エマニュエル・ルジェ
試飲日 2000年11月7日
場 所    都内某所     
照 明 白熱灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOC特級ワイン
生産者 Emmanuel ROUGET (Flagey-Echezeaux)
Vintage 1994
テーマ アンリ・ジャイエの後継者やいかに。
ワイン Echezeaux エシェゾー・バレルセレクション


<味の印象>
 不思議な香がたっている。赤系の果実香があり、レバーのような血系の香も感じられる。オリエンタリックであり、エキセントリックでもある。複雑なこの香こそヴォーヌ・ロマネ村の特徴であり、ワインの頂点に君臨する香である。色もまさにこの村の特徴を代弁するかのごとく、うすいが鮮やかなルビー色。味は力強さこそ無いが、端正なしっかりとした味わいがある。うまみ成分も備わり、おいしいワインである。

 ただ余韻が短い。飲み込んだあとに戻ってくるうまみ成分も弱い。なにか物足りなさを感じざるを得ない。これは1994というオフビンテージゆえなのだろう。万人がうまいと納得できるかどうか、不安なワインではある。
 更に言えば、ヴォーヌ・ロマネの特級ワインには飲み手の皮膚を鳥肌にするほどの圧倒的なパワーがあり、全身の細胞の向きを一斉に整列させるインパクトがあるはず。しかしこのエシェゾーは私の皮膚をピクリとさせるにとどまった。私の細胞には緊張感が走らなかった。おいしいワインではあるが、期待が大きかっただけにちょっぴり残念でもある。

 このエシェゾーは下記の通り、ワイン通には垂涎ものの逸品であり、飲む前から否応無く期待が膨らむワインである。溢れる情報と手に入れた悦びが、冷静なテイスティングの妨げになり、前評判に比べれば・・・系の典型的なワインでもありそうだ。ただ誤解の無いように確認するが、おいしいワインには違いない。この事実は非常に重要だ。


<ワインの特徴>
 今回のエシェゾーは2000年9月にエマニュエル・ルジェのセラー蔵出しワインであり、世界一のソムリエ・フォールブラックを経由して日本に入荷したワインである。もちろん1996年晩秋に市場に出回っていた先物取引のロットとは別物である。保存状態も完璧であり、ワインにとって重要な初期瓶内熟成をルジェのセラーで行った特別キュベ。神の手を持つ天才アンリ・ジャイエの指導のもと、1994という難しいビンテージのため通常より長めの低温浸漬により造られたワインである。

 価格は税込み16,000円である。アンリ・ジャイエの強大な影響を受けて、エマニュエル・ルジェのワインは高値で取引されている。都内のワインフェアでは徹夜組が出るほどの人気ぶりである。そのルジェの特級エシェゾーがこの価格で手に入るのなら、割安だ。
 ヴォーヌ・ロマネの特級ワインが万人の評価は得られないのは有名な話である。ボルドーに比べれば格段に薄い色もさることながら、味わいにもダイレクトな分かりやすさは無い。インパクトが強いワインは他の村や地方にもいくらでもある。複雑にして繊細な味わいはワインに魅了された者がようやく辿りつくワインである。このエシェゾーはそんな逸話に真実味を与えてくれる。


<エマニュエル・ルジェ>
 天才アンリ・ジャイエの後継者として有名である。エシェゾーを筆頭に、ヴォーヌ・ロマネ・クロパラントー、ACヴォーヌ・ロマネ、ACニュイサンジョルジュ、ACサビニーレボーヌなどの名品を世に送り出している。ただ本人自身は格下のパストゥーグラン用の畑を所用するのみで、ジャイエ3兄弟の畑からワインを造っている。ドメーヌではなく、葡萄を栽培しワインを造る立場である。平たく言えば小作人であるが、そんな蔑称にも似た肩書きをつけるには、造り出すワインが凄すぎる。間違いなく世界のトップランクに入る造り手である。
 エマニュエル・ルジェほどワインの当たり外れが多い造り手もいない。ビンテージはおろか、畑ごとや樽ごとに味が違うため評価が安定しない。アンリ・ジャイエの影響がなくなり、彼本人の力量が試されたとき、ブルゴーニュのトップ5を脅かす存在になるのだろう。これはもうひとりの後継者ドメーヌ・メオ・カミュゼにも言えることである。


<まとめ>
 今回のレポートはおいしさが伝わらなかったかもしれない。私はルジェは大好きな造り手のひとりであり、今後も彼のワインは飲みつづけたい。数ヶ月前に1997年のクロパラントーを飲む機会に恵まれたが、あの強烈なうまみ成分と途方もなく長い余韻はいまだに忘れることが出来ない。私のワイン史を飾るワインのひとつである。あのワインもアンリ・ジャイエ指導のもとに造られ、今回のエシェゾーの倍以上の価格であったが、その価格差以上に人を惹きつけたことは間違いない。天才とその後継者が造るワインにしてもビンテージや畑の違いが味にも差が出るのだから、不思議である。ブルゴーニュの魅力である。

以上


目次へ    HOME

Copyright (C) 2000 Yuji Nishikata All Rights Reserved.