相続関連判例集
                                  <最高裁・判例検索システムより抜粋>
昭7・10・6大判 胎児と損害賠償請求権(阪神電鉄事件)
昭23・3・26東京高判 不特定物の遺贈
昭28・4・23最判 戦死による死亡日
昭28・5・29最判 債権譲渡の対抗要件
昭29・4・8最判 金銭債権の承継
昭29・12・21最判 相続放棄申述の記名押印
昭29・12・24最判 相続放棄の無効原因
昭30・5・10最判 遺言の解釈、遺言執行者の任務
昭30・5・31最判 遺産共有の性質
昭30・9・30最判 相続放棄無効確認の訴の適否
昭31・1・27最判 書面によらない不動産の贈与
昭31・5・10最判 相続で不動産の共有権者となった者は持分権で登記抹消できる
昭31・10・4最判 遺言者生前の遺言無効確認の訴の適否
昭32・5・21最判 遺言の効力は否定されたが、死因贈与と認められた事例
昭34・6・19最判 連帯債務の相続
昭35・7・19最判 減殺請求後の転得者に対する減殺請求の許否
昭36・6・22最判 自筆遺言書の日附、署名、捺印の方式
昭37・4・20最判 相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶した場合
昭37・4・27最判 母の認知
昭37・6・8最判 「遺言者が署名することができない場合」にあたるとされた事例。
昭37・11・9最判 根保証の相続性
昭38・2・22最判 相続人の一人がした単独所有権移転登記の抹消登記手続
昭38・4・8東京高判 父母を同じうする兄弟姉妹関係の不存在確認請求と確認の利益
昭39・2・27最判 相続回復請求権に関する20年の時効の起算点
昭和39・3・6最判 遺贈による所有権移転登記
昭39・4・14名古屋高判 遺言執行者選任審判取消審判に対する即時抗告事件
昭39・10・21東京高判 遺産分割前に処分された相続財産の分割
昭39・12・18大阪高判 移送審判の当否
昭40・2・2最判 保険金受取人を相続人と指定した場合の保険金の性質
昭40・5・21広島高判 遺留分回復の訴えの訴訟物等
昭40・6・18最判 無権代理人が本人を相続した場合の無権代理行為の効力
昭41・3・2最決 家審法9条1項乙類第10号の遺産の分割に関する処分の審判の合憲性
昭41・5・19最判 単独で占有する共有者に対する共有物の明渡請求
昭41・7・14最判 遺留分減殺請求権の性質
昭42・1・20最判 相続放棄と登記
昭42・2・21最判 家屋賃借人の死亡と内縁の妻の賃借権の承継の有無
昭42・4・27最判 法定単純承認の効果が生ずるための要件
昭42・4・28最判 内縁の夫が賃借権の援用した事例
昭42・11・1最判 慰謝料請求権の相続性
昭42・11・15名古屋高判 相続放棄取消の申述受理後、当該相続放棄の有効を別訴で主張することの可否
昭43・3・5札幌高判 他主占有者の相続人が現実に占有を開始した場合の占有の性質
昭43・5・31最判 遺言執行者がある場合と遺贈義務者の履行を求める訴の被告適格
昭43・12・20最判 口授と筆記・読み聞かせが前後した公正証書遺言の効力
昭43・12・24最判 生前行為による撤回・否定例
昭44・6・26最判 遺言による寄附行為と主務官庁の許可
昭44・9・8東京高判 相続人のない者からの包括遺贈と登記申請方法
昭44・10・30最判 土地占有権の相続
昭44・12・15東京高判 養子縁組無効確認請求控訴事件
昭45・3・17東京高判 遺言書の秘匿が相続欠格事由にあたるとされた事例
昭46・1・26最判 遺産分割の遡及効と対抗要件
昭46・7・23最判 離婚による慰籍料と財産分与との関係
昭46・11・16最判 遺贈と登記
昭47・2・15最判 遺言無効確認請求
昭47・3・17最判 危急時遺言において証人の署名・押印が別な場所でなされた
昭47・5・25最判 死因贈与の取消と民法1022条
昭47・7・6最判 家事審判規則一〇六条一項の相続財産管理人の応訴権限
昭47・9・1最判 家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の上訴権限
昭47・11・9最判 相続財産管理人の相続財産に関する訴訟についての当事者適格について
昭48・6・29最判 生命保険金請求権(交通事故傷害保険)の相続性
昭48・7・3最判 本人が無権代理人を相続した場合と無権代理行為の効力
昭49・4・26最判 特定債権の遺贈と対抗要件
昭49・7・3名古屋高判 認知の訴えの出訴期間経過後の父子関係存在確認と戸籍訂正の諾否
昭49・9・20最判 相続放棄と詐害行為取消権
昭49・11・27仙台高判 民法1041条1項(価額弁償)による目的物返還義務免脱の要件
昭49・12・24最判 遺言者の押印を欠く自筆証書遺言が有効とされた事例
昭49・12・26東京高判 数人の共同相続人の相続放棄と利益相反行為(上告)
昭50・10・24最判  相続財産が国庫に帰属する時期
昭50・11・7最判 共有持分を譲り受けた第三者の共有解消の手続
昭51・1・23大阪高判 相続人の存在が相続開始後に明らかになった場合と民784但書、同910の関係
昭51・3・18最判 金銭による特別受益と遺留分の算定
昭51・5・26東京高判 遺留分減殺すべき贈与の無効主張と消滅時効の進行
昭51・7・19最判 遺贈登記がなされた後に抹消登記を求める相手方
昭51・8・30最判 価額弁償額算定の基準時
昭51・11・24大阪高判 民法958条による公告の期間内に権利の申出をしなかった相続人の地位(上告)
昭52・2・17 相続財産に対する相続人の寄与と遺産の分割
昭53・2・24最判 相続放棄と利益相反行為(原審49.12.26)
昭53・12・20最判 共同相続人間における相続回復請求権
昭54・1・23大阪高判 遺産の範囲、分割を定める家事調停の既判力
昭54・2・6東京高判 遺産分割審判に対する抗告-配偶者らの寄与
昭54・3・23最判 遺産分割後の母子関係存在と民784但書、同910との関係
昭54・5・31最判 「昭和四拾壱年七月吉日」との遺言は無効
昭54・7・10最判 遺留分の価額弁償
昭54・12・3福岡高判 遺産分割後の被認知者の価額賠償請求について
昭55・3・24東京高判 嫡出親子関係不存在確認の訴の性質
昭55・11・27最判 死亡退職金が遺族固有の権利とされた事例
昭55・12・4最判 公正証書遺言における盲人である証人の立会い
昭56・4・3最判 遺言方式の具備行為と相続欠格事由
昭56・9・11最判 遺言無効確認、共同遺言
昭56・10・30最判 公告期間を徒過した相続人の相続権
昭56・11・13最判 協議離縁と遺言の効力
昭56・12・18最判 遺言書の誤記訂正とその効力
昭57・3・4最判 遺留分減殺請求権の時効
昭57・4・30最判 負担付死因贈与契約の取消し
昭57・11・12最判 遺留分減殺請求の時効の起算点
昭58・9・8最判 「妻何某」とした保険金受取人の指定の趣旨
昭59・4・27最判 熟慮期間の起算点
昭61・3・13最判 特定の財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えは、適法である
昭61・3・20最判 921条3項(法定単純承認)にいう「相続財産
昭61・8・7大阪高判 共有持分権を譲渡した場合と共有物分割の訴えの適否
昭61・11・20最判 不倫女性に対する包括遺贈と公序良俗
昭62・4・23最判 遺言執行者がある場合の相続人の処分、「遺言執行者がある場合」
昭62・5・27東京高判 遺言書の指印が無効とされた例
昭62・10・8最判 添え手による自筆証書遺言・無効例
昭63・4・25東京高判 相続放棄が無効であるとの主張が権利の濫用にあたるとされた事例
平1・1・26大阪高判 保険金受取人の一人が被保険者を故殺した場合
平1・2・9最判 遺産分割協議と負担不履行による解除
平1・2・16最判 自筆証書の指印有効例
平1・3・28最判 共同相続人間における遺産確認の訴は、固有必要的共同訴訟に当る
平1・6・28名古屋高判 持分の一部が遺贈された場合で相続人がないとき、民255条の関係(消極)
平1・8・10大阪高判 縁組前の養子の子が代襲する場合
平1・11・24最判 特別縁故者への分与と民法255条の関係
平2・9・27最判 遺産分割協議の合意解除
平2・10・18最判 公営住宅の相続権
平3・3・28東京高判 相続させる旨の遺言の場合には、遺言執行者は登記手続義務を負わない(上告)
平3・4・19最判(香川判決) 「相続させる」遺言の解釈
平4・3・13最判 保険金受取人が死亡した場合における受取人の変更に関する約款の解釈
平5・1・19最判 受遺者の選定を遺言執行者に委託した遺言の効力
平5・1・21最判 無権代理人を本人が共同相続した場合の無権代理行為の効力
平5・3・26大阪高判 遺産分割協議の無効確認を求める訴えと固有必要的共同訴訟
平5・4・6最判 自賠法にいう「被害者」 
平5・6・23東京高判 遺産分割審判に対する抗告事件−非嫡出子の差別問題
平5・9・7最判 商法六七六条二項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」の意義
平6・7・18最判 死亡保険金
平7・1・24最判 相続させる旨の遺言の場合には、遺言執行者は登記手続義務を負わない
平7・1・30最判 搭乗者傷害保険の死亡保険からの損害額控除
平7・3・7最判 特定の財産がいわゆる特別受益財産であることの確認を求める訴えの適否
平7・3・17大阪高判 遺言者の生存中であっても、例外的に遺言の無効確認を求めることができるか(上告)
平7・7・5最判 非嫡出子の相続分規定は合憲か
平8・1・26最判 全部包括遺贈に対する遺留分減殺請求
平8・7・9東京高判 死因贈与による仮登記がある不動産と限定承認された場合の「相続によって得た財産」(上告)
平8・10・31最判 全面的価格賠償の方法による共有物分割の許否
平8・11・7東京高判 保証債務と遺留分の基礎となる財産
平8・11・26最判 相続債務がある場合の遺留分侵害額の算定
平8・12・17最判 遺産たる建物の相続開始後の使用関係
平9・1・28最判 相続欠格の要件
平9・2・25最判 価額弁償金を支払わなかったときは、所有権移転登記せよ
平9・3・14最判 遺産確認の訴えは,共同相続人全員の間で合一に確定するための訴えである
平9・3・25最判 預託金会員制ゴルフクラブの会員の死亡により相続取得ができるとされた事例
平9・9・12最判 全部包括遺贈と相続人の不存在
平9・11・13最判 取り消された遺言の復活
平10・2・13最判 死因贈与の受贈者が限定承認をした相続人であるとき
平10・2・26最判 相続人に対する遺贈と民法1034条にいう目的の価額
平10・2・26最判 内縁の夫婦の一方の死亡後に他方が右不動産を単独で使用する旨の合意の推認
平10・2・27最判 「相続させる」遺言の遺言執行者と賃借権確認請求
平10・3・10最判 遺留分減殺請求前に譲渡した場合の弁償価額
平10・3・13最判 遺言公正証書作成には、証人の立会いを要する
平10・3・24最判 特別受益と遺留分減殺の対象
平10・6・11最判 遺留分減殺請求行使と遺産分割請求の関係
平10・7・17最判 追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力
平10・10・13名古屋高判 遺産分割及び寄与分を定める処分申立審判に対する即時抗告事件
平11・1・21最判 相続債権者が相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することの可否
平11・3・9最判 被相続人の生存中に相続人に対し売買を原因としてされた所有権移転登記について
平11・6・8大阪高判 持戻免除と遺留分の基礎となる財産
平11・6・10最判 相続税の課税処分取消請求事件
平11・6・11最判 被相続人が生存中の遺言無効確認の不適法
平11・6・11最判 遺産分割協議と詐害行為取消権
平11・6・24最判 遺留分減殺請求と目的物の取得時効
平11・7・19最判 共同相続人間の相続回復請求権と時効援用を立証すべき事項
平11・9・14最判 危急時遺言で民976条の口授があったとされた事例
平11・12・16最判 「相続させる」遺言と執行行為
平12・1・27最判 相続問題の前提問題としての親子関係の準拠法が日本の国際私法により決定された事例
平12・2・24最判 具体的相続分の価額又は割合の確認の利益
平12・3・8東京高判 遺留分減殺の順序-死因贈与の取扱い
平13・4・20最判 普通傷害保険契約に基づく死亡保険金請求の主張立証責任
平12・7・11最判 各個の財産についての価額弁償
平13・3・13最判 「不動産を遺贈する」との遺言の解釈
平13・3・27最判 証人となることができない者が同席した公正証書遺言の効力
平13・7・10最判 相続分の譲渡と農地法許可
平13・11・22最判 遺留分減殺請求を債権者代位の目的とすることの可否
平14・6・10最判 「相続させる」遺言と登記の要否
平14・7・12最判 推定相続人廃除申立て却下審判に対する抗告の可否
平14・9・24最判 秘密証書遺言が無効になった事例
平14・11・5最判 死亡保険金の受取人を変更する行為と民1031条の遺贈又は贈与
平15・3・24東京簡裁 相続放棄の熟慮期間の起算日
平15・3・28最判 民法900条4号ただし書前段と憲法14条1項
平15・4・25最判 通謀虚偽表示により遺産分割協議に基づいてした相続税の申告
平15・7・11最判 不実の持分移転登記に対する抹消登記手続請求をすることの可否
平15・11・13最判 遺産分割審判に対する即時抗告期間について
平15・12・11最判 死亡保険金請求権の消滅時効の起算点−3年経過後の遺体発見
平15・12・25最判 「曽」の字は、社会通念上明らかに常用平易な文字である。-戸籍施行規.60条
平16・2・26最判 実子が養子に対して提起した亡父の公正証書遺言無効確認請求訴訟
平16・4・20最判 共同相続人の一人が、遺産中の可分債権を行使した場合
平16・7・6最判 相続人の地位確認の訴えは固有的必要的共同訴訟である
平16・7・13最判 時効による農地の賃借権の取得については,農地法3条の規定の適用はない
平16・10・14最判 非嫡出子の相続分の民法900条4号但書き前段は、憲法14条1項に違反しない
平16・10・26最判 共同相続人の1人がした預金払戻しと不当利得、信義誠実の原則
平16・10・29最判 死亡保険金請求権と民法903条(特別受益)
平17・7・11最判 相続分を超える預金払戻、不当利得返還請求事件
平17・7・22最判 遺言書の解釈
平17・9・8最判 賃料債権と遺産分割
平17・10・11最決 第2次被相続人から特別受益を受けた物がるときの持戻しの要否
平17・12・15最判 実体関係と異なる単独所有権移転登記が全部抹消できるとした事例
平18・7・7最判 親子関係不存在確認請求と権利の濫用
平18・7・7最判 親子関係不存在確認請求と権利の濫
平18・7・14最判 相続人が意思無能力者である場合の相続税申告書の提出義務
平19・10・19最判 人身障害保険特約における保険金請求者が立証すべき事項


昭7・10・6大判 胎児と損害賠償請求権(阪神電鉄事件)
大審院昭和7年10月6日第1民事部判決(最高裁判所民事判例集11巻2023頁)
◆事件番号:昭和6年(オ)第2771号
【要旨】
 民法ハ胎児ハ損害賠償請求権ニ付キ既ニ生レタルモノト看做シタルモ右ハ胎児カ不法行為ノアリタル後生キ
テ生レタル場合ニ不法行為ニ因ル損害賠償請求権ノ取得ニ付キテハ出生ノ時ニ遡リテ権利能力アリタルモノト
看做サルヘシト云フニ止マリ胎児ニ対シ此ノ請求権ヲ出生前ニ於テ処分シ得ヘキ能力ヲ与ヘントスルノ主旨ニ
アラサルノミナラス仮令此ノ如キ能力ヲ有シタルモノトスルモ我民法上出生以前ニ其ノ処分行為ヲ代行スヘキ
機関ニ関スル規定ナキヲ以テ前示鉄蔵ノ交渉ハ之ヲ以テ寿雄ヲ代理シテ為シタル有効ナル処分ト認ムルニ由
ナク又仮ニ原判決ノ趣旨ニシテ鉄蔵カ親族ノ重子等ヲ代理シ又ハ自ラ将来出生スヘキ寿雄ノ為ニ叙上ノ和解
契約ヲ為シタルコトヲ認メタルニアリト解スルモ被上告人ハ寿雄ノ出生後同人ノ為ニ鉄蔵ノ為シタル処置ニ付キ
寿雄ニ於テ契約ノ利益ヲ享受スル意思ノ表示セラレタル事実ヲ主張セス原審モ亦此ノ如キ事実ヲ認定セサリシ
モノナルヲ以テ鉄蔵ノ為シタル前記和解契約ハ上告人寿雄ニ対シテハ何等ノ効力ナキモノト云ハサルヘカラス
【解説】
自然人の権利能力は出生に始まる(1条ノ3)とされるが、これでは胎児に関して不都合が生じることがある。
この為、民法は胎児に関しては、@不法行為による損害賠償請求権A相続B遺贈に関しては既に生まれたも
のとみなしている。ただし、胎児の権利能力に関しては、生きて生まれることを停止条件として権利能力を胎児
の時点に遡って認める停止条件説と、死産を解除条件として胎児の時点で権利能力を認める解除条件説の二
説がある。停止条件説が通説・判例(上記)である。
よって、停止条件説においては上記判例の通り、胎児の間に代理人は認められないこととなり、従って、代理人
が胎児のためになした損害賠償の和解は胎児を拘束しないということになる。


昭23・3・26東京高判 不特定物の遺贈
東京高等裁判所?? ?? 第六部民事部
遺贈米換價金請求事件
主    文
     本件上告は之を棄却する。
     上告費用は上告人等の負擔とする。
         理    由
 本件上告埋由は上告代理人提出の末尾に添付した上告理由書記載の通りである。
各論旨に對して次のやうに判断する。
 上告理由第一點に對する判断
 原判決の摘示する當事者間に爭なき事實によれば被上告人先代亡Aは昭和三年十
二月三十一日死亡し、被上告人に於てその家督を相續したが、右Aは大正十三年十
二月二十七日子女の將來を慮り、自筆の証書を作成して後妻の子である上告人兩名
に對し夫々「米四斗人五百俵人田地」を遺贈する旨を遺言しその遺言書を訴外Bに
保管せしめた。しかるに右Bはその後昭和九年五月三日にいたり横手區裁判所にお
いて遺言書の檢認を受けたが、右遺贈は上告人兩名に對し相續財産中の田地の内夫
々小作米玄米四斗入年五百俵を舉げ得べき部分を與へる趣旨で特定名義の遺贈では
あるが、その目的物が不特定であつたため昭和十年十二月四日訴外Cが遺言執行者
に選任され、同人は昭和十一年六月十二日遺言の趣旨に従ひ、被上告人の相続財産
から特定の田地を選定して上告人兩名に引渡したと云ふにある。
 而して常時施行されてゐた改正前の明治三十一年法律第九號民法第千八十七條は
遺言は遺言者死亡の時あらその效力を生ずる旨を規定しているが、その趣旨は必ず
しも遺言者の死亡と同時に遺言の内容が實現すると云ふのでなく、遺言が遺言者の
死亡の時あら、その意思表示としての效力を生ずると云ふに過ぎない。それ故遺贈
の效果が遺言の效力發生と同時に物權的に生ずるか、或は又債權的請求權を受遺者
に取得をせるに止まるかは結局遺言と云ふ意思表示の效果の問題であるあらこれを
一様に断定すべきではない。例へば特定物の給付を目的とする遺贈において、遺言
者の意思がいづれの效果を生ぜしめるにあるか不明な場合には民法第百七十六條の
適用上遺言の效力發生と同時に物權的效果を生ずるものと解すべきであるが(大審
院大正五年(オ)第四九一<要旨第一>號同年十一月八日判決参照)之に反し本件の
ような不特定物の給付を目的とする遺贈にあつては相續人は遺言</要旨第一>者死亡
の結果遺言の效力としてその不特定物を特定し受遺者に完全な所有權を移轉する義
務を負ふと共に他面受遺者はその給付に対する債権的請求權を有するに至るもの
で、この種の遺贈の效果は純粹に債權的であると解すべきであり、従つて遺言執行
者が相続人に課せられた遺贈義務の履行として目的物を特定した時に始めてその所
有權が受遺者に移轉するものと考へるのを至當とする。これを一般の法律行爲の原
則に照らして見るに、右遺贈における受遺者たる上告人兩名の權利は被上告人の相
続財産といふ一定範圍の田地の内玄米四斗入五百俵の小作米を挙げ得べき部分の給
付を求むるもので所謂限定種類債權と目すべきであるが限定種類債權も亦種類債權
に外ならないあらその特定の效果は將來に向つてのみ發生し既往に遡ることはな
い。尤も限定種類<要旨第二>債權に對しては選擇債權に於ける選擇權の行使及び移
轉に關する民法第四百六條以下の規定が準用されるので</要旨第二>あるが(大審院
大正五年(オ)第一〇八號同年五月二十日判決)限定種類債權にあつては給付の目
的物は一定の範圍のものであつてその個性は何等顧慮すべきでないからこれについ
ては特定の效果を既往に遡らしめる必要がなく民法第四百十一條は限定種類債權の
特定の場合に準用されないものといはなければならない。要するに木件遺贈の目的
物は遺言執行者Cが選定を了した前記昭和十一年六月十二日に夫々上告人等に所有
權が移轉したものであるから、原審が同一趣旨の下に右所有權移轉の時期が遺言者
Aの死亡の時であるとの上告人等の主張を排斥したのは正當で、原判決には、上告
人等主張のような法令の適用を誤つた違法はない。上告人援用の大審院制決は特定
物の給付を目的とする遺贈に關するもので、本件のやうな不特定物の給付を目的と
する遺贈の場合には適切でない。結局第一點の所論は原審と異る見解を持してその
適正なる制定を論難するもので到底これを採用するを得ない。
 上告理也第二點に對する判断
 特定物の給付を目的とする遺贈と不特定物の給付を目的とする遺贈が同一の遺言
書に記載してある場合にはその兩者を特定物の給付を目的とする遺贈として取扱い
全部につき遺言者死亡の日から所有權移轉の效力を生ぜしぬなければならないと云
ふ法則はなく、原判決には上告人主張のような法令の適用を誤つた違法はない。上
告人援用の大審院何決は上告人がその趣旨を正解せざるもので本件の場合に適切で
ない。要するに論旨第二點は上告人獨自の見解に基き原審が適法に爲した判定を攻
撃するもので採用に値しない。
 よつて本件上告を理由ないものと認め民事訴訟法第三百九十六條第三百八十四條
第八十九條を適用し主文の如く判決する。

昭28・4・23最判 戦死による死亡日
最高裁判所第一小法廷(福岡高等裁判所)
試掘権移転登録手続等請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差戻す。
         
理    由
 上告代理人弁護士前川末広の上告理由について。
 原判決が上告人の「仮りにAに従前り代理権があつたとしても、原告は、本件売買契約前の昭和二〇年八
月一三日既に戦死しているから、その時にAの代理権は消滅している。」との主張に対し、所論摘示のように
判示してその主張を排斥したことは、所論のとおりである。そして、成立に争のない乙第三号証(熊本市長の
戦死証明書)並びに甲第六号証の一(比島課長の死亡認定に就いての回答)二(認定官B業務局長の死亡
認定理由書)によれば、乙第四号証Cの戸籍抄本中の「昭和二〇年八月一三日時刻不明比島ルソン島マウ
ンテン州カラパンで戦死熊本県知事D報告同二三年一〇月八日受附」なる記載は、原告(被上告人)が諸般
の状況によりその所属していた南方軍築城支部が作業に従事した最終日である前記日時、場所附近で戦死
したものと認定する旨の認定官の認定に基き戸籍法八九条の報告により登載されたものと認定すべきであ
り、かかる場合原告は、反証のない限り右戸籍簿登載の死亡の日に死亡したものと認むべきである。しかる
に、原告が右戸籍簿の記載と異り現に生存し又は本件売買成立の日である昭和二元年二月二八日以降ま
で生存していたこと等の事実を認定することなく、原判決が、所論摘示のとおり判示したのは、証拠の判断乃
至法則を誤つたものというべく、爾余の論旨に対する判断を与えるまでもなく論旨第一点はその理由があつ
て原判決は破棄を免れない。しかし、原判決は、岡本Aが原告の父として、原告の応召出征するに際し、原
告からその後事一切についての包括的代理の委任を受けた事実を認定しているのである。そして、右にい
わゆる「包括的代理の委任により、右Aは原告の委任による不在者い財産管理人たる地位にあつたものと認
め得ないとは限らず、しかも、右Aと原告とが父子の関係にあり且つ原告が応召出征に際しての授権である
というような特別の事情からして、右授権は、財産管理人として右Aの有する代理権は、必ずしも原告の死亡
によつて消滅しない趣旨においてなされたものと解する余地もないわけではない。そして、本人の死亡を代
理権消滅の原因とする民法一一一条の規定は、これと異る合意の効力を否定する趣旨ではないと解すべき
であるから、原告がたとえ戸籍簿に記載のある昭和二〇年八月一三日死亡したとしても、これがため前記趣
旨においてなされた合意に基く右Aの代理権は消滅しないものと解し得ないとは限らない。又かかる場合、右
Aが原告死亡后原告の代理人としてなした本件売買の効力は実質上原告の相続人のために生ずる筋合で
はあるが、本人死亡するも代理権消滅の通知なき限り法定代理権の消滅なきものとする民訴五七条及び本
人の死亡による訴訟代理権の消滅を認めない民訴八五条が、何れも、かかる場合法定代理人又は訴訟代
理人の訴訟行為の効果を実質上死亡者の相続人に帰属せしめることを容認するものと解せられるから、右
Aが原告の生死不明の間に、改めて裁判所により原告を不在者とする財産管理人に選任せられ、その許可
を得て本件訴訟物を原告の権利として提起した本訴においては、たとえその後において原告死亡の事実が
判明した結果、右権利が実質上原告の相続人に帰属するものと認めざるを得ない場合においても、原告の
当事者としての適格を否定すべきでないと解することができる。従て、本件については、なおこれらの点につ
き審理判断の必要があると認められるから、民訴四〇七条に従い、原判決を破棄し、本件を原裁判所に差
戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

昭28・5・29最判 債権譲渡の対抗要件
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所)
預金払戻請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告理由第二点(イ)について。
 原審は、本件債権譲渡については、債務者たる上告銀行が事前の承諾をなした事実を認定しているだけ
で、右譲渡の后において民法四六七条一項所定の通知承諾があつた事実を認定していないことは所論のと
おりである。しかし原判決の理由を通読すれば、原審は、本件預金債権については最初当事者間に譲渡禁
止の特約があつた事実、そして債権者たる和歌山県農業会は、本件債権を被上告人に譲渡しようとするに
当り、前記譲渡禁止の特約があつた関係上、特に予め債務者たる上告銀行から右譲渡の承諾を得たもので
あり、ひつきよう上告銀行はこれにより右譲渡禁止の特約を解いて被上告人に対する本件債権譲渡につき
同意をなした事実を認定した趣旨であることを十分看取することができるのである。而して右の如く債権譲渡
の目的たる債権及びその譲受人がいずれも特定している場合に、債務者が予めその譲渡に同意したとき
は、その后あらためて民法四六七条一項所定の通知又は承諾がなされなくても、当該債務者に対しては右
債権譲渡をもつて対抗し得るものと解するのが相当である。けだし、かゝる場合右債権譲渡を債務者に対抗
し得ると解しても、当該債務者には、なんら債権の帰属関係が不明確となり二重弁済その他不測の損害を及
ぼす虞はないからである。されば原審が前記の如き事実関係の下において、本件債権譲渡をもつて債務者
たる上告銀行に対抗し得る旨判断したのは相当であつて、論旨は理由がない。
 その他の込論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四
日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主
張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭29・4・8最判 金銭債権の承継
最高裁判所第一小法廷
損害賠償請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人弁護士梶村謙吾の上告理由第二点について。
 相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上
当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とするから、所論は
採用できない。
 同第一点、第三点について。
 論旨第一点は、判例違反をいう点もあるが、判例を具体的に示さないから、不適法な主張たるを免れない
し、その余は単なる訴訟法違背の主張であり、(被上告人等は、原審で、所論相続に関する事実を主張し相
続分に応じて支払うべき旨請求しているから、所論の違法は認められない。)同第三点は、事実認定を非難
するに過ぎないものであつて、すべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」、
(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解
釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

昭29・12・21最判 相続放棄申述の記名押印
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
相續放棄無効確認等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人岡本繁四郎、同大島清七の上告理由は後記のとおりである。
 同第一点について。
 家庭裁判所が、相続放棄の申述を受理することは審判事項であるから、その申述が本人の真意に基ずくこ
とを認めた上これを受理すべきでありそのため必要な手続はこれを行うことを原則とするが、申述書自体に
より右の趣旨を認め得るかぎり必ずしも常に本人の審問等を行うことを要するものではない。そして家事審
判規則一一四条二項が、申述書には本人又は代理人がこれに署名押印しなければならないと定めたのは、
本人の真意に基ずくことを明らかにするためにほかならないから、原則としてその自署を要する趣旨である
が、特段の事情があるときは、本人又は代理人の記名押印があるにすぎない場合でも家庭裁判所は、他の
調査によつて本人の真意に基ずくことが認められる以上その申述を受理することを妨げるものではない。本
件についてみるに、原判決及びその引用する第一審判決の判示するところによれば、十分な証拠調を行つ
た上、上告人が真実に相続を放棄した事実を認定しその請求を排斥したことが明らかであり、またその判断
に誤りは認めらられない。従つて仮りに本件の家庭裁判所が所論一の(一)(二)に述べるような手続によつ
て本件申述を受理したとすれば、慎重を欠いたそしりを免れないが、それだけで本件相続放棄の申述を無効
ということはできない。その他の論旨は、原審の証拠の取捨判断又は事実認定を非難するに過ぎない。
 同第二点について。
 所論は、憲法一四条一項違反をいうが、その実質は原審の事実の誤認ないし法令違反を主張するに過ぎ
ず、第一点について説明したとおりであるから採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭29・12・24最判 相続放棄の無効原因
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
売掛代金残請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告理由第二点について。
 家庭裁判所が相続放棄の申述を受理するには、その要件を審査した上で受理すべきものであることはいう
までもないが、相続の放棄に法律上無効原因の存する場合には後日訴訟においてこれを主張することを妨
げない。
 その他の論旨はすべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五
月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要
な主張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

昭30・5・10最判 遺言の解釈、遺言執行者の任務
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
仮処分異議
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人銭坂喜雄の上告理由第一点について。
 所論は、要するに原判決は遺言者の真意を無視して遺言の趣旨を専断的に解釈した違法があり、また遺
言の文言が原判決のように解しうるとすれば、相異なる二様の解釈が生ずることとなり、遺言の真意が不明
確であることに帰するから無効としなければならないのに、原審がこれを有効と認定したのは違法であるとい
うに帰する。しかし意思表示の内容は当事者の真意を合理的に探究し、できるかぎり適法有効なものとして
解釈すべきを本旨とし、遺言についてもこれと異なる解釈をとるべき理由は認められない。この趣旨にかん
がみるときは、原審が本件遺言書中の「後相続はAにさせるつもりなり」「一切の財産はAにゆずる」の文言を
Aに対する遺贈の趣旨と解し、養女Bに「後を継す事は出来ないから離縁をしたい」の文言を相続人廃除の
趣旨と解したのは相当であつて、誤りがあるとは認められず、また遺言の真意が不明確であるともいえない
から、所論は理由がない。
 同第二点について。
 所論は、被上告人は本件仮処分を請求する権利がないと主張する。しかし仮処分は、裁判所が申請人の
請求権が本案の訴訟で確定する以前に予じめこれを保全する必要ありと認めた場合に許されるのであるか
ら、たとい上告人に対する相続人廃除の審判が確定せず、また被上告人に対する遺贈の効力がなお争いう
る状態にあるとしても、被上告人において遺贈により本件建物の所有権を取得した旨主張し、その権利保全
のため仮処分を申請することが許されない道理はない。所論の援用する民法八九五条は、相続人廃除の手
続進行中における相続財産の保全を図るため、家庭裁判所に必要な処分を命ずる権限を認めた規定であ
つて、これあるがため、受遺者がその財産を相続人から買い受けた第三者に対し、自己の請求権を保全す
る仮処分を申請することを禁ぜられるものとは解されない。また本件遺言の趣旨が原判示のとおりであつて
も、上告人に対する相続人廃除の請求が棄却されれば、上告人の遺留分減殺請求権との関係において、必
しも本件建物が被上告人に帰属するといえないことは所論のとおりであるが、そのことの確定しない現在に
おいて、被上告人が本件建物について仮処分の申請をなし得ないという理由は認められない。
 同第三点について。
 遺言執行者が所論のような権利義務を有することは民法一〇一二条一項の規定から明らかであり、従つ
て本件の遺言執行者が所論摘示のような行為をなし得ることも認められるが、このことは本件被上告人が受
遺者としての権利に基いて自ら仮処分の申請をなすことを妨げるものと解することはできない。
 同第四点について。
 遺言執行者の任務は、遺言者の真実の意思を実現するにあるから、民法一〇一五条が、遺言執行者は相
続人の代理人とみなす旨規定しているからといつて、必ずしも相続人の利益のためにのみ行為すべき責務
を負うものとは解されない。そして本件仮処分の相手方たる上告人は、相続人から本件建物を買い受けた第
三者であつて相続人その人ではないから、遺言執行者である増田要次郎が受遺者たる被上告人の代理人
として上告人に対し、仮処分申請の手続をすることを許されないと解することはできない。
 同第五点について。
 民法九八二条が九七六条の遺言に九七三条を準用する旨を定めたのは、九七六条のいわゆる特別方式
による遺言を禁治産者がなす場合には、九七三条を準用し医師の立会等を必要とするとの趣旨であつて、
禁治産者でない通常人が九七六条の遺言をする場合についても、禁治産者の遺言の場合と同じく、九七三
条に定める医師の立会等を必要とするとの趣旨ではないと解するを相当とする。このことは、九八二条が九
七七条ないし九七九条の遺言にも九七三条を準用する旨規定した法意と比照してみれば明らかであつて、
これと同趣旨に出た原判決の解釈に誤りはなく、所論は採用することはできない。
 同第六点ないし第九点について。
 所論第六点は、原審が証拠によつて正当に認定した「本件遺言書は証人の一人Cが遺言者のいうままに
一口一口宛筆記した上、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後
これに署名捺印した」という事実を争うに過ぎず、また所論第七点は、右事実認定と異なる見解を前提とする
主張であるから、採用のかぎりでなく、仮りに原審が所論準備書面の趣意を誤解したふしがあつたとしても、
判決主文には全く影響がなく、結論においてなんら変りはない。所論第八点は、原審が証拠によつて正当に
判断した遺言書の真意を、遺言書の語句と対比して非難するに過ぎず、原判決になんら違法はない。所論
第九点は、原審口頭弁論において陳述しない準備書面の記載に基づいて判断遺脱を主張するのであつて
採用のかぎりでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭30・5・31最判 遺産共有の性質
最高裁判所第三小法廷
共有物分割請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人松岡末盛の上告理由第一、二点について。
 相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規
定する「共有」とその性質を異にするものではないと解すべきである。相続財産中に金銭その他の可分債権
があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するとし
た新法についての当裁判所の判例(昭和二七年(オ)一一一九号同二九年四月八日第一小法廷判決、集八
巻八一九頁)及び旧法についての大審院の同趣旨の判例(大正九年一二月二二日判決、録二六輯二〇六
二頁)は、いずれもこの解釈を前提とするものというべきである。それ故に、遺産の共有及び分割に関して
は、共有に関する民法二五六条以下の規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、
分割によつて著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのであつ
て、民法九〇六条は、その場合にとるべき方針を明らかにしたものに外ならない。本件において、原審は、本
件遺産は分割により著しく価格を損する虞があるとして一括競売を命じたのであるが、右判断は原判示理由
によれば正当であるというべく、本件につき民法二五八条二項の適用はないとする所論は採用できない。そ
してまた、原審は本件につき民法附則三二条、民法九〇六条を準用したことも原判文上明らかであるから、
これを準用しない違法があると主張する所論も採用できない。
 その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日
法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張
を含む」ものと認められない(論旨第三点の理由ないことも原判決の判示したとおりである)。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭30・9・30最判 相続放棄無効確認の訴の適否
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所)
相続放棄無効確認請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人古田進の上告理由第一点について。
 およそ、確認訴訟は、特段の規定のないかぎり、特定の権利又は法律関係の存在又は不存在の確認を求
める訴である。本件において上告人(原告)等は、その請求の趣旨として「原告等が昭和二五年八月二三日
にした岡山県川上郡a村大字b番地被相続人Aの相続放棄は無効とする」との判決を求めたこと、そして、そ
の訴旨は、右のごとき趣旨の確認判決を求めるものであることはその主張自体から明らかであるにかかわら
ず、当該相続放棄の無効なるに因つていかなる具体的な権利又は法律関係の存在、若しくは不存在の確認
を求める趣意であるかは、明確でないのである。相続のごとき複雑広汎な法律関係を伴うものについて、本
件確認の対象となるべき法律関係は、少しも具体化されていないのである(もとより、全般的にかかる相続放
棄無効確認の訴を許す特別法規も存在しない。)。すなわち、かかる確認の訴は、適法な「訴の対象」を欠く
ものといわざるを得ないのであつてかかる上告人(原告)の請求に対し本件第一審若しくは原審の口頭弁論
期日において、被上告人(被告)特別代理人が「原告請求通りの判決を求める」旨の陳述をしたからといつて
民事訴訟法上、「請求ノ認諾」たる効力を生ずるに由ないものといわなければならない。されば、第一審若しく
は原審が右特別代理人の陳述をもつて「請求ノ認諾」にあたるものと解せず、従つて、認諾に因る訴訟終了
の措置を採らなかつたことをもつて、所論のように違法とすることはできない。論旨は採るを得ない。
 同第二点について。
 本件相続放棄の結果、被上告人の相続税が上告人等の予期に反して多額に上つた等所論の事項は、本
件相続放棄の申述の内容となるものでなく、単なる動機に関するものに過ぎないことは、原判示のとおりであ
るから、かかる場合に民法九五条の規定は適用のないものとした原判決は正当であつて、論旨は理由がな
い。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭31・1・27最判 書面によらない不動産の贈与
最高裁判所第二小法廷
建物返還並に登記無効等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人砂子政雄の上告理由第一点について。
 原判決の認定するところによれば、本件建物は、上告人Aにおいて、被上告人名義で建設し、出来上りと同
時にこれを被上告人に贈与する旨の契約をしたというのであつて、原判決は、右契約をもつて、右建物の出
来上りと同時に、その所有権を同上告人から、被上告人に移転する趣旨の契約と解し、被上告人は、右契約
の趣旨に従い建物出来上りと同時にその所有権を取得したものと判示したのであつて、もとより、正当であ
る。論旨は原判示を正解せざるによるもので、採用することができない。
 同第二点について。
 原判決は本件建物の所有権は、その出来上りと同時に被上告人に移転せられたものであるから、所論の
贈与は、既にその履行を終つたものである。よつて、右贈与は上告人Aにおいて、これを取消すことはできな
いと判示するけれども不動産の贈与は、その所有権を移転したのみをもつて、民法五五〇条にいわゆる「履
行ノ終ハリタル」ものとすることはできないのであつて、右「履行ノ終ハリタル」ものとするには、これが占有の
移転を要するものと解すべきことは、論旨所説のとおりである。しかし、原判決は右贈与契約については上
告人Aは出来上りと同時にこれを被上告人に贈与すると共に、「その後元年間は、控訴人(上告人)Aにおい
て右建物を無償で使用し、ビンゴゲーム場を経営して利益をあげ、その一年の期間満了とともに右建物を被
上告人に明渡すことと定めた」こと、並びに上告人Aが右契約の趣旨に従つて右建物建築后これを占有使用
していることを認定しているのであつて、この事実関係の下においては、右建物は、出来上りと共にその所有
権が被上告人に移転すると同時に、爾後上告人Aは被上告人の為めに右建物を占有する旨の意思を暗黙
に表示したものと解すべきであるから、これによつて、右建物の占有もまた、被上告人に移転したものという
べく、従つて、本件贈与は、既にその履行を終つたものと解するを相当とする。されば上告人の右贈与取消
の抗弁を排斥した原判決は結局正当であつて、論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭31・5・10最判 相続で不動産の共有権者となった者は持分権で登記抹消できる
第1小法廷判決(
不動産所有権移転登記抹消登記手続請求上告事件(上告棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人弁護士桑江常善の上告理由第一点について。
 本件におけるがごとく、ある不動産の共有権者の一人がその持分に基き当該不動産につき登記簿上所有
名義者たるものに対してその登記の抹消を求めることは、妨害排除の請求に外ならずいわゆる保存行為に
属するものというべく、従つて、共同相続人の一人が単独で本件不動産に対する所有権移転登記の全部の
抹消を求めうる旨の原判示は正当であると認められるから、論旨は採ることができない。
 同第二点について。
 原判決挙示の証拠によれば、甲野ハルオが実弟たる控訴人(上告人)名義に仮装して本件登記をなしたと
の原判示認定を肯認することができるし、また、原判決は、第一審判決とは異つて被上告人等が共同相続を
したとの被上告人の主張事実を是認したものであるから、所論の審理不尽は認められない。なお、不法原因
給付であるとの主張は、原審で主張しなかつたところであるから、原判決が民法七〇八条の解釈を誤つたと
の主張は採用することができない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
昭31・10・4最判 遺言者生前の遺言無効確認の訴の適否
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
遺言無効確認、建物所有権移転登記抹消請求
主    文
     原判決中遺言無効確認の請求に関する部分を破棄する。
     第一審判決中右請求に関する部分を取消し、被上告人の該請求につき訴を却下する。
     抹消登記手続の請求につき本件上告を棄却する。
     訴訟の総費用は一〇分し、その一を被上告人の負担としその九を上告人の負担とする。
         
理    由
 職権をもつて按ずるに、確認の訴は原則として法律関係の存否を目的とするものに限り許されるのであつ
て、事実関係については訴訟法上特に認められた「法律関係ヲ証スル書面ノ真否ヲ確定スル為ニ」する場合
(民訴二二五条)の外はこれを提起することはできない。それは法令を適用することによつて解決し得べき法
律上の争訟について裁判をなし以て法の権威を維持しようとする司法の本質に由来する。すなわち法律関
係の存否は法令を適用することによつて判断し得るところであるに反し、事実関係の存否は経験則の適用に
よつて確定されるのであり、経験則の確認、これが正当な適用というようなことは司法本来の使命とは直接
的関係はなく法令適用の前提問題たるに過ぎないからである。そしてまたその法律関係についてもただ現在
時における存否のみがこの訴の対象として許されるのであつて、ある過去の時点におけるその存否、若くは
将来時におけるその成否というようなことは確認の対象とすることは許されない。民事訴訟法は現在の法律
関係の確認を許すだけでこの種の訴を認めた立法目的を達成するに必要にして十分であるとしたものと解
せられる。けだし、過去の法律関係の存否は、たとえそれが現在の法律関係の存否に影響を来たすべき場
合においても、それは単に前提問題としての意義を有するに止まり、当該現在の法律関係の存否につき確
認の訴を認める外、かかる過去の法律関係の存否についてまでこの種の訴を認める必要はないのであり、
また将来の法律関係なるものは法律関係としては現在せず従つてこれに関して法律上の争訟はあり得ない
のであつて、仮りにある法律関係が将来成立するか否かについて現に法律上疑問があり将来争訟の起り得
る可能性があるような場合においても、かかる争訟の発生は常に必ずしも確実ではなく、しかも争訟発生前
予めこれに備えて未発生の法律関係に関して抽象的に法律問題を解決するというが如き意味で確認の訴を
認容すべきいわれはなく、むしろ現実に争訟の発生するを待つて現在の法律関係の存否につき確認の訴を
提起し得るものとすれば足ると解せられるからである。この事は現存する給付請求権について、それが条件
附又は期限付であるとき、「豫メ其ノ請求ヲ為ス必要アル場合ニ限リ」将来の給付の訴を提起し得るものとし
た民訴二二六条の規定の存在することに徴しても容易に理解し得るところであろう。
 本件において、遺言の無効確認を求める請求の原因の要旨は、被上告人は昭和二六年一一月二一日東
京法務局所属公証人A作成第一八六九一四号公正証書により遺言者を被上告人、受遺者を上告人、遺言
執行者をB、証人をB及びCとして本件係争建物を上告人に遺贈する旨の遺言をしたが、昭和二七年九月二
四日同公証人作成第二〇二四二六号公正証書により遺言者を被上告人、遺言執行者をD、証人を同人及
びEとして前記遺贈を取消したので、該遺言の無効確認を求めるというのである。(記録によれば、被上告人
主張のとおりに遺贈がなされ、そしてそれが取消されたことは、本訴当事者間に争はないのである。本件で
は遺言無効確認請求の外、上告人が昭和二七年七月一〇日係争建物につきなした所有権取得登記の抹消
登記手続を求める請求が併合されているけれど、右所有権の取得登記は前示遺贈をその登記原因とするも
のでないことは勿論である。)そしてその請求の趣旨は、これを字義通りに理解するならば遺贈なる法律行為
の無効なることの確認を求めるものの如くであるが、法律行為はその法律効果として発生する法律関係に対
しては法律要件を構成する前提事実に外ならないのであつて法律関係そのものではない。ある法律行為が
有効であるか無効であるかということは、もとより法律判断を包含してはいるけれども、かかる事項を確認の
訴の対象とすることの許されないことは前段説示するところにより明瞭であろう。またその訴旨を本件遺贈に
よる法律効果としての法律関係の不存在の確認を訴求するものと理解しても、なおこの訴は不適法たるを免
れない。元来遺贈は死因行為であり遺言者の死亡によりはじめてその効果を発生するものであつて、その生
前においては何等法律関係を発生せしめることはない。それは遺言が人の最終意思行為であることの本質
にも相応するものであり、遺言者は何時にても既になした遺言を任意取消し得るのである。従つて一旦遺贈
がなされたとしても、遺言者の生存中は受遺者においては何等の権利をも取得しない。すなわちこの場合受
遺者は将来遺贈の目的物たる権利を取得することの期待権すら持つてはいないのである。それ故本件確認
の訴は現在の法律関係の存否をその対象とするものではなく、将来被上告人が死亡した場合において発生
するか否かが問題となり得る本件遺贈に基ずく法律関係の不存在の確定を求めるに帰着する。しかし現在
においていまだ発生していない法律関係のある将来時における不成立ないし不存在の確認を求めるという
ような訴が、訴訟上許されないものであることは前説示のとおりであつて、本件確認の訴はその主張するとこ
ろ自体において不適法として却下せざるを得ない。
 それ故、第一審裁判所が本件確認の訴を適法と認め本案につきその請求を認容したのは失当であり、原
審は須らく第一審判決を取消し訴却下の裁判をなすべきであつたにも拘わらず、第一審と同一見地に立つ
て該判決を維持し上告人のなした控訴を棄却したのは失当でありこの点に関する限り原判決は破棄を免れ
ない。しかも事件につき裁判をなすに熟すること勿論であるから、第一審判決をも取消し訴却下の裁判をしな
ければならない。
 上告理由(イ)によるまでもなく、本件確認の訴が不適法なことは職権調査による前説示により明白である。
同(ロ)(ハ)は、原審の裁量に属する証拠の採否及び事実認定を非難するに帰し、そして原審の判断は、そ
の挙示の証拠に徴し、当審においてもこれを是認することができる。それ故、これらの所論は採るを得ない。
 よつて民訴四〇八条、九五条、九六条、九二条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭32・5・21最判 遺言の効力は否定されたが、死因贈与と認められた事例
最高裁判所第三小法廷(名古屋高等裁判所)
所有権移転登記手続請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人高野誠三の上告理由第一点について。
 所論の如く原判決は一審判決と全く異る事実認定をしておるが、原判決挙示の各証拠によると原判決判示
の事実を認定することができる。原判決は経験法則に反して事実を認定したとは認められない。論旨は理由
がない。
 同第二点について。
 論旨は死因贈与も遺言の方式に関する規定に従うべきものと主張するが、民法五五四条の規定は、贈与
者の死亡によつて効力を生ずべき贈与契約(いわゆる死因贈与契約)の効力については遺贈(単独行為)に
関する規定に従うべきことを規定しただけで、その契約の方式についても遺言の方式に関する規定に従うべ
きことを定めたものではないと解すべきである。(同趣旨、大正一五年(オ)一〇三六号、同年一二月九日、
大審院判決、集五巻八二九頁)論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭34・6・19最判 連帯債務の相続http:// へのリンク
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所)
貸金請求
主    文
     上告人Aの上告を棄却する。
     右上告費用は同上告人の負担とする。
     その余の上告人らの上告につき、原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人植木昇の上告理由について。
 連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担している
のであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、
なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被
相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれ
を承継するものと解すべきであるから(大審院昭和五年(ク)第一二三六号、同年一二月四日決定、民集九
巻一一一八頁、最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号、同二九年四月八日第一小法廷判決、民集八巻八一
九頁参照)、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割され
たものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相
当である。本件において、原審は挙示の証拠により、被上告人の父Bは、昭和二六年一二月一日上告人ら
の先々代C、先代D及びDの妻である上告人Aを連帯債務者として金一八三、〇〇〇円を貸与したこと、甲
二号証によれば、昭和二七年一二月三一日にも、同一当事者間に金九八、五〇〇円の消費貸借が成立し
た如くであるが、これは前記一八三、〇〇〇円に対する約定利息等を別途借入金としたものであるから、旧
利息制限法の適用をうけ、一八三、〇〇〇円に対する昭和二六年一一月一日から昭和二七年一二月三一
日まで年一割の割合による金一八、四五二円の範囲にかぎり、請求が許容されること(右のうち、昭和二六
年一一月一日とあるのは、同年一二月一日の誤記であること明らかであり、また、原審の利息の計算にも誤
りがあると認められる。)Dは昭和二九年三月二三日死亡し(Cの死亡したことも、原審において争のなかつ
たところであるが、原判決は、同人の債務を相続した者が何人であるかを認定していない。)、上告人E、F、
G及び訴外Hの四名は、その子としてDの債務を相続したこと、債権者Bは、本件債権を被上告人に譲渡し
対抗要件を具備したことを各認定ものである。右事実によれば、Cの債務の相続関係はこれを別として、上
告人A及びDは被上告人に対し連帯債務を負担していたところ、Dは死亡し相続が開始したというのであるか
ら、Dの債務の三分の一は上告人Aにおいて(但し、同人は元来全額につき連帯債務を負担しているのであ
るから、本件においては、この承継の結果を考慮するを要しない。)、その余の三分の二は、上告人E、F、G
及びIにおいて各自四分の一すなわちDの債務の六分の一宛を承継し、かくしてAは全額につき、その余の
上告人らは全額の六分の一につき、それぞれ連帯債務を負うにいたつたものである。従つて、被上告人に対
しAは元金一八三、〇〇〇円及びこれに対する前記利息の合計額の支払義務があり、その他の上告人ら
は、右合計額の六分の一宛の支払義務があるものといわなければならない。しかるに、原審は、上告人らは
いずれもその全額につき支払義務があるものとの見解の下に、第一審判決が上告人Aに対し金二八一、五
〇〇円の三分の一、その他の上告人らに対し金二八一、五〇〇円の六分の一宛の支払を命じたのは、結局
正当であるとして、上告人らの控訴を棄却したものである。それゆえ、上告人Aは、全額につき支払義務があ
るとする点において、当裁判所も原審と見解を同じうすることに帰し、その上告は結局理由がないが、その他
の上告人らに関する部分については、原審は連帯債務の相続に関する解釈を誤つた結果、同上告人らに対
し過大の金額の支払を命じたのであつて、同上告人らの上告は理由があるというべきである。よつて、上告
人Aの上告は、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、これを棄却し、その他の上告人らの上告について
は、民訴四〇七条一項により、原判決を破棄し、これを広島高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。

昭35・7・19最判 減殺請求後の転得者に対する減殺請求の許否
最高裁判所第三小法廷(仙台高等裁判所)
土地建物所有権移転登記等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人菅原勇の上告理由第一点について。
 所論の実質は原審の適法な証拠判断の非難にすぎず、上告適法の理由と認められない。
 同第二点について。
 しかし、被上告人Aが上告人らの登記の欠缺を主張し得る第三者に該当することは当裁判所の判例の趣
旨に照らして明らかである(昭和三三年一〇月一四日第三小法廷判決、民集一二巻三一一一頁)。そして原
判決は、亡B名義に所有権移転登記がなされた時においてBは本件不動産につき完全な所有権を取得し、
上告人らは何らの権利をも有しなくなつたとし、被上告人C及びDが登記義務を承継したとしても、同人らから
本件不動産を買受けた被上告人Aにおいて所有権移転登記を得た以上、特段の事情のない限り登記義務
は履行不能に帰したと判示して、上告人らの請求を排斥しているのであり、その判断は正当であるから、論
旨は理由がないことに帰する。
 同第三点について。
 所論は原審の適法な証拠判断の非難にすぎず、上告適法の理由と認められない。
 同第四点について。
 しかし上告人らの減殺請求により本件不動産が全部上告人らの所有に帰したとする所論の立場に立つて
みても、未登記の上告人らは被上告人C、及びDから本件不動産を買受け所有権移転登記を経た被上告人
Aに対し、所有権取得をもつて対抗し得ないのであるから、所論は原判決の結論に影響のないものであり、
採用に値しない。
 同第五点、第六点について。
 亡Bに対する減殺請求後、本件不動産を買受けた被上告人Aに対し減殺請求をなし得ないとした原審の判
断、並びに時効の起算点に関する原審の判断は、いづれも正当であり、その間に齟齬はないから、論旨は
すべて理由がない。
 上告代理人加藤行吉、同工藤祐正の上告理由第一点について。
 所論は原判決に即せず、第一審判決の違法をいうもので、上告適法の理由と認められない。
 同第二点について。
 所論の理由のないことは前記菅原代理人の上告理由第二点の説示により諒解すべきである。
 同第三点について。
 上告人らが贈与を受けたにしてもその所有権の取得をもつて対抗できないものである以上、所論の事実を
必ずしも確定する必要はないから、原判決に所論の違法あるものとは言えない。
 同第四点について。
 遺留分に反する譲渡行為であつてもそのため当然無効となるものではなく減殺請求に服するにすぎない。
そして本件は被相続人Eの生前の二重贈与と減殺請求の事実に関するもので、単なる相続人間の相続財産
の所有権取得の主張の問題ではないから、所論のような理由によつて原判決の判断を違法と解することは
できない。引用判例は適切でなく、論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、九三条一項、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭36・6・22最判 自筆遺言書の日附、署名、捺印の方式
最高裁判所第一小法廷(広島高等裁判所)
遺言無効確認等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人高橋武夫、同椎木緑司の上告理由第一点、第二点について。
 本件遺言書作成の経過、遺言書の形式および記載文字の筆跡等所論の点に関する原審の事実の認定
は、挙示の証拠に照らし是認しうる。所論は右原審の認定した事実と異なる事実関係を前提として原判決の
違法をいうものであつて、採るを得ない。
 同第三点について。
 記録に徴すれば、所論調停の申立または訴の提起が、所論のように遺留分減殺請求権の行使の意思表
示を包含するものとは認められない。また、本件において上告人が予備的に主張した遺留分減殺調求の訴
については、更に相続財産の相続開始当時の価額、遺贈財産の相続開始当時の価額、本件不動産の所在
地、内容等を具体的に検討しなければならないから、原審における本件訴訟進行の状況に照らし、右予備
的訴を審理し、訴訟を完結することは、訴訟手続を著しく遅滞せしめるべきことは推測するに難くない。それ
故、これと同趣旨において右予備的請求を却下した原審の判断は正当であり、所論の違法は認められな
い。
 同第四点について。
 遺言書が数葉にわたるときであつても、その数葉が一通の遺言書として作成されたものであることが確認
されれば、その一部に日附、署名、捺印が適法になされている限り、右遺言書を有効と認めて差支えないと
解するを相当とする。それ故右と同趣旨の原判決は結局正当であつて、所論の違法は認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭37・4・20最判 相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶した場合
第2小法廷判決(高松高等裁判所)
土地引渡所有権移転登記手続等請求上告事件(破棄差戻)
主    文
 原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、本件を高松高等裁判所に差戻す。
理    由
 上告代理人長尾章の上告理由は、本判決末尾添付の別紙記載のとおりである。
 右上告理由第一点ないし第三点について。
 原判決は、無権代理人が本人を相続した場合であると本人が無権代理人を相続した場合であるとを問わず、
いやしくも無権代理人たる資格と本人たる資格とが同一人に帰属した以上、無権代理人として民法一一七条に
基いて負うべき義務も本人として有する追認拒絶権も共に消滅し、無権代理行為の瑕疵は追完されるのであつ
て、以後右無権代理行為は有効となると解するのが相当である旨判示する。
 しかし、無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追
認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となると解するの
が相当であるけれども、本人が無権代理人を相続した場合は、これと同様に論ずることはできない。後者の場合
においては、相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義に反するところはない
から、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。
 然るに、原審が、本人たる上告人において無権代理人亡Aの家督を相続した以上、原判示無権代理行為はこの
ときから当然有効となり、本件不動産所有権は被上告人に移転したと速断し、これに基いて本訴および反訴につ
き上告人敗訴の判断を下したのは、法令の解釈を誤つた結果審理不尽理由不備の違法におちいつたものであつ
て、論旨は結局理由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。
 よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭37・4・27最判 母の認知
最高裁判所第二小法廷
親子関係存在確認請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人敦沢八郎の上告理由について。
 被上告人が上告人を分娩した旨の原審(その引用する第一審判決)の事実認定は、その挙示する証拠に
徴し、首肯するに足り、これに所論のような違法は認められない。所論は、ひつきよう、原審の専権に属する
証拠の取捨判断、事実の認定を争うこ帰し、採用するをえない。
 なお、附言するに、母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知を俟たず、分娩の事実
により当然発生すると解するのが相当であるから、被上告人が上告人を認知した事実を確定することなく、
その分娩の事実を認定したのみで、その間に親子関係の存在を認めた原判決は正当である。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭37・6・8最判 「遺言者が署名することができない場合」にあたるとされた事例。
最高裁判所第二小法廷(札幌高等裁判所)
土地建物所有権取得登記抹消登記手続請求(棄却)
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人土家健太郎の上告理由について。
 原判決が本件遺言の際における諸般の事情を認定して、かかる場合は民法九六九条四号但書の自署不
能の場合に該当するものと判示したのは正当である。所論は原判決の認定に添わない事実関係をもとにし
て、原判決の右判断を非難するものであつて採用することはできない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
裁判要旨
遺言者が、遺言当時胃癌のため入院中で手術に堪えられないほどに病勢が進んでおり、公証人に対する本件
遺言口述のため約一五分間も病床に半身を起していた後でもあつたから、公証人が遺言者の疲労や病勢の悪
化を考慮してその自署を押し止めたため、公証人の言に反対してまで自署することを期待することができなかつ
た等原審認定(原判決理由参照)のような事情があるときは、民法第九六九条第四号但書にいう「遺言者が署名
することができない場合」にあたると解される。


昭37・11・9最判 根保証の相続性
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
売掛代金残請求
主    文
     原判決中上告人Aに関する部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
     上告人Bの本件上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人Bの負担とする。
         
理    由
 上告代理人柴田健太郎の上告理由第一点について。
 被上告会社は、昭和二五年一二月一日から訴外CおよびD両名と、代金は毎月末払の約にて肥糧の取引
を始め、右取引に当り、爾後これによつて生ずる右両名の被上告会社に対して負担すべき債務につき、上告
人B、訴外E、同F、同Gの四名においてこれを連帯保証したこと、そのうちF、Gは、Dの、上告人B、EはCの
各連帯保証人であつたこと、昭和二六年一二月一日頃からは右Cが単独で被上告会社と取引を続け、上告
人BおよびEが依然として前記連帯保証人の地位にあつたこと、被上告会社が本訴で請求する一〇〇万円
は、Cが右取引に関し昭和三二年九月一一日から同三三年三月一〇日までの間に被上告会社に対して負
担した三、〇一一、〇五三円の肥糧売掛代金債務の一部についての保証債務の履行を求めるものであるこ
と、Eは、右期間より以前である昭和三二年六月七日すでに死亡し、同人の長男たる上告人Aがその遺産に
つき三分の一の割合をもつて相続したものであることは、いずれも、原判決が確定した事実である。
 右事実関係のもとにおいては、上告人Bの被上告人に対して負担する本件連帯保証債務に身元保証ニ関
スル法律一条が準用され、その契約期間が保証契約成立の日より三箇年に限定されるべきであるとの所論
は、ひつきよう、独自の見解というほかはなく、その他同上告人の債務をとくに制限した範囲に限るべき法律
上の根拠も見出し難いから、右論旨は採用することができない。
 しかしながら、論旨が身元保証ニ関スル法律一条の準用を主張する趣旨は、要するに、本件保証債務が
一定の限度に制限されるべきであるとの主張を包含するものと解すべきところ、按ずるに、前記原判示のよう
な継続的取引について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定
めのない連帯保証契約においては、特定の債務についてした通常の連帯保証の場合と異り、その責任の及
ぶ範囲が極めて広汎となり、一に契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから、かかる
保証人たる地位は、特段の事由のないかぎり、当事者その人と終始するものであつて、連帯保証人の死亡
後生じた主債務については、その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではないと解するを
相当とする。されば、本件において、連帯保証人Eの死亡後、被上告会社とCとの取引によつて発生した主
債務につき、特段の事由の存することを判示することなくして、漫然Eの相続人たる上告人Aに連帯保証人と
しての支払義務あるものとした原判決は、本件連帯保証契約の性質を誤解したか、もしくは理由不備の違法
があるものというべく、上告人Aについての論旨は理由があり、論旨第二点についての判断をまつまでもな
く、原判決中同上告人に関する部分は破棄を免れない。そして、前記の点について、なお本件は審理判断の
要があるから、右部分につき本件を原裁判所に差し戻す乙とを相当とする。
 同第三点について。
 裁判所が証拠を排斥するについては、その理由を逐一判示する必要はなく(最高裁昭和三二年六月一一
日第三小法廷判決、民集一一巻一〇三〇頁参照)、原判決(第一審判決引用)の挙示する証拠によれば、
原判示は首肯しうるから、論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。

昭38・2・22最判 相続人の一人がした単独所有権移転登記の抹消登記手続
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
登記抹消登記手続請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人佐藤米一の上告理由第一点について。
 原判決が被上告人らに命じた所論更正登記手続は、実質的には一部抹消登記手続であるところ、所有権
に対する妨害排除として抹消登記請求権を有するのは上告人らであつて、Aではないというべきであるから、
この点に関する原判決は正当であつて、所論のように登記義務者・登記権利者を誤解した違法はない。論旨
は、原判決を正解せざるに出たものであつて採用しえない。
 同第二点について。
 相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所
有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうる
ものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結
果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正八年一一月三日大審院判決、
民録二五輯一九四四頁参照)。そして、この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的
権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくし
て、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない(大正一〇年一〇月二七日大
審院判決、民録二七輯二〇四〇頁、昭和三七年五月二四日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集六〇巻七
六七頁参照)。けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また甲は自己の持
分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。
 従つて、本件において、共同相続人たる上告人らが、本件各不動産につき単独所有権の移転登記をした
他の共同相続人であるAから売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した被上告人らに対
し、その登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、原判決が、Aが有する持分九分の二についての仮登
記に更正登記手続を求める限度においてのみ認容したのは正当である。また前示のとおりこの場合更正登
記は実質において一抹部抹消登記であるから、原判決は上告人らの申立の範囲内でその分量的な一部を
認容したものに外ならないというべく、従つて当事者の申立てない事項について判決をした違法はないか
ら、所論は理由なく排斥を免れない。
 同第三点について。
 被上告人十条商事株式会社が原審において提出したB弁護士に対する訴訟委任状には、所論のとおり、
相手方としてCの記載があるのみであつて、D、Eの記載はないが、これは「C他二名」とすべきところを「他二
名」を書き落したものと解せられるから、所論は理由なく排斥を免れない。
 同第四点、第五点、第八乃至一二点について。
 しかし、本訴の訴訟物は共有権にもとづく妨害排除請求権であることは明らかなところ、上告人らは九分の
七の持分きり有しないのであるから、本件各移転登記の有効無効ならびにその登記原因の有効無効に係り
なく、九分の七の持分についてのみ抹消請求(更正登記請求)ができるに過ぎず、全部抹消請求権は存しな
いというべきであるから、所論は判決に影響を及ぼす違法の主張と認められず、排斥を免れない。
 同第六点について。
 適法な呼び出しを受けながら当事者が判決言渡期日に出頭しない場合に、期日に言渡が延期され次回言
渡期日が指定告知されたときは、その新期日につき不出頭の当事者に対しても告知の効力を生ずること、当
裁判所の判例とするところである(昭和三二年二月二六日第三小法廷判決、集一一巻二号三六四頁参
照)。所論は、これと異る見解に立脚して原判決に違法がある如く主張するものであつて、採用しえない。
 同第七点について。
 所論「各」は無用の文字を挿入しただけであつて、これによつて主文の不明瞭や齟齬を来たすものとは認
められない。所論は排斥を免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。


昭38・4・8東京高判 父母を同じうする兄弟姉妹関係の不存在確認請求と確認の利益
東京高等裁判所?? ?? 第一二民事部
嫡出兄弟姉妹関係不存在確認請求事件
主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事    実
 控訴人らは「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、
二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判
決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、被控訴人らにおいて甲第六ないし八
号証(各証に付記した者の写真)を提出し、当審における証人Aの証言を援用し、
控訴人らにおいて甲第六ないし九号証が被控訴人ら主張のような写真であることは
知らないと述べた外は、原判決の事実摘示と同一である(ただし原判決二枚目表一
一行目被告Bとあるのは被告Cと訂正する)からこれを引用する。
         理    由
 原判決の認定資料及び当審における証人Aの証言によれば、被控訴人らは亡Dと
その妻亡Eとの間に、被控訴人ら主張の日にそれぞれ出生した嫡出子であり、控訴
人Cは大正一五年三月一六日、同Fは昭和七年一月一五日に同じくDとEとの間に
出生した子である旨戸籍に登載されているが、実際は控訴人らはDとEとの間に出
生したのではなく、Dと亡Gとの間に出生したもので、右戸籍の記載は真実に反す
る届出に基づくものであることを認めることができるのであり、原審における証人
Hの証言及び被告C本人尋問の結果も右認定を動かすに足りないし、他に反証はな
い。
 <要旨>そうすると、被控訴人らはDとEの嫡出子であるが、控訴人らはDとEの
嫡出子ではないから、双</要旨>方の間には嫡出の兄弟姉妹関係は存在しないことに
なる。
 ところで、兄弟姉妹関係は親族法上の身分関係で、それに各種の法律効果を認め
られているから、一つの法律関係である。それは親子関係を基礎とするものではあ
るが、それと別個に兄弟姉妹関係の存否を争うことももとより許さるべきである。
 本件においては、当事者双方ともDの子であり、兄弟姉妹関係のあることには何
ら争いがないのであつて、ただ控訴人らがDの妻Eの子であるかどうか、すなわち
被控訴人らと控訴人らとの間に嫡出の兄弟姉妹関係があるかどうかの点だけが争い
となつている。しかし父を同じうする兄弟姉妹においても、母をも同じうすると否
とによつて、相続等法律上の権利義務に差異を生ずることはいうまでもない。本件
の場合控訴人らがEの子でないとすれば、Dの遺産についてはその相続分は被控訴
人らの二分の一であり、Eの遺産については相続の権利がない。たとえば両名の遺
産について現在は問題がないとしても、将来被控訴人らのうちだれかが直系卑属な
く死亡したような場合には、控訴人ら及び他の被控訴人らがその遺産相続人となる
こともあるべく、その際にも両者の相続分には差異がある。
 このような場合に、被控訴人らにとつて、争いのある右法律関係の確定を求め、
戸籍上の訂正を求めることは当然の権利に属することであり、控訴人らがEの子で
はないことを理由として、被控訴人らの間に嫡出兄弟姉妹関係のないことが裁判上
確定されれば、これにより戸籍上の前記の誤つた記載の訂正を求めることができる
から、この点において被控訴人らは本訴につき確認の利益を有するというべきであ
る。(なお、控訴人らが昭和三五年三月一三百分籍届をして新戸籍に入り、さらに
控訴人Fにおいては昭和三六年三月一六日Iとの婚姻により同人を筆頭者とする戸
籍に入つていることは、成立に争いのない甲第一ないし三号証及び弁論の全趣旨に
より認められるが、控訴人らが戸籍上Eを母としている旨記載されていることには
変りがないので、このために被控訴人らが戸籍訂正を求められなくなつたとはいえ
ない。)
 控訴人らは被控訴人らの本訴請求をもつて、権利の濫用ないし信義則違反である
と主張するが、これが元来被控訴人らの当然の権利の行使であることは前記のとお
りであつて、控訴人らが出生してから長い年月が経過しており、Eが生前この事情
を知りながら何らの処置もとらなかつた(原審における原告J本人尋問の結果によ
り認められる)ことを考慮しても、権利の濫用でぃるとか、信義誠実の原則に違背
するものであるとすることはできない。
 そこで、被控訴人らの本訴請求は正当として認容すべきであり、これと同旨の原
判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴
訟法第九五条第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。


昭39・2・27最判 相続回復請求権に関する20年の時効の起算点
第1小法廷判決(名古屋高等裁判所)
建物収去土地明渡請求事件(上告棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人田中一男の上告理由第一乃至第四(摘示要旨第一点乃至第三点)について。
 所論は、亡足立正雄が亡足立きんの遺産を全部相続したと誤解した旨の原判決の認定は証拠に基づかない
違法があり、また、右正雄の誤解だけでは同人の内心の意思だけにとどまり未だ相続権侵害の事実はなきの
みならず、右正雄が所有の意思を以て本件土地を管理していたものと認められない以上、相続権侵害は存在し
ないのに、本件土地について右正雄による相続権侵害の存在を認めた原判決には、審理を尽さず相続回復請
求権に関する法の解釈適用を誤つた違法があると主張する。
 しかし、原判決の認定するところによれば、亡足立正雄が亡足立きんの死亡により遺産相続があつたことは
全然考えず、本件土地を含めて足立きんの全遺産を家督相続により取得したものと誤解して、足立潔の父及
び祖父を補助者として本件土地を管理使用して来たというのであり、右認定は原判決挙示の証拠関係に照し
て首肯できないことはない。そして、所謂表見相続人により相続権を侵害されたとして相続回復請求権を行使
するには、右表見相続人に於て相続権侵害の意思あること及び所有の意思を以つて相続財産を占有すること
を要せず、現に相続財産を占有して客観的に相続権侵害の事実状態が存在すれば足りると解するを相当とす
る。しからば、右正雄に相続権侵害の事実ありと認定判断した原判決には、所論違法は認められず、所論は
ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用できない。
 同第五(摘示要旨第四点)について。
 所論は、原判決は本件相続回復請求権の消滅時効の起算点につき審理を尽さず、法の解釈適用を誤つた
違法があると主張する。
 しかし、旧民法九六六条、九九三条(民法八八四条)の相続回復請求権の二〇年の時効は、相続権侵害の
事実の有無に拘らず相続開始の時より進行すると解すべきことは、当裁判所の判例(昭和三三年(オ)第一号
同年一一月六日第二小法廷判決民集二巻一二号三九七頁参照)とするところである。本件について見るに、
河津とめの相続権はその相続の当初より足立正雄に侵害され、その侵害の状態が引き続き爾後の相続人に
及んでいると認定されていること叙上のとおりであるから、正雄が爾後の相続人の相続権を侵害しているとして
も、新たな侵害が存在するわけではなく、とめの相続人中村静子以後上告人に至るまでの相続人らの相続回
復請求権の消滅時効期間二〇年の起算点は、足立きんの死亡により正雄及びとめの相続が開始した時であ
るとした原判決の判断は正当であつて、所論違法は認められない。所論は独自の見解に立つて原判決を非難
するものであつて、採用できない
 その余の論旨(同第六、補充第一乃至第三)について。
 所論は、上述主張をくり返し敷衍し、或は原審の認定判断を得ない事実を主張して、原審のなした証拠の取
捨判断、事実認定を非難するに帰し、すべて採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭和39・3・6最判 遺贈による所有権移転登記
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
第三者異議
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人石田市郎の上告理由について。
 原審の確定したところによれば、亡Aは昭和三三年六月一一日付遺言により本件不動産をB外五名に遺
贈し、右遺贈は同月一七日Aの死亡により効力を生じたが、遺贈を原因とする所有権移転登記はなされなか
つたこと、被上告人は、同年七月一〇日Aの相続人の一人であるCに対する強制執行として、右相続人に代
位し同人のために本件不動産につき相続による持分(四分の一)取得の登記をなし、ついでCの取得した右
持分に対する強制競売申立が登記簿に記入されたというのである。
 ところで、不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続をしない間は完全に排他性
ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ(当裁判所昭和三元年(オ)
一〇二二号、同三三年一〇月一四日第三小法廷判決、集一二巻一四号三一一一頁参照)、遺贈は遺言に
よつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするもので
はあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるか
ら、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他
的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法一七七条が広く物権の得喪変更について登記
をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合に
おいても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべ
きである。しかるときは、本件不動産につき遺贈による移転登記のなされない間に、亡Aと法律上同一の地
位にあるCに対する強制執行として、Cの前記持分に対する強制競売申立が登記簿に記入された前記認定
の事実関係のもとにおいては、競売中立をした被上告人は、前記Cの本件不動産持分に対する差押債権者
として民法一七七条にいう第三者に該当し、受遺者は登記がなければ自己の所有権取得をもつて被上告人
に対抗できないものと解すべきであり、原判決認定のように競売申立記入登記後に遺言執行者が選任せら
れても、それは被上告人の前記第三者たる地位に影響を及ぼすものでないと解するのが相当である。
 従つて、原審が、前記認定の事実に基づき、被上告人が民法一七七条の第三者に該当し、受遺者は自己
の所有権取得をもつて被上告人に対抗できないとした判断は正当であり、所論は、独自の見解に立ち原判
決を非難するに帰するものであつて、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭39・4・14名古屋高判 遺言執行者選任審判取消審判に対する即時抗告事件
名古屋高等裁判所?? 金沢支部?? 第二部
遺言執行者選任審判取消審判に対する即時抗告事件
 主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の趣旨及び理由は、本決定書末尾添附の別紙記載のとおりであるが、そ
の理由の要旨は、原審判により取り消された審判は、金沢家庭裁判所が昭和三八年
一月二一日抗告人を遺言者亡Aの遺言執行者に選任した審判であるところ、これに
対する不服申立方法は、二週間内になすべき即時抗告のみが許され、右抗告期間経
過後は、同裁判所において、自らこれを取り消し、又は変更し得ないのに拘らず、
その利害関係人であるBは、右抗告期間を遥かに経過した昭和三九年初頃に至り、
始めて右遺言執行者選任審判の取消を、抗告裁判所でない右審判裁判所に申し立
て、これを認容して、同裁判所が原審判により、自ら右選任審判を取り消したので
あるから、原審判は家事審判法及びその準用する非訟事件手続法等の法律の適用を
誤つたものとして、到底取消を免れない、というのである。
 よつて先ず、本件抗告申立の適否を検討するに、本件抗告の対象は、遺言執行者
選任審判の取消審判である<要旨第二>から、実質上家事審判規則第一二六条第二項
にいわゆる遺言執行者の解任の審判と同視すべきものであり、そ</要旨第二>の遺言
執行者である抗告人が法定の期間内に申し立てた本件即時抗告の申立は、適法とい
わなければならない。そこで進んで所論を検討するに、本件記録及び取寄記録(金
沢家庭裁判所昭和三八年(家)第二六号事件記録)を総合すれば、遺言者Aは、昭
和二二年一一月一一日その所有にかかる田地等をCことA(襲名)に遺贈し、且つ
Dを遺言執行者に指定する旨の公正証書による遺言をなし、翌二三年四月二五日死
亡したので、右受遺者がその所有者となり、右Dが遺言執行者となつたこと、原審
判の申立人Bは、その後昭和二五年頃右受遺者から右田地の一部を買い受け、知事
の許可を得て、その代金を完済し、爾来自己のため、右土地を所有し且つ占有して
来たが、これが所有権移転登記を受け得ないでいること、右遺言執行者Dは、永く
その任務を尽くさなかつたため、金沢家庭裁判所小松支部昭和三六年(家)第一一
号審判により解任され、同庁昭和三七年(家)第二五号審判により、新たにEが遺
言執行者に選任され、同人により右田地売買が追認されたこと、受遺者CことA
は、右事実を秘して金沢家庭裁判所(本庁)に対し、自己の妻である抗告人を右解
任後曠欠中の遺言執行者に選任されたい旨申し立て、同庁昭和三八年(家)第二六
号審判により、右申立どおり、抗告人が遺言執行者に選任されたため、その遺言執
行者が二名となつたこと、よつて同裁判所は、前記田地買受人Bの申立に基づき、
抗告人を遺言執行者にしておく必要がないも<要旨第一>のと認め、原審判により、
同人を選任した右審判を取り消したこと、を各認定するに十分である。およそ遺
言</要旨第一>執行者選任の審判に対しては、家事審判法第一四条家事審判規則第一
二〇条以下の第一〇節において、利害関係人等に対し、即時抗告その他の不服申立
を許さず、これに不服ある者は、専ら家事審判法第七条非訟事件手続法第一九条第
一項に基づき、職権の発動による取消又は変更を促し得るに過ぎないものと解すべ
きところ(高裁民集七巻三五六頁以下所載東京高裁昭和二九、五、七決定。同巻三
七一頁以下所載名古屋高裁昭二九、二、二五決定。同一〇巻三二八頁以下所載東京
高裁昭三二、七、二四決定。同巻三六〇頁以下所載広島高裁松江支部昭三二、七、
二三決定。家庭月報五巻四号一〇五頁所載東京高裁昭二七、四、二八決定。同八巻
一一号二一三頁所載戸籍協議会決議等参照)、右Bによる遺言執行者の重複選任審
判の取消を求める申立は、右法条による原家庭裁判所の職権の発動を促すに過ぎな
いものであるから、その適否を論ずる実益を有しないものであるし、また叙上認定
の事実関係のもとにおいて、右遺言執行者の重複選任の審判を取り消した同裁判所
の措置には、特に違法又は不当視すべきものが存しないから、職権の発動を誤つた
ものとも云い得ない。然らば右遺言執行者の重複選任審判を取り消した原審刊に
は、いささかも違法がない。所論は家事審判法第一四条により、右遺言執行者の重
複選任審判に即時抗告のみが許されるとの誤つた見解を前提とし、右重複選任審判
の取消を求める申立に、即時抗告期間を経過し、且つ審級を誤つた違法ありとな
し、また原裁判所の措置に、家事審判法の準用する非訟事件手続法第一九条第三項
等の法律違反があると非難するのであつて、採用の限りではない。論旨は理由がな
い。
 その他原審判には、これを取り消すべき違法又は不当の廉が存しないから、家事
審判規則第一八条家事審判法第七条非訟事件手続法第二五条民事訴訟法第四一四条
第三八四条に則り、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

昭39・10・21東京高判 遺産分割前に処分された相続財産の分割
東京高等裁判所?? ?? 第十二民事部
遺産分割の審判に対する即時抗告事件
主    文
     原審判を取り消す。
     本件を浦和家庭裁判所熊谷支部に差し戻す。
         理    由
 抗告人らは、主文同旨の決定を求め、その理由は別紙記載のとおりである。
 一、 抗告理由(一)について、
 原審判は、第二物件の二分の一の持分権のみが遺産であつて分割の対象となり、
Aを除く抗告人らは各自右の遺産に対し相続分を有していることを認めながら、同
抗告人らは右の遺産に対し相続分を受けとることができないと判断し、その理由と
して、被相続人が同物件を抗告人らの相続分にかゝわらず、相手方に取得させる意
思表示があつたと判示している。かゝる被相続人の意思表示は審判の理由に記載す
るところによれば贈与であると解されるので、そうだとすれば同物件は相続財産と
ならないわけであつて、前記認定と矛盾し、また、相続財産であるとすれば右抗告
人らに相続分を与えない根拠が明らかでない。したがつて、この点に関する原審の
理由は矛盾があるか、又は、不備である。 二、 抗告理由(四)について、
 <要旨>相続財産につき相続人のうちのある者が遺産分割前に勝手にこれを処分し
たときは、その財産に代り同人に</要旨>対する代償請求権が相続財産に属すること
となり、これが分割の対象となると解するのが相当である。ところで、埼玉銀行株
式九百株は相続財産に属したところ相手方Bが勝手に処分したことは、原審判の認
定したところであるから、その代償請求権を分割の対象に加えなければならない。
右に反する原審判の判断は失当である。
 三、 したがつて本件即時抗告は理由があるのでその余の抗告理由の判断を省略
し家事審判規則第一九条第一項により主文のとおり決定する。

昭39・12・18大阪高判 移送審判の当否
大阪高等裁判所?? ?? 第九部
移送審判に対する即時抗告事件
主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 一、 本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。
 二、 当裁判所の判断。
 (一) 一件記録によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、
 (1) 抗告人は亡Aの長男であるところ、Aは昭和三三年一一月三〇日抗告人
肩書住所て死亡した。
 (2) Aの相続人は、抗告人のほか、その妻であるB、その二女であるC、お
よびその三女であるDの四名であるが、現在、BおよびCは大阪市a区b町c丁目
d番地に、また、Dは鳴門市e町f字g町h番地にそれぞれ居住している。
 (3) 抗告人は、B、C、およびDを相手方として原裁判所に対し、昭和三九
年七月三一日本件遺産分割調停の申立てをしたところ、原裁判所は同年八月二九日
家事審判規則四条一項によりこれをBおよびCの任所地を管轄する大阪家庭裁判所
に移送する旨の審判(原審判)をした。
 (二) ところで、抗告人は、被相続人であるAの住所地ならびに相続開始地は
ともに抗告人肩書任所地と同一であり、本件は家事審判規則九九条、民訴一九条に
より抗告人肩書住所地の家庭裁判所である原裁判所の管轄に属するものであるとこ
ろ、原裁判所が特段の事情もないのに、同規則四条一項但書の規定を適用して、本
件を管轄権のない大阪家庭裁判所に移送したのは不当である旨主張する。しかしな
がら、本件のようないわゆる家事調停事件が相手方の住所地または当事者が合意で
定める家庭裁判所の管轄に属することは同規則一二九条の明定するところであり、
これが、抗告人の主張するように、被相続人の住所地または相続開始地の家庭裁判
所の管轄に属するものでないことは右規定に照らして明白である。したがつて、原
裁判所を管轄家庭裁判所とすることの合意の存在を認めるに足る別段の資料のない
本件においては、その管轄家庭裁判所は、相手方である前記B、同Cの住所地を管
轄する大阪家庭裁判所、もしくは、前記Dの住所地を管轄する徳島家庭裁判所であ
つて、原裁判所はこれにつき管轄権を有しないものといわなければならない。とこ
ろで、管轄権のない家庭裁判所が、事件の申立てを受けた場合、これを管轄家庭裁
判所に移送しなければならないことは同規則四条一項本文の定めるところであるか
ら、原裁判所が本件を管轄権のある大阪家庭裁判所に移送したのはもとより相当で
あるといわなければならない。抗告人の右主張は、家事調停事件の管轄の規定を誤
解したことによるものというべく、採用に由ないものである。
 なお、抗告人は、本件は、抗告人と前記相手方三名間に、前記Aの遺産について
さきに昭和三八年五月二四日成立した遺産分割の調停(原裁判所同年(家イ)第二
〇号事件)に記載もれの残余の分に関するもので、その大部分が兵庫県三原郡南淡
町に存在するのであるから、当然原裁判所において調停手続を進めるべきものであ
るのにかかわらず、原裁判所が右実情を無視し、本件を大阪家庭裁判所に移送した
のは不当である旨主張する。なるほど、同規則四条一項但書によれば、管轄権のな
い家庭裁判所は、事件処理<要旨>のため特に必要があると認めるときはみずから処
理することができる旨定められているけれども、右自庁</要旨>処理について即時抗
告を認める明文の規定もないことに鑑みると、右必要性の有無の判断は、当該家庭
裁判所の専権に属し、自庁処理は勿論自庁処理をしないことについても不服申立を
許さない趣旨であるというべく、したがつて、事件の申立てを受けた管轄権のない
家庭裁判所が、自庁処理の必要性がないとして右規則四条一項本文に則り、管轄家
庭裁判所に事件を移送する旨の審判をした場合、当事者が、自庁処理の必要性のあ
ることを理由としてなす即時抗告の申立は、それ自体理由がないと解するのが相当
である。
 そうであるから、本件の場合、かりに抗告人主張のような事情があるとしても、
これをもつて原審判に対する不服申立ての事由となし得ないことは上記の通りであ
るから、抗告人の右主張も採用できない(もつとも、移送の審判があつても、それ
が管轄違いを理由とするものである場合、移送を受けた家庭裁判所は、右と別個の
理由、即ち事件の処理上適当であるとの理由により、他の家庭裁判所にさらに移送
することができるものと解すべきであるから、抗告人主張のような事情があれば、
本件の移送を受けた大阪家庭裁判所においてこれを考慮し、将来本件を原裁判所に
再移送することもあり得ようが、このことは、もとより本件と別個の問題であり、
それあるが故に抗告人の主張を正当とすることができないのはいうまでもない。)
 (三) よつて、主文のとおり決定する。

昭40・2・2最判 保険金受取人を相続人と指定した場合の保険金の性質
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所 )
保険金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人日野魁の上告理由第一、二点について。
 所論は、原判決の法令違反を主張するけれども、原判決が、本件養老保険契約において、当事者が保険
金受取人を相続人と定めたことにつき、右相続人とは保険金請求権発生当時の相続人を指定したものであ
つて、本件包括受遺者たる控訴人(上告人)を指定する趣旨ではない旨認定したことを非難するに帰するも
のである。そして原判決の右判示は、その挙示する事実関係、証拠関係からこれを肯認し得るところであつ
て、原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を主張して、原審の適
法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、または判決に影響を及ぼさない事項について原判決
を非難するに帰し、すべて採るを得ない。
 同第三点について。
 所論は、養老保険契約において保険金受取人を保険期間満了の場合は被保険者、被保険者死亡の場合
は相続人と指定したときは、保険契約者は被保険者死亡の場合保険金請求権を遺産として相続の対象とす
る旨の意思表示をなしたものであり、商法六七五条一項但書の「別段ノ意思ヲ表示シタ」場合にあたると解す
べきであり、原判決引用の昭和一三年一二月一四日の大審院判例の見解は改められるべきものであつて、
原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があると主張するものであるけれども、本件養老保
険契約において保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者
死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思
を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であ
り、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の
相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であ
つて、前記大審院判例の見解は、いまなお、改める要を見ない。そして右の如く保険金受取人としてその請
求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時
に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならな
い。然らば、他に特段の事情の認められない本件において、右と同様の見解の下に、本件保険金請求権が
右相続人の固有財産に属し、その相続財産に属するものではない旨判示した原判決の判断は、正当として
これを肯認し得る。原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難
するものであつて、採るを得ない。
 同第四点について。
 所論は、上告人が原審において口頭弁論期日の再開申請をなしたにもかかわらず、原審が右再開をしな
かつたことを非難するものであるけれども、終結した口頭弁論期日を再関するか否かは、原審の裁量に属す
ることであるから、原審の右措置に何らの違法は存せず、論旨は、採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭40・5・21広島高判 遺留分回復の訴えの訴訟物等
広島高等裁判所?? 岡山支部?? 第二部
所有権移転登記手続等請求事件
主    文
     一、 原判決のうち控訴人の金員支払の請求を却下した部分を取り消
し、同部分および当審において拡張申立てのなされた金員支払の請求につき、本件
を岡山地方裁判所高梁支部に差し戻す。
     二、 その余の部分に対する控訴を棄却する。
     三、 前項の部分に関する控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 一、 控訴人の申立て
 「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、原判決添付目録記載の土地につ
き持分四分の一の所有権移転登記手続をなし、また一七一万四、六九〇円および内
金一〇〇万三、五七二円に対する昭和二六年九月一日より、内金二万八、七〇〇円
に対する同二七年一月一日より、以下いずれも各内金五万〇、一八六円に対する同
二八年ないし同三七年の毎年一月一日より、以下いずれも各内金六万〇、一八六円
に対する同三八年および同三九年の毎年一月一日より、各完済に至るまで年五分の
割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被控訴人の負担とする」との判決ならび
に金員請求部分につき担保を条件とする仮執行の宣言を求める。
 二、 控訴人主張の請求原因
 1、 控訴人は訴外亡Aの長女であり、被控訴人は控訴人の妹Bの夫である。A
は生前、原判決添付目録記載の土地(以下、本件土地という)を所有していたが、
昭和二六年一二月七日に死亡した。相続人は控訴人とBの二人だけであつたが、本
件土地はAの死亡前一年内に同女から被控訴人に贈与されたものとして、左記のと
おり登記を経由した。
 イ、 前記目録記載の91011の山林につき、昭和二六年三月一四日岡山地方
法務局北房出張所受付け三四七号、同月一三日贈与による所有権移転登記
 ロ、 同目録記載のその余の田畑につき、同年五月二八日同出張所受付け六三七
号、同月一三日贈与による所有権移転登記
 控訴人は前記の身分関係に基づき、遺留分として、Aの財産の四分の一の額を受
けるべきところ、なんらその配分に与つていない。
 2、 控訴人は前記贈与の事実を翌二七年四月初め頃に知つたが、本件土地はA
の全財産であり、同女には負債もなかつたので、結局、控訴人の遺留分は、被控訴
人に贈与された本件土地の価額の四分の一となる。そこで控訴人は、右贈与の事実
を知つて即日、また同年一〇月頃に重ねて、被控訴人に対し、右の限度において贈
与の減殺を請求し、本件土地に対する持分四分の一の所有権を回復した。
 3、 しかるに、被控訴人はこれを無視して本件土地の独占を継続しているの
で、これに対する持分四分の一の所有権移転登記手続と、左記イないしニの全員合
計一七一万四、六九〇円およびこれに対する控訴の趣旨記載のとおりの民事法定利
率による遅延損害金の支払とを求める。
 イ、 二万八、七〇〇円。本件土地のうち田七筆、畑一筆の天然果実(田につい
ては米と裏作の小麦。畑については大豆と麦)である昭和二六年度実収益高の四分
の一
 ロ、 五〇万一、八六〇円。右田畑八筆の天然果実である昭和二七年度より同三
六年度までの実収益高(年平均五万〇、一八六円)の四分の一
 ハ、 一八万〇、五五八円。右田畑八筆の天然果実である昭和三七年度より同三
九年度までの実収益高(年平均六万〇、一八六円)の四分の一
 ニ、 一〇〇万三、五七二円。
 a、 本件土地のうち山林三筆に生立する立木を被控訴人が昭和二七年頃に無断
で伐採・売却し、控訴人に加えた損害の填補賠償。当該立木の価額合計八〇万八、
一〇五円の四分の一
 b、 右山林三筆に生立する立木を被控訴人が昭和三三年頃に無断で伐採・売却
し、控訴人に加えた損害の填補賠償。当該立木の価額合計三二〇万六、一八四円の
四分の一
 三、 被控訴人の答弁
 請求原因1は認める。同2は否認。控訴人は昭和二六年一〇月頃にAから本件土
地が被控訴人に贈与されたことを聞いて知つている筈である。同3につき、イ、
口、ハの実収益高を争う。年平均の収穫高は反当り六俵にすぎない。ニのa、bの
立木伐採の事実は認めるが、その余は否認する。当時の立木(材木)価格は石八〇
〇円、伐採石数は約二〇〇石である。
 四、 証拠
 1、 控訴人は甲一ないし五号証を提出し、原審証人Cの証言を援用した。
 2、 被控訴人は甲一、三、四、五号証の成立は不知と述べたが、同二号証につ
いては認否しない。
         理    由
 一、 本件の訴えの適否について
 1、 前訴の経過
 職権をもつて調査するのに、控訴人の本訴請求については、さきにこれに関連す
る訴えが提起され、一審における終局判決後、控訴審においてその取下げがなされ
た事実が認められるが、岡山地裁高梁支部昭和三二年(ワ)一五号(広島高裁岡山
支部同三四年(ネ)一四二号、最高裁同三七年(オ)三七〇号)遺留分減殺請求事
件の確定記録によると、その経過は次のとおりである。
 イ、 昭和三二年九月二七日、控訴人は被控訴人に対し、本件土地につき「控訴
人が四分の一の持分を有することの確認および右持分の所有権移転登記手続」を求
め、高梁簡裁同年(ハ)七八号遺留分減殺請求事件として同裁判所に係属した。控
訴人はその後、請求の趣旨を「二分の一の持分を有することの確認および右持分の
所有権移転登記手続」の請求に拡張し、これにより同事件は岡山地裁高梁支部に移
送されたが、その請求原因は、本件におけると同様、「控訴人は亡Aの長女とし
て、被控訴人の妻Bとともに、その遺産相続人であるが、Aの死亡による相続の開
始前一年内に、同女の所有財産である本件土地が被控訴人に贈与された旨の登記が
経由され、これによると控訴人の遺留分が侵害されるので、控訴人は右事実を知る
や、ただちに被控訴人に対して遺留分減殺の請求をし、本件土地に対する持分二分
の一の所有権を回復したので、その確認および所有権移転登記手続を求める」とい
うのである。
 右請求は昭和三四年九月一八日、同高梁支部の判決により棄却された。
 ロ、 控訴人はこれを不服として控訴の申立てをしたうえ、控訴審たる当庁にお
いて請求の趣旨および原因を変更し、第一次的には、前記贈与を無効(不存在)で
あると主張して、「被控訴人に対する所有権移転登記の抹消登記手続、被控訴人の
地上立木伐採による損害賠償金二〇三万余円および右土地の天然果実返還金五五万
余円等の支払」を求め、予備的に、従前の遺留分減殺の主張を維持して「持分二分
の一の所有権移転登記手続および右同様の全員の支払」を求めた。右は控訴審にお
ける準備手続の結果ようやく到着した結論であつて、この間、控訴人は控訴提起の
当初より請求(控訴)の趣旨および原因を変更する旨の書面をしばしば提出し、こ
れによると、控訴人は一審における所有権確認請求を取り下げて、新たに抹消登記
および金員の支払請求を追加したものであることが明らかであるが、被控訴人はこ
れら書面の送達(控訴状は昭和三四年一二月一二日、その余は翌三五年六月、八
月、九月に到達)後なんら異議を述べるところがなく、控訴人申立ての請求の趣旨
および原因は、一応、同年九月二七日の準備手続期日において前述の内容に確定し
た(果実返還金はその後六〇万余円に増額された)。
 しかるに、控訴人はその後、翌三六年二月二五日付け準備書面(確定記録三七五
丁以下)をもつて、予備的請求を取り下げる旨を申し立て、該書面はその頃、被控
訴人に送達されたが、被控訴人はこれについても異議を述べなかつた。予備的請求
の取下げの趣旨は、控訴人が重ねて提出した同年五月九日付け準備書面(確定記録
三九六丁)の記載に徴しても、疑問の余地がない。
 ハ、 以上によると、控訴人は当初、一審において、a所有権確認とb所有権移
転登記手続を請求して、請求棄却の本案判決を受けたのち、控訴審において、おそ
くとも昭和三五年一二月末頃にa所有権確認請求を、また翌三六年六月初め頃にb
所有権移転登記手続請求を、順次、取り下げたものというべく(なお、前記の「予
備的請求」として掲げられたもののうち金員の支払に関する部分は、第一次的請求
のうち金員の支払に関する部分と、結局、同一の請求と認められる)、第一次的請
求のみが係属することとなつたが、右は翌三七年一月二二日当庁の判決により棄却
され、控訴人は上告して争つたが、翌三八年三月一日最高裁判所第二小法廷判決に
より棄却されて確定した。
 2、 本訴の提起と民訴二三七条二項による再訴の禁止
 イ、 本件の訴えの訴訟物について
 控訴人の本訴における請求は、本件土地に対する持分四分の一の所有権移転登記
手続、本件土地のうち田畑より生ずべき天然果実(金員)の返還、本件土地のうち
山林地上に生立した立木の無断伐採による損害の賠償およびこれらの金員に対する
遅延損害金の支払を求めるもので、その根拠が遺留分の侵害による贈与の減殺請求
にあることは疑いを容れない。そして法律は「減殺を請求する」(民一〇三一条
等)といい、また「減殺の請<要旨第一>求権」(民一〇四二条)あるいは「遺留分
回復の訴」(民一〇〇三条)なる用語を用いるが、遺留分の減殺請求権</要旨第一>
は裁判外で行使されるべき実体法上の形成権であつて、その行使により贈与または
遺贈は、遺留分を侵害する範囲において遡及的に効力を失い、目的物の権利は当然
に遺留分権利者に復帰するものと解すべく(民法が原則として原物返還主義をとつ
たことは、かかる解釈によつて正当化されるともいえよう)、右により復帰した所
有権に基づく目的物の返還請求ないしは受贈者に対する所有権移転登記の抹消請求
等が、前記にいわゆる「遺留分回復の訴」の訴訟物であつて、かかる個々の具体的
請求を離れて、抽象的ないしは包括的な「遺留分減殺の請求」が訴訟物として存在
するわけではない。
 これを本件についてみれば、控訴人の本訴請求の第一は、所有権(持分)の復帰
に基づく移転登記の請求であり(抹消登記を求めるか移転登記を求めるかは、しば
しば、便宜ないしは政策の問題にすぎない)、その第二は天然果実(金員)の返還
である。控訴人は本件土地のうち田畑八筆より生ずる天然果実の返還を求めるとい
うが、その現実に訴求するところは金員の支払であつて、金銭が土地の天然果実で
ないことは言をまたない。
 控訴人の訴旨とするところは、結局、田畑より生ずべき天然果実(米、麦、大豆
等)の代価の償還にあること<要旨第二>が明らかである。そして民法一〇三六条
は、受贈者において「減殺の請求があつた日以後の果実」を返還すべ</要旨第二>き
ものとするが、同条は、がんらい、悪意占有者の果実返還義務および消費した果実
等の代価の償還義務を規定した同法一九〇条一項の特則であつて、減殺請求の意思
表示の日をもつて受贈者が悪意の占有者となつた時とみるところに、同条の規定の
趣旨があるものと解されるから、遺留分権利者は民法一〇三六条・一九〇条により
減殺請求の日以後の果実の代価の償還を求めうるものというべきである(これを別
異に解すれば、減殺請求の日以後の果実所有権の侵害による損害賠償または不当利
得の返還請求を認めるべきこととなろう)。したがつて、この点に関する控訴人の
請求は、遺留分の減殺による所有権(持分)の復帰を前提として、本件土地より生
ずる果実の代価の償還を求めるものと解される。その第三は、地上立木の伐採によ
る損害賠償の請求であるが、これが遺留分減殺による所有権(持分)の復帰を前提
とすることは改めていうまでもない。
 要するに、控訴人の本訴における請求は、いずれも、遺留分減殺によつて控訴人
に復帰した所有権に基づくか、またはこれを前提とするものであるが、請求それ自
体は、個別的な所有権(持分)移転登記手続、果実の代価償還ないし損害賠償の請
求であることが明らかであり、この点は、さきに「遺留分減殺請求事件」として出
発した前訴の一審にあらわれた請求および二審における「予備的請求」について
も、同様である。
 ロ、 所有権移転登記手続に関する部分について
 民訴二三七条二項によると、本案の終局判決を受けたのち訴えを取り下げた者
は、さらに同一の訴えを提起することができない。そして控訴人は、前述のよう
に、本件土地につきa所有権の確認およびb所有権移転登記を訴求し、請求棄却の
本案判決を受けてのち、これを取り下げた者であるから、前訴の取下げにも拘らず
再訴を必要とするという特段の事情の変化がないかぎり、請求原因を同じくする同
一の請求を提訴することは許されないことになる。控訴人が本訴において被控訴人
に求める所有権移転登記手続は、前訴におけると請求原因を同じくし、ただ請求の
内容が分量的に小である(前訴では持分二分の一につき請求し、本訴では持分四分
の一につき請求する)というにとどまるから、控訴人の本訴請求のうち、所有権移
転登記手続に関する部分は、前記特段の事情につき主張・立証のない以上、民訴二
三七条二項の明文に反するものとして却下を免れない。
 ハ、 金員の支払請求に関する部分について
 前訴において控訴人は、本件土地がその所有であることを前提として、「本件土
地のうち、田畑の天然果実の返還金五五万余円および山林地上立木の不法伐採によ
る損害賠償金二〇三万余円等の支払請求」を控訴審において追加申立てしたが、本
件土地(持分)の取得原因として亡Aよりの相続を挙げ、被控訴人への生前贈与は
Aの意思に基づかないものでほんらい無効であるか、または控訴人の遺留分減殺に
より無効たるに帰したものである、と主張した(後段の主張はのちに撤回され
た)。右の金員請求は、前訴の一審判決後の申立てにかかるもので、もとよりこれ
に対する一審の終局判決はなく、控訴審における追加後は判決確定に至るまで申立
てを維持されたものである(控訴審において撤回されたのは、被控訴人への生前贈
与を否定するための主張の一部にすぎす、金員請求それ自体ではない)。
 したがつて、右金員請求に関する部分については、民訴二三七条二項による再訴
禁止の問題を生じない。
 ちなみに、控訴人は前訴において、a所有権の確認を訴求し、請求棄却の一審判
決後これを取り下げたものであるから、取り下げののち特段の事情の変化がないか
ぎり、所有権確認の再訴を提起することができず、またしたがつて、所有権の存否
を先決問題とする再訴を提起することも許されないとする所説が考えられないで<要
旨第三>はない。しかし、所有権確認の請求と所有権を前提とする果実代価の償還お
よび損害賠償の請求とは、訴訟</要旨第三>物を異にし、かかる請求をも含めて民訴
二三七条二項による再訴の禁止にあたると解することは、訴権を制限する同条項の
解釈として厳格に失すると考えられるので、当裁判所はこだを採らない(なお、前
訴一審判決は昭和三四年八月七日終結の口頭弁論に基づいてなされたものである
が、控訴人が本訴において主張する損害賠償請求権の発生時点はこれに先だち、天
然果実の発生時点はその前後にまたがつていることも留意さるべきであろう)。
 二、 当審における金員請求の拡張申立てについて
 1、 申立ての経過
 控訴人は当審において、本件土地のうち田畑の果実代価の償還請求につき、昭和
三七年度分を五万〇、一八六円より六万〇、一八六円に増加し、同三八年度分とし
て六万〇、一八六円を追加し(以上、昭和三九年二月一八日付け控訴の趣旨訂正申
立書による)、さらに同三九年度分として六万〇、一八六円を追加した(同年九月
一日付け控訴の趣旨訂正申立書による)。結局、当審において合計一三万〇、三七
二円の拡張申立てをしたわけである。
 2、 拡張申立てに関する取扱い
 <要旨第四>原判決は本訴を不適法として却下したものであるから、当審において
これを取り消す場合は、事件を原審に</要旨第四>差し戻すことを必要とする(民訴
三八八条)。したがつて、控訴人はもつぱら本訴の適否を抗争すべく、その請求を
分量的に拡張することは、控訴審における訴訟行為としては無意味というほかはな
い。しかし、一審判決の取消しをえた暁は、差戻し後あらためて請求の拡張をなし
うることは勿論であるから、控訴人があえて所定額の印紙を貼用して拡張の申立て
をする以上、これを違法と即断することは妥当でない(一審判決が維持されるとき
は、控訴審における拡張部分は同一の理由で却下されることとなろうが、これが取
り消された場合は、差戻し後の審判の対象として意味をもちうるからである)。し
かも、控訴審が事件を一審裁判所に差し戻しながら、分量的な拡張申立てのあつた
請求部分につき自ら審理判断するのが当をえないことは冗言を要しない。
 三、 結語
 以上により、原判決のうち、金員の支払請求を却下した部分は法律の適用を誤つ
たものとして取り消しを免れず、同部分および当審における金員請求の拡張申立部
分を原審に差し戻すべく、所有権移転登記手続の請求を却下した部分は相当である
ので、この点につき民訴三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決
する。

昭40・6・18最判 無権代理人が本人を相続した場合の無権代理行為の効力
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
土地所有権移転登記抹消登記手続請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人諏訪徳寿の上告理由について。
 原審の確定するところによれば、亡Aは上告人に対し何らの代理権を付与したことなく代理権を与えた旨を
他に表示したこともないのに、上告人はAの代理人として訴外Bに対しA所有の本件土地を担保に他から金
融を受けることを依頼し、Aの印鑑を無断で使用して本件土地の売渡証書にAの記名押印をなし、Aに無断
で同人名義の委任状を作成し同人の印鑑証明書の交付をうけこれらの書類を一括してBに交付し、Bは右
書類を使用して昭和三三年八月八日本件土地を被上告人Cに代金二四万五千円で売渡し、同月一一日右
売買を原因とする所有権移転登記がなされたところ、Aは同三五年三月一九日死亡し上告人においてその
余の共同相続人全員の相続放棄の結果単独でAを相続したというのであり、原審の前記認定は挙示の証拠
により是認できる。
 ところで、無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合において
は、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であり(大判・大正
一五年(オ)一〇七三号昭和二年三月二二日判決、民集六巻一〇六頁参照)、この理は、無権代理人が本
人の共同相続人の一人であつて他の相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合においても妥当
すると解すべきである。したがつて、原審が、右と同趣旨の見解に立ち、前記認定の事実によれば、上告人
はBに対する前記の金融依頼が亡Aの授権に基づかないことを主張することは許されず、Bは右の範囲内に
おいてAを代理する権限を付与されていたものと解すべき旨判断したのは正当である。そして原審は、原判
示の事実関係のもとにおいては、Bが右授与された代理権の範囲をこえて本件土地を被上告人Cに売り渡
すに際し、同被上告人においてBに右土地売渡につき代理権ありと信ずべき正当の事由が存する旨判断
し、結局、上告人が同被上告人に対し右売買の効力を争い得ない旨判断したのは正当である。所論は、ひ
つきよう、原審の前記認定を非難し、右認定にそわない事実を前提とする主張であり、原判決に所論の違法
は存しないから、所論は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭41・3・2最決 家審法9条1項乙類第10号の遺産の分割に関する処分の審判の合憲性
最高裁判所大法廷(大阪高等裁判所)
遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する抗告
主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         
理    由
 家事審判法九条一項乙類一〇号に規定する遺産の分割に関する処分の審判は、民法九〇七条二、三項
を承けて、各共同相続人の請求により、家庭裁判所が民法九〇六条に則り、遺産に属する物または権利の
種類および性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮して、当事者の意思に拘束されることなく、後
見的立場から合目的的に裁量権を行使して具体的に分割を形成決定し、その結果必要な金銭の支払、物
の引渡、登記義務の履行その他の給付を付随的に命じ、あるいは、一定期間遺産の全部または一部の分
割を禁止する等の処分をなす裁判であつて、その性質は本質的に非訴事件であるから、公開法廷における
対審および判決によつてする必要なく、したがつて、右審判は憲法三二条、八二条に違反するものではない
(最高裁昭和三六年(ク)第四一九号同四〇年六月三〇日大法廷決定、民集一九巻四号一〇八九頁、同昭
和三七年(ク)第二四三号同四〇年六月三〇日大法廷決定、民集一九巻四号一一一四頁参照)。
 ところで、右遺産分割の請求、したがつて、これに関する審判は、相続権、相続財産等の存在を前提として
なされるものであり、それらはいずれも実体法上の権利関係であるから、その存否を終局的に確定するに
は、訴訟事項として対審公開の判決手続によらなければならない。しかし、それであるからといつて、家庭裁
判所は、かかる前提たる法律関係につき当事者間に争があるときは、常に民事訴訟による判決の確定をま
つてはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく、審判手続において右前提事項の存
否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである。けだし、審判手続にお
いてした右前提事項に関する判断には既判力が生じないから、これを争う当事者は、別に民事訴訟を提起
して右前提たる権利関係の確定を求めることをなんら妨げられるものではなく、そして、その結果、判決によ
つて右前提たる権利の存在が否定されれば、分割の審判もその限度において効力を失うに至るものと解さ
れるからである。このように、右前提事項の存否を審判手続によつて決定しても、そのことは民事訴訟によ
る通条の裁判を受ける途を閉すことを意味しないから、憲法三二条、八二条に違反するのではない。
 以上のとおりであるから、本件において、前記憲法各条の違反をいう論旨は理由なく、また、論旨は、憲法
一三条、二四条違反をもいうが、その実質は違憲に名をかりて原決定の単なる法令違反を主張するにすぎ
ないものと認められるから、採用できない。
 よつて、民訴法八九条を適用し、主文のとおり決定する。
 この裁判は、裁判官山田作之助の意見があるほか、裁判官全員の一致した意見によるものである。
 裁判官山田作之助の意見は、次のとおりである。
 わたくしは、家事審判法九条一項乙類一〇号に規定する遺産分割に関する処分の審判が憲法三二条、八
二条に違反しないとする結論については多数意見と同じであるが、その理由は、多数意見のように、右審判
の本質が非訟事件であるからというのではなく、遺産分割の性質が家族団体の内部における構成員間の権
利義務に関する争であるところに求めらるべきものと考える。
 この見解については、多数意見が援用する昭和四〇年六月三〇日の当大法廷の二決定中で既に述べた
わたくしの意見とその理論的根拠を共通にするので、ここでは詳論を避ける。
 なお、多数意見によれば、遺産分割の審判の前提事項である相続権ないし相続財産等の存否に関して審
判中で決定がなされた場合でも、後に通常の民事訴訟を提起することを妨げないというが、わたくしの見解
によれば、かかる前提事項が家族団体内部の構成員であることにもとづく争である限りは、更に通常訴訟を
以て争い得るということには到底賛同し難い。


昭41・5・19最判 単独で占有する共有者に対する共有物の明渡請求
第1小法廷判決(東京高等裁判所)
土地所有権確認等請求上告事件(一部棄却 一部破棄自判)
主    文
 原判決中、被上告人らの建物明渡請求部分を破棄し、右部分の第一審判決を取り消す。被上告人らの上告
人に対する建物明渡請求を棄却する。
 その余の上告を棄却する。
 訴訟費用は、一・二・三審を通じ三等分し、その二を上告人の、その一を被上告人らの各負担とする。
理    由
 上告代理人小島成一、同平井直行の上告理由第一点ないし第三点について。
 原判決挙示の証拠によれば、原判決の認定した事実を肯認しえないわけではなく、右事実関係のもとにお
いては、前田兼吉において本件宅地買受当時内心において上告人に対し将来適当な時期に本件宅地を贈与
しようと考えていたが、その後当初の考えをかえて上告人に対しこれを贈与する意思をすてたから、本件宅地
の贈与はついに実現されず、かつ、本件建物についての贈与も認められないとする原判決の判断は、当審も
正当として是認しうる。
 原判決には、所論のような違法があるとは断じがたく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・判
断、事実認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第四点の第二・第三について。
 所論の点に関する事実認定は挙示の証拠により肯認でき、その事実関係のもとでは、本件宅地の所有者は
前田兼吉であつて、上告人でないとした原判決の判断は、正当であり、原判決には、所論のような違法はなく、
所論は採用しがたい。
 同第五点について。
 本件一件記録に徴しても、原審に所論のごとき違法があるとは認めがたく、所論は採用しがたい。
 同第四点の第一について。
 思うに、共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者
(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有す
る権限を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共
有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者
を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することが
できるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益
する権限を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分
権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し
立証しなければならないのである。
 しかるに、今本件についてみるに、原審の認定したところによれば前田兼吉の死亡により被上告人らおよび上
告人にて共同相続し、本件建物について、被上告人前田とらが三分の一、その余の被上告人七名および上告
人が各一二分の一ずつの持分を有し、上告人は現に右建物に居住してこれを占有しているというのであるが、
多数持分権者である被上告人らが上告人に対してその占有する右建物の明渡を求める理由については、被上告
人らにおいて何等の主張ならびに立証をなさないから、被上告人らのこの点の請求は失当というべく、従つて、こ
の点の論旨は理由があるものといわなければならない。
 よつて、原判決は被上告人らの上告人に対して本件家屋の明渡を求める部分について失当であり、その余は
正当であるから、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、三八六条、九六条、九二条、九三条、八九条に
従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭41・7・14最判 遺留分減殺請求権の性質
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
所有権移転登記手続請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人井上綱雄の上告理由について。
 遺留分権利者が民法一〇三一条に基づいて行う減殺請求権は形成権であつて、その権利の行使は受贈
者または受遺者に対する意思表示によつてなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、また一た
ん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるものと解するのを相当とする。従つ
て、右と同じ見解に基づいて、被上告人が相続の開始および減殺すべき本件遺贈のあつたことを知つた昭
和三六年二月二六日から元年以内である昭和三七年一月一〇日に減殺の意思表示をなした以上、右意思
表示により確定的に減殺の効力を生じ、もはや右減殺請求権そのものについて民法一〇四二条による消滅
時効を考える余地はないとした原審の判断は首肯できる。
 論旨は、右と異る見解に基づくものであつて、採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭42・1・20最判 相続放棄と登記
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
第三者異議
主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人らは上告人に対し、別紙物件目録記載の不動産のAの持分九分の一につき、名古屋法務
局稲沢出張所昭和三九年一二月二五日受付第七六二七号をもつてなされた仮差押登記の抹消登記手続を
せよ。
     訴訟の総費用は、被上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人内藤三郎の上告理由第一、二点について。
 民法九三九条一項(昭和三七年法律第四〇号による改正前のもの)「放棄は、相続開始の時にさかのぼつ
てその効果を生ずる。」の規定は、相続放棄者に対する関係では、右改正後の現行規定「相続の放棄をした
者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかつたものとみなす。」と同趣旨と解すべきであり、民法
が承認、放棄をなすべき期間(同法九一五条)を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを
強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり、同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の
申述をすると(同法九三八条)、相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開がなかつたと同じ地位におかれるこ
ととなり、この効力は絶対的で、何に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。
 ところで、別紙物件目録記載の不動産(以下本件不動産と略称する。)は、もと訴外Aの所有であつたが・
昭和三元年八月二八日同訴外人が死亡し、その相続人七名中上告人およびB両名を除く全員が同年一〇
月二九日名古屋家庭裁判所一宮支部に相続放棄の申述をして、同年一一月二〇日受理され、同四〇年一
一月五日その旨の登記がなされたが、Bは同日本件物件に対する相続による持分を放棄し、同月一〇日そ
の旨の登記を経由したので、上告人Cの単独所有となつたものであることは、原審の適法に確定した事実で
あり、この事案を前記説示に照して判断すれば、Aが他の相続人であるB、D、E、F、鶇野C、G等六名ととも
に本件不動産を共同相続したものとしてなされた代位による所有権保存登記(名古屋法務局稲沢出張所昭
和三九年一二月二五日受付第七六二四号)は実体にあわない無効のものというべく、従つて、本件不動崖
につきAが持分九分の一を有することを前提としてなした仮差押は、その内容どおりの効力を生ずるに出な
く、この仮差押登記(同出張所昭和三九年一二月二五日受付第七六二七号)は無効というべきである。よつ
て、この点に関する原判決の判断は当を得ず、この誤りが原判決主文に影響を及ぼすこと勿論であるから、
論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上告人が本件不動産の所有権を単独で取得し、現
在その旨の登記を経由していることは前記のとおりであるから、被上告人らは上告人に対し、本件不動産の
Aの持分九分の一につき、名古屋法務局稲沢出張所昭和三九年一二月二五日受付第七六二七号をもつて
なされた前記仮差押登記の抹消登記手続をなすべきである。そこで、この登記手続を求める上告人の請求
を正当として認容し、民訴法四〇八条一号、八九条、九六条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。

昭42・2・21最判 家屋賃借人の死亡と内縁の妻の賃借権の承継の有無
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
家屋明渡請求
主    文
     原判決中、上告人Aに対して昭和三三年一月一日から同三五年八月二日まで一箇月一、六〇〇円
の割合の金員の連帯支払を命じた部分を破棄し、右部分に関する被上告人の請求を棄却する。
     上告人Aのその余の部分に対する上告を棄却する。
     上告人Bの上告を棄却する。
     訴訟の総費用はこれを二〇分し、その一を被上告人その余を上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人堂下芳一、同服部明義の上告理由第一について。
 原判決(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)が確定した事実関係のもとにおいては、上告人Aは亡Cの
内縁の妻であつて同人の相続人ではないから、右Cの死亡後はその相続人である上告人Bら四名の賃借権
を援用して被上告人に対し本件家屋に居住する権利を主張することができると解すべきである(最高裁昭和
三四年(オ)第六九二号、同三七年一二月二五日第三小法廷判決、民集一六巻一二号二四五五頁参照)。
しかし、それであるからといつて、上告人Aが前記四名の共同相続人らと並んで本件家屋の共同賃借人とな
るわけではない。したがつて、Cの死亡後にあつては同上告人もまた上告人Bら四名とともに本件家屋の賃
借人の地位にあるものというべきであるとした所論原判示には、法令の解釈適用を誤つた違法があるとい
わなければならない。
 原判決には右のような違法があるが、本件家屋の賃貸借関係について他の共同賃借人三名の代理権を
有していた上告人両名に対して被上告人の先代Dがした該賃貸借契約解除の意思表示が有効であること後
記(上告理由第二、第三についての判断説示参照)のとおりであるから、右の違法は上告人らに対して本件
家屋の明渡を命じた原判決にはなんら影響を及ぼすものでないことは明らかである。また、原審確定の事実
によれば、右賃貸借の終了後は上告人らはいずれも本件家屋を法律上の権原なくして占有し賃料相当額の
損害を加えつつあるというのであるから、上告人らに対してその不法占有期間について右損害金の連帯支
払を命じた原判決にも影響がないものというべきである(被上告人の損害金の請求は、債務不履行に基づく
ものと不法行為に基づくものとが選択的になされているものと解される。)。
 しかしながら、上吉人Aは、前記のとおり、Cの死亡後本件家屋の賃借人となつたのではなく、したがつて、
昭和三三年一月一日から本件賃貸借の終了した昭和三五年八月二日までの間の賃料の支払債務を負わ
ないものというべきであるから、原判決中同上告人に対して右賃料の支払を命じた部分は失当として破棄を
免れず、右部分についての被上告人の本訴請求は棄却すべきものである。
 同第二、第三について。
 原判決が確定した事実関係(所論のように、Eが昭和三五年当時の住民票のうえで別世帯を構成していた
としても、その結論に影響がない。)のもとにおいては、上告人両名は本件家屋の賃借権を相続によわ取得
したE、FおよびGの三名の代理人として被上告人の先代Dのした本件催告ならびに賃貸借契約解除の意思
表示を受領したものと認めるべきであるから右三名にも本件解除の効力が及ぶものであるとした所論原判示
は、正当というべきである。また、所論は、上告人らの右代理関係の事実については被上告人が原審におい
て主張していないところであるというが、本件記録に現われた被上告人の主張の全趣旨に徴すれば、所論の
事実をも主張するものと解しえないものではないから、原審には所論弁論主義違背があるとすることもできな
い。論旨は、ひつきよう、独自の法律的見解に立却するか、もしくは原判示にそわない事実を前提として、原
判決を非難するものであつて、採用するを得ない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九五条、九六条、九二条、九三条に従い、裁判官全員の
一致で、主文のとおり判決する。

昭42・4・27最判 法定単純承認の効果が生ずるための要件
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
貸金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人斎藤兼也の上告理由第一点について。
 所論は、要するに、民法九二一条一号本文により相続人が単純承認をしたものとみなされるがためには、
相続財産の全部または一部の処分という客観的事実が存すれば足り、相続人が自己のために相続が開始
したことを知つてその処分をしたことは必要でないというにある。
 しかしながら、民法九二一条一号本文が相続財産の処分行為があつた事実をもつて当然に相続の単純承
認があつたものとみなしている主たる理由は、本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはな
らないところであるから、これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても
単純承認があつたと信ずるのが当然であると認められることにある(大正九年一二月一七日大審院判決、民
録二六輯二〇三四頁参照)。したがつて、たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の
事実を知らなかつたときは、相続人に単純承認の意思があつたものと認めるに由ないから、右の規定により
単純承認を擬制することは許されないわけであつて、この規定が適用されるためには、相続人が自己のため
に相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡し
た事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するものと解しなければならない。
 本件につき原審の確定したところによれば、被上告人およびその家族は、訴外Aの死体が発見されて昭和
三四年一二月七日に至つて初めてAが死亡したことを知つたものであり、しかも、それ以前に被上告人が
Aの死亡を確実に予想していたものとは認められないというのである。してみれば、後になつてAが昭和三四
年七月三〇日頃の家出当夜自殺死亡していたことが確認されたからといつて、Aの相続人である被上告人
が、Aの家出後その行方不明中に、Aの所有財産の一部である判示動産を処分したとしても、民法九二一条
一号による単純承認擬制の効力を生じないとした原審の見解が正当であることは、前段の説示に照らして明
らかである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、これと異なる見解に立つて原判決を非難する論旨は
採用することができない。
 同第二点について。
 原判決が、被上告人が判示の事情のもとに訴外Aの家出後それまでみずからも従事していた左官業を会
社組織にするために有限会社村越工作所を設立し、同会社をしてAの所有にかかる所論各物件を使用させ
たことは、被上告人が相続の開始を知つた以前の行為であるから、民法九二一条一号本文にいわゆる相続
財産の処分に当たらないと判断していることは、その判示に照らして窺いえないものではなく、右の判断の正
当なことは、上告論旨第一点につき説示したところによつて明らかであり、また、被上告人がAの死亡を知つ
た以後において同会社に所論各物件の使用を許容していたことは、民法九二一条一号但書所定の保存行
為の範囲を超えるものでないとする原審の判断も、正当なものとして是認することができる。したがつて、原
判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭42・4・28最判 内縁の夫が賃借権の援用した事例
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
家屋明渡請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人橋本清一郎の上告理由について。
 本件家屋の賃借人Aには唯一の相続人として姉B(明治二八年二月二五日生)があり、BはAの死亡当時
行先不明で生死も判然としないことが認められるけれども、Bがその頃すでに死亡していたとの確証がない
本件では、Aの死亡によりBが遺産相続人として本件家屋の賃借権を相続承継したと認めるほかはない旨
の原判決の判断は、その挙示する証拠関係から肯認することができる。
 さらに、Aは昭和一五年八月七日上告人から本件家屋を賃借したものであること、被上告人は、Aの内縁の
夫であり、昭和二六年九月から本件家屋に同棲して互に扶け合い、Aが病床につき昭和三七年七月五日死
亡するまでの約三年間は同人の面倒をみてきたものであり、A死亡後もひきつづき本件家屋に居住している
ことは、原判決の適法に確定するところである。
 以上の事実関係のもとにおいては、被上告人はAの家族共同体の一員として、上告人に対し、同人の賃借
権を援用し本件家屋に居住する権利を対抗しえたのであり、この法律関係は同人が死亡し、その相続人が
本件家屋の賃借権を承継した以後においても特別の事情のないかぎり変りがないというべきであるから(昭
和三七年一二月二五日第三小法廷判決、集第一六巻第一二号二四五五頁参照)、 結局これと同趣旨に出
た原判決の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭42・11・1最判 慰謝料請求権の相続性
最高裁判所大法廷
慰藉料請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人高橋方雄の上告理由について。論旨は、要するに、原判決が慰藉料請求権は一身専属権であ
り、被害者の請求の意思の表明があつたときはじめて相続の対象となると解したのは、公平の観念および条
理に反し、慰藉料請求権の相続に関する法理を誤つたものであるというにある。
 案ずるに、ある者が他人の故意過失によつて財産以外の損害を被つた場合には、その者は、財産上の損
害を被つた場合と同様、損害の発生と同時にその賠償を請求する権利すなわち慰藉料請求権を取得し、右
請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使することができ、その損害の賠償を請
求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。そして、当該被害者が死亡し
たときは、その相続人は当然に慰藉料請求権を相続するものと解するのが相当である。ただし、損害賠償請
求権発生の時点について、民法は、その損害が財産上のものであるか、財産以外のものであるかによつて、
別異の取扱いをしていないし、慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専
属するものであるけれども、これを侵害したことによつて生ずる慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠
償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はなく、民法七
一一条によれば、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰藉料請求権と
は別に、固有の慰藉料請求権を取得しうるが、この両者の請求権は被害法益を異にし、併存しうるものであ
り、かつ、被害者の相続人は、必ずしも、同条の規定により慰藉料請求権を取得しうるものとは限らないので
あるから、同条があるからといつて、慰藉料請求権が相続の対象となりえないものと解すべきではないから
である。しからば、右と異なつた見解に立ち、慰藉料請求権は、被害者がこれを行使する意思を表明し、また
はこれを表明したものと同視すべき状況にあつたとき、はじめて相続の対象となるとした原判決は、慰藉料
請求権の性質およびその相続に関する民法の規定の解釈を誤つたものというべきで、この違法が原判決の
結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本訴
請求の当否について、さらに審理をなさしめるため、本件を原審に差戻すことを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官奥野健一の補足意見、裁判官田中二郎、同松田二郎、同岩
田誠、同色川幸太郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の補足意見は、次のとおりである。
 民法七一〇条は「他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規
定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス」と規定し、身体、
自由等の非財産的権利を財産権と全く同列に置き、共に不法行為の対象となる法益とし、かつその損害に
対しては、財産権侵害の場合と同様、原則として金銭賠償により、これを救済せんとするのである(同法七二
二条、四一七条)。
 従つて、非財産権が侵害された場合は、財産権が侵害された場合と同様、その侵害と同時に、損害賠償請
求権が発生するものと解すべきであり、非財産権の侵害の場合に限つて、被害者がこれを請求する意思を
表示した場合に、始めて賠償請求権が発生するものと解すべき法文上の根拠は毫もない。また、生命を侵害
された場合に、被害者の得べかりし財産上の利益の喪失による損害については、被害者がこれを請求する
意思を表示したと否とにかかわらず、当然相続人において被害者の財産上の損害賠償請求権を相続したも
のとして請求し得るのと同様に、非財産権の侵害による慰藉料請求権も、被害者がこれを請求する旨の意
思を表示したか否かにかかわらず、当然金銭債権として、相続人がこれを相続したものと解するのが当然で
ある。
 もし、非財産権侵害による慰藉料請求権は、被害者がこれを請求する意思を表示して始めて発生するもの
とすれば、民法七二四条により慰藉料請求権が、未だ発生しないのに消滅時効が進行するという不合理な
結果を生ずることになる。また、被害者が慰藉料請求の意思を表示した場合に限り、慰藉料請求権の相続性
が認められるとするならば、被害者即死の場合や、慰藉料請求の意思を表示することができない程の重傷を
蒙つた場合などは、常に慰藉料請求権は否定されることになり、かかる重大加害者は常に慰藉料支払の義
務を不当に免れる結果となる。更に航空機や船舶の遭難により全員が死亡したような場合には、慰藉料請
求の意思表示をした事実の立証は不可能であるから、かかる場合、概ね慰藉料請求権は否定されることに
なり、甚だ不当な結果となる。
 もし、慰藉料請求権の本質が「被害者その人の精神的苦痛を慰藉すること」を目的とするものであるから、
被害者の一身に専属する権利であつて、譲渡性、相続性なしというのであれば、仮令被害者がこれを請求す
る意思を表示したからといつて、遽に慰藉料が被害者その人の精神的苦痛を慰藉するという性質を変じ、譲
渡性、相続性が生ずるいわれはないものと考えられる。
 大審院が、明治四三年一〇月三日の判決においては、被害者が加害者に対して慰藉料を請求すると意思
を表示したときは、相続の対象となるものと解し、大正八年六月五日の判決では、被害者が慰藉料を請求す
る意思を書面に表示し、これを執達吏に交付しその催告を委任したが、その催告書が加害者に到達する以
前に死亡した場合でも、被害者は慰藉料請求の意思を表示したことになるから、その慰藉料請求権は相続
の対象となるとしたのであるが、昭和二年五月三〇日の判決では被害者が「残念残念」と連呼しながら死亡
した場合には、特別の事情がないかぎり、加害者に対して慰藉料請求の意思表示をしたものと解することが
できるというに至り、被害者の請求の意思表示の要件を次第に緩和せんとする傾向にあつたものと認められ
る。慰藉料請求権の相続性につき被害者の請求の意思表示を必要とするとの大審院判例は、今や変更せら
れるべき時期に来ているものと思料せられる。
 要するに、わが民法の建前によれば、いやしくも、非財産権の侵害があれば、財産権侵害の場合と同様、
特別の事情のない限り、当然に損害が発生し、従つて被害者は慰藉料請求権を取得し、これを放棄したと認
められるような特段の事情のない限り、相続人に相続せられるものと解すべきであつて、ドイツ民法八四七
条等とその立法の建前を異にするものであり、これをわが民法の解釈の資料とすることはできない。また、近
代不法行為法の理想に従えば、いやしくも不法行為により他人に損害を生ぜしめた以上、その損害が財産
的、非財産的であるを問わず、出来るだけ広くこれを賠償させるのが、被害者保護の理想にかなうものであ
り、たまたま被害者が死亡したからといつて、加害者をして、その責任を免れしめる理由がなく、被害者の相
続人に対し、賠償を得させることが前記理想に副う所以である。
 裁判官田中二郎の反対意見は、次のとおりである。
 私は、慰藉料請求権の性質に関する多数意見の見解には賛成しがたく、結論的にも多数意見とは反対
に、本件上告は棄却すべきものと考える。その理由は、次のとおりである。
 一、多数意見は、慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するけれ
ども、これを侵害されたことによつて生ずる慰籍料請求権そのものは、単純な金銭債権であるという。しか
し、私は、そうは考えない。そもそも、精神的損害といわれるものは、客観的にではなく、被害者の受ける苦
痛その他の精神的・感情的状況の如何によつて決まる主観的・個性的なものであり、したがつて、これらの
精神的損害が生じたとして、これに対して認められる慰藉料請求権も、単純な金銭債権とみるべきものでは
なく、被害者の主観によつて支配される多分に精神的な要素をあわせもつたものと解すべきであろう。かよう
な意味において、多数意見のいうように、単に被害法益が一身専属的なものであるだけでなく、慰藉料請求
権も、被害者の現実の行使によつて具体化されるまでは、一身専属的なものであり、したがつて、これを行
使するかどうかも、被害者の主観的な感情その他の精神的諸条件や当該被害者が置かれている環境その
他の社会的諸条件を無視して決せられるべきものではないという意味において、一身専属的なものと考える
べきであると思う。すなわち、第一に、被害者が精神的損害を受けたと感じるかどうか、およびその程度、態
様も、被害者の主観によつて決ることであり、第二に、被害者が精神的損害を受けたと感じた場合において
も、それを理由として、慰藉料請求権を現実に行使するかどうかは、被害者の感情その他の内的な精神的
諸条件および被害者の置かれている環境その他の外的な社会的諸条件によつて影響されることが少なくな
いのであるから、被害者の主観を尊重し、被害者自身の全人格的な判断にまつべきものであつて、これらの
事情を全く無視し、被害者の意思に基づくことなく、慰藉料請求権が当然に具体的に生ずるものと解すべき
ではないと思う。
  右の点についての私の考え方を要約すると、次のとおりである。すなわち、精神的損害を伴う事故等の発
生と同時に、慰藉料請求権は、抽象的・潜在的な形で発生する(したがつて、慰藉料請求権の消滅時効は、
この時から起算すべきである。)。この権利は、さきに述べたように、一身専属的な性質を有する。そこで、被
害者が自らこの慰藉料請求権を行使することによつて、損害発生時に遡つて、これが具体化され、金銭債権
としての損害賠償請求権が具体的・顕在的な形をとるに至る。このように、一身専属的な慰藉料請求権の行
使によつて、金銭債権が具体化された後にはじめて、それが、譲渡・相続の対象となり、かつまた、債権者代
位権行使の対象ともなり得るものと考えるのである。
 二、右のような見地がらいえば、慰藉料請求権を具体的に行使するためには、被害者が慰藉料を請求する
意思を有するとともに、その意思を外部に表示することを必要とすると解すべきである。すなわち、慰藉料を
請求する意思を有するかどうかは、内心の問題として、これを的確に判断することはむずかしいので、何らか
の形でこれを外部に表示することを必要とすると解すべきである。かつて大審院が、この点について、幾多の
判例を積み重ねてきたのも、被害者保護のために、できるだけ広く慰藉料請求の意思があつたことを推定し
ようとした苦心の現われといえよう。その結果、時には技巧にすぎ、ひいては、かえつて、慰籍料請求権の叙
上の本質を誤つた嫌いがないではないが、被害者の意思の存在とその表示とを必要としたその基本的な考
え方においては、無視できないものをもつていると思う。私は、慰籍料請求権を行使するかどうかについて
も、被害者の主観を尊重する見地から、被害者がこれを行使する意思を有し、しかも、これを外部に表示する
ことを要し、かつ、それをもつて足りるものと解したい。
 三、右のように解するときは、生命侵害等の場合―即死その他これに準ずる場合等において、その意思表
示の不可能または著しく困難なとき等―に、相続人の保護に欠けるというような批判があり得るであろう。し
かし、民法七一一条は、被害者の近親のために、生命侵害に対する固有の慰藉料請求権を認めているので
あるから、同条の適用を受けるべき近親の範囲および被害法益の範囲等を拡張的に解釈することによつ
て、その保護を全うすることができ、また、民法七〇九条、七一〇条による慰藉料請求権も、その要件を具備
している以上、その請求が可能なわけであつて、被害者本人の主観を無視して慰藉料請求権の譲渡性、相
続性を肯認しなければならない実質的根拠に乏しい。
 四、ところで、原判決の確定するところによれば、本件被害者はその死亡まで慰藉料請求の意思を表示し
なかつたというのであるから、上告人は、右被害者の相続人であつても、叙上の理由によつて、右被害者の
慰藉料請求権を相続によつて取得したものとは認めがたく、したがつて、これと同趣旨に出た原審の判断
は、結局、正当であつて、本件上告は棄却を免れないものと考える。
 裁判官松田二郎の反対意見は、次のとおりである。
 (一) 多数意見は次のようにいう。すなわち、「ある者が他人の故意過失によつて財産以外の損害を被つ
た場合には、その者は、財産上の損害を被つた場合と同様、損害の発生と同時にその賠償を請求する権利
すなわち慰藉料請求権を取得し、右請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使
することができ、その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするもので
はない。そして、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰藉料請求権を相続するものと解する
のが相当である」と。これが本件に対する多数意見の立場であり、すなわち、多数意見はこの立場からきわ
めて簡単に慰藉料請求権の相続性を肯定する。そして、このような多数意見の見解は、必然に慰藉料請求
権の譲渡性の肯定へも導くものと解される。ただし、多数意見は、「慰藉料請求権が発生する場合における
被害法益は当該被害者の一身に専属するものである」といいながらも、「これを侵害したことによつて生ずる
慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権である」と主張するからであ
る。すなわち、多数意見のいう「被害者の一身に専属する」という言葉は、慰藉料請求権が沿革的にまた比
較法制的に多分に一身専属的のものとされたことに対するいわば一種の儀礼的の表現と解されるのであ
る。要するに、多数意見は、慰藉料請求権を「単純な金銭債権」と解することによつて、その一身専属的性質
を実質的に否定し、その譲渡性・相続性を肯定するものである。
 しかし、慰藉料請求権は果して多数意見のいうように、単純な金銭債権であり、譲渡性・相続性を有するも
のであろうか。私は多数意見に反して、該請求権を一身専属的のものと解するのである。ただし、精神上の
苦痛そのものが、きわめて高度に個人的・主観的のものである以上、慰藉料請求権はその苦痛を受けたとき
に生じるものではあるが、その行使の有無は被害者自身の意思によつて決せられるべきものであり、この点
においてそれは債権者代位権に親しまないものというべく、また慰藉料は被害者の苦痛そのものを慰藉する
ためのものであるから、この点でその請求権をば被害者以外の第三者に譲渡し、もしくは相続人に相続せし
むべきではないからである。要するに、叙上が慰藉料請求権の本質である。この見解に立つとき、多数意見
はきわめて個人的であるところの慰藉料請求権をきわめて非個人的のものと解した点において、誤に陥つた
ものといわざるを得ない。すでに述べたように、多数意見が「慰藉料請求権の発生する場合における被害法
益は当該被害者の一身に専属するもの」というからには、多数意見はすべからくその請求権自体の一身専
属性を認めるという結論に到達すべきであつたのである。
 (二) 本件は慰藉料請求権の相続性の有無に関するものであるので、この点に関するわが国の判例の跡
を概観するに、大審院は慰藉料請求権に関して、明治四〇年代から次のような態度を採つていた。すなわ
ち、その判例によれば、「不法行為に因り身体を害された者が財産以外の損害を填補させるため、加害者に
対しその慰藉料を請求する意思を表示したときは、その請求権は金銭の支払を目的とする債権に外ならな
いものであつて、これに因つて得る金額は相続の場合には相続人の取得すべきものであるから、被害者の
一身に専属するものでない」というのである(大審院明治四三年一〇月三日判決、民録十六輯六二一頁)。
思うに、大審院はこの判決に当り、すべからく慰藉料請求権の本質について深く考慮すべきであつたのであ
る。しかるに、判例は、その後も右の立場を踏襲し、更に慰藉料請求権の相続を容易ならしめる方向に進
み、「残念、残念」と連呼しながら死亡した場合においてすら、これをもつて「被害者がその被害が自己の過
失に出たことを悔んだような特別の事情のないかぎり、加害者に対し慰藉料請求の意思表示をしたものと解
し得られざるにあらず」とするに至つた(大審院昭和二年五月三〇日判決、法律新聞二七〇二号五頁)。そし
て、このような判例の態度によるときは、被害者即死の場合には慰藉料請求の意思表示がないから、慰藉
料請求権の相続がなく、これに反して被害者が即死しないで「残念、残念」と連呼したときは、その相続があ
るというような不均衡を生じることとなる。この点は、従来、学説上、非難されたところであり、多数意見もこの
ことを特に強く意識した結果、慰藉料請求権をもつて、「財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権
であり、相続の対象となるもの」としたのだと思われる。そして、終にその一身専属性を全く否定するに至つた
のである。
 (三) 多数意見が慰藉料請求権の本質を正解しないことは、右に述べたとおりである。しかも、多数意見に
従うときは、結果的にも著しい不都合を生じるのである。この点よりしても、多数意見の失当なことは明らかで
ある。私は、次にその二、三の例をあげてみたい。
 (1) 多数意見によれば、父親が貧困のため何等子に残すべき財産のない場合でも、父親が他人から侮
辱され、時には暴行さえ加えられて精神上多くの苦痛を受けて死亡すると、父親がその生前右の精神上の
苦痛につき慰藉料を請求する意思を表明しなくとも、その請求権を放棄したと解される特別の事情のないか
ぎり、父親の慰藉料請求権は当然に相続され、それだけ多くの相続財産が生じることとなる。相続財産の多
寡の点よりいえば、父親が他人から多くの精神的苦痛を受けた上、死亡した方が望ましいこととなるのであ
る。しかも、この慰藉料請求権は相手方の不法行為によつて生じたものに外ならないから、子としては、この
慰藉料請求権を行使するに当つて、相手方から相殺をもつて対抗されることはない(民法五〇九条)。従つ
て、この慰藉料請求権はきわめて確実な相続財産ということになるわけである。
 (2) 多数意見によれば、事業経営に失敗し、他人より侮辱され軽蔑され精神上多大の苦痛を受けた上破
産した者があるとき、破産者が慰藉料を請求する意思を表明しない場合でも、これを放棄したと解される特別
の事情のないかぎり、破産者の有するこの請求権は当然に破産財団に属することとなる。従つて、破産看が
破産前、多くの精神上の苦痛を受けていれば、それに応じて破産財団の財産は増加するわけである。しか
も、管財人は善良なる管理者の注意を以てその職務を行うことを要し、その注意を怠るときは損害賠償の責
に任ずるから(破産法一六四条)、もし管財人が破産者の有する慰藉料請求権の行使を怠つたときは、損害
賠償の責を免れえないこととなるのである。
 (3) 既に指摘したように、多数意見に従えば、慰籍料請求権の譲渡性はこれを肯定することとなる。従つ
て、多数意見によれば、他人から精神上の苦痛を受けた者がその苦痛について損害賠償を請求する意思を
表明しない場合でも、その請求権を放棄したものと解しうる特別の事情のないかぎり、その被害者に対して
債権を有する者は、被害者が加害者に対して有する慰藉料請求権を差押え、これを取立てまたは転付せし
めうる(民訴法六〇一条、六〇二条)こととなるのである。
 (4) 「慰藉料請求権が財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権である」ならば、債務者の有す
る慰藉料請求権をば、債権者は代位行使できることとなる。その債権者の債権者もまた代位行使できること
となる。ただし、代位権の代位行使も可能であるからである。
  叙上のような設例は、あるいは極端なものと思われるかも知れない。しかし、多数意見に従うならば、右
のような結果は当然生じうるところである。従つて、多数意見に従うときは、今後慰藉料請求権に関して、き
わめて奇矯な訴訟が超り、しかも裁判所としてはこれを認めざるを得ないこととなるのである。
 (四) 慰藉料請求権の相続性と関連して考うべき問題が存在する。まず、(イ)慰籍料請求権と民法七一一
条との関係をいかに解するかの点である。しかし、私の見解によれば、生命を害されて死亡した者の慰藉料
は相続人によつて取得されないから、近親者は同条による固有の慰藉料請求権のみを有することとなる。従
つて、この固有の慰藉料請求権と相続した慰藉料請求権の両者の併存を前提とする問題は生じ得ないこと
となる。多数意見は二つの請求権の併存を認めるため、いたずらに両者間の法律関係を錯雑ならしめるに
過ぎない。(なお民法七一一条は慰藉料を請求しうる者の範囲を限定したものでなく、同条所定の者に対し、
損害発生の挙証責任を軽減したものと解される)。次に(ロ)多数意見によれば、死亡者の遺族は右の両請
求権を有しうることとなり、一見遺族の保護に厚いとの観を呈するのである。しかし、慰藉料の額は裁判所が
諸般の事情(訴訟において原告の受ける慰藉料の総額もこの事情の一つである)を斟酌して決すべきもので
ある以上、多数意見によつても、遺族の取得しうる賠償額が当然に増加するとはいえない。徒つて、この点
は必ずしも卑見に対する反対の理由となり得ない。(ハ)なお慰藉料請求権は、一身専属的権利であるが、
その個人的・主観的色彩の減退のため、通常の金銭債権と同視しうべきものに転化する場合がある。一体、
慰藉料の額は、おのおのの具体的場合に即して決することを要し、容易に決し難いところであるが、たとえば
加害者が被害者の慰藉料の請求に対し、一定額の金員を支払うことを約したような場合、当該請求権は、通
常の金銭債権と多く訳ぶところなく、これに転化したものと認められる。ただし、この場合慰藉料請求権の個
人的・主観的色彩褪せた結果、客観的には通常の金銭債権が存在するものと考えられるからである。債務
名義によつて、加害者が被害者に対し慰藉料として一定額の金員の支払をなすべきものとされた場合も同
様である。
 (五) 今、叙上の見地に立つて本件を見るに、原審の認定したところによれば、被上告会社の自動車運転
手であるAは、昭和三六年八月一六日被上告会社のためその所有の大型貨物自動車を運転して栃木県下
都賀郡a町b番地先国道に差しかかつた際、右自動車をBの乗る自転車に衝突させ、よつて同人を死亡する
に至らしめたところ、Bはその死亡まで慰藉料請求の意思を表示しなかつたというのである。しからば、上告
人はBの相続人であるにせよ、Bの慰藉料請求権を相続により取得したものとは認め難く、従つてこれと同
趣旨に出た原審の判断は正当であつて、本件上告は棄却を免れないのである。
 裁判官岩田誠は、裁判官松田二郎の右反対意見に同調する。
 裁判官色川幸太郎の反対意見は、次のとおりである。
 一、ある者が他人の故意過失によつて財産以外の損害を被つた場合には、損害の発生と同時にその賠償
を請求する権利すなわち慰藉料請求権を取得するものであることは多数意見の説くとおりであるが、私は、
この権利は行使において一身専属的なものであると考えるのである。
 慰藉料は、いうまでもなく、精神的損害の賠償のために支払われるものであり、被害者の精神的、肉体的
苦痛を、普遍的な価値である金銭をもつて、消除し軽減せしめようとするわけである。苦痛は必ずしも現在の
ものに限ることなく、将来苦痛を感ずるであろうことが合理的に期待されるときをも含むと考えるべきである
が、それにしても、現在又は将来において、苦痛を全く感受しないときには慰藉料請求権は発生しない。とこ
ろでなんらかの違法な法益侵害があつたときに、苦痛を感受するかどうか、感受するとしてもその程度如何
は、人によつて著しい格差があるばかりでなく、同一人に対し同一態様の侵害が加えられても、時により環境
に応じ、その苦痛は千変万化するものであつて、財産権の侵害の場合のように同一の加害が同一の損害を
生ずるものとは全くその趣を異にする。一般人にとつては認容の限界を越えた許すべからざる人格権の侵害
でも、ある人にとつては格別痛痒を感じない場合もなしとはしないし、その逆もまた考えられないわけではな
い。さらにまた、ある不法行為によつてある人が苦痛等を感じたとしても、これを請求することを憚る事情の
存在することもまたあり得るのである。要するに精神上の損害は極めて個性的なものであつて、その賠償請
求権の行使は当該本人の自由なる意思にかからしめることを相当とし、したがつて、権利者以外の第三者が
代つて行使することは許されない性質を有するのである。慰藉料請求権が発生する場合における被害法益
は、多数意見の認めるごとく、一身専属であるが、それだけにとどまらず、慰藉料請求権は行使において一
身専属であり、権利者が行使しない以上相続、差押等の目的にはならないと解するを相当とする。
 而して、一旦権利者によつて行使されるならば一身専属性は解消し、通常の金銭債権となるのであるが、
請求権は義務者に対し一定の行為を請求することを内容とするものであるからして、その行使は、義務者に
対する明確な意思表示によつてなされなければならない。死に臨んで被害者が残念だと絶叫してもそれを以
て請求権の行使とすることはできないのである。
 二、次に、死者につき、死亡したことそのものを原因とする慰藉料請求権の取得が認められるであろうか。
多数意見はそれを自明のこととしているようである。しかし苦痛は生きておればこそ感受できるものであり、
そしてまた人は死亡によつて権利主体たることをやめるわけである。死者が死亡を原因として慰藉料請求権
を取得するとするためには、死亡による苦痛を死者自身がこれを感受し、死亡のその瞬間に、死者が慰藉料
請求権を取得する、すなわち死前に死があり、死後にまた生がある、という奇異なる論理を肯定した上でな
ければなるまい。この間にいかなる巧妙な法律的操作を施しても、かかる非論理性は、所詮、救われないの
である。民法七一〇条は、慰藉料請求権の被害法益として、身体、自由、名誉及び財産権を列挙している。
これが限定的なものでないとしても、被害法益の尤たる生命侵害に全くふれるところがないのは、七一一条と
対比した場合、極めて示唆的である。生命を侵害された死者自身が慰藉料請求権を取得するという法理は、
結局、わが民法の認めないところではあるまいか。
 三、さきに述べたごとく、生命侵害の場合でも、即死でなく、受傷後死亡までに若干の日時があり、その間
に慰藉料請求権を行使したものであるならば、この権利は死亡によつて相続され、民法七一条等による相続
人固有の慰藉料請求権と併存することになる。そうだとすると、即死したとき又は被害者本人が存命中に慰
藉料請求権を行使しなかつたとき、即ち相続の対象となる慰藉料請求権が存しないときは、前記の併存の場
合に比し、形の上では、一見甚だ不利益であつて権衡を失するかのごとくである。しかし二本だてが一本だ
てに比べてより有利だということには必ずしもならないのである。けだし、慰藉料の額は裁判所の自由なる心
証によつて量定されるものであるが、それにしても、相続による慰藉料請求権取得の有無は、民法七一一条
等に基づく当該相続人に固有な慰藉料請求権の額を算定する場合に当然参酌されるべき事情であつて、相
続による慰藉料が多額であれば、相続人の苦痛はそれだけ軽減されるのであるから固有の慰藉料はこれに
応じて低かるべきであり、反対に、即死の場合のように、被害者が肉親の看護を受けず、後事を託する余裕
もなかつたようなときは、相続できる慰藉料請求権こそなけれ、遺族の苦痛は甚大であるが故に、固有の慰
藉料請求権は自ら大とならざるを得ないからである。もつとも叙上の見解にたつと、遺族ではあるが、民法七
一一条に列挙されたところに該当せず、そしてまた、内縁の妻その他これに準ずるような特別の間柄(これら
の遺族は、民法七〇九条、七一〇条に基づく固有の慰藉料請求権を有すると考える。)にもない者にとつて
は、被害者である被相続人において慰藉料請求権を取得しない以上、加害者に対し慰藉料の請求をするこ
とはできないわけである。しかし、これらの者は、当該被害者の死亡に因つて深刻な精神的打撃を受けない
が故に、固有の慰藉料請求権を取得し得ない立場にあるのであるから、相続すべき慰藉料請求権が存在す
れば格別、そうでない場合においても、単に相続人であるというだけで、利益を受ける結果となるのは妥当を
欠くといわなければならない。したがつてかくのごとき遺族について慰藉料請求権を否定することは、加害者
をして不当に義務を免かれしめることになるという非難には、到底同調できないのである。
 四、慰藉料の種類を多く認めることが必ずしも、被害者側の救済を厚くする所以ではないことは上述のとお
りであるが、私は、もともと不法行為による損害賠償請求事件、特にいわゆる人身事故の訴訟事件において
は、主力を逸失利益の算定にそそぐべきであつて、安易に慰藉料によりかかるべきではない、と考えている
ものである。もとより私といえども、かかる訴訟において現在慰藉料の果している役割をしかく軽視するわけ
ではない。逸失利益の算定には、幾多の困難があり、算定の基礎たるデータも多くは不確定、不安定なもの
であるから、結論たる裁判の具体的妥当性を追求するために、自由に量定し得る慰藉料を以て、判断過程
の欠陥を補完する必要を生ずることは否めない事実であろう。しかし、裁判は本来、法律が規定している構
成要件の存否を確定し、これに法規をあてはめて法律効果を定める法律的価値判断であるから、事後にお
ける客観的な検証に堪え、また特に事前において予測可能性のあることが要請されるものであり、合理的な
思惟と共通普遍な理論を以てすれば裁判の結論が自ら流出する底のものであるのが望ましいのである。一
言でいえば裁判は水ものであつてはならないのである。しかるに慰藉料の算定には未だ何らの規範もない
のであつて、要するに被害者及び加害者をめぐるあらゆる事情に基づき公平なる観念に従つてきめるもの
だ、というにすぎない。しかもいかなる事情をいかなる程度に参酌してその量定をしたかということは判示す
ることも困難であり、またその必要もないことになつている(大判昭和八年七月七日、民集一二巻一八〇五
頁等参照)のであるから、ともすれば裁判官の主観に流れる傾向なしとはしないのである。将来、判例の集
積によつて慰藉料が概ね定型化された場合ならばとにかく、少くとも現在の段階において慰藉料のいわば調
整的機能に過度に傾斜することは戒心すべきであり、その意味から慰藉料の種類を複雑にすることには賛
成し難いのである。
 五、ところで本件について見ると、被上告人の雇人である自動車運転者訴外Aは被上告人のために貨物自
動車を運行中、過失によつて訴外亡Bに右自動車を衝突せしめたこと、そのために重傷を負つた同人は一
二日後に遂に死亡したのであるがその間前記傷害による慰藉料請求の意思を表示しなかつたものであるこ
と、以上は原審の認定するところであるから、Bの妹である上告人としては、民法七〇九条、七一〇条によつ
て独自に慰藉料の請求をする場合は格別、相続を理由としてはこれを請求し得ないと解すべきである。した
がつて、これと同趣旨に出た原審の判断は正当であつて、本件上告は棄却すべきものと考える。

昭42・11・15名古屋高判 相続放棄取消の申述受理後、当該相続放棄の有効を別訴で主張することの可否
名古屋高等裁判所?? 金沢支部?? 第一部
土地所有権移転登記等抹消登記手続請求事件
主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 第一 当事者の申立
 一、 控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、
 二、 被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。」旨の判決を求めた。
 第二 当事者の主張
 一、 被控訴代理人は、請求原因として、次のとおり述べた。
 (一) 別紙不動産目録記載の各不動産(以下本件不動産という。)は、もと亡
Aの所有であつたが、同人は昭和三九年一〇月二二日死亡し、相続が開始した。
 (二) 亡Aの相続人は、妻の被控訴人、養子の控訴人、同訴外Bの三名であつ
たが、被控訴人及びBの相続放棄の申述が昭和四〇年一月二二日金沢家庭裁判所小
松支部で受理され、控訴人は、本件不動産につき相続を原因として、それぞれ別紙
登記目録記載の各所有権移転登記ないし所有権保存登記をなすに至つた。
 (三) しかしながら、被控訴人の右相続放棄の申述は、控訴人が、被控訴人に
無断で勝手にしたものである。
 (四) 仮にそらでないとしても、被控訴人は、元来無学、無智、愚昧なる女性
にして、相続放棄が亡Aの相続財産の放棄を意味するものとは全く知らずに、相続
放棄の申述をなしたものであるから、右相続放棄は、意思表示の要素に錯誤があ
り、無効である。
 (五) 仮に以上の主張が理由ないとしても、金沢家庭裁判所小松支部で受理さ
れた上記相続放棄の申述は、控訴人が「相続放棄をしないのなら老後の面倒は一切
見てやらない。放棄すれば生活も十分見てやるし、A家のおばばとして一生楽隠居
させてやる。」と言葉巧みに被控訴人をだまし、あるいはまた「おばばの一人や二
人を殺すのは朝飯前じゃ、早く放棄を承諾せい。」等と被控訴人を強迫した結果に
よるものである。よつて被控訴人は、右詐欺、強迫を理由に前記裁判所に相続放棄
取消の申述をなし、昭和四〇年一〇月一五日同裁判所においてこれを受理された。
 (六) かようなわけで、本件不動産に対しては、被控訴人も相続による三分の
一の共有持分を有しているから、被控訴人は、控訴人に対し、別紙登記目録記載の
各登記を、それぞれ同一相続を原因とする被控訴人の持分三分の一、控訴人の持分
三分の二の各割合による所有権移転ないし所有権保存の各登記にするための更生登
記手続を求める。
 二、 控訴代理人は、次のように答弁し、主張した。
 (一) 被控訴人主張の事実中、(一)、(二)の各事実と(五)の事実中被控
訴人が金沢家庭裁判所小松支部に相続放棄取消の申立をなし、被控訴人主張の日に
同裁判所においてこれを受理されたことは、いずれもこれを認めるが、その余の事
実は全てこれを否認する。
 (二) 被控訴人は、昭和三九年一〇月二二日から二三日にかけて近親者の間で
A家の借財整理に関する話が出た際、「自分は亡Aからその生前住家をもらつてい
るし、農耕はできず、今後とも控訴人に面倒をみてもらいたいから相続は放棄して
よい。」旨自ら進んでいい出したのである。そこで同月二九日納骨のため近親の者
達がぼ提寺の勝光寺に集つた際、控訴人は相続放棄の申述書を被控訴人に示して、
その趣旨をよく説明し、被控訴人も十分これを納得して、あらかじめ持参していた
印鑑を被控訴人自ら右申述書に押捺し、これを控訴人が被控訴人に代つて前記裁判
所へ提出したのである。かようなわけで、控訴人は、被控訴人主張の如き詐欺、強
迫をなしたことはなく、被控訴人の上記相続放棄は、全く同人の真意によるもので
あるから有効であり、したがつてまた被控訴人主張の相続放棄の取消は、その理由
がない。
 第三 証拠関係
 一、 被控訴代理人は、甲第一号証の一、二、第二号証を提出し、証人Cの証言
を援用し、乙第三号証の成立は知らないが、その余の乙各号証の成立は認め、乙第
一号証の一ないし三、第四号証の一、二はこれを利益に援用すると述べた。
 二、 控訴代理人は、乙第一号証の一ないし三、第二、第三号証、第四号証の
一、二を提出し、証人D、同Eの各証言及び控訴本人尋問の結果を援用し、甲各号
証の成立は全て認めると述べた。
         理    由
 一、 本件不動産は、もと亡Aの所有であつたが、同人は昭和三九年一〇月二二
日死亡し、その相続が開始したこと、亡Aの相続人は、被控訴人主張のとおり、妻
の被控訴人、養子の控訴人及び同訴外Bの三名であつたが、昭和四〇年一月二二日
被控訴人とBの相続放棄の申述が金沢家庭裁判所小松支部で受理され、控訴人が本
件不動産につき被控訴人主張どおりの各所有権移転登記ないし所有権保存登記を経
由していること、ならびに被控訴人が金沢家庭裁判所小松支部に相続放棄取消の申
述をなし、被控訴人主張の日に同裁判所においてこれを受理されたことは、当事者
間に争いがない。
 二、 そこで被控訴人の本件相続放棄の効力について判断するに、
 (一) 成立に争いのない甲第一号証の一、二、証人D、同Eの各証言ならびに
控訴本人尋問の結果を総合すれば、亡Aは上記のように昭和三九年一〇月二二日死
亡し、同月二四日頃、同人宅にその近親者達が集つて香典開きが行なわれたが、そ
の席上亡Aには相当額の負債があることが分り、その整理方法をめぐつて自ずと話
が相続関係にも及んだところ、被控訴人も、「自分は百姓仕事などはとてもでき
ず、どうせ控訴人に面倒をみてもらわなければならないし、また亡Aからは生前そ
の住家ももらつているから、相続しようとは思つていない。」といい、Bも控訴人
が後を継ぐのが順当だから相続する気はないとの考えで、結局A家は控訴人に継い
でもらうのが最も順当であるというような話合になつたこと、そこで同月二九日、
納骨のため近親の者達がぼ提寺の勝光寺に集つた際、たまたま午前一〇時の予定が
お寺の都合で午後一時に延ばされたので、皆で話合の上、その暇を利用して、相続
放棄の手続を済ますことになり、早速控訴人が金沢家庭裁判所小松支部から相続放
棄申述書の用紙をもらつてきて、他の近親者らも同席する中で、相続人の被控訴人
とBに、右用紙を提示し、且つ相続放棄の趣旨もよく説明した上、控訴人において
それぞれ該当欄に所要事項を記入し、これに被控訴人とBが、よく納得の上、それ
ぞれあらかじめ用意してきていた各自の印鑑を自ら押捺し、これを控訴人が、右両
名に代つて前記裁判所に提出したものであること、しかるに被控訴人は、どういう
わけか昭和三九年一一月五日金沢家庭裁判所小松支部で行なわれた審問で、「相続
放棄の申述をしたことはない。しかし放棄するか、どらか、よく考えてみるから、
しばらく審理をのばしてほしい。」旨を述べて続行を求めたが、翌年一月二二日の
審問期日には、「前回の供述は間違いで、相続放棄の申述は真意によるものであ
る。」旨を述べて、右申述の受理を求め、上記のようにこれを受理されたものであ
ることを認めることができ、以上認定の事実関係によれば、被控訴人の本件相続放
棄の申述は、全く同人の自由且つ事実の意思に基づいたものと認めるのほかはない
ものというべく、したがつて被控訴人の本件相続放棄も有効といわざるを得ない。
 (二) 被控訴人は、本件相続放棄の申述は、控訴人が被控訴人に無断でしたも
のである。仮にそうでないとしても、本件相続放棄は要素に錯誤があるから無効で
あるといい、更には本件相続放棄は、被控訴人主張の如き控訴人の詐欺、強迫によ
るものである旨を主張してその効力を争い、前掲の甲第一号証の一、成立に争いの
ない甲第二号証、乙第一号証の一ないし三の各陳述記載ならびに証人Cの証言中に
は、一部被控訴人の右各主張事実に副うような部分もあるが、これらは、前掲の各
証拠に比照し、あるいはその供述内容自体から考えて、たやすくこれを信用するこ
とはできないし、他に上記認定を覆えし、被控訴人の右各主張事実を肯認するに足
る確証もない。
 (三) もつとも被控訴人の本件相続放棄は、その後上記のように、被控訴人の
申立により、昭和四〇年一〇月一五<要旨>日金沢家庭裁判所小松支部においてその
取消の申述が受理されているので、右受理審判と別個に、本件の如く</要旨>別訴で
当該相続放棄の有効性を主張し得るかどうかは、一応問題ではあるが、もともと相
続放棄取消の受理審判は、相続放棄の受理審判と同様、一応の公証的意味を有する
にとどまるものであること、相続の放棄またはその取消の申述を却下する審判に対
しては即時抗告をなし得るが、右各申述の受理審判に対しては不服申立の道がなく
(家事審判法第一四条、家事審判規則第一一五条第二項、第一一四条第一項、第一
一一条)、利害関係人は、別訴で相続放棄の有効、無効を争う以外に方法がないこ
となどを考え合せると、相続放棄取消受理の審判は、相続放棄の受理審判ととも
に、相続放棄の効力に関する実体的権利関係を終局的に確定するものではなく、右
の実体的権利関係は、民事訴訟法による裁判によつてのみ終局的にこれを確定すべ
きものと解するのが相当であるから、被控訴人の上記相続放棄取消受理の審判は、
何ら上記判断の妨げとなるものではないといらべきである。
 三、 果して以上説示の次第であつてみれば、被控訴人の本件相続放棄は有効に
して、その無効を前提とする被控訴人の本訴請求は、その理由なく、失当たるを免
れない。
 してみれば、右理由なき被控訴人の本訴請求を認容した原判決また失当にして、
本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条によつて原判決を取り消し、被
控訴人の本訴請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九六
条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。


昭43・3・5札幌高判 他主占有者の相続人が現実に占有を開始した場合の占有の性質
札幌高等裁判所?? ?? 第一部
土地所有権移転登記請求事件
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人熊谷正治の上告理由第一点について
 <要旨>相続人が、被相続人の占有の態様からみて相続に因て所有権を取得したも
のと考え、爾後所有の意思をもつ</要旨>て現実に占有を始めたときは被相続人が他
主占有をしていた場合でも右相続人は固有の自主占有をもつことになるものと解す
るを相当とする。
 原判決の確定した事実によると、「本件係争土地はもと訴外A所有にかかる北海
道久遠郡a村字bc番の土地の一部であつたところ、大正七年一一月一三日頃被上
告人先代B、訴外亡C外一名が、本件係争土地を含む近隣一帯の土地を右の順で海
岸にそつて北から南へほぼ三分して買受けた際c番地の土地から分筆されてC名義
に所有権移転登記がなされたものであるが、係争土地はB所有家屋のほぼ正面海岸
寄りにある長い長方形の土地で、その一方は海岸国有地に接し、三方はBの買受け
たc番、d番などB所有地に囲まれた形になつており、B方から海へ出るには係争
土地を通らなければまわり道をすることになるのに反し、C所有の土地から係争土
地に至るにはB方の土地を通らなければならないいわゆるとび地であること、B
は、右売買以前から係争土地を含む附近の土地を賃借して船揚場および海産物干場
として使用し、前記売買により係争土地附近の土地を買受けた後も同様の目的で大
正一三年九月一二日死亡するまでその使用を継続し、Bの死亡後は被上告人が係争
上地を前同様の目的で使用し、所有の意思をもつて平穏且つ公然に占有した。」と
いうのであるから、原審が、係争土地買受けの経過からみて、Bが当初から係争土
地を所有の意思をもつて占有していたとは認められないが、右売買が行われてから
相当の年月を経た後にBを相続した被上告人は、前記認定のような係争土地の位
置、使用状況からみて自己の所有地と信じて占有を始めたものであり、被上告人が
占有を開始した大正一三年九月一二日から起算した二〇年の経過により取得時効が
完成し、本件係争土地は被上告人の所有に帰したと判断したのは正当というべきで
ある。また、原審が被上告人は本件係争土地の租税を納付したことがなかつたとの
事実を認定していることは所論のとおりであるが、納税の有無は所有の意思を推認
する一事実にはなり得るが必ずしも決定的なものではないから、本件係争土地は海
浜に続く土地の一部を細く分筆したもので隣接土地との境界が形状上明らかでな
く、Cの相続人であるDは係争土地の位置に自己所有名義の土地が存在することを
知らず、被上告人方D方双方とも係争土地の周囲に数筆の土地を所有し、これらに
対する租税を一括納付していたものであり、したがつて特にそのろちに係争土地の
租税を納付していることあるいは納付していないことを意識していないとしても特
に異とするに当らないことなどの事実を認定した与え、被上告人が係争土地に対す
る租税を納付していなかつたとの一事により所有の意思をもつてする占有でないと
はなし難いとした原審の判断は正当としてこれを是認することができ、右原審の判
断は、上告人の援用する判決とむじゆんていしよくするものではない。原判決には
所論のような法律の解釈を誤つた違法はないから論旨は理由がない。
 同第二点について
 不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ原則としてその後に所有権
取得登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗し得ないが、右
第三者が時効取得者の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しないいわゆる
背信的悪意者と認められる場合には、時効取得者は登記なくして右第三者に時効取
得をもつて対抗し得るものと解すべきである。
 原判決の判示によれば、本件係争土地は被上告人にとつてはその漁業経営上極め
て必要度の高い重要な上地であつたので、昭和三四年九月頃登記簿上本件係争土地
の所有名義人がCになつていることが判明後、被上告人は再三Cの相続人Dに話合
いを試みたが、Dはこれを拒み続けたため紛争が深刻化し、Dの被上告人長男に対
する傷害事件まで派生するに至つたので、被上告人は昭和三八年九月三一日Dに時
効援用を通告したところ、その直後である同年一〇月三日Dから上告人への売買契
約による所有権移転登記がなされたものであつて、上告人はCの二男でC死亡後D
を養育し、本件係争土地に関する紛争にも当初から関与してその経過、内容を熟知
しており、上告人が従来本件係争土地を使用したことはもちろん将来使用する必要
性はまつたくなく、Dから上告人への売買契約についてもその代金の定めはあいま
いである、というのであつて、原審の確定した右の事実関係のもとにおいては、上
告人が被上告人の登記欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者にあたらな
いとした原判決の判断は正当である。論旨に掲げる最高裁判所判決は本件に適切な
先例ではなく、論旨は採用できない。
 同第三点について
 原判決の確定した事実は「被上告人はその被相続人Bの死亡した大正一三年九月
一二日以降引き続き本件係争土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有し
た。」というのであつて、右事実は原判決の挙示する諸証拠によつて十分にこれを
認めることができる。原判決が昭和二〇年九月一一日の経過をもつて取得時効期間
が満了した旨判示していることは所論のとおりであるが、右は上記原判決の認定し
た起算日からみて昭和一九年九月一一日の明白な誤記に過ざないものと認められ
る。また土地の時効取得を認定するのは所有者が行方不明であるとか第三者が公課
を代納している場合に限るとの経験則が存在するとは未だ認められない。所論は畢
竟原審の適法になした事実の認定ないし証拠の価値判断を非難するに帰し、原判決
には所論のような理由そご、経験則違反の違法はないから論旨は採用しえない。
 よつて本件上告は理由がないから民事訴訟法第四〇一条によりこれを棄却するこ
ととし、上告費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判
決する。

昭43・5・31最判 遺言執行者がある場合と遺贈義務者の履行を求める訴の被告適格
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
所有権移転登記手続請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 職権をもつて調査するに、本訴において、被上告人らは、訴外亡Aから、その所有の本件建物について、各
持分二分の一の割合による遺贈を受けたところ、同人の死亡によりその効力を生じたものと主張して、Aの
相続人である上告人に対し、右遺贈を原因とする共有持分二分の一ずつの所有権移転登記手続を求めるも
のであるが、記録によれば、上告人は、原審第一一回口頭弁論期日に、その提出にかかる昭和四一年一一
月一五日付準備書面に基づいて、右遺言に際して訴外Bが遺言執行者に指定されたが、その後、昭和四〇
年一月一三日に名古屋家庭裁判所において、同人は遺言執行者の地位を解任され、弁護士Cが遺言執行
者に選任された旨を主張していることが明らかであり、また、成立に争のない甲第一号証(公正証書)および
原審における証人Bの証言に徴すると、前記遺言に際して、Bが遺言執行者に指定されたが、同人はその後
解任されて、原審における口頭弁論の終結時においては、さらに遺言執行者に選任された者が存在する事
実を窺わせるに足りるのである。
 ところで、遺言の執行について遺言執行者が指定されまたは選任された場合においては、遺言執行者が
相続財産の、または遺言が特定財産に関するときはその特定財産の管理その他遺言の執行に必要な一切
の行為をする権利義務を有し、相続人は相続財産ないしは右特定財産の処分その他遺言の執行を妨げる
べき行為をすることはできないこととなるのであるから(民法一〇一二条ないし一〇一四条)、本訴のよう
に、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴にお
いて、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎられるのであつて、相続人はその適格を有しないも
のと解するのが相当である(大審院昭和一四年(オ)第一〇九三号、同一五年二月一三日判決、大審院判
決全集七輯一六号四頁参照)。
 してみると、本件の遺言について、遺言執行者が存在するものであるならば、原審としては、本訴は被告の
適格を欠く者に対する訴としてこれを却下すべきものであつたものといわなければならず、前記のように、遺
言執行者の存在することを窺うに足りる証拠が存在するのに拘らず、これを顧慮しないで本案の判断をした
原判決には、職権によつて調査すべき当事者適格に関する事項に関し審理を尽さなかつた違法があるか
ら、論旨について判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、右遺言執行
者の存否についてさらに審理を尽し、これを確定させるのを相当とするから、原審に差し戻すべきものとす
る。
 よつて、民訴法第四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭43・12・20最判 口授と筆記・読み聞かせが前後した公正証書遺言の効力
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
持分移転登記、共有物分割等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人遠矢良巳、同泥谷伸彦の上告理由第一点について。
 原審が確定した事実によれば、上告人らおよび被上告人らが本件不動産を共有取得するに至つた原因
は、訴外亡Aの特定遺贈にあるというのであるから、上告人らは、共有者の一員として通常裁判所における
共有物分割の請求により、右不動産の分割を求めることができるものといわなければならない。原判決に所
論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することが
できない。
 同第二点について。
 共有物分割請求訴訟が固有の必要的共同訴訟であることは、所論のとおりであるが、右訴訟においては、
共有者の全員が当事者であればよいのであつて、必ずしも、共有者の一人のみが原告として訴を提起しな
ければならないものではない(大審院大正一二年(オ)第二三三号同年一二月一七日判決民集二巻六八四
頁参照)。原判決には所論の違法はなく、論旨は、理由がない。
 同第三点について。
 原審の確定した事実によれば、遺言者たる訴外Aは、本件不動産を上告人らおよび被上告人らの四名に
均等に分け与えるものとし、その旨を公正証書によつて遺言することを決意した後、被上告人Bをして公証
人のもとに赴かしめ、公証人は、同被上告人から聴取した遺言の内容を筆記したうえ、遺言者に面接し、遺
言者および立会証人に既に公正証書用紙に清書してある右遺言の内容を読み聞かせたところ、遺言者は、
右遺言の内容と同趣旨を口授し、これを承認して右書面にみずから署名押印したというのである。したがつ
て、右遺言の方式は、民法九六九条二号の口授と同条三号の筆記および読み聞かせることとが前後したに
止まるのであつて、遺言者の真意を確保し、その正確を期するため遺言の方式を定めた法意に反するもの
ではないから、同条に定める公正証書による遺言の方式に違反するものではないといわなければならない
(大審院昭和六年(オ)第七〇七号同年一一月二七日判決民集一〇巻一一二五頁、同昭和九年(オ)第二
四八号同年七月一〇日判決民集一三巻一三四一頁参照)。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用しが
たい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭43・12・24最判 生前行為による撤回・否定例
最高裁判所第三小法廷(名古屋高等裁判所)
遺言執行者不存在確認等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人浜口雄、同江谷英男の上告理由第一および同人らの上告理由第一点ないし第三点ならびに
同下飯坂潤夫の上告理由および追加理由について。
 民法一〇二三条一項の規定は、前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、
後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす旨を定め、同条二項の規定は、遺言と遺言後の生前処分そ
の他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する旨を定めている。すなわち、同条二項は、遺言と遺言後
の生前処分その他の法律行為(以下単に生前処分という。)と抵触する場合には、その抵触する部分につい
ては、遺言を取り消したものとみなす旨を定めたものである。
 その法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもな
いが、他面において、遺言の取消は、相続人、受遺者、遺言執行者などの法律上の地位に重大な影響を及
ぼすものであることにかんがみれば、遺言と生前処分が抵触するかどうかは、慎重に決せられるべきで、単
に生前処分によつて遺言者の意思が表示されただけでは足りず、生前処分によつて確定的に法律効果が
生じていることを要するものと解するのが相当である。すなわち、遺言後に遺言者がした生前処分がその内
容において遺言に抵触するものであつても、それが無効であり、または詐欺もしくは強迫を理由として有効に
取り消されたときは、その生前処分は、はじめから法律行為としての本来の効力を生ぜず、または生じなか
つたことになるのであるから、その生前処分は遺言に抵触したものということはできない(民法一〇二五条但
書参照)。これと同様に、その生前処分が停止条件つきのものであるときは、その停止条件が成就したことが
確定されないかぎり、その生前処分は法律行為としての本来の効力をいまだ生じていないのであるから、そ
れが内容においてすでになされた遺言と抵触するものであつても、いまだ遺言に抵触するものということはで
きず、したがつて、遺言は取り消されたものとみなすことはできない。そして、このことは、右の停止条件がい
わゆる法定条件にあたる場合であつても、法律効果が生じていない点からみれば、同様に解することができ
る。
 ところで、一般に、財団法人の設立については、設立者の寄附行為と主務官庁の許可という二個の必要条
件があつて、財団法人の設立者のする寄附行為は、法人を設立しようとする効果意思と一定の財産をこれ
に帰属させようとする効果意思とを内容とする相手方のない単独行為で、一定の財産の出捐と寄附行為書
の作成によつてされるところ、その法律効果である財団法人が設立されるためには、主務官庁の許可をえる
ことが必要であつて、主務官庁の許可をえてはじめて財団法人が設立されることになる。その意味におい
て、財団法人の設立を目的とする意思表示は、主務官庁の許可という成否の未確定な将来の事実を法定の
停止条件とするものであると解するのが相当である。
 したがつて、遺言による寄附行為に基づく財団法人の設立行為がされたあとで、遺言者の生前処分の寄
附行為に基づく財団設立行為がされて、両者が競合する形式になつた場合において、右生前処分が遺言と
抵触し、したがつて、その遺言が取り消されたものとみなされるためには、少なくとも、まず、右生前処分の
寄附行為に基づく財団設立行為が主務官庁の許可によつて、その財団が設立され、その効果の生じたこと
を必要とし、ただ単に生前処分の寄附行為に基づく財団設立手続がされたというだけでは、その法律効果
は生じないから、遺言との抵触の問題は生ずる余地がないことは、前述したところから、明らかである。
 原判決の判示するところによると、Aが昭和三一年一月一三日原判決の遺言をもつて第一審判決の別紙
第一記載の財団法人清水育英会設立の寄附行為をしたこと、右Aが、その生前で、右遺言後の同三一年一
二月二五日第一審判決の別紙第二記載の財団法人三桝育英会設立の寄附行為をし、財団設立手続をした
が、これについていまだ主務官庁の許可がされていないというのであるから、右確定した事実のもとでは、右
生前処分にあたる財団法人三桝育英会設立の寄附行為は、まだその効力を生じていないというべきであつ
て、これだけでもつて、前記遺言による財団法人清水育英会設立の寄附行為と抵触すべき生前処分がある
と解することができないものといわなければならない。
 それゆえ、原判決は、前記説述とは異なるけれども、本件について、Aの遺言と生前処分との間に民法一
〇二三条二項にいう抵触が生じないとした結論は、結局、正当である。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の認定しない事実を前提として原判決を非難す
るか、または、独自の見解に立つて、原判決を非難するに帰し、採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭44・6・26最判 遺言による寄附行為と主務官庁の許可
第1小法廷判決(名古屋高等裁判所)
株券引渡等請求上告事件(棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点について。
 遺言による寄附行為に基づく財団法人の設立行為がされたあとで、遺言者の生前処分の寄附行為に基づく
財団設立行為がされて、両者が競合する形式になつた場合において、右生前処分が遺言と抵触し、したがつ
て、その遺言が取り消されたものとみなされるためには、少なくとも、まず、右生前処分の寄附行為に基づく
財団設立行為が主務官庁の許可によつて、その財団が設立され、その効果の生じたことを必要とし、ただ単
に生前処分の寄附行為に基づく財団設立手続がされたというだけでは、その法律効果は生ぜず、遺言との
抵触の問題は生じえないとするのが、当裁判所の判例(当裁判所第三小法廷判決、昭和四〇年(オ)第七〇
六号同四三年一二月二四日言渡)とするところである。
 ところで、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に判示するところによると、Aは、
昭和三一年一月一三日、当時所有していた被上告会社の株式三〇万四七六五株を出捐して原判決の別紙
第一記載の財団法人清水育英会の設立を目的とする寄附行為について、公正証書による遺言書を作成した
こと、Aは、右遺言書作成後その生前に、同人所有の現金二〇万円と同人が当時所有していた被上告会社
の株式二〇万株とを出捐して原判決の別紙第二記載の財団法人三桝育英会の設立を目的とする寄附行為
書を作成し、同三一年一一月二八日付でその設立許可申請が三重県教育委員会を通じて同年一二月二五
日付で主務官庁である文部省に対してされたが、その設立許可申請書は、同三三年三月二四日付の書面
で、Aあてに、文部省から運用資金を五〇万円とすることおよび役員構成を変更することを求めて返戻されて
きたこと、その後間もなくAは同三三年四月二二日死亡したこと、なお、同人の遺言に基づき被上告人らのな
した財団法人清水育英会設立許可申請書も文部省から返戻されたことが認められる。
 右確定した事実関係のもとでは、生前処分にあたる財団法人三桝育英会設立の寄附行為はまだその効力
を生じておらず、この生前処分が前記遺言による財団法人清水育英会設立の寄附行為に抵触するものとなし
えないことは、前記説示に照らして明らかである。
 原判決中には、右と異なる見解を前提とする説示もあるが、本件においては、Aのした遺言と生前処分との
間に民法一〇二三条二項にいう抵触は生じていないというのであるから、結局、原判決の結論は正当である。
 原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、前記説示と異なる独自の見解を前提として原判決を非難
するか、または、判決の結果に影響のない説示部分について原判決の違法をいうに帰し、失当として排斥を
免れない。
 同第四点について。
 原判決が適法に判示した事実関係のもとにおいては、Aの遺言による寄附行為の出捐財産である被上告会
社の本件株式三〇万四七六五株は、設立さるべき財団法人清水育英会の目的財産として、Aの死亡後、遺産
として相続人に渡された被上告会社の株式八五〇〇株その他の財産と分離されてきたもので、その株主名義
も、右財団法人の設立準備委員長B名義に書き換えられ、しかも、被上告会社の株主総会において同人名義
で議決権が行使され、本件株式は寄附行為者Aの個人財産から明確に分離され、実質的には個人の帰属を
離れた独立の存在として管理運用されてきており、また、被上告人Bは財団法人清水育英会の設立準備委員
長として文部省に対しその設立許可申請手続をし、同人は設立中の被上告財団の代表者的地位に立つて行動
していたというのである。
 そして、原判決の適法に判示するところによれば、被上告人BはAの死後、同人の遺言に基づいて遺言執行
者に就任し、遺言による寄附行為に基づく財団法人清水育英会を設立しようとして、みずから右財団の設立準
備委員長となり、Aの遺産である本件株式を財団法人清水育英会設立準備委員長B名義に書き換え、株式の
議決権を行使したというのであつて、Bは設立中の被上告財団の代表機関たる地位にあつたものといえる。
 してみれば、設立中の被上告財団が、民訴法四六条にいわゆる権利能力のない財団として当事者能力を有
するものとした原審の判断は、正当として是認することができる。
 ところで、遺言により遺言執行者が定められている場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行
を妨げるべき行為をすることはできなく(民法一〇一三条)、遺言執行者が、相続人に代わつて、相続財産の管
理その他遺言の執行に必要な一切の行為をなす権利義務を有し(民法一〇一二条一項)、そのために相当かつ
適切と認める行為をすることができる。
 これを本件について検討するに、設立中の被上告財団が権利能力なき財団としてその存立を認められるのは、
民法三四条による主務官庁の許可を得たうえで、財団法人清水育英会の設立されることを目的とする限度にお
いて、その社会的活動が認められるからであつて、この両者の関係は株式会社成立前における権利能力なき
社団たる設立中の会社と成立後の会社との関係に類似しており、たとい設立中の被上告財団が主務官庁の許
可を得ておらず、いまだ法人として成立していないとしても、権利能力なき財団たる被上告財団に本件株式の
権利を帰属させ、その代表機関名義に本件株式の名義を書き換えることは、遺言執行者としては、本件遺言
の目的の達成のために必要な行為をしたというべきであり、この行為をもつてその任務に背くものということは
できない。
 したがつて、遺言執行者たるBの右名義書換により、本件株式の権利は権利能力なき財団たる被上告財団
に完全に帰属し、相続人たる上告人らは本件株式についての権利を喪失したものと解するのが相当である。
 原判決の説示中には、これと異なる部分もあるが、論旨は、本件株式が相続財産として相続人たる上告人
らの権利に属することを前提として、原判決を非難するものであつて、この所論が前提を欠くものであることは、
前記説述したところに徴して明らかであり、論旨は結局失当として排斥を免れない。
 上告代理人浜口雄の上告理由第一点および第二点1ないし5(むすび中の照応論旨部分を含む。)、ならびに
追加上告理由について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点に対して判示したとおり
である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
 上告代理人浜口雄の上告理由第二点7および8(むすび中の照応論旨部分を含む。)について。
 所論は、本件株式につき上告人らが権利を有することを前提として原判決を非難するものであるが、その前提
を欠くことは、上告代理人江谷英男の上告理由第四点において判示したとおりであり、論旨は結局失当たるを
免れない。
 上告代理人下飯坂潤夫、同下飯坂常世の上告理由第一点、第二点および第四点、第五点について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点において判示したとおり
である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第三点について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第四点および上告代理人浜口雄の上告理由
第二点7、8において判示したとおりである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用に値いしない。
 なお、上告代理人江谷英男の上告理由第三点第二、同浜口雄の上告理由第二点6、同下飯坂潤夫、同下
飯坂常世の上告理由第三点中、預金通帳引渡請求に関する部分については、当審の口頭弁論期日において
、当該被上告人からその請求を認諾する趣旨の訴訟行為がなされて口頭弁論調書が作成され、その部分の
訴訟は終了しているから、右論旨について判断をすることはできない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。


昭44・9・8東京高判 相続人のない者からの包括遺贈と登記申請方法
東京高等裁判所?? ?? 第七民事部(新潟家裁佐渡支部)
遺言執行者選任申立却下審判に対する抗告事件
主    文
     原審判を取り消し、本件を新潟家庭裁判所佐渡支部に差し戻す。
         理    由
 本件抗告の要旨は、抗告状の記載事実を一件記録に照して理解すれば、Aが昭和
四四年四月一二日死亡したところ、同人には法定の相続人なく、その全遺産がBに
包括遺贈されていたので、抗告人は右遺贈による不動産所有権移転登記申請のため
右受遺者とともに新潟地方法務局両津出張所に赴いて問い合せたところ、受遺者と
遺言執行者の共同申請によらなければ右登記申請を受理できない旨の回答であつた
ので、抗告人は利害関係人として、原審に遺言執行者の選任を申し立てたところ、
原審はその選任の余地がないかまたはあつてもその必要性がないとして右申立を却
下する旨の審判をしたが、抗告人はこれに不服であるから本抗告に及んだとの趣旨
であると解される。
 <要旨>不動産の権利変動に関する登記については、わが不動産登記法は登記官の
いわゆる形式的審査主義を建前と</要旨>しているから、登記の真正を期するため同
法は登記権利者と登記義務者の共同申請によらしめることを基本的な原則としてお
り、ただ例外的に、同法第二七条において判決または相続による登記は登記権利者
のみで申請しうる旨規定して相続による登記につき判決による登記と同様に相続人
の単独申請を許しているのは、相続のように被相続人との身分関係によつて法定さ
れた権利義務の承継については、戸籍その他社会生活上の外部的関係から一応明ら
かなので、単独申請を認めても登記の真正保持の点からみてさしたる支障がないか
らであると解される。したがつて、遺贈のような意思表示による物権変動について
は、それが特定遺贈であれ包括遺贈であれ、同条のような例外的規定は、その明文
上からしても、はたまた立法趣旨からしても適用がないのであつて、民法第九九〇
条に包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有する旨規定されているからといつ
て、このことからただちに不動産登記法上包括受遺者の取得登記についてまで相続
人と同じく単独申請でなしうると解さなければならないわけのものではないのであ
る。すなわち、遺贈による不動産の取得登記は、判決による場合を除き、受遺者
(登記権利者)と遺言執行者または相続人(登記義務者)との共同申請によるべき
であつて、包括遺贈の場合も例外ではないと解すべきである(昭和三三年四月二八
日民事甲第七七九号法務省民事局長心得通達も同趣旨である。)。
 ところで、本件においては、遺贈者にはもともと法定相続人がなく、全遺産が包
括遺贈されたというのであるから、このような場合には、遺贈の効力が発生すると
ともに全遺産は受遺者に移転するから、その限りでは遺言の執行という観念を容れ
る余地がないけれども、遺贈による不動産の取得登記という点についてみれば、登
記義務者となるべき相続人がいないのであるから遺言執行者を選任して右登記手続
を完遂する必要性があるものといわなけばならない。してみれば、本件の場合に遺
言執行者を選任する余地がないか、あつてもその必要性が全く認められないとして
抗告人の本件申立を却下した原審判は不当であつて取消を免れず、本件を原審に差
し戻すのが相当であるから、主文のとおり決定する。

昭44・10・30最判 土地占有権の相続
最高裁判所第一小法廷(仙台高等裁判所)
田地所有権確認等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告人らの上告理由第一点、第二点および上告代理人寺井俊正の上告理由第一点について。
 自作農創設特別措置法による売渡を受けた後、本件土地につき耕作の事業を主宰していた者は、右土地
を所有していたAであり、B夫妻は、Aの両親として、Aのため、事実上右土地の耕作に従事していたにすぎ
なく、本件土地はAの自作地であつたものであり、被上告人はAから農地法所定の手続を経て適法に本件土
地の所有権を取得したものである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。
所論は、原判決の適法にした事実認定を非難するか、原判決の認定しない事実または原判決の認定と異な
る事実に基づいて原判決を非難するものであるが、原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 上告代理人寺井俊正の上告理由第二点について。
 被相続人の事実的支配の中にあつた物は、原則として、当然に、相続人の支配の中に承継されるとみる
べきであるから、その結果として、占有権も承継され、被相続人が死亡して相続が開始するときは、特別の
事情のないかぎり、従前その占有に属したものは、当然相続人の占有に移ると解すべきである。それ故、本
件においては、Bの死亡により相続が開始したときは、特別の事情のないかぎり、従前その占有に属したも
のは当然その相続人の占有に移るものというべく、特別の事情の認められない本件においては、本件土地
に対するBの占有は、その相続人である上告人らの占有に移つたものといわなければならない。これと結論
を同一にする原判決の判断は相当である。原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭44・12・15東京高判 養子縁組無効確認請求控訴事件
東京高等裁判所?? ?? 第九民事部
養子縁組無効確認請求控訴事件
 主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人ら訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決
を求めた。
 当事者双方の主張ならびに証拠の関係は左記を附加するほかは、原判決の事実摘
示のとおりであるから、これをここに引用する。
 証拠(省略)
         理    由
 公文書であるから真正に成立したものと推定される甲第一号証ないし同第三号
証、同第五号証、乙第一号証、同第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したも
のと認める甲第四号証、原審証人A、同B、同C、同Dおよび同Eの各証言を総合
すると、被控訴人が亡Fの実弟で同人を相続すべき地位にあること、控訴人Gが右
Fの内縁の夫訴外Cの孫で、控訴人HはGの夫であること。昭和四三年三月一八日
午後にFと控訴人両名との養子縁組届が館山市長に提出され、即日受理されたこと
およびFは昭和四三年三月一八日午前零時前後頃便所に行くため廊下に出かかつた
とき自室の入口附近で脳溢血で倒れ、同日午前一時頃医師の往診を受けたが、その
ときは既に意識消失昏睡状態等の重態であつて、その後も右のような状態を続け翌
一九日午前九時二〇分死亡したこと。本件の養子縁組届はCの長男Iの妻であるD
が同月一八日午後四時少し前頃館山市役所に戸籍係を訪れ戸籍係Aに代書を依頼
し、持参したFらの印鑑を用いて縁組を作成して戸籍係に提出し受理されたもので
あることがそれぞれ認めうれ他に右認定を左右し得る証拠はない。
 被控訴人は、Fと控訴人らとの間には養子縁組についての話合いないし、Fが縁
組届出の意思を表示したことがない。したがつて本件養子縁組は縁組の意思および
届出の意思を欠く無効のものであると主張する。
 しかしながら、いずれも真正に成立したものと認める甲第二号証、同第五号証、
第九号証、乙第十二号証の一、二、乙第二八号証および同第二九号証の各一、二原
審証人C、同J、同K、原審並びに当審証人Dの各証言および原審での控訴人H本
人尋問の結果を総合すると次の各事実を認めることができる。
 Fは大正一〇年頃千葉県下で茶屋の女中奉公をしていたがCにいわゆる身請をさ
れて同人と内縁の夫婦となり館山市内で同棲するようになつた(Cは養子であつた
関係上、養親の反対でFを入籍することは許されなかつた)。Cは終戦時までは牛
馬商をしていて出稼ぎをしていたが、その後館山市内に落付き、F所有名義の土地
建物でFと共に料理店、旅館等を経営し、Fの死亡当時はアパートを経営するなど
して約五〇年来右両名は事実上の夫婦として生活を共にしてきた。
 Fは昭和三一年九月七日被控訴人の四女Bと養子縁組をし、その届出をしたが、
事情があつて昭和三四年六月二六日協議離縁し、さらに昭和三七年一二月一九日再
度養子縁組をしてその届出をしたところ昭和三九年一月二〇日同女が結婚すること
になつたため再び協議離縁をした。その後Lや控訴人Gの妹Mを養子にしようとし
たがいずれも実現するに至らなかつたところから、老後その他将来のことを慮りC
と相談のうえ同人の孫である控訴人G夫婦を養子にしようと考え昭和四二年一一月
頃JやNを介して控訴人Gの両親や控訴人らに対しその交渉をした。始め控訴人ら
は右Fの申出を断つていたが、再三に亘る申出により結局同年一二月中頃控訴人ら
はFの養子となることを承諾した。そこで、Fはさつそく建物を増築して控訴人夫
婦を住まわせる用意をし、早急に養子縁組の届出をすることにしてGの母であるD
に印鑑を預けてその届出をすることを依託した。しかし、その頃控訴人Gは妊娠中
で翌年三月一八日頃が出産予定(三月五日出産)であつたので、出産してから届出
をするつもりでいたところ、Fが同年三月一五日までに所得税の申告をするため、
判が必要であるというので、同月一日頃Fから預つていた印鑑を一たん返還するこ
となどの事情があつてその届出が遅れていた。そうしている内に前示のように昭和
四三年三月一八日未明Fは脳溢血で倒れ、介抱していたCに対し控訴人らの入籍の
ことを口走るなどしたので、同日午後四時少し前頃前記のようにかねてFの依頼を
受けていたDがさらにFの印鑑を預つて館山市役所に至り戸籍係に依頼して本件養
子縁組届を作成して届出をなしそれが受理された。
 以上の事実が認められ原審証人Bの証言中右認定に反する部分は信用し難く他に
この認定を左右し得る証拠はない。
 右認定の事実によるとFと控訴人両名との間には昭和四二年一二月中既に養子縁
組の合意が成立していたものと認むべきである。
 被控訴人は、Fは上記養子縁組の届出がなされた昭和四三年三月一八日には意識
を消失し、意思能力を有しなかつたのであるから右届出は無効であると主張する。
 <要旨>しかし、養子縁組の届出は他人にその届出人の氏名を代書させ若くは押印
を代行させることによつてするこ</要旨>とも許される(戸籍法施行規則第六二条)
ところであり、Fが控訴人らと養子縁組をする意思を有し且つその届出をDに依託
していたものであることは前記認定のとおりであるから、本件届出が受理された昭
和四三年三月一八日当時Fが意識消失の状態に在つたとしても届出の受理前に死亡
した場合と異りその届出の受理前にFが控訴人らと養子縁組をすることを翻意する
など特段の事情の認めうれない本件においては前記認定の養子縁組届の受理によつ
てFと控訴人らの養子縁組は有効に成立したものと解するを相当とする。
 以上のとおりであるから、昭和四三年三月一八日館山市長宛届出られたFと控訴
人両名との養子縁組の無効確認を求める被控訴人の請求は失当として排斥を免れな
い。
 よつて、右と異る見解のもとに被控訴人の本訴請求を認容した原判決は不当であ
り本件控訴は理由があるから民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条を適用して主
文のとおり判決する。

昭45・3・17東京高判 遺言書の秘匿が相続欠格事由にあたるとされた事例
東京高等裁判所?? ?? 第二民事部
不動産取得登記抹消登記手続請求控訴事件
主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人は控訴人等に対し別紙目録(一)記載の不動産につき東京法務
局北出張所昭和参拾参年五月弐日受付第壱〇七四壱号及同日受付第壱〇七四参号を
以てなされある所有権移転登記、別紙目録(二)の不動産につき同出張所同日受付
第壱〇七四壱号を以てなされある所有権移転登記及び別紙目録(三)の不動産につ
き同出張所同日受付第壱〇七四参号を以てなされある所有権移転登記の各抹消登記
手続をなすべし。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、主文第一ないし第三項と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控
訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次に附加訂正するもののほかは原
判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 (控訴代理人の陳述)
 一 亡Aの二男Bは昭和三十九年十二月十四日死亡し、その妻子である控訴人
C、同D、同E及び同Fが相続により亡Bの権利義務一切を承継した。
 また、亡Aの四男Gも昭和四十三年十一月十日死亡し、その妻子である控訴人
H、同I及び同Jが相続により亡Gの権利義務一切を承継した。
 二 被控訴人は昭和三十年二月十六日付自筆遺言書に基き遺贈を受けてその所有
権を取得したとして別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の
(1)の不動産及び別紙目録(二)記載の不動産につき東京法務局北出張所昭和三
十三年五月二日受付第一〇七四一号を以て、また別紙目録(一)記載の不動産のう
ち区画整理による合筆前の(2)ないし(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の
1ないし10の不動産につき同出張所同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転
の登記手続を経由した。しかして、別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不
動産はその後区画整理により合筆された。
 よつて、被控訴人に対し相続回復請求権に基き控訴の趣旨記載のとおり所有権移
転登記の抹消登記手続をなすべきことを求める。
 三 被控訴人主張の抗弁事実は争う。
 控訴人等が相続権を害された事実を知つたのは、被控訴人が昭和三十八年八月頃
亡Aの遺産の一部を売却して豪勢な邸宅を新築したということであつたので、控訴
人Gが同月七日管轄登記所において調査した結果、被控訴人が亡Aの遺産について
その単独名義による所有権移転登記を経由していることを発見した時であつて、そ
の翌年本訴を提起したのであるから、相続回復請求権について消滅時効は完成して
いない。
 (被控訴代理人の陳述)
 一 控訴代理人主張の事実中、B及びGが死亡し、その主張のように相続により
権利義務の承継がなされたこと及び別紙目録(一)ないし(三)の各不動産につき
その主張のように被控訴人のため所有権移転登記がなされ、別紙目録(一)記載の
(1)ないし(4)の不動産が区画整理により合筆されたことは認める。
 別紙目録(一)記載の(2)ないし(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1
ないし10の不動産についての所有権移転の登記原因が亡A死亡の日である昭和三
十年七年七日遺贈ではなく、昭和三十三年二月十九日遺贈となつているのは農地法
第三条による農地の所有権移転についての都知事の許可のあつた日が所有権移転の
効力を生じた日となつていることによるものである。
 二 仮に、被控訴人が被相続人である亡Aの遺言書を隠匿したものであるとして
も、控訴人等の相続回復の請求権はすでに時効によつて消滅した。
 すなわち、相続回復の請求権は相続権を害された事実を知つた時から五年間これ
を行わないときは、時効によつて消滅するものであるところ、被控訴人は昭和三十
年七月七日亡Aが死亡してより本件遺言に基き遺産全部が自己の所有となつたもの
と信じ、その相続税、固定資産税を納付し地代を収取する等これを管理処分してい
るのであるが、右管処分はとりもなおさず控訴人等の相続権の侵害にほかならない
ものであるから、控訴人等は亡A死亡の日である右昭和三十年七月七日相続権侵害
の事実を知つたものというべきである。仮に控訴人等が右同日被控訴人による相続
権侵害の事実を知なかつたとしても、昭和三十二年九月六日東京家庭裁判所におい
て本件遺言書の検認がなされた際控訴人等は被控訴人が亡Aから全相続財産の遺贈
を受け、右遺贈に基き遺産全部を管理処分するものであること及び被控訴人が右検
認の日まで本件遺言書を隠匿したものであつて、受遺欠格者であるから、遺産全部
について所有権を取得すべき理由がなく、被控訴人が控訴人等の相続権を侵害した
ことを知つたものというべきである。従つて、控訴人等の被控訴人に対する相続回
復の請求権は、亡Aの死亡の日から起算し満五年を経過した昭和三十五年七月七日
の終了とともに若しくは本件遺言書検認の日から起算し満五年を経過した昭和三十
七年九月六日の終了とともに時効によつて消滅したものである。
 (証拠)
 控訴代理人は、甲第十六号証の一ないし三、第十七ないし第十九号証を提出し、
甲第十六号証の一ないし三は昭和四十二年一月十四日被控訴人の居宅を撮影した写
真であると附陳し、当審証人Kの証言及び当審での控訴人L本人尋問の結果を援用
し、乙第三号証の一ないし四の成立を認めると述べた。
 被控訴代理人は、乙第三号証の一ないし四を提出し、当審証人Kの証言及び当審
での被控訴本人尋問の結果を援用し、甲第十六号証の一ないし三が控訴代理人主張
のような写真であること及び同十七ないし第十九号証の成立は認めると述べた。
         理    由
 一 別紙目録(一)ないし(三)記載の各不動産(以下一括して本件各不動産と
いう)がいずれも亡Aの所有であつたこと、亡Aは昭和三十年七月七日死亡し、M
はその妻、被控訴人はその長男、亡Bはその二男、控訴人Nはその長女、Oはその
二女、控訴人Pはその三女、Qはその三男亡Rの子である代襲相続人、亡Gはその
四男、控訴人Lはその五男、Kはその四女であつて、いずれも本件各不動産を含む
亡Aの権利義務一切を承継すべき相続人であること、Bは本訴提起後の昭和三十九
年十二月十四日死亡し、その子である控訴人C、控訴人D及び控訴人E並びに妻で
ある控訴人Fが相続により亡Bの権利義務一切を承継したこと、またGは昭和四十
三年十一月十日死亡し、その子である控訴人H及び控訴人I並びに妻である控訴人
Jが相続により亡Gの権利義務一切を承継したこと、しかるところ、被控訴人は、
遺言執行者S弁護士の手により、昭和三十年二月十六日付自筆遺言証書により亡A
から本件各不動産の遺贈を受けてその所有権を取得したとして別紙目録(一)記載
の不動産のうち区画整理による合筆前の(1)の不動産及び別紙目録(二)記載の
不動産につき東京法務局北出張所昭和三十三年五月二日受付第一〇七四一号を以
て、別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(2)ないし
(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1ないし10の各不動産につき同出張所
同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転の登記手続を経由したこと、並びにそ
の後別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不動産が区画整理により合筆され
たことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一ないし第十二号証及び乙第一
号証並びに原審証人Sの証言によると、右第一〇七四一号を以て被控訴人のためな
されある所有権移転登記は亡A死亡の日である昭和三十年七月七日遺贈を登記原因
とするのに対し、第一〇七四三号を以て被控訴人のためなされある所有権移転登記
は昭和三十三年二月十九日遺贈を登記原因とするものであるが、右は目的不動産が
農地であつたため所有権移転につき東京都知事の許可のあつた日である昭和三十三
年二月十九日を以て遺贈の効力発生の日としたがためであることが認められる。
 二 そこで、被控訴人が亡Aの自筆遺言書を隠匿したものであるかどうかについ
て判断する。
 成立に争のない甲第十三号証の一、同号証の一の一ないし八、同号証の二ないし
十、同第十四号証の一の一、二、同号証の二、三、同号証の四の一、二、同号証の
五ないし八、同号証の十二、同第十五号証の一の一ないし三、同号証の二、三、乙
第三号証の一ないし四、本件弁論の全趣旨により成立を認め得る甲第十九号証、亡
B及び控訴人P作成部分の成立に争がなく原審での被控訴本人尋問の結果によりそ
の余の部分の成立を認め得る乙第二号証、原審証人T、U(後記措信しない部分を
除く)並びに原審及び当審証人K(後記措信しない部分を除く)の証言、原審での
控訴人N及び死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴人L及び被控訴人(後
記措信しない部分を除く)各本人尋問の結果をあわせると次のような事実を認める
ことができる。
 1 亡Aは昭和三十年二月十六日分家のV、W立会の上妻Mと連署で、住宅一棟
物置一棟、宅地四百四十六坪、田地五千六百七十二坪からなる全財産を長男である
被控訴人に無償譲渡する旨の「遺言証」を作成し、これを被控訴人に交付したこ
と、当時亡Aの四女Kは未だ神山家に嫁す前で亡A、M及び被控訴人と同居し、右
「遺言証」が作成され、これが被控訴人に交付された事実を知つていたこと
 2 ところで、被控訴人は父Aの死亡後、かねてから被控訴人の居住する近辺で
長男のみが全相続財産を包括的に相続している例のあることを聞き知つていたの
で、昭和三十年十月六日項豊島簡易裁判所附近の司法書士のもとを訪れ、全遺産を
単独で相続するにはどうしたらよいかを相談したところ、司法書士から右遺言書に
よらず被控訴人以外の全相続人に相続放棄をしてもらうのが一番簡便であるとの助
言を受けたこと、しかるにその時はすでに亡Aの死亡から三箇月になんなんとし相
続の承認又は放棄をなすべき期間満了の直前であつたので、被控訴人は右同日右司
法書士の勧告に基き事後に了解を得ることとし、無断で有合わせ印を使用して急拠
亡Gを除き当時存命の亡Aの相続人九名の名義を以て、相続放棄の期間伸長の審判
申立書を作成してもらい、これを東京家庭裁判所に提出したこと、ところで、昭和
三十年十一月十六日頃同家庭裁判所において右申立に基く調査がなされたところ、
右申立は被控訴人が他の相続人には無断でその名においてしたものである上、その
相続分の放棄に同意しているものとみられるのは、僅かに亡Aの妻Mと、亡B、控
訴人P、Q及びKのみであつて、他の相続人、ことに亡Gは相続放棄をする意思は
なく、相続分に応じて亡Aの遺産を分割すべきことを主張しており、かつまた相続
放棄の申述期間の伸長をなすべき理由は全く存しないことが明らかとなつたので、
東京家庭裁判所は被控訴人及び控訴人等相続人に対し右申立を取下げるよう勧告
し、右申立は同日頃取下げられたこと
 3 ところが、被控訴人は亡Aから、「遺言証」なる自筆遺言書の交付を受けて
以来これを保管していたが、東京家庭裁判所において右の調査がなされた際にあつ
ても本件遺言書の存在及びその内容を同じ相続人である控訴人等には一言も洩さ
ず、これを知る末妹Kも他の相続人である控訴人等には被控訴人の保管する遺言書
の存在については全く話をしなかつたこと、しかも、被控訴人は控訴人等なかでも
亡G及び控訴人Lがしばしば亡Aの遺産の幾分かを分けてくれるよう頼んでも言を
左右にしてこれを相手にせず遺産の分割をしようとしなかつたこと
 4 しかるところ、昭和三十二年八月頃被控訴人は王子税務署から亡Aの遺産相
続による相続税の納付の件につき呼出を受け、その相続の実情等について質問され
たので、自己の保管する本件遺言書を持参してこれを示したところ、担当税務署員
から右遺言書によつて遺産を包括承継するには法律専門家に相談するのが最も良策
であろうとの示唆を得たこと、そこで、被控訴人は同区内に居住するS弁護士のも
とに赴いて右遺言書によつて亡Aの遺産全体を承継する方途について相談したとこ
ろ、同弁護士から右遺言書に基き本件各不動産につき被控訴人への所有権移転登記
をする等これを執行するには、まず何よりも家庭裁判所の検認を受ける必要がある
旨を教示され、その指示に従い昭和三十二年八月十二日東京家庭裁判所に対し本件
遺言書による遺言の執行者選任の申立を、翌十三日本件遺言書検認請求の申立を
し、同年九月六日同家庭裁判所においてS弁護士を遺言執行者に選任する旨の審判
がなされるとともに、本件遺言書の検認期日が開かれ、相続人のうちM及び左眼緑
内障等のため出頭できなかつた控訴人Lを除き他の相続人である被控訴人、亡B、
控訴人N、O、控訴人P、控訴人Qの法定代理人X、亡G及びKが出頭し、その尋
問陳述が行われ、検認の手続がなされたこと、ここにおいてはじめて亡B、控訴人
N、O、控訴人P、X及び亡Gは亡Aがその所有してい九不動産を包括して被控訴
人に遺贈する旨の遺言が存在していることを知つたこと、しかして、S弁護士はそ
の後Aの遺産につき財産目録を九通調製したが、被控訴人が他の相続人に交付する
というので、調製した財産目録を九通全部被控訴人に手交したところ、被控訴人は
右財産目録全部を自らの手にとどめ、他の相続人には一通もこれを交付しなかつた
こと
 以上のように認められる(以上認定の事実のうち、昭和三十年十月六日東京家庭
裁判所に対し相続放棄の申述期間伸長の申立書が提出され、同年十一月十七日右申
立が取下げられたこと及び被控訴人が昭和三十二年八月十二日同家庭裁判所に対し
亡Aの本件遺言書につき遺言執行者選任の申立を、翌十三日右遺言書検認請求の申
立をなし、同年九月六日東京家庭裁判所においてS弁護士を遺言執行者に選任する
旨の審判がなされるとともに本件遺言書検認の手続がなされたことは当事者間に争
がない。)右認定に反する原審証人U、原審及び当審証人Kの証言並びに原審及び
当審での被控訴本人尋問の結果は措信することができない。就中、被控訴人が亡A
の葬儀の行われた昭和三十年七月八日頃出棺直前に控訴人等相続人に対し本件遺言
書の存在とその内容を知らしめたとする右各証言及び供述は前掲甲第十三号証の一
の存在、同第十四号証の五及び八の記載に照らしとうてい措信することのできない
ものといわざるを得ない。
 <要旨>右認定の事実によつて考えると、被控訴人は「遺言証」なる本件自筆遺言
書の交付を受けていながら、被相</要旨>続人である亡Aの生前はもとよりその死亡
後も他の相続人である控訴人等ことに亡G及び控訴人Lから異議の出ることを恐
れ、控訴人等に対しては右遺言書の存在を固く秘匿し、亡Aの死亡後相続の承認又
は放棄をなすべき三箇月の期間満了間際の昭和三十年十月六日頃法律知識のある司
法書士に本件遺言書のとおり亡Aの遺産全部を自分独りで承継取得する方法につい
て相談した結果、控訴人等を含む他の相続人全員に相続の放棄をさせるよりほかに
よい方法がないとの結論に達し、時あたかも右相続放棄の申述をなすべき三箇月の
期間の満了間際であつたので、同日取敢えず他の相続人の名義をも冒用して東京家
庭裁判所に右期間伸長の請求をし他の相続人全員に相続放棄をさせようとしたが、
亡G等が放棄を肯んじなかつたため右の方策は不成功に終り、そのまま亡Aの遺産
相続については何等の処置もなされずに打ち過ぎていたところ、亡Aの死亡後二年
余を経過した昭和三十二年八月頃相続税の納付の件で税務署に呼出されたことが契
機となつてS弁護士に相談し、亡Aの遺言の内容の実現を図るため東京家庭裁判所
に対し遺言執行者に同弁護士を選任すること及び本件遺言書の検認を請求し、ここ
にはじめて控訴人等を含む他の相続人に対しても本件遺言書の存在を公表するに至
つたものであつて、被控訴人は亡Aの死亡後直ちに本件遺言書を公表するときは、
控訴人等他の相続人から遺留分減殺請求権の行使を受け、本件遺言書のとおり亡A
の遺産全部を自分独りで取得できなくなることを恐れ、亡Aの遺産全部を何んとか
独りで承継しようとして亡G及び控訴人L等の遺産分割請求を卻け、相続税納付の
必要に迫まられて本件遺言書の検認請求をなすまでこれを公表せず、本件遺言書を
隠匿していたものと判断するのが相当である。
 そうとすると、被控訴人は本件遺言書により亡Aからその全遺産の遺贈を受けた
が、相続に関する被相続人の遺言書を隠匿した者として、民法第八百九十一条第五
号及び第九百六十五条の規定により、亡Aの遺産について受遺者たるの資格のみな
らず相続人たるの資格をも失つたものといわざるを得ない。
 三 しかるに、被控訴人は控訴人等の相続回復請求権はすでに時効により消滅し
た、と主張する。
 相続回復の請求権が相続権を侵害された事実を知つた時から五年間これを行わな
いときは、時効によつて消滅するものであることは民法第八百八十四条の規定の明
定するところである。本件で問題となるのは、時効の起算点である「相続権を侵害
された事実を知つた時」が何時であるかという問題であるが、右にいら「相続権を
侵害された事実を知つた時」とは被相続人の遺産の全部又は一部について、無権利
者により、明示的に又は黙示的に、真正の相続人を排除して相続、遺贈等によつて
権利を取得したとの主張がなされた事実が存在し、真正の相続人がこの事実を知つ
た時をいうものと解するのが相当である。
 ところで、前掲乙第三号証の一ないし四、原審での控訴人N、当審での控訴人L
並びに原審及び当審での被控訴人各本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせる
と、被控訴人は亡Aの生前これと同居し、生計を一にしていたものであり、亡Aの
死亡後も同人と同様にその遺産である本件各不動産について固定資産税の納付及び
地代の収取をする等これを管理していたことを認めることができる。しかし、さき
に認定したように、被控訴人は控訴人等に対し、亡Aの死亡後本件各不動産を被控
訴人に遺贈する旨の前示遺言書の存在を秘匿し、控訴人等も本件遺言書の存在を知
らず、従つて被控訴人が本件各不動産の全部を自己単独の所有に帰したものとして
管理しているものとは考えていなかつたことが明らかであるから、被控訴人が亡A
の死亡後同人と同様その遺産である本件各不動産を管理しており、控訴人等がこの
事実を知つていたからといつてこのことから直ちに控訴人等が被控訴人によつて自
己の相続権を侵害された事実を知つたものということはできない。
 次に、昭和三十二年九月六日東京家庭裁判所において行われた本件遺言書検認の
際、出頭した亡B、控訴人N、O、控訴人P、X(相続人Qの法定代理人親権者)
及び亡Gがはじめて本件遺言書の存在を知るにいたつたものと認められることはさ
きに説示したとおりであり、また、原審での死亡前の控訴人G並びに原審及び当審
での控訴人L各本人尋問の結果からすると、控訴人Lは右検認期日に出頭しなかつ
たが、亡Gの隣家に居住していたことが認められるから、同控訴人もまた同じ頃本
件遺言書の存在を知つたものと推認することができる(原審での控訴人L本人尋問
の結果中には一部これに反する部分があるが、措信できない。)。しかし、原審証
人Tの証言、原審での控訴人N及び死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴
人L各本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせれば、控訴人等(控訴人C、
D、E及びFについては亡B、控訴人H、I及びJについては亡G)は、被控訴人
から、同人がこれらの者を含む他の相続人を排除して本件各不動産の単独の所有者
となつた旨を告げられたこともなく、また、前示のような内容の本件遺言書がある
だけでは控訴人等の相続権が否定されて本件各不動産が被控訴人の単独所有となつ
たものとは考えず、本件各不動産は被控訴人及び控訴人等を含む相続人全員の共有
となつているものと信じていたこと、しかるに亡G及び控訴人Lは昭和三十八年八
月頃被控訴人が亡Aの遺産である不動産を売却して住居を新築していることを知
り、被控訴人が他の相続人である自分達の同意を得ずして亡Aの遺産を売却できる
ことに疑問を持ち、計理士のYとともに三名同道の上登記所に赴いて亡Aの所有で
あつた本件各不動産の登記簿を調査したところ、前記認定のように本件各不動産に
ついて昭和三十三年五月二日受付で被控訴人のため遺贈を原因とする所有権移転登
記がなされていることを発見し、ここにはじめて控訴人等を含む被控訴人以外の相
続人が本件各不動産について相続から排除されていることを覚知したことが認めら
れる。原審証人Sの証言中には、同証人は本件遺言書検認の際東京家庭裁判所にお
いて遺言執行者として当日出頭していた亡G及び控訴人N等に対し本件各不動産全
部を本件遺言書に基き被控訴人名義に所有権移転登記手続をなす旨述べ亡G等はこ
れを了承したとの部分があるが、前掲甲第一四号証の六ないし八、同号証の十一、
十二、原審証人Tの証言、原審での死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴
人L各本人尋問の結果によると、被控訴人を除く他の相続人のうち亡G等四名の相
続人は相続分に応じて遺産の分割をなすべきことを強く主張していたことが明らか
であるから、亡G等が本件各不動産につき被控訴人に対する所有権移転登記手続を
なすことを了承したものとは到底信じ難く、従つて、右Sの証言部分は措信し難
く、他に右認定の事実を覆すに足りる措信すべき証拠は存在しない。
 右認定の事実によれば、法律知識に乏しい控訴人等としては、本件遺言書の検認
を機会に右遺言書の存在を知つたが、被控訴人が遺言書を隠匿したかどにより受遺
者及び相続人たる資格を失つたことに気づかなかつたことはもとより、亡Aの遺産
は被控訴人を含む相続人全員において共同相続をしたものと信じていたことも無理
からぬことというべく、民法第八百八十四条の規定の適用の関係においては、控訴
人等が本件遺言書検認の際遺言書の存在を知つたとの一事から直ちにその相続権を
侵害された事実を知つたものということはできず、控訴人等が右事実を知つた時期
を、昭和三十八年八月頃に行われた亡G及び控訴人Lによる本件各不動産の登記簿
調査の時より以前に遡らせることはできないものと解するのが相当である。
 被控訴人は亡A死亡の時か、又は本件遺言書検認の時に控訴人等が相続権を侵害
されたことを知つたものと主張するが、上に説示したとおり、右主張は採用し難い
ものといわなければならない。
 しかして、控訴人等が被控訴人に対し本件訴訟を提起したのが昭和三十八年八月
から起算して五年以内であることは本件記録に徴し明らかであるから、控訴人等の
相続回復請求権は時効により消滅したものとはいうことができず、被控訴人の消滅
時効の主張は理由がない。
 四 してみると、被控訴人は受遺欠格者として亡Aより遺贈を受けた本件各不動
産はすべてこれを相続人である控訴人等に回復すべきである。従つて、被控訴人は
本件各不動産につき右遺贈を原因としてなされある前記所有権移転登記はその登記
原因を欠く無効なものであるから、控訴人等に対しその抹消登記手続をなすべき義
務があるものといわなければならない。
 さすれば、控訴人等の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これを排斥した
原判決は不当であるから、民事訴訟法第三百八十一条の規定によりこれを取消して
控訴人等の請求を認容することとし、訴訟費用の負担について同法第八十九条及び
第九十六条の規定を適用して主文のとおり判決する。

昭46・1・26最判 遺産分割の遡及効と対抗要件
最高裁判所第三小法廷(広島高等裁判所)
持分更正登記手続承諾請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人鍋谷幾次の上告理由第一点について。
 所論の原判示(A)(B)各不動産についての所有権保存登記が、本件遺産分割前の共有関係の実体に合
致しないため、更正されるべきものであるという点は、上告人らが原審において主張していなかつたところで
あるから、この点を前提にして原判決の判断の違法をいう論旨は、採用することができない。
 同第二点について。
 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係に
おいては、相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異な
らないものであるから、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法一
七七条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、
分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないも
のと解するのが相当である。
 論旨は、遺産分割の効力も相続放棄の効力と同様に解すべきであるという。しかし、民法九〇九条但書の
規定によれば、遺産分割は第三者の権利を害することができないものとされ、その限度で分割の遡及効は
制限されているのであつて、その点において、絶対的に遡及効を生ずる相続放棄とは、同一に論じえないも
のというべきである。遺産分割についての右規定の趣旨は、相続開始後遺産分割前に相続財産に対し第三
者が利害関係を有するにいたることが少なくなく、分割により右第三者の地位を覆えすことは法律関係の安
定を害するため、これを保護するよう要請されるというところにあるものと解され、他方、相続放棄について
は、これが相続開始後短期間にのみ可能であり、かつ、相続財産に対する処分行為があれば放棄は許され
なくなるため、右のような第三者の出現を顧慮する余地は比較的乏しいものと考えられるのであつて、両者
の効力に差別を設けることにも合理的理由が認められるのである。そして、さらに、遺産分割後においても、
分割前の状態における共同相続の外観を信頼して、相続人の持分につき第三者が権利を取得することは、
相続放棄の場合に比して、多く予想されるところであつて、このような第三者をも保護すべき要請は、分割前
に利害関係を有するにいたつた第三者を保護すべき前示の要請と同様に認められるのであり、したがつて、
分割後の第三者に対する関係においては、分割により新たな物権変動を生じたものと同視して、分割につき
対抗要件を必要とするものと解する理由があるといわなくてはならない。
 なお、民法九〇九条但書にいう第三者は、相続開始後遺産分割前に生じた第三者を指し、遺産分割後に
生じた第三者については同法一七七条が適用されるべきことは、右に説示したとおりであり、また、被上告人
らが本件遺産分割の事実を知りながら本件各不動産に対する仮差押をしたものとは認められないとした原
判決の事実認定は、挙示の証拠に照らして肯認することができるところであるから、論旨のうち被上告人らの
悪意を主張して同法九〇九条但書の不適用をいう部分は、すでに前提において失当というべきである。
 したがつて、上告人らは遺産分割による共有持分の取得をもつて被上告人らに対抗することができないと
した原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭46・7・23最判 離婚による慰籍料と財産分与との関係
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
慰藉料請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人吉永嘉吉の上告理由第一点について。
 本件慰藉料請求は、上告人と被上告人との間の婚姻関係の破綻を生ずる原因となつた上告人の虐待等、
被上告人の身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由とするものではなく、被上告人において、
上告人の有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことを理由としてその損害の賠償を求める
ものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものであるから、個別の違法
行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても、離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右
の損害を知りえたものとすることは相当でなく、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するな
ど、離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損
害の発生を確実に知つたこととなるものと解するのが相当である。原判決(その引用する第一審判決を含
む。以下同じ。)の確定した事実に照らせば、本件訴は上告人と被上告人との間の離婚の判決が確定した後
三年内に提起されたことが明らかであつて、訴提起当時本件慰藉料請求権につき消滅時効は完成していな
いものであり、原判決は、措辞適切を欠く部分もあるが、ひつきよう、右の趣旨により上告人の消滅時効の主
張を排斥したものと解されるのであるから、その判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違
法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離
婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあた
りその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、
相手方の有毒な行為によつて離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、
その性質を必ずしも同じくするものではない。したがつて、すでに財産分与がなされたからといつて、その後
不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。もつとも、裁判所が
財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいつさ
いの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有毒の配偶者であつて、そ
の有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被つた精神的損害を賠償すべき義務を負うと認め
られるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解す
べきである。そして、財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さら
に請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに、その額を定め
るにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、こ
のような財産分与によつて請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重
ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。しかし、財産分与がなされても、それが
損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求
者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一
事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藷料
を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。所論引用の判例(最高裁昭和二六年(オ)四
六九号同三一年二月二一日第三小法廷判決、民集一〇巻二号一二四頁)は、財産分与を請求しうる立場
にあることは離婚による慰藉料の請求を妨げるものではないとの趣旨を示したにすぎないものと解されるか
ら、前記の見解は右判例に牴触しない。
 本件において、原判決の確定したところによれば、さきの上告人と被上告人との間の離婚訴訟の判決は、
上告人の責任のある離婚原因をも参酌したうえ、整理タンス一棹、水屋一個の財産分与を命じ、それによつ
て被上告人が右財産の分与を受けたというのであるけれども、原審は、これをもつて、離婚によつて被上告
人の被つた精神的損害をすべて賠償する趣旨を含むものであるとは認定していないのである。のみならず、
離婚につき上告人を有責と認めるべき原判決確定の事実関係(右離婚の判決中で認定された離婚原因もほ
ぼこれと同様であることが記録上窺われる。)に照らし、右のごとき僅少な財産分与がなされたことは、被上
告人の上告人に対する本訴慰藉料請求を許容することの妨げになるものではないと解すべきであり、また、
右財産分与の事実を考慮しても、原判決の定めた慰藉料の額をとくに不当とすべき理由はなく、本訴請求の
一部を認容した原判決の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採
用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭46・11・16最判 遺贈と登記
最高裁判所第三小法廷(福岡高等裁判所)
遺産確認等請求
主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用および上告費用は被上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人山口定男の上告理由第一点について。
 原審は、訴外Aが昭和二四年一一月六日死亡し、訴外Bが同人の妻として、訴外C、第一審被告D、同Eお
よび上告人がAの子として、第一審被告F、同GがAの子訴外H(昭和二〇年五月八日死亡)の子としてHを
代襲してそれぞれAの遺産を相続したこと、第一審判決別紙目録(一)および(二)記載の物件(ただし、同目録
(二)記載の物件は同目録(一)9記載の物件を含む。以下右(一)および(二)の物件を一括して本件不動産とい
う。)はAの遺産に属すること、したがつて、本件不動産につき、Bは三分の一の、上告人は一五分の二の共
有持分をそれぞれ取得したこと、ところがBは、右共有持分を昭和二八年一〇月一六日Cに贈与したが(以
下、本件贈与という。)登記未了のまま昭和三三年三月一九日上告人に遺贈し(以下、本件遺贈という。)、
遺言執行者にIを指定する旨の遺言公正証書を作成し、昭和三四年三月一二日死亡するに至つたこと、他
方、Cはこれより先昭和三一年三月二七日に死亡し、被上告人JがCの妻として、その余の被上告人らが同
人の子として同人の権利義務をその法定相続分に応じて承継したこと、そして、上告人が、本件不動産につ
き、昭和三五年三月一五日福岡法務局同日受付第六七二五号をもつてAの死亡による相続を原因として共
同相続登記をなすとともに、同法務局同日受付第六七二六号をもつて昭和三四年三月一二日付遺贈を原因
としてBの前記三分の一の共有持分の取得登記手続を経由したこと、以上の事実を適法に確定したもので
ある。
 所論は、要するに、本件贈与と遺贈とは不動産の二重譲渡と同様、その優劣は対抗要件たる登記の有無
によつて決すべきであり、これと異なつた見解に立つ原判決は法令の解釈、適用を誤つたというものである。
 思うに、被相続人が、生前、その所有にかかる不動産を推定相続人の一人に贈与したが、その登記未了
の間に、他の推定相続人に右不動産の特定遺贈をし、その後相続の開始があつた場合、右贈与および遺
贈による物権変動の優劣は、対抗要件たる登記の具備の有無をもつて決すると解するのが相当であり、こ
の場合、受贈者および受遺者が、相続人として、被相続人の権利義務を包括的に承継し、受贈者が遺贈の
履行義務を、受遺者が贈与契約上の履行義務を承継することがあつても、このことは右の理を左右するに
足りない。
 ところが、原判決は、右の場合、受贈者および受遺者は、もはや、他方の所有権取得を否定し、自己の所
有権取得を主張する権利を失つたものと解すべきであるとして、本件遺贈の効力を否定したが、右は法令の
解釈、適用を誤つた違法なものであつて、この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れな
い。
 そして、前記事実関係のもとにおいては、被上告人らは、本件贈与をもつて上告人に対抗することができ
ず、また、原判決が適法に確定した事実関係に徴すれば、上告人が本件贈与の登記の欠缺を主張するのは
権利の濫用である旨の被上告人らの主張が理由のないことは明らかである。それゆえ、上告人は、結局、本
件不動産につき一五分の七の共有持分を取得するに至つたものというべきである。
 したがつて、第一審判決別紙目録(一)記載の物件につき上告人が一五分の七の共有持分を有することを
確認する旨の上告人の本訴請求は、正当として認容すべきであり、また、被上告人らの反訴請求は、失当と
して棄却すべきであつて、これと同趣旨の第一審判決は正当であるから、原判決中上告人の敗訴部分を破
棄し、右部分についての被上告人らの控訴を棄却すべきである。
 同第二点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができる。右認定
の過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認
定を非難するものであつて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。

昭47・2・15最判 遺言無効確認請求
最高裁判所第三小法廷(福岡高等裁判所)
遺言無効確認請求
主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     本件を大分地方裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人安部萬太郎名義の上告理由について。
 本件記録によれば、上告人らは、訴外亡Aが昭和三五年九月三〇日自筆証書によつてなした遺言は無効
であることを確認する旨の判決を求め、その請求原因として述べるところは、右Aは昭和三七年二月二一日
死亡し、上告人らおよび被上告人らが同人を共同相続したものであるところ、Aは昭和三五年九月三〇日第
一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し、昭和三七年四月二日大分家庭裁判所の検認をえたもの
であるが、右遺言は、Aがその全財産を共同相続人の一人にのみ与えようとするものであつて、家族制度、
家督相続制を廃止した憲法二四条に違背し、かつ、その一人が誰であるかは明らかでなく、権利関係が不明
確であるから無効である、というものである。これに対し、被上告人Bを除くその余の被上告人らは、本訴の
確認の利益を争うとともに、本件遺言によりAの全財産の遺贈を受けた者は被上告人Cであることが明らか
であるから、本件遺言は有効である旨抗争したものである。第一審は、遺言は過去の法律行為であるから、
その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして、本訴を却下し、右第一審判決に対して上告人ら
より控訴したが、原審も、右第一審判決とほぼ同様の見解のもとに、本訴を不適法として却下すべき旨判断
し、上告人らの控訴を棄却したものである。
 よつて按ずるに、いわゆる遺言無効確認の訴は、遺言が無効であることを確認するとの請求の趣旨のもと
に提起されるから、形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが、請求の趣旨がかかる形式をとつ
ていても、遺言が有効であるとすれば、それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認
を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは、適法とし
て許容されうるものと解するのが相当である。けだし、右の如き場合には、請求の趣旨を、あえて遺言から
生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するか
について明確さを欠くことはなく、また、判決において、端的に、当事者間の紛争の直接的な対象である基
本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて、確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされる
ことが明らかだからである。
 以上説示したところによれば、前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法というべきである。そ
れゆえ、これと異なる見解のもとに、本訴を不適法として却下した原審ならびに第一審の判断は、民訴法の
解釈を誤るものであり、この点に関する論旨は理由がある。したがつて、原判決は破棄を免れず、第一審判
決を取り消し、さらに本案について審理させるため、本件を第一審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条により、裁判官全員の一致で、主文のとおり判
決する。

昭47・3・17最判 危急時遺言において証人の署名・押印が別な場所でなされた
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
遺言無効確認請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人山中伊佐男の上告理由第一点について。
 所論は、要するに、民法九七六条所定の方式によるいわゆる危急時遺言についても、遺言書に作成日附
の記載のあることがその有効要件となるものとし、原判決が、本件遺言書は昭和四三年一月二九日に完成
したことを認めながら、昭和四三年一月二八日と記載された右遺言書による遺言の効力を認めたのは、同条
の解釈を誤つた違法があるというのである。
 しかし、同条所定の方式により遺言をする場合において、遺言者が口授した遺言の趣旨を記載した書面
に、遺言をした日附ないし証書を作成した日附を記載することが右遺言の方式として要求されていないこと
は、同条の規定に徴して明らかであつて、日附の記載はその有効要件ではないと解すべきである。したがつ
て、右遺言書を作成した証人においてこれに日附を記載した場合でも、右は遺言のなされた日を証明するた
めの資料としての意義を有するにとどまるから、遺言書作成の日として記載された日附に正確性を欠くことが
あつたとしても、直ちに右の方式による遺言を無効ならしめるものではない。そして、遺言のなされた日が何
時であるかは、書面は日附が存在せず、また日附の記載の正確性に争いがあつても、これに立会つた証人
によつて確定することができるから、所論のような事情は右の解釈を左右するものではない。これと同旨の
原審の判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 論旨が、本件遺言の効力を認めて上告人の請求を棄却した原審の判断を違法とし、遺言の無効事由とし
て述べるところは、上告人が第一審以来遺言無効の事由として主張し、原判決の引用する第一審判決の事
実欄五の(一)、(二)および(四)ならびに七に摘示されたものと同一に帰するが、原判決(その引用する第一審
判決を含む。)の挙示する証拠関係に照らせば、原審の事実認定はすべて是認するに足りるから、論旨中事
実認定の非難に帰する部分は理由がない。そして、原審の確定した右事実関係のもとにおいては、論旨と同
旨の主張を排斥し本件遺言の効力を認めた原審の判断(第一審判決八枚目裏八行目から一〇枚目裏一行
目までの説示部分)もまた首肯するに足りるが、なお、本件遺言書の証人の署名捺印は、遺言者の面前でな
されたものではないので、この点について判断する。
 民法九七六条所定の危急時遺言が、疾病その他の事由によつて死亡の危急に迫つた者が遺言をしようと
するときに認められた特別の方式であること、右遺言にあたつて立会証人のする署名捺印は、遺言者により
口授された遺言の趣旨の筆記が正確であることを各証人において証明するためのものであつて、同条の遺
言は右の署名捺印をもつて完成するものであること、右遺言は家庭裁判所の確認を得ることをその有効要
件とするが、その期間は遺言の日から二〇日以内に制限されていることなどにかんがみれば、右の署名捺
印は、遺言者の口授に従つて筆記された遺言の内容を遺言者および他の証人に読み聞かせたのち、その
場でなされるのが本来の趣旨とは解すべきであるが、本件のように、筆記者である証人が、筆記内容を清
書した書面に遺言者Aの現在しない場所で署名捺印をし、他の証人二名の署名を得たうえ、右証人らの立
会いのもとに遺言者に読み聞かせ、その後、遺言者の現在しない場所すなわち遺言執行者に指定された者
の法律事務所で、右証人二名が捺印し、もつて署名捺印を完成した場合であつても、その署名捺印が筆記
内容に変改を加えた疑いを挾む余地のない事情のもとに遺言書作成の一連の過程に従つて遅滞なくなされ
たものと認められるときは、いまだ署名捺印によつて筆記の正確性を担保しようとする同条の趣旨を害する
ものとはいえないから、その署名捺印は同条の方式に則つたものとして遺言の効力を認めるに妨げないと
解すべきである。そして、昭和四三年一月二七日深夜から翌二八日午前零時過ぎまでの間遺言者による口
授がなされ、同二八日午後九時ごろ遺言者に対する読み聞かせをなし、翌二九日午前中に署名捺印を完
成した等原判示の遺言書作成の経緯に照らせば、本件遺言書の作成は同条の要件をみたすものというべ
きである。
 なお、本件遺言書には、遺言者Aに清書された書面を読み聞かせたのち、その記載内容に加筆訂正を加
えた部分があり、右部分についてはAに対し改めて読み聞かせをしなかつたというのであるが、その部分は、
本件遺言書一枚目三行目に、「遺産します」とあるのを「遺言します」と一字訂正し、また二枚目二行目に、
「(但し遺言者は重態の為め署名捺印は出来ない)」と附加記載したというのであつて、前者はたんに明らか
な誤記を訂正したにとどまり、また後者も危急時遺言の方式としては無用の記載を附加したにとどまるから、
このような加筆訂正の結果について改めて遺言者に読み聞かせることがなく、また附加訂正の方式において
欠けるところがあつたとしても、本件遺言の効力に影響を及ぼすものではない。
 してみれば、原判決に所論の違法はないから、論旨はすべて採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭47・5・25最判 死因贈与の取消と民法1022条
最高裁判所第一小法廷(福岡高等裁判所)
贈与契約不存在確認請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人諸冨伴造の上告理由第一点および第二点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、この認定
判断の過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事
実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について。
 所論は、原判決には、死因贈与について遺言の取消に関する民法一〇二二条の準用を認めた法令の解
釈適用の誤りがあり、かつ、本件死因贈与は夫婦間の契約取消権によつて取消しえないものであると解しな
がら、右民法一〇二二条の準用によつてその取消を認めた理由そごの違法がある、というものである。
 おもうに、死因贈与については、遺言の取消に関する民法一〇二二条がその方式に関する部分を除いて
準用されると解すべきである。けだし、死因贈与は贈与者の死亡によつて贈与の効力が生ずるものである
が、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これ
によつて決するのを相当とするからである。そして、贈与者のかかる死因贈与の取消権と贈与が配偶者に
対してなされた場合における贈与者の有する夫婦間の契約取消権とは、別個独立の権利であるから、これら
のうち一つの取消権行使の効力が否定される場合であつても、他の取消権行使の効力を認めうることはいう
までもない。それゆえ、原判決に所論の違法は存しないというべきである。論旨は、独自の見解に立脚して、
原判決を非難するものであつて、採用することができない。
 同第四点について。
 原判決は、被上告人Aを除くその余の被上告人らについては、その申立の限度で請求を認容したものであ
る。それゆえ、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するに足りない。
 同第五点(一)について。
 記録に徴し本件訴訟の経過に鑑みれば、原審が所論の証拠調をしなかつたとしても違法とはいえない。原
判決には所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第五点(二)について。
 所論は違憲をいうが、その実質は、原判決に民訴法違背がある旨の主張にすぎないところ、本件記録に徴
すれば、被上告人らの主張には、訴外Bが上告人に対する本件土地建物の死因贈与の意思表示を撤回し
た旨の主張が含まれている旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はな
く、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭47・7・6最判 家事審判規則一〇六条一項の相続財産管理人の応訴権限
最高裁判所第一小法廷(大阪高等裁判所)
建物収去土地明渡請求(棄却)
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人中村俊輔、同中村宏の上告理由について。
 遺産分割の申立があつた場合に家庭裁判所が家事審判規則一〇六条一項により選任する相続財産管
理人については、民法九一八条のように同法二八条を準用する旨の明文の規定はないが、これが設けられ
た趣旨に鑑みれば、同条を類推適用して、右相続財産管理人は、家庭裁判所の許可なくして同法一〇三条
所定の範囲内の行為をすることができ、相続人に対し相続財産に関し提起された訴については、相続人の
法定代理人の資格において、保存行為として、家庭裁判所の許可なくして応訴することができるものと解す
べきである。したがつて、被相続人亡Aの遺産の分割の申立に伴い大阪家庭裁判所において家事審判規
則一〇六条一項により相続財産管理人に選任されたBが、被上告人からAの相続人である上告人らに対し
遺産に属する建物を収去してその敷地を明け渡すべきことを求めるため提起された本件訴訟について、上
告人らの法定代理人として応訴することを許容した原審の措置は正当である。原判決に所論の違法はなく、
論旨は理由がない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭47・9・1最判 家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の上訴権限
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
建物収去土地明渡請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告人名義の上告理由は別紙のとおりである。
 職権をもつて按ずるに、本件記録によれば、本件訴訟の経緯は次のとおりである。
 第一審は、被上告人の提起した本件訴につき同人勝訴の判決を言い渡し、右判決正本は上告人の訴訟代
理人である弁護士松本光郎に送達されたところ、弁護士Aは上告人の訴訟代理人として本件控訴を提起し、
原審は、同弁護士に訴訟代理権を認めえないとして、右控訴を却下する旨の判決を言い渡し、右判決正本
は公示送達の方法によつて上告人に送達され、その後、上告人名義の上告状および上告理由書が提出さ
れるに至つたものである。
 そして、本件記録に編綴されている東京家庭裁判所の審判書謄本、弁護士A作成の昭和四六年一一月一
二日付上申書ならびにB作成の報告書および委任状によれば、東京家庭裁判所は、昭和四六年六月九日、
上告人の妻Bを上告人の不在者財産管理人として選任する旨の審判をなし、右審判は当時確定したところ、
右Bは、同年一一月一二日弁護士Aを訴訟代理人として選任したこと、ならびに前記上告人名義の上告状お
よび上告理由書は、上告人が作成、提出したものではなく、右Bが権限がないにもかかわらず上告人の代理
人として作成、提出したものであることが認められる。
 訴訟代理人Aは、当審における昭和四七年一月二一日の本件口頭弁論期日において、上告に関し右Bが
した上告人名義の訴訟行為および原審における弁護士Aの訴訟行為のすべてを追認するに至つた。
 ところで、権限を有しない代理人によつてなされた訴訟行為であつても、その後これが権限ある代理人に
よつて追認されたときは、右追認により当該訴訟行為の時に遡つてその効力を生ずることは民訴法五四
条、八七条の規定するところであり、また、その追認の時期につき制限を定めた規定のないこと、および同
法三九五条二項の規定の趣旨に鑑みれば、権限のある代理人は、上告審において、上告審および原審に
おける無権代理人の訴訟行為を追認することができるものと解するのを相当とする(大審院昭和一五年
(オ)第八三四号同一六年五月三日判決、判決全集八輯六一七頁参照)。そして、家庭裁判所の選任した不
在者財産管理人が民法一〇三条所定の権限内の行為をするには、その行為が訴または上訴の提起という
訴訟行為であつても、同法二八条所定の家庭裁判所の許可を要しないものと解すべきところ、被上告人の
提起した本訴建物収去土為であつても、同法二八条所定の家庭裁判所の許可を要しないものと解すべきと
ころ、被上告人の提起した本訴建物収去土地明渡等の請求を認容する第一審判決に対し控訴を提起し、そ
の控訴を不適法として却下した第二審判決に対し上告を提起することおよび右訴訟行為をさせるため訴訟
代理人を選任することは、いずれも上告人の財産の現状を維持する行為として同法一〇三条一号にいう保
存行為に該当するものであるから、本件不在者財産管理人および同人の選任した訴訟代理人は、同法二
八条所定の家庭裁判所の許可を得ることなしに、本件第一、二審判決に対する上訴を提起する権限を有す
るものというべきである。
 したがつて、前示の本件訴訟の経緯によるときは、上告人の不在者財産管理人Bが選任した訴訟代理人A
が、右Bの権限なくしてした上告の提起を追認したことにより、本件上告は適法になり、また、原審における
右Aの控訴の提起が権限なくしてされたとしても、右訴訟代理人が当審においてこれを追認したことにより、
右控訴も適法になつたのであるから、右Aに訴訟代理権のないことを理由として本件控訴を却下した原判決
は、論旨の当否を判断するまでもなく、違法に帰したものというべきである。
 原判決は破棄を免れず、原審において更に審理を尽くさせるのを相当とするから、本件を東京高等裁判所
に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭47・11・9最判 相続財産管理人の相続財産に関する訴訟についての当事者適格について
第1小法廷判決(仙台高等裁判所昭和47年3月29日判決)
貸金請求上告事件(上告棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人中林裕一の上告理由一について。
 民法九三六条一項の規定により相続財産管理人が選任された場合には、同人が相続財産全部について
管理・清算をすることができるのであるが、この場合でも、相続人が相続財産の帰属主体であることは単純
承認の場合と異なることはなく、また、同条二項は、相続財産管理人の管理・清算が「相続人のために、これ
に代わつて」行なわれる旨を規定しているのであるから、前記の相続財産管理人は、相続人全員の法定代理
人として、相続財産につき管理・清算を行うものというべきである。したがつて、相続人は、同条一項の相続財
産管理人が選任された場合であつても、相続財産に関する訴訟につき、当事者適格を有し、前記の相続財産
管理人は、その法定代理人として訴訟に関与するものであつて、相続財産管理人の資格では当事者適格を
有しないと解するのを相当とする。論旨引用の当庁昭和四三年(オ)第四三五号同年一二月一七日第三小法
廷判決(裁判集民事九三号六五九頁)も右と同旨の見解を前提とするものと解せられる。それ故、上告人が
相続財産管理人たる資格において提起した本件訴につき、同人に当事者適格がないとした原審の判断は、
正当として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同二について。
 本件記録によれば、上告人は亡Aの相続財産管理人であるとの資格のみをもつて、当事者として、訴を提起
したことが明らかであり、本件訴訟の経緯に鑑みれば、原審に所論の釈明義務があるとすることはできない。
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
昭48・6・29最判 生命保険金請求権(交通事故傷害保険)の相続性
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所 )
売掛代金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人山田盛の上告理由について。
 原審の適法に確定した事実によると、千代田火災海上保険株式会社交通事故傷害保険普通保険約款第
四条は、「当会社は、被保険者が第一条の傷害を被り、その直接の結果として、被害の日から一八〇日以内
に死亡したときは、保険金額の全額を保険金受取人、もしくは保険金受取人の指定のないときは被保険者
の相続人に支払います。」と規定するところ、本件保険契約は右約款に基づき、これをその契約内容として締
結されたというのである。
 ところで、右「保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う。」旨の条項は、被
保険者が死亡した場合において、保険金請求権の帰属を明確にするため、被保険者の相続人に保険金を
取得させることを定めたものと解するのが相当であり、保険金受取人を相続人と指定したのとなんら異なる
ところがないというべきである。
 そして、保険金受取人を相続人と指定した保険契約は、特段の事情のないかぎり、被保険者死亡の時に
おけるその相続人たるべき者のための契約であり、その保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に
相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産から離脱したものと解すべきであることは、当裁判所
の判例(昭和三六年(オ)第一〇二八号、同四〇年二月二日第三小法廷判決・民集第一九巻第一号一頁)と
するところであるから、本件保険契約についても、保険金請求権は、被保険者の相続人である被上告人らの
固有財産に属するものといわなければならない。なお、本件保険契約が、団体保険として締結されたもので
あつても、その法理に変りはない。
 してみると、右と同旨の原審の判断は正当として首肯することができ、原判決に所論の違法はなく論旨は
採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭48・7・3最判 本人が無権代理人を相続した場合と無権代理行為の効力
最高裁判所第三小法廷(広島高等裁判所)
貸金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人君野駿平の上告理由第一点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠
に照らし首肯するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 民法一一七条による無権代理人の債務が相続の対象となることは明らかであつて、このことは本人が無
権代理人を相続した場合でも異ならないから、本人は相続により無権代理人の右債務を承継するのであ
り、本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあつたからといつて右債務を免れることはできない
と解すべきである。まして、無権代理人を相続した共同相続人のうちの一人が本人であるからといつて、本
人以外の相続人が無権代理人の債務を相続しないとか債務を免れうると解すべき理由はない。
 してみると、これと同旨の原審の判断は正当として首肯することができる(原判示のいう損害賠償債務、責
任は履行債務、責任を含む趣旨であることが明らかである。)。
 なお、所論引用の判例(最高裁昭和三五年(オ)第三号同三七年四月二〇日第二小法廷判決・民集一六
巻四号九五五頁)は、本人が無権代理人を相続した場合、無権代理行為が当然に有効となるものではない
旨判示したにとどまり、無権代理人が民法一一七条により相手方に債務を負担している場合における無権
代理人を相続した本人の責任に触れるものではないから、前記判示は右判例と抵触するものではない。
 論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭49・4・26最判 特定債権の遺贈と対抗要件
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
貸金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人磯田亮一郎、同西田嘉晴、同模泰吉、上告復代理人堀正視の上告理由について。
 特定債権が遺贈された場合、債務者に対する通知又は債務者の承諾がなければ、受遺者は、遺贈による
債権の取得を債務者に対抗することができない。そして、右債務者に対する通知は、遺贈義務者からすべき
であつて、受遺者が遺贈により債権を取得したことを債務者に通知したのみでは、受遺者はこれを債務者に
対抗することができないというべきである。原審の確定したところによれば、本件貸金債権の遺贈について
は、受遺者である上告人から債務者である被上告人らに対し本件訴状送達により通知されたというのみで、
適法な債務者に対する通知又は債務者の承諾がなかつたというのであるから、上告人は遺贈によつて取得
した本件貸金債権をもつて被上告人らに対抗することができないとした原審の判断は、正当である。原判決
に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭49・7・3名古屋高判 認知の訴えの出訴期間経過後の父子関係存在確認と戸籍訂正の諾否
名古屋高等裁判所?? ?? 民事第三部
審判に対する即時抗告事件
 主    文
     原審判を取り消す。
     本件不服の申立を却下する。
     手続費用は第一、二審とも相手方の負担とする。
         理    由
 抗告人指定代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙抗
告理由書記載のとおりである。
 一 現行民法上嫡出でない子とその父との関係は、父が任意にその子を認知し、
または、子、その直系卑属などから父に対して提起された認知の訴に対し勝訴判決
がなされることによつてのみ創設され、両者の間にいかに自然的・生理的父子関係
があつても、これによつてただちに法律上の父子関係が発生するものではない。こ
の理は、内縁の夫婦から生れた子についても、これが嫡出でない子である以上ひと
しく妥当するのであつて、ただ内縁関係が婚姻に準ずる実体を有するものであるこ
とから、内縁中に懐胎され父母婚姻後に出生した子に対しては嫡出子たる身分が与
えられ、内縁の妻が内縁関係成立の日から二〇〇日後、解消の日から三〇〇日以内
に分娩した子の認知の裁判においては、民法七七二条を類推して内縁の夫の子と推
定される等の保護が与えられるにとどまり、内縁関係から生れた子はその父母が婚
姻した場合でさえ父の認知がない限り準正されないことからみても明らかなよう
に、自然的・生理的の父子関係が確実であつても、父の認知なくしては法律上父子
関係の成立は認められないのである。そして、民法七八七条は、父の死亡後は、認
知の訴を父死亡の日から三年間に限つて提起することを認めているから(ただし、
認知の訴の特例に関する法律によるべき場合は別論であるが、本件は右法律による
べき場合にあたらないこと明らかである。)、右期間の経過後は、嫡出でない子と
その父との間に法律上父子関係を発生させる途は現行法上存在しないのである。
 <要旨>本件仙台地方裁判所の親子関係存在確認請求事件の判決は、相手方がその
父であると主張するAが昭</要旨>和二〇年一月二七日死亡した後民法七八七条に定
める三年の期間をはるかに経過した昭和四七年に提起された相手方の訴を認容し、
その主文において相手方が右Aであることを確認したものである。したがつて、右
判決は、その事件名や主文の文言からみても、また、同裁判所が相手方の主張自体
から民法七八七条の出訴期間経過後の訴であることが明白であるのにこれを却下し
なかつたことからみても、民法七八七条に定める認知の訴に対する判決ではなく、
右判決が確定しても認知の効力が生じないことは明らかである。そして、このこと
は右判決の主文の内容が相手方とAとの間の父子関係を確認していることによつて
は何ら妨げられるものではない。
 このように見てくると、右親子関係存在確認事件の判決は、いわば自然的・生理
的父子関係の存在を確認したものにすぎず、認知の裁判に代わり得る効力を有しな
いものというべきである。これに反する見解は民法七八七条を全く無視することと
なり、到底採用することができない。
 二 ところで、相手方は、その父の認知がなかつたため、戸籍父母欄中父欄が空
白であつたところ、昭和四八年六月二一日抗告人区長に対し、前記仙台地方裁判所
の確定判決を添付のうえ、右父欄に前記Aを父として記載することを求める旨の戸
籍訂正の申請をなしたのである。右申請は戸籍法一一六条に基くものと認められ
る。
 <要旨>しかしながら、戸籍の訂正は、戸籍の記載が当初から不適法または真実に
反し、あるいはその記載に遺漏</要旨>がある場合になされるものであるところ、相
手方の戸籍には何ら訂正せらるべき箇所は存在しない。けだし、相手方の戸籍中父
欄の記載が空白になつていることは、これまで相手方の父の認知または認知の裁判
に基く届出がなかつたからに外ならず、前述したように認知がなければ嫡出でない
子とその父との父子関係は生じないから、右記載の空白はまさに法律上正しい状態
を反映しているものだからである。
 また、身分関係が一定の事実または行為によって変更消滅する場合には、戸籍訂
正の手続によるべきではなく、戸籍法第四章所定のそれぞれの届出によつて戸籍の
記載をなすべきであるから、嫡出でない子とその父との間に父子関係が創設された
ときは、前記戸籍法第四章のうち第三節に収める認知届出の各規定に従い届出をな
し、これにより父欄の記載をなすべきものであり、戸籍訂正の方法によることは許
されないのである。相手方は最高裁判所昭和四五年七月一五日言渡大法廷判決は、
相手方のなした前記のごとき戸籍訂正の申請により嫡出でない子の戸籍の父欄への
記入をしでも差支えないとの取扱を認める趣旨であると主張するが、当裁判所は該
判決はその事案において本件と異なり、また、相手方主張のような趣旨を含んでい
るものとは考えないので、右主張は採用しない。
 三 しかして、戸籍事務管掌者たる抗告人区長の権限は、戸籍の届出ないし訂正
の申請の受理につき、その審査の方法が届書及びその添付書類並に戸籍簿等に限定
されることはいうまでもないところであるが、その審査の対象については、届書に
おける記載事項の具備、法令に要求された証明書の添付等形式的要件の審査をなし
うるにとどまらず、民法七四〇条、七六五条、八〇〇条、八二二条等の各規定から
も窺知しうるがごとく、ある程度の実質的要件の存否の審査もこれをなしうるので
あり、ことに、届出事項が虚偽なることまたは実体法規に牴触しためにその効力を
生ぜざることの明らかな場合には戸籍の記載を拒否することができるものと解され
るのである。本件についてこれを見るに、相手方は、実体法上認知の裁判としての
効力を有せざる前記仙台地方裁判所の判決をえたうえ、戸籍上何ら遺漏なきにかか
わらず、認知届以外に途なき父欄の記入を戸籍訂正手続により達成しようとして前
記申請をなしているに外ならないから、この申請を受理するにおいては実体法規に
牴触し無効なることの明白な記載を戸籍上に現出することになるといわざるをえな
い。しかも、相手方の右戸籍訂正申請の許すべからざることは、相手方の提出した
戸籍訂正申請書、その添付書類並びに戸籍簿により明白な場合であるといわなけれ
ばならない。してみれば、抗告人区長としては、相手方の本件戸籍訂正申請を受理
することができないものである。
 四 以上説示のとおりであつて、抗告人区長が本件戸籍訂正申請を受理しない処
分をしたことは相当であり、本件抗告は理由がある。よって、原審判は不当である
からこれを取り消し、相手方の本件不服申立を却下することとし、民訴法四一四
条、三八六条、八九条により主文のとおり決定する。

昭49・9・20最判 相続放棄と詐害行為取消権
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所)
詐害行為取消、株金等支払請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告人の上告理由前文について。
 原判文によれば、原審が所論の点につき適法に事実を認定判示していることが明らかであるから、原判決
に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審で主張しない事実を交えて、原審が適法にした事実の認定
を非難するにすぎず、採用することができない。
 同第一点及び第二点について。
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、右判断の過程に所論の違法はない。所
論中違憲をいう部分は、具体的に憲法のどの条項に違反するかを主張するものではないから、失当である。
論旨は、採用することができない。
 同第三点について。
 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、所論の点に関する原審の判断は正当として是認する
ことができ、その過程に所論の違法は認められない。所論中違憲をいう部分は、原判決に右違法のあること
を前提とするものであるから、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。
 同第四点及び第五点(2)について。
 相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解す
るのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させ
る行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続
の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少
させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相
続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし
相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結
果となり、その不当であることは明らかである。
 そうすると、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認めら
れない。論旨は、採用することができない。
 同第五点(1)及び第六点について。
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。
論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭49・11・27仙台高判 民法1041条1項(価額弁償)による目的物返還義務免脱の要件
仙台高等裁判所?? ?? 第二民事部
土地所有権移転登記抹消登記手続請求控訴及び同附帯控訴事件
主    文
     附帯控訴に基づき、原判決を取り消す。
     原判決添付別紙第一目録記載1の土地及び同第二、第三目録記載の各土
地につき、被控訴人(附帯控訴人)Aが八一七一万四〇〇〇分の一三六一万九〇〇
〇の、被控訴人(附帯控訴人)Bが八一七一万四〇〇〇分の四〇七万二五四五の、
被控訴人(附帯控訴人)Cが八一七一万四〇〇〇分の三一三万〇三九三の、被控訴
人(附帯控訴人)Dが八一七一万四〇〇〇分の二九三万三五九九の各持分を有する
ことを確認する。
     控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)らに対し、前記各土
地につき被控訴人(附帯控訴人)らが前記各該当持分を有する旨の変更登記手続を
せよ。
     被控訴人(附帯控訴人)らのその余の主位的請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
         事    実
 控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)代理人は「原判決中控訴人敗
訴部分を取り消す。被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という。)の各請求
を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求
め、被控訴人らの附帯控訴につき「本件各附帯控訴及び被控訴人A、同Bの当審に
おける新たな各請求をいずれも棄却する。附帯控訴費用は被控訴人らの負担とす
る。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控
訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴における主位的申立として「原判
決中被控訴人らの主位的請求を棄却した部分を取り消す。被控訴人Aは、原判決添
付別紙第一目録記載の土地につき六分の四の持分を、第二ないし第四目録記載の各
土地につきいずれも六分の一の持分を、被控訴人B、同C、同Dはそれぞれ同第一
ないし第四目録記載の各土地につきいずれも一八分の一の持分を各有することを確
認する。控訴人は被控訴人らに対し右各土地につき右各該当持分を有する旨の変更
登記手続をせよ。附帯控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を、予備的申立
として「原判決中被控訴人A、同C、同Dの各予備的請求の敗訴部分を取り消す。
控訴人は、被控訴人Aに対し七二九八万八六六六円(当審において三三万五四〇二
円請求拡張)及びこれに対する昭和四一年四月六日から支払済まで年五分の割合に
よる金員を、被控訴人Bに対し三八七万四八〇〇円(当審において請求拡張)及び
これに対する右同日から支払済まで年五分の割合による金員を、被控訴人C、同D
に対し各二五八万四三八九円(当審において各二六二万五七〇〇円請求減縮)及び
これに対する右同日から支払済まで年五分の割合による金員を各支払え。附帯控訴
費用は控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。
 当事者双方の主張及び証拠関係は、左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであ
るので、これをここに引用する(但し、原判決四枚目表一一行目から同裏三行目ま
でを削除し、同九枚目表八行目に「原告らの遺留分減殺請求に対して」とあるを
「被控訴人B、同C、同Dの遺留分減殺請求に対して」と改め、原判決添付別紙第
六目録中、番号4欄に「一八坪」とあるを「一八歩」と、番号8欄に「三二七〇
番」とあるを「k番」と、同番号15欄に「第七の7」とあるを「第三の7」と改
める。)。
 被控訴人ら代理人の主張
 一、 原判決添付別紙第一目録記載の各土地につき、被控訴人Aが持分二分の一
を有しないとしても、同士地は亡Eの遺産であるから、被控訴人Aは遺留分減殺に
より六分の一の持分を取得した。
 二、 原判決添付別紙第六目録記載の不動産はいずれも亡Eの遺産であり、その
価額は同目録記載のとおりである(但し、同目録記載7(前記第一目録記載1)の
不動産については前記一のとおりである。)。被控訴人Bは同目録記載21の建物
を、被控訴人C、同Dは同22の土地を亡Eから遺贈された(原判決五枚目裏五行
目から同六枚目表一行目までの主張を以上のとおり改める。)。
 三、 民法第一〇四一条による価額弁償は、遺贈又は贈与の目的の価額弁償申出
時の価額によるべきである。その理由は次のとおりである。
 1 遺留分本来の制度目的とは、財産処分自由の原則と法定相続制度の調和を図
るために制定せられたもの、換言すれば被相続人の財産処分の自由から法定相続人
たる配偶者及び直系尊卑属の有する相続利益の一定限度を守るために制定せられた
ものとすること通説である。
 然らば此のことから直ちに相続開始時の価額によるべきものとの結論は出て来
ず、むしろ法定相続人の相続利益を守るという趣旨を失わせないためには、少くと
も遺留分権利者に損失を帰せしめないようにすべきであり、これには相続開始時と
現在との間に遺産たる不動産の価額が騰貴した場合においては、現在の価額によつ
て弁償すべき金額を算定することによつて始めて遺留分権利者の相続利益が正当に
守られることになるのであり、且つそうすることによつて受遣者に何らの不利益に
なることもない。蓋し価額の騰貴した不動産をそのまま受益者は保有し得るからで
ある。
 斯くて始めて受遺者、遺留分権利者の双方に公平が期せられるのである。
 大審院大正七年一二月二五日判決(民録二四輯二四二九頁)は、遺留分権利者が
贈与の減殺を請求した場合において、贈与が遺留分を保全するに必要な限度を超え
たか否かを判定するには相続開始当時における被相続人の有した財産のその当時に
おける価額及び先に被相続人が贈与した財産の相続開始の当時における価額を斟酌
して定めることを要する旨判示したもので、もとより当然のことであり、受遺者受
贈者が遺留分権利者に対して返還の義務を免かれるために価額を弁償するに際し
て、何時の時点における価額を以て弁償する金額とするかについては何らの判断も
示していないのであつて、全く性質の異なる事案についてなされた判決である。
 2 民法第一〇四一条は、いつの時点の価額を弁償すべきかについては何ら規定
していない。
 故にいつの時点における価額を弁償すべきかは、一に解釈によつて決せられるこ
と当然であり、而して法の解釈はその適用を受ける者に対していやしくも偏頗な結
果になるようなことは避けねばならないこと、いうまでもないと信ずる。法の根本
理念である公平に反するからである。
 不動産価額の高騰している場合に右民法第一〇四一条の解釈に当り相続開始時説
をとれば、如何に不公平になるかの簡単な例を挙げれば、子が遺留分権利者で被相
続人の財産が一〇〇平方メートルの土地だけで、これを他人に贈与或は遺贈された
ので減殺請求をしたところ受贈者が価額弁償の申出をした場合において、右土地が
相続開始時には一〇〇万円であつたが価額弁償の申出をした時は二〇〇万円に騰貴
していたとき、開始時説によれば五〇万円だけを遺留分権利者に交付すればよく、
受贈者は二〇〇万円から五〇万円を控除した金一五〇万円を取得することになり、
その割合は遺留分権利者一に対し受贈者三の割合となること明らかで、このような
解釈は民法第一〇二八条に違反し遺留分権利者の有する遺留分を侵害する結果とな
ること明らかである。此のような不当な結果を避けるためには、価額弁償の申出を
した時の遺産の価額により一〇〇万円を遺留権利者に弁償すれば、双方にとつて公
平となり民法第一〇二八条の趣旨も生かされるので、妥当な結果となる。
 3 近時遺産分割についての民法第九〇六条の解釈につき、遺産に属する物又は
権利の価額を相続開始時より評価すべきか分割時により評価すべきかについて、民
法第九〇九条、九〇三条、九〇四条の条文を根拠として相続開始時により、評価す
べしとする学説判例が次第に影をひそめ、分割時により評価すべしとする学説判例
が有力となるに至つたのは、後説が現実の社会に適合し且つ公平の理念に合致する
からに外ならない。
 遺産分割と遺留分減殺とは、共に遺産を相続人に分与するための制度であり、制
度の根本趣旨を共通にするのであるから、一は分割時により評価し、他を相続開始
時により評価するのは、一国の法制としては矛盾という外ない。民法第一〇四一条
は決して受遺者に不当に利益を与える趣旨の規定とは解されない。
 価額を弁償するか現物を返還するかの選択権を与えられている受遺者は、その何
れかを選ぶ自由を有するとしても、それはあくまでその時点(弁償申出時)におけ
る価額であつて、不当に低額な相続開始時における価額を弁償することにより受遺
者をして価額高騰による利益を独占せしめる趣旨とは到底解されない。
 4 以上の通り民法第一〇四一条の正当な解釈に基づき、価格弁償時に最も近接
した時期である昭和四七年四月一日現在における価額に従い被控訴人等の弁償を受
くベき額を算出すると、次のとおりとなる(原判決六枚目表二行目から同裏三行目
までの主張を以下のとおりに改める。)。
 (一) 被控訴人A
 原判決第六目録7の価額一億二、四四八万三、〇〇〇円の持分六分の四に当る
八、二九八万八、六六六円とそれ以外の遺留分算定の基礎となる財産の価額二、八
三二万一、四〇〇円の六分の一に当る四七二万〇、二三三円との合計八、七七〇万
八、八九九円から原判決の認容した一、四七二万〇、二三三円を控除した七、二九
八万八、六六六円。
 (二) 被控訴人B
 遺留分算定の基礎となる財産の価額一億五、二八〇万四、四〇〇円の一八分の一
に当る八四八万九、一三三円から遺贈を受けた右第六目録記載21の物件の価額一
一一万二、〇〇〇円をさし引いた金七三七万七、一三三円から原判決の認容した金
三五〇万二、三三三円を控除した三八七万四、八〇〇円。
 (三) 被控訴人C
 遺留分算定の基礎となる財産の価額一億五、二八〇万四、四〇〇円の一八分の一
に当る八四八万九、一三三円から遺贈を受けた右第六目録記載22の物件の価額四
八七万五、〇〇〇円の二分の一である二四三万七、五〇〇円及び贈与を受けた三〇
万円をさし引いた五七五万一、六三三円から原判決の認容した三一六万七、二四四
円を控除した二五八万四、三八九円。
 (四) 被控訴人D
 遺留分算定の基礎となる財産の価額一億五、二八〇万四、四〇〇円の一八分の一
に当る八四八万九、一三三円から遺贈を受けた右第六目録22の物件の価額四八七
万五、〇〇〇円の二分の一である二四三万七、五〇〇円及び贈与を受けた五〇万円
をさし引いた五五五万一、六三三円から原判決の認容した金二九六万七、二四四円
を控除した二五八万四、三八九円。
 5 よつて、被控訴人らは右各該当金員及びこれに対する被相続人E死亡の日で
ある昭和四一年四月六日から各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求
める。
 控訴代理人の主張
 一、 亡Eの遺産及びその価額は原判決添付別紙第六目録記載のとおりである。
亡Eには遺産債務はなく、動産は無価値のものである。
 二、 判決書七枚目表六行目の「第三の12」とある次に「3」を加える。
 三、 被控訴人主張三は争う。
 四、 控訴人は、亡Eの遣言の趣旨に従い、家にとどまり農業を承継し、妻F、
長男Gとともに遺贈を受けた農地を耕作しているので、価額弁償の申出をしたが、
控訴人には受遺物件以外に格別の財産がないのに対し、被控訴人B、同C、同Dは
いずれも給料を得て生活している。ところで、分割の基準を定めた民法第九〇六条
は遺留分減殺請求の場合にも適用されるべきものである。よつて、被控訴人B、同
C、同Dに対しては一〇年ないし一五年の年賦にて支払うのが相当である。
 なお、被控訴人Aに遺留分減殺請求権があるとすれば、その請求額を半減し、年
賦で支払うのが相当である。
 証拠関係(省略)
         理    由
 一、 亡Eの相続関係については、原判決の理由説示第一の一と同一であるか
ら、ここにこれを引用する。
 二、 被控訴人Aは原判決添付別紙第一目録記載の各土地(以下原判決添付別紙
目録記載の土地については第一の1の土地の如く目録と土地の各番号で表示す
る。)につき持分二分の一を有する旨主張するが、成立に争いのない甲第三号証に
よると第一の1の土地につき昭和七年七月一三日付売買を原因としてHからEに所
有権移転登記がなされていることが認められるので、反証のない限り第一の1の土
地はEの特有財産と推定すべきである。
 被控訴人AはEと結婚後農業に精進して得た収入により第一の1の土地を買い受
けたものであるから、Eとの共有である旨主張し、成立に争いのない甲第三六号証
の二、当審における被控訴人A本人尋問の結果によれば、被控訴人AはEと結婚以
来Eに協力して農業に従事し、第一の1の土地購入につき協力寄与しているものと
推認しうるが、かかる場合、民法は、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求
権等の権利を規定し、これらの権利の行使により、結局において夫婦間に実質上の
不平等が生じないよう配慮しているから、右協力寄与の事実をもつて右推定を覆す
ことができず、他に右推定を左右するに足る証拠はない。
 成立に争いのない甲第四号証によると、第一の2の土地については昭和二七年九
月一七日控訴人所有名義に保存登記がなされていることが認められるので、第一の
2の土地は控訴人の所有に属すると推定すべきであり、右推定を覆すに足る証拠は
ない。
 そうすると、第一の1、2の土地につき持分二分の一を有することを前提とする
被控訴人Aの請求部分は失当である。
 三、 次に、被控訴人らの遺留分減殺請求に基づく主位的請求の当否につき以下
に判断する。
 1 前記のごとく、Eが昭和四一年四月六日死亡し、被控訴人ら主張の七名がそ
の主張のように相続人であり、また第一の1、第二、第三の各土地(以下原判決添
付別紙第六目録記載の番号により表示する。但し第三の3の上地はそのまま。)、
第六の1、16ないし22の各不動産が亡Eの遺産であること、第六の1ないし2
2の各不動産の価額が原判決添付別紙第六目録記載のとおりであること、Eは控訴
人に対し第六の1ないし18、第三の3の各不動産を、被控訴人Bに対し第六の2
1の建物を、被控訴人C、同Dに対し第六の22の土地をそれぞれ遺贈したこと、
Eから被控訴人Cが三〇万円(控訴人は四〇万円と主張するが三〇万円を超える部
分を認めるに足る証拠はない。)、同Dが五〇万円の各贈与を受けたこと、以上の
各事実はいずれも当事者間に争いがなく、亡Eに遺産債務がなく、遺産である動産
が無価値であることは、被控訴人らが明らかに争わないので自白したものとみな
す。
 成立に争いのない乙第三号証によれば、亡Eは生前養子のF(控訴人の妻)と孫
のGに対し第六の19の土地の持分二分の一ずつ、Gに対し第六の20の土地をそ
れぞれ遺贈したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
 被控訴人ら代理人は第一の2、第四の1ないし12の各土地も亡Eの遺産である
旨主張するが、これを認めるに足る証拠はないので、右の主張は採用できない。
 2 そこで、前記各事実に基づき被控訴人らの遺留分を計算すると次のとおりと
なる。
 (一) 遺留分算定の基礎となる財産
 (1) 亡Eが相続開始時において有した財産の価額(以下価額は相続開始時の
ものである。)
 a 第六の1ないし22の不動産の価額合計八七五二万一四〇〇円
 b 第三の3の土地の価額
 原審鑑定人Iの鑑定の結果によると、第三の3の土地の現況は原野であり、回じ
く現況原野である第六の10、13の土地と第六の11、12の土地の間に存在す
ることが認められ、右認定に反する証拠はない。
 そこで、第六の10ないし13と同一基準により第三の3の土地の価額を算出す
ると、二五万四六〇〇円C1となる。
 c 右a、bの合計額八七七七万六〇〇〇円
 (2) 亡Eが生前贈与した金員計八〇万円
 内訳
 被控訴人C三〇万円、同D五〇万円
 (3) 遺留分算定の基礎となる財産の価額
 前記(1)のcと(2)の合計八八五七万六〇〇〇円
 (二) 各被控訴人の遺留分
 (1) 被控訴人A 一四七六万二六六七円(円未満は四捨五入した。以下同
じ)
<記載内容は末尾2添付>
 (2) 被控訴人 B  四一四万八八八九円
<記載内容は末尾3添付>
 (3) 被控訴人 C 三一八万一三八九円
<記載内容は末尾4添付>
 (4) 被控訴人 D 二九八万一三八九円
<記載内容は末尾5添付>
 3 控訴人に遺贈された不動産の価額
 (一)第六の1ないし18の不動産の価額計八一四五万九四〇〇円
 (二) 第三の3の土地の価額二五万四六〇〇円
 (三) 右(一)、(二)の合計八一七一万四〇〇〇円
 4 Gに遺贈された不動産の価額
 (一)第六の19の宅地の価額(二分の一)一一五万円
 (二) 第六の20の土地の価額一〇万一〇〇〇円
 (三) 右(一)、(二)の合計一二五万一〇〇〇円
 5 被控訴人らの遺留分を侵害している遺贈部分の価額
 (一) 控訴人に遺贈された内、七六七九万三一一一円
<記載内容は末尾6添付>
 (二) Gに遺贈された不動産の価額一二五万一〇〇〇円
 (三) 民法一〇三四条本文により右(一)、(二)の遺贈部分は価額の割合に
応じて減殺されるべきである。
 6 被控訴人らが控訴人に対し減殺しうる遺贈部分の価額は次のとおりである。
 (一) 被控訴人A 一四五二万六〇三〇円
<記載内容は末尾7添付>
 (二) 被控訴人 B   四〇七万二五四五円
<記載内容は末尾8添付>
 (三) 被控訴人 C   三一三万〇三九三円
<記載内容は末尾9添付>
 (四) 被控訴人 D   二九三万三五九九円
<記載内容は末尾10添付>
 7 ところで、遺留分権利者が受遺者、受贈者に対して行う減殺請求権は形成権
であつて、その意思表示がなされると、法律上当然に減殺の効力を生じ、遺留分権
利者は遡及的に目的物につき持分を取得するものと解するを相当とする(最高裁昭
和三五年七月一九日判決民集一四巻九号一七七九頁、同昭和四一年七月一四日判決
民集二〇巻六号一一八三頁、同昭和四四年一月二八日判決判例時報五四八号六八頁
参照)。これを本件についてみるに、被控訴人らが昭和四一年一〇月六日到達の書
面で控訴人に対し遺留分減殺の意思表示をなしたことは当事者間に争いがないか
ら、亡Eから控訴人に対しなされた第六の1ないし18、第三の3の各不動産の遺
産は、被控訴人らの遺留分を侵害している前記6の限度において当然に無効とな
り、その結果第六の1ないし18、第三の3の各不動産は相続開始時に遡及して控
訴人と被控訴人らの共有となり、そして、第六の1ないし18、第三の3の各不動
産の相続開始時の価額の総額は前示のとおり、八一七一万四〇〇〇円であるから、
被控訴人らは第六の1ないし18、第三の3の各不動産につき遺留分が侵害された
前記6の価額相当分の持分を有するということができるから、被控訴人Aの持分は
八一七一万四〇〇〇分の一四五二万六〇三〇、被控訴人Bの持分は八一七一万四〇
〇〇分の四〇七万二五四五、被控訴人Cの持分は八一七一万四〇〇〇分の三一三方
〇三九三、被控訴人Dの持分は八一七一万四〇〇〇分の二九三万三五九九となる。
 8 控訴代理人は被控訴人Aの遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用であつて許
されない旨主張する。
 各成立に争いのない甲第四〇、第四一号証、乙第三、第四号証、同第三六号証の
二、原審及び当審証人Fの証言、原審における被控訴人C、当審における被控訴人
A、原審及び当審における控訴人の各本人の尋問の結果によると、被控訴人Aは大
正一五年一一月Eの後妻として同人と結婚し(昭和二年四月一八日届出)、爾来E
や控訴人らとともに農業に従事し、昭和三九年Eが直腸がんに罹患して病臥する
や、同人の入院中も、自宅療養中もEを看護してきたこと、ところが、被控訴人A
が控訴人の目を逃れて食糧品等を被控訴人B方へ運んだり、飲酒した際などに被控
訴人BがE家の長男だというような言動があつたため、被控訴人Aと控訴人が不仲
になり、控訴人が被控訴人Aに暴力を振うようになつたこと、そして、昭和四〇年
八月一三日控訴人が被控訴人Aに対し些細なことから暴力を振つたため、被控訴人
Aは家を出て被控訴人B方に身を寄せたこと、被控訴人Aは、昭和四〇年一一月E
を相手方として山形家庭裁判所新庄支部に対し、控訴人の暴行をEがとめないので
同居に耐えられないとして、離婚等の調停の申立をし、また昭和四二年二月一三日
控訴人とその妻Fを相手方として、山形地方裁判所新庄支部に対し、自己の不知の
間に養子縁組がなされたとして、Eと被控訴人Aを養親とする養子縁組無効の訴を
提起したこと、Eは、被控訴人Aが昭和四八年八月一三日より病気中のEを顧みず
に被控訴人B方に同居し、離婚の調停を申立てているので何ら遺贈しない旨遺言し
ていること、以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない(乙第三号証
((遺言公正証書謄本))第六条に離婚の訴とあるのは、離婚調停の申立の誤記で
あることは弁論の全趣旨に徴し明らかである。)。
 前記認定の事実からみると、被控訴人Aの家出、離婚調停の申立等は、E、控訴
人、被控訴人Aらの親族間の紛争に端を発したもので、被控訴人Aを一方的に責め
るのは酷に失するものとみられ、これらの行為があつたことの一事を以て直ちに被
控訴人Aの遺留分減殺請求権の行使が権利濫用として容認できない程非難されるべ
き行為ということはできず、他に控訴人のこの点に関する主張事実を認めるに足る
証拠はない。
 よつて、控訴人の右主張は採用できない。
 9 以上の理由により、被控訴人らは第六の1ないし18、第三の3の各不動産
につき、前記認定の各持分を有するところ、第六の2ないし15、第三の3の各土
地が控訴人所有名義に登記されていることは当事者間に争いがないから、被控訴人
らは右認定の持分に基づき、控訴人に対し、右各土地につき右持分を有する旨の変
更登記手続を求めることができるというべきである。
 10 控訴人は、被控訴人らの遺留分減殺請求に基づく現物返還に代えて価額に
よる弁償を主張している。
 <要旨>ところで、民法一〇四一条一項は、受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべ
き限度において、贈与又は遺</要旨>贈の目的物の価額を遺留分権利者に弁償して返
還の義務を免かれることができる旨規定し、受遺者・受贈者に対し目的物を返還す
るか、その価額を弁償するかの選択権を与えているが、受遺者・受贈者において、
価額弁償の意思表示をしたのみでは、遺留分権利者の目的物返還請求権は消滅する
ものでなく、現実に価額の弁償がなされてはじめて目的物返還請求権が消滅するも
のと解すべきである。即ち、遺留分権利者の目的物返還請求権は物権的に保護され
ているのに対し、受遺者・受贈者の価額弁償の意思表示により、これが消滅し、金
銭債権である価額弁償請求権にかわるとすれば、民法上右価額弁償請求権に優先的
効力を与える旨の規定がないので、遺留分権利者は、他の一般債権者と同じく単に
債権的な保護が与えられるにすぎなくなり、不当だからである。
 これを本件についてみるに、控訴人において目的物の価額を現実に弁償した旨の
主張立証のない本件においては、控訴人の右主張は採用できない。
 四、 以上の次第により、被控訴人らにおいて第一の1(第六の7)、第二の1
ないし7(第六の2ないし6、8、9)、第三の1ないし7(第六の10ないし1
5)の各不動産につき前記認定の各持分(但し、被控訴人Aについては申立の範囲
である六分の一の限度)を有し、控訴人においてこれを争うことは訴訟の経過によ
り明らかであるから、右持分の確認を求める利益ありとすべく、被控訴人らの主位
的請求は、被控訴人らの右の各持分を有することの確認と同持分に基づき右各不動
産につき同持分を有する旨の変更登記手続を求める限度で正当として認容すべきで
あり、その余は失当として棄却すべきである。
 よつて、被控訴人らの主位的請求を棄却し予備的請求を一部認容した原判決を取
り消すこととし、原審及び当審における訴訟費用の負担につき民訴法九六条九二条
但書を適用して主文のとおり判決する。

昭49・12・24最判 遺言者の押印を欠く自筆証書遺言が有効とされた事例
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
遺言書真否確認等請求
裁判要旨
英文の自筆遺言証書に遺言者の署名が存するが押印を欠く場合において、同人が遺言書作成の約一年
九か月前に日本に帰化した白系ロシア人であり、約四〇年間日本に居住していたが、主としてロシア語
又は英語を使用し、日本語はかたことを話すにすぎず、交際相手は少数の日本人を除いてヨーロッパ人に
限られ、日常の生活もまたヨーロッパの様式に従い、印章を使用するのは官庁に提出する書類等特に先
方から押印を要求されるものに限られていた等原判示の事情(原判決理由参照)があるときは、右遺言書
は有効と解すべきである。
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人中嶋徹の上告理由について。
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件自筆証書による遺言を有効と解した原審の判断
は正当であつて、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

昭49・12・26東京高判 数人の共同相続人の相続放棄と利益相反行為(上告)
東京高等裁判所?? ?? 第二民事部→最判53.2.24
相続回復請求事件
主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     被控訴人は別紙目録(一)記載の建物につき、宇都宮地方法務局鹿沼出
張所昭和二五年一一月一三日受付第△△△号をもつてなされた被控訴人のための所
有権保存登記を控訴人らおよび被控訴人が各五分の一の持分所有権を有する旨の所
有権保存登記に更正登記手続をなすべし。
     被控訴人は別紙目録(二)記載の土地につき、宇都宮地方法務局鹿沼出
張所昭和二五年一一月一三日受付第×××号をもつてなされた被控訴人のための所
有権取得登記を控訴人らおよび被控訴人が昭和二三年二月二六日相続を原因とし各
五分の一の持分所有権を取得した旨の登記に更正登記手続をなすべし。
     控訴人らのその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、主文第一ないし第三項、第五項同旨のほか「被控訴人は控訴人ら
が被相続人亡Aの相続人として同人の遺産につき、いずれも五分の一の持分所有権
を有することを確認する。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求
めた。
 当事者双方の主張および証拠関係は左に付加するほかは原判決事実摘示と同一で
あるからこれを引用する。
 控訴代理人は、
 一、1 訴外Bが控訴人らの後見人としてした控訴人らの相続放棄は、いわゆる
後見人と被後見人らの利益相反行為として、無権代理であり無効である。
 2 かりにそうでないとしても、Bは控訴人ら四人のための後見人であり、その
一人についてする相続放棄は他の被後見人との間に互いに利益が相反する行為であ
り、同人のした相続放棄は控訴人ら全員につき無効である。
 3 かりにそうでないとしても、右相続放棄はもつぱら亡Cにのみ相続財産を取
得させようとしたものであり、控訴人らの利益を極度に害したものであるから、後
見人としての権限を濫用したものであり、公序良俗に違反し無効である
 と述べた。
 二、 被控訴代理人は右主張を争うと述べた。
 三、 立証(省略)
         理    由
 一、 別紙目録(一)および(二)記載の各物件(本件物件)は先代Aの所有で
あつたところ、同人は、昭和二三年二月二六日死亡したこと、当時同人には先妻D
との間に生れたC、E、B、F、G、H、Iと、後妻Jとの間に生れた控訴人ら
(K、L、M、N)がいたが、右先、後妻ともすでに死亡していたので、右子らが
その遺産を相続することになつたところ、長男Cを除くその他のものは相続放棄を
したこと右Cは昭和二五年一月一日死亡し、被控訴人は同人の妻であるが、本件物
件につき控訴人ら主張のごとき被控訴人名義の各登記がなされていることは当事者
間に争いがない。
 二、 成立に争いない甲第一ないし第六号証、原審における証人F、同G、同O
の各証言、原審及び当審における証人Bの証言(原審は第一、二回)、控訴人K本
人尋問の結果ならびに本件口頭弁論の全趣旨をあわせると、次の事実を認めること
ができる。すなわち先代A死亡当時、同人と先妻Dとの間の前記子らはいずれも成
年に達していたが、後妻Jとの間の子である控訴人らは、いずれも末成年で、控訴
人K一五歳、同L一一歳、同M九歳、同N七歳であつた。
 当時長男Cは宇都宮高等農林学校を卒業後福島県庁に、また三男Bは北海道大学
を卒業して三菱電気株式会社にそれぞれ勤務し、F、G、H、Iの四姉妹はいずれ
も高等女学校を卒業し、I以外のものは、すでに他家に嫁いでいた。しかし、次男
Eは身心の病いのため家に残つていた。このような状態だつたので、A没後の四九
日の法要の席上成年に達していた前記兄妹らは相談のうえ、このさい長男Cが帰農
してAの遺産であつた本件物件を含む田約一町歩畑約五反歩ほか山林等によつて当
時まだ未成年であつた控訴人らの養育と次男Eの面倒をみることにし、そのかわり
に控訴人らを含む他の兄弟姉妹はそれぞれ相続を放棄することとし、三男Bはその
善後処置を長男Cに一任の上、自己の印鑑を同人に交付した。そこでCはBを控訴
人らの後見人に選任する手続をし、昭和二三年五月一〇日後見人B名義で控訴人ら
は相続を放棄する旨の申述が宇都宮家庭裁判所になされ、同年五月一七日付で右申
述は受理され、Cを除く他の成年者の相続人からも相様放棄の手続がなされ、その
結果Aの所有であつた別紙目録(一)(二)の物件を含む遺産はすべてCにおいて
単独相続により取得したこととなつたという次第である。
 三、 しかして前段挙示の証拠に成立に争いない乙第一、第二号証、原審におけ
る被控訴人本人尋問の結果をあわせれば、その後Cは昭和二五年一月一日死亡し、
同人の妻である被控訴人は六人の子らを抱えていたところから右Cの子らはすべて
相続放棄をし被控訴人が単独でCの相続をし、(Cの死亡及び被控訴人の相続の事
実は当事者間に争いない)Cに代つてEや控訴人らをみてゆくはずであつた。しか
し被控訴人も自己の子の養育にせいいつぱいでEや控訴人ら四名の世話を満足にみ
ることができず、傍目には虐待しているかのごとくにみえたので、Bら兄弟はこれ
を憂い、Eや控訴人らが生活してゆけるようにするため、Bがこれらのもののため
に被控訴人との間に同年五月八日約定書を作成し、被控訴人の取得したとされる遺
産の一部を控訴人らに贈与させることにした。
 しかし被控訴人は右約定を履行しなかつたので、Bは控訴人ら四名の後見人の資
格で、またE、F、Iの代理人としてかつ自己も申立人となつて被控訴人を相手と
し前記裁判所に財産分与の調停を申立て(同庁昭和二五年(家)イ第三九四号)、
その結果昭和二六年二月一日調停が成立したことを認めることができ、右認定を左
右するに足る証拠はない。
 <要旨>四、 ところで民法八六〇条によつて準用される八二六条一項、二項によ
れば、後見人はその被後見人と利益相</要旨>反する行為についてはその職務を行い
えず、後見人が数人の被後見人に対してその職務を行う場合において被後見人の一
人と他の被後見人の一人との利益が相反する行為については、他の被後見人につい
ては自ら後見人の職務を行いえないものであるところ、ここにいう利益相反行為と
は、行為の客観的性質上、後見人と被後見人間ないし数人の被後見人ら相互間に、
利害の対立を生ずるおそれのあるものを指称するのであつて、その行為の結果、現
実にその者らの間に利害の対立を生ずるか否かは問わないものと解すべきである。
 相続の放棄は、本来単独行為であるから、それ自体利益相反の問題を生じないか
の如くであるけれども、数人の共同相続人ある場合の相続放棄は、その者について
相続によつてうける利益を失わしめる効果を生ずる反面、他の共同相続人に相続分
が当然増加する効果をもたらすものであること、あたかも遺産分割の協議における
場合と同様であることにかんがみると、数人の共同相続人ある場合における相続の
放棄は、その行為の客観的性質上、相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのあ
る行為と解するのが相当である。したがつて共同相続人中の一人が他の共同相続人
を後見人とし、もしくは数人の共同相続人が一人の後見人の後見に付されて、この
後見人によつて相続の放棄をすることは、たとえその後見人が自らも共同相続人の
一人として相続放棄をなすものであり、また同一の後見人による数人の共同相続人
たる被後見人がひとしく相続放棄をするものであったとしても、かかる後見人によ
る相続放棄の行為は被後見人全員について前記条項に違反するものというべきであ
り、このような後見人による代理行為によつて成立した相続放棄は、無権代理によ
るものとして被代理人全員による追認がない限り無効であるといわなければならな
い(遺産分割の場合についてであるか、最高裁昭和四六年(オ)第六七五号同四九
年七月二二日第一小法廷判決、同昭和四七年(オ)第六〇三号同四八年四月二四日
第三小法廷判決参照)。本件の場合についていえば、前認定のように、Aの共同相
続人の一人たる三男Bが同じく共同相続人たる控訴人Kら四人の後見人として相続
放棄をしているものであつて、二重に前記法条に違反するものであることは明らか
であつて、控訴人らの追認がないかぎり、右放棄は無効といわなければならない。
 前認定の昭和二五年五月八日の約定及び昭和二六年の調停はBが依然控訴人らの
後見人としているものであつて、いわば前記相続放棄の延長にすぎず、それ自体控
訴人らの追認というべきものでないことはいうまでもない。なお、原審証人Bの証
言(第二回)によれば、前記調停の際、控訴人K自身も右席において、本件物件中
銭神の土地を譲り渡すよう被控訴人に強く要求したが拒絶されたというのである
が、当時右Kは未成年者であったのであるから、これをもつて同人が追認したもの
といえないことは明らかであるし、また、当審における控訴人K本人尋問の結果に
よれば、右調停後被控訴人からa所在の 五筆の山林以外の物件(右山林以外は本
件物件に含まれない)については調停に基づく履行をうけ現在まで引続き占有して
いるというのであるが、他方同人が相続放棄の手続がなされていることを知ったの
は昭和三九年ころ調停調書に関することで宇都宮家庭裁判所に相談に赴いたときが
始めてであってそれ以前にはなんら相続放棄の件については知らされておらず、B
からはかえつてそのような事実はないといわれていたので、本訴に及んだものであ
るという事実が認められるから、これらの事実によれば、控訴人Kに関する限り追
認したものと認めることはできないし、その他の控訴人らについては本訴提起まで
相続放棄の事実すら覚知していなかったものと推認できるから、三男Bが控訴人ら
の後見人としてなした本件の相続放棄は、民法八六〇条、八二六条に違反するもの
として無効というべきである。
 五、 被控訴人は控訴人らの相続回復請求権は、民法八八四条にいう五年の期間
の経過によって消滅したという。
 しかし本件放棄の後、被控訴人らの法定代理人であった後見人Bが控訴人らの後
見人として相続放棄をなしうる適格を有するものでないことを知り、したがつて同
人が当時から控訴人らの相続が害されている事実を知っていたことを認めるべき証
拠はなく、むしろ同人は控訴人らの成人までその事実を知らず自己のした行為は正
当有効であったと信じていたものと推認するのが相当であり、控訴人らについては
原審及び当審における控訴人K本人尋問の結果によれば控訴人らは事実上被控訴人
が十分面倒を見てくれないことに不満はいだいていたが、本来相続放棄がなされて
いたこと、その放棄が無効であることなどについては十分な認識がなく、前記のと
おり昭和三九年にいたつて宇都宮家庭裁判所に相談に行つたときはじめて相続放棄
がなされていること、しかもそれが無効で、やり直さなければならないことを知っ
たという次第であることを認めうるところであり、その後本訴は昭和四一年一一月
一八日提起されたものであることは記録上明らかであるから、結局本件について相
続回復の消滅時効が完成しているものとする被控訴人の主張は採用し難い。
 六、 もつとも控訴人らは先代Aの遺産につき五分の一の持分所有権を有するこ
との確認を求めているが、かかる請求は具体的な権利関係に関するものではなく、
これにより将来の紛争を予防しうるにたる基本的権利関係を即時確定すべきものと
は認められないから、右請求は排斥を免れない。
 七、 以上説示したところにしたがえは本件物件は先代Aの遺産であつたとこ
ろ、長男Cをしてこれを単独相続せしめるため、控訴人らの後見人として三男Bを
選任し、同人が控訴人らに代わって相続放棄の申述をなしたものであるが、右相続
放棄は無効であり控訴人らにおいてこれを追認した事実は認められないから、控訴
人らが先代Aの遺産について、その主張のごとき持分(持分の割合の点について被
控訴人は明らかに争わないところであるが、Aの相続人中C及び控訴人ら合計五人
を除く他の相続人は当時成年者として有効に相続放棄しているものであるから、控
訴人らの相続分は五分の一ずつとなること明らかである)を有するものというべ
く、被控訴人は本件物件について有する被控訴人名義の所有権取得登記を真実に合
致せしめるため控訴人ら主張のとおり更正登記手続をするべき義務がある。なお前
記調停はBが控訴人らの後見人としてした相続放棄につきその無権代理追認の意味
をもつものでないことは前示のとおりであり、右調停において被控訴人から控訴人
らに贈与を約した物件中一部(大字b字aの山林五筆計五反六畝)は本件物件中に
含まれること前記乙第一号証により明らかであるが、当審における控訴人K本人尋
問の結果によれば右山林の贈与は履行されず、依然被控訴人の所有名義であること
がうかがわれるのみならず、右調停は誤った権利関係を前提とする点で本来の効力
を有するものと解されず、この点は他の引渡ずみのものとあわせて将来遺産分割の
協議において解決されれば足り、前記結論を左右するものではない。
 従って控訴人らの本訴請求は確認を求める部分を除き理由があるというべきであ
る。
 よってこれと異り控訴人らの請求を全部棄却した原判決は右の限度でこれを変更
すべく、本件控訴は一部理由がある。
 よって民訴法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

昭50・10・24最判  相続財産が国庫に帰属する時期
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
建物収去土地明渡請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人海地清幸、同小倉正昭の上告理由第二点及び第三点について
 相続人不存在の場合において、民法九五八条の三により特別縁故者に分与されなかつた残余相続財産
が国庫に帰属する時期は、特別縁故者から財産分与の申立がないまま同条二項所定の期間が経過した時
又は分与の申立がされその却下ないし一部分与の審判が確定した時ではなく、その後相続財産管理人に
おいて残余相続財産を国庫に引き継いだ時であり、したがつて、残余相続財産の全部の引継が完了するま
では、相続財産法人は消滅することなく、相続財産管理人の代理権もまた、引継未了の相続財産について
はなお存続するものと解するのが相当である。民法九五九条は、法人清算の場合の同法七二条三項と同じ
く、残余相続財産の最終帰属者を国庫とすること即ち残余相続財産の最終帰属主体に関する規定であつ
て、その帰属の時期を定めたものではない。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実によれば、残余相続財産たる本件各建物の所有
権及びその敷地たる本件土地の賃借権が相続財産管理人Aにより国庫に引き継がれたのは、昭和四六年
一月一日であり、上告人は、右日時に先立つ昭和四五年六月一五日到達の書面をもつて、同人に対し、本
件土地の延滞賃料の催告及びそれが期限までに支払われないことを条件とする本件土地の賃貸借契約解
除の意思表示をしたことが明らかであるから、Aは、右催告及び条件付解除の意思表示を受領する権限を有
していたものといわなければならない。しかるに、原審は、残余相続財産たる本件各建物の所有権及び本件
土地の賃借権は、特別縁故者に対する財産分与審判確定時に国庫に帰属し、それと同時にAの残余相続
財産に関する相続財産管理人としての代理権も消滅したから、同人には上告人の本件土地の延滞賃料の
催告及び賃貸借契約解除の意思表示を受領する権限がなかつたとの理由のみに基づき、右賃料延滞の有
無、更には被上告人らの主張する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情の有無を確定することなく、右
解除の意思表示の効力を否定しているのであつて、原判決には、この点において民法九五九条についての
法令の解釈適用を誤まり、ひいては審理不尽に陥つた違法があるといわなければならず、右違法が原判決
の結論に影響を及ぼすことは明らかである。それゆえ、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決
は破棄を免れず、更に以上の点について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭50・11・7最判 共有持分を譲り受けた第三者の共有解消の手続
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
共有物分割請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告人らの上告理由について
 上告人らの訴訟被承継人であるAが訴外Bからその有する本件土地建物の持分二分の一の贈与を受けて
その共有権者になつたとし被上告人を相手として提起した共有権確認及び共有物分割訴訟につき、原判決
は、本件土地建物は亡Cまたは亡Dの遺産であつて、被上告人と訴外Bが各二分の一の持分をもつて相続
したものであるが、遺産の分割については当事者間においていまだ協議が調つていないことを確定したう
え、共有持分権の譲受人であつても遺産分割以前に遺産を構成する個々の財産につき民法二五八条に基
づく共有物分割訴訟を提起することは許されないとして、Aの右訴を却下したものである。
 しかし、共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的には民法二四九条以下に規定
する共有としての性質を有すると解するのが相当であつて(最高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五
月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁参照)、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不
動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができ(最
高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁参
照)、他の共同相続人とともに右不動産を共同所有する関係にたつが、右共同所有関係が民法二四九条以
下の共有としての性質を有するものであることはいうまでもない。そして、第三者が右共同所有関係の解消
を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法九〇七条に基づく遺産分割審判ではなく、民法二五八条
に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当である。けだし、共同相続人の一人が特定不動産につい
て有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該譲渡部分は遺産分割の対象から逸出するものと解す
べきであるから、第三者がその譲り受けた持分権に基づいてする分割手続を遺産分割審判としなければな
らないものではない。のみならず、遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続
人の具体的相続分に応じ民法九〇六条所定の基準に従つて分割することを目的とするものであるから、本
来共同相続人