| 今どきの高校生の涙 朝 西 知 徳 |
3年生の現代文の教科書に『フランダースの犬』を紹介する文章があった。
ネロと犬のパトラッシが、念願だったルーベンスの聖画をみたあと、教会堂の中で最期を迎えるという内容である。同名のアニメでは、最終回の瞬間視聴率が記録的な数字を残したという。
最近、これに似た悲しい映画を見た気がした。『鉄道員(ぽっぽや)』だった。
「『鉄道員』を見たことある人?」。生徒は一人も手を挙げなかった。
「じゃあ次の時間にみんなで観よう」。
ときどき私は、映画を観せたあとで原作を読み聞かせる。原作小説の『鉄道員』は、浅田次郎が直木賞を受賞した作品でもあり、教材としては、もってこいだと考えた。
高倉健の演じるポッポヤ乙松が、亡くなった娘の成長した姿に会う。娘の雪子を演じる広末涼子の舌ったらずな言葉が、とても心にしみる。翌朝、乙松は雪の積もる駅のホームで大往生を遂げる。
映画が終わり、教室の灯りを点けると、女子生徒が数名、顔を隠しながら泣いていた。それを見たクラスメイトが、彼女たちに温かい笑顔を送っていた。心あたたまるシーンだった。
みんなを教室から出し、野球部員に机の整頓を頼んでいると、そのうちの一人が洟(はな)をすすりながら、机を直していた。
泣いているのかと聞くと、はいと答えた。
「おまえ、いいやつだなぁ」。私は笑いながら彼を見た。
人間的に優れていなければ、素晴らしいものを観たり聴いたりして、感動することはできない。今どきの高校生も捨てたものじゃないなと思った。
思いおこせば、10余年の教員生活の中で、授業中に生徒が泣くという光景は、ほとんど見たことがなかった。
その日は私の誕生日だった。映画の力を借りたとはいえ、生徒から大切な贈り物をもらったような気がした。