔がチームをよぎった。大振りのワイングラスが配置され、そこはお洒落に着込んで大切な異性と一緒に素敵な食事をするためのレストランだったのだ。やばい。居酒屋風は姉妹店のほうだった。間違えてしまった。しかし、今更引き返すことも出来ず、とりあえず何か頼んで、遅れてやってくる某氏の到着を待って場所を変えようかなと思いつつ食事が始まった。

 広い店内には幸せモードのお客さんが食事を楽しんでいるのだが、あきらかに男五人衆のこのテーブルだけ妙な違和感があった。しかし入っちまったものはしょうがない。サラダやピザなど頼んで、適当に切り上げるしかない。早く某氏は来ないだろうかと思いつつ、この感情はお店側のスタッフとも共有するような気がして、ますます居心地は厳しくなるが、まあお酒の席でもあるし、こんな違和感もたまには楽しもうと思ったりする。

 ふたつしか頼まなかった料理の一品目は、茅ヶ崎サラダと名づけられたサラダだった。確かにおいしいが、いわゆる普通の海鮮系のサラダで、次のピザが来た頃にはとっととお店を変えようモードを意識した。しかしである。次にやってきたピザは、サプライズ系のおいしいピザだった。新鮮野菜がトッピングされたそれは、ここがただのレストランではなく、食にこだわった職人系のレストランであることに気付かせてくれた。いつの間にかやってきた某氏にもこのピザは好評で、我々の服装やチーム構成はちょっと脇に置いといて、食事をしっかり食べようという気にさせた。これも怪我の功名だ(意味も使い方も違うような気がする・・・)。

 続々と注文した料理からは厳選素材へのこだわりが随所に拝見され、スペイン、イタリア、フランス、和食テーストが美しいまでに調和された料理だった。美男美女系の店員さんのサービスも好感で、スローフードを基調とするスタイルに、どんどん引き込まれていくことになった。サービスの方々と出される料理について語り合ううちに、どんどん意気投合していくさまは痛快だ。会話が盛り上がるほどに、出される料理にもどんどん気合が入魂されていくような気がして、凄い料理がいくつも出てくるうれしい状況に変貌した。ここに入店直後の「きまずさ」はなかった。シェフの経歴(フランスの三ツ星レストランで数年修行されていたらしい・・・)や人間関係に我々の食生活のいくつものシーンが重なり、なんだかすっかりお店の虜になってしまった。極うまのお出汁系パエリヤを頬張り、気合十分のデザートが男五人衆の前に次々に運ばれる様子は、ちょっといい感じなのである。

 「食」にこだわるお店での、食事は楽しい。シェフとの会話は実現しなかったが、サービスの方々とのコミュニケーションは「食」にこだわりを持つほどに深まっていく(ような気がする)。そして今宵は、ナンジャマンと一緒という極めて稀なケースだったが、レゲエも聴くという女性従業員にも彼を紹介したときに、ぱっと華やいだ表情もいい感じなのである。

 洒落な空間と食にこだわる料理に数々に、こんなことを思う。

 「東京に行く必要がどんどんなくなっていく。」

 ここは茅ヶ崎。相模湾沿岸警備隊の重点パトロール箇所がまたひとつ加わった・・・。感謝なのである。

 おまけ : お店には定休日はないようで、昼はかなりの確率で満席になるが、夜は比較的空いているという。また行きかなきゃ。


おしまい


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