ボグエ
試飲日 2007年02月03日
場 所    都内某所 ワインセミナーにて
照 明 白熱灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産赤ワイン
生産者 ドメーヌ・コント・ド・ヴォギュエ
Vintage 1990
テーマ 二年ぶりの再会
ワイン MUSIGNY VV Grand cru

<特級ミュジニ>
 今回はワインセミナーより感想をひとつ、ふたつ。アメリカ経由のボトル。

 セラーから出して、室温に馴染ませた後、澱を取り除く目的でデカンタして、すぐにロブマイヤー・バレリーナ・ブルゴーニュグラスへ。(瓶底に大きい澱が存在していた)。色合いは熟成モードを感じさせない、しっかりとしたルビー色で、エッジもまだまだ濃い目の色がついている。隣に用意した2004年のデュガ・ピイのブルゴーニュ・ルージュと比べて、一瞬どちらがとっちだか、わからなくなるような色がとても印象的だ。(2004年のデュガ・ピィは、濃いながらもその色素は緩やかな隙間を持っているが・・・・) 香りは閉じていて、この香りのイメージは2年前に大宮で飲んだときと同じ印象(注)。黒系果実と赤系果実が絡み合いながらも、こびない果実香がしずかに、しかし確実にその時を待っているかのような、存在感のある香だ。口に含めば、ドライな味わいで、強いミネラルを感じつつも、閉じた印象に変わりはない。時間とともに少しずつ変化する香は、このワインの強いポテンシャルを感じさせつつも、俗に言う「飲むにはまだ早かった」状態で、その香はゆったりとしたペースでしか開くことはなかった。

 で、しばらく時の経過を共有する。子一時間経過してから、半分ほど残しておいたデカンタより同じくブルゴーニュグラスへ均等注ぎ。こちらのバージョンは、一気に香りが立ち上り、それはふかふかの絨毯を歩いているかのごとくで、華やかでお花畑のような美しさを放ってくる。そのリッチで官能的な香りは、これぞミュジニと言わしめるほどのパワーを持っていた。スパイシーで、熟れた果実香と甘草系の甘いニュアンスを持ち、液面から香りの草が数センチあるかのようなふわふわ感が印象的だ。やはりこのワインにはゆったりとした時間とデカンタと相応のグラスが必要だと痛感する。口に含めば、筋肉質な味わいを基調としながらも、全身うまみ成分の塊で、長い余韻は至福の時へと続いていく。まだ果実味が豊か過ぎて、熟成モード突入とは表現し得ないが、このワインが今後の20年、30年、50年でどう変化していくのかを確認するうえでも、このタイミングの開栓は、興味も津々となったりする。(しかし、強烈な価格が予想されるので、おそらく今回が最後だと思われるが・・・ざんねん)

 そしてグラスにゆったりと存在するミュジニは、その安住の地を、ブルゴーニュグラスの中に見つけたようで、緩やかに成長しては、いつしかゆったりとその使命を終えようとするのだった。時間軸を伴う香の変遷は、ピノ・ノワールの醍醐味で、それはグラスを回さないからこそ体感できる時の流れと察したりする。折り重なるように、香はその複雑味を増し、そしてある時間(子ニ時間か)を経過するとゆったりと一枚ずつそのベールが失われていく。その様が、とても心地よい。そして最後の最後になって、その力をなくしたとき、今度はいつものバレリーナ・グラスVに移し変えようものなら、わずかながらであるがその息を吹き返し、グラスの妙を感じたりもする。

 シャンボール・ミュジニ村のワインは、グラスVにはじめから注ぐと、その閉じ気味の形状からか、自ら発する香の層に起因してか、ミュジニらしい華やかで、エレガントな香が押さえ込まれ、なにかしらの欲求不満とともに、閉塞感を感じざるを得ず、このワインの本領をうまく表現できないことが多い。今回もその事例は適用された。一方で、開放型のブルゴーニュに入れれば、それがまた不思議なことに、生き生きとそのポテンシャルを開花させ、すこし時間はかかるものの官能モードに突入するから面白い。なぜシャンボール・ミュジニ村のピノ・ノワールだけが、グラスVとの相性が悪いのだろうか。グラスVは、ロマネ・コンティをはじめとするブルゴーニュの赤ワインとの相性は、抜群で、その官能を一度でも体感してしまうと、それは不幸の始まりを感じさせるのだが、シャンボール・ミュジニ、とくに特級ミュジニに関しては、不思議とその相性が悪く、せいぜい最後の最後の救援策としてしか登場の余地がないのが、つくづく不思議である。

 さて、ワインに戻ろう。今回のミュジニ1990は、ワインの熟成に関心のある人には「明らかに早い」といわせる情報が共有されている。もちろんその意見に賛同しつつも、あえてこのタイミングで開栓してしまう。このワインは正当な熟成を重ねれば50年は持つだろうと推測されるが、自分の健康や生命の問題に照らしても、このタイミングで味わうこともまた一興であると信じているからだ。今回のミュジニは、巨艦系ブルゴーニュを知るうえでも指針となりうるワインであり、その味わいもまた最高に美味であり、それはセミナーにご参加いただいた方々の表情にも表れていた。(自分調べ)

 そしてこんな方程式が、脳裏を掠める。

 温度 + デカンタ + 時間 + ブルゴーニュ =  うまい。
 温度 + デカンタ + 時間 + グラスV = 最後はうまい。

 ほかのグラスで試すなら、きっとまったく違う表現を見せるだろうが、今回は残念ながらそんな余裕はなく、それは次回のお楽しみということにしようと思いつつ、渋谷の夜は更けていくのであった。


(注) 2年前のミュジニは、ガッチガチで強固な味わいに、感嘆。深く心に刻まれていた。

おしまい

 


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