米子松蔭高校野球部・涙の卒業
朝 西 知 徳

 彼らにとって最後の夏が終わった。私は「おつかれさま」とか「ありがとう」とか、そんな薄っぺらな言葉は絶対に言うまいと思った。
 「君たちは卒業の日までは野球部員である。つまり高校野球はまだまだ続くということだ。だから今は泣くな。涙をこらえることも野球部員としての立派なトレーニングである」
 彼らは歯をくいしばりながら、私の話をじっと聞いていた。おそらくその夜、布団の中であふれ出る涙をぬぐいながら、それまでの出来事をゆっくりと回想していたことであろう。
 「いよいよ明日は卒業式。野球部員としての引退式でもある。今までやってきたことに誇りがもてるのであれば、名前を読み上げられたら、野球部員らしく大きな声で返事をしなさい」
 卒業式の彼らは、最後の最後まで野球部員であり続けようとした。マネージャーとしてみんなを支えたI君は、なかでも一番大きな声で返事をした。
「君たちの元気のよい返事を聞いて、安心して見送ることができます」
 私は師と同じ言葉を彼らに贈った。涙が一瞬こみあげた。しかし、彼らの前で涙を見せることは絶対にできなかった。
 「これからもがんばってくれ」
 拳をにぎりしめながら最後にそう言った。
 彼らは甲子園には出場できなかった。しかし、甲子園で流す汗も、このグラウンドで流した汗も同質であり、そこに優劣などは存在するはずもない。彼らは最高の戦友であった。
 終わりに在校生部員が、甲子園のテーマ曲「栄冠は君に輝く」を涙声で贈った。私も涙をこらえながら大声で歌い、懸命に彼らを見送った。
 K君は、2年生の夏に甲子園で応援団長を務め、最後の夏はボールボーイとして全力疾走をした。
 帰り道、日野橋の上を泣きながら自転車をこぐK君の姿がそこにあった。


とじる