コシュ・デュリー(赤)
試飲日 2000年8月15日など
場 所    神奈川県内某所
照 明 白熱灯 (Volnayのみ蛍光灯)
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOCワイン
生産者 J.F. COCHE-DURY (Meursault)
Vintage 1997
テーマ コシュ・デュリーの赤に癒される。
ワイン
Monthelie (No.42083) 2000年8月15日
Bourgogne (No.37738) 2000年8月16日
Auxey-Duresses   (No.40214)    2000年8月19日
Volnay 1er Cru (記載なし) 2000年8月26日


 ドメーヌ・J.F.コシュ・デュリーは辛口白ワインの卓越した造り手である。ブルゴーニュトップ4 (巻末参照)の一角を占めているということは、世界のトップ4と同義語であり、国家・大富豪・一流レストランの必須アイテムである。

 このドメーヌは、黄金のエチケットで知られるコルトン・シャルルマーニュを筆頭にコート・ド・ボーヌ地区で屈指の白を造り出している。これだけの大名醸家が造るワインは、当然のように高値であるが、その価格を越える悦びは必ずある。一本10万円するワインは庶民感覚では論外に近いが、最高の保存状態で、最高のサービスによりもてなされるワインは、人生というカテゴリーで評価すれば、決して法外な贅沢ではなく、この味を知ることはつまり豊かさの共感である。

 金額の問題ではなく、存在の問題でもある。97年のコルトン・シャルルマーニュのアジア圏での割当は僅か1ケース。つまり12本。その内の全数が日本のとあるお店に並んでいる。日本中を走り回っても、このお店にしかない。

 10万円で満足できるものとは何か。牛丼250杯食べてもこの感動には達しないし、スーツでも一着分だ。和服は買えない。指輪は買えるものもあるが・・・。オーディオ関係では音を追求するなら物足りない。IT関係では激安パソコンなら買える。国内旅行なら一回分だ。10万円の価値観を問う一本ではある。

 で、今回幸運にもコシュ・デュリーの赤を4本立て続けに楽しむことが出来た。
 ACモンテリーを皮切りにACブルゴーニュ・ACオーセイ・デュレス・そしてヴォルネイ1級の4本だ。
 それぞれが希少品であり、高価ではある。市場で見かけることは皆無に近いが、あるところにはちゃんとあるから不思議である。

 今回のワインは格付け的には地味な存在である。特級のないACの宿命ではあるが、その味わいは特級に勝るとも劣らない。まさに世界最高峰 コシュ・デュリーそのものだった。

 9,500円もするモンテリーやオーセイ・デュレスは他にはない(マダムルロワのドーブネくらいか)。ジャン・ガローデの極上のモンテリーは4,200円であり、その倍以上の価格で取引されるのには、前述のこの醸造家の立場を考えると納得せざるを得ない。しかし一口飲めば不思議と安くも感じる。味わいが全てに優先するからだ。
 ここではモンテリーを中心にドリンキングレポートを展開したい。

<<モンテリーについて>>
 このモンテリーは特別なワインである。この一年半もの間に飲んだ500本ちかくのブルゴーニュには同じ系統のワインがない。初めての印象である。唯一似ているといえば、同じコシュ・デュリーのACブルゴーニュの白ぐらいだ。

<飲む環境>
 2000年3月セラー蔵出し。日本一完璧な保存状態で有名な店から購入。直後に冷蔵庫でやや冷やす。抜栓後すぐにINAOグラスに注いだ。部屋の温度は、真夏にしては過ごしやすかった天気のおかげで、やや暑いかな程度。クーラーは必要なかったが、念のため27℃に設定していた。

<味わい>
 まずは色。うつくしい。この色合いは何と表現しうるか。新鮮な果物の赤み。もぎたてのフルーツを水にさらっと通したあの輝き。透き通りすぎず、かといって濁ってもいない。派手さはないが、地味でもない。しっかりとしたやさしい赤。思わずグラスを見つめているだけで幸せになってしまう。

 香はもっと印象深い。甘いフルーツの香だ。チェリーやプラムの上品な甘さがグラスから満ち溢れ、部屋全体を素敵な空間へと導いている。このワインがもぎたての葡萄から造られていることを知らしめ、そしてその葡萄のみなぎる生命感を漂わせている。葡萄も生き物なんだと、つくづく思う。

 優雅であり、今流に言えば癒されている、といった感じだ。極上のお線香や、御香を焚いた時のあのしみじみとしたやさしさ。そのやさしさに包まれている。御香の香自体はないが、根底に潜むやさしさは共通している。

 そして、時が経つにつれ香も変化してくる。甘い果実香に、甘いものをこがした香がプラスされる。甘いフルーツの皮に火で焦げ目をつけた感じ。太陽がいつもより近くで輝き、葡萄の表面を少しばかりこがしろたような、ちょとした悪戯っぽい香。

 至福の時が静かに流れて行く。

 甘い香とは対照的に味わいは、きれいな辛口だ。香とのギャップに気持ち戸惑ったが、この味わいは、至福のテーマに添っている。この味わいにモンテリーのテロワールはない。コシュ・デュリーの特色なのだろう。

 飲むごとに味わい深さを覚える。途中でへたることなく、最後まで奥に秘められた強さを感じた。うまみ成分も十分ある。ひと口飲み終える度、鼻からワインの香を抜く時の、あの感覚が心地よい。しみじみおいしいワインである。

 このワインを市場で見ることは稀である。そもそもコシュ・デュリーが赤を造っている事自体知らない人のほうが多い。しかし、ワインを愛するものとしてこの味は知っておきたい。そして悦びを共有したい。

 この類稀なる優秀な生産者はモンテリーという地味なACからも、極上のワインを造り出した。ACモンテリー自体は好きなACではあるが、この卓越したワインはそのテロワールを超越し、まさにコシュ・デュリーの世界へと導いてくれる。

 この味わいを音に例えるならば、岩井俊二監督作品「LOVE LETTER」のBGMを思い出す。あの高校時代の甘酸っぱい思い出を回想するシーンの数々。ちょっと違うかな。

 ここでブルゴーニュ愛好家の鉄則を思い出す。
 それは同じワインは二本以上買うこと。

 今飲んだこの印象を基に、もう一本のワインを熟成させる悦び。このワインが熟成したらどんなワインに成長するのか知りたい。
 そして大切な人ともこの味を共有したい。味がわかっていれば、自ずと飲み方も分かる。人をもてなすためには、そのワインを知っていることが必要だからだ。ワイン好きには終わりがない。ブルゴーニュは追い求めても、捜し求めても、必ず次の欲望がやってくる。

 ブルゴーニュは数が少ないので、出会ったときに購入するしかない。
 ここにブルゴーニュの魅力があり、行着く先はブルゴーニュといわれる所以でもある。
 ただこの話をすると紙面が全く足りないので、別の機会に譲ることにしよう。

<<ACブルゴーニュについて>>

 モンテリーの翌日。
 ぺルナン・ロッサンの次に飲むことになったが、モレサンドニの1級の後にもかかわらず、その力強さは一歩も引けを取らず、驚嘆の思いだった。味わいはモンテリーと合い通じるものがある。基調は一緒。ただ、焦がした香が若干弱いかもしれない。それにしてもこの味わいはただならないぞ。

 おそろしやコシュ・デュリーである。

 まあ、8,000円もするACブルゴーニュも他にないから当然といえば、当然だ。
 セラーをコシュ・デュリーで一杯にしたい。  
 ああ。飲みたい。

<<オーセイ・デュレスについて>>

 基調はモンテリーに似ている。甘い香に時間の経過により焦がした香がプラスされる。つくづくしみじみしている。友人はこの香は創られたアロマと表現したが、ほかのワインにこの香は存在し得ないので、そう言われるとそういう表現も成り立つような気はする。
 味はきれいな辛口で、やはり友人はアロマとのギャップにやや戸惑っている様子だが、その違和感はすぐに心地よさに変わる。味と香にずれがあるから、楽しいのかもしれない。

 同時にLA GRANDE RUEも飲んだが、このオーセイ・デュレスはヴォーヌ・ロマネの特級に一歩も引けを取らず、かえってコシュ・デュリーの威力を思い知る結果となった。ラ・グランド・リュについては別紙参照。

<<ヴォルネイ 1級について>>

 前3本とは色調を異にしている。黒系果樹味のしっかりした色合いは、値段の差を思い知らせるのに十分だ。同じピノノワールから、なぜこれほどまでに色が違うのか不思議である。これがブルゴーニュの魅力である。
 味わいは力強く、しっかりとしている。飲み応えがある。果樹味が溢れんばかりである。しかしまだ硬いか。ジャン・フランソワ・コシュはこのワインの飲み頃は2007年という。確かに将来が楽しみなワインである。
 ベストの7年も前に試飲するのも、気が引けなくもないが、今この時点での味わいを知らずして7年もの歳月を費やしても意味があるのかどうか。今飲んでこそ、その時の感動を享受できるはずだ。(もう一本あればの話ではあるが・・・)
 香は静かである。前3本に共通する華やかなアロマはない。上品なお化粧の香がやさしく感じられる。このヴォルネイは何と言って味わいの深さに重きが置かれている。前3作の華やかにしみじみ系のワインではなく、静かに力強いワインである。ただこの力強さの根底にも癒しの精神が感じられて、非常に心地よい。アルコールの酔いとともに、素敵なひとときを過ごしている。

<まとめ>
 今回の4本はすばらしかった。今までのおいしいワインの認識がひっくり返るほどの驚きも楽しい。癒し系ワインの最高傑作。濃くって強いワインだけが賞賛されるのではない。畑は地味でも造り手の愛情を感じるワインがある。その愛は味として表現される。凄い。

 今回のワイン、前3本は10,000円でお釣りが来る。ヴォルネイは15,000円だ。
 高いのか、安いのか。

 その判断は飲み手に委ねられる。私は安すぎると思っている。金額自体は私にとって1週間以上の生活にも匹敵するが、こういうワインを飲みたい夜は人生において何回かあるはずだ。そんな夜にコシュ・デュリーの赤ワインがその食卓に添えられていたならば、きっとすばらしい夜を演出してくれるに違いない。

 そんな夜の設定まではコシュ・デュリーは関与してくれないのが辛いところだ。

<おまけ>
 コシュ・デュリーの赤を飲んだ以上、コント・ラフォンの赤も探したくなる。ヴォルネイ・モンテリーの赤をぜひとも飲んでみたいものだ。白同様の基調の差はあるのだろうか。
 ある情報に寄れば、コント・ラフォンのそれは、コシュ・デュリーほど造り手の特徴はないという。今回ほどの感動は期待できないらしい。
 しかし、その判断は自分の舌に任せることにしよう。

<記事>
 ブルゴーニュの白トップ4 = 世界のトップ4 (順不同)
<J.F.コシュ・デュリー> <コント・ラフォン> <ラモネ> <ルフレーブ>

以上


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