青山ハッピー・レストラン (2004/01/15)

 
 某日。話題のフレンチレストラン「LES CRÉATIONS DE NARISAWA」(レ・クレアスィオン・ド・ナリサワ)に行ってみた。

 ここは、昨年11月末に青山一丁目にオープンしたばかりの東京で最も注目を浴びるレストランである。フランスの三ツ星レストランで修行した成澤シェフの経歴や、小田原市早川「ラ・ナプール」での抜群の評判は、各誌絶賛の通りであり、満を持しての東京進出に、ブルゴーニュ魂の震えは抑えきれず、立ち上げ時期の混乱に配慮して、「まだ待て」とのアドバイスもそこそこに、ついに行ってしまったのだった・・・。

 結論から書くならば、ここは日本を代表するフレンチレストランであり、近い将来そのトップ評価を受けるに違いないハッピーなレストランである。東京のド真ん中の超一等地にあり、およそフレンチレストランには見えない外観は、知る人ぞ知る非日常を演出し、扉を開けた瞬間から「食」のドラマが展開されている。この装いは、フレンチの代表格ロオジエのそれにも似ておらず、ザ・ジョージアン・クラブとも全く違った独特の雰囲気である。ここはまさに、はじめて体感する異空間。黒と白のコントラストが目にも鮮やかで、一見すると冷たさも感じたりするが、黒といっても木目調のそれは、日本人の安心感に通じているようで、居心地も良い。空間の使い方も斬新で、理にかなっている。テーブルに置かれた「あるもの」は、何とも不思議ながら、ここから成澤ワールドが始まるのかと思うと、その扉にも似て、ワクワクぞくぞくしたりする。椅子やテーブルクロスの感触も、手に馴染み、自ずと背筋ものびるというものだ。本物でしか味わえない満足感、そのオーラは料理が運ばれてくる前から始まっているのだった。

 その日、日本で調達できる最高の食材が、成澤シェフのマジックにも近い技術と哲学で、極上の一皿に変身する様は、まさに圧巻である。ランチコースを注文したが、なぜかスパゲッティも登場し、しかしそのクリーミーな味わいは、きのことブロッコリーの食感とともにすばらしく、そして後から遅れてやってくるスパイシーさに脱帽状態ある。フレンチでパスタとは、意表を突かれた思いだが、その味わいは天下に届きそうな勢いであるから不思議である。またそれぞれのお皿は、素材のうまみを絶妙に引き出し、豊かな香り立ちと思いもかけない食材の組合せに、サプライズは続くのである。鹿とイチゴの組合せは、絶妙すぎて言葉もない、のである。

 そんなハッピーレストランをもろ手を挙げて賞賛したいのは山々であるが、確かにまだまだ発展途上を思わせる部分もある。揚げ足取りや悪意に満ちた視点で評するなら、それは否定もしにくく、「まだ待て」とのアドバイスは的を得ていたりする。しかし、その部分は、時間が解決するものであるし、半年もすれば、誰もが意識をすることはなくなるだろう。それがなんであるかは、行った人だけが食後に、友と語らえばいいことであり、ここで指摘するのも少し違うような気がするので、割愛しよう。私は、その部分に関しては、改善を待ちたいし、待てると思ったりする。

 いずれにしても、今後「LES CRÉATIONS DE NARISAWA」を自分の大切なレストランとして接し続けることが出来るとしたら、それは、ブルゴーニュ魂に、強烈なサプライズと豊かな感動とそして何よりも大切な「ハッピー」をもたらしてくれることだろうし、そう願いたい。このレストランで食事を共有することが、生きる喜びや生きる刺激になること間違いなしなのだから・・・。

 満を持した巨艦が、ようやくその姿を現した。さあ、感動の最前列へ、である。

 
おしまい


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