あるお鮨 残念 (2005/09/01)

 
 先日、本州某所の「おすし屋さん」に出掛けてみた。

 その「おすし屋さん」は、巷では、「おいしい」で評判で、なかなか予約も取れないらしい。そこは観光地ながら、バス通りから一本入った路地裏で、古い民家を改造しているために、パッと見だけでは飲食店には思えず、知る人ぞ知る人隠れた名店らしかった。

 私たちはグループでの訪問だったので、カウンター席には座らず、座敷の方へ。店内の様子を書くと、お店に迷惑もかかりそうなので詳細は割愛しつつ、私にとってこの「おすし屋さん」は、厳しいものがあった。個人的に、お鮨はお鮨そのもののお味ももちろんだが、清潔感のある空間という大前提の下で、職人さんとの相性が全てに優先すると思っている。しかし、座敷席の場合は、職人さんとの間合いもとりづらく、この店から発せられる違和感に気がつくのが、少しばかり遅れたのだった。

 注文したのは、夜のお任せコースで、会計はビールとお酒を入れてひとり一万円だった。値段的には、安くはないが、素材やら何やらを考えれば、決して高いとは思えない、いい落しどころ的な価格設定だった。

 握りの前の酒肴は、美味でおいしく、特に蛸、これはいいぞと思った。しかし、真に残念ながら握りに移行してからが、微妙な装いに突入した。握りは、二種類のネタが一貫ずつ出される方式で、大きさは大阪は天神橋筋の某店のそれに似て、非常に小ぶり。いわゆる親指サイズで、このサイズは最近味わっていなかったが、基本的には歓迎の大きさだった。しかし、ネタと御飯の小ささに反し、山葵は普通の量だったので、食べるお鮨、全てが山葵の味しかしなくなり、なんだか山葵の握りのバージョン違いを食べてるような、そんな感じだった。いっそのことサビ抜きにしてもらおうかとも思ったが、座敷席でそんなことも野暮かと思いつつ、お任せで運ばれて来るお鮨に身を任せたりもした。(ただし、なにやら重油のような香がするイカを食べた時はこの山葵に救われたが・・・)
 
 山葵味のお鮨のオンパレードに戸惑いながらも、私をもっと不快にさせたのは、お鮨を運んできてくれるおばちゃん(ご主人の奥さん?)の食器類への配慮のなさだった。雑なのである。器もお鮨を乗せた下駄?も、ビールも全てのサービスが雑で、およそ、そこに愛情が入っていない様子。「事務的に座敷に運んでみますた。ここに置いとくのであとは適当に、食べてね」モード全開で、そこには「丁寧に配膳される気持ちのよさ」は微塵もなかったのだ。また、ご主人が握ったお鮨は、一度水屋との間の廊下に置かれ、そこは座敷とトイレを結ぶ通路でもあった。誰かがトイレに行くたびに、その、まさに、その通路に私が食べるはずのお鮨が、置かれるのだ。私の座った位置からは、そこにお盆などの配慮があるのかわからなかったが、トイレへの通路に、大切なお鮨が置かれることに、やるせなさを感じるのだった。気色が悪く、気持ちが沈むのである。ここで、ちょっとご主人に声を上げようかとも思ったが、このシステムは確立しているようでもあるし、予約を入れてくれた方にも茶茶を入れるようで申し訳もないので、ここはじっと我慢の子であった。

 飲み物は、途中でビールからお酒に変えたのだが、これがまたお鮨とあわない。甘めの御飯と超端麗辛口の日本酒。これが肴と一緒なら、おいしそうだが、この鮨飯とはまったくあわず、どうして日本酒はこれなんだろうと悲しくなった。お酒が辛いので、お茶にした。しかし、出されたお茶は、超アメリカンな緑色のお湯。ううう。不味い。鮨屋のお茶が不味いと、こんなに不幸なのかと思ったくらい、不味いお茶。しかも湯飲みも熱くて持てず、頃合の温度という概念は、このおばちゃんはもっていないようだった。

 そして最後のデザート代わりの玉子焼き。うーん。卵の含有比率が低く、また練りこまれている魚の臭みも微妙で、飲み込むことに一苦労したりした。そしてなぜか最後の最後にかんぴょう巻きも登場し、おなかだけはパンパンに膨れ上がったのだった。

 あ。あまりの不味さに書くことを忘れだが、ここのお味噌汁は、化学調味料をてんこ盛りに使ったかと思われる奇妙な味わいで、そん残存感は、電車を乗り継いでもなくなることはなく、歯をみがくまで、私を苦しめてくれたのだった。

 どうしてこの味をみんなが絶賛するのだろう。私にはわからない。

 お鮨は、職人さんとの相性次第。その相性とは職人さん本人とのやり取りだけに留まらず、その場を仕切る職人さんの仕事全般に及ぶものなのだろう。みんなにとっておいしいお鮨が、私にとってはおいしいとは限らない。そんな当たり前の現実を身体でもって体感しつつ、おいしさの許容範囲が年々小さくなっていることに、地団駄を踏み踏みする。そして近日中に築地某店のお鮨屋さんに並んで、カウンターの角席(ここが大事なポイント)に陣取り、おいしいお鮨を口の中でリセットしたいと思ったりもする夏の終わりの出来事だった。

 
おしまい


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