おいしいレストランがうまいとは限らない (2005/09/08)

 
 世に、おいしいと評判のレストランや、行列ができるレストランや、予約が取れないレストランや、グルメ雑誌で取り上げられるレストランはたくさんあるが、それらが本当においしいとは限らないと思う。

 例えば、日本某所のお鮨屋さん。ここは早朝から行列ができるほどの人気ぶりで、週末にはディズニーランドの人気アトラクション以上の待ち時間が要求されるようで、雑誌にも度々登場する名店である。このお鮨屋さんのカウンターには、二人の鮨職人さんが、気持ちのいい笑顔でもって接客してくれ、自慢の腕を振るってくれる。ここの鮨はかなりのレベルで、このレベル以上の鮨屋さんを鮨の聖地「銀座」で探すのも骨が折れそうなくらいのレベルなのだが、じつは二人の職人さんの握りは、微妙に違っていて、出入り口手前側に座るのと、奥に座るのとでは、同じ御飯と同じネタを使っているにもかかわらず、お鮨の味わいが異なってくるのだ。彼らの立ち位置は常に同じなので、自分の好みの味を握ってくれるほうに座らなければ、長いこと行列に期待したのに、「別に普通のお鮨だった」と嘆く可能性が高くなってしまう。私の場合は、圧倒的に出入り口側に一票であり、その席順はお客さん的には全く選べず、空いた順に座っていく方式のため、この席取は一か八かの大博打に匹敵するのであった。会社人は、上司は選べないが、鮨好きには、お店は選べても。職人は選べないのだ。会計が何万円もするようなお鮨屋さんで、そこの常連にでもなっていれば、職人さんはたやすく選べるだろうが、低価格設定の大衆向けのお鮨屋さんで、わがままを言って、「私はこの職人さんに握ってもらい」というには、明らかに場違いで、そんなお客のエゴはこのお店では通じないところに、江戸の粋を感じたりもするから辛いところである。(補足ながら、もう一人のお鮨もレベルは低くなく、比べる相手が悪いだけ、という点も付け加えておこう)

 また日本某所のバーもしかり。ここは日本屈指のバーテンダーが、お客の好みに的確に対応してくれることで評判になり、今では連日満席の状態も続いているようで、大変な盛況振りである。ここに新しくエリート・バーテンダーが入店し、さっそくカクテルを作ってくれるようになったのだが、その新入りのカクテルは、私には全くあわない。ブラディマリーを下町のたこ焼き風味にして出すという離れ業や、水出しコーヒー系で個人的に一世を風靡したお店にもかかわらず、その新人さんは、コーヒー系カクテルのレパートリーはもっていなかった。そのバーにあるお酒は、二人のバーテンダーが共有し、しかもカクテルのレシピは市販さえされているので、同じ味になりそうな気配もするが、実際には天と地ほどの差があり、もうひとりのバーテンダーを指名しなければ、そう安くないカクテルがたこ焼き味になってしまったりするのだ。「何かおつくりしましょうか」と訊ねられて、もう一人の手があくまで、ビールを飲み続けるのも、ちょっと厳しいと思ったりしつつ、「あなたにはオーダーしません」と、いえない自分も小心者だったりする。同じお店なのに、バーテンダーによって居心地が全く異なるので、運が悪ければ、そのお店は大したお店ではなくなってしまう。もちろん運がよければ、至福のひと時も約束されるのだが・・・。

 そういえば、先日グループで訪問したおすし屋さんも、カウンターに座っていれば、全く違ったワールドが展開されているはずで(私が違和感を覚えたものは全て死角に入るし・・・)、もしかしたら噂どおりのおいしい店を体感できたかもしれない。

 食に対する難しさを痛感しつつ、レストランの基本は「食事をおいしく楽しむところ」であることを忘れてはならないと思うこの頃だったりする。


おしまい


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