ぺルナン・ロサン
試飲日 2000年8月16日
場 所    神奈川県内某所
照 明 白熱灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOCワイン
生産者 PERNIN ROSSIN (Vosne-Romanee)
Vintage 1995
テーマ ぺルナン・ロサンの最悪評価のワインを
飲む。
ワイン Morey-St-Donis 1er Cru Les Monts Luisants


 行きつけのブルゴーニュワイン専門店で、たまたまペルナン・ロサンの話題になり、ある常連客が店主と渋谷の某デパートでの情報をやり取りした。店主曰くこのワインは、最悪だったという。しかし、バツが悪いことに、この常連客はこのワインをこともあろうに2年前このお店で買っていた。

 主人の表情にも戸惑いが感じられた。店内には処分しきれず在庫中の一本があった。すったもんだの挙句、お詫びの印に、ただでやるから感想聞かせてくれとのこと。たまたま居合わせた僕としては非常にラッキーだ。

 店内での会話をまとめると次のようになる。
このワインには、どうしようもない土壌香があり、ピノノワールの特徴がかけらもない。くさやと一緒に飲めば何とかなる。まずいワインではなく、最悪のワインということだ。大きめのグラスに注いで蓋をしてぐるぐる回転させてから飲むか、デキャンタージュしてから5時間くらいほったらかしにすれば、飲めるかもしれないとのこと。

 店主のポリシーとして最悪のワインは売らない。当時でも12,000円くらいしたらしいが、処分のしようもなく、セラーの端っこに置きっぱなしになっていた。


<飲む前に>
 前述の会話の途中で戻ってきたこの店の看板美人ソムリエールも、この最悪ワインの行末に興味があるとのことで、結局彼女と当の常連客と三人で飲むこととなった。


<テイスティング>
 まずはINAOグラスに普通に注いだ。んん。そんなに臭くない。色は薄いピノノワール特有の色合い。やや茶に見える。この香を下衆に表現すればこうなる。くさや系と表現するよりは良いように思われるので、あえて例えてみたい。

 厚化粧をした風俗関係の年増の女性が、指に赤チン塗ったまま甘栗を10個ほど剥いた後で、その手の臭いを嗅がせてくれたような香。

 自分ではこれほど言い得た表現はないように思われるが、飲んでない人にはどう伝わるか不安でもある。とにかく甘栗のあの香が頭から離れないぞ。

 次に平べったいスライムの形(あるいはハクション大魔王の例の坪)をしたデキャンタに静かに注いで、すぐ別のINAOグラスに注ぐ。デキャンタの有無でこれほど印象が変わるものかと素直に感動する。けばけばしさは消えるが、香水と薬を混ぜた香は残ったままだ。一度甘栗と思い込んでしまったために、その印象が多かれ少なかれ根底にひっかかる。味は酸味があるが、まずくはない。

 ソムリエールもこのワインの到着点を確認できたようで満足げだ。5年もの歳月を得てようやくワインになったのだろうか。店主の言った最悪のワインからは脱しているとこと。このワインは待つべしである。

 常連客の顔は冴えない。けっしてまずくはないが、自分で買ったワインはいつあけたら良いのだろうと戸惑いを隠せない。確かに難しいかも知れない。

 モレサンドニ村にはもっとテロワールに忠実で、もっとおいしいワインはいくらでもある。あえてこのワインを開けるには、その数々の名品を脇に追いやらねばならない。開け方は確かに難しいかもしれない。無責任な助言をすれば、やはり甘栗を食べたくなったときが、ベストだろう(笑)。最近は皮が剥いてある甘栗がコンビニに並んでいるから、そういう状況を作るのはそんなに難しくないはずだ。

 このワインは都内デパートには相当の品数がある。それだけ人気も高いのだろう。

 しかし、人の評判だけを鵜呑みにするのもいただけない。このワインを飲まずに、巷の評判を信じて買い求める人にも同情する。情報は速さと正確さが命だ。

 何度も飲んだ結果、最悪の評価を下した店主に報告しなければ。ブルゴーニュでもっとも権威のあるその人が押した烙印も二年の歳月を得て、なんとかその汚名を晴らすにまでは至った。くさやではなく甘栗だったといえば、怒られるかな。

 実際飲んでみないと判断できないのもワインの魅力のひとつだ。本当に今回はいい経験をさせてもらった。各方面に感謝したい。


<補足>
 ぺルナン・ロサンも他のワインは評価も高い。当の店主もこのモレサンドニの1級だけが、最悪だったという。村名クラスもその店には置いてあるので、いつか飲んでみたいところだ。

以上


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