セラファン
試飲日 2003年08月02日
場 所    千葉県佐倉市某所
照 明 自然光
種 類 フランス ブルゴーニュ地方AOC赤ワイン
生産者 Domaine SERAFIN (Gevrey-Chambertin)  
Vintage 1990
テーマ 三拍子そろったワインのせつなさ
ワイン Gevrey-Chambertin 1er cru Cazetier

<ジュブレ・シャンベルタン 1級 カズティエ>
 
少し冷やして抜栓後デカンタに移してすぐINAOグラスへ。美しいガーネット色。枯れ草、乾いた土壌香、干しイチジク、キノコ、なめし皮などが複雑かつ強烈なインパクトを持って香っている。まさにピノ・ノワールの熟成香全開である。口に含めば、セラファン節とも表現したい仰け反るような強いアルコール感が印象的。酒質はすばらしく、丸くこなれてはいるがしっかりとしたタンニンと舌の両サイドを巧みに刺激する酸と奥深い構造とのバランスが絶妙で、この筋肉質的な力強さが心に突き刺さる。かつて黒系果実が豊かであったであろうと想像させつつ、その枯れゆく果実味も心地よく、押し戻ってくるうまみ成分に思わず溜息も出ようというものだ。余韻は非常に長く、13年の歳月がいとおしく感じられる味わいである。まさに完璧なジュブレ・シャンベルタンの熟成がここにある。またまだ上り坂を登るパワーを秘めつつも、このタイミングで開けられたことに、ほっと力を抜くような印象も面白い。こういう偉大なワインに出会ってしまうと、ワインの基準が一気に上がってしまい、痛し痒しではあるが、ブルゴーニュのすばらしい味わいに感謝感激なのである。

 今回のワインは1990年というブルゴーニュにとって長期熟成タイプのビンテージであり、それは幸運にもセラファンが最も脂が乗っていた時期にも重なり、そしてセラファン邸の背後にある一級格でも有数の畑カズティエである。ビンテージ、造り手、畑の三拍子そろった完璧なワインであり、その実力の高さに脱帽なのである。

 実は1ヶ月前にもこのワインは試飲していた。そのときは、この甘く切ない官能的なワインに言葉を失い(今回よりもイチヂクの甘ずっぱさが印象的だった)、テイスティングコメントを残そうとする気力をも奪っていた。甘くせつないワインは言葉に残すべきか否か。悩ましい日々が続いたが、今宵のすばらしい出会いを受けて、このワインを記憶にとどめるだけではなくて、そっと記録にも残そうと思ったりした。ワインの余韻の中に、自身のワインを説明する当主クリスチャン・セラファンが時折見せる悲しげな表情(注)が思い出され、胸を打つものがあったからだ。13年前に造られたワインは、人それぞれに重みのある歳月を思い起こさせるのだろう。


(注) 3年前に子息を不慮の事故で亡くしている。

以上
 


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