にっぽんハッピーワイン


日本ワインの理想形

 先日、日ごろ大変お世話になっている某女史が、ご結婚された。この場を借りてお祝い申し上げると共に、新婦よりお話いただいたエピソードを紹介したいと思う。

 その某女史は、ワインに大変精通されている方で、いわゆる「すごいワイン」を何十回も楽しまれ、また何本もストックされている方なのだ。世界各国のワイン産地も訪問されたことがあるようで、私とは「お疲れちゃんです」と挨拶する仲だったりするが、この度、真におめでたく、ご結婚されたのだった。

 披露宴会場は、箱根某所のグランメゾン。この日本のフレンチを代表するレストランでの華やかな宴だったという。(いろいろあって、私は招待されませんでした・・・会場には小一時間でいけるところに住んでいるんですけど・・・(笑))

 ワインをこよなく愛する新婦(と新郎)が、ハレの披露宴で、どんなワインを選んだのか。ワインを愛する一人としても、とても気になるところである。まずは、お約束のシャンパンで乾杯されたあと、白ワインは彼女の留学先だった某国の、思い出の白ワインが供されたという。彼女にとっての思い出のワインを披露宴で共有するってすばらしいと思いつつ、赤ワインの銘柄を聞いて、強烈にうれしくなってしまった。


 金井醸造場 万力 カベルネソービニョン/メルロ (ビンテージ不明)


 彼女が選んだワインは、日本の(自然派)ワインだった。


 彼女によれば、披露宴に出席された方の反応も、いい感じだったようで、ワイン好きの方にも、普段ワインを飲みなれない人にも、アルコールがそれほど強くない方にも、好評だったという。当日の模様を電話口でうれしそうに語る彼女の躍動する言葉が、当日の模様を容易に想像させ、金井一郎を知る私の胸を打つのだった。うれしいなあ、である。

 今から数ヶ月前の、穏やかな日。私は彼女と、(それから新郎になる男性と・・・彼とも仲良しです・・・念のため(笑))、三人で山梨のワイナリーを何箇所か廻ることがあった。その時、彼女が最も気に入ったワインが、金井一郎が山梨市の万力地区で造るカベルネソービニョン/メルロだったという。このワインは昨年11月、東京で開催された自然派ワインの大試飲会でも登場し、一躍来場者の注目を集めていた銘柄で、折りしも私たちが訪問した時は終売間近の状態で、なんとか数本ゲットできたのだという。(後日、電話でのやりとりがあったよう)

 日本のワインが、日本を代表するレストランで、ハレの結婚披露宴にて、供される。

 これって、何気にすごいことではあるまいか。第一、新婦も新郎も、そしてご両親も山梨とは何の関係も持っていない他県在住者なのだから、その思いは、いっそうだ。地元のお酒として、山梨のワインが供されるなら、それは極普通のことであるが、他県在住者にとって、山梨のワインはそれほど身近な存在ではなく、実際、新郎新婦もワイナリー巡りをするまでは、一部の銘柄を除いて、ほとんど馴染みがなかったという。また列席者のほとんどが日本ワインを口にしたことがないことは、容易に想像できたりする状況の中で、日本のワインが披露宴の、しかもグランメゾンでの宴のメインを張ったのである。

 ワインを愛し、世界を代表するワインを提供しうる立場の人が、あえて自分の披露宴で、日本のワインを選択した。その理由は、いたって明確で、「自分の好きなワインだから」という。これぞ、ワインの存在意義にかかわる強烈な理由だと思う。ハレの日に、すごいワインを供することも一興ではあるが、それが銘柄の自慢大会に終わるようでは、そこには低い限界がある。

 ふたりにとって、大切な一日を好きなワインで飾ること。

 そんな大切なワインを、おふたりは日本のワイン、金井一郎のワインで飾ったのである。世界の銘醸ワインを何本も飲み、それでも万力を選んだ彼女のワイン愛に感激し、彼女に万力を紹介した身として、これほどの喜びはなく、これぞ日本ワインが、世界のワインに伍した瞬間を意識するのだった。日本のワインを同情で飲む時代は、この瞬間に終わったのである。

 しかし、願わくば、私もそのワイン飲みたかったなあ(笑)


 以上



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