三ツ星レストランと回転寿司 (2006/06/09)

 
 この一週間の間に、フランスの三ツ星レストランが自らの名を掲げて東京に進出した話題の豪華フレンチレストラン「ピエール・ガニエール・ア・東京」(以下P)と、小田原の味わい回転寿司「すし兵衛東町店」(以下S)の二箇所で、若干変則気味ながらもワインセミナーを開催した。そして私は混乱している。三ツ星レストランと回転寿司の違いとは何か。微妙に解らなくなっているからだ。

 まずは、「ピエール・ガニエール・ア・東京」のランチメニュを紹介すると、こんな感じである。

Menu du Marche(ムニュ・デュ・マルシェ)
【プティ・フルール】 数点
【アミューズ】
   さわやかなきゅうりのジュレ オレンジのロワイヤル
   バジルの香るクレーム・ド・トマトピーナッツ風味の海老とズッキーニ、アンチョビのラビオリ
   ナスのブレゼ ポレンタとマルメザンチーズのチュイル
   赤貝のサブレ 磯の香りベシャメル
   仔兎のリエット 絹さやのサラダ
【前菜】
 上品に仕上げたイヴォワール・ソース アボカド、ポワロー、小玉葱のブレゼと共に
【肉料理】
 モリーユ茸が香り立つ仔牛のコンフィ サフラン風味のリゾット、ライムの効いたマンゴーのクーリ
【デザート】
 アヴァンデサールとデザート数点とコーヒー、そして最後に冷たいハーブ・テイ 
【ワインリスト】 
 n.v.  シャンパーニュ      ペリエ・ジュエ    → プティ・フルールとともに
 2003 ブズロン・アリゴテ    A&Pド・ヴィレーヌ → アミューズにあわせて
 2001 ブルゴーニュ・ブラン   アンリ・グージュ  → 前菜にあわせて
 1999 シャンボール1級ボード セラファン      → 肉料理にあわせつつ

 ミネラルウォータは、ペリエとエヴィアン
 
続いて、それに先立って開催した、回転寿司すし兵衛東町店でのリスト
(料理はオンリストから、ワインは持ち込みにて)
Menu normal avec l'esprit des bourgognes (ワイン以外は普通の食事)
【メニュ】
 ハモンイベリコ・ベジョータ 36ヶ月熟成スペシャルバージョン
 フロマージュ盛り合わせ 店長推薦バージョン
 ベトナム風春巻き
 (別オーダーでビールや焼酎に合わせて回転寿司各種)

【ワイン】
 n.v. シャンパーニュ トラディション  エグリ・ウリエ
 n.v. シャンパーニュ ブリュット     ジャック・セロス
 n.v. シャンパーニュ シュブスタンス  ジャック・セロス
 2000 シャンボール・ミュジニ      ジョルジュ・ルーミエ
 ヒューガルデンホワイトの生ビール (専用グラスで)
 各自お好みでベルギービールや芋焼酎など・・・

 お茶は飲み放題


本題へ。
 さて、両者を比較してみよう。ちなみに参加人数は違うが、会費はおおよそ15,000円/人で一緒だった。
 (回転寿司は人によって誤差がある)
 
【立地条件】
 Pは、青山の一等地で、主だった看板はなく、隠れ家的な存在。 → お洒落で、素敵。
 Sは、西湘バイパスの小田原ICの出入口にあり、駅から遠い。   → 極普通の郊外型回転寿司。

【お料理と食器】
 Pは、ランチでも10数種類のお皿に盛られたお料理をいろいろ楽しめ、そのたびに素敵なサプライズを感じることが出来る。お料理についての質問も的確に答えてもらえ、快適である。食器は白で、高級感が漂い、二重に敷かれたテーブルクロスの白にもマッチする。ナプキンはデザートの時に交換してくれる。また食器類には、テーブルを横から眺めたようなピエール・ガニエールのマークが施され、スタイリッシュでとてもうつくしい。シルバー類(フォーク・ナイフ・スプーン)は、クリストフル製の特注品。ワイングラスも高級品で、ワインごとに変更してくれる。

 Sは、お皿の数ではPに負けず、840円のお皿(タラバと大トロなど)は、金色で海老の豪華な装飾(店主いわく海老のイナバウワー模様)も施されている。回転寿司にとって、お皿は命である。またSにはワゴンサービスによる最高級のハモン・イベリコ・ベジョータやチーズ盛り合わせもあり、その品質とサービスはPに負けることはない。テーブル・クロスはないが、カウンター席かボックス席かを選ぶことが出来る。またワインセミナー限定ではあるが、ワイングラスはロブマイヤー・バレリーナシリーズを用いている。

【サービス】
 Pは、黒服で、裏方に徹する一流のサービス。質問にも笑顔で答えてくれ、親しみやすさもある。
 Sは、白服で、店長の強烈なトークにサプライズ。スタッフ全員の「いらっしゃいませ」の声も爽やか。

【食へのこだわり】
 両者とも、食への愛にあふれ、優劣をつけられない。

【ドレスコード】
 Pは男性陣はジャケット着用。
 Sは、自由。

 さて、こうして両者を比べてみると、思いのほか共通点が多いことに戸惑いを覚えてしまう。一般的には、Pは最高級フレンチで、非日常の代表格、そしてSは庶民の味方で、日常の代表格ということになるだろう。しかし、Sに関しては、巷の回転寿司というカテゴリーで括られるには、いささか器が大きすぎて、違うカテゴリーを用意したくもなっており、三ツ星レストランと比べるほどに、そちらの部類に入れたくなってくるから不思議である。

 両社に共通する事柄は、なんと言っても「食」への愛情だろう。Pは、黒服に身を纏いながら、食空間の裏方に徹し、わざわざこの空間に足を運び入れた人たちに、最高のフレンチを提供しようとしている姿が美しく、お昼という限られた予算と食材を用いながら、創意工夫にあふれ、食べる人たちに「幸せ」を与えてくれる。Sは白の職人着が清潔感を前面に押し出し、店長の炸裂するトークの中に、ものすごいパワーを感じることが出来き、回転寿司でベジョータを食べながら、ワインやベルギービールを飲んでいる光景に多大な違和感を覚えつつも、なぜか自然と笑みがこぼれてしまうのだ。両者に通じる食との出会い、そして幸せ感。この一点をして、両者の違いはそのアプローチだけではないのだろうかと戸惑っている。

 両者の違いは、そこを訪れたことがない人には容易に区別できるだろうが、すでに入店してそのワールドを楽しんでしまったものには、その違いを説明するのは難しいと思う。Pの感想は、高感度の違いはあるにせよ、概ね大方の予想通りだろうが、Sの感想は、未体験者には伝えることが出来ない魅力にあふれているからだ。

 うーん。両者を比べて、やぱり混乱してしまっている。どうしよう。(笑) 
 もう少し間をおいて考えてみようかな。
 
 
おしまい
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