| 奇跡の試合 朝 西 知 徳 |
「態度という名の戦いでは負けないようにしよう」。
試合前、選手にこう話した。
智辯和歌山高校は、平成に入ってから全国優勝3回に準優勝3回という、近年では全国ナンバーワンの実績を誇る。そのようなチームに本校が勝てるほど、高校野球は甘いものではない。
バックネット裏から「試合になるのかよ」という嘲笑にも似た声が耳に届いた。「みんなが真剣にプレーすることによって、その声は沈黙させられるぞ」。
試合がはじまった。「おーっ」。全校生徒が驚きの声をあげた。「うぁーっ」。全校生徒が叫んだ。ところが野球というスポーツは、点を取られると取りやすくなるという、不思議な特徴をもっていた。逆転したとき、大きなどよめきのあと、ふかい沈黙が球場を包みはじめた。
最後の打者が併殺に倒れたとき、ゆっくりとした温かい拍手がわき起こった。その拍手が、どんどんと大きくなっていった。革命のときに起きる「嘲笑→沈黙→称賛」という流れをみているようだった。
本校野球部にとっては、まさに歴史に残る一日となった。私も選手も、いずれバットを置く日が来るであろう。しかし、この日の奇跡の試合を、この日の温かい拍手を、強く生きぬくためのエネルギーとしていきたい。