フレンチのはしご (2004/07/31)

 
 またバカやってしまいました(笑)。

 某日。恵比寿のタイユバン・ロブション(注)での第五回「ブルゴーニュ魂」的ワインセミナー・スペシャルバージョンを終えて、大ハッピーのまま中野坂上へ向かったまではよかったのだ。しかし、妙に勢いづいた食欲と、中野坂上といえば「鮨さわ田」なのに、不覚というか、当然ながら予約はしてないので、鮨は無理だなあと思いつつ、一見の見知らぬ居酒屋でビールを飲むのもなんなので、この街で待ち合わせた友人のリクエストにも答えるべく、銀座の知り合いのワインバーでも行きましょうということになった。丸の内線で、銀座を目指しつつも、せっかく今まで美味しいワインを飲んできたのに、なんか違うなあ・・・と思って何気に携帯電話をのぞくと、地下鉄の車内なのに電波が通じていた。都内はドンドン進化しているんだなあと感心しつつ、ふと、今日は銀座じゃないよなあという思いが沸き起こってきた。

 目指すは銀座にあらず、表参道にあり。

 さっきまでたっぷりとフレンチを食べてたけれど、ここはフレンチニ連発で、常識を超えた「食」のワールドに唐突ながら突き進みたくなった。地下鉄の車内は比較的すいていたので、邪道を知りつつ地下鉄の車内に座りつつ口元を隠して、某店に電話してみた。そこは、予約がとりづらいことでも知られるビストロだが、幸運にも二人分の席が空いていて、今から行けばOKとのこと。ラッキーである。

 ということで、赤坂見附で乗り換えて、この日二食目のフレンチが始まったのだった・・・。

 かたや日本を代表する豪華フレンチレストラン。かたやビストロ形式ながらすばらしい料理を生み出すフレンチの某店。両者の違いは、同じ日に食べてこそ鮮明に浮き上がってくるものと信じ、カロリーオーバーは必死ながら、明日走ったり、泳いだり、断食すればいいのである。(たぶん)

 そして結論から先に書くならば、両店ともすばらしい味わいで、それぞれの立場やシチュエーションを変えながらも、フランス料理のすばらしさを堪能させてもらった。特に某店は二食目というハンディを背負いながらも、しっかりと私の心を鷲掴みしていくから不思議だった。

 タイユバン・ロブションは閉店を二日後に控えつつ、有終の美を飾る味わい。さすがミシュランの六ツ星(=三ツ星+三ツ星)を獲得する名店で、シャトー・レストランの豪華な飾りつけと共に、とても優雅な食空間だった。閉店間際ということでスタッフのモチベーションやら集中力の低下も懸念されたが、それは杞憂に終わり、かつて会社の清算に最後まで立ち会ったことがある者として、最後まで責任をもって仕事する姿に共感しつつ、とても優雅で豪華な食事だった。料理の味わいを例えるならば、拉致問題で活躍する中山参与の優しい語り口に共通する上品さだろう。お上品と、上品に「お」をつけたくなる味わいはサプライズこそないものの、滑らかでバランスのよい味わいでとてもエレガント。大人の「ゆとり」や「たしなみ」にも通じる至福の食空間だ。強いて言うならば、華麗ながらおとなしすぎる味わいと、いえなくもないが、それは言い手の野暮さを露呈させるだけで、大勢には影響はないように思われる。

 一方の表参道某店は、北海道から取り寄せる有機栽培の野菜のパワーが印象的で、野菜の漲るパワーを絶妙な火加減と巧みな組み合わせによって、ハッピーな世界へと誘うフレンチの極意。まさに大塚ワールドだ。カウンター席のため、シェフたちの一挙手一投足が手が届くところで展開され、それを無理を承知で例えるならば、F1ドライバーのよう。F1カーは人間が自由自在に制御できる史上最速のマシーン。直線では音速のレベルに達しながらも、あのヘアピンカーブでは見事に体勢を制御する。有機によって栽培された野菜は、その力強さをお皿の上で爆発させるかの勢いを持ちつつも、しっかりと大塚シェフの技術と哲学によってフレンチとの一品として供される。凄いのである。ある意味、上品さは表に出づらい部活系フレンチではあるが、野菜のうまみをいかにフレンチの一皿として完成させるか、そのワールドをひとたび味わえば、「タイユバン・ロブション」とは違った一面を感じるからすばらしい。

 グランメゾンとビストロ。

 フランス料理の違う形態に、それぞれのすばらしさを感じる時、体の内側から喜びが溢れてくるから不思議である。そしてワインを通じて楽しむフレンチの魅力にどっぷりとつかりつつ、「食」を巡る冒険は、フレンチニ連発の破天荒な行動によって新たなるワールドへ足を踏み入れてしまったのである。(たぶん)

 フレンチニ連発は体力的にも金銭的にも、厳しさは募りつつ、そしてバカじゃないのという罵声(というよりむしろ正論)を背中で黙殺しつつ、今までの既成概念を取っ払うことが出来るかもしれないので、一生に三度くらいは経験してもよいかもしれない。バカやって、一筋の光を見つけるの境地かも。


(注) フレンチの三大グランメゾンの一角を占めつつも2004/07/31をもって営業終了

おしまい

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