山間のお刺身 (2005/04/09)

 
 先日、日本の内陸部に位置するとある有名な割烹で、夕食を楽しませてもらった。そこは以前にも訪れたことがあり、その日の訪問を指折り数えていたのだが、今回はその期待を少しばかり外されることになった。

 素材のうまみを引き出すことで知られる名店をしても、日曜日で市場がお休みだったときのお刺身は、厳しいものがあった。とくにマグロは全滅で、解凍しきれていないシャリシャリ感が、その厳しさを象徴していた。お刺身は自然の食材ゆえに、鮮度を重視せざるを得ず、料金を青天井で請求できる銀座界隈のおすし屋さんならいざ知らず、地方都市のお手ごろ価格の料理屋さんにおいては、ある意味妥協点が存在し、やむを得ない部分も多く、それはお客としても認識すべき事項であると思われる。また料理人もお客さんも、お互い人間であるために、体調が悪い時もあるだろうし、腹の虫の居所も悪い時もあるだろうし、いまいちペースもつかめない時もあるのだろうから早々悲観すべきものでもないのだが、この日を待ちわびていたものにとっては、その日の刺身は頂きにくかった。

 海で育った者が、内陸部でお刺身を食べる時、どうしてもその評価は厳しくなりがちで、煮魚にしたり、焼き目を入れたりして、山間のハンディを埋めてくれると、とてもハッピーになれるのだが、刺身の直球勝負でこられると、その球威のなさに、がっかり感を隠せないのかもしれない。もちろんそれが何万円もするお料理ならば、文句の一つもいえようが、格安な料金設定の場合は、むにゃむにゃむにゃとお茶を濁すしか手立てもなさそうで、まあ、こんな日もあるさと諦めるのが賢明なのだろう。

 そしてふと思う。

 私は食べ物に関しては、好き嫌いはないのだが、山間のお食事処で、予約してまで御飯を食べようという時には、電話口で、「実は、お刺身が苦手なんです・・・」と一声添えてみようと思う。そうすれば、山の幸や一仕事加えた海の幸を楽しむことも出来そうで、今回のようなある意味想定内の出来事も視野に入れつつ、このお店でしか味わうことのできない楽しみを、そこに居合わせることができた人たちと共有できそうで、それはとてもハッピーなことなのだと思う。

 いつも美味しいお店が、毎回美味しいとは限らない。だってそれは天然の素材を人間が調理するものだから。このブレを楽しめたら、ちょっといい感じと思いつつ、たまにしかいけないお店で外してしまうと、ちょっとショックも大きいから不思議だ。だから外での「食」は楽しいんだなあ。

おしまい


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