ブリュノ・パイヤール
試飲日 2000年10月21日 et 22日
場 所    神奈川県内某所         
照 明 蛍光灯
種 類 フランス シャンパーニュ産AOCワイン
生産者 BRUNO PAILLARD (Champagne)
Vintage Non Vintage
テーマ ロゼシャンパーニュを食卓に。
ワイン Champagne Rose Special Cuvee


<味の印象>
 ブリュノ・パイヤールのロゼシャンパーニュもまた極上の一杯である。ボトルを首まで氷で覆うことしばし。きりきりに冷やしてシャンパーニュグラスへ。極めてきめ細かい泡の筋がすりりと登っては消え、すりりと登っては消える。切れ込んだグラスの底部から本筋の一本がきりりと登って行く。見つめるだけで夢心地である。シャンパーニュの泡はビールのそれとは全く趣を変えている。いつまでも、いつまでも途絶えることがなく、泡そのものが回転しながら、まさにきりもみ状態で登って行く。

 色もまたすばらしい。ロゼはピンク色のことだが、このロゼシャンパーニュはオレンジ色をベースにしている。白ワイン特有の黄金色と薄いブルゴーニュ色を、品よく掛け合わせたような色合いだ。美しい。この色は美しい。そのやさしいオレンジ系のピンクの中にきめ細かい泡が立ち込めているのだ。飲み干すのがもったいない。この瞬間はしばらくそのままにしておきたい。ううう。完璧だ。

 シャンパーニュはグイッと飲むのがうまい。薄いグラスの口当たりもさわやかで、シルクのようなきめ細かい液体がごくりと喉を通過する。ガス圧が凄い。炭酸飲料と比べるのが馬鹿らしいほど鋭い圧力が喉にかかる。ううう。この圧力も快楽だ。あやや。今度は喉元から果実味が戻ってくるではないか。新鮮な果実味が口全体を覆い尽くす。うまみ成分が鮮やかに口内を支配する。こりゃ参った。飲む瞬間のうれしい違和感と飲み込んだ後に戻ってくるおいしさは、なんともうれしい。このさわやかな飲み心地は食前に飲んでも、食後に締めくくっても、どちらにも対応してくれる。飲み手はみな笑顔だ。それはとってもいい笑顔である。完璧なシャンパーニュの右に出る発泡系の液体は、どう考えても、百万歩譲ってもこの世に存在しない。私はつくづく実感する。


<ワインについて>
 このシャンパーニュはピノノワールが85%、シャルドネが15%である。畑はグランクリュとプルミエクリュであり、素性のよさは保証されている。ビンテージはノンビンテージである(略してノンビンまたはN.V.)。シャンパーニュは葡萄栽培の北限にあるため、天候に左右されやすい。年毎に味のばらつきが出ては困るので複数の年号をブレンドして造られる。だからいつも同じ味を楽しめる。生活の知恵であり、おいしさの技である。

 また写真の通り、このシャンパーニュのボトルはなんとも美しい。独特の形は見る者を魅了してやまない。存在感があり、センスがいい。愛する女性との間にこのボトルがあって、窓越しに100万ドルの夜景があれば、ほかには何も要らない。はずだ。


<ブリュノ・パイヤール>
 この新興の造り手の評価は高い。ロバート・パーカーをはじめ世界中の評論家が褒め称えているし、一流の料理人の支持も絶大である。またオリエント急行の公式メニューにも加えられている。日本で見かけることは少ないが、あれば絶対買い占めるのが食卓を彩る方程式である。なぜか。味わいそのものの評価が高いことは当然であるが、このシャンパーニュには裏にデゴルジュマンの日にちが記載されている信頼感こそが世界中の見識者を虜にするのだ。
 今回のワインのデゴルジュマンは2000年の3月である。デゴルジュマンから半年後に飲んだことになる。うまいわけだ。この情報は飲み手をこよなく安心させてくれる。


<デゴルジュマン>
 シャンパーニュは瓶内二次発酵をさせたワインである。シャンパーニュは寒いため発酵が途中で止まってしまう。季節が暖かくなると瓶詰めしたワインが再び発酵してしまう。するとどうなるか。出荷後にビンが割れてしまうのだ。この自然のいたずらを逆手にとって商品化したのがシャンパーニュであり、泡でトップを極めたワインである。発酵にともなって発生するガスを液体に閉じ込めたのがシャンパーニュであり、その立ち昇る泡こそが人々を魅了するのだ。

 ところで瓶内二次発酵は大量の澱を発生させる。その昔お米屋さんにプラッシーというジュースがあったが、このジュースは飲む前によく振ってくれとの注意書きがあった。平たく言うとあの沈殿物が澱であり、シャンパ―ニュの場合はその澱を瓶の先端に集め、出荷直前に一気に凍らせて澱の塊を吹き飛ばすのである。これがデゴルジュマンである。そして吹き飛んだ分だけワインが減るので、適量のリキュールを補充することになる。このときの成分によりシャンパーニュの味が決まる。辛口にするも甘口にするもこの門出のリキュールが味を決める。

 リキュールを入れることで発酵が抑えられる。そして熟成も止まる。イギリス人愛好家を除いて、基本的にはシャンパーニュはデゴルジュマンをしてから1年以内に飲みきるべきとされる。それはひとえにシャンパーニュの命は泡にあるからだ。今回のテイスティングはそれをものの見事に実証してくれた。うれしい体験だ。
 デゴルジュマン後に何年も置いてけぼりのシャンパーニュに新鮮な泡は期待できない。今回のワインは瓶にその記載がある。一年以内に飲むことを常識として知っている者には、安心と信頼を与えてくれる。賞味期限が書いてあるのに等しい。逆にいえば年月の経過はシャンパーニュ好きを敬遠させる。今回のように半年以内ならもう半年は充分楽しめるし、安心して素敵な夜の出番を待つことがでる。これから秋も深まりシャンパーニュの登場回数も多くなるだろう。出番が全くなければ、それはちょっと寂しすぎないか。努力しよう。

 ブリュノ・パイヤールは出荷後に全数完売できる自信があるからこそ、その日にちを記載できるのだろう。その記載こそ自身の現われである。その自身は味で表現されている。
 余談ながらシャンパーニュは立てて保存しよう。寝かせるとコルクとワインが接触し、先の門出のリキュールがコルクを溶かしてしまうからだ。コルク臭さは熟成香とは違う。余計な香であり、味をもゆがめてしまう。とっておきのシャンパーニュほど危ないものはない。とっておきのワインはじっとセラーの奥にご丁寧に寝かせてしまわれていることが多いからだ。だからシャンパーニュは丁寧に保存された酒屋さんより回転率のいいディスカウントストアで買うの方がいい。小技のひとつである。ただしその系統の店頭にはこのブリュノ・パイヤールは置いてないのがミソでもある。
 やはりワイン選びはお店選びが第一条件なのだ。

 さて、残ったワインでもう一度乾杯しよう。

 以上


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