J・J・コンフュロン
試飲日 2003年8月16日
場 所    神奈川県内某所
写真は1998年
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ地方AOC赤ワイン
生産者 Domaine Jean-Jacques Confuron (Premeaux-Prissey)
Vintage 1997
テーマ 生と死
ワイン ROMANEE St-VIVANT Grand cru
 
<ロマネ・サン・ヴィヴァン 特級>
 抜栓後しばらく置いてロブマイヤー社ブルゴーニュNo.3グラスへ。ガーネットを含みつつある優しいルビー色。甘く切ないミルキーな香り立ちが印象的で、カカオや赤系果実、黒系果実、アジアンスパイスなどが複雑に香り、漢方薬的なニュアンスもあり、いとも優雅である。口に含めば、丸い構造。心地よい酸が舌の両脇を程よく刺激し、丸みを帯びたタンニンが球体を連想させる。全体的に乳酸をイメージする甘みを基調とした味わいは、骨格がしっかりしており、かつ非常に優しげである。この甘い果実味とともにロマネ・サン・ヴィヴァンの特徴でもある老齢でロマンスグレー的な鄙びたニュアンスも同時に持ち合わせ、口に含むごとに、背筋をゾクゾクさせるパワーを持ち合わせている。極めて上品でふくよかな味わいである。余韻は非常に長く、この甘く切ない味わいはグラスをじっと持ち続け、ふとそのグラスを放せずにいる自分に気付いたりもする。んー。うまい。

 このロマネ・サン・ヴィヴァンを例えるならば、評判のいい街の産婦人科病院の夕暮れ時のニュアンスとでも表現したい。乳酸というよりはミルクを意識させる甘く切ない香り立ちがあるためだ。評判のいい産婦人科はご飯がおいしいらしい。残念ながらそこで実際に食したことはないが、お膳にて運ばれるそれは、とてもおいしそうで、産婦人科特有の甘い香りの中で一層おいしそうにみえたりするものである。そんな産婦人科病棟の食欲をそそる香り立ちに似たこのワインは、ピノ・ノワールのおいしさの一面を覗かせてくれている。このワインはごつごつした角を意識させることはなく、新しくお母さんとなった女性たちのために、かわいらしい丸文字で書かれた今夜の献立のメニュのように、丸く、そしてしなやかで繊細である。

 産婦人科病棟。母乳の香りに包まれたその場所は、命の誕生を実現する場所であると同時に死の到来を約束させる場でもある。ロマネ・サン・ヴィヴァンが発するミルキーな香りが、生を意識させ、ロマネ・サン・ヴィヴァンが持ちうるテロワールの個性たる老齢のニュアンスが、死をも連想させてくる。生と死。背中合わせの現実が、ミルクのニュアンスに溶け込んで、より一層このワインにその思いを傾倒させるのだった。ヴォーヌ・ロマネ村のワインは時に不器用で、時に見掛け倒しに終わりやすいが、その実力を見事に開花させたとき、このワインのように、言い知れぬ官能の世界に誘う魅力的な力を秘め持っている。ここにブルゴーニュの魅力が凝縮させているようで、禁断の扉に手をかけてしまった感も否めなかったりする。

 例えが、変な方向に行ってしまったが、いずれにしてもこのロマネ・サン・ヴィヴンはすばらしいワインであった。感謝。


以上



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