高校野球という名の青春映画
朝 西 知 徳

 「お前なんか、キャプテンやめちまえ」
 監督である私が、いつかそう言った選手に、夏のマウンドを託した。
 有能なリーダーなら必ず直面する孤独に耐え、彼はいま舞台の真ん中にいた。
 最後の攻撃に入ろうとするとき、嗚咽をあげて、守備から戻ってくる選手がいた。敗北に対する激しい恐怖が彼を襲った。
 「なに泣いてんだ。勝負はこれからだろ」
 彼は必死になって「はい」と答えた。
 これから戦場に向かうのは、公式戦で初めての打席に立つ、3年生の控え選手だった。
 「ここで打たなきゃ男じゃないぞ」
 私はベンチから精いっぱい叫んだ。
 野球先進県とよばれる地域には、必ず強豪私学の存在がある。私学には、県の野球文化を牽引する使命があると考え、したがって、選手には多くの注文をつけてきた。
 彼らは、厳しい指導を真正面から受け入れ、愚痴ひとつこぼさずに最後までついてきた。 だからこそ、甲子園の土を踏ませたかった。
 しかし、チャンピオンベルトは手に入らなかった。
 負けた日の午後、ひとりの選手が宿舎の前に立っていた。
 「今日まで、ありがとうございました」
 2年生の夏には号泣していた彼が、今度は涙を見せずに言った。
 彼は、私がいちばん叱った愛すべき選手だった。
 「甲子園に連れていけなくてすまなかった」
 心の底からそう言った。
 学校に着くと、別の選手がやってきた。彼は、私学としての野球を自ら選択し、己を厳しく鍛え上げた。
 「うちの学校に来てくれて、本当にありがとう」
 私が言うと、彼の目から涙がこぼれた。
 高校野球部の監督は、青春映画をつくる映画監督でもある。
 一つひとつのハートフルなシーンが、今もこの胸を熱くする。
 卒業の日がやってきた。青春映画もいよいよエンディングを迎える。大人になってからも色あせることのない、感動的な映画を彼らに贈る。
 さようなら、かわいい弟たちよ。


とじる