万年筆のうた
朝 西 知 徳

 

今年も12人の卒業生が巣立っていく。みんな卒業おめでとう。

彼らがチームで最上級生となった秋の県大会のことである。準決勝は3点のリードを奪われたまま、最後の攻撃となった。先頭打者が見送りの三振。「バカヤロー、おまえら勝つ気があるのか」。とたんに打線が爆発し、そこから4点をあげての逆転サヨナラ勝ち。中国大会ゆきのキップを手にした。

つづく決勝は、守備のミスなどがあり、初回に3点を奪われた。「中国大会に満足して、気をゆるめているなら相手に失礼だ。この試合は棄権するぞ」。そう怒鳴りつけた。はっと息を飲みこんだ彼らは、そこから根性で試合をひっくり返し、16年ぶりに秋の優勝旗をつかんだ。

私は、監督への憎しみの感情は、選手の潜在能力を引き出すと信じている。叱るより誉めようなんて言うのは、全身全霊をかけて物事に取り組んだことがない者の詭弁(きべん)にすぎない。選手が監督を憎めば憎むほど、チームは強くなっていくのである。

中国大会に向けてバスのハンドルを握ったときに、部の約束を果たしていない者がいると知り、ブレーキをかけ、その選手たちをバスから降ろした。「真面目にやることが、まだ怖いのか」。顔を真っ赤にして正義を伝えた。バスは張りつめた空気の中で、広島の宿舎に到着した。

夕食は、広島駅に建つビルのレストランでとることにした。宿舎への帰り道、選手が私を取り囲んだ。指導に対する抗議なのだろうかと思った。とつぜん彼らが合唱をはじめた。ハッピーバースデーの歌だった。その日が私の誕生日であったことを、彼らの歌声で思い出した。街の真ん中でする合唱を、歩行者が足を止めて眺めていた。

「監督さんは、いつも勉強をされているので、万年筆を贈ります」。キャプテンが笑っていた。「いいよ、そういうのは苦手なんだからよぉ、わかった、ありがとう」。心が、とてもくすぐったかった。

 引退してから、彼らの生活態度がゆるんできたとき、全員を会議室に押し込み、のどが痛くなるほどの大声で叫んだ。「おれはそんな中途半端な野球は教えていないぞ」。汗がだらだらと流れてきた。
 胸ポケットにかくれた万年筆が、私の鼓動でゆれていた。


とじる