回転寿司でサプライズ (2006/01/12)

 
 神奈川県小田原某所の回転寿司が、驚異的に面白い。

 外観はごく普通の回転寿司で、店内もごく普通の回転寿司の装いで、ちゃんとお寿司も回っている。

 しかし、私はここでお寿司はあまり食べない。では、なぜにここに来るのか。それは、サイドメニュが強烈に面白いからだ。今日のおすすめと書かれた黒板の一番上には、ハモン・イベリコ盛り合わせ = 1500円。まずはこれを注文しつつ、ベトナム風春巻きとチーズの盛り合わせ(この時期は、やっぱりモンドールをメインにおすすめをいくつか・・・)を頼む。本当なら、背後の壁にずらりと並ぶ、ベルギービールをいろいろ楽しみたいところで、あるいはまた、向こう側の壁に並ぶお宝系焼酎を楽しむべきか、はたまた日本ワインのうち、すでにここでしか飲むことができないであろうあの銘柄のワインを頼むかしたいところであるが、高速の出口近くという場所柄、いつも車で来てしまうために、いつも回転寿司によくあるセルフサービスのお茶を注いでしまうのだった。

 お茶を飲みながら、ハモン・イベリコ・ベジョータを楽しむ。一皿1500円と言う価格は都内ではありえない設定で、回転寿司ならではの?英断であると思われる。時間帯が中途半端なときだと、店内はそれほど忙しくないようなので、店長からこのハムについての説明を、楽しく、愉快に、そしてながーく聞くことができ、回転寿司に居ながらにしてスペインの食文化に接することができる。「今日のベジョータは、100%どんぐり食べてます。本当は75%でもベジョータを名乗れますが、そんなのつまらないじゃないですか。(長いので中略・・・)。」 で、春巻きの網目状の皮について一言だけの説明をお願いすると、ベトナムという国の歴史をフランスの植民地時代と、ベトナムに接する中国との関係を交えつつ、皮の違いにより中身の具が変わることを文化ととらえ、(ここからも長いので省略)。

 食を熱く語る西尾店長は、食を文化ととらえ、回転寿司という日常の空間において、本物の意義を伝えようとしている。食文化を三角形になぞらえて、その頂点にグランメゾンでの豪華な食事ととらえるならば、回転寿司はその三角形の底辺を支える現場であると自負し、そこで「嘘をついてはいけないんだ」という強い信念の元、回転する寿司の横で、その熱き思いを知らせてくれる。「最初はワイングラスのボウルの部分を持っていた人が、脚の下のほうをエレガントに持ってくれたときってうれしいじゃないですか。(同じ理由で後略・・・)」もうすっかり西尾ワールドであり、それはとても心地よい。

 先日も山梨の某ワイナリーの某氏をお連れして、ここで食事をしたのだが、彼の概念には回転寿司でハモンイベリコベジョータをつまみつつ、ベルギービールを楽しむという空間はどう考えても、存在せず、最初のうちはどうしても理解できなかったようで、その動揺と衝撃は、隣の席の私にも手にとるようにわかってしまったから面白い。食の現場は、本物を大切にする現場では、すごいことが起こっているのだ。(そんなお店は数えるほどしかないのが残念)。この衝撃が彼のワイン造りの衝撃第一波となって、おいしいワインを造り続けるパワーになれば、紹介者としてもうれしい限りだと思いつつ、彼が動揺している間に、最後のベジョータを私が食べてしまったのだった(笑)

 また近いうちに、今度はタクシーでお邪魔し、ベルギービールを楽しみたいと思っています。


 おしまい 後日談


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