銀座の不思議な空間にて (2007/03/16)

 
 先日、ソムリエ某氏とソムリエール某女史と、銀座で食事をする機会に恵まれた。おふたりから、お店は任せますというありがたいお言葉を頂戴しつつ、私が向かった先は、かねてから気にかけていたワインバーだった。そのお店は、以前誰かから紹介されて、ホームページなどを拝見しつつ(今は削除されているが・・・)、大変に興味を持っていたのだ。

 正確に言うと、そこは、もんじゃ焼きやさん。

 もんじゃ焼きというと、銀座から少し離れた月島が有名だが、月島でなく、あえて銀座で、もんじゃ焼き。その違和感に興味を持たないほうがおかしかろうというものだ(笑)。ということで、さっそく三人でお店の扉をそろりそろりと開けてみる。すると店の準備をする女性から、開口一番「どなたかのご紹介ですか」と問われた。おお。さすが銀座。ここは会員制のもんじゃ焼きなのだろうか。とりあえずは、後ずさりしながらも、「ええ」とだけ答えてみた。私は、ここを紹介してくれた人が、誰だったかトホホに忘れてしまっているため、「どなた様からでしょうか」という問いがこないことを祈りつつ、彼女に不器用に微笑むと、「何名様ですか」との入店を許されそうな台詞が聞こえてきた。すかさず、「三人です」と答える。扉が全開になり、ほっとする我々は、もんじゃ焼き用のテーブル席へと通された。店内はとてもおしゃれだった。間接照明を配した、きれいな佇まい。なぜここでもんじゃ焼きなのだろう。

 このお店には大きな特徴がある。それは、クリップで留められたワインリストにあった。シャンパーニュやブルゴーニュワインが、ものすごく充実しているのだ。ジャック・セロスやらDRCやら・・・。(ボルドーもかなりのボリュームがあったが、斜め読みにつき、銘柄は覚えていなかったりする・・・すみません) とりあえず、シャンパーニュを頼んでみた。メゾン系の定番だが、価格も良心的で、もんじゃ焼きとの相性もよさ気だった(ほんとかな)。

 銀座の一等地で、シャンパーニュを楽しみながら、食べるもんじゃ焼き。それは、かつて回転寿司でロマネ・コンティを開栓した私でも、ちょっとしたドキドキ感があるのだ。もんじゃ焼きを食べながら、シャンパンをくいっ飲む。奥のテーブル席では、どうやらメオ・カミュゼをデカンタージュしている。うーん。この違和感がいいですね。じゅうじゅうと鉄板は熱くなり、シャンパーニュの喉越しが冴え渡る。もんじゃもシャンパンもいい感じにうまい。そして耳を澄ませば、なぜか銀座の街にこだまする「いーしやーきいもー」とのアナウンス。ここはいったい、どこなんだろう。銀座の街を歩いていて、どこかのホコラに迷い込んでしまったかのような不思議な錯覚。思わず笑みもこぼれたりする。もんじゃ焼きは、チーズと餅のトッピングを選んで、せっかくなので冒頭の女性に焼いてもらって、へらで食べた。「おこげがパリパリでうまいんですよね。」三人で顔を見合わせては、不思議な空間に酔いしれてしまった。

 しかし、ここは銀座。価格の設定は、決して安くない。もんじゃもトッピングを華やかにしてしまうと、月島の倍はするかもしれない。もちろんシャンパンかブルゴーニュをもう一本頼もうものなら、もんじゃ焼き史上途方もない金額になりそうで、ここはひとつ、オードブル的に、くいっと食べて、するりと立ち去るのが大人な使い方だと自分に言い聞かせ、お会計を申し出た。シャンパン一本と、もんじゃ、ハモン・イベリコ盛り合わせ、焼いた野菜を頼んで、15000円くらい。ひとり五千円か。時間にして40分くらい・・・。銀座の一等地を考えれば、安いといえば安いが、高いといえば、やっぱり高い。なんとも不思議な金銭感覚に陥ってしまうではないか。ここは銀座。そしてもんじゃ焼き。そしてシャンパーニュ・・・。

 銀座の街で、もんじゃ焼きとシャンパーニュが飲みたくなったら、また来よう。

 (そんな日はもう一度やってくるのだろうか・・・(笑)


おしまい

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