忘れられない思い出
朝 西 知 徳

 新チームは、北海道への大遠征からはじまった。
「ついに日本の最北端にたどりついたぞ」
 宗谷岬に到達したのは、太陽が沈むときであった。みんなで真っ赤になった大海へ走り、声をあげて記念写真を撮った。学生時代にも見たことのある壮大な景色を、選手にも一度みせてあげたかったのである。岬では『宗谷岬』の曲が響きわたり、海風がやさしく吹いていた。
 彼らが最高学年になってからは、「準優勝」「ベスト4」「2度の地区優勝」と、すばらしい成績を残すのであるが、甲子園には手が届かなかった。しかし、彼らは立派だった。自分の弱さを他人のせいにして、ものごとを途中で投げ出す若者が多いなか、苦しい苦しい高校野球を最後までやりぬいたのだった。
「大学へ行くのをやめようと思います。
 大学野球部のセレクションに合格した選手が、突然こう言ってきた。
「もういっぺん言ってみろ」
「大学で野球をするのをやめようと思います」
 これ以上、苦しいことはしたくないと言った。逃げることを、私は良しとしなかった。
「ふざけるな。おれは絶対に認めないぞ。苦しいことに立ち向かっていくのが、おれたち野球部のスピリットじゃなかったのか」
「もう、やめると決めたんです」
 顔が紅潮するのが自分でもわかった。
「自分のやってきた野球に対するプライドはないのか。甲子園に行けなかったから、おれたちのやってきたことは間違いだったと、そうだとでも言いたいのか」
 手の震えが止まらなかった。彼の真っ赤な目からは、涙があふれた。
 数日後、彼がもういちど野球をやりたいと言ってきた。
「自分は、この3年間を誇りに思っています」
 大学野球をやり遂げると言った。二度と弱音ははかないと約束した。
 卒業の日が近づいてきた。
 卒業生は、夕暮れの宗谷岬から見た大海原を、生涯わすれることはないであろう。そして再びその地を訪れたときに、苦しくも楽しかった高校時代を思い出してくれるにちがいない。
 さようなら、8人の心やさしき弟たちよ。

とじる