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相続関連判例集
                                  <最高裁・判例検索システムより抜粋>
昭7・10・6大判 胎児と損害賠償請求権(阪神電鉄事件)
昭23・3・26東京高判 不特定物の遺贈
昭28・4・23最判 戦死による死亡日
昭28・5・29最判 債権譲渡の対抗要件
昭29・4・8最判 金銭債権の承継
昭29・12・21最判 相続放棄申述の記名押印
昭29・12・24最判 相続放棄の無効原因
昭30・5・10最判 遺言の解釈、遺言執行者の任務
昭30・5・31最判 遺産共有の性質
昭30・9・30最判 相続放棄無効確認の訴の適否
昭31・1・27最判 書面によらない不動産の贈与
昭31・5・10最判 相続で不動産の共有権者となった者は持分権で登記抹消できる
昭31・10・4最判 遺言者生前の遺言無効確認の訴の適否
昭32・5・21最判 遺言の効力は否定されたが、死因贈与と認められた事例
昭34・6・19最判 連帯債務の相続
昭35・7・19最判 減殺請求後の転得者に対する減殺請求の許否
昭36・6・22最判 自筆遺言書の日附、署名、捺印の方式
昭37・4・20最判 相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶した場合
昭37・4・27最判 母の認知
昭37・6・8最判 「遺言者が署名することができない場合」にあたるとされた事例。
昭37・11・9最判 根保証の相続性
昭38・2・22最判 相続人の一人がした単独所有権移転登記の抹消登記手続
昭38・4・8東京高判 父母を同じうする兄弟姉妹関係の不存在確認請求と確認の利益
昭39・2・27最判 相続回復請求権に関する20年の時効の起算点
昭和39・3・6最判 遺贈による所有権移転登記
昭39・4・14名古屋高判 遺言執行者選任審判取消審判に対する即時抗告事件
昭39・10・21東京高判 遺産分割前に処分された相続財産の分割
昭39・12・18大阪高判 移送審判の当否
昭40・2・2最判 保険金受取人を相続人と指定した場合の保険金の性質
昭40・5・21広島高判 遺留分回復の訴えの訴訟物等
昭40・6・18最判 無権代理人が本人を相続した場合の無権代理行為の効力
昭41・3・2最決 家審法9条1項乙類第10号の遺産の分割に関する処分の審判の合憲性
昭41・5・19最判 単独で占有する共有者に対する共有物の明渡請求
昭41・7・14最判 遺留分減殺請求権の性質
昭42・1・20最判 相続放棄と登記
昭42・2・21最判 家屋賃借人の死亡と内縁の妻の賃借権の承継の有無
昭42・4・27最判 法定単純承認の効果が生ずるための要件
昭42・4・28最判 内縁の夫が賃借権の援用した事例
昭42・11・1最判 慰謝料請求権の相続性
昭42・11・15名古屋高判 相続放棄取消の申述受理後、当該相続放棄の有効を別訴で主張することの可否
昭43・3・5札幌高判 他主占有者の相続人が現実に占有を開始した場合の占有の性質
昭43・5・31最判 遺言執行者がある場合と遺贈義務者の履行を求める訴の被告適格
昭43・12・20最判 口授と筆記・読み聞かせが前後した公正証書遺言の効力
昭43・12・24最判 生前行為による撤回・否定例
昭44・6・26最判 遺言による寄附行為と主務官庁の許可
昭44・9・8東京高判 相続人のない者からの包括遺贈と登記申請方法
昭44・10・30最判 土地占有権の相続
昭44・12・15東京高判 養子縁組無効確認請求控訴事件
昭45・3・17東京高判 遺言書の秘匿が相続欠格事由にあたるとされた事例
昭46・1・26最判 遺産分割の遡及効と対抗要件
昭46・7・23最判 離婚による慰籍料と財産分与との関係
昭46・11・16最判 遺贈と登記
昭47・2・15最判 遺言無効確認請求
昭47・3・17最判 危急時遺言において証人の署名・押印が別な場所でなされた
昭47・5・25最判 死因贈与の取消と民法1022条
昭47・7・6最判 家事審判規則一〇六条一項の相続財産管理人の応訴権限
昭47・9・1最判 家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の上訴権限
昭47・11・9最判 相続財産管理人の相続財産に関する訴訟についての当事者適格について
昭48・6・29最判 生命保険金請求権(交通事故傷害保険)の相続性
昭48・7・3最判 本人が無権代理人を相続した場合と無権代理行為の効力
昭49・4・26最判 特定債権の遺贈と対抗要件
昭49・7・3名古屋高判 認知の訴えの出訴期間経過後の父子関係存在確認と戸籍訂正の諾否
昭49・9・20最判 相続放棄と詐害行為取消権
昭49・11・27仙台高判 民法1041条1項(価額弁償)による目的物返還義務免脱の要件
昭49・12・24最判 遺言者の押印を欠く自筆証書遺言が有効とされた事例
昭49・12・26東京高判 数人の共同相続人の相続放棄と利益相反行為(上告)
昭50・10・24最判  相続財産が国庫に帰属する時期
昭50・11・7最判 共有持分を譲り受けた第三者の共有解消の手続
昭51・1・23大阪高判 相続人の存在が相続開始後に明らかになった場合と民784但書、同910の関係
昭51・3・18最判 金銭による特別受益と遺留分の算定
昭51・5・26東京高判 遺留分減殺すべき贈与の無効主張と消滅時効の進行
昭51・7・19最判 遺贈登記がなされた後に抹消登記を求める相手方
昭51・8・30最判 価額弁償額算定の基準時
昭51・11・24大阪高判 民法958条による公告の期間内に権利の申出をしなかった相続人の地位(上告)
昭52・2・17 相続財産に対する相続人の寄与と遺産の分割
昭53・2・24最判 相続放棄と利益相反行為(原審49.12.26)
昭53・12・20最判 共同相続人間における相続回復請求権
昭54・1・23大阪高判 遺産の範囲、分割を定める家事調停の既判力
昭54・2・6東京高判 遺産分割審判に対する抗告-配偶者らの寄与
昭54・3・23最判 遺産分割後の母子関係存在と民784但書、同910との関係
昭54・5・31最判 「昭和四拾壱年七月吉日」との遺言は無効
昭54・7・10最判 遺留分の価額弁償
昭54・12・3福岡高判 遺産分割後の被認知者の価額賠償請求について
昭55・3・24東京高判 嫡出親子関係不存在確認の訴の性質
昭55・11・27最判 死亡退職金が遺族固有の権利とされた事例
昭55・12・4最判 公正証書遺言における盲人である証人の立会い
昭56・4・3最判 遺言方式の具備行為と相続欠格事由
昭56・9・11最判 遺言無効確認、共同遺言
昭56・10・30最判 公告期間を徒過した相続人の相続権
昭56・11・13最判 協議離縁と遺言の効力
昭56・12・18最判 遺言書の誤記訂正とその効力
昭57・3・4最判 遺留分減殺請求権の時効
昭57・4・30最判 負担付死因贈与契約の取消し
昭57・11・12最判 遺留分減殺請求の時効の起算点
昭58・9・8最判 「妻何某」とした保険金受取人の指定の趣旨
昭59・4・27最判 熟慮期間の起算点
昭61・3・13最判 特定の財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えは、適法である
昭61・3・20最判 921条3項(法定単純承認)にいう「相続財産
昭61・8・7大阪高判 共有持分権を譲渡した場合と共有物分割の訴えの適否
昭61・11・20最判 不倫女性に対する包括遺贈と公序良俗
昭62・4・23最判 遺言執行者がある場合の相続人の処分、「遺言執行者がある場合」
昭62・5・27東京高判 遺言書の指印が無効とされた例
昭62・10・8最判 添え手による自筆証書遺言・無効例
昭63・4・25東京高判 相続放棄が無効であるとの主張が権利の濫用にあたるとされた事例
平1・1・26大阪高判 保険金受取人の一人が被保険者を故殺した場合
平1・2・9最判 遺産分割協議と負担不履行による解除
平1・2・16最判 自筆証書の指印有効例
平1・3・28最判 共同相続人間における遺産確認の訴は、固有必要的共同訴訟に当る
平1・6・28名古屋高判 持分の一部が遺贈された場合で相続人がないとき、民255条の関係(消極)
平1・8・10大阪高判 縁組前の養子の子が代襲する場合
平1・11・24最判 特別縁故者への分与と民法255条の関係
平2・9・27最判 遺産分割協議の合意解除
平2・10・18最判 公営住宅の相続権
平3・3・28東京高判 相続させる旨の遺言の場合には、遺言執行者は登記手続義務を負わない(上告)
平3・4・19最判(香川判決) 「相続させる」遺言の解釈
平4・3・13最判 保険金受取人が死亡した場合における受取人の変更に関する約款の解釈
平5・1・19最判 受遺者の選定を遺言執行者に委託した遺言の効力
平5・1・21最判 無権代理人を本人が共同相続した場合の無権代理行為の効力
平5・3・26大阪高判 遺産分割協議の無効確認を求める訴えと固有必要的共同訴訟
平5・4・6最判 自賠法にいう「被害者」 
平5・6・23東京高判 遺産分割審判に対する抗告事件−非嫡出子の差別問題
平5・9・7最判 商法六七六条二項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」の意義
平6・7・18最判 死亡保険金
平7・1・24最判 相続させる旨の遺言の場合には、遺言執行者は登記手続義務を負わない
平7・1・30最判 搭乗者傷害保険の死亡保険からの損害額控除
平7・3・7最判 特定の財産がいわゆる特別受益財産であることの確認を求める訴えの適否
平7・3・17大阪高判 遺言者の生存中であっても、例外的に遺言の無効確認を求めることができるか(上告)
平7・7・5最判 非嫡出子の相続分規定は合憲か
平8・1・26最判 全部包括遺贈に対する遺留分減殺請求
平8・7・9東京高判 死因贈与による仮登記がある不動産と限定承認された場合の「相続によって得た財産」(上告)
平8・10・31最判 全面的価格賠償の方法による共有物分割の許否
平8・11・7東京高判 保証債務と遺留分の基礎となる財産
平8・11・26最判 相続債務がある場合の遺留分侵害額の算定
平8・12・17最判 遺産たる建物の相続開始後の使用関係
平9・1・28最判 相続欠格の要件
平9・2・25最判 価額弁償金を支払わなかったときは、所有権移転登記せよ
平9・3・14最判 遺産確認の訴えは,共同相続人全員の間で合一に確定するための訴えである
平9・3・25最判 預託金会員制ゴルフクラブの会員の死亡により相続取得ができるとされた事例
平9・9・12最判 全部包括遺贈と相続人の不存在
平9・11・13最判 取り消された遺言の復活
平10・2・13最判 死因贈与の受贈者が限定承認をした相続人であるとき
平10・2・26最判 相続人に対する遺贈と民法1034条にいう目的の価額
平10・2・26最判 内縁の夫婦の一方の死亡後に他方が右不動産を単独で使用する旨の合意の推認
平10・2・27最判 「相続させる」遺言の遺言執行者と賃借権確認請求
平10・3・10最判 遺留分減殺請求前に譲渡した場合の弁償価額
平10・3・13最判 遺言公正証書作成には、証人の立会いを要する
平10・3・24最判 特別受益と遺留分減殺の対象
平10・6・11最判 遺留分減殺請求行使と遺産分割請求の関係
平10・7・17最判 追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力
平10・10・13名古屋高判 遺産分割及び寄与分を定める処分申立審判に対する即時抗告事件
平11・1・21最判 相続債権者が相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することの可否
平11・3・9最判 被相続人の生存中に相続人に対し売買を原因としてされた所有権移転登記について
平11・6・8大阪高判 持戻免除と遺留分の基礎となる財産
平11・6・10最判 相続税の課税処分取消請求事件
平11・6・11最判 被相続人が生存中の遺言無効確認の不適法
平11・6・11最判 遺産分割協議と詐害行為取消権
平11・6・24最判 遺留分減殺請求と目的物の取得時効
平11・7・19最判 共同相続人間の相続回復請求権と時効援用を立証すべき事項
平11・9・14最判 危急時遺言で民976条の口授があったとされた事例
平11・12・16最判 「相続させる」遺言と執行行為
平12・1・27最判 相続問題の前提問題としての親子関係の準拠法が日本の国際私法により決定された事例
平12・2・24最判 具体的相続分の価額又は割合の確認の利益
平12・3・8東京高判 遺留分減殺の順序-死因贈与の取扱い
平13・4・20最判 普通傷害保険契約に基づく死亡保険金請求の主張立証責任
平12・7・11最判 各個の財産についての価額弁償
平13・3・13最判 「不動産を遺贈する」との遺言の解釈
平13・3・27最判 証人となることができない者が同席した公正証書遺言の効力
平13・7・10最判 相続分の譲渡と農地法許可
平13・11・22最判 遺留分減殺請求を債権者代位の目的とすることの可否
平14・6・10最判 「相続させる」遺言と登記の要否
平14・7・12最判 推定相続人廃除申立て却下審判に対する抗告の可否
平14・9・24最判 秘密証書遺言が無効になった事例
平14・11・5最判 死亡保険金の受取人を変更する行為と民1031条の遺贈又は贈与
平15・3・24東京簡裁 相続放棄の熟慮期間の起算日
平15・3・28最判 民法900条4号ただし書前段と憲法14条1項
平15・4・25最判 通謀虚偽表示により遺産分割協議に基づいてした相続税の申告
平15・7・11最判 不実の持分移転登記に対する抹消登記手続請求をすることの可否
平15・11・13最判 遺産分割審判に対する即時抗告期間について
平15・12・11最判 死亡保険金請求権の消滅時効の起算点−3年経過後の遺体発見
平15・12・25最判 「曽」の字は、社会通念上明らかに常用平易な文字である。-戸籍施行規.60条
平16・2・26最判 実子が養子に対して提起した亡父の公正証書遺言無効確認請求訴訟
平16・4・20最判 共同相続人の一人が、遺産中の可分債権を行使した場合
平16・7・6最判 相続人の地位確認の訴えは固有的必要的共同訴訟である
平16・7・13最判 時効による農地の賃借権の取得については,農地法3条の規定の適用はない
平16・10・14最判 非嫡出子の相続分の民法900条4号但書き前段は、憲法14条1項に違反しない
平16・10・26最判 共同相続人の1人がした預金払戻しと不当利得、信義誠実の原則
平16・10・29最判 死亡保険金請求権と民法903条(特別受益)
平17・7・11最判 相続分を超える預金払戻、不当利得返還請求事件
平17・7・22最判 遺言書の解釈
平17・9・8最判 賃料債権と遺産分割
平17・10・11最決 第2次被相続人から特別受益を受けた物がるときの持戻しの要否
平17・12・15最判 実体関係と異なる単独所有権移転登記が全部抹消できるとした事例
平18・7・7最判 親子関係不存在確認請求と権利の濫用
平18・7・7最判 親子関係不存在確認請求と権利の濫
平18・7・14最判 相続人が意思無能力者である場合の相続税申告書の提出義務
平19・10・19最判 人身障害保険特約における保険金請求者が立証すべき事項
平21・1・22最判 共同相続人の一人が預金口座の取引経過開示請求権を単独で行使することの可否


昭7・10・6大判 胎児と損害賠償請求権(阪神電鉄事件)
大審院昭和7年10月6日第1民事部判決(最高裁判所民事判例集11巻2023頁)
◆事件番号:昭和6年(オ)第2771号
【要旨】
 民法ハ胎児ハ損害賠償請求権ニ付キ既ニ生レタルモノト看做シタルモ右ハ胎児カ不法行為ノアリタル後生キ
テ生レタル場合ニ不法行為ニ因ル損害賠償請求権ノ取得ニ付キテハ出生ノ時ニ遡リテ権利能力アリタルモノト
看做サルヘシト云フニ止マリ胎児ニ対シ此ノ請求権ヲ出生前ニ於テ処分シ得ヘキ能力ヲ与ヘントスルノ主旨ニ
アラサルノミナラス仮令此ノ如キ能力ヲ有シタルモノトスルモ我民法上出生以前ニ其ノ処分行為ヲ代行スヘキ
機関ニ関スル規定ナキヲ以テ前示鉄蔵ノ交渉ハ之ヲ以テ寿雄ヲ代理シテ為シタル有効ナル処分ト認ムルニ由
ナク又仮ニ原判決ノ趣旨ニシテ鉄蔵カ親族ノ重子等ヲ代理シ又ハ自ラ将来出生スヘキ寿雄ノ為ニ叙上ノ和解
契約ヲ為シタルコトヲ認メタルニアリト解スルモ被上告人ハ寿雄ノ出生後同人ノ為ニ鉄蔵ノ為シタル処置ニ付キ
寿雄ニ於テ契約ノ利益ヲ享受スル意思ノ表示セラレタル事実ヲ主張セス原審モ亦此ノ如キ事実ヲ認定セサリシ
モノナルヲ以テ鉄蔵ノ為シタル前記和解契約ハ上告人寿雄ニ対シテハ何等ノ効力ナキモノト云ハサルヘカラス
【解説】
自然人の権利能力は出生に始まる(1条ノ3)とされるが、これでは胎児に関して不都合が生じることがある。
この為、民法は胎児に関しては、@不法行為による損害賠償請求権A相続B遺贈に関しては既に生まれたも
のとみなしている。ただし、胎児の権利能力に関しては、生きて生まれることを停止条件として権利能力を胎児
の時点に遡って認める停止条件説と、死産を解除条件として胎児の時点で権利能力を認める解除条件説の二
説がある。停止条件説が通説・判例(上記)である。
よって、停止条件説においては上記判例の通り、胎児の間に代理人は認められないこととなり、従って、代理人
が胎児のためになした損害賠償の和解は胎児を拘束しないということになる。


昭23・3・26東京高判 不特定物の遺贈
東京高等裁判所?? ?? 第六部民事部
遺贈米換價金請求事件
主    文
     本件上告は之を棄却する。
     上告費用は上告人等の負擔とする。
         理    由
 本件上告埋由は上告代理人提出の末尾に添付した上告理由書記載の通りである。
各論旨に對して次のやうに判断する。
 上告理由第一點に對する判断
 原判決の摘示する當事者間に爭なき事實によれば被上告人先代亡Aは昭和三年十
二月三十一日死亡し、被上告人に於てその家督を相續したが、右Aは大正十三年十
二月二十七日子女の將來を慮り、自筆の証書を作成して後妻の子である上告人兩名
に對し夫々「米四斗人五百俵人田地」を遺贈する旨を遺言しその遺言書を訴外Bに
保管せしめた。しかるに右Bはその後昭和九年五月三日にいたり横手區裁判所にお
いて遺言書の檢認を受けたが、右遺贈は上告人兩名に對し相續財産中の田地の内夫
々小作米玄米四斗入年五百俵を舉げ得べき部分を與へる趣旨で特定名義の遺贈では
あるが、その目的物が不特定であつたため昭和十年十二月四日訴外Cが遺言執行者
に選任され、同人は昭和十一年六月十二日遺言の趣旨に従ひ、被上告人の相続財産
から特定の田地を選定して上告人兩名に引渡したと云ふにある。
 而して常時施行されてゐた改正前の明治三十一年法律第九號民法第千八十七條は
遺言は遺言者死亡の時あらその效力を生ずる旨を規定しているが、その趣旨は必ず
しも遺言者の死亡と同時に遺言の内容が實現すると云ふのでなく、遺言が遺言者の
死亡の時あら、その意思表示としての效力を生ずると云ふに過ぎない。それ故遺贈
の效果が遺言の效力發生と同時に物權的に生ずるか、或は又債權的請求權を受遺者
に取得をせるに止まるかは結局遺言と云ふ意思表示の效果の問題であるあらこれを
一様に断定すべきではない。例へば特定物の給付を目的とする遺贈において、遺言
者の意思がいづれの效果を生ぜしめるにあるか不明な場合には民法第百七十六條の
適用上遺言の效力發生と同時に物權的效果を生ずるものと解すべきであるが(大審
院大正五年(オ)第四九一<要旨第一>號同年十一月八日判決参照)之に反し本件の
ような不特定物の給付を目的とする遺贈にあつては相續人は遺言</要旨第一>者死亡
の結果遺言の效力としてその不特定物を特定し受遺者に完全な所有權を移轉する義
務を負ふと共に他面受遺者はその給付に対する債権的請求權を有するに至るもの
で、この種の遺贈の效果は純粹に債權的であると解すべきであり、従つて遺言執行
者が相続人に課せられた遺贈義務の履行として目的物を特定した時に始めてその所
有權が受遺者に移轉するものと考へるのを至當とする。これを一般の法律行爲の原
則に照らして見るに、右遺贈における受遺者たる上告人兩名の權利は被上告人の相
続財産といふ一定範圍の田地の内玄米四斗入五百俵の小作米を挙げ得べき部分の給
付を求むるもので所謂限定種類債權と目すべきであるが限定種類債權も亦種類債權
に外ならないあらその特定の效果は將來に向つてのみ發生し既往に遡ることはな
い。尤も限定種類<要旨第二>債權に對しては選擇債權に於ける選擇權の行使及び移
轉に關する民法第四百六條以下の規定が準用されるので</要旨第二>あるが(大審院
大正五年(オ)第一〇八號同年五月二十日判決)限定種類債權にあつては給付の目
的物は一定の範圍のものであつてその個性は何等顧慮すべきでないからこれについ
ては特定の效果を既往に遡らしめる必要がなく民法第四百十一條は限定種類債權の
特定の場合に準用されないものといはなければならない。要するに木件遺贈の目的
物は遺言執行者Cが選定を了した前記昭和十一年六月十二日に夫々上告人等に所有
權が移轉したものであるから、原審が同一趣旨の下に右所有權移轉の時期が遺言者
Aの死亡の時であるとの上告人等の主張を排斥したのは正當で、原判決には、上告
人等主張のような法令の適用を誤つた違法はない。上告人援用の大審院制決は特定
物の給付を目的とする遺贈に關するもので、本件のやうな不特定物の給付を目的と
する遺贈の場合には適切でない。結局第一點の所論は原審と異る見解を持してその
適正なる制定を論難するもので到底これを採用するを得ない。
 上告理也第二點に對する判断
 特定物の給付を目的とする遺贈と不特定物の給付を目的とする遺贈が同一の遺言
書に記載してある場合にはその兩者を特定物の給付を目的とする遺贈として取扱い
全部につき遺言者死亡の日から所有權移轉の效力を生ぜしぬなければならないと云
ふ法則はなく、原判決には上告人主張のような法令の適用を誤つた違法はない。上
告人援用の大審院何決は上告人がその趣旨を正解せざるもので本件の場合に適切で
ない。要するに論旨第二點は上告人獨自の見解に基き原審が適法に爲した判定を攻
撃するもので採用に値しない。
 よつて本件上告を理由ないものと認め民事訴訟法第三百九十六條第三百八十四條
第八十九條を適用し主文の如く判決する。

昭28・4・23最判 戦死による死亡日
最高裁判所第一小法廷(福岡高等裁判所)
試掘権移転登録手続等請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差戻す。
         
理    由
 上告代理人弁護士前川末広の上告理由について。
 原判決が上告人の「仮りにAに従前り代理権があつたとしても、原告は、本件売買契約前の昭和二〇年八
月一三日既に戦死しているから、その時にAの代理権は消滅している。」との主張に対し、所論摘示のように
判示してその主張を排斥したことは、所論のとおりである。そして、成立に争のない乙第三号証(熊本市長の
戦死証明書)並びに甲第六号証の一(比島課長の死亡認定に就いての回答)二(認定官B業務局長の死亡
認定理由書)によれば、乙第四号証Cの戸籍抄本中の「昭和二〇年八月一三日時刻不明比島ルソン島マウ
ンテン州カラパンで戦死熊本県知事D報告同二三年一〇月八日受附」なる記載は、原告(被上告人)が諸般
の状況によりその所属していた南方軍築城支部が作業に従事した最終日である前記日時、場所附近で戦死
したものと認定する旨の認定官の認定に基き戸籍法八九条の報告により登載されたものと認定すべきであ
り、かかる場合原告は、反証のない限り右戸籍簿登載の死亡の日に死亡したものと認むべきである。しかる
に、原告が右戸籍簿の記載と異り現に生存し又は本件売買成立の日である昭和二元年二月二八日以降ま
で生存していたこと等の事実を認定することなく、原判決が、所論摘示のとおり判示したのは、証拠の判断乃
至法則を誤つたものというべく、爾余の論旨に対する判断を与えるまでもなく論旨第一点はその理由があつ
て原判決は破棄を免れない。しかし、原判決は、岡本Aが原告の父として、原告の応召出征するに際し、原
告からその後事一切についての包括的代理の委任を受けた事実を認定しているのである。そして、右にい
わゆる「包括的代理の委任により、右Aは原告の委任による不在者い財産管理人たる地位にあつたものと認
め得ないとは限らず、しかも、右Aと原告とが父子の関係にあり且つ原告が応召出征に際しての授権である
というような特別の事情からして、右授権は、財産管理人として右Aの有する代理権は、必ずしも原告の死亡
によつて消滅しない趣旨においてなされたものと解する余地もないわけではない。そして、本人の死亡を代
理権消滅の原因とする民法一一一条の規定は、これと異る合意の効力を否定する趣旨ではないと解すべき
であるから、原告がたとえ戸籍簿に記載のある昭和二〇年八月一三日死亡したとしても、これがため前記趣
旨においてなされた合意に基く右Aの代理権は消滅しないものと解し得ないとは限らない。又かかる場合、右
Aが原告死亡后原告の代理人としてなした本件売買の効力は実質上原告の相続人のために生ずる筋合で
はあるが、本人死亡するも代理権消滅の通知なき限り法定代理権の消滅なきものとする民訴五七条及び本
人の死亡による訴訟代理権の消滅を認めない民訴八五条が、何れも、かかる場合法定代理人又は訴訟代
理人の訴訟行為の効果を実質上死亡者の相続人に帰属せしめることを容認するものと解せられるから、右
Aが原告の生死不明の間に、改めて裁判所により原告を不在者とする財産管理人に選任せられ、その許可
を得て本件訴訟物を原告の権利として提起した本訴においては、たとえその後において原告死亡の事実が
判明した結果、右権利が実質上原告の相続人に帰属するものと認めざるを得ない場合においても、原告の
当事者としての適格を否定すべきでないと解することができる。従て、本件については、なおこれらの点につ
き審理判断の必要があると認められるから、民訴四〇七条に従い、原判決を破棄し、本件を原裁判所に差
戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

昭28・5・29最判 債権譲渡の対抗要件
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所)
預金払戻請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告理由第二点(イ)について。
 原審は、本件債権譲渡については、債務者たる上告銀行が事前の承諾をなした事実を認定しているだけ
で、右譲渡の后において民法四六七条一項所定の通知承諾があつた事実を認定していないことは所論のと
おりである。しかし原判決の理由を通読すれば、原審は、本件預金債権については最初当事者間に譲渡禁
止の特約があつた事実、そして債権者たる和歌山県農業会は、本件債権を被上告人に譲渡しようとするに
当り、前記譲渡禁止の特約があつた関係上、特に予め債務者たる上告銀行から右譲渡の承諾を得たもので
あり、ひつきよう上告銀行はこれにより右譲渡禁止の特約を解いて被上告人に対する本件債権譲渡につき
同意をなした事実を認定した趣旨であることを十分看取することができるのである。而して右の如く債権譲渡
の目的たる債権及びその譲受人がいずれも特定している場合に、債務者が予めその譲渡に同意したとき
は、その后あらためて民法四六七条一項所定の通知又は承諾がなされなくても、当該債務者に対しては右
債権譲渡をもつて対抗し得るものと解するのが相当である。けだし、かゝる場合右債権譲渡を債務者に対抗
し得ると解しても、当該債務者には、なんら債権の帰属関係が不明確となり二重弁済その他不測の損害を及
ぼす虞はないからである。されば原審が前記の如き事実関係の下において、本件債権譲渡をもつて債務者
たる上告銀行に対抗し得る旨判断したのは相当であつて、論旨は理由がない。
 その他の込論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四
日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主
張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭29・4・8最判 金銭債権の承継
最高裁判所第一小法廷
損害賠償請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人弁護士梶村謙吾の上告理由第二点について。
 相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上
当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とするから、所論は
採用できない。
 同第一点、第三点について。
 論旨第一点は、判例違反をいう点もあるが、判例を具体的に示さないから、不適法な主張たるを免れない
し、その余は単なる訴訟法違背の主張であり、(被上告人等は、原審で、所論相続に関する事実を主張し相
続分に応じて支払うべき旨請求しているから、所論の違法は認められない。)同第三点は、事実認定を非難
するに過ぎないものであつて、すべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」、
(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解
釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

昭29・12・21最判 相続放棄申述の記名押印
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
相續放棄無効確認等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人岡本繁四郎、同大島清七の上告理由は後記のとおりである。
 同第一点について。
 家庭裁判所が、相続放棄の申述を受理することは審判事項であるから、その申述が本人の真意に基ずくこ
とを認めた上これを受理すべきでありそのため必要な手続はこれを行うことを原則とするが、申述書自体に
より右の趣旨を認め得るかぎり必ずしも常に本人の審問等を行うことを要するものではない。そして家事審
判規則一一四条二項が、申述書には本人又は代理人がこれに署名押印しなければならないと定めたのは、
本人の真意に基ずくことを明らかにするためにほかならないから、原則としてその自署を要する趣旨である
が、特段の事情があるときは、本人又は代理人の記名押印があるにすぎない場合でも家庭裁判所は、他の
調査によつて本人の真意に基ずくことが認められる以上その申述を受理することを妨げるものではない。本
件についてみるに、原判決及びその引用する第一審判決の判示するところによれば、十分な証拠調を行つ
た上、上告人が真実に相続を放棄した事実を認定しその請求を排斥したことが明らかであり、またその判断
に誤りは認めらられない。従つて仮りに本件の家庭裁判所が所論一の(一)(二)に述べるような手続によつ
て本件申述を受理したとすれば、慎重を欠いたそしりを免れないが、それだけで本件相続放棄の申述を無効
ということはできない。その他の論旨は、原審の証拠の取捨判断又は事実認定を非難するに過ぎない。
 同第二点について。
 所論は、憲法一四条一項違反をいうが、その実質は原審の事実の誤認ないし法令違反を主張するに過ぎ
ず、第一点について説明したとおりであるから採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭29・12・24最判 相続放棄の無効原因
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
売掛代金残請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告理由第二点について。
 家庭裁判所が相続放棄の申述を受理するには、その要件を審査した上で受理すべきものであることはいう
までもないが、相続の放棄に法律上無効原因の存する場合には後日訴訟においてこれを主張することを妨
げない。
 その他の論旨はすべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五
月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要
な主張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

昭30・5・10最判 遺言の解釈、遺言執行者の任務
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
仮処分異議
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人銭坂喜雄の上告理由第一点について。
 所論は、要するに原判決は遺言者の真意を無視して遺言の趣旨を専断的に解釈した違法があり、また遺
言の文言が原判決のように解しうるとすれば、相異なる二様の解釈が生ずることとなり、遺言の真意が不明
確であることに帰するから無効としなければならないのに、原審がこれを有効と認定したのは違法であるとい
うに帰する。しかし意思表示の内容は当事者の真意を合理的に探究し、できるかぎり適法有効なものとして
解釈すべきを本旨とし、遺言についてもこれと異なる解釈をとるべき理由は認められない。この趣旨にかん
がみるときは、原審が本件遺言書中の「後相続はAにさせるつもりなり」「一切の財産はAにゆずる」の文言を
Aに対する遺贈の趣旨と解し、養女Bに「後を継す事は出来ないから離縁をしたい」の文言を相続人廃除の
趣旨と解したのは相当であつて、誤りがあるとは認められず、また遺言の真意が不明確であるともいえない
から、所論は理由がない。
 同第二点について。
 所論は、被上告人は本件仮処分を請求する権利がないと主張する。しかし仮処分は、裁判所が申請人の
請求権が本案の訴訟で確定する以前に予じめこれを保全する必要ありと認めた場合に許されるのであるか
ら、たとい上告人に対する相続人廃除の審判が確定せず、また被上告人に対する遺贈の効力がなお争いう
る状態にあるとしても、被上告人において遺贈により本件建物の所有権を取得した旨主張し、その権利保全
のため仮処分を申請することが許されない道理はない。所論の援用する民法八九五条は、相続人廃除の手
続進行中における相続財産の保全を図るため、家庭裁判所に必要な処分を命ずる権限を認めた規定であ
つて、これあるがため、受遺者がその財産を相続人から買い受けた第三者に対し、自己の請求権を保全す
る仮処分を申請することを禁ぜられるものとは解されない。また本件遺言の趣旨が原判示のとおりであつて
も、上告人に対する相続人廃除の請求が棄却されれば、上告人の遺留分減殺請求権との関係において、必
しも本件建物が被上告人に帰属するといえないことは所論のとおりであるが、そのことの確定しない現在に
おいて、被上告人が本件建物について仮処分の申請をなし得ないという理由は認められない。
 同第三点について。
 遺言執行者が所論のような権利義務を有することは民法一〇一二条一項の規定から明らかであり、従つ
て本件の遺言執行者が所論摘示のような行為をなし得ることも認められるが、このことは本件被上告人が受
遺者としての権利に基いて自ら仮処分の申請をなすことを妨げるものと解することはできない。
 同第四点について。
 遺言執行者の任務は、遺言者の真実の意思を実現するにあるから、民法一〇一五条が、遺言執行者は相
続人の代理人とみなす旨規定しているからといつて、必ずしも相続人の利益のためにのみ行為すべき責務
を負うものとは解されない。そして本件仮処分の相手方たる上告人は、相続人から本件建物を買い受けた第
三者であつて相続人その人ではないから、遺言執行者である増田要次郎が受遺者たる被上告人の代理人
として上告人に対し、仮処分申請の手続をすることを許されないと解することはできない。
 同第五点について。
 民法九八二条が九七六条の遺言に九七三条を準用する旨を定めたのは、九七六条のいわゆる特別方式
による遺言を禁治産者がなす場合には、九七三条を準用し医師の立会等を必要とするとの趣旨であつて、
禁治産者でない通常人が九七六条の遺言をする場合についても、禁治産者の遺言の場合と同じく、九七三
条に定める医師の立会等を必要とするとの趣旨ではないと解するを相当とする。このことは、九八二条が九
七七条ないし九七九条の遺言にも九七三条を準用する旨規定した法意と比照してみれば明らかであつて、
これと同趣旨に出た原判決の解釈に誤りはなく、所論は採用することはできない。
 同第六点ないし第九点について。
 所論第六点は、原審が証拠によつて正当に認定した「本件遺言書は証人の一人Cが遺言者のいうままに
一口一口宛筆記した上、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後
これに署名捺印した」という事実を争うに過ぎず、また所論第七点は、右事実認定と異なる見解を前提とする
主張であるから、採用のかぎりでなく、仮りに原審が所論準備書面の趣意を誤解したふしがあつたとしても、
判決主文には全く影響がなく、結論においてなんら変りはない。所論第八点は、原審が証拠によつて正当に
判断した遺言書の真意を、遺言書の語句と対比して非難するに過ぎず、原判決になんら違法はない。所論
第九点は、原審口頭弁論において陳述しない準備書面の記載に基づいて判断遺脱を主張するのであつて
採用のかぎりでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭30・5・31最判 遺産共有の性質
最高裁判所第三小法廷
共有物分割請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人松岡末盛の上告理由第一、二点について。
 相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規
定する「共有」とその性質を異にするものではないと解すべきである。相続財産中に金銭その他の可分債権
があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するとし
た新法についての当裁判所の判例(昭和二七年(オ)一一一九号同二九年四月八日第一小法廷判決、集八
巻八一九頁)及び旧法についての大審院の同趣旨の判例(大正九年一二月二二日判決、録二六輯二〇六
二頁)は、いずれもこの解釈を前提とするものというべきである。それ故に、遺産の共有及び分割に関して
は、共有に関する民法二五六条以下の規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、
分割によつて著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのであつ
て、民法九〇六条は、その場合にとるべき方針を明らかにしたものに外ならない。本件において、原審は、本
件遺産は分割により著しく価格を損する虞があるとして一括競売を命じたのであるが、右判断は原判示理由
によれば正当であるというべく、本件につき民法二五八条二項の適用はないとする所論は採用できない。そ
してまた、原審は本件につき民法附則三二条、民法九〇六条を準用したことも原判文上明らかであるから、
これを準用しない違法があると主張する所論も採用できない。
 その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日
法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張
を含む」ものと認められない(論旨第三点の理由ないことも原判決の判示したとおりである)。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭30・9・30最判 相続放棄無効確認の訴の適否
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所)
相続放棄無効確認請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人古田進の上告理由第一点について。
 およそ、確認訴訟は、特段の規定のないかぎり、特定の権利又は法律関係の存在又は不存在の確認を求
める訴である。本件において上告人(原告)等は、その請求の趣旨として「原告等が昭和二五年八月二三日
にした岡山県川上郡a村大字b番地被相続人Aの相続放棄は無効とする」との判決を求めたこと、そして、そ
の訴旨は、右のごとき趣旨の確認判決を求めるものであることはその主張自体から明らかであるにかかわら
ず、当該相続放棄の無効なるに因つていかなる具体的な権利又は法律関係の存在、若しくは不存在の確認
を求める趣意であるかは、明確でないのである。相続のごとき複雑広汎な法律関係を伴うものについて、本
件確認の対象となるべき法律関係は、少しも具体化されていないのである(もとより、全般的にかかる相続放
棄無効確認の訴を許す特別法規も存在しない。)。すなわち、かかる確認の訴は、適法な「訴の対象」を欠く
ものといわざるを得ないのであつてかかる上告人(原告)の請求に対し本件第一審若しくは原審の口頭弁論
期日において、被上告人(被告)特別代理人が「原告請求通りの判決を求める」旨の陳述をしたからといつて
民事訴訟法上、「請求ノ認諾」たる効力を生ずるに由ないものといわなければならない。されば、第一審若しく
は原審が右特別代理人の陳述をもつて「請求ノ認諾」にあたるものと解せず、従つて、認諾に因る訴訟終了
の措置を採らなかつたことをもつて、所論のように違法とすることはできない。論旨は採るを得ない。
 同第二点について。
 本件相続放棄の結果、被上告人の相続税が上告人等の予期に反して多額に上つた等所論の事項は、本
件相続放棄の申述の内容となるものでなく、単なる動機に関するものに過ぎないことは、原判示のとおりであ
るから、かかる場合に民法九五条の規定は適用のないものとした原判決は正当であつて、論旨は理由がな
い。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭31・1・27最判 書面によらない不動産の贈与
最高裁判所第二小法廷
建物返還並に登記無効等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人砂子政雄の上告理由第一点について。
 原判決の認定するところによれば、本件建物は、上告人Aにおいて、被上告人名義で建設し、出来上りと同
時にこれを被上告人に贈与する旨の契約をしたというのであつて、原判決は、右契約をもつて、右建物の出
来上りと同時に、その所有権を同上告人から、被上告人に移転する趣旨の契約と解し、被上告人は、右契約
の趣旨に従い建物出来上りと同時にその所有権を取得したものと判示したのであつて、もとより、正当であ
る。論旨は原判示を正解せざるによるもので、採用することができない。
 同第二点について。
 原判決は本件建物の所有権は、その出来上りと同時に被上告人に移転せられたものであるから、所論の
贈与は、既にその履行を終つたものである。よつて、右贈与は上告人Aにおいて、これを取消すことはできな
いと判示するけれども不動産の贈与は、その所有権を移転したのみをもつて、民法五五〇条にいわゆる「履
行ノ終ハリタル」ものとすることはできないのであつて、右「履行ノ終ハリタル」ものとするには、これが占有の
移転を要するものと解すべきことは、論旨所説のとおりである。しかし、原判決は右贈与契約については上
告人Aは出来上りと同時にこれを被上告人に贈与すると共に、「その後元年間は、控訴人(上告人)Aにおい
て右建物を無償で使用し、ビンゴゲーム場を経営して利益をあげ、その一年の期間満了とともに右建物を被
上告人に明渡すことと定めた」こと、並びに上告人Aが右契約の趣旨に従つて右建物建築后これを占有使用
していることを認定しているのであつて、この事実関係の下においては、右建物は、出来上りと共にその所有
権が被上告人に移転すると同時に、爾後上告人Aは被上告人の為めに右建物を占有する旨の意思を暗黙
に表示したものと解すべきであるから、これによつて、右建物の占有もまた、被上告人に移転したものという
べく、従つて、本件贈与は、既にその履行を終つたものと解するを相当とする。されば上告人の右贈与取消
の抗弁を排斥した原判決は結局正当であつて、論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭31・5・10最判 相続で不動産の共有権者となった者は持分権で登記抹消できる
第1小法廷判決(
不動産所有権移転登記抹消登記手続請求上告事件(上告棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人弁護士桑江常善の上告理由第一点について。
 本件におけるがごとく、ある不動産の共有権者の一人がその持分に基き当該不動産につき登記簿上所有
名義者たるものに対してその登記の抹消を求めることは、妨害排除の請求に外ならずいわゆる保存行為に
属するものというべく、従つて、共同相続人の一人が単独で本件不動産に対する所有権移転登記の全部の
抹消を求めうる旨の原判示は正当であると認められるから、論旨は採ることができない。
 同第二点について。
 原判決挙示の証拠によれば、甲野ハルオが実弟たる控訴人(上告人)名義に仮装して本件登記をなしたと
の原判示認定を肯認することができるし、また、原判決は、第一審判決とは異つて被上告人等が共同相続を
したとの被上告人の主張事実を是認したものであるから、所論の審理不尽は認められない。なお、不法原因
給付であるとの主張は、原審で主張しなかつたところであるから、原判決が民法七〇八条の解釈を誤つたと
の主張は採用することができない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
昭31・10・4最判 遺言者生前の遺言無効確認の訴の適否
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
遺言無効確認、建物所有権移転登記抹消請求
主    文
     原判決中遺言無効確認の請求に関する部分を破棄する。
     第一審判決中右請求に関する部分を取消し、被上告人の該請求につき訴を却下する。
     抹消登記手続の請求につき本件上告を棄却する。
     訴訟の総費用は一〇分し、その一を被上告人の負担としその九を上告人の負担とする。
         
理    由
 職権をもつて按ずるに、確認の訴は原則として法律関係の存否を目的とするものに限り許されるのであつ
て、事実関係については訴訟法上特に認められた「法律関係ヲ証スル書面ノ真否ヲ確定スル為ニ」する場合
(民訴二二五条)の外はこれを提起することはできない。それは法令を適用することによつて解決し得べき法
律上の争訟について裁判をなし以て法の権威を維持しようとする司法の本質に由来する。すなわち法律関
係の存否は法令を適用することによつて判断し得るところであるに反し、事実関係の存否は経験則の適用に
よつて確定されるのであり、経験則の確認、これが正当な適用というようなことは司法本来の使命とは直接
的関係はなく法令適用の前提問題たるに過ぎないからである。そしてまたその法律関係についてもただ現在
時における存否のみがこの訴の対象として許されるのであつて、ある過去の時点におけるその存否、若くは
将来時におけるその成否というようなことは確認の対象とすることは許されない。民事訴訟法は現在の法律
関係の確認を許すだけでこの種の訴を認めた立法目的を達成するに必要にして十分であるとしたものと解
せられる。けだし、過去の法律関係の存否は、たとえそれが現在の法律関係の存否に影響を来たすべき場
合においても、それは単に前提問題としての意義を有するに止まり、当該現在の法律関係の存否につき確
認の訴を認める外、かかる過去の法律関係の存否についてまでこの種の訴を認める必要はないのであり、
また将来の法律関係なるものは法律関係としては現在せず従つてこれに関して法律上の争訟はあり得ない
のであつて、仮りにある法律関係が将来成立するか否かについて現に法律上疑問があり将来争訟の起り得
る可能性があるような場合においても、かかる争訟の発生は常に必ずしも確実ではなく、しかも争訟発生前
予めこれに備えて未発生の法律関係に関して抽象的に法律問題を解決するというが如き意味で確認の訴を
認容すべきいわれはなく、むしろ現実に争訟の発生するを待つて現在の法律関係の存否につき確認の訴を
提起し得るものとすれば足ると解せられるからである。この事は現存する給付請求権について、それが条件
附又は期限付であるとき、「豫メ其ノ請求ヲ為ス必要アル場合ニ限リ」将来の給付の訴を提起し得るものとし
た民訴二二六条の規定の存在することに徴しても容易に理解し得るところであろう。
 本件において、遺言の無効確認を求める請求の原因の要旨は、被上告人は昭和二六年一一月二一日東
京法務局所属公証人A作成第一八六九一四号公正証書により遺言者を被上告人、受遺者を上告人、遺言
執行者をB、証人をB及びCとして本件係争建物を上告人に遺贈する旨の遺言をしたが、昭和二七年九月二
四日同公証人作成第二〇二四二六号公正証書により遺言者を被上告人、遺言執行者をD、証人を同人及
びEとして前記遺贈を取消したので、該遺言の無効確認を求めるというのである。(記録によれば、被上告人
主張のとおりに遺贈がなされ、そしてそれが取消されたことは、本訴当事者間に争はないのである。本件で
は遺言無効確認請求の外、上告人が昭和二七年七月一〇日係争建物につきなした所有権取得登記の抹消
登記手続を求める請求が併合されているけれど、右所有権の取得登記は前示遺贈をその登記原因とするも
のでないことは勿論である。)そしてその請求の趣旨は、これを字義通りに理解するならば遺贈なる法律行為
の無効なることの確認を求めるものの如くであるが、法律行為はその法律効果として発生する法律関係に対
しては法律要件を構成する前提事実に外ならないのであつて法律関係そのものではない。ある法律行為が
有効であるか無効であるかということは、もとより法律判断を包含してはいるけれども、かかる事項を確認の
訴の対象とすることの許されないことは前段説示するところにより明瞭であろう。またその訴旨を本件遺贈に
よる法律効果としての法律関係の不存在の確認を訴求するものと理解しても、なおこの訴は不適法たるを免
れない。元来遺贈は死因行為であり遺言者の死亡によりはじめてその効果を発生するものであつて、その生
前においては何等法律関係を発生せしめることはない。それは遺言が人の最終意思行為であることの本質
にも相応するものであり、遺言者は何時にても既になした遺言を任意取消し得るのである。従つて一旦遺贈
がなされたとしても、遺言者の生存中は受遺者においては何等の権利をも取得しない。すなわちこの場合受
遺者は将来遺贈の目的物たる権利を取得することの期待権すら持つてはいないのである。それ故本件確認
の訴は現在の法律関係の存否をその対象とするものではなく、将来被上告人が死亡した場合において発生
するか否かが問題となり得る本件遺贈に基ずく法律関係の不存在の確定を求めるに帰着する。しかし現在
においていまだ発生していない法律関係のある将来時における不成立ないし不存在の確認を求めるという
ような訴が、訴訟上許されないものであることは前説示のとおりであつて、本件確認の訴はその主張するとこ
ろ自体において不適法として却下せざるを得ない。
 それ故、第一審裁判所が本件確認の訴を適法と認め本案につきその請求を認容したのは失当であり、原
審は須らく第一審判決を取消し訴却下の裁判をなすべきであつたにも拘わらず、第一審と同一見地に立つ
て該判決を維持し上告人のなした控訴を棄却したのは失当でありこの点に関する限り原判決は破棄を免れ
ない。しかも事件につき裁判をなすに熟すること勿論であるから、第一審判決をも取消し訴却下の裁判をしな
ければならない。
 上告理由(イ)によるまでもなく、本件確認の訴が不適法なことは職権調査による前説示により明白である。
同(ロ)(ハ)は、原審の裁量に属する証拠の採否及び事実認定を非難するに帰し、そして原審の判断は、そ
の挙示の証拠に徴し、当審においてもこれを是認することができる。それ故、これらの所論は採るを得ない。
 よつて民訴四〇八条、九五条、九六条、九二条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭32・5・21最判 遺言の効力は否定されたが、死因贈与と認められた事例
最高裁判所第三小法廷(名古屋高等裁判所)
所有権移転登記手続請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人高野誠三の上告理由第一点について。
 所論の如く原判決は一審判決と全く異る事実認定をしておるが、原判決挙示の各証拠によると原判決判示
の事実を認定することができる。原判決は経験法則に反して事実を認定したとは認められない。論旨は理由
がない。
 同第二点について。
 論旨は死因贈与も遺言の方式に関する規定に従うべきものと主張するが、民法五五四条の規定は、贈与
者の死亡によつて効力を生ずべき贈与契約(いわゆる死因贈与契約)の効力については遺贈(単独行為)に
関する規定に従うべきことを規定しただけで、その契約の方式についても遺言の方式に関する規定に従うべ
きことを定めたものではないと解すべきである。(同趣旨、大正一五年(オ)一〇三六号、同年一二月九日、
大審院判決、集五巻八二九頁)論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭34・6・19最判 連帯債務の相続http:// へのリンク
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所)
貸金請求
主    文
     上告人Aの上告を棄却する。
     右上告費用は同上告人の負担とする。
     その余の上告人らの上告につき、原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人植木昇の上告理由について。
 連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担している
のであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、
なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被
相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれ
を承継するものと解すべきであるから(大審院昭和五年(ク)第一二三六号、同年一二月四日決定、民集九
巻一一一八頁、最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号、同二九年四月八日第一小法廷判決、民集八巻八一
九頁参照)、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割され
たものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相
当である。本件において、原審は挙示の証拠により、被上告人の父Bは、昭和二六年一二月一日上告人ら
の先々代C、先代D及びDの妻である上告人Aを連帯債務者として金一八三、〇〇〇円を貸与したこと、甲
二号証によれば、昭和二七年一二月三一日にも、同一当事者間に金九八、五〇〇円の消費貸借が成立し
た如くであるが、これは前記一八三、〇〇〇円に対する約定利息等を別途借入金としたものであるから、旧
利息制限法の適用をうけ、一八三、〇〇〇円に対する昭和二六年一一月一日から昭和二七年一二月三一
日まで年一割の割合による金一八、四五二円の範囲にかぎり、請求が許容されること(右のうち、昭和二六
年一一月一日とあるのは、同年一二月一日の誤記であること明らかであり、また、原審の利息の計算にも誤
りがあると認められる。)Dは昭和二九年三月二三日死亡し(Cの死亡したことも、原審において争のなかつ
たところであるが、原判決は、同人の債務を相続した者が何人であるかを認定していない。)、上告人E、F、
G及び訴外Hの四名は、その子としてDの債務を相続したこと、債権者Bは、本件債権を被上告人に譲渡し
対抗要件を具備したことを各認定ものである。右事実によれば、Cの債務の相続関係はこれを別として、上
告人A及びDは被上告人に対し連帯債務を負担していたところ、Dは死亡し相続が開始したというのであるか
ら、Dの債務の三分の一は上告人Aにおいて(但し、同人は元来全額につき連帯債務を負担しているのであ
るから、本件においては、この承継の結果を考慮するを要しない。)、その余の三分の二は、上告人E、F、G
及びIにおいて各自四分の一すなわちDの債務の六分の一宛を承継し、かくしてAは全額につき、その余の
上告人らは全額の六分の一につき、それぞれ連帯債務を負うにいたつたものである。従つて、被上告人に対
しAは元金一八三、〇〇〇円及びこれに対する前記利息の合計額の支払義務があり、その他の上告人ら
は、右合計額の六分の一宛の支払義務があるものといわなければならない。しかるに、原審は、上告人らは
いずれもその全額につき支払義務があるものとの見解の下に、第一審判決が上告人Aに対し金二八一、五
〇〇円の三分の一、その他の上告人らに対し金二八一、五〇〇円の六分の一宛の支払を命じたのは、結局
正当であるとして、上告人らの控訴を棄却したものである。それゆえ、上告人Aは、全額につき支払義務があ
るとする点において、当裁判所も原審と見解を同じうすることに帰し、その上告は結局理由がないが、その他
の上告人らに関する部分については、原審は連帯債務の相続に関する解釈を誤つた結果、同上告人らに対
し過大の金額の支払を命じたのであつて、同上告人らの上告は理由があるというべきである。よつて、上告
人Aの上告は、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、これを棄却し、その他の上告人らの上告について
は、民訴四〇七条一項により、原判決を破棄し、これを広島高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。

昭35・7・19最判 減殺請求後の転得者に対する減殺請求の許否
最高裁判所第三小法廷(仙台高等裁判所)
土地建物所有権移転登記等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人菅原勇の上告理由第一点について。
 所論の実質は原審の適法な証拠判断の非難にすぎず、上告適法の理由と認められない。
 同第二点について。
 しかし、被上告人Aが上告人らの登記の欠缺を主張し得る第三者に該当することは当裁判所の判例の趣
旨に照らして明らかである(昭和三三年一〇月一四日第三小法廷判決、民集一二巻三一一一頁)。そして原
判決は、亡B名義に所有権移転登記がなされた時においてBは本件不動産につき完全な所有権を取得し、
上告人らは何らの権利をも有しなくなつたとし、被上告人C及びDが登記義務を承継したとしても、同人らから
本件不動産を買受けた被上告人Aにおいて所有権移転登記を得た以上、特段の事情のない限り登記義務
は履行不能に帰したと判示して、上告人らの請求を排斥しているのであり、その判断は正当であるから、論
旨は理由がないことに帰する。
 同第三点について。
 所論は原審の適法な証拠判断の非難にすぎず、上告適法の理由と認められない。
 同第四点について。
 しかし上告人らの減殺請求により本件不動産が全部上告人らの所有に帰したとする所論の立場に立つて
みても、未登記の上告人らは被上告人C、及びDから本件不動産を買受け所有権移転登記を経た被上告人
Aに対し、所有権取得をもつて対抗し得ないのであるから、所論は原判決の結論に影響のないものであり、
採用に値しない。
 同第五点、第六点について。
 亡Bに対する減殺請求後、本件不動産を買受けた被上告人Aに対し減殺請求をなし得ないとした原審の判
断、並びに時効の起算点に関する原審の判断は、いづれも正当であり、その間に齟齬はないから、論旨は
すべて理由がない。
 上告代理人加藤行吉、同工藤祐正の上告理由第一点について。
 所論は原判決に即せず、第一審判決の違法をいうもので、上告適法の理由と認められない。
 同第二点について。
 所論の理由のないことは前記菅原代理人の上告理由第二点の説示により諒解すべきである。
 同第三点について。
 上告人らが贈与を受けたにしてもその所有権の取得をもつて対抗できないものである以上、所論の事実を
必ずしも確定する必要はないから、原判決に所論の違法あるものとは言えない。
 同第四点について。
 遺留分に反する譲渡行為であつてもそのため当然無効となるものではなく減殺請求に服するにすぎない。
そして本件は被相続人Eの生前の二重贈与と減殺請求の事実に関するもので、単なる相続人間の相続財産
の所有権取得の主張の問題ではないから、所論のような理由によつて原判決の判断を違法と解することは
できない。引用判例は適切でなく、論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、九三条一項、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭36・6・22最判 自筆遺言書の日附、署名、捺印の方式
最高裁判所第一小法廷(広島高等裁判所)
遺言無効確認等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人高橋武夫、同椎木緑司の上告理由第一点、第二点について。
 本件遺言書作成の経過、遺言書の形式および記載文字の筆跡等所論の点に関する原審の事実の認定
は、挙示の証拠に照らし是認しうる。所論は右原審の認定した事実と異なる事実関係を前提として原判決の
違法をいうものであつて、採るを得ない。
 同第三点について。
 記録に徴すれば、所論調停の申立または訴の提起が、所論のように遺留分減殺請求権の行使の意思表
示を包含するものとは認められない。また、本件において上告人が予備的に主張した遺留分減殺調求の訴
については、更に相続財産の相続開始当時の価額、遺贈財産の相続開始当時の価額、本件不動産の所在
地、内容等を具体的に検討しなければならないから、原審における本件訴訟進行の状況に照らし、右予備
的訴を審理し、訴訟を完結することは、訴訟手続を著しく遅滞せしめるべきことは推測するに難くない。それ
故、これと同趣旨において右予備的請求を却下した原審の判断は正当であり、所論の違法は認められな
い。
 同第四点について。
 遺言書が数葉にわたるときであつても、その数葉が一通の遺言書として作成されたものであることが確認
されれば、その一部に日附、署名、捺印が適法になされている限り、右遺言書を有効と認めて差支えないと
解するを相当とする。それ故右と同趣旨の原判決は結局正当であつて、所論の違法は認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭37・4・20最判 相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶した場合
第2小法廷判決(高松高等裁判所)
土地引渡所有権移転登記手続等請求上告事件(破棄差戻)
主    文
 原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、本件を高松高等裁判所に差戻す。
理    由
 上告代理人長尾章の上告理由は、本判決末尾添付の別紙記載のとおりである。
 右上告理由第一点ないし第三点について。
 原判決は、無権代理人が本人を相続した場合であると本人が無権代理人を相続した場合であるとを問わず、
いやしくも無権代理人たる資格と本人たる資格とが同一人に帰属した以上、無権代理人として民法一一七条に
基いて負うべき義務も本人として有する追認拒絶権も共に消滅し、無権代理行為の瑕疵は追完されるのであつ
て、以後右無権代理行為は有効となると解するのが相当である旨判示する。
 しかし、無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追
認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となると解するの
が相当であるけれども、本人が無権代理人を相続した場合は、これと同様に論ずることはできない。後者の場合
においては、相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義に反するところはない
から、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。
 然るに、原審が、本人たる上告人において無権代理人亡Aの家督を相続した以上、原判示無権代理行為はこの
ときから当然有効となり、本件不動産所有権は被上告人に移転したと速断し、これに基いて本訴および反訴につ
き上告人敗訴の判断を下したのは、法令の解釈を誤つた結果審理不尽理由不備の違法におちいつたものであつ
て、論旨は結局理由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。
 よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭37・4・27最判 母の認知
最高裁判所第二小法廷
親子関係存在確認請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人敦沢八郎の上告理由について。
 被上告人が上告人を分娩した旨の原審(その引用する第一審判決)の事実認定は、その挙示する証拠に
徴し、首肯するに足り、これに所論のような違法は認められない。所論は、ひつきよう、原審の専権に属する
証拠の取捨判断、事実の認定を争うこ帰し、採用するをえない。
 なお、附言するに、母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知を俟たず、分娩の事実
により当然発生すると解するのが相当であるから、被上告人が上告人を認知した事実を確定することなく、
その分娩の事実を認定したのみで、その間に親子関係の存在を認めた原判決は正当である。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭37・6・8最判 「遺言者が署名することができない場合」にあたるとされた事例。
最高裁判所第二小法廷(札幌高等裁判所)
土地建物所有権取得登記抹消登記手続請求(棄却)
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人土家健太郎の上告理由について。
 原判決が本件遺言の際における諸般の事情を認定して、かかる場合は民法九六九条四号但書の自署不
能の場合に該当するものと判示したのは正当である。所論は原判決の認定に添わない事実関係をもとにし
て、原判決の右判断を非難するものであつて採用することはできない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
裁判要旨
遺言者が、遺言当時胃癌のため入院中で手術に堪えられないほどに病勢が進んでおり、公証人に対する本件
遺言口述のため約一五分間も病床に半身を起していた後でもあつたから、公証人が遺言者の疲労や病勢の悪
化を考慮してその自署を押し止めたため、公証人の言に反対してまで自署することを期待することができなかつ
た等原審認定(原判決理由参照)のような事情があるときは、民法第九六九条第四号但書にいう「遺言者が署名
することができない場合」にあたると解される。


昭37・11・9最判 根保証の相続性
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
売掛代金残請求
主    文
     原判決中上告人Aに関する部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
     上告人Bの本件上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人Bの負担とする。
         
理    由
 上告代理人柴田健太郎の上告理由第一点について。
 被上告会社は、昭和二五年一二月一日から訴外CおよびD両名と、代金は毎月末払の約にて肥糧の取引
を始め、右取引に当り、爾後これによつて生ずる右両名の被上告会社に対して負担すべき債務につき、上告
人B、訴外E、同F、同Gの四名においてこれを連帯保証したこと、そのうちF、Gは、Dの、上告人B、EはCの
各連帯保証人であつたこと、昭和二六年一二月一日頃からは右Cが単独で被上告会社と取引を続け、上告
人BおよびEが依然として前記連帯保証人の地位にあつたこと、被上告会社が本訴で請求する一〇〇万円
は、Cが右取引に関し昭和三二年九月一一日から同三三年三月一〇日までの間に被上告会社に対して負
担した三、〇一一、〇五三円の肥糧売掛代金債務の一部についての保証債務の履行を求めるものであるこ
と、Eは、右期間より以前である昭和三二年六月七日すでに死亡し、同人の長男たる上告人Aがその遺産に
つき三分の一の割合をもつて相続したものであることは、いずれも、原判決が確定した事実である。
 右事実関係のもとにおいては、上告人Bの被上告人に対して負担する本件連帯保証債務に身元保証ニ関
スル法律一条が準用され、その契約期間が保証契約成立の日より三箇年に限定されるべきであるとの所論
は、ひつきよう、独自の見解というほかはなく、その他同上告人の債務をとくに制限した範囲に限るべき法律
上の根拠も見出し難いから、右論旨は採用することができない。
 しかしながら、論旨が身元保証ニ関スル法律一条の準用を主張する趣旨は、要するに、本件保証債務が
一定の限度に制限されるべきであるとの主張を包含するものと解すべきところ、按ずるに、前記原判示のよう
な継続的取引について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定
めのない連帯保証契約においては、特定の債務についてした通常の連帯保証の場合と異り、その責任の及
ぶ範囲が極めて広汎となり、一に契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから、かかる
保証人たる地位は、特段の事由のないかぎり、当事者その人と終始するものであつて、連帯保証人の死亡
後生じた主債務については、その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではないと解するを
相当とする。されば、本件において、連帯保証人Eの死亡後、被上告会社とCとの取引によつて発生した主
債務につき、特段の事由の存することを判示することなくして、漫然Eの相続人たる上告人Aに連帯保証人と
しての支払義務あるものとした原判決は、本件連帯保証契約の性質を誤解したか、もしくは理由不備の違法
があるものというべく、上告人Aについての論旨は理由があり、論旨第二点についての判断をまつまでもな
く、原判決中同上告人に関する部分は破棄を免れない。そして、前記の点について、なお本件は審理判断の
要があるから、右部分につき本件を原裁判所に差し戻す乙とを相当とする。
 同第三点について。
 裁判所が証拠を排斥するについては、その理由を逐一判示する必要はなく(最高裁昭和三二年六月一一
日第三小法廷判決、民集一一巻一〇三〇頁参照)、原判決(第一審判決引用)の挙示する証拠によれば、
原判示は首肯しうるから、論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。

昭38・2・22最判 相続人の一人がした単独所有権移転登記の抹消登記手続
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
登記抹消登記手続請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人佐藤米一の上告理由第一点について。
 原判決が被上告人らに命じた所論更正登記手続は、実質的には一部抹消登記手続であるところ、所有権
に対する妨害排除として抹消登記請求権を有するのは上告人らであつて、Aではないというべきであるから、
この点に関する原判決は正当であつて、所論のように登記義務者・登記権利者を誤解した違法はない。論旨
は、原判決を正解せざるに出たものであつて採用しえない。
 同第二点について。
 相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所
有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうる
ものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結
果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正八年一一月三日大審院判決、
民録二五輯一九四四頁参照)。そして、この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的
権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくし
て、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない(大正一〇年一〇月二七日大
審院判決、民録二七輯二〇四〇頁、昭和三七年五月二四日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集六〇巻七
六七頁参照)。けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また甲は自己の持
分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。
 従つて、本件において、共同相続人たる上告人らが、本件各不動産につき単独所有権の移転登記をした
他の共同相続人であるAから売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した被上告人らに対
し、その登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、原判決が、Aが有する持分九分の二についての仮登
記に更正登記手続を求める限度においてのみ認容したのは正当である。また前示のとおりこの場合更正登
記は実質において一抹部抹消登記であるから、原判決は上告人らの申立の範囲内でその分量的な一部を
認容したものに外ならないというべく、従つて当事者の申立てない事項について判決をした違法はないか
ら、所論は理由なく排斥を免れない。
 同第三点について。
 被上告人十条商事株式会社が原審において提出したB弁護士に対する訴訟委任状には、所論のとおり、
相手方としてCの記載があるのみであつて、D、Eの記載はないが、これは「C他二名」とすべきところを「他二
名」を書き落したものと解せられるから、所論は理由なく排斥を免れない。
 同第四点、第五点、第八乃至一二点について。
 しかし、本訴の訴訟物は共有権にもとづく妨害排除請求権であることは明らかなところ、上告人らは九分の
七の持分きり有しないのであるから、本件各移転登記の有効無効ならびにその登記原因の有効無効に係り
なく、九分の七の持分についてのみ抹消請求(更正登記請求)ができるに過ぎず、全部抹消請求権は存しな
いというべきであるから、所論は判決に影響を及ぼす違法の主張と認められず、排斥を免れない。
 同第六点について。
 適法な呼び出しを受けながら当事者が判決言渡期日に出頭しない場合に、期日に言渡が延期され次回言
渡期日が指定告知されたときは、その新期日につき不出頭の当事者に対しても告知の効力を生ずること、当
裁判所の判例とするところである(昭和三二年二月二六日第三小法廷判決、集一一巻二号三六四頁参
照)。所論は、これと異る見解に立脚して原判決に違法がある如く主張するものであつて、採用しえない。
 同第七点について。
 所論「各」は無用の文字を挿入しただけであつて、これによつて主文の不明瞭や齟齬を来たすものとは認
められない。所論は排斥を免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。


昭38・4・8東京高判 父母を同じうする兄弟姉妹関係の不存在確認請求と確認の利益
東京高等裁判所?? ?? 第一二民事部
嫡出兄弟姉妹関係不存在確認請求事件
主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事    実
 控訴人らは「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、
二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判
決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、被控訴人らにおいて甲第六ないし八
号証(各証に付記した者の写真)を提出し、当審における証人Aの証言を援用し、
控訴人らにおいて甲第六ないし九号証が被控訴人ら主張のような写真であることは
知らないと述べた外は、原判決の事実摘示と同一である(ただし原判決二枚目表一
一行目被告Bとあるのは被告Cと訂正する)からこれを引用する。
         理    由
 原判決の認定資料及び当審における証人Aの証言によれば、被控訴人らは亡Dと
その妻亡Eとの間に、被控訴人ら主張の日にそれぞれ出生した嫡出子であり、控訴
人Cは大正一五年三月一六日、同Fは昭和七年一月一五日に同じくDとEとの間に
出生した子である旨戸籍に登載されているが、実際は控訴人らはDとEとの間に出
生したのではなく、Dと亡Gとの間に出生したもので、右戸籍の記載は真実に反す
る届出に基づくものであることを認めることができるのであり、原審における証人
Hの証言及び被告C本人尋問の結果も右認定を動かすに足りないし、他に反証はな
い。
 <要旨>そうすると、被控訴人らはDとEの嫡出子であるが、控訴人らはDとEの
嫡出子ではないから、双</要旨>方の間には嫡出の兄弟姉妹関係は存在しないことに
なる。
 ところで、兄弟姉妹関係は親族法上の身分関係で、それに各種の法律効果を認め
られているから、一つの法律関係である。それは親子関係を基礎とするものではあ
るが、それと別個に兄弟姉妹関係の存否を争うことももとより許さるべきである。
 本件においては、当事者双方ともDの子であり、兄弟姉妹関係のあることには何
ら争いがないのであつて、ただ控訴人らがDの妻Eの子であるかどうか、すなわち
被控訴人らと控訴人らとの間に嫡出の兄弟姉妹関係があるかどうかの点だけが争い
となつている。しかし父を同じうする兄弟姉妹においても、母をも同じうすると否
とによつて、相続等法律上の権利義務に差異を生ずることはいうまでもない。本件
の場合控訴人らがEの子でないとすれば、Dの遺産についてはその相続分は被控訴
人らの二分の一であり、Eの遺産については相続の権利がない。たとえば両名の遺
産について現在は問題がないとしても、将来被控訴人らのうちだれかが直系卑属な
く死亡したような場合には、控訴人ら及び他の被控訴人らがその遺産相続人となる
こともあるべく、その際にも両者の相続分には差異がある。
 このような場合に、被控訴人らにとつて、争いのある右法律関係の確定を求め、
戸籍上の訂正を求めることは当然の権利に属することであり、控訴人らがEの子で
はないことを理由として、被控訴人らの間に嫡出兄弟姉妹関係のないことが裁判上
確定されれば、これにより戸籍上の前記の誤つた記載の訂正を求めることができる
から、この点において被控訴人らは本訴につき確認の利益を有するというべきであ
る。(なお、控訴人らが昭和三五年三月一三百分籍届をして新戸籍に入り、さらに
控訴人Fにおいては昭和三六年三月一六日Iとの婚姻により同人を筆頭者とする戸
籍に入つていることは、成立に争いのない甲第一ないし三号証及び弁論の全趣旨に
より認められるが、控訴人らが戸籍上Eを母としている旨記載されていることには
変りがないので、このために被控訴人らが戸籍訂正を求められなくなつたとはいえ
ない。)
 控訴人らは被控訴人らの本訴請求をもつて、権利の濫用ないし信義則違反である
と主張するが、これが元来被控訴人らの当然の権利の行使であることは前記のとお
りであつて、控訴人らが出生してから長い年月が経過しており、Eが生前この事情
を知りながら何らの処置もとらなかつた(原審における原告J本人尋問の結果によ
り認められる)ことを考慮しても、権利の濫用でぃるとか、信義誠実の原則に違背
するものであるとすることはできない。
 そこで、被控訴人らの本訴請求は正当として認容すべきであり、これと同旨の原
判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴
訟法第九五条第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。


昭39・2・27最判 相続回復請求権に関する20年の時効の起算点
第1小法廷判決(名古屋高等裁判所)
建物収去土地明渡請求事件(上告棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人田中一男の上告理由第一乃至第四(摘示要旨第一点乃至第三点)について。
 所論は、亡足立正雄が亡足立きんの遺産を全部相続したと誤解した旨の原判決の認定は証拠に基づかない
違法があり、また、右正雄の誤解だけでは同人の内心の意思だけにとどまり未だ相続権侵害の事実はなきの
みならず、右正雄が所有の意思を以て本件土地を管理していたものと認められない以上、相続権侵害は存在し
ないのに、本件土地について右正雄による相続権侵害の存在を認めた原判決には、審理を尽さず相続回復請
求権に関する法の解釈適用を誤つた違法があると主張する。
 しかし、原判決の認定するところによれば、亡足立正雄が亡足立きんの死亡により遺産相続があつたことは
全然考えず、本件土地を含めて足立きんの全遺産を家督相続により取得したものと誤解して、足立潔の父及
び祖父を補助者として本件土地を管理使用して来たというのであり、右認定は原判決挙示の証拠関係に照し
て首肯できないことはない。そして、所謂表見相続人により相続権を侵害されたとして相続回復請求権を行使
するには、右表見相続人に於て相続権侵害の意思あること及び所有の意思を以つて相続財産を占有すること
を要せず、現に相続財産を占有して客観的に相続権侵害の事実状態が存在すれば足りると解するを相当とす
る。しからば、右正雄に相続権侵害の事実ありと認定判断した原判決には、所論違法は認められず、所論は
ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用できない。
 同第五(摘示要旨第四点)について。
 所論は、原判決は本件相続回復請求権の消滅時効の起算点につき審理を尽さず、法の解釈適用を誤つた
違法があると主張する。
 しかし、旧民法九六六条、九九三条(民法八八四条)の相続回復請求権の二〇年の時効は、相続権侵害の
事実の有無に拘らず相続開始の時より進行すると解すべきことは、当裁判所の判例(昭和三三年(オ)第一号
同年一一月六日第二小法廷判決民集二巻一二号三九七頁参照)とするところである。本件について見るに、
河津とめの相続権はその相続の当初より足立正雄に侵害され、その侵害の状態が引き続き爾後の相続人に
及んでいると認定されていること叙上のとおりであるから、正雄が爾後の相続人の相続権を侵害しているとして
も、新たな侵害が存在するわけではなく、とめの相続人中村静子以後上告人に至るまでの相続人らの相続回
復請求権の消滅時効期間二〇年の起算点は、足立きんの死亡により正雄及びとめの相続が開始した時であ
るとした原判決の判断は正当であつて、所論違法は認められない。所論は独自の見解に立つて原判決を非難
するものであつて、採用できない
 その余の論旨(同第六、補充第一乃至第三)について。
 所論は、上述主張をくり返し敷衍し、或は原審の認定判断を得ない事実を主張して、原審のなした証拠の取
捨判断、事実認定を非難するに帰し、すべて採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭和39・3・6最判 遺贈による所有権移転登記
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
第三者異議
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人石田市郎の上告理由について。
 原審の確定したところによれば、亡Aは昭和三三年六月一一日付遺言により本件不動産をB外五名に遺
贈し、右遺贈は同月一七日Aの死亡により効力を生じたが、遺贈を原因とする所有権移転登記はなされなか
つたこと、被上告人は、同年七月一〇日Aの相続人の一人であるCに対する強制執行として、右相続人に代
位し同人のために本件不動産につき相続による持分(四分の一)取得の登記をなし、ついでCの取得した右
持分に対する強制競売申立が登記簿に記入されたというのである。
 ところで、不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続をしない間は完全に排他性
ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ(当裁判所昭和三元年(オ)
一〇二二号、同三三年一〇月一四日第三小法廷判決、集一二巻一四号三一一一頁参照)、遺贈は遺言に
よつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするもので
はあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるか
ら、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他
的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法一七七条が広く物権の得喪変更について登記
をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合に
おいても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべ
きである。しかるときは、本件不動産につき遺贈による移転登記のなされない間に、亡Aと法律上同一の地
位にあるCに対する強制執行として、Cの前記持分に対する強制競売申立が登記簿に記入された前記認定
の事実関係のもとにおいては、競売中立をした被上告人は、前記Cの本件不動産持分に対する差押債権者
として民法一七七条にいう第三者に該当し、受遺者は登記がなければ自己の所有権取得をもつて被上告人
に対抗できないものと解すべきであり、原判決認定のように競売申立記入登記後に遺言執行者が選任せら
れても、それは被上告人の前記第三者たる地位に影響を及ぼすものでないと解するのが相当である。
 従つて、原審が、前記認定の事実に基づき、被上告人が民法一七七条の第三者に該当し、受遺者は自己
の所有権取得をもつて被上告人に対抗できないとした判断は正当であり、所論は、独自の見解に立ち原判
決を非難するに帰するものであつて、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭39・4・14名古屋高判 遺言執行者選任審判取消審判に対する即時抗告事件
名古屋高等裁判所?? 金沢支部?? 第二部
遺言執行者選任審判取消審判に対する即時抗告事件
 主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の趣旨及び理由は、本決定書末尾添附の別紙記載のとおりであるが、そ
の理由の要旨は、原審判により取り消された審判は、金沢家庭裁判所が昭和三八年
一月二一日抗告人を遺言者亡Aの遺言執行者に選任した審判であるところ、これに
対する不服申立方法は、二週間内になすべき即時抗告のみが許され、右抗告期間経
過後は、同裁判所において、自らこれを取り消し、又は変更し得ないのに拘らず、
その利害関係人であるBは、右抗告期間を遥かに経過した昭和三九年初頃に至り、
始めて右遺言執行者選任審判の取消を、抗告裁判所でない右審判裁判所に申し立
て、これを認容して、同裁判所が原審判により、自ら右選任審判を取り消したので
あるから、原審判は家事審判法及びその準用する非訟事件手続法等の法律の適用を
誤つたものとして、到底取消を免れない、というのである。
 よつて先ず、本件抗告申立の適否を検討するに、本件抗告の対象は、遺言執行者
選任審判の取消審判である<要旨第二>から、実質上家事審判規則第一二六条第二項
にいわゆる遺言執行者の解任の審判と同視すべきものであり、そ</要旨第二>の遺言
執行者である抗告人が法定の期間内に申し立てた本件即時抗告の申立は、適法とい
わなければならない。そこで進んで所論を検討するに、本件記録及び取寄記録(金
沢家庭裁判所昭和三八年(家)第二六号事件記録)を総合すれば、遺言者Aは、昭
和二二年一一月一一日その所有にかかる田地等をCことA(襲名)に遺贈し、且つ
Dを遺言執行者に指定する旨の公正証書による遺言をなし、翌二三年四月二五日死
亡したので、右受遺者がその所有者となり、右Dが遺言執行者となつたこと、原審
判の申立人Bは、その後昭和二五年頃右受遺者から右田地の一部を買い受け、知事
の許可を得て、その代金を完済し、爾来自己のため、右土地を所有し且つ占有して
来たが、これが所有権移転登記を受け得ないでいること、右遺言執行者Dは、永く
その任務を尽くさなかつたため、金沢家庭裁判所小松支部昭和三六年(家)第一一
号審判により解任され、同庁昭和三七年(家)第二五号審判により、新たにEが遺
言執行者に選任され、同人により右田地売買が追認されたこと、受遺者CことA
は、右事実を秘して金沢家庭裁判所(本庁)に対し、自己の妻である抗告人を右解
任後曠欠中の遺言執行者に選任されたい旨申し立て、同庁昭和三八年(家)第二六
号審判により、右申立どおり、抗告人が遺言執行者に選任されたため、その遺言執
行者が二名となつたこと、よつて同裁判所は、前記田地買受人Bの申立に基づき、
抗告人を遺言執行者にしておく必要がないも<要旨第一>のと認め、原審判により、
同人を選任した右審判を取り消したこと、を各認定するに十分である。およそ遺
言</要旨第一>執行者選任の審判に対しては、家事審判法第一四条家事審判規則第一
二〇条以下の第一〇節において、利害関係人等に対し、即時抗告その他の不服申立
を許さず、これに不服ある者は、専ら家事審判法第七条非訟事件手続法第一九条第
一項に基づき、職権の発動による取消又は変更を促し得るに過ぎないものと解すべ
きところ(高裁民集七巻三五六頁以下所載東京高裁昭和二九、五、七決定。同巻三
七一頁以下所載名古屋高裁昭二九、二、二五決定。同一〇巻三二八頁以下所載東京
高裁昭三二、七、二四決定。同巻三六〇頁以下所載広島高裁松江支部昭三二、七、
二三決定。家庭月報五巻四号一〇五頁所載東京高裁昭二七、四、二八決定。同八巻
一一号二一三頁所載戸籍協議会決議等参照)、右Bによる遺言執行者の重複選任審
判の取消を求める申立は、右法条による原家庭裁判所の職権の発動を促すに過ぎな
いものであるから、その適否を論ずる実益を有しないものであるし、また叙上認定
の事実関係のもとにおいて、右遺言執行者の重複選任の審判を取り消した同裁判所
の措置には、特に違法又は不当視すべきものが存しないから、職権の発動を誤つた
ものとも云い得ない。然らば右遺言執行者の重複選任審判を取り消した原審刊に
は、いささかも違法がない。所論は家事審判法第一四条により、右遺言執行者の重
複選任審判に即時抗告のみが許されるとの誤つた見解を前提とし、右重複選任審判
の取消を求める申立に、即時抗告期間を経過し、且つ審級を誤つた違法ありとな
し、また原裁判所の措置に、家事審判法の準用する非訟事件手続法第一九条第三項
等の法律違反があると非難するのであつて、採用の限りではない。論旨は理由がな
い。
 その他原審判には、これを取り消すべき違法又は不当の廉が存しないから、家事
審判規則第一八条家事審判法第七条非訟事件手続法第二五条民事訴訟法第四一四条
第三八四条に則り、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

昭39・10・21東京高判 遺産分割前に処分された相続財産の分割
東京高等裁判所?? ?? 第十二民事部
遺産分割の審判に対する即時抗告事件
主    文
     原審判を取り消す。
     本件を浦和家庭裁判所熊谷支部に差し戻す。
         理    由
 抗告人らは、主文同旨の決定を求め、その理由は別紙記載のとおりである。
 一、 抗告理由(一)について、
 原審判は、第二物件の二分の一の持分権のみが遺産であつて分割の対象となり、
Aを除く抗告人らは各自右の遺産に対し相続分を有していることを認めながら、同
抗告人らは右の遺産に対し相続分を受けとることができないと判断し、その理由と
して、被相続人が同物件を抗告人らの相続分にかゝわらず、相手方に取得させる意
思表示があつたと判示している。かゝる被相続人の意思表示は審判の理由に記載す
るところによれば贈与であると解されるので、そうだとすれば同物件は相続財産と
ならないわけであつて、前記認定と矛盾し、また、相続財産であるとすれば右抗告
人らに相続分を与えない根拠が明らかでない。したがつて、この点に関する原審の
理由は矛盾があるか、又は、不備である。 二、 抗告理由(四)について、
 <要旨>相続財産につき相続人のうちのある者が遺産分割前に勝手にこれを処分し
たときは、その財産に代り同人に</要旨>対する代償請求権が相続財産に属すること
となり、これが分割の対象となると解するのが相当である。ところで、埼玉銀行株
式九百株は相続財産に属したところ相手方Bが勝手に処分したことは、原審判の認
定したところであるから、その代償請求権を分割の対象に加えなければならない。
右に反する原審判の判断は失当である。
 三、 したがつて本件即時抗告は理由があるのでその余の抗告理由の判断を省略
し家事審判規則第一九条第一項により主文のとおり決定する。

昭39・12・18大阪高判 移送審判の当否
大阪高等裁判所?? ?? 第九部
移送審判に対する即時抗告事件
主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 一、 本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。
 二、 当裁判所の判断。
 (一) 一件記録によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、
 (1) 抗告人は亡Aの長男であるところ、Aは昭和三三年一一月三〇日抗告人
肩書住所て死亡した。
 (2) Aの相続人は、抗告人のほか、その妻であるB、その二女であるC、お
よびその三女であるDの四名であるが、現在、BおよびCは大阪市a区b町c丁目
d番地に、また、Dは鳴門市e町f字g町h番地にそれぞれ居住している。
 (3) 抗告人は、B、C、およびDを相手方として原裁判所に対し、昭和三九
年七月三一日本件遺産分割調停の申立てをしたところ、原裁判所は同年八月二九日
家事審判規則四条一項によりこれをBおよびCの任所地を管轄する大阪家庭裁判所
に移送する旨の審判(原審判)をした。
 (二) ところで、抗告人は、被相続人であるAの住所地ならびに相続開始地は
ともに抗告人肩書任所地と同一であり、本件は家事審判規則九九条、民訴一九条に
より抗告人肩書住所地の家庭裁判所である原裁判所の管轄に属するものであるとこ
ろ、原裁判所が特段の事情もないのに、同規則四条一項但書の規定を適用して、本
件を管轄権のない大阪家庭裁判所に移送したのは不当である旨主張する。しかしな
がら、本件のようないわゆる家事調停事件が相手方の住所地または当事者が合意で
定める家庭裁判所の管轄に属することは同規則一二九条の明定するところであり、
これが、抗告人の主張するように、被相続人の住所地または相続開始地の家庭裁判
所の管轄に属するものでないことは右規定に照らして明白である。したがつて、原
裁判所を管轄家庭裁判所とすることの合意の存在を認めるに足る別段の資料のない
本件においては、その管轄家庭裁判所は、相手方である前記B、同Cの住所地を管
轄する大阪家庭裁判所、もしくは、前記Dの住所地を管轄する徳島家庭裁判所であ
つて、原裁判所はこれにつき管轄権を有しないものといわなければならない。とこ
ろで、管轄権のない家庭裁判所が、事件の申立てを受けた場合、これを管轄家庭裁
判所に移送しなければならないことは同規則四条一項本文の定めるところであるか
ら、原裁判所が本件を管轄権のある大阪家庭裁判所に移送したのはもとより相当で
あるといわなければならない。抗告人の右主張は、家事調停事件の管轄の規定を誤
解したことによるものというべく、採用に由ないものである。
 なお、抗告人は、本件は、抗告人と前記相手方三名間に、前記Aの遺産について
さきに昭和三八年五月二四日成立した遺産分割の調停(原裁判所同年(家イ)第二
〇号事件)に記載もれの残余の分に関するもので、その大部分が兵庫県三原郡南淡
町に存在するのであるから、当然原裁判所において調停手続を進めるべきものであ
るのにかかわらず、原裁判所が右実情を無視し、本件を大阪家庭裁判所に移送した
のは不当である旨主張する。なるほど、同規則四条一項但書によれば、管轄権のな
い家庭裁判所は、事件処理<要旨>のため特に必要があると認めるときはみずから処
理することができる旨定められているけれども、右自庁</要旨>処理について即時抗
告を認める明文の規定もないことに鑑みると、右必要性の有無の判断は、当該家庭
裁判所の専権に属し、自庁処理は勿論自庁処理をしないことについても不服申立を
許さない趣旨であるというべく、したがつて、事件の申立てを受けた管轄権のない
家庭裁判所が、自庁処理の必要性がないとして右規則四条一項本文に則り、管轄家
庭裁判所に事件を移送する旨の審判をした場合、当事者が、自庁処理の必要性のあ
ることを理由としてなす即時抗告の申立は、それ自体理由がないと解するのが相当
である。
 そうであるから、本件の場合、かりに抗告人主張のような事情があるとしても、
これをもつて原審判に対する不服申立ての事由となし得ないことは上記の通りであ
るから、抗告人の右主張も採用できない(もつとも、移送の審判があつても、それ
が管轄違いを理由とするものである場合、移送を受けた家庭裁判所は、右と別個の
理由、即ち事件の処理上適当であるとの理由により、他の家庭裁判所にさらに移送
することができるものと解すべきであるから、抗告人主張のような事情があれば、
本件の移送を受けた大阪家庭裁判所においてこれを考慮し、将来本件を原裁判所に
再移送することもあり得ようが、このことは、もとより本件と別個の問題であり、
それあるが故に抗告人の主張を正当とすることができないのはいうまでもない。)
 (三) よつて、主文のとおり決定する。

昭40・2・2最判 保険金受取人を相続人と指定した場合の保険金の性質
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所 )
保険金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人日野魁の上告理由第一、二点について。
 所論は、原判決の法令違反を主張するけれども、原判決が、本件養老保険契約において、当事者が保険
金受取人を相続人と定めたことにつき、右相続人とは保険金請求権発生当時の相続人を指定したものであ
つて、本件包括受遺者たる控訴人(上告人)を指定する趣旨ではない旨認定したことを非難するに帰するも
のである。そして原判決の右判示は、その挙示する事実関係、証拠関係からこれを肯認し得るところであつ
て、原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を主張して、原審の適
法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、または判決に影響を及ぼさない事項について原判決
を非難するに帰し、すべて採るを得ない。
 同第三点について。
 所論は、養老保険契約において保険金受取人を保険期間満了の場合は被保険者、被保険者死亡の場合
は相続人と指定したときは、保険契約者は被保険者死亡の場合保険金請求権を遺産として相続の対象とす
る旨の意思表示をなしたものであり、商法六七五条一項但書の「別段ノ意思ヲ表示シタ」場合にあたると解す
べきであり、原判決引用の昭和一三年一二月一四日の大審院判例の見解は改められるべきものであつて、
原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があると主張するものであるけれども、本件養老保
険契約において保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者
死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思
を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であ
り、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の
相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であ
つて、前記大審院判例の見解は、いまなお、改める要を見ない。そして右の如く保険金受取人としてその請
求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時
に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならな
い。然らば、他に特段の事情の認められない本件において、右と同様の見解の下に、本件保険金請求権が
右相続人の固有財産に属し、その相続財産に属するものではない旨判示した原判決の判断は、正当として
これを肯認し得る。原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難
するものであつて、採るを得ない。
 同第四点について。
 所論は、上告人が原審において口頭弁論期日の再開申請をなしたにもかかわらず、原審が右再開をしな
かつたことを非難するものであるけれども、終結した口頭弁論期日を再関するか否かは、原審の裁量に属す
ることであるから、原審の右措置に何らの違法は存せず、論旨は、採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭40・5・21広島高判 遺留分回復の訴えの訴訟物等
広島高等裁判所?? 岡山支部?? 第二部
所有権移転登記手続等請求事件
主    文
     一、 原判決のうち控訴人の金員支払の請求を却下した部分を取り消
し、同部分および当審において拡張申立てのなされた金員支払の請求につき、本件
を岡山地方裁判所高梁支部に差し戻す。
     二、 その余の部分に対する控訴を棄却する。
     三、 前項の部分に関する控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 一、 控訴人の申立て
 「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、原判決添付目録記載の土地につ
き持分四分の一の所有権移転登記手続をなし、また一七一万四、六九〇円および内
金一〇〇万三、五七二円に対する昭和二六年九月一日より、内金二万八、七〇〇円
に対する同二七年一月一日より、以下いずれも各内金五万〇、一八六円に対する同
二八年ないし同三七年の毎年一月一日より、以下いずれも各内金六万〇、一八六円
に対する同三八年および同三九年の毎年一月一日より、各完済に至るまで年五分の
割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被控訴人の負担とする」との判決ならび
に金員請求部分につき担保を条件とする仮執行の宣言を求める。
 二、 控訴人主張の請求原因
 1、 控訴人は訴外亡Aの長女であり、被控訴人は控訴人の妹Bの夫である。A
は生前、原判決添付目録記載の土地(以下、本件土地という)を所有していたが、
昭和二六年一二月七日に死亡した。相続人は控訴人とBの二人だけであつたが、本
件土地はAの死亡前一年内に同女から被控訴人に贈与されたものとして、左記のと
おり登記を経由した。
 イ、 前記目録記載の91011の山林につき、昭和二六年三月一四日岡山地方
法務局北房出張所受付け三四七号、同月一三日贈与による所有権移転登記
 ロ、 同目録記載のその余の田畑につき、同年五月二八日同出張所受付け六三七
号、同月一三日贈与による所有権移転登記
 控訴人は前記の身分関係に基づき、遺留分として、Aの財産の四分の一の額を受
けるべきところ、なんらその配分に与つていない。
 2、 控訴人は前記贈与の事実を翌二七年四月初め頃に知つたが、本件土地はA
の全財産であり、同女には負債もなかつたので、結局、控訴人の遺留分は、被控訴
人に贈与された本件土地の価額の四分の一となる。そこで控訴人は、右贈与の事実
を知つて即日、また同年一〇月頃に重ねて、被控訴人に対し、右の限度において贈
与の減殺を請求し、本件土地に対する持分四分の一の所有権を回復した。
 3、 しかるに、被控訴人はこれを無視して本件土地の独占を継続しているの
で、これに対する持分四分の一の所有権移転登記手続と、左記イないしニの全員合
計一七一万四、六九〇円およびこれに対する控訴の趣旨記載のとおりの民事法定利
率による遅延損害金の支払とを求める。
 イ、 二万八、七〇〇円。本件土地のうち田七筆、畑一筆の天然果実(田につい
ては米と裏作の小麦。畑については大豆と麦)である昭和二六年度実収益高の四分
の一
 ロ、 五〇万一、八六〇円。右田畑八筆の天然果実である昭和二七年度より同三
六年度までの実収益高(年平均五万〇、一八六円)の四分の一
 ハ、 一八万〇、五五八円。右田畑八筆の天然果実である昭和三七年度より同三
九年度までの実収益高(年平均六万〇、一八六円)の四分の一
 ニ、 一〇〇万三、五七二円。
 a、 本件土地のうち山林三筆に生立する立木を被控訴人が昭和二七年頃に無断
で伐採・売却し、控訴人に加えた損害の填補賠償。当該立木の価額合計八〇万八、
一〇五円の四分の一
 b、 右山林三筆に生立する立木を被控訴人が昭和三三年頃に無断で伐採・売却
し、控訴人に加えた損害の填補賠償。当該立木の価額合計三二〇万六、一八四円の
四分の一
 三、 被控訴人の答弁
 請求原因1は認める。同2は否認。控訴人は昭和二六年一〇月頃にAから本件土
地が被控訴人に贈与されたことを聞いて知つている筈である。同3につき、イ、
口、ハの実収益高を争う。年平均の収穫高は反当り六俵にすぎない。ニのa、bの
立木伐採の事実は認めるが、その余は否認する。当時の立木(材木)価格は石八〇
〇円、伐採石数は約二〇〇石である。
 四、 証拠
 1、 控訴人は甲一ないし五号証を提出し、原審証人Cの証言を援用した。
 2、 被控訴人は甲一、三、四、五号証の成立は不知と述べたが、同二号証につ
いては認否しない。
         理    由
 一、 本件の訴えの適否について
 1、 前訴の経過
 職権をもつて調査するのに、控訴人の本訴請求については、さきにこれに関連す
る訴えが提起され、一審における終局判決後、控訴審においてその取下げがなされ
た事実が認められるが、岡山地裁高梁支部昭和三二年(ワ)一五号(広島高裁岡山
支部同三四年(ネ)一四二号、最高裁同三七年(オ)三七〇号)遺留分減殺請求事
件の確定記録によると、その経過は次のとおりである。
 イ、 昭和三二年九月二七日、控訴人は被控訴人に対し、本件土地につき「控訴
人が四分の一の持分を有することの確認および右持分の所有権移転登記手続」を求
め、高梁簡裁同年(ハ)七八号遺留分減殺請求事件として同裁判所に係属した。控
訴人はその後、請求の趣旨を「二分の一の持分を有することの確認および右持分の
所有権移転登記手続」の請求に拡張し、これにより同事件は岡山地裁高梁支部に移
送されたが、その請求原因は、本件におけると同様、「控訴人は亡Aの長女とし
て、被控訴人の妻Bとともに、その遺産相続人であるが、Aの死亡による相続の開
始前一年内に、同女の所有財産である本件土地が被控訴人に贈与された旨の登記が
経由され、これによると控訴人の遺留分が侵害されるので、控訴人は右事実を知る
や、ただちに被控訴人に対して遺留分減殺の請求をし、本件土地に対する持分二分
の一の所有権を回復したので、その確認および所有権移転登記手続を求める」とい
うのである。
 右請求は昭和三四年九月一八日、同高梁支部の判決により棄却された。
 ロ、 控訴人はこれを不服として控訴の申立てをしたうえ、控訴審たる当庁にお
いて請求の趣旨および原因を変更し、第一次的には、前記贈与を無効(不存在)で
あると主張して、「被控訴人に対する所有権移転登記の抹消登記手続、被控訴人の
地上立木伐採による損害賠償金二〇三万余円および右土地の天然果実返還金五五万
余円等の支払」を求め、予備的に、従前の遺留分減殺の主張を維持して「持分二分
の一の所有権移転登記手続および右同様の全員の支払」を求めた。右は控訴審にお
ける準備手続の結果ようやく到着した結論であつて、この間、控訴人は控訴提起の
当初より請求(控訴)の趣旨および原因を変更する旨の書面をしばしば提出し、こ
れによると、控訴人は一審における所有権確認請求を取り下げて、新たに抹消登記
および金員の支払請求を追加したものであることが明らかであるが、被控訴人はこ
れら書面の送達(控訴状は昭和三四年一二月一二日、その余は翌三五年六月、八
月、九月に到達)後なんら異議を述べるところがなく、控訴人申立ての請求の趣旨
および原因は、一応、同年九月二七日の準備手続期日において前述の内容に確定し
た(果実返還金はその後六〇万余円に増額された)。
 しかるに、控訴人はその後、翌三六年二月二五日付け準備書面(確定記録三七五
丁以下)をもつて、予備的請求を取り下げる旨を申し立て、該書面はその頃、被控
訴人に送達されたが、被控訴人はこれについても異議を述べなかつた。予備的請求
の取下げの趣旨は、控訴人が重ねて提出した同年五月九日付け準備書面(確定記録
三九六丁)の記載に徴しても、疑問の余地がない。
 ハ、 以上によると、控訴人は当初、一審において、a所有権確認とb所有権移
転登記手続を請求して、請求棄却の本案判決を受けたのち、控訴審において、おそ
くとも昭和三五年一二月末頃にa所有権確認請求を、また翌三六年六月初め頃にb
所有権移転登記手続請求を、順次、取り下げたものというべく(なお、前記の「予
備的請求」として掲げられたもののうち金員の支払に関する部分は、第一次的請求
のうち金員の支払に関する部分と、結局、同一の請求と認められる)、第一次的請
求のみが係属することとなつたが、右は翌三七年一月二二日当庁の判決により棄却
され、控訴人は上告して争つたが、翌三八年三月一日最高裁判所第二小法廷判決に
より棄却されて確定した。
 2、 本訴の提起と民訴二三七条二項による再訴の禁止
 イ、 本件の訴えの訴訟物について
 控訴人の本訴における請求は、本件土地に対する持分四分の一の所有権移転登記
手続、本件土地のうち田畑より生ずべき天然果実(金員)の返還、本件土地のうち
山林地上に生立した立木の無断伐採による損害の賠償およびこれらの金員に対する
遅延損害金の支払を求めるもので、その根拠が遺留分の侵害による贈与の減殺請求
にあることは疑いを容れない。そして法律は「減殺を請求する」(民一〇三一条
等)といい、また「減殺の請<要旨第一>求権」(民一〇四二条)あるいは「遺留分
回復の訴」(民一〇〇三条)なる用語を用いるが、遺留分の減殺請求権</要旨第一>
は裁判外で行使されるべき実体法上の形成権であつて、その行使により贈与または
遺贈は、遺留分を侵害する範囲において遡及的に効力を失い、目的物の権利は当然
に遺留分権利者に復帰するものと解すべく(民法が原則として原物返還主義をとつ
たことは、かかる解釈によつて正当化されるともいえよう)、右により復帰した所
有権に基づく目的物の返還請求ないしは受贈者に対する所有権移転登記の抹消請求
等が、前記にいわゆる「遺留分回復の訴」の訴訟物であつて、かかる個々の具体的
請求を離れて、抽象的ないしは包括的な「遺留分減殺の請求」が訴訟物として存在
するわけではない。
 これを本件についてみれば、控訴人の本訴請求の第一は、所有権(持分)の復帰
に基づく移転登記の請求であり(抹消登記を求めるか移転登記を求めるかは、しば
しば、便宜ないしは政策の問題にすぎない)、その第二は天然果実(金員)の返還
である。控訴人は本件土地のうち田畑八筆より生ずる天然果実の返還を求めるとい
うが、その現実に訴求するところは金員の支払であつて、金銭が土地の天然果実で
ないことは言をまたない。
 控訴人の訴旨とするところは、結局、田畑より生ずべき天然果実(米、麦、大豆
等)の代価の償還にあること<要旨第二>が明らかである。そして民法一〇三六条
は、受贈者において「減殺の請求があつた日以後の果実」を返還すべ</要旨第二>き
ものとするが、同条は、がんらい、悪意占有者の果実返還義務および消費した果実
等の代価の償還義務を規定した同法一九〇条一項の特則であつて、減殺請求の意思
表示の日をもつて受贈者が悪意の占有者となつた時とみるところに、同条の規定の
趣旨があるものと解されるから、遺留分権利者は民法一〇三六条・一九〇条により
減殺請求の日以後の果実の代価の償還を求めうるものというべきである(これを別
異に解すれば、減殺請求の日以後の果実所有権の侵害による損害賠償または不当利
得の返還請求を認めるべきこととなろう)。したがつて、この点に関する控訴人の
請求は、遺留分の減殺による所有権(持分)の復帰を前提として、本件土地より生
ずる果実の代価の償還を求めるものと解される。その第三は、地上立木の伐採によ
る損害賠償の請求であるが、これが遺留分減殺による所有権(持分)の復帰を前提
とすることは改めていうまでもない。
 要するに、控訴人の本訴における請求は、いずれも、遺留分減殺によつて控訴人
に復帰した所有権に基づくか、またはこれを前提とするものであるが、請求それ自
体は、個別的な所有権(持分)移転登記手続、果実の代価償還ないし損害賠償の請
求であることが明らかであり、この点は、さきに「遺留分減殺請求事件」として出
発した前訴の一審にあらわれた請求および二審における「予備的請求」について
も、同様である。
 ロ、 所有権移転登記手続に関する部分について
 民訴二三七条二項によると、本案の終局判決を受けたのち訴えを取り下げた者
は、さらに同一の訴えを提起することができない。そして控訴人は、前述のよう
に、本件土地につきa所有権の確認およびb所有権移転登記を訴求し、請求棄却の
本案判決を受けてのち、これを取り下げた者であるから、前訴の取下げにも拘らず
再訴を必要とするという特段の事情の変化がないかぎり、請求原因を同じくする同
一の請求を提訴することは許されないことになる。控訴人が本訴において被控訴人
に求める所有権移転登記手続は、前訴におけると請求原因を同じくし、ただ請求の
内容が分量的に小である(前訴では持分二分の一につき請求し、本訴では持分四分
の一につき請求する)というにとどまるから、控訴人の本訴請求のうち、所有権移
転登記手続に関する部分は、前記特段の事情につき主張・立証のない以上、民訴二
三七条二項の明文に反するものとして却下を免れない。
 ハ、 金員の支払請求に関する部分について
 前訴において控訴人は、本件土地がその所有であることを前提として、「本件土
地のうち、田畑の天然果実の返還金五五万余円および山林地上立木の不法伐採によ
る損害賠償金二〇三万余円等の支払請求」を控訴審において追加申立てしたが、本
件土地(持分)の取得原因として亡Aよりの相続を挙げ、被控訴人への生前贈与は
Aの意思に基づかないものでほんらい無効であるか、または控訴人の遺留分減殺に
より無効たるに帰したものである、と主張した(後段の主張はのちに撤回され
た)。右の金員請求は、前訴の一審判決後の申立てにかかるもので、もとよりこれ
に対する一審の終局判決はなく、控訴審における追加後は判決確定に至るまで申立
てを維持されたものである(控訴審において撤回されたのは、被控訴人への生前贈
与を否定するための主張の一部にすぎす、金員請求それ自体ではない)。
 したがつて、右金員請求に関する部分については、民訴二三七条二項による再訴
禁止の問題を生じない。
 ちなみに、控訴人は前訴において、a所有権の確認を訴求し、請求棄却の一審判
決後これを取り下げたものであるから、取り下げののち特段の事情の変化がないか
ぎり、所有権確認の再訴を提起することができず、またしたがつて、所有権の存否
を先決問題とする再訴を提起することも許されないとする所説が考えられないで<要
旨第三>はない。しかし、所有権確認の請求と所有権を前提とする果実代価の償還お
よび損害賠償の請求とは、訴訟</要旨第三>物を異にし、かかる請求をも含めて民訴
二三七条二項による再訴の禁止にあたると解することは、訴権を制限する同条項の
解釈として厳格に失すると考えられるので、当裁判所はこだを採らない(なお、前
訴一審判決は昭和三四年八月七日終結の口頭弁論に基づいてなされたものである
が、控訴人が本訴において主張する損害賠償請求権の発生時点はこれに先だち、天
然果実の発生時点はその前後にまたがつていることも留意さるべきであろう)。
 二、 当審における金員請求の拡張申立てについて
 1、 申立ての経過
 控訴人は当審において、本件土地のうち田畑の果実代価の償還請求につき、昭和
三七年度分を五万〇、一八六円より六万〇、一八六円に増加し、同三八年度分とし
て六万〇、一八六円を追加し(以上、昭和三九年二月一八日付け控訴の趣旨訂正申
立書による)、さらに同三九年度分として六万〇、一八六円を追加した(同年九月
一日付け控訴の趣旨訂正申立書による)。結局、当審において合計一三万〇、三七
二円の拡張申立てをしたわけである。
 2、 拡張申立てに関する取扱い
 <要旨第四>原判決は本訴を不適法として却下したものであるから、当審において
これを取り消す場合は、事件を原審に</要旨第四>差し戻すことを必要とする(民訴
三八八条)。したがつて、控訴人はもつぱら本訴の適否を抗争すべく、その請求を
分量的に拡張することは、控訴審における訴訟行為としては無意味というほかはな
い。しかし、一審判決の取消しをえた暁は、差戻し後あらためて請求の拡張をなし
うることは勿論であるから、控訴人があえて所定額の印紙を貼用して拡張の申立て
をする以上、これを違法と即断することは妥当でない(一審判決が維持されるとき
は、控訴審における拡張部分は同一の理由で却下されることとなろうが、これが取
り消された場合は、差戻し後の審判の対象として意味をもちうるからである)。し
かも、控訴審が事件を一審裁判所に差し戻しながら、分量的な拡張申立てのあつた
請求部分につき自ら審理判断するのが当をえないことは冗言を要しない。
 三、 結語
 以上により、原判決のうち、金員の支払請求を却下した部分は法律の適用を誤つ
たものとして取り消しを免れず、同部分および当審における金員請求の拡張申立部
分を原審に差し戻すべく、所有権移転登記手続の請求を却下した部分は相当である
ので、この点につき民訴三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決
する。

昭40・6・18最判 無権代理人が本人を相続した場合の無権代理行為の効力
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
土地所有権移転登記抹消登記手続請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人諏訪徳寿の上告理由について。
 原審の確定するところによれば、亡Aは上告人に対し何らの代理権を付与したことなく代理権を与えた旨を
他に表示したこともないのに、上告人はAの代理人として訴外Bに対しA所有の本件土地を担保に他から金
融を受けることを依頼し、Aの印鑑を無断で使用して本件土地の売渡証書にAの記名押印をなし、Aに無断
で同人名義の委任状を作成し同人の印鑑証明書の交付をうけこれらの書類を一括してBに交付し、Bは右
書類を使用して昭和三三年八月八日本件土地を被上告人Cに代金二四万五千円で売渡し、同月一一日右
売買を原因とする所有権移転登記がなされたところ、Aは同三五年三月一九日死亡し上告人においてその
余の共同相続人全員の相続放棄の結果単独でAを相続したというのであり、原審の前記認定は挙示の証拠
により是認できる。
 ところで、無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合において
は、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であり(大判・大正
一五年(オ)一〇七三号昭和二年三月二二日判決、民集六巻一〇六頁参照)、この理は、無権代理人が本
人の共同相続人の一人であつて他の相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合においても妥当
すると解すべきである。したがつて、原審が、右と同趣旨の見解に立ち、前記認定の事実によれば、上告人
はBに対する前記の金融依頼が亡Aの授権に基づかないことを主張することは許されず、Bは右の範囲内に
おいてAを代理する権限を付与されていたものと解すべき旨判断したのは正当である。そして原審は、原判
示の事実関係のもとにおいては、Bが右授与された代理権の範囲をこえて本件土地を被上告人Cに売り渡
すに際し、同被上告人においてBに右土地売渡につき代理権ありと信ずべき正当の事由が存する旨判断
し、結局、上告人が同被上告人に対し右売買の効力を争い得ない旨判断したのは正当である。所論は、ひ
つきよう、原審の前記認定を非難し、右認定にそわない事実を前提とする主張であり、原判決に所論の違法
は存しないから、所論は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭41・3・2最決 家審法9条1項乙類第10号の遺産の分割に関する処分の審判の合憲性
最高裁判所大法廷(大阪高等裁判所)
遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する抗告
主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         
理    由
 家事審判法九条一項乙類一〇号に規定する遺産の分割に関する処分の審判は、民法九〇七条二、三項
を承けて、各共同相続人の請求により、家庭裁判所が民法九〇六条に則り、遺産に属する物または権利の
種類および性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮して、当事者の意思に拘束されることなく、後
見的立場から合目的的に裁量権を行使して具体的に分割を形成決定し、その結果必要な金銭の支払、物
の引渡、登記義務の履行その他の給付を付随的に命じ、あるいは、一定期間遺産の全部または一部の分
割を禁止する等の処分をなす裁判であつて、その性質は本質的に非訴事件であるから、公開法廷における
対審および判決によつてする必要なく、したがつて、右審判は憲法三二条、八二条に違反するものではない
(最高裁昭和三六年(ク)第四一九号同四〇年六月三〇日大法廷決定、民集一九巻四号一〇八九頁、同昭
和三七年(ク)第二四三号同四〇年六月三〇日大法廷決定、民集一九巻四号一一一四頁参照)。
 ところで、右遺産分割の請求、したがつて、これに関する審判は、相続権、相続財産等の存在を前提として
なされるものであり、それらはいずれも実体法上の権利関係であるから、その存否を終局的に確定するに
は、訴訟事項として対審公開の判決手続によらなければならない。しかし、それであるからといつて、家庭裁
判所は、かかる前提たる法律関係につき当事者間に争があるときは、常に民事訴訟による判決の確定をま
つてはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく、審判手続において右前提事項の存
否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである。けだし、審判手続にお
いてした右前提事項に関する判断には既判力が生じないから、これを争う当事者は、別に民事訴訟を提起
して右前提たる権利関係の確定を求めることをなんら妨げられるものではなく、そして、その結果、判決によ
つて右前提たる権利の存在が否定されれば、分割の審判もその限度において効力を失うに至るものと解さ
れるからである。このように、右前提事項の存否を審判手続によつて決定しても、そのことは民事訴訟によ
る通条の裁判を受ける途を閉すことを意味しないから、憲法三二条、八二条に違反するのではない。
 以上のとおりであるから、本件において、前記憲法各条の違反をいう論旨は理由なく、また、論旨は、憲法
一三条、二四条違反をもいうが、その実質は違憲に名をかりて原決定の単なる法令違反を主張するにすぎ
ないものと認められるから、採用できない。
 よつて、民訴法八九条を適用し、主文のとおり決定する。
 この裁判は、裁判官山田作之助の意見があるほか、裁判官全員の一致した意見によるものである。
 裁判官山田作之助の意見は、次のとおりである。
 わたくしは、家事審判法九条一項乙類一〇号に規定する遺産分割に関する処分の審判が憲法三二条、八
二条に違反しないとする結論については多数意見と同じであるが、その理由は、多数意見のように、右審判
の本質が非訟事件であるからというのではなく、遺産分割の性質が家族団体の内部における構成員間の権
利義務に関する争であるところに求めらるべきものと考える。
 この見解については、多数意見が援用する昭和四〇年六月三〇日の当大法廷の二決定中で既に述べた
わたくしの意見とその理論的根拠を共通にするので、ここでは詳論を避ける。
 なお、多数意見によれば、遺産分割の審判の前提事項である相続権ないし相続財産等の存否に関して審
判中で決定がなされた場合でも、後に通常の民事訴訟を提起することを妨げないというが、わたくしの見解
によれば、かかる前提事項が家族団体内部の構成員であることにもとづく争である限りは、更に通常訴訟を
以て争い得るということには到底賛同し難い。


昭41・5・19最判 単独で占有する共有者に対する共有物の明渡請求
第1小法廷判決(東京高等裁判所)
土地所有権確認等請求上告事件(一部棄却 一部破棄自判)
主    文
 原判決中、被上告人らの建物明渡請求部分を破棄し、右部分の第一審判決を取り消す。被上告人らの上告
人に対する建物明渡請求を棄却する。
 その余の上告を棄却する。
 訴訟費用は、一・二・三審を通じ三等分し、その二を上告人の、その一を被上告人らの各負担とする。
理    由
 上告代理人小島成一、同平井直行の上告理由第一点ないし第三点について。
 原判決挙示の証拠によれば、原判決の認定した事実を肯認しえないわけではなく、右事実関係のもとにお
いては、前田兼吉において本件宅地買受当時内心において上告人に対し将来適当な時期に本件宅地を贈与
しようと考えていたが、その後当初の考えをかえて上告人に対しこれを贈与する意思をすてたから、本件宅地
の贈与はついに実現されず、かつ、本件建物についての贈与も認められないとする原判決の判断は、当審も
正当として是認しうる。
 原判決には、所論のような違法があるとは断じがたく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・判
断、事実認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第四点の第二・第三について。
 所論の点に関する事実認定は挙示の証拠により肯認でき、その事実関係のもとでは、本件宅地の所有者は
前田兼吉であつて、上告人でないとした原判決の判断は、正当であり、原判決には、所論のような違法はなく、
所論は採用しがたい。
 同第五点について。
 本件一件記録に徴しても、原審に所論のごとき違法があるとは認めがたく、所論は採用しがたい。
 同第四点の第一について。
 思うに、共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者
(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有す
る権限を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共
有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者
を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することが
できるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益
する権限を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分
権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し
立証しなければならないのである。
 しかるに、今本件についてみるに、原審の認定したところによれば前田兼吉の死亡により被上告人らおよび上
告人にて共同相続し、本件建物について、被上告人前田とらが三分の一、その余の被上告人七名および上告
人が各一二分の一ずつの持分を有し、上告人は現に右建物に居住してこれを占有しているというのであるが、
多数持分権者である被上告人らが上告人に対してその占有する右建物の明渡を求める理由については、被上告
人らにおいて何等の主張ならびに立証をなさないから、被上告人らのこの点の請求は失当というべく、従つて、こ
の点の論旨は理由があるものといわなければならない。
 よつて、原判決は被上告人らの上告人に対して本件家屋の明渡を求める部分について失当であり、その余は
正当であるから、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、三八六条、九六条、九二条、九三条、八九条に
従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭41・7・14最判 遺留分減殺請求権の性質
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
所有権移転登記手続請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人井上綱雄の上告理由について。
 遺留分権利者が民法一〇三一条に基づいて行う減殺請求権は形成権であつて、その権利の行使は受贈
者または受遺者に対する意思表示によつてなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、また一た
ん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるものと解するのを相当とする。従つ
て、右と同じ見解に基づいて、被上告人が相続の開始および減殺すべき本件遺贈のあつたことを知つた昭
和三六年二月二六日から元年以内である昭和三七年一月一〇日に減殺の意思表示をなした以上、右意思
表示により確定的に減殺の効力を生じ、もはや右減殺請求権そのものについて民法一〇四二条による消滅
時効を考える余地はないとした原審の判断は首肯できる。
 論旨は、右と異る見解に基づくものであつて、採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭42・1・20最判 相続放棄と登記
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
第三者異議
主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人らは上告人に対し、別紙物件目録記載の不動産のAの持分九分の一につき、名古屋法務
局稲沢出張所昭和三九年一二月二五日受付第七六二七号をもつてなされた仮差押登記の抹消登記手続を
せよ。
     訴訟の総費用は、被上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人内藤三郎の上告理由第一、二点について。
 民法九三九条一項(昭和三七年法律第四〇号による改正前のもの)「放棄は、相続開始の時にさかのぼつ
てその効果を生ずる。」の規定は、相続放棄者に対する関係では、右改正後の現行規定「相続の放棄をした
者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかつたものとみなす。」と同趣旨と解すべきであり、民法
が承認、放棄をなすべき期間(同法九一五条)を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを
強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり、同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の
申述をすると(同法九三八条)、相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開がなかつたと同じ地位におかれるこ
ととなり、この効力は絶対的で、何に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。
 ところで、別紙物件目録記載の不動産(以下本件不動産と略称する。)は、もと訴外Aの所有であつたが・
昭和三元年八月二八日同訴外人が死亡し、その相続人七名中上告人およびB両名を除く全員が同年一〇
月二九日名古屋家庭裁判所一宮支部に相続放棄の申述をして、同年一一月二〇日受理され、同四〇年一
一月五日その旨の登記がなされたが、Bは同日本件物件に対する相続による持分を放棄し、同月一〇日そ
の旨の登記を経由したので、上告人Cの単独所有となつたものであることは、原審の適法に確定した事実で
あり、この事案を前記説示に照して判断すれば、Aが他の相続人であるB、D、E、F、鶇野C、G等六名ととも
に本件不動産を共同相続したものとしてなされた代位による所有権保存登記(名古屋法務局稲沢出張所昭
和三九年一二月二五日受付第七六二四号)は実体にあわない無効のものというべく、従つて、本件不動崖
につきAが持分九分の一を有することを前提としてなした仮差押は、その内容どおりの効力を生ずるに出な
く、この仮差押登記(同出張所昭和三九年一二月二五日受付第七六二七号)は無効というべきである。よつ
て、この点に関する原判決の判断は当を得ず、この誤りが原判決主文に影響を及ぼすこと勿論であるから、
論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上告人が本件不動産の所有権を単独で取得し、現
在その旨の登記を経由していることは前記のとおりであるから、被上告人らは上告人に対し、本件不動産の
Aの持分九分の一につき、名古屋法務局稲沢出張所昭和三九年一二月二五日受付第七六二七号をもつて
なされた前記仮差押登記の抹消登記手続をなすべきである。そこで、この登記手続を求める上告人の請求
を正当として認容し、民訴法四〇八条一号、八九条、九六条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。

昭42・2・21最判 家屋賃借人の死亡と内縁の妻の賃借権の承継の有無
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
家屋明渡請求
主    文
     原判決中、上告人Aに対して昭和三三年一月一日から同三五年八月二日まで一箇月一、六〇〇円
の割合の金員の連帯支払を命じた部分を破棄し、右部分に関する被上告人の請求を棄却する。
     上告人Aのその余の部分に対する上告を棄却する。
     上告人Bの上告を棄却する。
     訴訟の総費用はこれを二〇分し、その一を被上告人その余を上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人堂下芳一、同服部明義の上告理由第一について。
 原判決(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)が確定した事実関係のもとにおいては、上告人Aは亡Cの
内縁の妻であつて同人の相続人ではないから、右Cの死亡後はその相続人である上告人Bら四名の賃借権
を援用して被上告人に対し本件家屋に居住する権利を主張することができると解すべきである(最高裁昭和
三四年(オ)第六九二号、同三七年一二月二五日第三小法廷判決、民集一六巻一二号二四五五頁参照)。
しかし、それであるからといつて、上告人Aが前記四名の共同相続人らと並んで本件家屋の共同賃借人とな
るわけではない。したがつて、Cの死亡後にあつては同上告人もまた上告人Bら四名とともに本件家屋の賃
借人の地位にあるものというべきであるとした所論原判示には、法令の解釈適用を誤つた違法があるとい
わなければならない。
 原判決には右のような違法があるが、本件家屋の賃貸借関係について他の共同賃借人三名の代理権を
有していた上告人両名に対して被上告人の先代Dがした該賃貸借契約解除の意思表示が有効であること後
記(上告理由第二、第三についての判断説示参照)のとおりであるから、右の違法は上告人らに対して本件
家屋の明渡を命じた原判決にはなんら影響を及ぼすものでないことは明らかである。また、原審確定の事実
によれば、右賃貸借の終了後は上告人らはいずれも本件家屋を法律上の権原なくして占有し賃料相当額の
損害を加えつつあるというのであるから、上告人らに対してその不法占有期間について右損害金の連帯支
払を命じた原判決にも影響がないものというべきである(被上告人の損害金の請求は、債務不履行に基づく
ものと不法行為に基づくものとが選択的になされているものと解される。)。
 しかしながら、上吉人Aは、前記のとおり、Cの死亡後本件家屋の賃借人となつたのではなく、したがつて、
昭和三三年一月一日から本件賃貸借の終了した昭和三五年八月二日までの間の賃料の支払債務を負わ
ないものというべきであるから、原判決中同上告人に対して右賃料の支払を命じた部分は失当として破棄を
免れず、右部分についての被上告人の本訴請求は棄却すべきものである。
 同第二、第三について。
 原判決が確定した事実関係(所論のように、Eが昭和三五年当時の住民票のうえで別世帯を構成していた
としても、その結論に影響がない。)のもとにおいては、上告人両名は本件家屋の賃借権を相続によわ取得
したE、FおよびGの三名の代理人として被上告人の先代Dのした本件催告ならびに賃貸借契約解除の意思
表示を受領したものと認めるべきであるから右三名にも本件解除の効力が及ぶものであるとした所論原判示
は、正当というべきである。また、所論は、上告人らの右代理関係の事実については被上告人が原審におい
て主張していないところであるというが、本件記録に現われた被上告人の主張の全趣旨に徴すれば、所論の
事実をも主張するものと解しえないものではないから、原審には所論弁論主義違背があるとすることもできな
い。論旨は、ひつきよう、独自の法律的見解に立却するか、もしくは原判示にそわない事実を前提として、原
判決を非難するものであつて、採用するを得ない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九五条、九六条、九二条、九三条に従い、裁判官全員の
一致で、主文のとおり判決する。

昭42・4・27最判 法定単純承認の効果が生ずるための要件
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
貸金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人斎藤兼也の上告理由第一点について。
 所論は、要するに、民法九二一条一号本文により相続人が単純承認をしたものとみなされるがためには、
相続財産の全部または一部の処分という客観的事実が存すれば足り、相続人が自己のために相続が開始
したことを知つてその処分をしたことは必要でないというにある。
 しかしながら、民法九二一条一号本文が相続財産の処分行為があつた事実をもつて当然に相続の単純承
認があつたものとみなしている主たる理由は、本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはな
らないところであるから、これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても
単純承認があつたと信ずるのが当然であると認められることにある(大正九年一二月一七日大審院判決、民
録二六輯二〇三四頁参照)。したがつて、たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の
事実を知らなかつたときは、相続人に単純承認の意思があつたものと認めるに由ないから、右の規定により
単純承認を擬制することは許されないわけであつて、この規定が適用されるためには、相続人が自己のため
に相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡し
た事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するものと解しなければならない。
 本件につき原審の確定したところによれば、被上告人およびその家族は、訴外Aの死体が発見されて昭和
三四年一二月七日に至つて初めてAが死亡したことを知つたものであり、しかも、それ以前に被上告人が
Aの死亡を確実に予想していたものとは認められないというのである。してみれば、後になつてAが昭和三四
年七月三〇日頃の家出当夜自殺死亡していたことが確認されたからといつて、Aの相続人である被上告人
が、Aの家出後その行方不明中に、Aの所有財産の一部である判示動産を処分したとしても、民法九二一条
一号による単純承認擬制の効力を生じないとした原審の見解が正当であることは、前段の説示に照らして明
らかである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、これと異なる見解に立つて原判決を非難する論旨は
採用することができない。
 同第二点について。
 原判決が、被上告人が判示の事情のもとに訴外Aの家出後それまでみずからも従事していた左官業を会
社組織にするために有限会社村越工作所を設立し、同会社をしてAの所有にかかる所論各物件を使用させ
たことは、被上告人が相続の開始を知つた以前の行為であるから、民法九二一条一号本文にいわゆる相続
財産の処分に当たらないと判断していることは、その判示に照らして窺いえないものではなく、右の判断の正
当なことは、上告論旨第一点につき説示したところによつて明らかであり、また、被上告人がAの死亡を知つ
た以後において同会社に所論各物件の使用を許容していたことは、民法九二一条一号但書所定の保存行
為の範囲を超えるものでないとする原審の判断も、正当なものとして是認することができる。したがつて、原
判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭42・4・28最判 内縁の夫が賃借権の援用した事例
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
家屋明渡請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人橋本清一郎の上告理由について。
 本件家屋の賃借人Aには唯一の相続人として姉B(明治二八年二月二五日生)があり、BはAの死亡当時
行先不明で生死も判然としないことが認められるけれども、Bがその頃すでに死亡していたとの確証がない
本件では、Aの死亡によりBが遺産相続人として本件家屋の賃借権を相続承継したと認めるほかはない旨
の原判決の判断は、その挙示する証拠関係から肯認することができる。
 さらに、Aは昭和一五年八月七日上告人から本件家屋を賃借したものであること、被上告人は、Aの内縁の
夫であり、昭和二六年九月から本件家屋に同棲して互に扶け合い、Aが病床につき昭和三七年七月五日死
亡するまでの約三年間は同人の面倒をみてきたものであり、A死亡後もひきつづき本件家屋に居住している
ことは、原判決の適法に確定するところである。
 以上の事実関係のもとにおいては、被上告人はAの家族共同体の一員として、上告人に対し、同人の賃借
権を援用し本件家屋に居住する権利を対抗しえたのであり、この法律関係は同人が死亡し、その相続人が
本件家屋の賃借権を承継した以後においても特別の事情のないかぎり変りがないというべきであるから(昭
和三七年一二月二五日第三小法廷判決、集第一六巻第一二号二四五五頁参照)、 結局これと同趣旨に出
た原判決の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭42・11・1最判 慰謝料請求権の相続性
最高裁判所大法廷
慰藉料請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人高橋方雄の上告理由について。論旨は、要するに、原判決が慰藉料請求権は一身専属権であ
り、被害者の請求の意思の表明があつたときはじめて相続の対象となると解したのは、公平の観念および条
理に反し、慰藉料請求権の相続に関する法理を誤つたものであるというにある。
 案ずるに、ある者が他人の故意過失によつて財産以外の損害を被つた場合には、その者は、財産上の損
害を被つた場合と同様、損害の発生と同時にその賠償を請求する権利すなわち慰藉料請求権を取得し、右
請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使することができ、その損害の賠償を請
求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。そして、当該被害者が死亡し
たときは、その相続人は当然に慰藉料請求権を相続するものと解するのが相当である。ただし、損害賠償請
求権発生の時点について、民法は、その損害が財産上のものであるか、財産以外のものであるかによつて、
別異の取扱いをしていないし、慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専
属するものであるけれども、これを侵害したことによつて生ずる慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠
償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はなく、民法七
一一条によれば、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰藉料請求権と
は別に、固有の慰藉料請求権を取得しうるが、この両者の請求権は被害法益を異にし、併存しうるものであ
り、かつ、被害者の相続人は、必ずしも、同条の規定により慰藉料請求権を取得しうるものとは限らないので
あるから、同条があるからといつて、慰藉料請求権が相続の対象となりえないものと解すべきではないから
である。しからば、右と異なつた見解に立ち、慰藉料請求権は、被害者がこれを行使する意思を表明し、また
はこれを表明したものと同視すべき状況にあつたとき、はじめて相続の対象となるとした原判決は、慰藉料
請求権の性質およびその相続に関する民法の規定の解釈を誤つたものというべきで、この違法が原判決の
結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本訴
請求の当否について、さらに審理をなさしめるため、本件を原審に差戻すことを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官奥野健一の補足意見、裁判官田中二郎、同松田二郎、同岩
田誠、同色川幸太郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の補足意見は、次のとおりである。
 民法七一〇条は「他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規
定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス」と規定し、身体、
自由等の非財産的権利を財産権と全く同列に置き、共に不法行為の対象となる法益とし、かつその損害に
対しては、財産権侵害の場合と同様、原則として金銭賠償により、これを救済せんとするのである(同法七二
二条、四一七条)。
 従つて、非財産権が侵害された場合は、財産権が侵害された場合と同様、その侵害と同時に、損害賠償請
求権が発生するものと解すべきであり、非財産権の侵害の場合に限つて、被害者がこれを請求する意思を
表示した場合に、始めて賠償請求権が発生するものと解すべき法文上の根拠は毫もない。また、生命を侵害
された場合に、被害者の得べかりし財産上の利益の喪失による損害については、被害者がこれを請求する
意思を表示したと否とにかかわらず、当然相続人において被害者の財産上の損害賠償請求権を相続したも
のとして請求し得るのと同様に、非財産権の侵害による慰藉料請求権も、被害者がこれを請求する旨の意
思を表示したか否かにかかわらず、当然金銭債権として、相続人がこれを相続したものと解するのが当然で
ある。
 もし、非財産権侵害による慰藉料請求権は、被害者がこれを請求する意思を表示して始めて発生するもの
とすれば、民法七二四条により慰藉料請求権が、未だ発生しないのに消滅時効が進行するという不合理な
結果を生ずることになる。また、被害者が慰藉料請求の意思を表示した場合に限り、慰藉料請求権の相続性
が認められるとするならば、被害者即死の場合や、慰藉料請求の意思を表示することができない程の重傷を
蒙つた場合などは、常に慰藉料請求権は否定されることになり、かかる重大加害者は常に慰藉料支払の義
務を不当に免れる結果となる。更に航空機や船舶の遭難により全員が死亡したような場合には、慰藉料請
求の意思表示をした事実の立証は不可能であるから、かかる場合、概ね慰藉料請求権は否定されることに
なり、甚だ不当な結果となる。
 もし、慰藉料請求権の本質が「被害者その人の精神的苦痛を慰藉すること」を目的とするものであるから、
被害者の一身に専属する権利であつて、譲渡性、相続性なしというのであれば、仮令被害者がこれを請求す
る意思を表示したからといつて、遽に慰藉料が被害者その人の精神的苦痛を慰藉するという性質を変じ、譲
渡性、相続性が生ずるいわれはないものと考えられる。
 大審院が、明治四三年一〇月三日の判決においては、被害者が加害者に対して慰藉料を請求すると意思
を表示したときは、相続の対象となるものと解し、大正八年六月五日の判決では、被害者が慰藉料を請求す
る意思を書面に表示し、これを執達吏に交付しその催告を委任したが、その催告書が加害者に到達する以
前に死亡した場合でも、被害者は慰藉料請求の意思を表示したことになるから、その慰藉料請求権は相続
の対象となるとしたのであるが、昭和二年五月三〇日の判決では被害者が「残念残念」と連呼しながら死亡
した場合には、特別の事情がないかぎり、加害者に対して慰藉料請求の意思表示をしたものと解することが
できるというに至り、被害者の請求の意思表示の要件を次第に緩和せんとする傾向にあつたものと認められ
る。慰藉料請求権の相続性につき被害者の請求の意思表示を必要とするとの大審院判例は、今や変更せら
れるべき時期に来ているものと思料せられる。
 要するに、わが民法の建前によれば、いやしくも、非財産権の侵害があれば、財産権侵害の場合と同様、
特別の事情のない限り、当然に損害が発生し、従つて被害者は慰藉料請求権を取得し、これを放棄したと認
められるような特段の事情のない限り、相続人に相続せられるものと解すべきであつて、ドイツ民法八四七
条等とその立法の建前を異にするものであり、これをわが民法の解釈の資料とすることはできない。また、近
代不法行為法の理想に従えば、いやしくも不法行為により他人に損害を生ぜしめた以上、その損害が財産
的、非財産的であるを問わず、出来るだけ広くこれを賠償させるのが、被害者保護の理想にかなうものであ
り、たまたま被害者が死亡したからといつて、加害者をして、その責任を免れしめる理由がなく、被害者の相
続人に対し、賠償を得させることが前記理想に副う所以である。
 裁判官田中二郎の反対意見は、次のとおりである。
 私は、慰藉料請求権の性質に関する多数意見の見解には賛成しがたく、結論的にも多数意見とは反対
に、本件上告は棄却すべきものと考える。その理由は、次のとおりである。
 一、多数意見は、慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するけれ
ども、これを侵害されたことによつて生ずる慰籍料請求権そのものは、単純な金銭債権であるという。しか
し、私は、そうは考えない。そもそも、精神的損害といわれるものは、客観的にではなく、被害者の受ける苦
痛その他の精神的・感情的状況の如何によつて決まる主観的・個性的なものであり、したがつて、これらの
精神的損害が生じたとして、これに対して認められる慰藉料請求権も、単純な金銭債権とみるべきものでは
なく、被害者の主観によつて支配される多分に精神的な要素をあわせもつたものと解すべきであろう。かよう
な意味において、多数意見のいうように、単に被害法益が一身専属的なものであるだけでなく、慰藉料請求
権も、被害者の現実の行使によつて具体化されるまでは、一身専属的なものであり、したがつて、これを行
使するかどうかも、被害者の主観的な感情その他の精神的諸条件や当該被害者が置かれている環境その
他の社会的諸条件を無視して決せられるべきものではないという意味において、一身専属的なものと考える
べきであると思う。すなわち、第一に、被害者が精神的損害を受けたと感じるかどうか、およびその程度、態
様も、被害者の主観によつて決ることであり、第二に、被害者が精神的損害を受けたと感じた場合において
も、それを理由として、慰藉料請求権を現実に行使するかどうかは、被害者の感情その他の内的な精神的
諸条件および被害者の置かれている環境その他の外的な社会的諸条件によつて影響されることが少なくな
いのであるから、被害者の主観を尊重し、被害者自身の全人格的な判断にまつべきものであつて、これらの
事情を全く無視し、被害者の意思に基づくことなく、慰藉料請求権が当然に具体的に生ずるものと解すべき
ではないと思う。
  右の点についての私の考え方を要約すると、次のとおりである。すなわち、精神的損害を伴う事故等の発
生と同時に、慰藉料請求権は、抽象的・潜在的な形で発生する(したがつて、慰藉料請求権の消滅時効は、
この時から起算すべきである。)。この権利は、さきに述べたように、一身専属的な性質を有する。そこで、被
害者が自らこの慰藉料請求権を行使することによつて、損害発生時に遡つて、これが具体化され、金銭債権
としての損害賠償請求権が具体的・顕在的な形をとるに至る。このように、一身専属的な慰藉料請求権の行
使によつて、金銭債権が具体化された後にはじめて、それが、譲渡・相続の対象となり、かつまた、債権者代
位権行使の対象ともなり得るものと考えるのである。
 二、右のような見地がらいえば、慰藉料請求権を具体的に行使するためには、被害者が慰藉料を請求する
意思を有するとともに、その意思を外部に表示することを必要とすると解すべきである。すなわち、慰藉料を
請求する意思を有するかどうかは、内心の問題として、これを的確に判断することはむずかしいので、何らか
の形でこれを外部に表示することを必要とすると解すべきである。かつて大審院が、この点について、幾多の
判例を積み重ねてきたのも、被害者保護のために、できるだけ広く慰藉料請求の意思があつたことを推定し
ようとした苦心の現われといえよう。その結果、時には技巧にすぎ、ひいては、かえつて、慰籍料請求権の叙
上の本質を誤つた嫌いがないではないが、被害者の意思の存在とその表示とを必要としたその基本的な考
え方においては、無視できないものをもつていると思う。私は、慰籍料請求権を行使するかどうかについて
も、被害者の主観を尊重する見地から、被害者がこれを行使する意思を有し、しかも、これを外部に表示する
ことを要し、かつ、それをもつて足りるものと解したい。
 三、右のように解するときは、生命侵害等の場合―即死その他これに準ずる場合等において、その意思表
示の不可能または著しく困難なとき等―に、相続人の保護に欠けるというような批判があり得るであろう。し
かし、民法七一一条は、被害者の近親のために、生命侵害に対する固有の慰藉料請求権を認めているので
あるから、同条の適用を受けるべき近親の範囲および被害法益の範囲等を拡張的に解釈することによつ
て、その保護を全うすることができ、また、民法七〇九条、七一〇条による慰藉料請求権も、その要件を具備
している以上、その請求が可能なわけであつて、被害者本人の主観を無視して慰藉料請求権の譲渡性、相
続性を肯認しなければならない実質的根拠に乏しい。
 四、ところで、原判決の確定するところによれば、本件被害者はその死亡まで慰藉料請求の意思を表示し
なかつたというのであるから、上告人は、右被害者の相続人であつても、叙上の理由によつて、右被害者の
慰藉料請求権を相続によつて取得したものとは認めがたく、したがつて、これと同趣旨に出た原審の判断
は、結局、正当であつて、本件上告は棄却を免れないものと考える。
 裁判官松田二郎の反対意見は、次のとおりである。
 (一) 多数意見は次のようにいう。すなわち、「ある者が他人の故意過失によつて財産以外の損害を被つ
た場合には、その者は、財産上の損害を被つた場合と同様、損害の発生と同時にその賠償を請求する権利
すなわち慰藉料請求権を取得し、右請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使
することができ、その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするもので
はない。そして、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰藉料請求権を相続するものと解する
のが相当である」と。これが本件に対する多数意見の立場であり、すなわち、多数意見はこの立場からきわ
めて簡単に慰藉料請求権の相続性を肯定する。そして、このような多数意見の見解は、必然に慰藉料請求
権の譲渡性の肯定へも導くものと解される。ただし、多数意見は、「慰藉料請求権が発生する場合における
被害法益は当該被害者の一身に専属するものである」といいながらも、「これを侵害したことによつて生ずる
慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権である」と主張するからであ
る。すなわち、多数意見のいう「被害者の一身に専属する」という言葉は、慰藉料請求権が沿革的にまた比
較法制的に多分に一身専属的のものとされたことに対するいわば一種の儀礼的の表現と解されるのであ
る。要するに、多数意見は、慰藉料請求権を「単純な金銭債権」と解することによつて、その一身専属的性質
を実質的に否定し、その譲渡性・相続性を肯定するものである。
 しかし、慰藉料請求権は果して多数意見のいうように、単純な金銭債権であり、譲渡性・相続性を有するも
のであろうか。私は多数意見に反して、該請求権を一身専属的のものと解するのである。ただし、精神上の
苦痛そのものが、きわめて高度に個人的・主観的のものである以上、慰藉料請求権はその苦痛を受けたとき
に生じるものではあるが、その行使の有無は被害者自身の意思によつて決せられるべきものであり、この点
においてそれは債権者代位権に親しまないものというべく、また慰藉料は被害者の苦痛そのものを慰藉する
ためのものであるから、この点でその請求権をば被害者以外の第三者に譲渡し、もしくは相続人に相続せし
むべきではないからである。要するに、叙上が慰藉料請求権の本質である。この見解に立つとき、多数意見
はきわめて個人的であるところの慰藉料請求権をきわめて非個人的のものと解した点において、誤に陥つた
ものといわざるを得ない。すでに述べたように、多数意見が「慰藉料請求権の発生する場合における被害法
益は当該被害者の一身に専属するもの」というからには、多数意見はすべからくその請求権自体の一身専
属性を認めるという結論に到達すべきであつたのである。
 (二) 本件は慰藉料請求権の相続性の有無に関するものであるので、この点に関するわが国の判例の跡
を概観するに、大審院は慰藉料請求権に関して、明治四〇年代から次のような態度を採つていた。すなわ
ち、その判例によれば、「不法行為に因り身体を害された者が財産以外の損害を填補させるため、加害者に
対しその慰藉料を請求する意思を表示したときは、その請求権は金銭の支払を目的とする債権に外ならな
いものであつて、これに因つて得る金額は相続の場合には相続人の取得すべきものであるから、被害者の
一身に専属するものでない」というのである(大審院明治四三年一〇月三日判決、民録十六輯六二一頁)。
思うに、大審院はこの判決に当り、すべからく慰藉料請求権の本質について深く考慮すべきであつたのであ
る。しかるに、判例は、その後も右の立場を踏襲し、更に慰藉料請求権の相続を容易ならしめる方向に進
み、「残念、残念」と連呼しながら死亡した場合においてすら、これをもつて「被害者がその被害が自己の過
失に出たことを悔んだような特別の事情のないかぎり、加害者に対し慰藉料請求の意思表示をしたものと解
し得られざるにあらず」とするに至つた(大審院昭和二年五月三〇日判決、法律新聞二七〇二号五頁)。そし
て、このような判例の態度によるときは、被害者即死の場合には慰藉料請求の意思表示がないから、慰藉
料請求権の相続がなく、これに反して被害者が即死しないで「残念、残念」と連呼したときは、その相続があ
るというような不均衡を生じることとなる。この点は、従来、学説上、非難されたところであり、多数意見もこの
ことを特に強く意識した結果、慰藉料請求権をもつて、「財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権
であり、相続の対象となるもの」としたのだと思われる。そして、終にその一身専属性を全く否定するに至つた
のである。
 (三) 多数意見が慰藉料請求権の本質を正解しないことは、右に述べたとおりである。しかも、多数意見に
従うときは、結果的にも著しい不都合を生じるのである。この点よりしても、多数意見の失当なことは明らかで
ある。私は、次にその二、三の例をあげてみたい。
 (1) 多数意見によれば、父親が貧困のため何等子に残すべき財産のない場合でも、父親が他人から侮
辱され、時には暴行さえ加えられて精神上多くの苦痛を受けて死亡すると、父親がその生前右の精神上の
苦痛につき慰藉料を請求する意思を表明しなくとも、その請求権を放棄したと解される特別の事情のないか
ぎり、父親の慰藉料請求権は当然に相続され、それだけ多くの相続財産が生じることとなる。相続財産の多
寡の点よりいえば、父親が他人から多くの精神的苦痛を受けた上、死亡した方が望ましいこととなるのであ
る。しかも、この慰藉料請求権は相手方の不法行為によつて生じたものに外ならないから、子としては、この
慰藉料請求権を行使するに当つて、相手方から相殺をもつて対抗されることはない(民法五〇九条)。従つ
て、この慰藉料請求権はきわめて確実な相続財産ということになるわけである。
 (2) 多数意見によれば、事業経営に失敗し、他人より侮辱され軽蔑され精神上多大の苦痛を受けた上破
産した者があるとき、破産者が慰藉料を請求する意思を表明しない場合でも、これを放棄したと解される特別
の事情のないかぎり、破産者の有するこの請求権は当然に破産財団に属することとなる。従つて、破産看が
破産前、多くの精神上の苦痛を受けていれば、それに応じて破産財団の財産は増加するわけである。しか
も、管財人は善良なる管理者の注意を以てその職務を行うことを要し、その注意を怠るときは損害賠償の責
に任ずるから(破産法一六四条)、もし管財人が破産者の有する慰藉料請求権の行使を怠つたときは、損害
賠償の責を免れえないこととなるのである。
 (3) 既に指摘したように、多数意見に従えば、慰籍料請求権の譲渡性はこれを肯定することとなる。従つ
て、多数意見によれば、他人から精神上の苦痛を受けた者がその苦痛について損害賠償を請求する意思を
表明しない場合でも、その請求権を放棄したものと解しうる特別の事情のないかぎり、その被害者に対して
債権を有する者は、被害者が加害者に対して有する慰藉料請求権を差押え、これを取立てまたは転付せし
めうる(民訴法六〇一条、六〇二条)こととなるのである。
 (4) 「慰藉料請求権が財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権である」ならば、債務者の有す
る慰藉料請求権をば、債権者は代位行使できることとなる。その債権者の債権者もまた代位行使できること
となる。ただし、代位権の代位行使も可能であるからである。
  叙上のような設例は、あるいは極端なものと思われるかも知れない。しかし、多数意見に従うならば、右
のような結果は当然生じうるところである。従つて、多数意見に従うときは、今後慰藉料請求権に関して、き
わめて奇矯な訴訟が超り、しかも裁判所としてはこれを認めざるを得ないこととなるのである。
 (四) 慰藉料請求権の相続性と関連して考うべき問題が存在する。まず、(イ)慰籍料請求権と民法七一一
条との関係をいかに解するかの点である。しかし、私の見解によれば、生命を害されて死亡した者の慰藉料
は相続人によつて取得されないから、近親者は同条による固有の慰藉料請求権のみを有することとなる。従
つて、この固有の慰藉料請求権と相続した慰藉料請求権の両者の併存を前提とする問題は生じ得ないこと
となる。多数意見は二つの請求権の併存を認めるため、いたずらに両者間の法律関係を錯雑ならしめるに
過ぎない。(なお民法七一一条は慰藉料を請求しうる者の範囲を限定したものでなく、同条所定の者に対し、
損害発生の挙証責任を軽減したものと解される)。次に(ロ)多数意見によれば、死亡者の遺族は右の両請
求権を有しうることとなり、一見遺族の保護に厚いとの観を呈するのである。しかし、慰藉料の額は裁判所が
諸般の事情(訴訟において原告の受ける慰藉料の総額もこの事情の一つである)を斟酌して決すべきもので
ある以上、多数意見によつても、遺族の取得しうる賠償額が当然に増加するとはいえない。徒つて、この点
は必ずしも卑見に対する反対の理由となり得ない。(ハ)なお慰藉料請求権は、一身専属的権利であるが、
その個人的・主観的色彩の減退のため、通常の金銭債権と同視しうべきものに転化する場合がある。一体、
慰藉料の額は、おのおのの具体的場合に即して決することを要し、容易に決し難いところであるが、たとえば
加害者が被害者の慰藉料の請求に対し、一定額の金員を支払うことを約したような場合、当該請求権は、通
常の金銭債権と多く訳ぶところなく、これに転化したものと認められる。ただし、この場合慰藉料請求権の個
人的・主観的色彩褪せた結果、客観的には通常の金銭債権が存在するものと考えられるからである。債務
名義によつて、加害者が被害者に対し慰藉料として一定額の金員の支払をなすべきものとされた場合も同
様である。
 (五) 今、叙上の見地に立つて本件を見るに、原審の認定したところによれば、被上告会社の自動車運転
手であるAは、昭和三六年八月一六日被上告会社のためその所有の大型貨物自動車を運転して栃木県下
都賀郡a町b番地先国道に差しかかつた際、右自動車をBの乗る自転車に衝突させ、よつて同人を死亡する
に至らしめたところ、Bはその死亡まで慰藉料請求の意思を表示しなかつたというのである。しからば、上告
人はBの相続人であるにせよ、Bの慰藉料請求権を相続により取得したものとは認め難く、従つてこれと同
趣旨に出た原審の判断は正当であつて、本件上告は棄却を免れないのである。
 裁判官岩田誠は、裁判官松田二郎の右反対意見に同調する。
 裁判官色川幸太郎の反対意見は、次のとおりである。
 一、ある者が他人の故意過失によつて財産以外の損害を被つた場合には、損害の発生と同時にその賠償
を請求する権利すなわち慰藉料請求権を取得するものであることは多数意見の説くとおりであるが、私は、
この権利は行使において一身専属的なものであると考えるのである。
 慰藉料は、いうまでもなく、精神的損害の賠償のために支払われるものであり、被害者の精神的、肉体的
苦痛を、普遍的な価値である金銭をもつて、消除し軽減せしめようとするわけである。苦痛は必ずしも現在の
ものに限ることなく、将来苦痛を感ずるであろうことが合理的に期待されるときをも含むと考えるべきである
が、それにしても、現在又は将来において、苦痛を全く感受しないときには慰藉料請求権は発生しない。とこ
ろでなんらかの違法な法益侵害があつたときに、苦痛を感受するかどうか、感受するとしてもその程度如何
は、人によつて著しい格差があるばかりでなく、同一人に対し同一態様の侵害が加えられても、時により環境
に応じ、その苦痛は千変万化するものであつて、財産権の侵害の場合のように同一の加害が同一の損害を
生ずるものとは全くその趣を異にする。一般人にとつては認容の限界を越えた許すべからざる人格権の侵害
でも、ある人にとつては格別痛痒を感じない場合もなしとはしないし、その逆もまた考えられないわけではな
い。さらにまた、ある不法行為によつてある人が苦痛等を感じたとしても、これを請求することを憚る事情の
存在することもまたあり得るのである。要するに精神上の損害は極めて個性的なものであつて、その賠償請
求権の行使は当該本人の自由なる意思にかからしめることを相当とし、したがつて、権利者以外の第三者が
代つて行使することは許されない性質を有するのである。慰藉料請求権が発生する場合における被害法益
は、多数意見の認めるごとく、一身専属であるが、それだけにとどまらず、慰藉料請求権は行使において一
身専属であり、権利者が行使しない以上相続、差押等の目的にはならないと解するを相当とする。
 而して、一旦権利者によつて行使されるならば一身専属性は解消し、通常の金銭債権となるのであるが、
請求権は義務者に対し一定の行為を請求することを内容とするものであるからして、その行使は、義務者に
対する明確な意思表示によつてなされなければならない。死に臨んで被害者が残念だと絶叫してもそれを以
て請求権の行使とすることはできないのである。
 二、次に、死者につき、死亡したことそのものを原因とする慰藉料請求権の取得が認められるであろうか。
多数意見はそれを自明のこととしているようである。しかし苦痛は生きておればこそ感受できるものであり、
そしてまた人は死亡によつて権利主体たることをやめるわけである。死者が死亡を原因として慰藉料請求権
を取得するとするためには、死亡による苦痛を死者自身がこれを感受し、死亡のその瞬間に、死者が慰藉料
請求権を取得する、すなわち死前に死があり、死後にまた生がある、という奇異なる論理を肯定した上でな
ければなるまい。この間にいかなる巧妙な法律的操作を施しても、かかる非論理性は、所詮、救われないの
である。民法七一〇条は、慰藉料請求権の被害法益として、身体、自由、名誉及び財産権を列挙している。
これが限定的なものでないとしても、被害法益の尤たる生命侵害に全くふれるところがないのは、七一一条と
対比した場合、極めて示唆的である。生命を侵害された死者自身が慰藉料請求権を取得するという法理は、
結局、わが民法の認めないところではあるまいか。
 三、さきに述べたごとく、生命侵害の場合でも、即死でなく、受傷後死亡までに若干の日時があり、その間
に慰藉料請求権を行使したものであるならば、この権利は死亡によつて相続され、民法七一条等による相続
人固有の慰藉料請求権と併存することになる。そうだとすると、即死したとき又は被害者本人が存命中に慰
藉料請求権を行使しなかつたとき、即ち相続の対象となる慰藉料請求権が存しないときは、前記の併存の場
合に比し、形の上では、一見甚だ不利益であつて権衡を失するかのごとくである。しかし二本だてが一本だ
てに比べてより有利だということには必ずしもならないのである。けだし、慰藉料の額は裁判所の自由なる心
証によつて量定されるものであるが、それにしても、相続による慰藉料請求権取得の有無は、民法七一一条
等に基づく当該相続人に固有な慰藉料請求権の額を算定する場合に当然参酌されるべき事情であつて、相
続による慰藉料が多額であれば、相続人の苦痛はそれだけ軽減されるのであるから固有の慰藉料はこれに
応じて低かるべきであり、反対に、即死の場合のように、被害者が肉親の看護を受けず、後事を託する余裕
もなかつたようなときは、相続できる慰藉料請求権こそなけれ、遺族の苦痛は甚大であるが故に、固有の慰
藉料請求権は自ら大とならざるを得ないからである。もつとも叙上の見解にたつと、遺族ではあるが、民法七
一一条に列挙されたところに該当せず、そしてまた、内縁の妻その他これに準ずるような特別の間柄(これら
の遺族は、民法七〇九条、七一〇条に基づく固有の慰藉料請求権を有すると考える。)にもない者にとつて
は、被害者である被相続人において慰藉料請求権を取得しない以上、加害者に対し慰藉料の請求をするこ
とはできないわけである。しかし、これらの者は、当該被害者の死亡に因つて深刻な精神的打撃を受けない
が故に、固有の慰藉料請求権を取得し得ない立場にあるのであるから、相続すべき慰藉料請求権が存在す
れば格別、そうでない場合においても、単に相続人であるというだけで、利益を受ける結果となるのは妥当を
欠くといわなければならない。したがつてかくのごとき遺族について慰藉料請求権を否定することは、加害者
をして不当に義務を免かれしめることになるという非難には、到底同調できないのである。
 四、慰藉料の種類を多く認めることが必ずしも、被害者側の救済を厚くする所以ではないことは上述のとお
りであるが、私は、もともと不法行為による損害賠償請求事件、特にいわゆる人身事故の訴訟事件において
は、主力を逸失利益の算定にそそぐべきであつて、安易に慰藉料によりかかるべきではない、と考えている
ものである。もとより私といえども、かかる訴訟において現在慰藉料の果している役割をしかく軽視するわけ
ではない。逸失利益の算定には、幾多の困難があり、算定の基礎たるデータも多くは不確定、不安定なもの
であるから、結論たる裁判の具体的妥当性を追求するために、自由に量定し得る慰藉料を以て、判断過程
の欠陥を補完する必要を生ずることは否めない事実であろう。しかし、裁判は本来、法律が規定している構
成要件の存否を確定し、これに法規をあてはめて法律効果を定める法律的価値判断であるから、事後にお
ける客観的な検証に堪え、また特に事前において予測可能性のあることが要請されるものであり、合理的な
思惟と共通普遍な理論を以てすれば裁判の結論が自ら流出する底のものであるのが望ましいのである。一
言でいえば裁判は水ものであつてはならないのである。しかるに慰藉料の算定には未だ何らの規範もない
のであつて、要するに被害者及び加害者をめぐるあらゆる事情に基づき公平なる観念に従つてきめるもの
だ、というにすぎない。しかもいかなる事情をいかなる程度に参酌してその量定をしたかということは判示す
ることも困難であり、またその必要もないことになつている(大判昭和八年七月七日、民集一二巻一八〇五
頁等参照)のであるから、ともすれば裁判官の主観に流れる傾向なしとはしないのである。将来、判例の集
積によつて慰藉料が概ね定型化された場合ならばとにかく、少くとも現在の段階において慰藉料のいわば調
整的機能に過度に傾斜することは戒心すべきであり、その意味から慰藉料の種類を複雑にすることには賛
成し難いのである。
 五、ところで本件について見ると、被上告人の雇人である自動車運転者訴外Aは被上告人のために貨物自
動車を運行中、過失によつて訴外亡Bに右自動車を衝突せしめたこと、そのために重傷を負つた同人は一
二日後に遂に死亡したのであるがその間前記傷害による慰藉料請求の意思を表示しなかつたものであるこ
と、以上は原審の認定するところであるから、Bの妹である上告人としては、民法七〇九条、七一〇条によつ
て独自に慰藉料の請求をする場合は格別、相続を理由としてはこれを請求し得ないと解すべきである。した
がつて、これと同趣旨に出た原審の判断は正当であつて、本件上告は棄却すべきものと考える。

昭42・11・15名古屋高判 相続放棄取消の申述受理後、当該相続放棄の有効を別訴で主張することの可否
名古屋高等裁判所?? 金沢支部?? 第一部
土地所有権移転登記等抹消登記手続請求事件
主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 第一 当事者の申立
 一、 控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、
 二、 被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。」旨の判決を求めた。
 第二 当事者の主張
 一、 被控訴代理人は、請求原因として、次のとおり述べた。
 (一) 別紙不動産目録記載の各不動産(以下本件不動産という。)は、もと亡
Aの所有であつたが、同人は昭和三九年一〇月二二日死亡し、相続が開始した。
 (二) 亡Aの相続人は、妻の被控訴人、養子の控訴人、同訴外Bの三名であつ
たが、被控訴人及びBの相続放棄の申述が昭和四〇年一月二二日金沢家庭裁判所小
松支部で受理され、控訴人は、本件不動産につき相続を原因として、それぞれ別紙
登記目録記載の各所有権移転登記ないし所有権保存登記をなすに至つた。
 (三) しかしながら、被控訴人の右相続放棄の申述は、控訴人が、被控訴人に
無断で勝手にしたものである。
 (四) 仮にそらでないとしても、被控訴人は、元来無学、無智、愚昧なる女性
にして、相続放棄が亡Aの相続財産の放棄を意味するものとは全く知らずに、相続
放棄の申述をなしたものであるから、右相続放棄は、意思表示の要素に錯誤があ
り、無効である。
 (五) 仮に以上の主張が理由ないとしても、金沢家庭裁判所小松支部で受理さ
れた上記相続放棄の申述は、控訴人が「相続放棄をしないのなら老後の面倒は一切
見てやらない。放棄すれば生活も十分見てやるし、A家のおばばとして一生楽隠居
させてやる。」と言葉巧みに被控訴人をだまし、あるいはまた「おばばの一人や二
人を殺すのは朝飯前じゃ、早く放棄を承諾せい。」等と被控訴人を強迫した結果に
よるものである。よつて被控訴人は、右詐欺、強迫を理由に前記裁判所に相続放棄
取消の申述をなし、昭和四〇年一〇月一五日同裁判所においてこれを受理された。
 (六) かようなわけで、本件不動産に対しては、被控訴人も相続による三分の
一の共有持分を有しているから、被控訴人は、控訴人に対し、別紙登記目録記載の
各登記を、それぞれ同一相続を原因とする被控訴人の持分三分の一、控訴人の持分
三分の二の各割合による所有権移転ないし所有権保存の各登記にするための更生登
記手続を求める。
 二、 控訴代理人は、次のように答弁し、主張した。
 (一) 被控訴人主張の事実中、(一)、(二)の各事実と(五)の事実中被控
訴人が金沢家庭裁判所小松支部に相続放棄取消の申立をなし、被控訴人主張の日に
同裁判所においてこれを受理されたことは、いずれもこれを認めるが、その余の事
実は全てこれを否認する。
 (二) 被控訴人は、昭和三九年一〇月二二日から二三日にかけて近親者の間で
A家の借財整理に関する話が出た際、「自分は亡Aからその生前住家をもらつてい
るし、農耕はできず、今後とも控訴人に面倒をみてもらいたいから相続は放棄して
よい。」旨自ら進んでいい出したのである。そこで同月二九日納骨のため近親の者
達がぼ提寺の勝光寺に集つた際、控訴人は相続放棄の申述書を被控訴人に示して、
その趣旨をよく説明し、被控訴人も十分これを納得して、あらかじめ持参していた
印鑑を被控訴人自ら右申述書に押捺し、これを控訴人が被控訴人に代つて前記裁判
所へ提出したのである。かようなわけで、控訴人は、被控訴人主張の如き詐欺、強
迫をなしたことはなく、被控訴人の上記相続放棄は、全く同人の真意によるもので
あるから有効であり、したがつてまた被控訴人主張の相続放棄の取消は、その理由
がない。
 第三 証拠関係
 一、 被控訴代理人は、甲第一号証の一、二、第二号証を提出し、証人Cの証言
を援用し、乙第三号証の成立は知らないが、その余の乙各号証の成立は認め、乙第
一号証の一ないし三、第四号証の一、二はこれを利益に援用すると述べた。
 二、 控訴代理人は、乙第一号証の一ないし三、第二、第三号証、第四号証の
一、二を提出し、証人D、同Eの各証言及び控訴本人尋問の結果を援用し、甲各号
証の成立は全て認めると述べた。
         理    由
 一、 本件不動産は、もと亡Aの所有であつたが、同人は昭和三九年一〇月二二
日死亡し、その相続が開始したこと、亡Aの相続人は、被控訴人主張のとおり、妻
の被控訴人、養子の控訴人及び同訴外Bの三名であつたが、昭和四〇年一月二二日
被控訴人とBの相続放棄の申述が金沢家庭裁判所小松支部で受理され、控訴人が本
件不動産につき被控訴人主張どおりの各所有権移転登記ないし所有権保存登記を経
由していること、ならびに被控訴人が金沢家庭裁判所小松支部に相続放棄取消の申
述をなし、被控訴人主張の日に同裁判所においてこれを受理されたことは、当事者
間に争いがない。
 二、 そこで被控訴人の本件相続放棄の効力について判断するに、
 (一) 成立に争いのない甲第一号証の一、二、証人D、同Eの各証言ならびに
控訴本人尋問の結果を総合すれば、亡Aは上記のように昭和三九年一〇月二二日死
亡し、同月二四日頃、同人宅にその近親者達が集つて香典開きが行なわれたが、そ
の席上亡Aには相当額の負債があることが分り、その整理方法をめぐつて自ずと話
が相続関係にも及んだところ、被控訴人も、「自分は百姓仕事などはとてもでき
ず、どうせ控訴人に面倒をみてもらわなければならないし、また亡Aからは生前そ
の住家ももらつているから、相続しようとは思つていない。」といい、Bも控訴人
が後を継ぐのが順当だから相続する気はないとの考えで、結局A家は控訴人に継い
でもらうのが最も順当であるというような話合になつたこと、そこで同月二九日、
納骨のため近親の者達がぼ提寺の勝光寺に集つた際、たまたま午前一〇時の予定が
お寺の都合で午後一時に延ばされたので、皆で話合の上、その暇を利用して、相続
放棄の手続を済ますことになり、早速控訴人が金沢家庭裁判所小松支部から相続放
棄申述書の用紙をもらつてきて、他の近親者らも同席する中で、相続人の被控訴人
とBに、右用紙を提示し、且つ相続放棄の趣旨もよく説明した上、控訴人において
それぞれ該当欄に所要事項を記入し、これに被控訴人とBが、よく納得の上、それ
ぞれあらかじめ用意してきていた各自の印鑑を自ら押捺し、これを控訴人が、右両
名に代つて前記裁判所に提出したものであること、しかるに被控訴人は、どういう
わけか昭和三九年一一月五日金沢家庭裁判所小松支部で行なわれた審問で、「相続
放棄の申述をしたことはない。しかし放棄するか、どらか、よく考えてみるから、
しばらく審理をのばしてほしい。」旨を述べて続行を求めたが、翌年一月二二日の
審問期日には、「前回の供述は間違いで、相続放棄の申述は真意によるものであ
る。」旨を述べて、右申述の受理を求め、上記のようにこれを受理されたものであ
ることを認めることができ、以上認定の事実関係によれば、被控訴人の本件相続放
棄の申述は、全く同人の自由且つ事実の意思に基づいたものと認めるのほかはない
ものというべく、したがつて被控訴人の本件相続放棄も有効といわざるを得ない。
 (二) 被控訴人は、本件相続放棄の申述は、控訴人が被控訴人に無断でしたも
のである。仮にそうでないとしても、本件相続放棄は要素に錯誤があるから無効で
あるといい、更には本件相続放棄は、被控訴人主張の如き控訴人の詐欺、強迫によ
るものである旨を主張してその効力を争い、前掲の甲第一号証の一、成立に争いの
ない甲第二号証、乙第一号証の一ないし三の各陳述記載ならびに証人Cの証言中に
は、一部被控訴人の右各主張事実に副うような部分もあるが、これらは、前掲の各
証拠に比照し、あるいはその供述内容自体から考えて、たやすくこれを信用するこ
とはできないし、他に上記認定を覆えし、被控訴人の右各主張事実を肯認するに足
る確証もない。
 (三) もつとも被控訴人の本件相続放棄は、その後上記のように、被控訴人の
申立により、昭和四〇年一〇月一五<要旨>日金沢家庭裁判所小松支部においてその
取消の申述が受理されているので、右受理審判と別個に、本件の如く</要旨>別訴で
当該相続放棄の有効性を主張し得るかどうかは、一応問題ではあるが、もともと相
続放棄取消の受理審判は、相続放棄の受理審判と同様、一応の公証的意味を有する
にとどまるものであること、相続の放棄またはその取消の申述を却下する審判に対
しては即時抗告をなし得るが、右各申述の受理審判に対しては不服申立の道がなく
(家事審判法第一四条、家事審判規則第一一五条第二項、第一一四条第一項、第一
一一条)、利害関係人は、別訴で相続放棄の有効、無効を争う以外に方法がないこ
となどを考え合せると、相続放棄取消受理の審判は、相続放棄の受理審判ととも
に、相続放棄の効力に関する実体的権利関係を終局的に確定するものではなく、右
の実体的権利関係は、民事訴訟法による裁判によつてのみ終局的にこれを確定すべ
きものと解するのが相当であるから、被控訴人の上記相続放棄取消受理の審判は、
何ら上記判断の妨げとなるものではないといらべきである。
 三、 果して以上説示の次第であつてみれば、被控訴人の本件相続放棄は有効に
して、その無効を前提とする被控訴人の本訴請求は、その理由なく、失当たるを免
れない。
 してみれば、右理由なき被控訴人の本訴請求を認容した原判決また失当にして、
本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条によつて原判決を取り消し、被
控訴人の本訴請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九六
条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。


昭43・3・5札幌高判 他主占有者の相続人が現実に占有を開始した場合の占有の性質
札幌高等裁判所?? ?? 第一部
土地所有権移転登記請求事件
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人熊谷正治の上告理由第一点について
 <要旨>相続人が、被相続人の占有の態様からみて相続に因て所有権を取得したも
のと考え、爾後所有の意思をもつ</要旨>て現実に占有を始めたときは被相続人が他
主占有をしていた場合でも右相続人は固有の自主占有をもつことになるものと解す
るを相当とする。
 原判決の確定した事実によると、「本件係争土地はもと訴外A所有にかかる北海
道久遠郡a村字bc番の土地の一部であつたところ、大正七年一一月一三日頃被上
告人先代B、訴外亡C外一名が、本件係争土地を含む近隣一帯の土地を右の順で海
岸にそつて北から南へほぼ三分して買受けた際c番地の土地から分筆されてC名義
に所有権移転登記がなされたものであるが、係争土地はB所有家屋のほぼ正面海岸
寄りにある長い長方形の土地で、その一方は海岸国有地に接し、三方はBの買受け
たc番、d番などB所有地に囲まれた形になつており、B方から海へ出るには係争
土地を通らなければまわり道をすることになるのに反し、C所有の土地から係争土
地に至るにはB方の土地を通らなければならないいわゆるとび地であること、B
は、右売買以前から係争土地を含む附近の土地を賃借して船揚場および海産物干場
として使用し、前記売買により係争土地附近の土地を買受けた後も同様の目的で大
正一三年九月一二日死亡するまでその使用を継続し、Bの死亡後は被上告人が係争
上地を前同様の目的で使用し、所有の意思をもつて平穏且つ公然に占有した。」と
いうのであるから、原審が、係争土地買受けの経過からみて、Bが当初から係争土
地を所有の意思をもつて占有していたとは認められないが、右売買が行われてから
相当の年月を経た後にBを相続した被上告人は、前記認定のような係争土地の位
置、使用状況からみて自己の所有地と信じて占有を始めたものであり、被上告人が
占有を開始した大正一三年九月一二日から起算した二〇年の経過により取得時効が
完成し、本件係争土地は被上告人の所有に帰したと判断したのは正当というべきで
ある。また、原審が被上告人は本件係争土地の租税を納付したことがなかつたとの
事実を認定していることは所論のとおりであるが、納税の有無は所有の意思を推認
する一事実にはなり得るが必ずしも決定的なものではないから、本件係争土地は海
浜に続く土地の一部を細く分筆したもので隣接土地との境界が形状上明らかでな
く、Cの相続人であるDは係争土地の位置に自己所有名義の土地が存在することを
知らず、被上告人方D方双方とも係争土地の周囲に数筆の土地を所有し、これらに
対する租税を一括納付していたものであり、したがつて特にそのろちに係争土地の
租税を納付していることあるいは納付していないことを意識していないとしても特
に異とするに当らないことなどの事実を認定した与え、被上告人が係争土地に対す
る租税を納付していなかつたとの一事により所有の意思をもつてする占有でないと
はなし難いとした原審の判断は正当としてこれを是認することができ、右原審の判
断は、上告人の援用する判決とむじゆんていしよくするものではない。原判決には
所論のような法律の解釈を誤つた違法はないから論旨は理由がない。
 同第二点について
 不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ原則としてその後に所有権
取得登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗し得ないが、右
第三者が時効取得者の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しないいわゆる
背信的悪意者と認められる場合には、時効取得者は登記なくして右第三者に時効取
得をもつて対抗し得るものと解すべきである。
 原判決の判示によれば、本件係争土地は被上告人にとつてはその漁業経営上極め
て必要度の高い重要な上地であつたので、昭和三四年九月頃登記簿上本件係争土地
の所有名義人がCになつていることが判明後、被上告人は再三Cの相続人Dに話合
いを試みたが、Dはこれを拒み続けたため紛争が深刻化し、Dの被上告人長男に対
する傷害事件まで派生するに至つたので、被上告人は昭和三八年九月三一日Dに時
効援用を通告したところ、その直後である同年一〇月三日Dから上告人への売買契
約による所有権移転登記がなされたものであつて、上告人はCの二男でC死亡後D
を養育し、本件係争土地に関する紛争にも当初から関与してその経過、内容を熟知
しており、上告人が従来本件係争土地を使用したことはもちろん将来使用する必要
性はまつたくなく、Dから上告人への売買契約についてもその代金の定めはあいま
いである、というのであつて、原審の確定した右の事実関係のもとにおいては、上
告人が被上告人の登記欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者にあたらな
いとした原判決の判断は正当である。論旨に掲げる最高裁判所判決は本件に適切な
先例ではなく、論旨は採用できない。
 同第三点について
 原判決の確定した事実は「被上告人はその被相続人Bの死亡した大正一三年九月
一二日以降引き続き本件係争土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有し
た。」というのであつて、右事実は原判決の挙示する諸証拠によつて十分にこれを
認めることができる。原判決が昭和二〇年九月一一日の経過をもつて取得時効期間
が満了した旨判示していることは所論のとおりであるが、右は上記原判決の認定し
た起算日からみて昭和一九年九月一一日の明白な誤記に過ざないものと認められ
る。また土地の時効取得を認定するのは所有者が行方不明であるとか第三者が公課
を代納している場合に限るとの経験則が存在するとは未だ認められない。所論は畢
竟原審の適法になした事実の認定ないし証拠の価値判断を非難するに帰し、原判決
には所論のような理由そご、経験則違反の違法はないから論旨は採用しえない。
 よつて本件上告は理由がないから民事訴訟法第四〇一条によりこれを棄却するこ
ととし、上告費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判
決する。

昭43・5・31最判 遺言執行者がある場合と遺贈義務者の履行を求める訴の被告適格
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
所有権移転登記手続請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 職権をもつて調査するに、本訴において、被上告人らは、訴外亡Aから、その所有の本件建物について、各
持分二分の一の割合による遺贈を受けたところ、同人の死亡によりその効力を生じたものと主張して、Aの
相続人である上告人に対し、右遺贈を原因とする共有持分二分の一ずつの所有権移転登記手続を求めるも
のであるが、記録によれば、上告人は、原審第一一回口頭弁論期日に、その提出にかかる昭和四一年一一
月一五日付準備書面に基づいて、右遺言に際して訴外Bが遺言執行者に指定されたが、その後、昭和四〇
年一月一三日に名古屋家庭裁判所において、同人は遺言執行者の地位を解任され、弁護士Cが遺言執行
者に選任された旨を主張していることが明らかであり、また、成立に争のない甲第一号証(公正証書)および
原審における証人Bの証言に徴すると、前記遺言に際して、Bが遺言執行者に指定されたが、同人はその後
解任されて、原審における口頭弁論の終結時においては、さらに遺言執行者に選任された者が存在する事
実を窺わせるに足りるのである。
 ところで、遺言の執行について遺言執行者が指定されまたは選任された場合においては、遺言執行者が
相続財産の、または遺言が特定財産に関するときはその特定財産の管理その他遺言の執行に必要な一切
の行為をする権利義務を有し、相続人は相続財産ないしは右特定財産の処分その他遺言の執行を妨げる
べき行為をすることはできないこととなるのであるから(民法一〇一二条ないし一〇一四条)、本訴のよう
に、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴にお
いて、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎられるのであつて、相続人はその適格を有しないも
のと解するのが相当である(大審院昭和一四年(オ)第一〇九三号、同一五年二月一三日判決、大審院判
決全集七輯一六号四頁参照)。
 してみると、本件の遺言について、遺言執行者が存在するものであるならば、原審としては、本訴は被告の
適格を欠く者に対する訴としてこれを却下すべきものであつたものといわなければならず、前記のように、遺
言執行者の存在することを窺うに足りる証拠が存在するのに拘らず、これを顧慮しないで本案の判断をした
原判決には、職権によつて調査すべき当事者適格に関する事項に関し審理を尽さなかつた違法があるか
ら、論旨について判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、右遺言執行
者の存否についてさらに審理を尽し、これを確定させるのを相当とするから、原審に差し戻すべきものとす
る。
 よつて、民訴法第四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭43・12・20最判 口授と筆記・読み聞かせが前後した公正証書遺言の効力
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
持分移転登記、共有物分割等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人遠矢良巳、同泥谷伸彦の上告理由第一点について。
 原審が確定した事実によれば、上告人らおよび被上告人らが本件不動産を共有取得するに至つた原因
は、訴外亡Aの特定遺贈にあるというのであるから、上告人らは、共有者の一員として通常裁判所における
共有物分割の請求により、右不動産の分割を求めることができるものといわなければならない。原判決に所
論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することが
できない。
 同第二点について。
 共有物分割請求訴訟が固有の必要的共同訴訟であることは、所論のとおりであるが、右訴訟においては、
共有者の全員が当事者であればよいのであつて、必ずしも、共有者の一人のみが原告として訴を提起しな
ければならないものではない(大審院大正一二年(オ)第二三三号同年一二月一七日判決民集二巻六八四
頁参照)。原判決には所論の違法はなく、論旨は、理由がない。
 同第三点について。
 原審の確定した事実によれば、遺言者たる訴外Aは、本件不動産を上告人らおよび被上告人らの四名に
均等に分け与えるものとし、その旨を公正証書によつて遺言することを決意した後、被上告人Bをして公証
人のもとに赴かしめ、公証人は、同被上告人から聴取した遺言の内容を筆記したうえ、遺言者に面接し、遺
言者および立会証人に既に公正証書用紙に清書してある右遺言の内容を読み聞かせたところ、遺言者は、
右遺言の内容と同趣旨を口授し、これを承認して右書面にみずから署名押印したというのである。したがつ
て、右遺言の方式は、民法九六九条二号の口授と同条三号の筆記および読み聞かせることとが前後したに
止まるのであつて、遺言者の真意を確保し、その正確を期するため遺言の方式を定めた法意に反するもの
ではないから、同条に定める公正証書による遺言の方式に違反するものではないといわなければならない
(大審院昭和六年(オ)第七〇七号同年一一月二七日判決民集一〇巻一一二五頁、同昭和九年(オ)第二
四八号同年七月一〇日判決民集一三巻一三四一頁参照)。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用しが
たい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭43・12・24最判 生前行為による撤回・否定例
最高裁判所第三小法廷(名古屋高等裁判所)
遺言執行者不存在確認等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人浜口雄、同江谷英男の上告理由第一および同人らの上告理由第一点ないし第三点ならびに
同下飯坂潤夫の上告理由および追加理由について。
 民法一〇二三条一項の規定は、前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、
後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす旨を定め、同条二項の規定は、遺言と遺言後の生前処分そ
の他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する旨を定めている。すなわち、同条二項は、遺言と遺言後
の生前処分その他の法律行為(以下単に生前処分という。)と抵触する場合には、その抵触する部分につい
ては、遺言を取り消したものとみなす旨を定めたものである。
 その法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもな
いが、他面において、遺言の取消は、相続人、受遺者、遺言執行者などの法律上の地位に重大な影響を及
ぼすものであることにかんがみれば、遺言と生前処分が抵触するかどうかは、慎重に決せられるべきで、単
に生前処分によつて遺言者の意思が表示されただけでは足りず、生前処分によつて確定的に法律効果が
生じていることを要するものと解するのが相当である。すなわち、遺言後に遺言者がした生前処分がその内
容において遺言に抵触するものであつても、それが無効であり、または詐欺もしくは強迫を理由として有効に
取り消されたときは、その生前処分は、はじめから法律行為としての本来の効力を生ぜず、または生じなか
つたことになるのであるから、その生前処分は遺言に抵触したものということはできない(民法一〇二五条但
書参照)。これと同様に、その生前処分が停止条件つきのものであるときは、その停止条件が成就したことが
確定されないかぎり、その生前処分は法律行為としての本来の効力をいまだ生じていないのであるから、そ
れが内容においてすでになされた遺言と抵触するものであつても、いまだ遺言に抵触するものということはで
きず、したがつて、遺言は取り消されたものとみなすことはできない。そして、このことは、右の停止条件がい
わゆる法定条件にあたる場合であつても、法律効果が生じていない点からみれば、同様に解することができ
る。
 ところで、一般に、財団法人の設立については、設立者の寄附行為と主務官庁の許可という二個の必要条
件があつて、財団法人の設立者のする寄附行為は、法人を設立しようとする効果意思と一定の財産をこれ
に帰属させようとする効果意思とを内容とする相手方のない単独行為で、一定の財産の出捐と寄附行為書
の作成によつてされるところ、その法律効果である財団法人が設立されるためには、主務官庁の許可をえる
ことが必要であつて、主務官庁の許可をえてはじめて財団法人が設立されることになる。その意味におい
て、財団法人の設立を目的とする意思表示は、主務官庁の許可という成否の未確定な将来の事実を法定の
停止条件とするものであると解するのが相当である。
 したがつて、遺言による寄附行為に基づく財団法人の設立行為がされたあとで、遺言者の生前処分の寄
附行為に基づく財団設立行為がされて、両者が競合する形式になつた場合において、右生前処分が遺言と
抵触し、したがつて、その遺言が取り消されたものとみなされるためには、少なくとも、まず、右生前処分の
寄附行為に基づく財団設立行為が主務官庁の許可によつて、その財団が設立され、その効果の生じたこと
を必要とし、ただ単に生前処分の寄附行為に基づく財団設立手続がされたというだけでは、その法律効果
は生じないから、遺言との抵触の問題は生ずる余地がないことは、前述したところから、明らかである。
 原判決の判示するところによると、Aが昭和三一年一月一三日原判決の遺言をもつて第一審判決の別紙
第一記載の財団法人清水育英会設立の寄附行為をしたこと、右Aが、その生前で、右遺言後の同三一年一
二月二五日第一審判決の別紙第二記載の財団法人三桝育英会設立の寄附行為をし、財団設立手続をした
が、これについていまだ主務官庁の許可がされていないというのであるから、右確定した事実のもとでは、右
生前処分にあたる財団法人三桝育英会設立の寄附行為は、まだその効力を生じていないというべきであつ
て、これだけでもつて、前記遺言による財団法人清水育英会設立の寄附行為と抵触すべき生前処分がある
と解することができないものといわなければならない。
 それゆえ、原判決は、前記説述とは異なるけれども、本件について、Aの遺言と生前処分との間に民法一
〇二三条二項にいう抵触が生じないとした結論は、結局、正当である。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の認定しない事実を前提として原判決を非難す
るか、または、独自の見解に立つて、原判決を非難するに帰し、採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


昭44・6・26最判 遺言による寄附行為と主務官庁の許可
第1小法廷判決(名古屋高等裁判所)
株券引渡等請求上告事件(棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点について。
 遺言による寄附行為に基づく財団法人の設立行為がされたあとで、遺言者の生前処分の寄附行為に基づく
財団設立行為がされて、両者が競合する形式になつた場合において、右生前処分が遺言と抵触し、したがつ
て、その遺言が取り消されたものとみなされるためには、少なくとも、まず、右生前処分の寄附行為に基づく
財団設立行為が主務官庁の許可によつて、その財団が設立され、その効果の生じたことを必要とし、ただ単
に生前処分の寄附行為に基づく財団設立手続がされたというだけでは、その法律効果は生ぜず、遺言との
抵触の問題は生じえないとするのが、当裁判所の判例(当裁判所第三小法廷判決、昭和四〇年(オ)第七〇
六号同四三年一二月二四日言渡)とするところである。
 ところで、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に判示するところによると、Aは、
昭和三一年一月一三日、当時所有していた被上告会社の株式三〇万四七六五株を出捐して原判決の別紙
第一記載の財団法人清水育英会の設立を目的とする寄附行為について、公正証書による遺言書を作成した
こと、Aは、右遺言書作成後その生前に、同人所有の現金二〇万円と同人が当時所有していた被上告会社
の株式二〇万株とを出捐して原判決の別紙第二記載の財団法人三桝育英会の設立を目的とする寄附行為
書を作成し、同三一年一一月二八日付でその設立許可申請が三重県教育委員会を通じて同年一二月二五
日付で主務官庁である文部省に対してされたが、その設立許可申請書は、同三三年三月二四日付の書面
で、Aあてに、文部省から運用資金を五〇万円とすることおよび役員構成を変更することを求めて返戻されて
きたこと、その後間もなくAは同三三年四月二二日死亡したこと、なお、同人の遺言に基づき被上告人らのな
した財団法人清水育英会設立許可申請書も文部省から返戻されたことが認められる。
 右確定した事実関係のもとでは、生前処分にあたる財団法人三桝育英会設立の寄附行為はまだその効力
を生じておらず、この生前処分が前記遺言による財団法人清水育英会設立の寄附行為に抵触するものとなし
えないことは、前記説示に照らして明らかである。
 原判決中には、右と異なる見解を前提とする説示もあるが、本件においては、Aのした遺言と生前処分との
間に民法一〇二三条二項にいう抵触は生じていないというのであるから、結局、原判決の結論は正当である。
 原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、前記説示と異なる独自の見解を前提として原判決を非難
するか、または、判決の結果に影響のない説示部分について原判決の違法をいうに帰し、失当として排斥を
免れない。
 同第四点について。
 原判決が適法に判示した事実関係のもとにおいては、Aの遺言による寄附行為の出捐財産である被上告会
社の本件株式三〇万四七六五株は、設立さるべき財団法人清水育英会の目的財産として、Aの死亡後、遺産
として相続人に渡された被上告会社の株式八五〇〇株その他の財産と分離されてきたもので、その株主名義
も、右財団法人の設立準備委員長B名義に書き換えられ、しかも、被上告会社の株主総会において同人名義
で議決権が行使され、本件株式は寄附行為者Aの個人財産から明確に分離され、実質的には個人の帰属を
離れた独立の存在として管理運用されてきており、また、被上告人Bは財団法人清水育英会の設立準備委員
長として文部省に対しその設立許可申請手続をし、同人は設立中の被上告財団の代表者的地位に立つて行動
していたというのである。
 そして、原判決の適法に判示するところによれば、被上告人BはAの死後、同人の遺言に基づいて遺言執行
者に就任し、遺言による寄附行為に基づく財団法人清水育英会を設立しようとして、みずから右財団の設立準
備委員長となり、Aの遺産である本件株式を財団法人清水育英会設立準備委員長B名義に書き換え、株式の
議決権を行使したというのであつて、Bは設立中の被上告財団の代表機関たる地位にあつたものといえる。
 してみれば、設立中の被上告財団が、民訴法四六条にいわゆる権利能力のない財団として当事者能力を有
するものとした原審の判断は、正当として是認することができる。
 ところで、遺言により遺言執行者が定められている場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行
を妨げるべき行為をすることはできなく(民法一〇一三条)、遺言執行者が、相続人に代わつて、相続財産の管
理その他遺言の執行に必要な一切の行為をなす権利義務を有し(民法一〇一二条一項)、そのために相当かつ
適切と認める行為をすることができる。
 これを本件について検討するに、設立中の被上告財団が権利能力なき財団としてその存立を認められるのは、
民法三四条による主務官庁の許可を得たうえで、財団法人清水育英会の設立されることを目的とする限度にお
いて、その社会的活動が認められるからであつて、この両者の関係は株式会社成立前における権利能力なき
社団たる設立中の会社と成立後の会社との関係に類似しており、たとい設立中の被上告財団が主務官庁の許
可を得ておらず、いまだ法人として成立していないとしても、権利能力なき財団たる被上告財団に本件株式の
権利を帰属させ、その代表機関名義に本件株式の名義を書き換えることは、遺言執行者としては、本件遺言
の目的の達成のために必要な行為をしたというべきであり、この行為をもつてその任務に背くものということは
できない。
 したがつて、遺言執行者たるBの右名義書換により、本件株式の権利は権利能力なき財団たる被上告財団
に完全に帰属し、相続人たる上告人らは本件株式についての権利を喪失したものと解するのが相当である。
 原判決の説示中には、これと異なる部分もあるが、論旨は、本件株式が相続財産として相続人たる上告人
らの権利に属することを前提として、原判決を非難するものであつて、この所論が前提を欠くものであることは、
前記説述したところに徴して明らかであり、論旨は結局失当として排斥を免れない。
 上告代理人浜口雄の上告理由第一点および第二点1ないし5(むすび中の照応論旨部分を含む。)、ならびに
追加上告理由について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点に対して判示したとおり
である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
 上告代理人浜口雄の上告理由第二点7および8(むすび中の照応論旨部分を含む。)について。
 所論は、本件株式につき上告人らが権利を有することを前提として原判決を非難するものであるが、その前提
を欠くことは、上告代理人江谷英男の上告理由第四点において判示したとおりであり、論旨は結局失当たるを
免れない。
 上告代理人下飯坂潤夫、同下飯坂常世の上告理由第一点、第二点および第四点、第五点について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点において判示したとおり
である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第三点について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第四点および上告代理人浜口雄の上告理由
第二点7、8において判示したとおりである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用に値いしない。
 なお、上告代理人江谷英男の上告理由第三点第二、同浜口雄の上告理由第二点6、同下飯坂潤夫、同下
飯坂常世の上告理由第三点中、預金通帳引渡請求に関する部分については、当審の口頭弁論期日において
、当該被上告人からその請求を認諾する趣旨の訴訟行為がなされて口頭弁論調書が作成され、その部分の
訴訟は終了しているから、右論旨について判断をすることはできない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。


昭44・9・8東京高判 相続人のない者からの包括遺贈と登記申請方法
東京高等裁判所?? ?? 第七民事部(新潟家裁佐渡支部)
遺言執行者選任申立却下審判に対する抗告事件
主    文
     原審判を取り消し、本件を新潟家庭裁判所佐渡支部に差し戻す。
         理    由
 本件抗告の要旨は、抗告状の記載事実を一件記録に照して理解すれば、Aが昭和
四四年四月一二日死亡したところ、同人には法定の相続人なく、その全遺産がBに
包括遺贈されていたので、抗告人は右遺贈による不動産所有権移転登記申請のため
右受遺者とともに新潟地方法務局両津出張所に赴いて問い合せたところ、受遺者と
遺言執行者の共同申請によらなければ右登記申請を受理できない旨の回答であつた
ので、抗告人は利害関係人として、原審に遺言執行者の選任を申し立てたところ、
原審はその選任の余地がないかまたはあつてもその必要性がないとして右申立を却
下する旨の審判をしたが、抗告人はこれに不服であるから本抗告に及んだとの趣旨
であると解される。
 <要旨>不動産の権利変動に関する登記については、わが不動産登記法は登記官の
いわゆる形式的審査主義を建前と</要旨>しているから、登記の真正を期するため同
法は登記権利者と登記義務者の共同申請によらしめることを基本的な原則としてお
り、ただ例外的に、同法第二七条において判決または相続による登記は登記権利者
のみで申請しうる旨規定して相続による登記につき判決による登記と同様に相続人
の単独申請を許しているのは、相続のように被相続人との身分関係によつて法定さ
れた権利義務の承継については、戸籍その他社会生活上の外部的関係から一応明ら
かなので、単独申請を認めても登記の真正保持の点からみてさしたる支障がないか
らであると解される。したがつて、遺贈のような意思表示による物権変動について
は、それが特定遺贈であれ包括遺贈であれ、同条のような例外的規定は、その明文
上からしても、はたまた立法趣旨からしても適用がないのであつて、民法第九九〇
条に包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有する旨規定されているからといつ
て、このことからただちに不動産登記法上包括受遺者の取得登記についてまで相続
人と同じく単独申請でなしうると解さなければならないわけのものではないのであ
る。すなわち、遺贈による不動産の取得登記は、判決による場合を除き、受遺者
(登記権利者)と遺言執行者または相続人(登記義務者)との共同申請によるべき
であつて、包括遺贈の場合も例外ではないと解すべきである(昭和三三年四月二八
日民事甲第七七九号法務省民事局長心得通達も同趣旨である。)。
 ところで、本件においては、遺贈者にはもともと法定相続人がなく、全遺産が包
括遺贈されたというのであるから、このような場合には、遺贈の効力が発生すると
ともに全遺産は受遺者に移転するから、その限りでは遺言の執行という観念を容れ
る余地がないけれども、遺贈による不動産の取得登記という点についてみれば、登
記義務者となるべき相続人がいないのであるから遺言執行者を選任して右登記手続
を完遂する必要性があるものといわなけばならない。してみれば、本件の場合に遺
言執行者を選任する余地がないか、あつてもその必要性が全く認められないとして
抗告人の本件申立を却下した原審判は不当であつて取消を免れず、本件を原審に差
し戻すのが相当であるから、主文のとおり決定する。

昭44・10・30最判 土地占有権の相続
最高裁判所第一小法廷(仙台高等裁判所)
田地所有権確認等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告人らの上告理由第一点、第二点および上告代理人寺井俊正の上告理由第一点について。
 自作農創設特別措置法による売渡を受けた後、本件土地につき耕作の事業を主宰していた者は、右土地
を所有していたAであり、B夫妻は、Aの両親として、Aのため、事実上右土地の耕作に従事していたにすぎ
なく、本件土地はAの自作地であつたものであり、被上告人はAから農地法所定の手続を経て適法に本件土
地の所有権を取得したものである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。
所論は、原判決の適法にした事実認定を非難するか、原判決の認定しない事実または原判決の認定と異な
る事実に基づいて原判決を非難するものであるが、原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
 上告代理人寺井俊正の上告理由第二点について。
 被相続人の事実的支配の中にあつた物は、原則として、当然に、相続人の支配の中に承継されるとみる
べきであるから、その結果として、占有権も承継され、被相続人が死亡して相続が開始するときは、特別の
事情のないかぎり、従前その占有に属したものは、当然相続人の占有に移ると解すべきである。それ故、本
件においては、Bの死亡により相続が開始したときは、特別の事情のないかぎり、従前その占有に属したも
のは当然その相続人の占有に移るものというべく、特別の事情の認められない本件においては、本件土地
に対するBの占有は、その相続人である上告人らの占有に移つたものといわなければならない。これと結論
を同一にする原判決の判断は相当である。原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭44・12・15東京高判 養子縁組無効確認請求控訴事件
東京高等裁判所?? ?? 第九民事部
養子縁組無効確認請求控訴事件
 主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人ら訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決
を求めた。
 当事者双方の主張ならびに証拠の関係は左記を附加するほかは、原判決の事実摘
示のとおりであるから、これをここに引用する。
 証拠(省略)
         理    由
 公文書であるから真正に成立したものと推定される甲第一号証ないし同第三号
証、同第五号証、乙第一号証、同第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したも
のと認める甲第四号証、原審証人A、同B、同C、同Dおよび同Eの各証言を総合
すると、被控訴人が亡Fの実弟で同人を相続すべき地位にあること、控訴人Gが右
Fの内縁の夫訴外Cの孫で、控訴人HはGの夫であること。昭和四三年三月一八日
午後にFと控訴人両名との養子縁組届が館山市長に提出され、即日受理されたこと
およびFは昭和四三年三月一八日午前零時前後頃便所に行くため廊下に出かかつた
とき自室の入口附近で脳溢血で倒れ、同日午前一時頃医師の往診を受けたが、その
ときは既に意識消失昏睡状態等の重態であつて、その後も右のような状態を続け翌
一九日午前九時二〇分死亡したこと。本件の養子縁組届はCの長男Iの妻であるD
が同月一八日午後四時少し前頃館山市役所に戸籍係を訪れ戸籍係Aに代書を依頼
し、持参したFらの印鑑を用いて縁組を作成して戸籍係に提出し受理されたもので
あることがそれぞれ認めうれ他に右認定を左右し得る証拠はない。
 被控訴人は、Fと控訴人らとの間には養子縁組についての話合いないし、Fが縁
組届出の意思を表示したことがない。したがつて本件養子縁組は縁組の意思および
届出の意思を欠く無効のものであると主張する。
 しかしながら、いずれも真正に成立したものと認める甲第二号証、同第五号証、
第九号証、乙第十二号証の一、二、乙第二八号証および同第二九号証の各一、二原
審証人C、同J、同K、原審並びに当審証人Dの各証言および原審での控訴人H本
人尋問の結果を総合すると次の各事実を認めることができる。
 Fは大正一〇年頃千葉県下で茶屋の女中奉公をしていたがCにいわゆる身請をさ
れて同人と内縁の夫婦となり館山市内で同棲するようになつた(Cは養子であつた
関係上、養親の反対でFを入籍することは許されなかつた)。Cは終戦時までは牛
馬商をしていて出稼ぎをしていたが、その後館山市内に落付き、F所有名義の土地
建物でFと共に料理店、旅館等を経営し、Fの死亡当時はアパートを経営するなど
して約五〇年来右両名は事実上の夫婦として生活を共にしてきた。
 Fは昭和三一年九月七日被控訴人の四女Bと養子縁組をし、その届出をしたが、
事情があつて昭和三四年六月二六日協議離縁し、さらに昭和三七年一二月一九日再
度養子縁組をしてその届出をしたところ昭和三九年一月二〇日同女が結婚すること
になつたため再び協議離縁をした。その後Lや控訴人Gの妹Mを養子にしようとし
たがいずれも実現するに至らなかつたところから、老後その他将来のことを慮りC
と相談のうえ同人の孫である控訴人G夫婦を養子にしようと考え昭和四二年一一月
頃JやNを介して控訴人Gの両親や控訴人らに対しその交渉をした。始め控訴人ら
は右Fの申出を断つていたが、再三に亘る申出により結局同年一二月中頃控訴人ら
はFの養子となることを承諾した。そこで、Fはさつそく建物を増築して控訴人夫
婦を住まわせる用意をし、早急に養子縁組の届出をすることにしてGの母であるD
に印鑑を預けてその届出をすることを依託した。しかし、その頃控訴人Gは妊娠中
で翌年三月一八日頃が出産予定(三月五日出産)であつたので、出産してから届出
をするつもりでいたところ、Fが同年三月一五日までに所得税の申告をするため、
判が必要であるというので、同月一日頃Fから預つていた印鑑を一たん返還するこ
となどの事情があつてその届出が遅れていた。そうしている内に前示のように昭和
四三年三月一八日未明Fは脳溢血で倒れ、介抱していたCに対し控訴人らの入籍の
ことを口走るなどしたので、同日午後四時少し前頃前記のようにかねてFの依頼を
受けていたDがさらにFの印鑑を預つて館山市役所に至り戸籍係に依頼して本件養
子縁組届を作成して届出をなしそれが受理された。
 以上の事実が認められ原審証人Bの証言中右認定に反する部分は信用し難く他に
この認定を左右し得る証拠はない。
 右認定の事実によるとFと控訴人両名との間には昭和四二年一二月中既に養子縁
組の合意が成立していたものと認むべきである。
 被控訴人は、Fは上記養子縁組の届出がなされた昭和四三年三月一八日には意識
を消失し、意思能力を有しなかつたのであるから右届出は無効であると主張する。
 <要旨>しかし、養子縁組の届出は他人にその届出人の氏名を代書させ若くは押印
を代行させることによつてするこ</要旨>とも許される(戸籍法施行規則第六二条)
ところであり、Fが控訴人らと養子縁組をする意思を有し且つその届出をDに依託
していたものであることは前記認定のとおりであるから、本件届出が受理された昭
和四三年三月一八日当時Fが意識消失の状態に在つたとしても届出の受理前に死亡
した場合と異りその届出の受理前にFが控訴人らと養子縁組をすることを翻意する
など特段の事情の認めうれない本件においては前記認定の養子縁組届の受理によつ
てFと控訴人らの養子縁組は有効に成立したものと解するを相当とする。
 以上のとおりであるから、昭和四三年三月一八日館山市長宛届出られたFと控訴
人両名との養子縁組の無効確認を求める被控訴人の請求は失当として排斥を免れな
い。
 よつて、右と異る見解のもとに被控訴人の本訴請求を認容した原判決は不当であ
り本件控訴は理由があるから民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条を適用して主
文のとおり判決する。

昭45・3・17東京高判 遺言書の秘匿が相続欠格事由にあたるとされた事例
東京高等裁判所?? ?? 第二民事部
不動産取得登記抹消登記手続請求控訴事件
主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人は控訴人等に対し別紙目録(一)記載の不動産につき東京法務
局北出張所昭和参拾参年五月弐日受付第壱〇七四壱号及同日受付第壱〇七四参号を
以てなされある所有権移転登記、別紙目録(二)の不動産につき同出張所同日受付
第壱〇七四壱号を以てなされある所有権移転登記及び別紙目録(三)の不動産につ
き同出張所同日受付第壱〇七四参号を以てなされある所有権移転登記の各抹消登記
手続をなすべし。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、主文第一ないし第三項と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控
訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次に附加訂正するもののほかは原
判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 (控訴代理人の陳述)
 一 亡Aの二男Bは昭和三十九年十二月十四日死亡し、その妻子である控訴人
C、同D、同E及び同Fが相続により亡Bの権利義務一切を承継した。
 また、亡Aの四男Gも昭和四十三年十一月十日死亡し、その妻子である控訴人
H、同I及び同Jが相続により亡Gの権利義務一切を承継した。
 二 被控訴人は昭和三十年二月十六日付自筆遺言書に基き遺贈を受けてその所有
権を取得したとして別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の
(1)の不動産及び別紙目録(二)記載の不動産につき東京法務局北出張所昭和三
十三年五月二日受付第一〇七四一号を以て、また別紙目録(一)記載の不動産のう
ち区画整理による合筆前の(2)ないし(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の
1ないし10の不動産につき同出張所同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転
の登記手続を経由した。しかして、別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不
動産はその後区画整理により合筆された。
 よつて、被控訴人に対し相続回復請求権に基き控訴の趣旨記載のとおり所有権移
転登記の抹消登記手続をなすべきことを求める。
 三 被控訴人主張の抗弁事実は争う。
 控訴人等が相続権を害された事実を知つたのは、被控訴人が昭和三十八年八月頃
亡Aの遺産の一部を売却して豪勢な邸宅を新築したということであつたので、控訴
人Gが同月七日管轄登記所において調査した結果、被控訴人が亡Aの遺産について
その単独名義による所有権移転登記を経由していることを発見した時であつて、そ
の翌年本訴を提起したのであるから、相続回復請求権について消滅時効は完成して
いない。
 (被控訴代理人の陳述)
 一 控訴代理人主張の事実中、B及びGが死亡し、その主張のように相続により
権利義務の承継がなされたこと及び別紙目録(一)ないし(三)の各不動産につき
その主張のように被控訴人のため所有権移転登記がなされ、別紙目録(一)記載の
(1)ないし(4)の不動産が区画整理により合筆されたことは認める。
 別紙目録(一)記載の(2)ないし(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1
ないし10の不動産についての所有権移転の登記原因が亡A死亡の日である昭和三
十年七年七日遺贈ではなく、昭和三十三年二月十九日遺贈となつているのは農地法
第三条による農地の所有権移転についての都知事の許可のあつた日が所有権移転の
効力を生じた日となつていることによるものである。
 二 仮に、被控訴人が被相続人である亡Aの遺言書を隠匿したものであるとして
も、控訴人等の相続回復の請求権はすでに時効によつて消滅した。
 すなわち、相続回復の請求権は相続権を害された事実を知つた時から五年間これ
を行わないときは、時効によつて消滅するものであるところ、被控訴人は昭和三十
年七月七日亡Aが死亡してより本件遺言に基き遺産全部が自己の所有となつたもの
と信じ、その相続税、固定資産税を納付し地代を収取する等これを管理処分してい
るのであるが、右管処分はとりもなおさず控訴人等の相続権の侵害にほかならない
ものであるから、控訴人等は亡A死亡の日である右昭和三十年七月七日相続権侵害
の事実を知つたものというべきである。仮に控訴人等が右同日被控訴人による相続
権侵害の事実を知なかつたとしても、昭和三十二年九月六日東京家庭裁判所におい
て本件遺言書の検認がなされた際控訴人等は被控訴人が亡Aから全相続財産の遺贈
を受け、右遺贈に基き遺産全部を管理処分するものであること及び被控訴人が右検
認の日まで本件遺言書を隠匿したものであつて、受遺欠格者であるから、遺産全部
について所有権を取得すべき理由がなく、被控訴人が控訴人等の相続権を侵害した
ことを知つたものというべきである。従つて、控訴人等の被控訴人に対する相続回
復の請求権は、亡Aの死亡の日から起算し満五年を経過した昭和三十五年七月七日
の終了とともに若しくは本件遺言書検認の日から起算し満五年を経過した昭和三十
七年九月六日の終了とともに時効によつて消滅したものである。
 (証拠)
 控訴代理人は、甲第十六号証の一ないし三、第十七ないし第十九号証を提出し、
甲第十六号証の一ないし三は昭和四十二年一月十四日被控訴人の居宅を撮影した写
真であると附陳し、当審証人Kの証言及び当審での控訴人L本人尋問の結果を援用
し、乙第三号証の一ないし四の成立を認めると述べた。
 被控訴代理人は、乙第三号証の一ないし四を提出し、当審証人Kの証言及び当審
での被控訴本人尋問の結果を援用し、甲第十六号証の一ないし三が控訴代理人主張
のような写真であること及び同十七ないし第十九号証の成立は認めると述べた。
         理    由
 一 別紙目録(一)ないし(三)記載の各不動産(以下一括して本件各不動産と
いう)がいずれも亡Aの所有であつたこと、亡Aは昭和三十年七月七日死亡し、M
はその妻、被控訴人はその長男、亡Bはその二男、控訴人Nはその長女、Oはその
二女、控訴人Pはその三女、Qはその三男亡Rの子である代襲相続人、亡Gはその
四男、控訴人Lはその五男、Kはその四女であつて、いずれも本件各不動産を含む
亡Aの権利義務一切を承継すべき相続人であること、Bは本訴提起後の昭和三十九
年十二月十四日死亡し、その子である控訴人C、控訴人D及び控訴人E並びに妻で
ある控訴人Fが相続により亡Bの権利義務一切を承継したこと、またGは昭和四十
三年十一月十日死亡し、その子である控訴人H及び控訴人I並びに妻である控訴人
Jが相続により亡Gの権利義務一切を承継したこと、しかるところ、被控訴人は、
遺言執行者S弁護士の手により、昭和三十年二月十六日付自筆遺言証書により亡A
から本件各不動産の遺贈を受けてその所有権を取得したとして別紙目録(一)記載
の不動産のうち区画整理による合筆前の(1)の不動産及び別紙目録(二)記載の
不動産につき東京法務局北出張所昭和三十三年五月二日受付第一〇七四一号を以
て、別紙目録(一)記載の不動産のうち区画整理による合筆前の(2)ないし
(4)の不動産及び別紙目録(三)記載の1ないし10の各不動産につき同出張所
同日受付第一〇七四三号を以て各所有権移転の登記手続を経由したこと、並びにそ
の後別紙目録(一)記載の(1)ないし(4)の不動産が区画整理により合筆され
たことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一ないし第十二号証及び乙第一
号証並びに原審証人Sの証言によると、右第一〇七四一号を以て被控訴人のためな
されある所有権移転登記は亡A死亡の日である昭和三十年七月七日遺贈を登記原因
とするのに対し、第一〇七四三号を以て被控訴人のためなされある所有権移転登記
は昭和三十三年二月十九日遺贈を登記原因とするものであるが、右は目的不動産が
農地であつたため所有権移転につき東京都知事の許可のあつた日である昭和三十三
年二月十九日を以て遺贈の効力発生の日としたがためであることが認められる。
 二 そこで、被控訴人が亡Aの自筆遺言書を隠匿したものであるかどうかについ
て判断する。
 成立に争のない甲第十三号証の一、同号証の一の一ないし八、同号証の二ないし
十、同第十四号証の一の一、二、同号証の二、三、同号証の四の一、二、同号証の
五ないし八、同号証の十二、同第十五号証の一の一ないし三、同号証の二、三、乙
第三号証の一ないし四、本件弁論の全趣旨により成立を認め得る甲第十九号証、亡
B及び控訴人P作成部分の成立に争がなく原審での被控訴本人尋問の結果によりそ
の余の部分の成立を認め得る乙第二号証、原審証人T、U(後記措信しない部分を
除く)並びに原審及び当審証人K(後記措信しない部分を除く)の証言、原審での
控訴人N及び死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴人L及び被控訴人(後
記措信しない部分を除く)各本人尋問の結果をあわせると次のような事実を認める
ことができる。
 1 亡Aは昭和三十年二月十六日分家のV、W立会の上妻Mと連署で、住宅一棟
物置一棟、宅地四百四十六坪、田地五千六百七十二坪からなる全財産を長男である
被控訴人に無償譲渡する旨の「遺言証」を作成し、これを被控訴人に交付したこ
と、当時亡Aの四女Kは未だ神山家に嫁す前で亡A、M及び被控訴人と同居し、右
「遺言証」が作成され、これが被控訴人に交付された事実を知つていたこと
 2 ところで、被控訴人は父Aの死亡後、かねてから被控訴人の居住する近辺で
長男のみが全相続財産を包括的に相続している例のあることを聞き知つていたの
で、昭和三十年十月六日項豊島簡易裁判所附近の司法書士のもとを訪れ、全遺産を
単独で相続するにはどうしたらよいかを相談したところ、司法書士から右遺言書に
よらず被控訴人以外の全相続人に相続放棄をしてもらうのが一番簡便であるとの助
言を受けたこと、しかるにその時はすでに亡Aの死亡から三箇月になんなんとし相
続の承認又は放棄をなすべき期間満了の直前であつたので、被控訴人は右同日右司
法書士の勧告に基き事後に了解を得ることとし、無断で有合わせ印を使用して急拠
亡Gを除き当時存命の亡Aの相続人九名の名義を以て、相続放棄の期間伸長の審判
申立書を作成してもらい、これを東京家庭裁判所に提出したこと、ところで、昭和
三十年十一月十六日頃同家庭裁判所において右申立に基く調査がなされたところ、
右申立は被控訴人が他の相続人には無断でその名においてしたものである上、その
相続分の放棄に同意しているものとみられるのは、僅かに亡Aの妻Mと、亡B、控
訴人P、Q及びKのみであつて、他の相続人、ことに亡Gは相続放棄をする意思は
なく、相続分に応じて亡Aの遺産を分割すべきことを主張しており、かつまた相続
放棄の申述期間の伸長をなすべき理由は全く存しないことが明らかとなつたので、
東京家庭裁判所は被控訴人及び控訴人等相続人に対し右申立を取下げるよう勧告
し、右申立は同日頃取下げられたこと
 3 ところが、被控訴人は亡Aから、「遺言証」なる自筆遺言書の交付を受けて
以来これを保管していたが、東京家庭裁判所において右の調査がなされた際にあつ
ても本件遺言書の存在及びその内容を同じ相続人である控訴人等には一言も洩さ
ず、これを知る末妹Kも他の相続人である控訴人等には被控訴人の保管する遺言書
の存在については全く話をしなかつたこと、しかも、被控訴人は控訴人等なかでも
亡G及び控訴人Lがしばしば亡Aの遺産の幾分かを分けてくれるよう頼んでも言を
左右にしてこれを相手にせず遺産の分割をしようとしなかつたこと
 4 しかるところ、昭和三十二年八月頃被控訴人は王子税務署から亡Aの遺産相
続による相続税の納付の件につき呼出を受け、その相続の実情等について質問され
たので、自己の保管する本件遺言書を持参してこれを示したところ、担当税務署員
から右遺言書によつて遺産を包括承継するには法律専門家に相談するのが最も良策
であろうとの示唆を得たこと、そこで、被控訴人は同区内に居住するS弁護士のも
とに赴いて右遺言書によつて亡Aの遺産全体を承継する方途について相談したとこ
ろ、同弁護士から右遺言書に基き本件各不動産につき被控訴人への所有権移転登記
をする等これを執行するには、まず何よりも家庭裁判所の検認を受ける必要がある
旨を教示され、その指示に従い昭和三十二年八月十二日東京家庭裁判所に対し本件
遺言書による遺言の執行者選任の申立を、翌十三日本件遺言書検認請求の申立を
し、同年九月六日同家庭裁判所においてS弁護士を遺言執行者に選任する旨の審判
がなされるとともに、本件遺言書の検認期日が開かれ、相続人のうちM及び左眼緑
内障等のため出頭できなかつた控訴人Lを除き他の相続人である被控訴人、亡B、
控訴人N、O、控訴人P、控訴人Qの法定代理人X、亡G及びKが出頭し、その尋
問陳述が行われ、検認の手続がなされたこと、ここにおいてはじめて亡B、控訴人
N、O、控訴人P、X及び亡Gは亡Aがその所有してい九不動産を包括して被控訴
人に遺贈する旨の遺言が存在していることを知つたこと、しかして、S弁護士はそ
の後Aの遺産につき財産目録を九通調製したが、被控訴人が他の相続人に交付する
というので、調製した財産目録を九通全部被控訴人に手交したところ、被控訴人は
右財産目録全部を自らの手にとどめ、他の相続人には一通もこれを交付しなかつた
こと
 以上のように認められる(以上認定の事実のうち、昭和三十年十月六日東京家庭
裁判所に対し相続放棄の申述期間伸長の申立書が提出され、同年十一月十七日右申
立が取下げられたこと及び被控訴人が昭和三十二年八月十二日同家庭裁判所に対し
亡Aの本件遺言書につき遺言執行者選任の申立を、翌十三日右遺言書検認請求の申
立をなし、同年九月六日東京家庭裁判所においてS弁護士を遺言執行者に選任する
旨の審判がなされるとともに本件遺言書検認の手続がなされたことは当事者間に争
がない。)右認定に反する原審証人U、原審及び当審証人Kの証言並びに原審及び
当審での被控訴本人尋問の結果は措信することができない。就中、被控訴人が亡A
の葬儀の行われた昭和三十年七月八日頃出棺直前に控訴人等相続人に対し本件遺言
書の存在とその内容を知らしめたとする右各証言及び供述は前掲甲第十三号証の一
の存在、同第十四号証の五及び八の記載に照らしとうてい措信することのできない
ものといわざるを得ない。
 <要旨>右認定の事実によつて考えると、被控訴人は「遺言証」なる本件自筆遺言
書の交付を受けていながら、被相</要旨>続人である亡Aの生前はもとよりその死亡
後も他の相続人である控訴人等ことに亡G及び控訴人Lから異議の出ることを恐
れ、控訴人等に対しては右遺言書の存在を固く秘匿し、亡Aの死亡後相続の承認又
は放棄をなすべき三箇月の期間満了間際の昭和三十年十月六日頃法律知識のある司
法書士に本件遺言書のとおり亡Aの遺産全部を自分独りで承継取得する方法につい
て相談した結果、控訴人等を含む他の相続人全員に相続の放棄をさせるよりほかに
よい方法がないとの結論に達し、時あたかも右相続放棄の申述をなすべき三箇月の
期間の満了間際であつたので、同日取敢えず他の相続人の名義をも冒用して東京家
庭裁判所に右期間伸長の請求をし他の相続人全員に相続放棄をさせようとしたが、
亡G等が放棄を肯んじなかつたため右の方策は不成功に終り、そのまま亡Aの遺産
相続については何等の処置もなされずに打ち過ぎていたところ、亡Aの死亡後二年
余を経過した昭和三十二年八月頃相続税の納付の件で税務署に呼出されたことが契
機となつてS弁護士に相談し、亡Aの遺言の内容の実現を図るため東京家庭裁判所
に対し遺言執行者に同弁護士を選任すること及び本件遺言書の検認を請求し、ここ
にはじめて控訴人等を含む他の相続人に対しても本件遺言書の存在を公表するに至
つたものであつて、被控訴人は亡Aの死亡後直ちに本件遺言書を公表するときは、
控訴人等他の相続人から遺留分減殺請求権の行使を受け、本件遺言書のとおり亡A
の遺産全部を自分独りで取得できなくなることを恐れ、亡Aの遺産全部を何んとか
独りで承継しようとして亡G及び控訴人L等の遺産分割請求を卻け、相続税納付の
必要に迫まられて本件遺言書の検認請求をなすまでこれを公表せず、本件遺言書を
隠匿していたものと判断するのが相当である。
 そうとすると、被控訴人は本件遺言書により亡Aからその全遺産の遺贈を受けた
が、相続に関する被相続人の遺言書を隠匿した者として、民法第八百九十一条第五
号及び第九百六十五条の規定により、亡Aの遺産について受遺者たるの資格のみな
らず相続人たるの資格をも失つたものといわざるを得ない。
 三 しかるに、被控訴人は控訴人等の相続回復請求権はすでに時効により消滅し
た、と主張する。
 相続回復の請求権が相続権を侵害された事実を知つた時から五年間これを行わな
いときは、時効によつて消滅するものであることは民法第八百八十四条の規定の明
定するところである。本件で問題となるのは、時効の起算点である「相続権を侵害
された事実を知つた時」が何時であるかという問題であるが、右にいら「相続権を
侵害された事実を知つた時」とは被相続人の遺産の全部又は一部について、無権利
者により、明示的に又は黙示的に、真正の相続人を排除して相続、遺贈等によつて
権利を取得したとの主張がなされた事実が存在し、真正の相続人がこの事実を知つ
た時をいうものと解するのが相当である。
 ところで、前掲乙第三号証の一ないし四、原審での控訴人N、当審での控訴人L
並びに原審及び当審での被控訴人各本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせる
と、被控訴人は亡Aの生前これと同居し、生計を一にしていたものであり、亡Aの
死亡後も同人と同様にその遺産である本件各不動産について固定資産税の納付及び
地代の収取をする等これを管理していたことを認めることができる。しかし、さき
に認定したように、被控訴人は控訴人等に対し、亡Aの死亡後本件各不動産を被控
訴人に遺贈する旨の前示遺言書の存在を秘匿し、控訴人等も本件遺言書の存在を知
らず、従つて被控訴人が本件各不動産の全部を自己単独の所有に帰したものとして
管理しているものとは考えていなかつたことが明らかであるから、被控訴人が亡A
の死亡後同人と同様その遺産である本件各不動産を管理しており、控訴人等がこの
事実を知つていたからといつてこのことから直ちに控訴人等が被控訴人によつて自
己の相続権を侵害された事実を知つたものということはできない。
 次に、昭和三十二年九月六日東京家庭裁判所において行われた本件遺言書検認の
際、出頭した亡B、控訴人N、O、控訴人P、X(相続人Qの法定代理人親権者)
及び亡Gがはじめて本件遺言書の存在を知るにいたつたものと認められることはさ
きに説示したとおりであり、また、原審での死亡前の控訴人G並びに原審及び当審
での控訴人L各本人尋問の結果からすると、控訴人Lは右検認期日に出頭しなかつ
たが、亡Gの隣家に居住していたことが認められるから、同控訴人もまた同じ頃本
件遺言書の存在を知つたものと推認することができる(原審での控訴人L本人尋問
の結果中には一部これに反する部分があるが、措信できない。)。しかし、原審証
人Tの証言、原審での控訴人N及び死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴
人L各本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨をあわせれば、控訴人等(控訴人C、
D、E及びFについては亡B、控訴人H、I及びJについては亡G)は、被控訴人
から、同人がこれらの者を含む他の相続人を排除して本件各不動産の単独の所有者
となつた旨を告げられたこともなく、また、前示のような内容の本件遺言書がある
だけでは控訴人等の相続権が否定されて本件各不動産が被控訴人の単独所有となつ
たものとは考えず、本件各不動産は被控訴人及び控訴人等を含む相続人全員の共有
となつているものと信じていたこと、しかるに亡G及び控訴人Lは昭和三十八年八
月頃被控訴人が亡Aの遺産である不動産を売却して住居を新築していることを知
り、被控訴人が他の相続人である自分達の同意を得ずして亡Aの遺産を売却できる
ことに疑問を持ち、計理士のYとともに三名同道の上登記所に赴いて亡Aの所有で
あつた本件各不動産の登記簿を調査したところ、前記認定のように本件各不動産に
ついて昭和三十三年五月二日受付で被控訴人のため遺贈を原因とする所有権移転登
記がなされていることを発見し、ここにはじめて控訴人等を含む被控訴人以外の相
続人が本件各不動産について相続から排除されていることを覚知したことが認めら
れる。原審証人Sの証言中には、同証人は本件遺言書検認の際東京家庭裁判所にお
いて遺言執行者として当日出頭していた亡G及び控訴人N等に対し本件各不動産全
部を本件遺言書に基き被控訴人名義に所有権移転登記手続をなす旨述べ亡G等はこ
れを了承したとの部分があるが、前掲甲第一四号証の六ないし八、同号証の十一、
十二、原審証人Tの証言、原審での死亡前の控訴人G並びに原審及び当審での控訴
人L各本人尋問の結果によると、被控訴人を除く他の相続人のうち亡G等四名の相
続人は相続分に応じて遺産の分割をなすべきことを強く主張していたことが明らか
であるから、亡G等が本件各不動産につき被控訴人に対する所有権移転登記手続を
なすことを了承したものとは到底信じ難く、従つて、右Sの証言部分は措信し難
く、他に右認定の事実を覆すに足りる措信すべき証拠は存在しない。
 右認定の事実によれば、法律知識に乏しい控訴人等としては、本件遺言書の検認
を機会に右遺言書の存在を知つたが、被控訴人が遺言書を隠匿したかどにより受遺
者及び相続人たる資格を失つたことに気づかなかつたことはもとより、亡Aの遺産
は被控訴人を含む相続人全員において共同相続をしたものと信じていたことも無理
からぬことというべく、民法第八百八十四条の規定の適用の関係においては、控訴
人等が本件遺言書検認の際遺言書の存在を知つたとの一事から直ちにその相続権を
侵害された事実を知つたものということはできず、控訴人等が右事実を知つた時期
を、昭和三十八年八月頃に行われた亡G及び控訴人Lによる本件各不動産の登記簿
調査の時より以前に遡らせることはできないものと解するのが相当である。
 被控訴人は亡A死亡の時か、又は本件遺言書検認の時に控訴人等が相続権を侵害
されたことを知つたものと主張するが、上に説示したとおり、右主張は採用し難い
ものといわなければならない。
 しかして、控訴人等が被控訴人に対し本件訴訟を提起したのが昭和三十八年八月
から起算して五年以内であることは本件記録に徴し明らかであるから、控訴人等の
相続回復請求権は時効により消滅したものとはいうことができず、被控訴人の消滅
時効の主張は理由がない。
 四 してみると、被控訴人は受遺欠格者として亡Aより遺贈を受けた本件各不動
産はすべてこれを相続人である控訴人等に回復すべきである。従つて、被控訴人は
本件各不動産につき右遺贈を原因としてなされある前記所有権移転登記はその登記
原因を欠く無効なものであるから、控訴人等に対しその抹消登記手続をなすべき義
務があるものといわなければならない。
 さすれば、控訴人等の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これを排斥した
原判決は不当であるから、民事訴訟法第三百八十一条の規定によりこれを取消して
控訴人等の請求を認容することとし、訴訟費用の負担について同法第八十九条及び
第九十六条の規定を適用して主文のとおり判決する。

昭46・1・26最判 遺産分割の遡及効と対抗要件
最高裁判所第三小法廷(広島高等裁判所)
持分更正登記手続承諾請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人鍋谷幾次の上告理由第一点について。
 所論の原判示(A)(B)各不動産についての所有権保存登記が、本件遺産分割前の共有関係の実体に合
致しないため、更正されるべきものであるという点は、上告人らが原審において主張していなかつたところで
あるから、この点を前提にして原判決の判断の違法をいう論旨は、採用することができない。
 同第二点について。
 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係に
おいては、相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異な
らないものであるから、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法一
七七条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、
分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないも
のと解するのが相当である。
 論旨は、遺産分割の効力も相続放棄の効力と同様に解すべきであるという。しかし、民法九〇九条但書の
規定によれば、遺産分割は第三者の権利を害することができないものとされ、その限度で分割の遡及効は
制限されているのであつて、その点において、絶対的に遡及効を生ずる相続放棄とは、同一に論じえないも
のというべきである。遺産分割についての右規定の趣旨は、相続開始後遺産分割前に相続財産に対し第三
者が利害関係を有するにいたることが少なくなく、分割により右第三者の地位を覆えすことは法律関係の安
定を害するため、これを保護するよう要請されるというところにあるものと解され、他方、相続放棄について
は、これが相続開始後短期間にのみ可能であり、かつ、相続財産に対する処分行為があれば放棄は許され
なくなるため、右のような第三者の出現を顧慮する余地は比較的乏しいものと考えられるのであつて、両者
の効力に差別を設けることにも合理的理由が認められるのである。そして、さらに、遺産分割後においても、
分割前の状態における共同相続の外観を信頼して、相続人の持分につき第三者が権利を取得することは、
相続放棄の場合に比して、多く予想されるところであつて、このような第三者をも保護すべき要請は、分割前
に利害関係を有するにいたつた第三者を保護すべき前示の要請と同様に認められるのであり、したがつて、
分割後の第三者に対する関係においては、分割により新たな物権変動を生じたものと同視して、分割につき
対抗要件を必要とするものと解する理由があるといわなくてはならない。
 なお、民法九〇九条但書にいう第三者は、相続開始後遺産分割前に生じた第三者を指し、遺産分割後に
生じた第三者については同法一七七条が適用されるべきことは、右に説示したとおりであり、また、被上告人
らが本件遺産分割の事実を知りながら本件各不動産に対する仮差押をしたものとは認められないとした原
判決の事実認定は、挙示の証拠に照らして肯認することができるところであるから、論旨のうち被上告人らの
悪意を主張して同法九〇九条但書の不適用をいう部分は、すでに前提において失当というべきである。
 したがつて、上告人らは遺産分割による共有持分の取得をもつて被上告人らに対抗することができないと
した原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭46・7・23最判 離婚による慰籍料と財産分与との関係
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
慰藉料請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人吉永嘉吉の上告理由第一点について。
 本件慰藉料請求は、上告人と被上告人との間の婚姻関係の破綻を生ずる原因となつた上告人の虐待等、
被上告人の身体、自由、名誉等を侵害する個別の違法行為を理由とするものではなく、被上告人において、
上告人の有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことを理由としてその損害の賠償を求める
ものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものであるから、個別の違法
行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても、離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右
の損害を知りえたものとすることは相当でなく、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するな
ど、離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損
害の発生を確実に知つたこととなるものと解するのが相当である。原判決(その引用する第一審判決を含
む。以下同じ。)の確定した事実に照らせば、本件訴は上告人と被上告人との間の離婚の判決が確定した後
三年内に提起されたことが明らかであつて、訴提起当時本件慰藉料請求権につき消滅時効は完成していな
いものであり、原判決は、措辞適切を欠く部分もあるが、ひつきよう、右の趣旨により上告人の消滅時効の主
張を排斥したものと解されるのであるから、その判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違
法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離
婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあた
りその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、
相手方の有毒な行為によつて離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、
その性質を必ずしも同じくするものではない。したがつて、すでに財産分与がなされたからといつて、その後
不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。もつとも、裁判所が
財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいつさ
いの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有毒の配偶者であつて、そ
の有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被つた精神的損害を賠償すべき義務を負うと認め
られるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解す
べきである。そして、財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さら
に請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに、その額を定め
るにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、こ
のような財産分与によつて請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重
ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。しかし、財産分与がなされても、それが
損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求
者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一
事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藷料
を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。所論引用の判例(最高裁昭和二六年(オ)四
六九号同三一年二月二一日第三小法廷判決、民集一〇巻二号一二四頁)は、財産分与を請求しうる立場
にあることは離婚による慰藉料の請求を妨げるものではないとの趣旨を示したにすぎないものと解されるか
ら、前記の見解は右判例に牴触しない。
 本件において、原判決の確定したところによれば、さきの上告人と被上告人との間の離婚訴訟の判決は、
上告人の責任のある離婚原因をも参酌したうえ、整理タンス一棹、水屋一個の財産分与を命じ、それによつ
て被上告人が右財産の分与を受けたというのであるけれども、原審は、これをもつて、離婚によつて被上告
人の被つた精神的損害をすべて賠償する趣旨を含むものであるとは認定していないのである。のみならず、
離婚につき上告人を有責と認めるべき原判決確定の事実関係(右離婚の判決中で認定された離婚原因もほ
ぼこれと同様であることが記録上窺われる。)に照らし、右のごとき僅少な財産分与がなされたことは、被上
告人の上告人に対する本訴慰藉料請求を許容することの妨げになるものではないと解すべきであり、また、
右財産分与の事実を考慮しても、原判決の定めた慰藉料の額をとくに不当とすべき理由はなく、本訴請求の
一部を認容した原判決の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採
用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭46・11・16最判 遺贈と登記
最高裁判所第三小法廷(福岡高等裁判所)
遺産確認等請求
主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用および上告費用は被上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人山口定男の上告理由第一点について。
 原審は、訴外Aが昭和二四年一一月六日死亡し、訴外Bが同人の妻として、訴外C、第一審被告D、同Eお
よび上告人がAの子として、第一審被告F、同GがAの子訴外H(昭和二〇年五月八日死亡)の子としてHを
代襲してそれぞれAの遺産を相続したこと、第一審判決別紙目録(一)および(二)記載の物件(ただし、同目録
(二)記載の物件は同目録(一)9記載の物件を含む。以下右(一)および(二)の物件を一括して本件不動産とい
う。)はAの遺産に属すること、したがつて、本件不動産につき、Bは三分の一の、上告人は一五分の二の共
有持分をそれぞれ取得したこと、ところがBは、右共有持分を昭和二八年一〇月一六日Cに贈与したが(以
下、本件贈与という。)登記未了のまま昭和三三年三月一九日上告人に遺贈し(以下、本件遺贈という。)、
遺言執行者にIを指定する旨の遺言公正証書を作成し、昭和三四年三月一二日死亡するに至つたこと、他
方、Cはこれより先昭和三一年三月二七日に死亡し、被上告人JがCの妻として、その余の被上告人らが同
人の子として同人の権利義務をその法定相続分に応じて承継したこと、そして、上告人が、本件不動産につ
き、昭和三五年三月一五日福岡法務局同日受付第六七二五号をもつてAの死亡による相続を原因として共
同相続登記をなすとともに、同法務局同日受付第六七二六号をもつて昭和三四年三月一二日付遺贈を原因
としてBの前記三分の一の共有持分の取得登記手続を経由したこと、以上の事実を適法に確定したもので
ある。
 所論は、要するに、本件贈与と遺贈とは不動産の二重譲渡と同様、その優劣は対抗要件たる登記の有無
によつて決すべきであり、これと異なつた見解に立つ原判決は法令の解釈、適用を誤つたというものである。
 思うに、被相続人が、生前、その所有にかかる不動産を推定相続人の一人に贈与したが、その登記未了
の間に、他の推定相続人に右不動産の特定遺贈をし、その後相続の開始があつた場合、右贈与および遺
贈による物権変動の優劣は、対抗要件たる登記の具備の有無をもつて決すると解するのが相当であり、こ
の場合、受贈者および受遺者が、相続人として、被相続人の権利義務を包括的に承継し、受贈者が遺贈の
履行義務を、受遺者が贈与契約上の履行義務を承継することがあつても、このことは右の理を左右するに
足りない。
 ところが、原判決は、右の場合、受贈者および受遺者は、もはや、他方の所有権取得を否定し、自己の所
有権取得を主張する権利を失つたものと解すべきであるとして、本件遺贈の効力を否定したが、右は法令の
解釈、適用を誤つた違法なものであつて、この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れな
い。
 そして、前記事実関係のもとにおいては、被上告人らは、本件贈与をもつて上告人に対抗することができ
ず、また、原判決が適法に確定した事実関係に徴すれば、上告人が本件贈与の登記の欠缺を主張するのは
権利の濫用である旨の被上告人らの主張が理由のないことは明らかである。それゆえ、上告人は、結局、本
件不動産につき一五分の七の共有持分を取得するに至つたものというべきである。
 したがつて、第一審判決別紙目録(一)記載の物件につき上告人が一五分の七の共有持分を有することを
確認する旨の上告人の本訴請求は、正当として認容すべきであり、また、被上告人らの反訴請求は、失当と
して棄却すべきであつて、これと同趣旨の第一審判決は正当であるから、原判決中上告人の敗訴部分を破
棄し、右部分についての被上告人らの控訴を棄却すべきである。
 同第二点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができる。右認定
の過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認
定を非難するものであつて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。

昭47・2・15最判 遺言無効確認請求
最高裁判所第三小法廷(福岡高等裁判所)
遺言無効確認請求
主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     本件を大分地方裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人安部萬太郎名義の上告理由について。
 本件記録によれば、上告人らは、訴外亡Aが昭和三五年九月三〇日自筆証書によつてなした遺言は無効
であることを確認する旨の判決を求め、その請求原因として述べるところは、右Aは昭和三七年二月二一日
死亡し、上告人らおよび被上告人らが同人を共同相続したものであるところ、Aは昭和三五年九月三〇日第
一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し、昭和三七年四月二日大分家庭裁判所の検認をえたもの
であるが、右遺言は、Aがその全財産を共同相続人の一人にのみ与えようとするものであつて、家族制度、
家督相続制を廃止した憲法二四条に違背し、かつ、その一人が誰であるかは明らかでなく、権利関係が不明
確であるから無効である、というものである。これに対し、被上告人Bを除くその余の被上告人らは、本訴の
確認の利益を争うとともに、本件遺言によりAの全財産の遺贈を受けた者は被上告人Cであることが明らか
であるから、本件遺言は有効である旨抗争したものである。第一審は、遺言は過去の法律行為であるから、
その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして、本訴を却下し、右第一審判決に対して上告人ら
より控訴したが、原審も、右第一審判決とほぼ同様の見解のもとに、本訴を不適法として却下すべき旨判断
し、上告人らの控訴を棄却したものである。
 よつて按ずるに、いわゆる遺言無効確認の訴は、遺言が無効であることを確認するとの請求の趣旨のもと
に提起されるから、形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが、請求の趣旨がかかる形式をとつ
ていても、遺言が有効であるとすれば、それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認
を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは、適法とし
て許容されうるものと解するのが相当である。けだし、右の如き場合には、請求の趣旨を、あえて遺言から
生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するか
について明確さを欠くことはなく、また、判決において、端的に、当事者間の紛争の直接的な対象である基
本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて、確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされる
ことが明らかだからである。
 以上説示したところによれば、前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法というべきである。そ
れゆえ、これと異なる見解のもとに、本訴を不適法として却下した原審ならびに第一審の判断は、民訴法の
解釈を誤るものであり、この点に関する論旨は理由がある。したがつて、原判決は破棄を免れず、第一審判
決を取り消し、さらに本案について審理させるため、本件を第一審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条により、裁判官全員の一致で、主文のとおり判
決する。

昭47・3・17最判 危急時遺言において証人の署名・押印が別な場所でなされた
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
遺言無効確認請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人山中伊佐男の上告理由第一点について。
 所論は、要するに、民法九七六条所定の方式によるいわゆる危急時遺言についても、遺言書に作成日附
の記載のあることがその有効要件となるものとし、原判決が、本件遺言書は昭和四三年一月二九日に完成
したことを認めながら、昭和四三年一月二八日と記載された右遺言書による遺言の効力を認めたのは、同条
の解釈を誤つた違法があるというのである。
 しかし、同条所定の方式により遺言をする場合において、遺言者が口授した遺言の趣旨を記載した書面
に、遺言をした日附ないし証書を作成した日附を記載することが右遺言の方式として要求されていないこと
は、同条の規定に徴して明らかであつて、日附の記載はその有効要件ではないと解すべきである。したがつ
て、右遺言書を作成した証人においてこれに日附を記載した場合でも、右は遺言のなされた日を証明するた
めの資料としての意義を有するにとどまるから、遺言書作成の日として記載された日附に正確性を欠くことが
あつたとしても、直ちに右の方式による遺言を無効ならしめるものではない。そして、遺言のなされた日が何
時であるかは、書面は日附が存在せず、また日附の記載の正確性に争いがあつても、これに立会つた証人
によつて確定することができるから、所論のような事情は右の解釈を左右するものではない。これと同旨の
原審の判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 論旨が、本件遺言の効力を認めて上告人の請求を棄却した原審の判断を違法とし、遺言の無効事由とし
て述べるところは、上告人が第一審以来遺言無効の事由として主張し、原判決の引用する第一審判決の事
実欄五の(一)、(二)および(四)ならびに七に摘示されたものと同一に帰するが、原判決(その引用する第一審
判決を含む。)の挙示する証拠関係に照らせば、原審の事実認定はすべて是認するに足りるから、論旨中事
実認定の非難に帰する部分は理由がない。そして、原審の確定した右事実関係のもとにおいては、論旨と同
旨の主張を排斥し本件遺言の効力を認めた原審の判断(第一審判決八枚目裏八行目から一〇枚目裏一行
目までの説示部分)もまた首肯するに足りるが、なお、本件遺言書の証人の署名捺印は、遺言者の面前でな
されたものではないので、この点について判断する。
 民法九七六条所定の危急時遺言が、疾病その他の事由によつて死亡の危急に迫つた者が遺言をしようと
するときに認められた特別の方式であること、右遺言にあたつて立会証人のする署名捺印は、遺言者により
口授された遺言の趣旨の筆記が正確であることを各証人において証明するためのものであつて、同条の遺
言は右の署名捺印をもつて完成するものであること、右遺言は家庭裁判所の確認を得ることをその有効要
件とするが、その期間は遺言の日から二〇日以内に制限されていることなどにかんがみれば、右の署名捺
印は、遺言者の口授に従つて筆記された遺言の内容を遺言者および他の証人に読み聞かせたのち、その
場でなされるのが本来の趣旨とは解すべきであるが、本件のように、筆記者である証人が、筆記内容を清
書した書面に遺言者Aの現在しない場所で署名捺印をし、他の証人二名の署名を得たうえ、右証人らの立
会いのもとに遺言者に読み聞かせ、その後、遺言者の現在しない場所すなわち遺言執行者に指定された者
の法律事務所で、右証人二名が捺印し、もつて署名捺印を完成した場合であつても、その署名捺印が筆記
内容に変改を加えた疑いを挾む余地のない事情のもとに遺言書作成の一連の過程に従つて遅滞なくなされ
たものと認められるときは、いまだ署名捺印によつて筆記の正確性を担保しようとする同条の趣旨を害する
ものとはいえないから、その署名捺印は同条の方式に則つたものとして遺言の効力を認めるに妨げないと
解すべきである。そして、昭和四三年一月二七日深夜から翌二八日午前零時過ぎまでの間遺言者による口
授がなされ、同二八日午後九時ごろ遺言者に対する読み聞かせをなし、翌二九日午前中に署名捺印を完
成した等原判示の遺言書作成の経緯に照らせば、本件遺言書の作成は同条の要件をみたすものというべ
きである。
 なお、本件遺言書には、遺言者Aに清書された書面を読み聞かせたのち、その記載内容に加筆訂正を加
えた部分があり、右部分についてはAに対し改めて読み聞かせをしなかつたというのであるが、その部分は、
本件遺言書一枚目三行目に、「遺産します」とあるのを「遺言します」と一字訂正し、また二枚目二行目に、
「(但し遺言者は重態の為め署名捺印は出来ない)」と附加記載したというのであつて、前者はたんに明らか
な誤記を訂正したにとどまり、また後者も危急時遺言の方式としては無用の記載を附加したにとどまるから、
このような加筆訂正の結果について改めて遺言者に読み聞かせることがなく、また附加訂正の方式において
欠けるところがあつたとしても、本件遺言の効力に影響を及ぼすものではない。
 してみれば、原判決に所論の違法はないから、論旨はすべて採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭47・5・25最判 死因贈与の取消と民法1022条
最高裁判所第一小法廷(福岡高等裁判所)
贈与契約不存在確認請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人諸冨伴造の上告理由第一点および第二点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、この認定
判断の過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事
実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について。
 所論は、原判決には、死因贈与について遺言の取消に関する民法一〇二二条の準用を認めた法令の解
釈適用の誤りがあり、かつ、本件死因贈与は夫婦間の契約取消権によつて取消しえないものであると解しな
がら、右民法一〇二二条の準用によつてその取消を認めた理由そごの違法がある、というものである。
 おもうに、死因贈与については、遺言の取消に関する民法一〇二二条がその方式に関する部分を除いて
準用されると解すべきである。けだし、死因贈与は贈与者の死亡によつて贈与の効力が生ずるものである
が、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これ
によつて決するのを相当とするからである。そして、贈与者のかかる死因贈与の取消権と贈与が配偶者に
対してなされた場合における贈与者の有する夫婦間の契約取消権とは、別個独立の権利であるから、これら
のうち一つの取消権行使の効力が否定される場合であつても、他の取消権行使の効力を認めうることはいう
までもない。それゆえ、原判決に所論の違法は存しないというべきである。論旨は、独自の見解に立脚して、
原判決を非難するものであつて、採用することができない。
 同第四点について。
 原判決は、被上告人Aを除くその余の被上告人らについては、その申立の限度で請求を認容したものであ
る。それゆえ、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するに足りない。
 同第五点(一)について。
 記録に徴し本件訴訟の経過に鑑みれば、原審が所論の証拠調をしなかつたとしても違法とはいえない。原
判決には所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第五点(二)について。
 所論は違憲をいうが、その実質は、原判決に民訴法違背がある旨の主張にすぎないところ、本件記録に徴
すれば、被上告人らの主張には、訴外Bが上告人に対する本件土地建物の死因贈与の意思表示を撤回し
た旨の主張が含まれている旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はな
く、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭47・7・6最判 家事審判規則一〇六条一項の相続財産管理人の応訴権限
最高裁判所第一小法廷(大阪高等裁判所)
建物収去土地明渡請求(棄却)
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人中村俊輔、同中村宏の上告理由について。
 遺産分割の申立があつた場合に家庭裁判所が家事審判規則一〇六条一項により選任する相続財産管
理人については、民法九一八条のように同法二八条を準用する旨の明文の規定はないが、これが設けられ
た趣旨に鑑みれば、同条を類推適用して、右相続財産管理人は、家庭裁判所の許可なくして同法一〇三条
所定の範囲内の行為をすることができ、相続人に対し相続財産に関し提起された訴については、相続人の
法定代理人の資格において、保存行為として、家庭裁判所の許可なくして応訴することができるものと解す
べきである。したがつて、被相続人亡Aの遺産の分割の申立に伴い大阪家庭裁判所において家事審判規
則一〇六条一項により相続財産管理人に選任されたBが、被上告人からAの相続人である上告人らに対し
遺産に属する建物を収去してその敷地を明け渡すべきことを求めるため提起された本件訴訟について、上
告人らの法定代理人として応訴することを許容した原審の措置は正当である。原判決に所論の違法はなく、
論旨は理由がない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭47・9・1最判 家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の上訴権限
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
建物収去土地明渡請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告人名義の上告理由は別紙のとおりである。
 職権をもつて按ずるに、本件記録によれば、本件訴訟の経緯は次のとおりである。
 第一審は、被上告人の提起した本件訴につき同人勝訴の判決を言い渡し、右判決正本は上告人の訴訟代
理人である弁護士松本光郎に送達されたところ、弁護士Aは上告人の訴訟代理人として本件控訴を提起し、
原審は、同弁護士に訴訟代理権を認めえないとして、右控訴を却下する旨の判決を言い渡し、右判決正本
は公示送達の方法によつて上告人に送達され、その後、上告人名義の上告状および上告理由書が提出さ
れるに至つたものである。
 そして、本件記録に編綴されている東京家庭裁判所の審判書謄本、弁護士A作成の昭和四六年一一月一
二日付上申書ならびにB作成の報告書および委任状によれば、東京家庭裁判所は、昭和四六年六月九日、
上告人の妻Bを上告人の不在者財産管理人として選任する旨の審判をなし、右審判は当時確定したところ、
右Bは、同年一一月一二日弁護士Aを訴訟代理人として選任したこと、ならびに前記上告人名義の上告状お
よび上告理由書は、上告人が作成、提出したものではなく、右Bが権限がないにもかかわらず上告人の代理
人として作成、提出したものであることが認められる。
 訴訟代理人Aは、当審における昭和四七年一月二一日の本件口頭弁論期日において、上告に関し右Bが
した上告人名義の訴訟行為および原審における弁護士Aの訴訟行為のすべてを追認するに至つた。
 ところで、権限を有しない代理人によつてなされた訴訟行為であつても、その後これが権限ある代理人に
よつて追認されたときは、右追認により当該訴訟行為の時に遡つてその効力を生ずることは民訴法五四
条、八七条の規定するところであり、また、その追認の時期につき制限を定めた規定のないこと、および同
法三九五条二項の規定の趣旨に鑑みれば、権限のある代理人は、上告審において、上告審および原審に
おける無権代理人の訴訟行為を追認することができるものと解するのを相当とする(大審院昭和一五年
(オ)第八三四号同一六年五月三日判決、判決全集八輯六一七頁参照)。そして、家庭裁判所の選任した不
在者財産管理人が民法一〇三条所定の権限内の行為をするには、その行為が訴または上訴の提起という
訴訟行為であつても、同法二八条所定の家庭裁判所の許可を要しないものと解すべきところ、被上告人の
提起した本訴建物収去土為であつても、同法二八条所定の家庭裁判所の許可を要しないものと解すべきと
ころ、被上告人の提起した本訴建物収去土地明渡等の請求を認容する第一審判決に対し控訴を提起し、そ
の控訴を不適法として却下した第二審判決に対し上告を提起することおよび右訴訟行為をさせるため訴訟
代理人を選任することは、いずれも上告人の財産の現状を維持する行為として同法一〇三条一号にいう保
存行為に該当するものであるから、本件不在者財産管理人および同人の選任した訴訟代理人は、同法二
八条所定の家庭裁判所の許可を得ることなしに、本件第一、二審判決に対する上訴を提起する権限を有す
るものというべきである。
 したがつて、前示の本件訴訟の経緯によるときは、上告人の不在者財産管理人Bが選任した訴訟代理人A
が、右Bの権限なくしてした上告の提起を追認したことにより、本件上告は適法になり、また、原審における
右Aの控訴の提起が権限なくしてされたとしても、右訴訟代理人が当審においてこれを追認したことにより、
右控訴も適法になつたのであるから、右Aに訴訟代理権のないことを理由として本件控訴を却下した原判決
は、論旨の当否を判断するまでもなく、違法に帰したものというべきである。
 原判決は破棄を免れず、原審において更に審理を尽くさせるのを相当とするから、本件を東京高等裁判所
に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭47・11・9最判 相続財産管理人の相続財産に関する訴訟についての当事者適格について
第1小法廷判決(仙台高等裁判所昭和47年3月29日判決)
貸金請求上告事件(上告棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人中林裕一の上告理由一について。
 民法九三六条一項の規定により相続財産管理人が選任された場合には、同人が相続財産全部について
管理・清算をすることができるのであるが、この場合でも、相続人が相続財産の帰属主体であることは単純
承認の場合と異なることはなく、また、同条二項は、相続財産管理人の管理・清算が「相続人のために、これ
に代わつて」行なわれる旨を規定しているのであるから、前記の相続財産管理人は、相続人全員の法定代理
人として、相続財産につき管理・清算を行うものというべきである。したがつて、相続人は、同条一項の相続財
産管理人が選任された場合であつても、相続財産に関する訴訟につき、当事者適格を有し、前記の相続財産
管理人は、その法定代理人として訴訟に関与するものであつて、相続財産管理人の資格では当事者適格を
有しないと解するのを相当とする。論旨引用の当庁昭和四三年(オ)第四三五号同年一二月一七日第三小法
廷判決(裁判集民事九三号六五九頁)も右と同旨の見解を前提とするものと解せられる。それ故、上告人が
相続財産管理人たる資格において提起した本件訴につき、同人に当事者適格がないとした原審の判断は、
正当として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同二について。
 本件記録によれば、上告人は亡Aの相続財産管理人であるとの資格のみをもつて、当事者として、訴を提起
したことが明らかであり、本件訴訟の経緯に鑑みれば、原審に所論の釈明義務があるとすることはできない。
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
昭48・6・29最判 生命保険金請求権(交通事故傷害保険)の相続性
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所 )
売掛代金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人山田盛の上告理由について。
 原審の適法に確定した事実によると、千代田火災海上保険株式会社交通事故傷害保険普通保険約款第
四条は、「当会社は、被保険者が第一条の傷害を被り、その直接の結果として、被害の日から一八〇日以内
に死亡したときは、保険金額の全額を保険金受取人、もしくは保険金受取人の指定のないときは被保険者
の相続人に支払います。」と規定するところ、本件保険契約は右約款に基づき、これをその契約内容として締
結されたというのである。
 ところで、右「保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う。」旨の条項は、被
保険者が死亡した場合において、保険金請求権の帰属を明確にするため、被保険者の相続人に保険金を
取得させることを定めたものと解するのが相当であり、保険金受取人を相続人と指定したのとなんら異なる
ところがないというべきである。
 そして、保険金受取人を相続人と指定した保険契約は、特段の事情のないかぎり、被保険者死亡の時に
おけるその相続人たるべき者のための契約であり、その保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に
相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産から離脱したものと解すべきであることは、当裁判所
の判例(昭和三六年(オ)第一〇二八号、同四〇年二月二日第三小法廷判決・民集第一九巻第一号一頁)と
するところであるから、本件保険契約についても、保険金請求権は、被保険者の相続人である被上告人らの
固有財産に属するものといわなければならない。なお、本件保険契約が、団体保険として締結されたもので
あつても、その法理に変りはない。
 してみると、右と同旨の原審の判断は正当として首肯することができ、原判決に所論の違法はなく論旨は
採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭48・7・3最判 本人が無権代理人を相続した場合と無権代理行為の効力
最高裁判所第三小法廷(広島高等裁判所)
貸金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人君野駿平の上告理由第一点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠
に照らし首肯するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 民法一一七条による無権代理人の債務が相続の対象となることは明らかであつて、このことは本人が無
権代理人を相続した場合でも異ならないから、本人は相続により無権代理人の右債務を承継するのであ
り、本人として無権代理行為の追認を拒絶できる地位にあつたからといつて右債務を免れることはできない
と解すべきである。まして、無権代理人を相続した共同相続人のうちの一人が本人であるからといつて、本
人以外の相続人が無権代理人の債務を相続しないとか債務を免れうると解すべき理由はない。
 してみると、これと同旨の原審の判断は正当として首肯することができる(原判示のいう損害賠償債務、責
任は履行債務、責任を含む趣旨であることが明らかである。)。
 なお、所論引用の判例(最高裁昭和三五年(オ)第三号同三七年四月二〇日第二小法廷判決・民集一六
巻四号九五五頁)は、本人が無権代理人を相続した場合、無権代理行為が当然に有効となるものではない
旨判示したにとどまり、無権代理人が民法一一七条により相手方に債務を負担している場合における無権
代理人を相続した本人の責任に触れるものではないから、前記判示は右判例と抵触するものではない。
 論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。

昭49・4・26最判 特定債権の遺贈と対抗要件
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
貸金請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人磯田亮一郎、同西田嘉晴、同模泰吉、上告復代理人堀正視の上告理由について。
 特定債権が遺贈された場合、債務者に対する通知又は債務者の承諾がなければ、受遺者は、遺贈による
債権の取得を債務者に対抗することができない。そして、右債務者に対する通知は、遺贈義務者からすべき
であつて、受遺者が遺贈により債権を取得したことを債務者に通知したのみでは、受遺者はこれを債務者に
対抗することができないというべきである。原審の確定したところによれば、本件貸金債権の遺贈について
は、受遺者である上告人から債務者である被上告人らに対し本件訴状送達により通知されたというのみで、
適法な債務者に対する通知又は債務者の承諾がなかつたというのであるから、上告人は遺贈によつて取得
した本件貸金債権をもつて被上告人らに対抗することができないとした原審の判断は、正当である。原判決
に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

昭49・7・3名古屋高判 認知の訴えの出訴期間経過後の父子関係存在確認と戸籍訂正の諾否
名古屋高等裁判所?? ?? 民事第三部
審判に対する即時抗告事件
 主    文
     原審判を取り消す。
     本件不服の申立を却下する。
     手続費用は第一、二審とも相手方の負担とする。
         理    由
 抗告人指定代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙抗
告理由書記載のとおりである。
 一 現行民法上嫡出でない子とその父との関係は、父が任意にその子を認知し、
または、子、その直系卑属などから父に対して提起された認知の訴に対し勝訴判決
がなされることによつてのみ創設され、両者の間にいかに自然的・生理的父子関係
があつても、これによつてただちに法律上の父子関係が発生するものではない。こ
の理は、内縁の夫婦から生れた子についても、これが嫡出でない子である以上ひと
しく妥当するのであつて、ただ内縁関係が婚姻に準ずる実体を有するものであるこ
とから、内縁中に懐胎され父母婚姻後に出生した子に対しては嫡出子たる身分が与
えられ、内縁の妻が内縁関係成立の日から二〇〇日後、解消の日から三〇〇日以内
に分娩した子の認知の裁判においては、民法七七二条を類推して内縁の夫の子と推
定される等の保護が与えられるにとどまり、内縁関係から生れた子はその父母が婚
姻した場合でさえ父の認知がない限り準正されないことからみても明らかなよう
に、自然的・生理的の父子関係が確実であつても、父の認知なくしては法律上父子
関係の成立は認められないのである。そして、民法七八七条は、父の死亡後は、認
知の訴を父死亡の日から三年間に限つて提起することを認めているから(ただし、
認知の訴の特例に関する法律によるべき場合は別論であるが、本件は右法律による
べき場合にあたらないこと明らかである。)、右期間の経過後は、嫡出でない子と
その父との間に法律上父子関係を発生させる途は現行法上存在しないのである。
 <要旨>本件仙台地方裁判所の親子関係存在確認請求事件の判決は、相手方がその
父であると主張するAが昭</要旨>和二〇年一月二七日死亡した後民法七八七条に定
める三年の期間をはるかに経過した昭和四七年に提起された相手方の訴を認容し、
その主文において相手方が右Aであることを確認したものである。したがつて、右
判決は、その事件名や主文の文言からみても、また、同裁判所が相手方の主張自体
から民法七八七条の出訴期間経過後の訴であることが明白であるのにこれを却下し
なかつたことからみても、民法七八七条に定める認知の訴に対する判決ではなく、
右判決が確定しても認知の効力が生じないことは明らかである。そして、このこと
は右判決の主文の内容が相手方とAとの間の父子関係を確認していることによつて
は何ら妨げられるものではない。
 このように見てくると、右親子関係存在確認事件の判決は、いわば自然的・生理
的父子関係の存在を確認したものにすぎず、認知の裁判に代わり得る効力を有しな
いものというべきである。これに反する見解は民法七八七条を全く無視することと
なり、到底採用することができない。
 二 ところで、相手方は、その父の認知がなかつたため、戸籍父母欄中父欄が空
白であつたところ、昭和四八年六月二一日抗告人区長に対し、前記仙台地方裁判所
の確定判決を添付のうえ、右父欄に前記Aを父として記載することを求める旨の戸
籍訂正の申請をなしたのである。右申請は戸籍法一一六条に基くものと認められ
る。
 <要旨>しかしながら、戸籍の訂正は、戸籍の記載が当初から不適法または真実に
反し、あるいはその記載に遺漏</要旨>がある場合になされるものであるところ、相
手方の戸籍には何ら訂正せらるべき箇所は存在しない。けだし、相手方の戸籍中父
欄の記載が空白になつていることは、これまで相手方の父の認知または認知の裁判
に基く届出がなかつたからに外ならず、前述したように認知がなければ嫡出でない
子とその父との父子関係は生じないから、右記載の空白はまさに法律上正しい状態
を反映しているものだからである。
 また、身分関係が一定の事実または行為によって変更消滅する場合には、戸籍訂
正の手続によるべきではなく、戸籍法第四章所定のそれぞれの届出によつて戸籍の
記載をなすべきであるから、嫡出でない子とその父との間に父子関係が創設された
ときは、前記戸籍法第四章のうち第三節に収める認知届出の各規定に従い届出をな
し、これにより父欄の記載をなすべきものであり、戸籍訂正の方法によることは許
されないのである。相手方は最高裁判所昭和四五年七月一五日言渡大法廷判決は、
相手方のなした前記のごとき戸籍訂正の申請により嫡出でない子の戸籍の父欄への
記入をしでも差支えないとの取扱を認める趣旨であると主張するが、当裁判所は該
判決はその事案において本件と異なり、また、相手方主張のような趣旨を含んでい
るものとは考えないので、右主張は採用しない。
 三 しかして、戸籍事務管掌者たる抗告人区長の権限は、戸籍の届出ないし訂正
の申請の受理につき、その審査の方法が届書及びその添付書類並に戸籍簿等に限定
されることはいうまでもないところであるが、その審査の対象については、届書に
おける記載事項の具備、法令に要求された証明書の添付等形式的要件の審査をなし
うるにとどまらず、民法七四〇条、七六五条、八〇〇条、八二二条等の各規定から
も窺知しうるがごとく、ある程度の実質的要件の存否の審査もこれをなしうるので
あり、ことに、届出事項が虚偽なることまたは実体法規に牴触しためにその効力を
生ぜざることの明らかな場合には戸籍の記載を拒否することができるものと解され
るのである。本件についてこれを見るに、相手方は、実体法上認知の裁判としての
効力を有せざる前記仙台地方裁判所の判決をえたうえ、戸籍上何ら遺漏なきにかか
わらず、認知届以外に途なき父欄の記入を戸籍訂正手続により達成しようとして前
記申請をなしているに外ならないから、この申請を受理するにおいては実体法規に
牴触し無効なることの明白な記載を戸籍上に現出することになるといわざるをえな
い。しかも、相手方の右戸籍訂正申請の許すべからざることは、相手方の提出した
戸籍訂正申請書、その添付書類並びに戸籍簿により明白な場合であるといわなけれ
ばならない。してみれば、抗告人区長としては、相手方の本件戸籍訂正申請を受理
することができないものである。
 四 以上説示のとおりであつて、抗告人区長が本件戸籍訂正申請を受理しない処
分をしたことは相当であり、本件抗告は理由がある。よって、原審判は不当である
からこれを取り消し、相手方の本件不服申立を却下することとし、民訴法四一四
条、三八六条、八九条により主文のとおり決定する。

昭49・9・20最判 相続放棄と詐害行為取消権
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所)
詐害行為取消、株金等支払請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告人の上告理由前文について。
 原判文によれば、原審が所論の点につき適法に事実を認定判示していることが明らかであるから、原判決
に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審で主張しない事実を交えて、原審が適法にした事実の認定
を非難するにすぎず、採用することができない。
 同第一点及び第二点について。
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、右判断の過程に所論の違法はない。所
論中違憲をいう部分は、具体的に憲法のどの条項に違反するかを主張するものではないから、失当である。
論旨は、採用することができない。
 同第三点について。
 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、所論の点に関する原審の判断は正当として是認する
ことができ、その過程に所論の違法は認められない。所論中違憲をいう部分は、原判決に右違法のあること
を前提とするものであるから、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。
 同第四点及び第五点(2)について。
 相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解す
るのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させ
る行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続
の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少
させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相
続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし
相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結
果となり、その不当であることは明らかである。
 そうすると、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認めら
れない。論旨は、採用することができない。
 同第五点(1)及び第六点について。
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。
論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭49・11・27仙台高判 民法1041条1項(価額弁償)による目的物返還義務免脱の要件
仙台高等裁判所?? ?? 第二民事部
土地所有権移転登記抹消登記手続請求控訴及び同附帯控訴事件
主    文
     附帯控訴に基づき、原判決を取り消す。
     原判決添付別紙第一目録記載1の土地及び同第二、第三目録記載の各土
地につき、被控訴人(附帯控訴人)Aが八一七一万四〇〇〇分の一三六一万九〇〇
〇の、被控訴人(附帯控訴人)Bが八一七一万四〇〇〇分の四〇七万二五四五の、
被控訴人(附帯控訴人)Cが八一七一万四〇〇〇分の三一三万〇三九三の、被控訴
人(附帯控訴人)Dが八一七一万四〇〇〇分の二九三万三五九九の各持分を有する
ことを確認する。
     控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)らに対し、前記各土
地につき被控訴人(附帯控訴人)らが前記各該当持分を有する旨の変更登記手続を
せよ。
     被控訴人(附帯控訴人)らのその余の主位的請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
         事    実
 控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)代理人は「原判決中控訴人敗
訴部分を取り消す。被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という。)の各請求
を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求
め、被控訴人らの附帯控訴につき「本件各附帯控訴及び被控訴人A、同Bの当審に
おける新たな各請求をいずれも棄却する。附帯控訴費用は被控訴人らの負担とす
る。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控
訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴における主位的申立として「原判
決中被控訴人らの主位的請求を棄却した部分を取り消す。被控訴人Aは、原判決添
付別紙第一目録記載の土地につき六分の四の持分を、第二ないし第四目録記載の各
土地につきいずれも六分の一の持分を、被控訴人B、同C、同Dはそれぞれ同第一
ないし第四目録記載の各土地につきいずれも一八分の一の持分を各有することを確
認する。控訴人は被控訴人らに対し右各土地につき右各該当持分を有する旨の変更
登記手続をせよ。附帯控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を、予備的申立
として「原判決中被控訴人A、同C、同Dの各予備的請求の敗訴部分を取り消す。
控訴人は、被控訴人Aに対し七二九八万八六六六円(当審において三三万五四〇二
円請求拡張)及びこれに対する昭和四一年四月六日から支払済まで年五分の割合に
よる金員を、被控訴人Bに対し三八七万四八〇〇円(当審において請求拡張)及び
これに対する右同日から支払済まで年五分の割合による金員を、被控訴人C、同D
に対し各二五八万四三八九円(当審において各二六二万五七〇〇円請求減縮)及び
これに対する右同日から支払済まで年五分の割合による金員を各支払え。附帯控訴
費用は控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。
 当事者双方の主張及び証拠関係は、左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであ
るので、これをここに引用する(但し、原判決四枚目表一一行目から同裏三行目ま
でを削除し、同九枚目表八行目に「原告らの遺留分減殺請求に対して」とあるを
「被控訴人B、同C、同Dの遺留分減殺請求に対して」と改め、原判決添付別紙第
六目録中、番号4欄に「一八坪」とあるを「一八歩」と、番号8欄に「三二七〇
番」とあるを「k番」と、同番号15欄に「第七の7」とあるを「第三の7」と改
める。)。
 被控訴人ら代理人の主張
 一、 原判決添付別紙第一目録記載の各土地につき、被控訴人Aが持分二分の一
を有しないとしても、同士地は亡Eの遺産であるから、被控訴人Aは遺留分減殺に
より六分の一の持分を取得した。
 二、 原判決添付別紙第六目録記載の不動産はいずれも亡Eの遺産であり、その
価額は同目録記載のとおりである(但し、同目録記載7(前記第一目録記載1)の
不動産については前記一のとおりである。)。被控訴人Bは同目録記載21の建物
を、被控訴人C、同Dは同22の土地を亡Eから遺贈された(原判決五枚目裏五行
目から同六枚目表一行目までの主張を以上のとおり改める。)。
 三、 民法第一〇四一条による価額弁償は、遺贈又は贈与の目的の価額弁償申出
時の価額によるべきである。その理由は次のとおりである。
 1 遺留分本来の制度目的とは、財産処分自由の原則と法定相続制度の調和を図
るために制定せられたもの、換言すれば被相続人の財産処分の自由から法定相続人
たる配偶者及び直系尊卑属の有する相続利益の一定限度を守るために制定せられた
ものとすること通説である。
 然らば此のことから直ちに相続開始時の価額によるべきものとの結論は出て来
ず、むしろ法定相続人の相続利益を守るという趣旨を失わせないためには、少くと
も遺留分権利者に損失を帰せしめないようにすべきであり、これには相続開始時と
現在との間に遺産たる不動産の価額が騰貴した場合においては、現在の価額によつ
て弁償すべき金額を算定することによつて始めて遺留分権利者の相続利益が正当に
守られることになるのであり、且つそうすることによつて受遣者に何らの不利益に
なることもない。蓋し価額の騰貴した不動産をそのまま受益者は保有し得るからで
ある。
 斯くて始めて受遺者、遺留分権利者の双方に公平が期せられるのである。
 大審院大正七年一二月二五日判決(民録二四輯二四二九頁)は、遺留分権利者が
贈与の減殺を請求した場合において、贈与が遺留分を保全するに必要な限度を超え
たか否かを判定するには相続開始当時における被相続人の有した財産のその当時に
おける価額及び先に被相続人が贈与した財産の相続開始の当時における価額を斟酌
して定めることを要する旨判示したもので、もとより当然のことであり、受遺者受
贈者が遺留分権利者に対して返還の義務を免かれるために価額を弁償するに際し
て、何時の時点における価額を以て弁償する金額とするかについては何らの判断も
示していないのであつて、全く性質の異なる事案についてなされた判決である。
 2 民法第一〇四一条は、いつの時点の価額を弁償すべきかについては何ら規定
していない。
 故にいつの時点における価額を弁償すべきかは、一に解釈によつて決せられるこ
と当然であり、而して法の解釈はその適用を受ける者に対していやしくも偏頗な結
果になるようなことは避けねばならないこと、いうまでもないと信ずる。法の根本
理念である公平に反するからである。
 不動産価額の高騰している場合に右民法第一〇四一条の解釈に当り相続開始時説
をとれば、如何に不公平になるかの簡単な例を挙げれば、子が遺留分権利者で被相
続人の財産が一〇〇平方メートルの土地だけで、これを他人に贈与或は遺贈された
ので減殺請求をしたところ受贈者が価額弁償の申出をした場合において、右土地が
相続開始時には一〇〇万円であつたが価額弁償の申出をした時は二〇〇万円に騰貴
していたとき、開始時説によれば五〇万円だけを遺留分権利者に交付すればよく、
受贈者は二〇〇万円から五〇万円を控除した金一五〇万円を取得することになり、
その割合は遺留分権利者一に対し受贈者三の割合となること明らかで、このような
解釈は民法第一〇二八条に違反し遺留分権利者の有する遺留分を侵害する結果とな
ること明らかである。此のような不当な結果を避けるためには、価額弁償の申出を
した時の遺産の価額により一〇〇万円を遺留権利者に弁償すれば、双方にとつて公
平となり民法第一〇二八条の趣旨も生かされるので、妥当な結果となる。
 3 近時遺産分割についての民法第九〇六条の解釈につき、遺産に属する物又は
権利の価額を相続開始時より評価すべきか分割時により評価すべきかについて、民
法第九〇九条、九〇三条、九〇四条の条文を根拠として相続開始時により、評価す
べしとする学説判例が次第に影をひそめ、分割時により評価すべしとする学説判例
が有力となるに至つたのは、後説が現実の社会に適合し且つ公平の理念に合致する
からに外ならない。
 遺産分割と遺留分減殺とは、共に遺産を相続人に分与するための制度であり、制
度の根本趣旨を共通にするのであるから、一は分割時により評価し、他を相続開始
時により評価するのは、一国の法制としては矛盾という外ない。民法第一〇四一条
は決して受遺者に不当に利益を与える趣旨の規定とは解されない。
 価額を弁償するか現物を返還するかの選択権を与えられている受遺者は、その何
れかを選ぶ自由を有するとしても、それはあくまでその時点(弁償申出時)におけ
る価額であつて、不当に低額な相続開始時における価額を弁償することにより受遺
者をして価額高騰による利益を独占せしめる趣旨とは到底解されない。
 4 以上の通り民法第一〇四一条の正当な解釈に基づき、価格弁償時に最も近接
した時期である昭和四七年四月一日現在における価額に従い被控訴人等の弁償を受
くベき額を算出すると、次のとおりとなる(原判決六枚目表二行目から同裏三行目
までの主張を以下のとおりに改める。)。
 (一) 被控訴人A
 原判決第六目録7の価額一億二、四四八万三、〇〇〇円の持分六分の四に当る
八、二九八万八、六六六円とそれ以外の遺留分算定の基礎となる財産の価額二、八
三二万一、四〇〇円の六分の一に当る四七二万〇、二三三円との合計八、七七〇万
八、八九九円から原判決の認容した一、四七二万〇、二三三円を控除した七、二九
八万八、六六六円。
 (二) 被控訴人B
 遺留分算定の基礎となる財産の価額一億五、二八〇万四、四〇〇円の一八分の一
に当る八四八万九、一三三円から遺贈を受けた右第六目録記載21の物件の価額一
一一万二、〇〇〇円をさし引いた金七三七万七、一三三円から原判決の認容した金
三五〇万二、三三三円を控除した三八七万四、八〇〇円。
 (三) 被控訴人C
 遺留分算定の基礎となる財産の価額一億五、二八〇万四、四〇〇円の一八分の一
に当る八四八万九、一三三円から遺贈を受けた右第六目録記載22の物件の価額四
八七万五、〇〇〇円の二分の一である二四三万七、五〇〇円及び贈与を受けた三〇
万円をさし引いた五七五万一、六三三円から原判決の認容した三一六万七、二四四
円を控除した二五八万四、三八九円。
 (四) 被控訴人D
 遺留分算定の基礎となる財産の価額一億五、二八〇万四、四〇〇円の一八分の一
に当る八四八万九、一三三円から遺贈を受けた右第六目録22の物件の価額四八七
万五、〇〇〇円の二分の一である二四三万七、五〇〇円及び贈与を受けた五〇万円
をさし引いた五五五万一、六三三円から原判決の認容した金二九六万七、二四四円
を控除した二五八万四、三八九円。
 5 よつて、被控訴人らは右各該当金員及びこれに対する被相続人E死亡の日で
ある昭和四一年四月六日から各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求
める。
 控訴代理人の主張
 一、 亡Eの遺産及びその価額は原判決添付別紙第六目録記載のとおりである。
亡Eには遺産債務はなく、動産は無価値のものである。
 二、 判決書七枚目表六行目の「第三の12」とある次に「3」を加える。
 三、 被控訴人主張三は争う。
 四、 控訴人は、亡Eの遣言の趣旨に従い、家にとどまり農業を承継し、妻F、
長男Gとともに遺贈を受けた農地を耕作しているので、価額弁償の申出をしたが、
控訴人には受遺物件以外に格別の財産がないのに対し、被控訴人B、同C、同Dは
いずれも給料を得て生活している。ところで、分割の基準を定めた民法第九〇六条
は遺留分減殺請求の場合にも適用されるべきものである。よつて、被控訴人B、同
C、同Dに対しては一〇年ないし一五年の年賦にて支払うのが相当である。
 なお、被控訴人Aに遺留分減殺請求権があるとすれば、その請求額を半減し、年
賦で支払うのが相当である。
 証拠関係(省略)
         理    由
 一、 亡Eの相続関係については、原判決の理由説示第一の一と同一であるか
ら、ここにこれを引用する。
 二、 被控訴人Aは原判決添付別紙第一目録記載の各土地(以下原判決添付別紙
目録記載の土地については第一の1の土地の如く目録と土地の各番号で表示す
る。)につき持分二分の一を有する旨主張するが、成立に争いのない甲第三号証に
よると第一の1の土地につき昭和七年七月一三日付売買を原因としてHからEに所
有権移転登記がなされていることが認められるので、反証のない限り第一の1の土
地はEの特有財産と推定すべきである。
 被控訴人AはEと結婚後農業に精進して得た収入により第一の1の土地を買い受
けたものであるから、Eとの共有である旨主張し、成立に争いのない甲第三六号証
の二、当審における被控訴人A本人尋問の結果によれば、被控訴人AはEと結婚以
来Eに協力して農業に従事し、第一の1の土地購入につき協力寄与しているものと
推認しうるが、かかる場合、民法は、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求
権等の権利を規定し、これらの権利の行使により、結局において夫婦間に実質上の
不平等が生じないよう配慮しているから、右協力寄与の事実をもつて右推定を覆す
ことができず、他に右推定を左右するに足る証拠はない。
 成立に争いのない甲第四号証によると、第一の2の土地については昭和二七年九
月一七日控訴人所有名義に保存登記がなされていることが認められるので、第一の
2の土地は控訴人の所有に属すると推定すべきであり、右推定を覆すに足る証拠は
ない。
 そうすると、第一の1、2の土地につき持分二分の一を有することを前提とする
被控訴人Aの請求部分は失当である。
 三、 次に、被控訴人らの遺留分減殺請求に基づく主位的請求の当否につき以下
に判断する。
 1 前記のごとく、Eが昭和四一年四月六日死亡し、被控訴人ら主張の七名がそ
の主張のように相続人であり、また第一の1、第二、第三の各土地(以下原判決添
付別紙第六目録記載の番号により表示する。但し第三の3の上地はそのまま。)、
第六の1、16ないし22の各不動産が亡Eの遺産であること、第六の1ないし2
2の各不動産の価額が原判決添付別紙第六目録記載のとおりであること、Eは控訴
人に対し第六の1ないし18、第三の3の各不動産を、被控訴人Bに対し第六の2
1の建物を、被控訴人C、同Dに対し第六の22の土地をそれぞれ遺贈したこと、
Eから被控訴人Cが三〇万円(控訴人は四〇万円と主張するが三〇万円を超える部
分を認めるに足る証拠はない。)、同Dが五〇万円の各贈与を受けたこと、以上の
各事実はいずれも当事者間に争いがなく、亡Eに遺産債務がなく、遺産である動産
が無価値であることは、被控訴人らが明らかに争わないので自白したものとみな
す。
 成立に争いのない乙第三号証によれば、亡Eは生前養子のF(控訴人の妻)と孫
のGに対し第六の19の土地の持分二分の一ずつ、Gに対し第六の20の土地をそ
れぞれ遺贈したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
 被控訴人ら代理人は第一の2、第四の1ないし12の各土地も亡Eの遺産である
旨主張するが、これを認めるに足る証拠はないので、右の主張は採用できない。
 2 そこで、前記各事実に基づき被控訴人らの遺留分を計算すると次のとおりと
なる。
 (一) 遺留分算定の基礎となる財産
 (1) 亡Eが相続開始時において有した財産の価額(以下価額は相続開始時の
ものである。)
 a 第六の1ないし22の不動産の価額合計八七五二万一四〇〇円
 b 第三の3の土地の価額
 原審鑑定人Iの鑑定の結果によると、第三の3の土地の現況は原野であり、回じ
く現況原野である第六の10、13の土地と第六の11、12の土地の間に存在す
ることが認められ、右認定に反する証拠はない。
 そこで、第六の10ないし13と同一基準により第三の3の土地の価額を算出す
ると、二五万四六〇〇円C1となる。
 c 右a、bの合計額八七七七万六〇〇〇円
 (2) 亡Eが生前贈与した金員計八〇万円
 内訳
 被控訴人C三〇万円、同D五〇万円
 (3) 遺留分算定の基礎となる財産の価額
 前記(1)のcと(2)の合計八八五七万六〇〇〇円
 (二) 各被控訴人の遺留分
 (1) 被控訴人A 一四七六万二六六七円(円未満は四捨五入した。以下同
じ)
<記載内容は末尾2添付>
 (2) 被控訴人 B  四一四万八八八九円
<記載内容は末尾3添付>
 (3) 被控訴人 C 三一八万一三八九円
<記載内容は末尾4添付>
 (4) 被控訴人 D 二九八万一三八九円
<記載内容は末尾5添付>
 3 控訴人に遺贈された不動産の価額
 (一)第六の1ないし18の不動産の価額計八一四五万九四〇〇円
 (二) 第三の3の土地の価額二五万四六〇〇円
 (三) 右(一)、(二)の合計八一七一万四〇〇〇円
 4 Gに遺贈された不動産の価額
 (一)第六の19の宅地の価額(二分の一)一一五万円
 (二) 第六の20の土地の価額一〇万一〇〇〇円
 (三) 右(一)、(二)の合計一二五万一〇〇〇円
 5 被控訴人らの遺留分を侵害している遺贈部分の価額
 (一) 控訴人に遺贈された内、七六七九万三一一一円
<記載内容は末尾6添付>
 (二) Gに遺贈された不動産の価額一二五万一〇〇〇円
 (三) 民法一〇三四条本文により右(一)、(二)の遺贈部分は価額の割合に
応じて減殺されるべきである。
 6 被控訴人らが控訴人に対し減殺しうる遺贈部分の価額は次のとおりである。
 (一) 被控訴人A 一四五二万六〇三〇円
<記載内容は末尾7添付>
 (二) 被控訴人 B   四〇七万二五四五円
<記載内容は末尾8添付>
 (三) 被控訴人 C   三一三万〇三九三円
<記載内容は末尾9添付>
 (四) 被控訴人 D   二九三万三五九九円
<記載内容は末尾10添付>
 7 ところで、遺留分権利者が受遺者、受贈者に対して行う減殺請求権は形成権
であつて、その意思表示がなされると、法律上当然に減殺の効力を生じ、遺留分権
利者は遡及的に目的物につき持分を取得するものと解するを相当とする(最高裁昭
和三五年七月一九日判決民集一四巻九号一七七九頁、同昭和四一年七月一四日判決
民集二〇巻六号一一八三頁、同昭和四四年一月二八日判決判例時報五四八号六八頁
参照)。これを本件についてみるに、被控訴人らが昭和四一年一〇月六日到達の書
面で控訴人に対し遺留分減殺の意思表示をなしたことは当事者間に争いがないか
ら、亡Eから控訴人に対しなされた第六の1ないし18、第三の3の各不動産の遺
産は、被控訴人らの遺留分を侵害している前記6の限度において当然に無効とな
り、その結果第六の1ないし18、第三の3の各不動産は相続開始時に遡及して控
訴人と被控訴人らの共有となり、そして、第六の1ないし18、第三の3の各不動
産の相続開始時の価額の総額は前示のとおり、八一七一万四〇〇〇円であるから、
被控訴人らは第六の1ないし18、第三の3の各不動産につき遺留分が侵害された
前記6の価額相当分の持分を有するということができるから、被控訴人Aの持分は
八一七一万四〇〇〇分の一四五二万六〇三〇、被控訴人Bの持分は八一七一万四〇
〇〇分の四〇七万二五四五、被控訴人Cの持分は八一七一万四〇〇〇分の三一三方
〇三九三、被控訴人Dの持分は八一七一万四〇〇〇分の二九三万三五九九となる。
 8 控訴代理人は被控訴人Aの遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用であつて許
されない旨主張する。
 各成立に争いのない甲第四〇、第四一号証、乙第三、第四号証、同第三六号証の
二、原審及び当審証人Fの証言、原審における被控訴人C、当審における被控訴人
A、原審及び当審における控訴人の各本人の尋問の結果によると、被控訴人Aは大
正一五年一一月Eの後妻として同人と結婚し(昭和二年四月一八日届出)、爾来E
や控訴人らとともに農業に従事し、昭和三九年Eが直腸がんに罹患して病臥する
や、同人の入院中も、自宅療養中もEを看護してきたこと、ところが、被控訴人A
が控訴人の目を逃れて食糧品等を被控訴人B方へ運んだり、飲酒した際などに被控
訴人BがE家の長男だというような言動があつたため、被控訴人Aと控訴人が不仲
になり、控訴人が被控訴人Aに暴力を振うようになつたこと、そして、昭和四〇年
八月一三日控訴人が被控訴人Aに対し些細なことから暴力を振つたため、被控訴人
Aは家を出て被控訴人B方に身を寄せたこと、被控訴人Aは、昭和四〇年一一月E
を相手方として山形家庭裁判所新庄支部に対し、控訴人の暴行をEがとめないので
同居に耐えられないとして、離婚等の調停の申立をし、また昭和四二年二月一三日
控訴人とその妻Fを相手方として、山形地方裁判所新庄支部に対し、自己の不知の
間に養子縁組がなされたとして、Eと被控訴人Aを養親とする養子縁組無効の訴を
提起したこと、Eは、被控訴人Aが昭和四八年八月一三日より病気中のEを顧みず
に被控訴人B方に同居し、離婚の調停を申立てているので何ら遺贈しない旨遺言し
ていること、以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない(乙第三号証
((遺言公正証書謄本))第六条に離婚の訴とあるのは、離婚調停の申立の誤記で
あることは弁論の全趣旨に徴し明らかである。)。
 前記認定の事実からみると、被控訴人Aの家出、離婚調停の申立等は、E、控訴
人、被控訴人Aらの親族間の紛争に端を発したもので、被控訴人Aを一方的に責め
るのは酷に失するものとみられ、これらの行為があつたことの一事を以て直ちに被
控訴人Aの遺留分減殺請求権の行使が権利濫用として容認できない程非難されるべ
き行為ということはできず、他に控訴人のこの点に関する主張事実を認めるに足る
証拠はない。
 よつて、控訴人の右主張は採用できない。
 9 以上の理由により、被控訴人らは第六の1ないし18、第三の3の各不動産
につき、前記認定の各持分を有するところ、第六の2ないし15、第三の3の各土
地が控訴人所有名義に登記されていることは当事者間に争いがないから、被控訴人
らは右認定の持分に基づき、控訴人に対し、右各土地につき右持分を有する旨の変
更登記手続を求めることができるというべきである。
 10 控訴人は、被控訴人らの遺留分減殺請求に基づく現物返還に代えて価額に
よる弁償を主張している。
 <要旨>ところで、民法一〇四一条一項は、受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべ
き限度において、贈与又は遺</要旨>贈の目的物の価額を遺留分権利者に弁償して返
還の義務を免かれることができる旨規定し、受遺者・受贈者に対し目的物を返還す
るか、その価額を弁償するかの選択権を与えているが、受遺者・受贈者において、
価額弁償の意思表示をしたのみでは、遺留分権利者の目的物返還請求権は消滅する
ものでなく、現実に価額の弁償がなされてはじめて目的物返還請求権が消滅するも
のと解すべきである。即ち、遺留分権利者の目的物返還請求権は物権的に保護され
ているのに対し、受遺者・受贈者の価額弁償の意思表示により、これが消滅し、金
銭債権である価額弁償請求権にかわるとすれば、民法上右価額弁償請求権に優先的
効力を与える旨の規定がないので、遺留分権利者は、他の一般債権者と同じく単に
債権的な保護が与えられるにすぎなくなり、不当だからである。
 これを本件についてみるに、控訴人において目的物の価額を現実に弁償した旨の
主張立証のない本件においては、控訴人の右主張は採用できない。
 四、 以上の次第により、被控訴人らにおいて第一の1(第六の7)、第二の1
ないし7(第六の2ないし6、8、9)、第三の1ないし7(第六の10ないし1
5)の各不動産につき前記認定の各持分(但し、被控訴人Aについては申立の範囲
である六分の一の限度)を有し、控訴人においてこれを争うことは訴訟の経過によ
り明らかであるから、右持分の確認を求める利益ありとすべく、被控訴人らの主位
的請求は、被控訴人らの右の各持分を有することの確認と同持分に基づき右各不動
産につき同持分を有する旨の変更登記手続を求める限度で正当として認容すべきで
あり、その余は失当として棄却すべきである。
 よつて、被控訴人らの主位的請求を棄却し予備的請求を一部認容した原判決を取
り消すこととし、原審及び当審における訴訟費用の負担につき民訴法九六条九二条
但書を適用して主文のとおり判決する。

昭49・12・24最判 遺言者の押印を欠く自筆証書遺言が有効とされた事例
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
遺言書真否確認等請求
裁判要旨
英文の自筆遺言証書に遺言者の署名が存するが押印を欠く場合において、同人が遺言書作成の約一年
九か月前に日本に帰化した白系ロシア人であり、約四〇年間日本に居住していたが、主としてロシア語
又は英語を使用し、日本語はかたことを話すにすぎず、交際相手は少数の日本人を除いてヨーロッパ人に
限られ、日常の生活もまたヨーロッパの様式に従い、印章を使用するのは官庁に提出する書類等特に先
方から押印を要求されるものに限られていた等原判示の事情(原判決理由参照)があるときは、右遺言書
は有効と解すべきである。
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人中嶋徹の上告理由について。
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件自筆証書による遺言を有効と解した原審の判断
は正当であつて、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

昭49・12・26東京高判 数人の共同相続人の相続放棄と利益相反行為(上告)
東京高等裁判所?? ?? 第二民事部→最判53.2.24
相続回復請求事件
主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     被控訴人は別紙目録(一)記載の建物につき、宇都宮地方法務局鹿沼出
張所昭和二五年一一月一三日受付第△△△号をもつてなされた被控訴人のための所
有権保存登記を控訴人らおよび被控訴人が各五分の一の持分所有権を有する旨の所
有権保存登記に更正登記手続をなすべし。
     被控訴人は別紙目録(二)記載の土地につき、宇都宮地方法務局鹿沼出
張所昭和二五年一一月一三日受付第×××号をもつてなされた被控訴人のための所
有権取得登記を控訴人らおよび被控訴人が昭和二三年二月二六日相続を原因とし各
五分の一の持分所有権を取得した旨の登記に更正登記手続をなすべし。
     控訴人らのその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、主文第一ないし第三項、第五項同旨のほか「被控訴人は控訴人ら
が被相続人亡Aの相続人として同人の遺産につき、いずれも五分の一の持分所有権
を有することを確認する。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求
めた。
 当事者双方の主張および証拠関係は左に付加するほかは原判決事実摘示と同一で
あるからこれを引用する。
 控訴代理人は、
 一、1 訴外Bが控訴人らの後見人としてした控訴人らの相続放棄は、いわゆる
後見人と被後見人らの利益相反行為として、無権代理であり無効である。
 2 かりにそうでないとしても、Bは控訴人ら四人のための後見人であり、その
一人についてする相続放棄は他の被後見人との間に互いに利益が相反する行為であ
り、同人のした相続放棄は控訴人ら全員につき無効である。
 3 かりにそうでないとしても、右相続放棄はもつぱら亡Cにのみ相続財産を取
得させようとしたものであり、控訴人らの利益を極度に害したものであるから、後
見人としての権限を濫用したものであり、公序良俗に違反し無効である
 と述べた。
 二、 被控訴代理人は右主張を争うと述べた。
 三、 立証(省略)
         理    由
 一、 別紙目録(一)および(二)記載の各物件(本件物件)は先代Aの所有で
あつたところ、同人は、昭和二三年二月二六日死亡したこと、当時同人には先妻D
との間に生れたC、E、B、F、G、H、Iと、後妻Jとの間に生れた控訴人ら
(K、L、M、N)がいたが、右先、後妻ともすでに死亡していたので、右子らが
その遺産を相続することになつたところ、長男Cを除くその他のものは相続放棄を
したこと右Cは昭和二五年一月一日死亡し、被控訴人は同人の妻であるが、本件物
件につき控訴人ら主張のごとき被控訴人名義の各登記がなされていることは当事者
間に争いがない。
 二、 成立に争いない甲第一ないし第六号証、原審における証人F、同G、同O
の各証言、原審及び当審における証人Bの証言(原審は第一、二回)、控訴人K本
人尋問の結果ならびに本件口頭弁論の全趣旨をあわせると、次の事実を認めること
ができる。すなわち先代A死亡当時、同人と先妻Dとの間の前記子らはいずれも成
年に達していたが、後妻Jとの間の子である控訴人らは、いずれも末成年で、控訴
人K一五歳、同L一一歳、同M九歳、同N七歳であつた。
 当時長男Cは宇都宮高等農林学校を卒業後福島県庁に、また三男Bは北海道大学
を卒業して三菱電気株式会社にそれぞれ勤務し、F、G、H、Iの四姉妹はいずれ
も高等女学校を卒業し、I以外のものは、すでに他家に嫁いでいた。しかし、次男
Eは身心の病いのため家に残つていた。このような状態だつたので、A没後の四九
日の法要の席上成年に達していた前記兄妹らは相談のうえ、このさい長男Cが帰農
してAの遺産であつた本件物件を含む田約一町歩畑約五反歩ほか山林等によつて当
時まだ未成年であつた控訴人らの養育と次男Eの面倒をみることにし、そのかわり
に控訴人らを含む他の兄弟姉妹はそれぞれ相続を放棄することとし、三男Bはその
善後処置を長男Cに一任の上、自己の印鑑を同人に交付した。そこでCはBを控訴
人らの後見人に選任する手続をし、昭和二三年五月一〇日後見人B名義で控訴人ら
は相続を放棄する旨の申述が宇都宮家庭裁判所になされ、同年五月一七日付で右申
述は受理され、Cを除く他の成年者の相続人からも相様放棄の手続がなされ、その
結果Aの所有であつた別紙目録(一)(二)の物件を含む遺産はすべてCにおいて
単独相続により取得したこととなつたという次第である。
 三、 しかして前段挙示の証拠に成立に争いない乙第一、第二号証、原審におけ
る被控訴人本人尋問の結果をあわせれば、その後Cは昭和二五年一月一日死亡し、
同人の妻である被控訴人は六人の子らを抱えていたところから右Cの子らはすべて
相続放棄をし被控訴人が単独でCの相続をし、(Cの死亡及び被控訴人の相続の事
実は当事者間に争いない)Cに代つてEや控訴人らをみてゆくはずであつた。しか
し被控訴人も自己の子の養育にせいいつぱいでEや控訴人ら四名の世話を満足にみ
ることができず、傍目には虐待しているかのごとくにみえたので、Bら兄弟はこれ
を憂い、Eや控訴人らが生活してゆけるようにするため、Bがこれらのもののため
に被控訴人との間に同年五月八日約定書を作成し、被控訴人の取得したとされる遺
産の一部を控訴人らに贈与させることにした。
 しかし被控訴人は右約定を履行しなかつたので、Bは控訴人ら四名の後見人の資
格で、またE、F、Iの代理人としてかつ自己も申立人となつて被控訴人を相手と
し前記裁判所に財産分与の調停を申立て(同庁昭和二五年(家)イ第三九四号)、
その結果昭和二六年二月一日調停が成立したことを認めることができ、右認定を左
右するに足る証拠はない。
 <要旨>四、 ところで民法八六〇条によつて準用される八二六条一項、二項によ
れば、後見人はその被後見人と利益相</要旨>反する行為についてはその職務を行い
えず、後見人が数人の被後見人に対してその職務を行う場合において被後見人の一
人と他の被後見人の一人との利益が相反する行為については、他の被後見人につい
ては自ら後見人の職務を行いえないものであるところ、ここにいう利益相反行為と
は、行為の客観的性質上、後見人と被後見人間ないし数人の被後見人ら相互間に、
利害の対立を生ずるおそれのあるものを指称するのであつて、その行為の結果、現
実にその者らの間に利害の対立を生ずるか否かは問わないものと解すべきである。
 相続の放棄は、本来単独行為であるから、それ自体利益相反の問題を生じないか
の如くであるけれども、数人の共同相続人ある場合の相続放棄は、その者について
相続によつてうける利益を失わしめる効果を生ずる反面、他の共同相続人に相続分
が当然増加する効果をもたらすものであること、あたかも遺産分割の協議における
場合と同様であることにかんがみると、数人の共同相続人ある場合における相続の
放棄は、その行為の客観的性質上、相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのあ
る行為と解するのが相当である。したがつて共同相続人中の一人が他の共同相続人
を後見人とし、もしくは数人の共同相続人が一人の後見人の後見に付されて、この
後見人によつて相続の放棄をすることは、たとえその後見人が自らも共同相続人の
一人として相続放棄をなすものであり、また同一の後見人による数人の共同相続人
たる被後見人がひとしく相続放棄をするものであったとしても、かかる後見人によ
る相続放棄の行為は被後見人全員について前記条項に違反するものというべきであ
り、このような後見人による代理行為によつて成立した相続放棄は、無権代理によ
るものとして被代理人全員による追認がない限り無効であるといわなければならな
い(遺産分割の場合についてであるか、最高裁昭和四六年(オ)第六七五号同四九
年七月二二日第一小法廷判決、同昭和四七年(オ)第六〇三号同四八年四月二四日
第三小法廷判決参照)。本件の場合についていえば、前認定のように、Aの共同相
続人の一人たる三男Bが同じく共同相続人たる控訴人Kら四人の後見人として相続
放棄をしているものであつて、二重に前記法条に違反するものであることは明らか
であつて、控訴人らの追認がないかぎり、右放棄は無効といわなければならない。
 前認定の昭和二五年五月八日の約定及び昭和二六年の調停はBが依然控訴人らの
後見人としているものであつて、いわば前記相続放棄の延長にすぎず、それ自体控
訴人らの追認というべきものでないことはいうまでもない。なお、原審証人Bの証
言(第二回)によれば、前記調停の際、控訴人K自身も右席において、本件物件中
銭神の土地を譲り渡すよう被控訴人に強く要求したが拒絶されたというのである
が、当時右Kは未成年者であったのであるから、これをもつて同人が追認したもの
といえないことは明らかであるし、また、当審における控訴人K本人尋問の結果に
よれば、右調停後被控訴人からa所在の 五筆の山林以外の物件(右山林以外は本
件物件に含まれない)については調停に基づく履行をうけ現在まで引続き占有して
いるというのであるが、他方同人が相続放棄の手続がなされていることを知ったの
は昭和三九年ころ調停調書に関することで宇都宮家庭裁判所に相談に赴いたときが
始めてであってそれ以前にはなんら相続放棄の件については知らされておらず、B
からはかえつてそのような事実はないといわれていたので、本訴に及んだものであ
るという事実が認められるから、これらの事実によれば、控訴人Kに関する限り追
認したものと認めることはできないし、その他の控訴人らについては本訴提起まで
相続放棄の事実すら覚知していなかったものと推認できるから、三男Bが控訴人ら
の後見人としてなした本件の相続放棄は、民法八六〇条、八二六条に違反するもの
として無効というべきである。
 五、 被控訴人は控訴人らの相続回復請求権は、民法八八四条にいう五年の期間
の経過によって消滅したという。
 しかし本件放棄の後、被控訴人らの法定代理人であった後見人Bが控訴人らの後
見人として相続放棄をなしうる適格を有するものでないことを知り、したがつて同
人が当時から控訴人らの相続が害されている事実を知っていたことを認めるべき証
拠はなく、むしろ同人は控訴人らの成人までその事実を知らず自己のした行為は正
当有効であったと信じていたものと推認するのが相当であり、控訴人らについては
原審及び当審における控訴人K本人尋問の結果によれば控訴人らは事実上被控訴人
が十分面倒を見てくれないことに不満はいだいていたが、本来相続放棄がなされて
いたこと、その放棄が無効であることなどについては十分な認識がなく、前記のと
おり昭和三九年にいたつて宇都宮家庭裁判所に相談に行つたときはじめて相続放棄
がなされていること、しかもそれが無効で、やり直さなければならないことを知っ
たという次第であることを認めうるところであり、その後本訴は昭和四一年一一月
一八日提起されたものであることは記録上明らかであるから、結局本件について相
続回復の消滅時効が完成しているものとする被控訴人の主張は採用し難い。
 六、 もつとも控訴人らは先代Aの遺産につき五分の一の持分所有権を有するこ
との確認を求めているが、かかる請求は具体的な権利関係に関するものではなく、
これにより将来の紛争を予防しうるにたる基本的権利関係を即時確定すべきものと
は認められないから、右請求は排斥を免れない。
 七、 以上説示したところにしたがえは本件物件は先代Aの遺産であつたとこ
ろ、長男Cをしてこれを単独相続せしめるため、控訴人らの後見人として三男Bを
選任し、同人が控訴人らに代わって相続放棄の申述をなしたものであるが、右相続
放棄は無効であり控訴人らにおいてこれを追認した事実は認められないから、控訴
人らが先代Aの遺産について、その主張のごとき持分(持分の割合の点について被
控訴人は明らかに争わないところであるが、Aの相続人中C及び控訴人ら合計五人
を除く他の相続人は当時成年者として有効に相続放棄しているものであるから、控
訴人らの相続分は五分の一ずつとなること明らかである)を有するものというべ
く、被控訴人は本件物件について有する被控訴人名義の所有権取得登記を真実に合
致せしめるため控訴人ら主張のとおり更正登記手続をするべき義務がある。なお前
記調停はBが控訴人らの後見人としてした相続放棄につきその無権代理追認の意味
をもつものでないことは前示のとおりであり、右調停において被控訴人から控訴人
らに贈与を約した物件中一部(大字b字aの山林五筆計五反六畝)は本件物件中に
含まれること前記乙第一号証により明らかであるが、当審における控訴人K本人尋
問の結果によれば右山林の贈与は履行されず、依然被控訴人の所有名義であること
がうかがわれるのみならず、右調停は誤った権利関係を前提とする点で本来の効力
を有するものと解されず、この点は他の引渡ずみのものとあわせて将来遺産分割の
協議において解決されれば足り、前記結論を左右するものではない。
 従って控訴人らの本訴請求は確認を求める部分を除き理由があるというべきであ
る。
 よってこれと異り控訴人らの請求を全部棄却した原判決は右の限度でこれを変更
すべく、本件控訴は一部理由がある。
 よって民訴法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

昭50・10・24最判  相続財産が国庫に帰属する時期
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
建物収去土地明渡請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人海地清幸、同小倉正昭の上告理由第二点及び第三点について
 相続人不存在の場合において、民法九五八条の三により特別縁故者に分与されなかつた残余相続財産
が国庫に帰属する時期は、特別縁故者から財産分与の申立がないまま同条二項所定の期間が経過した時
又は分与の申立がされその却下ないし一部分与の審判が確定した時ではなく、その後相続財産管理人に
おいて残余相続財産を国庫に引き継いだ時であり、したがつて、残余相続財産の全部の引継が完了するま
では、相続財産法人は消滅することなく、相続財産管理人の代理権もまた、引継未了の相続財産について
はなお存続するものと解するのが相当である。民法九五九条は、法人清算の場合の同法七二条三項と同じ
く、残余相続財産の最終帰属者を国庫とすること即ち残余相続財産の最終帰属主体に関する規定であつ
て、その帰属の時期を定めたものではない。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実によれば、残余相続財産たる本件各建物の所有
権及びその敷地たる本件土地の賃借権が相続財産管理人Aにより国庫に引き継がれたのは、昭和四六年
一月一日であり、上告人は、右日時に先立つ昭和四五年六月一五日到達の書面をもつて、同人に対し、本
件土地の延滞賃料の催告及びそれが期限までに支払われないことを条件とする本件土地の賃貸借契約解
除の意思表示をしたことが明らかであるから、Aは、右催告及び条件付解除の意思表示を受領する権限を有
していたものといわなければならない。しかるに、原審は、残余相続財産たる本件各建物の所有権及び本件
土地の賃借権は、特別縁故者に対する財産分与審判確定時に国庫に帰属し、それと同時にAの残余相続
財産に関する相続財産管理人としての代理権も消滅したから、同人には上告人の本件土地の延滞賃料の
催告及び賃貸借契約解除の意思表示を受領する権限がなかつたとの理由のみに基づき、右賃料延滞の有
無、更には被上告人らの主張する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情の有無を確定することなく、右
解除の意思表示の効力を否定しているのであつて、原判決には、この点において民法九五九条についての
法令の解釈適用を誤まり、ひいては審理不尽に陥つた違法があるといわなければならず、右違法が原判決
の結論に影響を及ぼすことは明らかである。それゆえ、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決
は破棄を免れず、更に以上の点について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭50・11・7最判 共有持分を譲り受けた第三者の共有解消の手続
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
共有物分割請求
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告人らの上告理由について
 上告人らの訴訟被承継人であるAが訴外Bからその有する本件土地建物の持分二分の一の贈与を受けて
その共有権者になつたとし被上告人を相手として提起した共有権確認及び共有物分割訴訟につき、原判決
は、本件土地建物は亡Cまたは亡Dの遺産であつて、被上告人と訴外Bが各二分の一の持分をもつて相続
したものであるが、遺産の分割については当事者間においていまだ協議が調つていないことを確定したう
え、共有持分権の譲受人であつても遺産分割以前に遺産を構成する個々の財産につき民法二五八条に基
づく共有物分割訴訟を提起することは許されないとして、Aの右訴を却下したものである。
 しかし、共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的には民法二四九条以下に規定
する共有としての性質を有すると解するのが相当であつて(最高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五
月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁参照)、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不
動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができ(最
高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁参
照)、他の共同相続人とともに右不動産を共同所有する関係にたつが、右共同所有関係が民法二四九条以
下の共有としての性質を有するものであることはいうまでもない。そして、第三者が右共同所有関係の解消
を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法九〇七条に基づく遺産分割審判ではなく、民法二五八条
に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当である。けだし、共同相続人の一人が特定不動産につい
て有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該譲渡部分は遺産分割の対象から逸出するものと解す
べきであるから、第三者がその譲り受けた持分権に基づいてする分割手続を遺産分割審判としなければな
らないものではない。のみならず、遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続
人の具体的相続分に応じ民法九〇六条所定の基準に従つて分割することを目的とするものであるから、本
来共同相続人という身分関係にある者または包括受遺者等相続人と同視しうる関係にある者の申立に基づ
き、これらの者を当事者とし、原則として遺産の全部について進められるべきものであるところ、第三者が共
同所有関係の解消を求める手続を遺産分割審判とした場合には、第三者の権利保護のためには第三者に
も遺産分割の申立権を与え、かつ、同人を当事者として手続に関与させることが必要となるが、共同相続人
に対して全遺産を対象とし前叙の基準に従いつつこれを全体として合目的的に分割すべきであつて、その
方法も多様であるのに対し、第三者に対しては当該不動産の物理的一部分を分与することを原則とすべき
ものである等、それぞれ分割の対象、基準及び方法を異にするから、これらはかならずしも同一手続によつ
て処理されることを必要とするものでも、またこれを適当とするものでもなく、さらに、第三者に対し右のよう
な遺産分割審判手続上の地位を与えることは前叙遺産分割の本旨にそわず、同審判手続を複雑にし、共
同相続人側に手続上の負担をかけることになるうえ、第三者に対しても、その取得した権利とはなんら関係
のない他の遺産を含めた分割手続の全てに関与したうえでなければ分割を受けることができないという著し
い負担をかけることがありうる。これに対して、共有物分割訴訟は対象物を当該不動産に限定するものであ
るから、第三者の分割目的を達成するために適切であるということができるうえ、当該不動産のうち共同相
続人の一人が第三者に譲渡した持分部分を除いた残余持分部分は、なお遺産分割の対象とされるべきも
のであり、第三者が右持分権に基づいて当該不動産につき提起した共有物分割訴訟は、ひつきよう、当該
不動産を第三者に対する分与部分と持分譲渡人を除いた他の共同相続人に対する分与部分とに分割する
ことを目的とするものであつて、右分割判決によつて共同相続人に分与された部分は、なお共同相続人間
の遺産分割の対象になるものと解すべきであるから、右分割判決が共同相続人の有する遺産分割上の権
利を害することはないということができる。このような両手続の目的、性質等を対比し、かつ、第三者と共同
相続人の利益の調和をはかるとの見地からすれば、本件分割手続としては共有物分割訴訟をもつて相当と
すべきである。
 したがつて、これに反する原審の判断には法令解釈を誤つた違法があり、その違法は原判決の結論に影
響を及ぼすことが明らかである。
 なお、共有権確認の訴について、原審はなんら理由を開示することなく該訴を却下しているが、共同相続人
の一人から遺産を構成する特定不動産についての共有持分権を譲り受けたと主張するAが右譲受を争う被
上告人を相手として提起した共有権確認の訴が当然に不適法になる理由はないから、原審の右判断には法
令の解釈を誤つたか理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであ
る。
 よつて、原判決を破棄し、本件はなお審理をつくす必要があるから、これを原審に差し戻すべく、民訴法四
〇七条一項に従い裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


昭51・1・23大阪高判 相続人の存在が相続開始後に明らかになった場合と民784但書、同910の関
大阪高等裁判所?? ?? 第二民事部
土地持分所有権確認等請求事件
主    文
     1 原判決を取り消す。
     2 原告の請求を棄却する。
     3 訴訟費用は一、二審とも原告の負担とする。
         事    実
 (原判決の主文)
 1 別紙目録(1)の土地(以下本件(1)土地という。)につき
 (一) 被告Aと原告との間において、同被告と原告が各二分の一の共有持分を
有することを確認する。
 (二) 被告Aは原告に対し、大阪法務局八尾出張所昭和(以下略)四六年二月
一日受付第二一八五号の所有権移転登記を、Bの共有持分二分の一についての共有
持分移転登記に改める更正登記手続をせよ。
 2 同目録(2)の土地(以下本件(2)土地という。)につき
 (一) 被告Cと原告との間において、同被告と原告が各二分の一の共有持分を
有することを確認する。
 (二) 被告Cは原告に対し、同出張所同日受付第二一八六号の所有権移転登記
を、Bの共有持分二分の一についての共有持分移転登記に改める更正登記手続をせ
よ。
 3 訴訟費用は被告らの負担とする。
 (請求の趣旨)
 原判決主文1、2項と同旨
 (不服の範囲)
 原判決全部
 (当事者の主張)
 一 請求原因
 1 本件各土地はDの所有に属していたところ、同女は四四年八月二八日死亡し
た。同女には原告、E及びBの三人の子があつて、そのうちBはDとの養子縁組届
を経ており、他の二人は婚外子のままの身分関係にあつたため、その遺産は原告四
分の一、E四分の一、B二分の一の割合で共同相続したが、Eは四六年四月一二日
原告に対し自己の相続分を譲渡したので、原告とBの相続分は各二分の一となつ
た。
 2 Bは、他の相続人に無断で、本件各土地につき自己が単独相続により所有権
を取得した旨の登記手続をしたうえ、
 (一) 四五年一二月一四日被告Aに本件(1)土地を売渡して、原判決主文1
項(二)どおりの所有権移転登記手続をし、
 (二) 同日被告Cに本件(2)土地を売渡して、原判決主文2項(二)どおり
の所有権移転登記手続をしている。
 3 しかし、右売買は原告の有する二分の一の持分については無権限者による無
効な処分であるから、原告は被告らに対し、相続回復請求ないし所有権に基づく妨
害排除請求として、原判決主文1、2項どおり共有持分の確認並びに更正登記手続
を求める。
 二 請求原因に対する被告らの認否
 1項は、相続分の譲渡の点は不知、その余は認める。
 2項は、「他の相続人に無断で」とある点は不知、その余は認める。
 三 被告らの主張
 1 原告と亡Dとの母子関係は、四七年一月一九日大阪地裁における判決で確認
されたものであり、その効力は出生の時にさかのぼるとしても、このような場合は
民法七八四条を類推適用して、第三者たる被告らの右判決前に取得した権利を害す
ることはできないと解すべきである。
 2 仮に右主張が認められないとしても、原告は戸籍上、Fと同Gの四女とさ
れ、その後Hと同Iとの養女とされている。原告はこの虚偽の身分関係の作出に直
接の責任はないが、戸籍上の記載が不実であると知つた後も戸籍訂正の手続をせず
放置したことは、D死亡の際には同女の相続財産が戸籍上の相続人名義に登記され
ることがあることを容認していたものであつて、右登記の作出に重大な責任があ
る。
 右相続登記は、真実の身分関係から見れば虚偽登記が作出されたということにな
るかもしれないが、BはD死亡の際には戸籍上の唯一の相続人であつて、亡D名義
の本件各土地につきB名義に所有権移転登記手続をしたことに書類偽造等の不正が
あつたわけではない。
 他方被告らは、登記上の所有名義人であるBから、その登記名義を信じて本件各
土地を買受けたものであるが、原告がまさか戸籍上虚偽の身分関係を表示しており
右売買後に相続人として名乗り出るなど夢にも思わなかつたから、B名義の虚偽登
記を信じるについて善意無過失である。したがつて、右登記名義に対する被告らの
信頼は保護さるべきである。
 3 仮に右主張が認められないとしても、本件はBと原告が共同相続登記をすべ
きであつたのに、Bが単独相続登記をした場合である。共有とは、共有者が互いに
一個の所有権を持ち、各所有権が一定の割合で制限し合つて、その内容の総和が一
個の所有権の内容と等しくなつた状態をいうのであるから、一旦共有者の一人が単
独登記をしてしまうと、右にいう制限のない登記をしたことになり、その登記の効
力は所有権全体に及んで不実の登記でなくなる。したがつて、この登記を信じて所
有権移転登記を受けたものは、全体について対抗要件を備えた完全な所有権を取得
するものである。
 四 右主張に対する原告の反論
 1 認知の遡及効制限規定を類推適用すべきであるとの主張は、母子関係存在確
認判決が、分娩による出生の事実に基づき当然発生ずみの母子関係の存在を確認す
るにすぎないものであることを無視した理論であつて、遡及効を問題とする余地も
なく、明らかに失当である。
 2 被告らの主張するように、戸籍上の虚偽の出生届を経ていたことが、他の戸
籍上の相続人名義による虚偽登記を容認していたことになるとの点は否認する。戸
籍簿と不動産登記簿との間にこのような関連を認める余地はない。
 3 Bが二分の一の持分を有するにすぎないのに、全部所有権取得の登記をした
のは、原告の持分については無効の登記に帰するものであり、原告は登記なくして
自己の持分を被告らに対抗することができるのである。
 (証拠)(省略)
         理    由
 一 Dが本件各土地を所有していたところ、四四年八月二八日死亡し、原告、E
及びBの三人が子としてその遺産を共同相続したこと(相続分はBが二分の一、原
告とEが各四分の一)、Bが本件各土地につき単独相続登記を経たうえ、原告主張
のように被告らにこれを売渡し、原告主張の各所有権移転登記手続をしたことは、
当事者間に争いがない。
 なお、原告本人尋問の結果及びこれによつて成立を認める甲二〇号証の一によれ
ば、Eは原告主張の日にその相続分を原告に譲渡したことが認められる。
 二 前項の争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲一ないし九号証、一
五ないし一八号証、二一ないし二四号証、証人Jの証言、原告及び被告A各本人尋
問の結果並びに弁論の全趣旨をあわせると、次の事実を認めることができる。
 (1) Dは、明治の終りごろからKと情を通じるようになり、大正二年四月二
八日にE、同六年一月五日に原告、同八年三月三〇日にBをそれぞれ出産したが、
Kには妻Lがいたため、Eと原告についてはFとその妻Gの三女及び四女として出
生届をし、BについてはMとその妻Nの長女として出生届をした。その後戸籍上の
父母の代諾の下に、Eは大正八年七月二三日にOとその妻Pと、原告は同一一年二
月三日にHとその妻Iと、Bは同一五年四月八日に実母のDと、それぞれ養子縁組
をした。右のようにBは戸籍上Dの養女と記載され、同女と親子関係にあることが
表示されているが、Eと原告とは戸籍上Dと他人であり、戸籍の記載からは右両名
とDとの親子関係をうかがい知ることはできない。
 (2) 原告は、養父母であるH、同Iの死亡後同人らの遺産を相続したが、幼
時及び青春時代は母Dと共に暮し、D死亡の当時も同女と同居してその世話をして
いた。Bは、母を同じくする姉のEと原告のいることを十分承知しながら、戸籍上
では自己が唯一の相続人になつているため、原告とEの了解を得ることなく、母D
の遺産である不動産について自己単独の相続登記を経たうえ(本件各土地について
は四五年六月三日相続登記経由)、これを他に処分し始めた。そこで原告は、検察
官を被告として、四五年大阪地裁にDとの母子関係存在確認の訴を提起し、四七年
一月一九日原告勝訴の判決を得た。これに対し、Bが被告に補助参加して控訴上告
したが、四九年九月二〇日右判決は確定した。
 しかし、原告はDの遺産の一部である本件各土地について処分禁止の仮処分等の
保全手続をしてはいなかつた。
 (3) 被告らは、それぞれ自宅の敷地である本件各土地を亡Dから賃借してい
たが、四五年にBから売渡しの申込みを受け、亡Dの相続人が他にもいることを全
く知らず、Bが登記簿の記載どおり本件各土地を単独相続したものと信じて、同年
一二月一四日これを買受けるに至つた。
 以上の事実が認められる。
 三 右のように、原告とEは戸籍上亡Dとの親子関係の表示がなかつたのである
から、被告らが戸籍簿によつて原告とEの相続権を知ることは絶対に不可能であつ
たものといえる。もとより戸籍上の記載がどうであれ、母子の法律関係は出生によ
り当然に生じ原告とEが亡Dの分娩した子である以上出生届の有無に拘らず子とし
て相続人となるのであるから、その相続権は尊重されなければならない。しかしな
がら、戸籍上他に相続人がいることを覚知する方法もなく、戸籍上の相続人から不
動産登記簿の相続登記の記載を信じて遺産の譲渡を受けた第三者の保護もまた、無
視さるべきではない。要は、そのいずれの利益を優先させるのが正義公平の理念に
合致するかにある。
 ところで、民法七八四条は認知の効力は出生の時にさかのぼるとしながら、その
反面第三者がすでに取得した権利を害することはできないと規定している。そして
死後認知等の場合被認知者の相続権が有名無実になることを防ぐため、同法九一〇
条によつて、相続開始後に認知によつて相続人となつた者は遺産の分割の請求をす
ることができることにし、他の共同相続人がすでに遺産分割その他の処分をしたと
きは、これらの者に対して価額償還請求をすることができる旨規定する。これらの
規定は、相続開始当時存在していなかつた相続人(被認知者)の後日の出現によつ
ても、共同相続人以外の第三者の権利はあくまで保護さるべきことを前提とし、そ
の権利を侵害しない限度で被認知者の相続権を保護する趣旨に出たものであること
が明らかである。
 いうまでもなく、親子関係存在確認の判決により確認される親子の関係は、すで
に発生し客観的に存在していた親子関係を明確にするものにすぎず、届出又は裁判
によつて初めて親子関係が形成される認知とは異なるが、第三者の側から見れば、
後日被認知者が出現することと、戸籍上覚知することの不可能な相続人が後日出現
して相続権を主張することとの間に、不測の損害を受ける度合においてなんらの差
異はないものというべきである。また、戸籍上の相続人が遺産を処分するおそれが
ある場合、戸籍上に表示されていない他の共同相続人は民訴法上の保全処分等の手
続によつてこれを防止する方法が残されているのに反し、戸籍上の相続人から遺産
の譲渡を受ける善意の第三者は、戸籍に表示されていない他の相続人の出現による
自己の損害を防止する
 <要旨>手段が全くない。これらのことを考えれば、戸籍上に表示されていない相
続人の存在が後日明らかとなつた</要旨>場合も、認知の場合と同様に第三者の利益
を保護すべき必要がある。(なお、大審院時代の判例のように母子関係の成立にも
認知が必要であるとの見解に立てば、本件のような場合も民法七八四条但書自体の
問題になつていたことが想起さるべきである。)したがつて、右の場合には第三者
の利益を優先させるとともに、戸籍上表示されていない相続人に対しては、戸籍上
の相続人に価額償還請求をさせることによつてその救済を図ることが、公平の理念
に合致するものというべきである。
 以上要するに、戸籍上の相続人から遺産の譲渡を受けた善意の第三者は、被認知
者以外でその当時戸籍上覚知することの不能であつた他の相続人の存在が後日明ら
かになつたとしても、民法七八四条但書九一〇条の法意の類推適用により保護さる
べきであつて、第三者に対し当該他の相続人はその持分についての権利取得の無効
を主張することができないものと解すべきである。
 四 そうすると、原告は被告らに対し本件各土地のうち自己の持分についての取
得の無効を主張することができないから、原告の本訴請求は失当である。
 よつて、これと異なる原判決を取り消して原告の請求を棄却し、民訴法九六条八
九条を適用して、主文のとおり判決する。

昭51・3・18最判 金銭による特別受益と遺留分の算定
最高裁判所第一小法廷(広島高等裁判所)
遺留分減殺請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人永宗明の上告理由について
 被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算
定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の
時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきものと解するのが、相当である。けだし、このように解しな
ければ、遺留分の算定にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に
加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没
却することとなるばかりでなく、かつ、右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の
性質、機能を損う結果をもたらすものではないからである。これと同旨の見解に立つて、贈与された金銭の
額を物価指数に従つて相続開始の時の貨幣価値に換算すべきものとした原審の判断は、正当として是認す
ることができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 上告人の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ
る。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用
することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭51・5・26東京高判 遺留分減殺すべき贈与の無効主張と消滅時効の進行
東京高等裁判所?? ?? 第七民事部
土地所有権移転登記等請求控訴、同附帯控訴事件
主    文
     原判決中、控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取消す。
     被控訴人(附帯控訴人)らの請求を棄却する。
     本件附帯控訴を棄却する。
     訴訟費用は、第一、二審を通じ、全部被控訴人(附帯控訴人)らの負担
とする。
         事    実
 一、 被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)らは、控訴につき控
訴棄却の判決を、附帯控訴につき「附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更す
る。(1)控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)は被控訴人らに対し
それぞれ別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の持分三分の一ず
つの所有権移転登記手続をせよ。(2)控訴人は被控訴人らに対し各金二〇万六、
六六六円およびこれに対する昭和四一年一〇月二二日以降完済まで年五分の割合に
よる金員を支払え。」との判決ならびに右(2)につき仮執行の宣言を求め、その
請求の原因ならびに控訴人の主張に対する答弁として、次のとおり陳述した。
 (一) 1 本件土地は、亡Aの所有てあるところ、昭和三七年二月一六日付で
贈与を原因としてBに、昭和四一年四月九日付で贈与を原因として同女から控訴人
に、それぞれ所有権移転登記が経由されている。
 2 亡Aは、昭和三七年一一月一五日頃、妻亡Bに対し本件土地を死因贈与し、
所有権移転登記を経由したものであるが、Bは昭和四一年六月一三日Aより先に死
亡したから、民法第九九四条第一項の準用により右死因贈与の効力は生じなかつた
ものである。
 3 仮りに、右が単なる生前贈与であるとしても、右贈与は、AとBとの間にお
ける通謀虚偽表示であるから無効である。
 仮りにしからずとしても、Aは本件土地をBと共有する意思をもつて共有持分二
分の一をBに贈与したものであつて、右持分を超える持分二分の一は通謀虚偽表示
であるから無効である。
 4 控訴人は、Bに対する本件土地の贈与が通謀虚偽表示であることを知りなが
ら、Bから同土地の所有権移転登記を経由した悪意の第三者である。
 5 仮りに本件土地が贈与によりBの所有となつたとしても、Bが同土地を控訴
人に贈与したのは、Bの唯一の遺産相続人である夫・Aの遺留分(三分の一)の侵
害にあたるところ、Aは昭和四五年六月二日付訴変更申立書(原審における同日の
口頭弁論期日に陳述)により遺留分減殺の意思表示をした。
 6 遺留分減殺請求権の消滅時効の抗弁は否認する。
 AはBに対する本件土地の贈与が無効であり、したがつてBの控訴人に対する本
件土地の贈与も無効であると信じていたから本訴を提起し控訴人に所有権がないこ
とを訴訟上主張しできたのであつて、本件のように遺留分権利者が贈与の無効を主
張して訴訟上係争中である場合には、民法第一一四五条にいわゆる減殺すべき贈与
があつたことを遺留分権利者が知つていたとはいえないから、右消滅時効の進行は
開始しない。
 7 第一審原告Aは、昭和四六年一月一八日死亡し、長男CがAの権利を単独相
続し本件訴訟を承継したところ、同人も同年八月二日死亡し、被控訴人ら三名(C
の長女D、長男E、二男F)がCの権利を共同相続し本件訴訟を承継した。
 8 よつて、控訴人は被控訴人に対し本件土地につきそれぞれ持分三分の一ずつ
(もしBに対する二分の一持分権の贈与が認められる場合は六分の一の、または贈
与が有効とされた上Aの遺留分減殺請求が認められる場合は九分の一の持分。)の
所有権移転登記手続をする義務がある。
 (二) 控訴人は、Bとの左記共同不法行為によりAの財産権を侵害し金六二万
円相当の損害を蒙らせたから、被控訴人ら三名に対し各金二〇万六、六六六円およ
びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四一年一〇月二二日以降完済まで年五分
の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
 1 Bの生前、熊谷市ab丁目c番地d郵便局に、Bを預金名義人とする(イ)
金一〇万円、(ロ)金四〇万円、(ハ)金一二万円の三口合計金六二万円の定額郵
便貯金がなされていた。
 2 しかし、右は単にB名義を用いたものに過ぎず、実際にはAに属する定額郵
便貯金であつた。すなわち、Aは妻Bの生前、家計一切の処理および財産管理をB
に一任していた関係上、Aが出捐した資金をもつて名義のみを便宜Bとする右定額
郵便貯金がなされたものであり、したがつて、BはAの意思に反してこれを勝手に
処分することは許されないものであつた。仮りにしからずとするも、AはBと準共
有とすべき趣旨のもとに便宜Bの単独名義にしておいたものである。
 3 しかるに控訴人は、昭和四一年六月一〇日、上記事情を知りながら、Bと相
謀り右名義を控訴人に変更した。
 4 よつて控訴人は共同不法行為に由る右金六二万円相当の損害を被控訴人らに
賠償すべきである。
 二、 控訴人は、控訴につき「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人ら
の請求を棄却する。」との判決を、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、請
求の原因に対する答弁ならびに抗弁として次のとおり陳述した。
 (一) 本件土地がもとAの所有であつたこと、同土地につき被控訴人ら主張の
とおりの登記が経由されたこと、被控訴人ら主張のごときB名義の定額郵便貯金が
その主張の日に控訴人に名義変更されたこと、被控訴人ら主張のとおり遺留分減殺
の意思表示がなされたこと、および関係人の死亡、相続関係、訴訟手続承継関係は
すべて認めるが、その余の事実は否認する。
 (二) 本件土地は、昭和三七年二月一五日BがAから、次いで昭和四一年四月
八日控訴人がBからそれぞれ贈与を受けたものである。
 仮りに、AとBとの間の贈与が通謀虚偽表示であるとしても、控訴人はかかる事
情を知らない善意の第三者であるから、虚偽表示による贈与の無効を控訴人に対抗
することはできない。
 (三) Aは、Bが死亡した昭和四一年六月一三日、Bの遺産に対する相続の開
始および減殺すべき贈与のなされていたことを知つていたから、遺留分減殺請求権
は一年の経過とともに消滅時効の完成により消滅した。
 三、 証拠関係(省略)
         理    由
 一、 本件土地がもとAの所有であつたこと、同土地につき被控訴人ら主張のと
おりの登記が経由されたこと、被控訴人ら主張のごとき定額郵便貯金があつたこ
と、右貯金は被控訴人ら主張のようにBから控訴人に名義変更されたこと、被控訴
人ら主張のとおり遺留分減殺の意思表示がなされたこと、被控訴人ら主張にかかる
関係人の死亡、相続関係、訴訟手続承継関係はいずれも当事者間に争いがない。
 (一) 成立に争いのない甲第二号証、同第一四号証、原審における証人Cの証
言および第一審原告A本人尋問の結果により真正に成立したと認めうる同第七号の
一、二、原審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認めうる
乙第一号証の一、二に、原審における証人C、同G、同H、同I、同Jの各証言お
よび第一審原告A本人尋問の結果、当審における被控訴人E本人尋問の結果を総合
すれば、左記事実を認めることができる。
 (1) A(明治一一年一一月二七日生)は先妻Kに死別後、昭和一六年二月一
九日B(明治二七年四月一一日生)と婚姻し、終戦後数年経つた頃からBの姻戚に
あたる控訴人(Bの前夫の甥)を引取つて世話をしながら、本件土地の上にあるA
所有の住家で暮らしていた。やがて控訴人は、昭和三二年頃妻Iと婚姻し、Aはそ
の頃から「いずれ将来は家屋敷(本件土地とその地上の建物)を控訴人夫婦にや
る。」と家族らに話していた。A夫婦は、A所有の十数軒の貸家の家賃収入によつ
て生活してきたが、Bが老後のことを心配するので、昭和三七年一一月一六日、本
件土地をBに贈与し、所有権移転登記手続を経由した。また昭和三八年四月一五日
本件土地の上にある建物もBに遺贈する内容の遺言状(乙第一号証の二)を四分一
勇夫に代筆させ、これに自ら署名した上Bに交付したこともあつた。さらに同年九
月二九日Aが長男Cに代筆させ自ら署名した遺言状(甲第二号証の二)にも、本件
土地およびその地上建物は妻Bに、熊谷市大字d字ef番地のgの宅地およびその
地上の建造物一切は孫であるEおよびF両名に、同市hi番地所在の建造物および
A所有の財産一切は長男Cにそれぞれ遺贈する旨の記載が存する。(もつとも本件
土地は、昭和三七年一一月一六日Bに贈与して所有権移転登記まで経由していたの
であるから、上記各遺言状中本件土地に関する部分は、同土地がBに帰属すること
を確認的に示したものと解するのが相当である。)
 (2) Bは昭和四〇年春頃から病床に臥し、昭和四一年六月一三日子宮がんの
ため死亡するまで控訴人およびその妻Iの看病を受けた。
 (3) 昭和四一年一、二月頃、Aは、Bと控訴人夫婦に対し「家屋敷(本件土
地と地上建物)を控訴人名義に移すように。」と話し、その後も早く右登記手続を
するよう催促した。当時すでに本件土地はBの所有名義になつており、本件土地の
上に存するA所有の建物(木造瓦葺二階建居宅一棟および木造亜鉛メツキ鋼板葺平
家建居宅一棟)は保存登記を了していなかつたが、後妻の立場にあつたBとして
は、Aの子や孫に対する気兼ねから躊躇していたところ、再三にわたるAの催促に
従い、この際、本件土地をBから控訴人に贈与してその所有権移転登記手続をする
とともに、同土地の上に存する前記建物につきAのため保存登記をした上、Aから
控訴人に対する贈与による所有権移転登記手続を司法書士に嘱託することにした。
 (4) 昭和四一年四月頃、控訴人は右登記手続に要する諸費用の調達ができた
ので、同月八日右手続の嘱託等のため勤務先から休暇をとり、BとAの指示のとお
りに前記登記手続を司法書士に嘱託した。Aは前記建物の登記手続嘱託の必要上自
己の印鑑を同日控訴人に預ける際も、たまたま見舞に来ていたJおよび病床のB両
名の面前でAから控訴人に渡されており、Aの印鑑証明下附申請に必要なAの委件
状も控訴人がわざわざ一旦帰宅してA本人の意思を確かめた上作成された。ところ
がAは控訴人の留守中自己の印鑑がない等と言い出し、BとIが、印鑑は控訴人が
預つているから心配ないとなだめるのも聞きいれず、「三面記事をにぎわす。」等
と騒ぐので、Iがたしなめたところ、Aは「Iに叱られたから控訴人にやるのはい
やになつた。」と言い出した。同日夕方帰宅した控訴人は、Aの右言動を聞かされ
て困惑したが、Aとの紛糾を避けるため、A所有の前記建物の右登記手続をすすめ
ることは見合わせることとし、B所有の本件土地の所有権移転登記手続だけは予定
どおりすすめることとし、翌朝直ちに司法書士にその旨の電話連絡をした結果、同
月九日本件土地につきBから控訴人に対する前記所有権移転登記手続が経由され
た。
 (5) 同月一〇日、Aは病床に臥すBを残して長男Cの家に去つてしまつた。
その後、A、Cらは、Bに対し本件土地をAに返還せよと迫つたが、Bは、右土地
はすでに上記のごとくAから贈与を受け昭和三七年一一月一六日Bに対する移転登
記まで経由したBの所有に属するものであるから応じられないと主張して、右要求
をはねつけた。
 (6) かくて、A、CらとB、控訴人らとの間柄は険悪な状態に立ちいたり、
病床にあつて容態のすぐれないBは、Aらの強硬な態度を嘆きつつ、控訴人夫婦の
手厚い看護に感謝して、同年六月二日Bの前記定額郵便貯金を控訴人に贈与するこ
とにし、郵便局員Gに指示して控訴人の名義に変更する手続をすませた。
 以上の事実を認定することができる。原審における証人Cの証言、第一審原告A
および当審における被控訴人E各本人尋問の結果中叙上認定に副わない部分は容易
に措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
 (二) 被控訴人らは、Aは本件土地をBに死因贈与した旨、仮りにしからずと
するもAのBに対する本件土地の贈与は通謀虚偽表示である旨、仮りにしからずと
するも共有持分二分の一のみの贈与であつて右持分を超える分は通謀虚偽表示であ
る旨主張するが、事実は前記認定のとおりであつて、原審における証人Cの証言、
第一審原告Aおよび当審における被控訴人E各本人尋問の結果中右主張に副う部分
は措信し難く、他に被控訴人ら主張の右事実を認めるに足りる証拠はないから、被
控訴人らの上記主張はいずれも採用できない。よつて、AからBヘの本件土地の贈
与が無効であることを前提とする被控訴人らの請求は、すべて理由がない。
 (三) 次に、被控訴人らは遺留分減殺を主張するのに対し、控訴人は右減殺請
求権は消滅時効により消滅したと主張するので按ずるに、Bの相続人は、夫である
A唯一人であることは当事者間に争いがなく、叙上認定の事実によると、AはBの
死亡した昭和四一年六月一三日に相続の開始および減殺すべき贈与の認識があつた
ものと認めるのが相当であるところ、右減殺の意思表示がなされたのは昭和四五年
六月二日であることは当事者間に争いがないから、右意思表示は、減殺請求権が昭
和四一年六月一三日から一年の経過により消滅した後にされたものというべきであ
る。
 もつとも、本件記録によると、Aは昭和四一年九月一七日、控訴人を被告として
浦和地方裁判所熊谷支部に贈与の無効を主張して本件土地の所有権移転登記手続請
求の訴を提起して訴訟係属中であつたこ<要旨>とは本件記録に徴し明らかである。
ところで、民法第一〇四二条にいう「減殺すべき贈与」があつたこと</要旨>を知つ
た時とは、単に贈与の事実を知つた時でなく、それが減殺をなし得べきことを知つ
た時を指すと解すべきであるから、遺留分権利者となり得る者が右贈与の無効なる
ことを信じ訴訟上抗争しているような場合は、単に贈与を知つていたとしても、そ
れだけでは「減殺すべき贈与」があつたことを知つていたものとは直ちに断定でき
ない(大判昭和一三年二月二六日民集一七巻二七五頁参照)が、訴訟上無効を主張
さえすれば時効の進行を始めないことになると、民法が特別の短期時効を法定した
趣旨にも反する結果となるから、無効の主張がなされている場合においても、全く
なんらの根拠もない単なる言いがかりに過ぎないことが明らかであるような場合に
は「減殺すべき贈与」を知つていたものと認めるのが相当であり、無効の主張によ
り時効の進行の開始を阻止し得ないものというべきである。
 本件においては、Aが昭和三七年一一月一六日本件土地を自らBに贈与して所有
権移転登記を経由したものであり、しかも昭和四一年一、二月頃からAは再三にわ
たりB所有の本件土地を控訴人に贈与して所有権移転登記を経由するよう同人らに
すすめた結果、同年四月九日その実現を見たものであつて、右は他ならぬA自身の
発意に基づいてなされたものであるところ、上記のようにAの不穏当な発言を控訴
人の妻Iがたしなめたことをとらえて、Aは嫁に叱られた等と言い立て、病床に臥
している妻Bの身を顧みずBを残して長男C宅に立ち去り、事を構えて、贈与が無
効である等と不当な言いがかりを付けているに過ぎず、結局、Aは、Bの死亡した
昭和四一年六月一三日、本件土地につき減殺すべき贈与のあつたことを知つたもの
と認めるのが相当であるから、一年の経過により遺留分減殺請求権の消滅時効が完
成したものといわなければならない。よつて、減殺の意思表示が有効であることを
前提とする被控訴人らの請求もまた理由がない。
 (四) 被控訴人らは、前記定額郵便貯金はAの財産管理のためB名義を使用し
たに過ぎず、仮りにしからずとするもAとBとの準共有であるのに便宜B名義を使
用したに過ぎないところ、Aの意思に反しBと控訴人の両名が前記のようにこれを
控訴人の名義に変更したのはBと控訴人による共同不法行為であるからこれに因つ
て蒙つた損害賠償を求めると主張するので按ずるに、まず右貯金がAの財産管理の
ために単にBの名義を使用したに過ぎないとか、又はAとBとの準共有の趣旨のも
とにBの単独名義にしたに過ぎない等の事実を認めるに足りる証拠は存しない。か
えつて右貯金はいわゆる出し入れ自由の通常郵便貯金や銀行の普通預金等とは異な
り、いわゆる「すえ置期間」のある定額郵便貯金であつて、他に格別の事由のない
かぎり、日常家事における家計処理の便宜のためになされたものとは認め難いとこ
ろ、原審における第一審原告Aおよび控訴人各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総
合すれば、右貯金証書と印鑑はもつぱらB自身が所持保管してきたことが認められ
るから、右預金はBの預金であつて、Aの預金とは認め難く、Bの意思により払戻
し、譲渡をなしうるものと認めるのが相当である(Bは上記のように財産関係をめ
ぐりAとの間柄が険悪となり次第に自己の病状も悪化してきたので前途を心配し、
看病につとめてくれる控訴人夫婦の誠意に感謝する気持から、右貯金に関する預金
者の権利を控訴人に譲渡することとし、郵便局員に連絡のうえ所定の手続を経て控
訴人に対する名義変更がなされたものと認められる。)。そうすると、右預金の実
質的権利者がAであることを前提とする被控訴人らの損害賠償請求は、その余の点
について判断するまでもなく、失当といわなければならない。
 二、 以上説示したとおり、被控訴人らの請求は、すべて理由がないから、原判
決中被控訴人の請求を認容した部分は不当であり、控訴に基づき、原判決中控訴人
敗訴の部分を取消して被控訴人の請求を棄却すべきものとし、附帯控訴は理由がな
いから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、
第九三条第一項本文を適用した上主文のとおり判決する。

昭51・7・19最判 遺贈登記がなされた後に抹消登記を求める相手方
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
所有権移転仮登記抹消登記手続本訴等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     原判決主文に「被控訴人の本訴請求及び控訴人の反訴請求はいずれもこれを棄却する。」とあるの
を「被控訴人の本訴請求中遺言無効確認請求及び控訴人の反訴請求はいずれもこれを棄却する。被控訴
人の本訴請求中所有権移転仮登記抹消登記手続請求については訴を却下する。」と更正する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人田中正司、同原誠の上告理由第一点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし正当として是認することができ、その過
程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 同第二点について
 遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法一〇一二条)、遺贈の目的
不動産につき相続人により相続登記が経由されている場合には、右相続人に対し右登記の抹消登記手続を
求める訴を提起することができるのであり、また遺言執行者がある場合に、相続人は相続財産についての処
分権を失い、右処分権は遺言執行者に帰属するので(民法一〇一三条、一〇一二条)、受遺者が遺贈義務
の履行を求めて訴を提起するときは遺言執行者を相続人の訴訟担当者として被告とすべきである(最高裁
昭和四二年(オ)第一〇二三号、同四三年五月三一日第二小法廷判決・民集二二巻五号一一三七頁)。更
に、相続人は遺言執行者を被告として、遺言の無効を主張し、相続財産について自己が持分権を有すること
の確認を求める訴を提起することができるのである(最高裁昭和二九年(オ)第八七五号、同三一年九月一
八日第三小法廷判決・民集一〇巻九号一一六〇頁)。右のように、遺言執行者は、遺言に関し、受遺者ある
いは相続人のため、自己の名において、原告あるいは被告となるのであるが、以上の各場合と異なり、遺贈
の目的不動産につき遺言の執行としてすでに受遺者宛に遺贈による所有権移転登記あるいは所有権移転
仮登記がされているときに相続人が右登記の抹消登記手続を求める場合においては、相続人は、遺言執
行者ではなく、受遺者を被告として訴を提起すべきであると解するのが相当である。けだし、かかる場合、遺
言執行者において、受遺者のため相続人の抹消登記手続請求を争い、その登記の保持につとめることは、
遺言の執行に関係ないことではないが、それ自体遺言の執行ではないし、一旦遺言の執行として受遺者宛
に登記が経由された後は、右登記についての権利義務はひとり受遺者に帰属し、遺言執行者が右登記につ
いて権利義務を有すると解することはできないからである。右と同旨の原審の判断は正当として是認するこ
とができる。そして、右のように受遺者を被告とすべきときに遺言執行者を被告として提起された訴は不適法
としてこれを却下すべきであるところ、原判示によれば原判決も右と同旨であることが明らかである。そうする
と、原判決主文中被控訴人の本訴請求はこれを棄却するとした部分は、明白な誤記であるから、本訴請求
中、遺言無効確認請求はこれを棄却し、所有権移転仮登記抹消登記手続請求については訴を却下すること
とし、主文二項のとおり、更正する。
 右のとおりであるから、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法一九四条、四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。

昭51・8・30最判 価額弁償額算定の基準時
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
持分権移転登記等請求
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人下山量平の上告理由一について
 原審の裁判長が裁判の評議に加わりその評決の後に転任したものであることは、記録は添付されている
原判決正本に徴し明らかであるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決
を非難するものであつて、採用することができない。
 同二(1)について
 遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受
遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するものと解するのが相当
であつて(最高裁昭和三三年(オ)第五〇二号同三五年七月一九日第三小法廷判決・民集一四巻九号一七
七九頁、最高裁昭和四〇年(オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一
一八三頁、最高裁昭和四二年(オ)第一四六五号同四四年一月二八日第三小法廷判決・裁判集民事九四
号一五頁参照)、侵害された遺留分の回復方法としては贈与又は遺贈の目的物を返還すべきものである
が、民法一〇四一条一項が、目的物の価額を弁償することによつて目的物返還義務を免れうるとして、目
的物を返還するか、価額を弁償するかを義務者である受贈者又は受遺者の決するところに委ねたのは、価
額の弁償を認めても遺留分権利者の生活保障上支障をきたすことにはならず、一方これを認めることによ
つて、被相続人の意思を尊重しつつ、すでに目的物の上に利害関係を生じた受贈者又は受遺者と遺留分
権利者との利益の調和をもはかることができるとの理由に基づくものと解されるが、それ以上に、受贈者又
は受遺者に経済的な利益を与えることを目的とするものと解すべき理由はないから、遺留分権利者の叙上
の地位を考慮するときは、価額弁償は目的物の返還に代わるものとしてこれと等価であるべきことが当然に
前提とされているものと解されるのである。このようなところからすると、価額弁償における価額算定の基準
時は、現実に弁償がされる時であり、遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあつては現実
に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であると解するのが相当である。
所論指摘の民法一〇二九条、一〇四四条、九〇四条は、要するに、遺留分を算定し、又は遺留分を侵害す
る範囲を確定するについての基準時を規定するものであるにすぎず、侵害された遺留分の減殺請求につい
て価額弁償がされるときの価額算定の基準時を定めたものではないと解すべきである。右と同旨の原審の
判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同二(2)について
 原判決添付別紙目録一、二の土地に関する被上告人の請求には、民法一〇四〇条一項本文に基づいて
価額弁償を請求する主位的請求と民法七〇九条に基づいて損害賠償を請求する予備的請求があり、原審
は、主位的請求を棄却し、予備的請求の一部を認容したものであるところ、所論は、ひつきよう、上告人が勝
訴した主位的請求に関する原審の判断を非難するものであるから、適法な上告理由にあたらない。
 同二(3)並びに上告人の上告理由(一)及び(二)について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、原判決に
所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するも
のにすぎず、採用することができない。
 上告人の上告理由(三)について
 所論は、原審における主張を経ない事実に基づく原判決非難であるから、適法な上告理由にあたらない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭51・11・24大阪高判 民法958条による公告の期間内に権利の申出をしなかった相続人の地位(上告)
大阪高等裁判所?? ?? 第四民事部→最判昭56・10・30
相続権確認等請求事件
主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一、 申立。
 (控訴人)
 一、 原判決を取消す。
 二、 (本位的請求)
 1、 控訴人および選定者(以下控訴人らと略称)が被相続人亡A(本籍大阪市
a区b町c番地、最後の住所神戸市d区e町fg番地h、昭和四三年一〇月二七日
死亡)の相続人たる地位を有することを確認する。
 2、 訴訟費用(参加により生じた費用を含む。)は、第一、二審とも被控訴人
の負担とする。
 (予備的請求)
 1、 被控訴人亡A相続財産管理人Bの管理下にある被相続人Aの遺産中、特別
縁故者に対する相続財産分与後の残余財産に対して、控訴人(選定当事者)Cにつ
き三分の一、選定者Dにつき三分の一、同E、同F、同G、同H、同I、同Jにつ
き各一八分の一のそれぞれの割合による残余財産の分配請求権のあることを確認す
る。
 2、 訴訟費用(参加により生じた費用を含む。)は、第一、二審とも被控訴人
の負担とする。
 (被控訴人・補助参加人)
 主文第一、二項同旨。
 第二、 当事者らの主張・立証は、控訴代理人において原判決に対する不服の理
由を別紙一のとおり陳述し、被控訴人補助参加人代理人において、これに対する答
弁を別紙二のとおり陳述し、被控訴人・補助参加人において甲第二二号証の成立を
認めると述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれをここに引用する。
         理    由
 一、 訴外Aが昭和四三年一〇月二七日死亡したが、相続人のあることが明らか
でなかつたため、神戸家庭裁判所において相続人不存在の手続が進められ、被控訴
人がその相続財産管理人に選任されていること、被控訴人は昭和四四年六月二〇日
民法九五八条に定める公告(以下これを最終公告という。)をなし、その権利主張
をなすべき期限(以下これを最終公告期限という。)を昭和四五年二月一三日と定
めたこと、控訴人ら(控訴人および選定者らを指す。以下同じ)は訴外Aの相続人
であると主張し乍らも、右期限内にその権利の申出をしなかつたこと、以上の事実
は当事者間に争いがない。
 控訴人の主張は、要するに、(1)本位的請求の前提をなす、本件においては訴
外K他三名が右最終公告期限内に相続人の申出をし、次いで相続権確認訴訟を提起
したことに因り、右最終公告期限が該訴訟の確定時である昭和四八年九月一一日ま
で延伸された旨の主張と、(2)予備的請求の前提をなす、民法九五八条の二の規
定は最終公告期限を徒過した相続人の相続権の行使を制限するものであつても、こ
れを失わしめるものではない旨の主張とから成つているが、右はいずれも民法九五
八条の二の規定の解釈問題であるので、次項に一括して考察する。
 <要旨第一・要旨第二>二、 (一)民法九五一条ないし九五九条の規定を通覧す
れば九五八条の二の規定は、最終公告期限内に相続人</要旨第一・要旨第二>たるこ
との申し出をしなかつた相続人は、九五八条の公告に掲げられた期限の徒過によ
り、相続財産法人、ひいては特別縁故者に対する分与後にはその残余財産が帰属す
べき国庫に対し、その権利を行うことができないものとしたものと解すべきであつ
て、前掲控訴人の主張の如く、最終公告期限内に何人かが相続人たることの申出を
し、且つその者の相続権の存否が訴訟で争われている間は、他の相続人についても
該訴訟の確定時まで公告の期間が延伸されるものと解することはできない。
 (二) 控訴人は、前記の如き相続権存否確認訴訟が係属した場合、民法九五八
条の三第二項に定める特別縁故者の請求期間の始期が繰り下げられると解せられて
いることとの対比において、九五八条の二の期間もその間満了しないと解すべき旨
主張する。しかし、その場合は、請求期間の始期か繰り下げられるというよりも、
その終期が該訴訟の確定時から三ケ月後にまで延伸されると解すべきものであろう
が、いずれにせよ、九五八条の三に定める特別縁故者の請求権は、他に相続人のな
いことが確定して始めて生ずべきものであるから、その未確定の間、右請求権の消
滅を来さざるものと解することにそれなりの意味が存するも、九五八条の最終公告
に応じて申し出ずべき相続人の権利は、他の相続人の申出の有無とは関わりのない
ものであるから、これを同一に論ずるわけにはいかず、その結果が別途に帰するこ
とをもつて特別縁故者の請求権のみが不当に保護されるということはできない。
 そもそも九五八条の二により相続人が失権するのは、相続財産法人に対する関係
であるから、若しその最終公告期限内に申出を怠つていても、偶偶他に正当な相続
人の申出があり、相続人のあることが明らかになつたときは、九五五条により相続
財産法人は存立せざりしものと看做されるから、右申出を怠つていた相続人であつ
ても、爾後その者に対しては自己の相続権を主張して遺産の分配に与ることを妨げ
ないと解すべきてある。
 そうだとすると、控訴人の主張にして実益を生ずるのは、自ずとその相続人たる
ことの申出をした第三者の相続権が認められない場合に限られて来るのであつて、
かくて控訴人の主張は、本来自己の権利について尽すべき申出の期限を徒過してそ
の保全を怠つた者が、偶偶第三者が、しかも理由のない申出をなしていたことによ
つて、その本来罷るべき不利益を救済されるという極めて奇異な結果を招来せしめ
ることとなるのであつて、このような結果が容認される解釈は、衡平上到底これを
採り得ないとともに、右相続財産法人に対する相続人の権利の喪失は絶対的なもの
であつて、九五八条の三の分与の後、残余財産が生ずると否と、またその残余財産
の国庫帰属の時期が、相続財産管理人がこれを国庫に引き継いだ時であることも、
これに影響を及ぼすべきものではない。
 もとより、右相続財産法人に対して絶対的に喪失するということは、ひいて九五
八条の三により分与を受けた特別縁故者に対しては勿論、残余財産の引継を受くる
国庫に対しても爾後その権利を主張し得ざるに至り、実体上相続権が失われること
となる。かかる結果の招来については相続人不存在の相続財産の国庫帰属の性質
を、私権に基礎を置き、国庫を残余財産受取人とする法律の規定に基づく特定承継
的取得であると把握し、国庫は前主(相続財産法人)の権利以上のものを取得し得
ず、前主の権利に付着する負担を承継すべきであるとして、九五八条ないし九五九
条の改正追加(昭和三七年法律第四〇号による)前の九五九条の解釈において、最
終公告期間満了後においても残余財産の国庫引渡前には九五五条の適用があると解
した立場(控訴人が原審提出の昭和五一年四月五日付準備書面で援用する東京家庭
裁判所昭和三六年第二回身分法研究会多数説)からは、前記法条の改正追加後にお
いても、なお控訴人主張の如き反対が唱えられる余地がないではなかろう。しか
し、国庫帰属の性質が承継取得であつても、相続財産法人が蒙らない負担をも承継
すべきいわれはなく、昭和三七年の前記法条の改正追加は、特別縁故者への分与の
制度を導入したことに伴い、相続財産の帰属を迅速に確定して爾後の法律関係の錯
綜を避け、相続財産分与手続の円滑な遂行を図るべく、敢えて相続人の失権の時機
を明確にしたものと解すべきであるから、これによつて反射的に爾後相続人が残余
財産ひいてはそれが帰属すべき国庫に対する関係でも相続権を喪失するに至る結果
の招来は、法がこれを予想しつつも、公告に応えて自己の権利の申出を怠つた者に
その不利益を課することを是認したものとみるべきであつて、やむを得ないところ
である。
 そう解しても右相続財産法人制度の趣旨・目的に照らし、憲法二九条に反するも
のではないというべきである。
 (三) 控訴人は更に相続財産法人にも民法八〇条を類推適用して除斥期間内に
申し出でなかつた相続人も、残余財産に対して権利を行使し得ると主張するが、通
常申出債権者間の利害の調整という観念を容れる余地のない一般法人の清算手続の
場合と、相続人、相続債権者、受遺者、特別縁故者間の利害の調整を要する相続財
産法人の清算および分与手続の場合とを同一には論じ得ない。この点形式的に考察
する限りにおいては、失権相続人(最終公告期限後の申出相続人。以下同じ)が現
われた場合でもこれを無視して特別縁故者への分与を行い、若し残余財産を生じた
場合にのみ、その分配に与らしめればよいのであるから、失権相続人も、残余財産
への分配請求のみに限つては、これを許容することを妨げないともいえそうであ
る。しかし、現実の問題として、特別縁故者への分与前に現われた失権相続人にも
残余財産への分配請求権を認めるとした場合、家庭裁判所が分与審判の過程で、右
失権相続人の出現を全く無視することは事実上困難といわざるを得ない。且つそう
した失権相続人に残余財産への分配請求権を認むるとすれば、残余財産の有無およ
びその範囲につき、失権相続人を利害関係人として関与させ、審判に対する抗告権
を与えることをも許さなければならないであろう。
 (極端な場合、分与の結果残余財産が零となつたとしても、失権相続人がこれに
不服を申し立てられないのだとしたら、控訴人の主張を認めてみても実益に乏し
い。)。かくて残余財産についてであれ、これに失権相続人の権利主張を許すこと
は、折角相続財産を凍結して清算および分与手続の円滑化を図ろうとした法の趣旨
を没却せしめるものであつて、それが、先に前項に説示した絶対的失権の理由でも
あるのであるから、相続財産法人が法人であることに依拠して、明文をもつてその
準用を定めていない(九五七条二項参照)民法八〇条をたやすく類推適用すること
もできない。
 三、 すると、控訴人の本位的請求ならひに予備的請求は、いずれもその前提と
する主張が理由なくこれを採り得ず、前掲当事者間に争いのない事実関係の下にお
いては控訴人らは真正な相続人であつたとしても失権したものであつて、右両請求
ともその余の点を判断するまでもなく失当として排斥を免れない。よつて控訴人の
両請求をいずれも棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないので、民訴
法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

昭52・2・17東京高判 相続財産に対する相続人の寄与と遺産の分割
東京高等裁判所?? ?? 第一〇民事部
遺産分割審判に対する抗告事件
主    文
     原審判を取消す。
     本件を宇都宮家庭裁判所に差戻す。
         理    由
 第四六四号事件抗告の趣旨は、「原審判を取消し、更に相当の裁判を求める。」
というにあり、その理由は別紙一記載のとおりであり、第五三〇号事件抗告の趣旨
は、主文同旨の裁判を求めるというにあり、その理由は別紙二記載のとおりであ
る。
 一 第四六四号事件抗告理由一(1)、第五三〇号事件抗告理由一(1)につい
 <要旨>共同相続人のうちに相続財産の維持または増加につき顕著な寄与貢献をし
た者があり、その程度が、配偶者</要旨>については民法第七五二条に基づく通常の
協力扶助の程度を超え、直系卑属については民法第七三〇条に基づく通常の相互扶
助の程度を超える場合には、公平の見地に立つて、民法上の共有持分あるいは不当
利得返還請求権等の規定を類推適用したうえ、これを民法第九〇六条所定の一切の
事情として考慮し、当該相続人は、法定相続分とは別に、右寄与の程度に応じ、相
続財産中に潜在的な持分を取得するものとして、遺産分割に際し、申立によりその
清算をすることができると解するのが相当である。そして、右清算にあたつては、
相続財産の維持増加に貢献した当該相続人の寄与分を評価算定し、これを相続財産
の価額から控除した残額につき法定相続分に従つて算出された価額に右寄与分を加
えた価額が当該相続人の取得分になると解すべきである。
 本件についてこれをみるに、原審記録によると、第四六四号事件抗告人Aは、大
正一三年九月三〇日被相続人Bと婚姻し、以来同人とともに約三五年間農業に従事
してきたが、昭和三五年二月二六日右Bが死亡した頃からは神経痛などで健康が勝
れないため農業に従事していないことが認められ、婚姻後の大正一五年から昭和一
三年にかけて右B名義で原審判添付第一目録記載番号14、15、39、40、4
1、68、69、72の八筆の土地を取得していることが窺われ、また第五三〇号
事件抗告人Cは、右Bの長男であり、昭和二四年三月旧制青年師範学校卒業後、新
制中学の教師となつたが、一年でやめて家業に戻り、右Bとともに約一〇年間農業
に従事し、右B死亡後も相続財産である原審判添付第一、第二目録記載の土地建物
全部を占有して農業を継続してきたことが認められ、右Bとともに農業に従事して
いる間に右B名義で取得した不動産は特に見当らないが、少くとも本件相続財産た
る前記不動産を維持してきたことが窺われる。
 従つて、他に特段の事情のない限り、抗告人A、同Cは、相続財産の維持増加に
つき顕著な寄与貢献があつたと考えられるのである。そして、原審も、抗告人Aが
被相続人Bとともに約三五年間、抗告人Cが右Bとともに約一〇年間それぞれ農業
に従事した事実を認めているのであるから、原審としては、更に抗告人A、同Cが
いかなる立場でどの程度農業経営に関与したか、同人らの寄与貢献による被相続人
Bの財産の維持増加の程度、これに対し同人らが被相続人Bから報酬あるいは贈与
を受けていたか否か、同人らの行為により減少させた被相続人の財産の有無などの
点を審理し、もつて同人らが被相続人の遺産中に取得すべき寄与分の有無及びその
価額を確定すべきである。しかるに、原審が右寄与分の点につき審理せず、抗告人
A、同Cの各取得分を単に法定相続分のみであると認めて遺産分割をしたのは、審
理不尽の違法があるといわなければならない。
 二 第五三〇号事件抗告理由二(2)について
 当審において抗告人Cから提出されたa村森林組合長作成の証明書によると、抗
告人Cは、本件相続開始後の昭和三五年から昭和四九年までの間に原審判添付第一
目録記載番号28、34、35、44、46、50、51、53、55ないし5
8、60、63、64、67、70、71、77の山林一九筆の土地上に少くとも
杉、檜合計二三、六三〇本を植栽していることが認められる。従つて、特別の事情
がない限り、右立木は抗告人Cの所有に属するものというべきであり、右立木は相
続財産から除外するのが相当である。しかるに、原審は、特別の事情の存否につい
てなんら審理することなく、これを相続財産に含めて遺産分割の対象としているの
であるから、遺産の範囲について審理不尽の違法があるものといわざるをえない。
 よつて、第四六四号事件抗告及び第五三〇号事件抗告はいずれも理由があるか
ら、その余の抗告理由につき判断するまでもなく、原審判を不当として取消し、更
に審理を尽くさせるため家事審判規則第一九条第一項に従い原裁判所に差戻すこと
とし、主文のとおり決定する。

昭53・2・24最判 相続放棄と利益相反行為(原審49.12.26)
最高裁判所第二小法廷(S49.12.26東京高等裁判所)
相続回復
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人横堀晃夫の上告理由について
 共同相続人の一部の者が相続の放棄をすると、その相続に関しては、その者は初めから相続人とならな
かつたものとみなされ、その結果として相続分の増加する相続人が生ずることになるのであつて、相続の放
棄をする者とこれによつて相続分が増加する者とは利益が相反する関係にあることが明らかであり、また、
民法八六〇条によつて準用される同法八二六条は、同法一〇八条とは異なり、適用の対象となる行為を相
手方のある行為のみに限定する趣旨であるとは解されないから、相続の放棄が相手方のない単独行為で
あるということから直ちに民法八二六条にいう利益相反行為にあたる余地がないと解するのは相当でない。
これに反する所論引用の大審院の判例(大審院明治四四年(オ)第五六号同年七月一〇日判決・民録一七
輯四六八頁)は、変更されるべきである。しかしながら、共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は
一部の者を後見している場合において、後見人が被後見人を代理してする相続の放棄は、必ずしも常に利
益相反行為にあたるとはいえず、後見人がまずみずからの相続の放棄をしたのちに被後見人全員を代理し
てその相続の放棄をしたときはもとより、後見人みずからの相続の放棄と被後見人全員を代理してするその
相続の放棄が同時にされたと認められるときもまた、その行為の客観的性質からみて、後見人と被後見人
との間においても、被後見人相互間においても、利益相反行為になるとはいえないものと解するのが相当で
ある。
 ところが、原審は、後見人がその共同相続人である被後見人を代理してする相続の放棄は、自己及び被後
見人全員について相続の放棄をするときであつても、常に利益相反行為にあたるとの見解のもとに、(1)昭
和二三年二月二六日に死亡したAの相続人は、同人と先妻亡Bとの間の子でいずれも成年に達しているC、
D外五名と、後妻亡Eとの間の子でいずれも未成年の被上告人ら四名との一一名であつた、(2)被上告人ら
の後見人に選任されたDの名義で、同年五月一〇日宇都宮家庭裁判所に、被上告人らは相続の放棄をす
る旨の申述があり、右申述は同月一七日受理された、(3)Bとの間の子も、Cを除き、D外五名が相続の放棄
をした、との事実を確定したのみで、Dの相続の放棄と被上告人らの相続の放棄との各時期について触れる
ことなく、Dが被上告人らを代理してした相続の放棄は利益相反行為にあたり無効であるとして、被上告人ら
の上告人に対する本訴請求を認容した。この原審の判断は、民法八六〇条によつて準用される同法八二六
条の解釈を誤つたものといわなければならず、この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、
論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、Dの相続の放棄と被上告人らの相続の放棄の各時
期等についてさらに審理を尽す必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭53・12・20最判 共同相続人間における相続回復請求権
最高裁判所大法廷(高松高等裁判所)
登記手続等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人田中義明、同田中達也の上告理由について
 一 原審が適法に確定した本件の事実関係は、おおむね次のとおりである。
 (1) 第一審判決添付の別紙目録(一)、(二)、(三)記載の各不動産は、もと訴外Aの所有であつたが、昭和
二八年一二月一五日同訴外人の死亡に伴う遺産相続によつて、同訴外人の妻である訴外Bが三分の一、そ
の長男訴外亡C(同訴外人は、昭和一九年に戦死した。)の子である上告人Dが六分の一、その二男訴外亡
E(同訴外人は、昭和二一年七月一五日死亡した。)の子である訴外F及び被上告人Gが各一二分の一、そ
の三男である上告人H及びその四男である上告人Iが各六分の一の割合をもつて、これを共同相続した。
 (2) ところが、上告人Dは右目録(一)記載の不動産について、上告人Hは右目録(二)記載の不動産につい
て、上告人Iは右目録(三)記載の不動産について、いずれも昭和二八年一二月一五日相続を原因として各単
独名義の所有権移転登記を経由した。
 (3) 右各不動産を各上告人の単独所有とし、かつ、単独名義の所有権移転登記を経由するにつき被上告
人の同意を得たことについては、立証がない。
 二 以上の事実関係のもとにおいて、上告人らが、上告人らの右単独名義の所有権移転登記が被上告人
の共有持分権の侵害にあたるとしても相続権に基づいて相続財産の回復を求める請求は共同相続人相互
の間においても相続回復請求権の行使にほかならないものであるところ、被上告人の本件各不動産に対す
る相続回復請求権は被上告人が上告人らの所有権移転登記のされた事実を知つた時から五年を経過した
ことにより時効によつて消滅したと主張したのに対し、原審は、共同相続人が遺産分割の前提として相続財
産について他の共同相続人に対し共有関係の回復を求める請求は、相続回復請求ではなく、通常の共有権
に基づく妨害排除請求であると解するのが相当であるとして、上告人らの主張を排斥し、被上告人の請求を
認容した。
 三 思うに、民法八八四条の相続回復請求の制度は、いわゆる表見相続人が真正相続人の相続権を否定
し相続の目的たる権利を侵害している場合に、真正相続人が自己の相続権を主張して表見相続人に対し侵
害の排除を請求することにより、真正相続人に相続権を回復させようとするものである。そして、同条が相続
回復請求権について消滅時効を定めたのは、表見相続人が外見上相続により相続財産を取得したような事
実状態が生じたのち相当年月を経てからこの事実状態を覆滅して真正相続人に権利を回復させることにより
当事者又は第三者の権利義務関係に混乱を生じさせることのないよう相続権の帰属及びこれに伴う法律関
係を早期にかつ終局的に確定させるという趣旨に出たものである。
 1 そこで、まず、右法条が共同相続人相互間における相続権の帰属に関する争いの場合についても適用
されるべきかどうかについて、検討する。
 (一) 現行の民法八八四条は昭和二二年法律第二二二号による改正前の民法のもとにおいて家督相続回
復請求権の消滅時効を定めていた同法九六六条を遺産相続に準用した同法九九三条の規定を引き継いだ
ものであると解されるところ、右九九三条は遺産相続人相互間における争いにも適用があるとの解釈のもと
に運用されていたものと考えられ(大審院明治四四年(オ)第五六号同年七月一〇日判決・民録一七輯四六
八頁、最高裁昭和三七年(オ)第一二五八号同三九年二月二七日第一小法廷判決・民集一八巻二号三八
三頁の事案参照)、また、右法律改正の際に共同相続人相互間の争いについては民法八八四条の適用を
除外する旨の規定が設けられなかつたという経緯があるばかりでなく、(二) 相続人が数人あるときは、各相
続財産は相続開始の時からその共有に属する(民法八九六条、八九八条)ものとされ、かつ、その共有持分
は各相続人の相続分に応ずる(民法八九九条)ものとされるから、共同相続人のうちの一人又は数人が、相
続財産のうち自己の本来の相続持分をこえる部分について、当該部分についての他の共同相続人の相続
権を否定し、その部分もまた自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し、他の共同相続人の相続
権を侵害している場合は、右の本来の相続持分をこえる部分に関する限り、共同相続人でない者が相続人
であると主張して共同相続人の相続財産を占有管理してこれを侵害している場合と理論上なんら異なるとこ
ろがないと考えられる。さらに、(三) これを第三者との関係においてみるときは、当該部分の表見共同相続
人と真正共同相続人との間のその部分についての相続権の帰属に関する争いを短期間のうちに収束する
必要のあることは、共同相続人でない者と共同相続人との間に争いがある場合と比較して格別に径庭があ
るわけではない(たとえば、共同相続人相互間の争いの場合に民法八八四条の規定の適用がないものと解
するときは、表見共同相続人からその侵害部分を譲り受けた第三者は相当の年月を経たのちにおいてもそ
の部分の返還を余儀なくされ、また、相続債権者は共同相続人の範囲又はその相続分が相当の年月にわ
たり確定されない結果として債権の行使につき不都合を来すこと等が予想される。)。
 以上の諸点にかんがみると、共同相続人のうちの一人又は数人が、相続財産のうち自己の本来の相続持
分をこえる部分について、当該部分の表見相続人として当該部分の真正共同相続人の相続権を否定し、そ
の部分もまた自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し、真正共同相続人の相続権を侵害してい
る場合につき、民法八八四条の規定の適用をとくに否定すべき理由はないものと解するのが、相当である。
 なるほど、民法九〇七条は、共同相続人は被相続人又は家庭裁判所が分割を禁じた場合を除くほか何時
でもその協議で遺産の分割をすることができ、協議が調わないとき又は協議をすることができないときはその
分割を家庭裁判所に請求することができる旨を定めている。しかしながら、(一) 右は、共同相続人の意思に
より民法の規定に従い各共同相続人の単独所有形態を形成確定することを原則として何時でも実施しうる
旨を定めたものであるにとどまり、相続開始と同時に、かつ、遺産分割が実施されるまでの間は、可分債権
(それは、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有
関係には立たないものと解される。したがつて、この場合には、共同相続人のうちの一人又は数人が自己の
債権となつた分以外の債権を行使することが侵害行為となることは、明白である。)を除くその他の各相続財
産につき、各共同相続人がそれぞれその相続分に応じた持分を有することとなると同時に、その持分をこえ
る部分については権利を有しないものであり、共同相続人のうちの一人又は数人による持分をこえる部分の
排他的占有管理がその侵害を構成するものであることを否定するものではないというべきである。(もつとも、
遺産の分割前における共同相続人の各相続財産に対する権利関係が上述のように共有であるとする以上、
共同相続人のうちの一人若しくは数人が相続財産の保存とみられる行為をし、又は他の共同相続人の明示
若しくは黙示の委託に基づき、あるいは事務管理として、自己の持分をこえて相続財産を占有管理すること
が、ここにいう侵害にあたらないことはいうまでもない。)また、(二) 遺産の分割が行われるまで遺産の共有
状態が保持存続されることが望ましいとしても、遺産の分割前に共同相続人のうちの一人又は数人による相
続財産の侵害の結果として相続財産の共有状態が崩壊し、これを分割することが不能となる場合のあること
は、共同相続人のうちの一人又は数人が侵害した相続財産を時効により取得し又は侵害した相続動産を第
三者に譲渡した結果第三者がこれを即時取得した場合において最も明らかなように、事実として否定するこ
とのできないところである。民法九〇七条は、遺産の共有状態が崩壊したのちにおいてもその共有状態がな
お存続するとの前提で遺産の分割をすべき旨をも定めていると解すべきではない。
 2 次に、共同相続人がその相続持分をこえる部分を占有管理している場合に、その者が常にいわゆる表
見相続人にあたるものであるかどうかについて、検討する。
 思うに、自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、叉はその者に相続権があると信ぜられる
べき合理的な事由があるわけではないにもかかわらず自ら相続人であると称し、相続財産を占有管理する
ことによりこれを侵害している者は、本来、相続回復請求制度が対象として考えている者にはあたらないも
のと解するのが、相続の回復を目的とする制度の本旨に照らし、相当というべきである。そもそも、相続財産
に関して争いがある場合であつても、相続に何ら関係のない者が相続にかかわりなく相続財産に属する財
産を占有管理してこれを侵害する場合にあつては、当該財産がたまたま相続財産に属するというにとどま
り、その本質は一般の財産の侵害の場合と異なるところはなく、相続財産回復という特別の制度を認めるべ
き理由は全く存在せず、法律上、一般の侵害財産の回復として取り扱われるべきものであつて、このような
侵害者は表見相続人というにあたらないものといわなければならない。このように考えると、当該財産につい
て、自己に相続権かないことを知りながら、又はその者に相続権があると信ぜられるべき合理的事由がある
わけではないにもかかわらず、自ら相続人と称してこれを侵害している者は、自己の侵害行為を正当行為で
あるかのように糊塗するための口実として名を相続にかりているもの又はこれと同視されるべきものであるに
すぎず、実質において一般の物権侵害者ないし不法行為者であつて、いわば相続回復請求制度の埓外に
ある者にほかならず、その当然の帰結として相続回復請求権の消滅時効の援用を認められるべき者にはあ
たらないというべきである。
 これを共同相続の場合についていえば、共同相続人のうちの一人若しくは数人が、他に共同相続人がい
ること、ひいて相続財産のうちその一人若しくは数人の本来の持分をこえる部分が他の共同相続人の持分
に属するものであることを知りながらその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、又はその部分
についてもその者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由(たとえば、戸籍上はその者
が唯一の相続人であり、かつ、他人の戸籍に記載された共同相続人のいることが分明でないことなど)があ
るわけではないにもかかわらずその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、これを占有管理して
いる場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されている場合にはあたらず、したがつて、その一人
又は数人は右のように相続権を侵害されている他の共同相続人からの侵害の排除の請求に対し相続回復
請求権の時効を援用してこれを拒むことができるものではないものといわなければならない。
 3 このようにみてくると、共同相続人のうちの一人又は数人が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を
こえる部分について、当該部分の表見相続人として当該部分の真正共同相続人の相続権を否定し、その部
分もまた自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し、真正共同相続人の相続権を侵害している場
合につき、民法八八四条の規定の適用をとくに否定すべき理由はないものと解するのが相当であるが、一般
に各共同相続人は共同相続人の範囲を知つているのが通常であるから、共同相続人相互間における相続
財産に関する争いが相続回復請求制度の対象となるのは、特殊な場合に限られることとなるものと考えられ
る。
 四 そこで、本件についてみると、前に判示した事実関係のもとにおいては、共同相続人の一部である上告
人らは、相続財産に属する前記各不動産について、他に共同相続人として被上告人がいることを知りながら
それぞれ単独名義の相続による所有権移転登記をしたものであることが明らかであり、しかも、上告人らの
本来の持分をこえる部分につき上告人らのみに相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由
があることは、何ら主張立証がされていない。
 五 そうすると、被上告人から上告人らに対し右各不動産についてされた上告人らの単独名義の相続登記
の抹消を求める請求は民法八八四条所定の消滅時効にかからないと解したうえ、右請求は、右各登記につ
いて現に登記名義を有している各上告人の持分の割合を一二分の一一、被上告人の持分の割合を一二分
の一とする更正登記を求める限度で理由があるとしてこれを認容した原審の判断は、結論において相当とし
て是認することができる。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官辻正己、同服部顯、同
環昌一、同藤崎萬里の各補足意見、裁判官大怺一郎、同吉田豊、同団藤重光、同乗本一夫、同本山亭、
同戸田弘の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 裁判官辻正己、同服部顯の補足意見は、次のとおりである。
 われわれは、多数意見とその見解を一にするものであるが、多数意見のうち「自ら相続人でないことを知り
ながら相続人であると称し、又はその者に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由があるわけではない
にもかかわらず自ら相続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを侵害している者は、本
来、相続回復請求制度が対象として考えている者にはあたらないもの」とする点については、従来一般に説
かれているところと多少異なるところがあるかとも思われるので、その理由を補足するのが妥当であると考え
る。そこで、この点をわれわれの理解するところに従つて述べると、次のとおりである。
 われわれは、相続回復請求制度の本旨、特にこの制度が一般の財産権の侵害の回復に関する制度とは
別に設けられている法意に思いをいたすときは、相続回復請求制度は、相続財産の相続人であると称してこ
れを占有管理して侵害しており、しかもその者に相続権があると信ぜられるべき合理的事由の存在する結果
としてあたかもその相続人であるかのような外観を呈している者と、当該相続財産の真正相続人との間に、
当該相続財産についての相続権の帰属について争いがある場合に、その運用をみるべきものと解するのが
相当であると考える。このような理解を前提として検討すると、
 一 相続財産につぎ目己に相続権かないことを知りながらあえてこれを占有管理して侵害している者は、当
該相続財産についての相続権が自己以外の者、すなわち結局のところその真正相続人に属することを承認
しているものにほかならないというべきであるから、たとえこのような侵害者が相続人であると自称している場
合であつても、自己に相続権がないことを知つていることがひとたび明らかにされた以上は、もはや当該相
続財産についての相続権の帰属について真に争いがあるとはいえないこととなる筋合いである。したがつ
て、このような侵害者は、相続回復請求制度の適用を主張しうる資格者とはいえないものと解するのを相当
と考える。
 二 もつとも、右一に述べたような侵害者が、不正虚構の手段等を用いて当該相続財産につきその者に相
続権があると信ぜられるべき外観を作り出し、又は不正虚構の手段等を用いて作り出された、その者に相続
権があると信ぜられるべき外観を利用し、相続人であると称して当該相続財産を占有管理している場合につ
いては、更に検討を加える必要がある。けだし、そのような場合にあつては、侵害者本人の主観的意図及び
当該外観の基本となる事実関係が不正虚構の手段等によつて作り出されたものであることはともかくとして、
少なくとも対外的・対社会的には客観的な外観が存在しているからである。しかしながら、このような場合は、
事が相続に関する点を除外して考えれば、一般の無権利者が不正虚構の手段等を用いて権利者であるか
のような外観を作り出し又は不正虚構の手段等を用いて作り出された外観を利用して行動する場合と格別
に異なるところはない。問題は、このような場合について、外観の存在と静的安全のいずれを重視するのが
妥当かにある。われわれは、法の理念とするところにかんがみ、かつ、一般の無権利者がいかに権利者であ
るかのような外観を呈していても、その外観が不正虚構の手段等によつて作り出されたものであるときは、静
的安全が重視されるものとされている場合との権衡上、相続に伴う法律関係の早期安定の要請の存在にも
かかわらず、自己に相続権のないことを知りながら相続財産を占有管理して侵害している者は、たとえ相続
人らしい外観を呈している場合であつても、これを一般の財産権の悪意の侵害者の場合と別異に取り扱うべ
きではなく、したがつて、相続回復請求制度が対象として考えている者にはあたらないとすべきであると考え
るのである。
 三 また、相続財産につきその者に相続権があると信ぜられるべき合理的事由があるわけではないにもか
かわらず自らその相続人と称している者は、相続回復請求制度の運用に関し、実質上、相続人でないことを
知りながら相続財産を侵害している者と同視して差しつかえかない場合か少なくないであろう。のみならず、
一般に、そのような者は、自らは相続人であると信じ、かつ、相続人と自称している場合であつても、それは
単にその者の主観ないし独断であるにとどまり、客観的には、そもそも「その者に相続権があると信ぜられる
べき合理的事由」があるわけではないのであるから、このような合理的事由に基づく外観、換言すれば、対
外的・社会的に相続人らしい外観を呈している者とはいえないものである。したがつて、われわれは、このよ
うな者を相続回復請求制度が対象として考えている者からはずれる者とみることは法の趣意に反するもので
はないと考えるのである。
 裁判官環昌一の補足意見は次のとおりである。
 私は、多数意見と、その判示するすべての点において見解を同じくするものであるが、大恪ル判官ほか五
裁判官の意見(以下少数意見という。)に関連して若干卑見をのべておきたい。
 一 少数意見は、その冒頭で、相続回復請求権の本質を、真正相続人が自己の相続人の地位(相続資格)
を主張して表見相続人に対して侵害の排除を求める権利であるとし、民法八八四条の定める消滅時効の制
度は、当事者又は第三者の権利義務の関係の混乱を防ぐため、相続権を真正相続人と表見相続人のいず
れか一方に早期にかつ終局的に帰属させることによつて相続人の地位に関する争いを短期間のうちに収束
することを目的としたものであるとの趣旨を説かれる。この見解に対しては、その限りにおいて、かつ、表見
相続人の意義・範囲の点を除いては、私もあえて異論を唱えるものではないが、相続回復請求の制度に関
する規定としては、例えばドイツ連邦共和国の民法が一四ケ条にわたり詳細に規定しているのとは異なり、
わが国では右民法八八四条一ケ条が存するのみであるから、制度の本旨を理解し右規定を解釈・運用しよ
うとすれば多くの疑点に直面せざるをえないのであり、その解明にあたちつは法の一般理念に矛盾すること
なく合理的にして妥当な結果に到達することを旨としなければならないと考えられる。
 ところで、昭和二二年法律第二二二号による改正前の民法(以下旧法という。)のもとでは、家ないし戸主
の制度が定められ、財産の相続とは直接関係のない戸主の地位に伴う権利(いわゆる家族に対する居所指
定権、家族の婚姻等についての同意権など)の相続が重要な意義をもつていたが、この制度が廃止された
今日では相続人としての「地位」の実質は、もつぱら被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると
いう財産権に関する資格にほかならないというべきであり、また、二人以上の相続人による共同相続の結果
として生ずる相続財産の共有の法的性質は、その分割手続や分割の態様などの点を除いては持分主義に
立つ一般の共有関係と異なるものとは解せられないから、前述の相続人の地位ないし相続資格の観点から
すれば、共同相続人は、それぞれ自己の相続分に応じて有する正当な相続持分については右にいう地位を
有するが、右の持分をこえる部分についてはこのような地位を有しないものといわなければならない。そして
共同相続人相互間において相続権の帰属をめぐつて紛争を生ずるのは後者の場合であり、それもまた相続
人の地位の争いとするに妨げないから、このような紛争にも相続回復請求の制度の働く余地があると解する
のが相当である(この見地から以下にいう「表見相続人」にはそれが共同相続人の一人である場合もそうで
ない場合もともに含むものとする。)。
 二 すでにのべたように相続回復請求の制度は当事者及び第三者の権利義務の関係の混乱を防ぐため
早期かつ終局的に相続権の帰属者を確定することをねらいとするものであり、表見相続人の勝訴が確定す
ると結果的には本来真正な相続人たる地位を有しない表見相続人に相続権が帰属するという効果を生ずる
こととなると解せられるから、前述した法の一般理念のうちでも関係者の間の利害の衡量が別して重要であ
ると考えられるので、以下この観点を中心に検討する。少数意見も第三者の利益の保護の問題については
利益衡量の必要なことに言及されるが、私の理解するところによると多数意見は、一方に真正相続人が相続
権を回復して相続財産を取りもどすことのできる利益を、他方に表見相続人自身及び第三者の立場におい
て事実状態が法秩序としてみとめられることにより享受する利益を置き、この両者についての比較衡量がさ
れなければならないことを基底として、このような衡量の結果真正相続人の利益が必ずしも常に表見相続人
や第三者のそれに優越するものとはいえないとの立場をとるものと考えられる。私は、家や戸主の制度ひい
ては真正な地位に在る者による家督相続を極めて重要視していた旧法のもとで、その九六六条が真正な家
督相続人の地位さえも一定の安定した事実状態の前にはその席を譲らなければならない場合のあることを
定めていた事実を想起するだけでも、右の多数意見の見解を納得することができると思う。たしかに戸主権
の相続ということがなくなつた今日、旧法下の制度と同一の内容の規定を存置した現行制度のもとで真正相
続人のこれによつて受ける実益が少ないことはみとめないわけにはいかないが、旧法のもとでも前記九六六
条が財産権の共同相続であつた遺産相続に準用されていたことにかんがみ、また、現行制度においても回
復請求権を行使する者としては、返還を求める財産の取得原因について、それが被相続人の占有に属した
ものであり自己が真正な相続資格を有することを主張立証すれば足りるという訴訟上の利益を享受するもの
と解されることなどに徴すると、実益が全くないとするのも相当でない。更にまた、共同相続人にとつて、公平
円満な遺産の分割が行なわれること、ひいてはこのような分割が行なわれるまで相続財産共有の状態が保
持されることが利益であるとしても、このような利益は真正相続人の利益として前述のように改めて表見相続
人及び第三者の利益との比較衡量に服すべきものであり、このような衡量を不必要とするほど優越する利益
であるとはみられない。もし共同相続人の右利益を重視する立場から共同相続人相互間には民法八八四条
の働く余地がないとすると、同じく表見的に相続権を主張する者でありながら、共同相続人の一人(それは被
相続人と身分上の関係を有するから第三者からも真正な相続人とみられ易いといえよう。)の方が、このよう
な身分関係にないのに同条の時効援用権をもつ無縁故者よりも不利益を受ける結果となるが、このような結
果は、真正な相続権擁護の立場と矛盾するとまではいえないにしても少なくとも調和するものとはいい難いと
思う。
 三 そこで右にのべた二つの利益の実質に基づいて少しく考察してみると、家や戸主の制度の廃止の事実
からもみとめられるように本来相続制度をどのように定めるかは各時代における社会的確信に応じて異なる
ことのあるべき立法政策に属する問題であるから、この見地からしても相続権擁護の要請を過大視し、その
反面として第三者等の利益に常に優越するものとすることは妥当でないが、相続制度が長い歴史的事実を
背景としており、今日においては財産の私有を保障する法制度の系譜のもとにあることを思えば、これを不
当に軽視することの許されないこともまた論をまたない。結局具体的な場合において諸般の事情を考慮して
判断するほかはないと考えられるが、多数意見はその判断の基準として、侵害者が、自ら相続人でないこと
を知りながら相続人であると称し、又はその者に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由があるわけで
はないにもかかわらず自ら相続人と称している場合を相続回復請求制度の妥当する範囲外にあるとする。こ
のことを上述の利益衡量の観点から考えてみると、自ら相続人と称し現に相続財産を占有管理している者で
あつても、それがもつともであると思わせるような社会的外観を具えているとみとめられない者は論外とし
て、たとえこのような外観を具えている者であつても、自己が真正な相続人でないことを知つているとみとめ
られる者は、結局名を相続に借り故意に虚偽の事実を主張して自己の非をおおわんとするものであるから、
このような者の利益までを法的に擁護すべきものとすることは利益衡量上明らかに妥当でなく、また、右のよ
うな知情の事実が証拠上みとめられない場合であつても、自ら相続人であると称するについて合理性を欠く
事情がみとめられるような者の利益は右と同様に解すべきものと考えられ、結局法はこのような侵害者を初
めからその名宛人としていないものというべきである。もつともこのように解すると第三者の利益を害する(場
合によつては不測の損害を与える)ことがありうるが、無権利者や無権限者と取引関係に立つ第三者の場合
など社会的外観についての第三者の信頼の保護に関連する他の諸規定の趣旨との間に格別調和を欠くよう
な不合理な解釈であるとは思われない。
 四 なお、すでにのべたように相続回復請求の制度は真正相続人と表見相続人のいずれか一方に相続権
を帰属させることによつて争いを早期に収束させることを期するものと解すべきであるから、回復請求権が時
効によつて消滅したとされた後も、相続財産上の権利が依然として請求権者に属し、表見相続人は無権利
者として事実上これを占有管理するにすぎないものと解することは、右にのべた制度本来の趣旨に沿うもの
とはいい難い。したがつて相続回復請求権が時効によつて消滅したことの反面として、表見相続人の事実上
の占有管理が法的なそれとしてみとめられる結果となるものと解せられる。すなわち一つの事実状態の存在
と一定の年月の経過の効果として、真正相続人の請求権(実質的には相続財産上の権利)が時効によつて
消滅し、いわばこれと運動して表見相続人が相続権を取得したのと同じ結果となるのであつて、この消滅時
効は一般の債権等の消滅時効のように相手方たる債務者に債務を免れさせるに止まるのとは趣を異にす
る。このように考えると右のような消滅時効を定めたことは、その実質・効果において表見相続人に相続権な
いし相続財産上の権利の短期取得時効をみとめたのと、さしたる差異がないということができる。右の消滅
時効が一般の原則に反して物権の時効による消滅をみとめた異例のものであることも相続回復請求の制度
の上述のような特別の性格に即応するものとして理解することができるし、多数意見のとる解釈が消滅時効
の規定の適用にあたつて援用権者の主観的事情を考慮するのと結果的には同じであつて時効に関する一
般原則を無視するものと批判されることも考えられるが、前記のような民法八八四条に定める消滅時効の特
別の効果に対応する合理的解釈として許されてよいものと考える。
 裁判官藤崎萬里の補足意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見の理由及び結論に同調し、また、環裁判官の補足意見四の部分にとくに賛同するものであ
るが、それに関連して若干の意見をのべておきたい。
 多数意見が相続回復請求制度の対象とされる者を限定する結果として、民法八八四条所定の消滅時効の
援用資格も限定されることとなるのであるが、右消滅時効の規定があるために相続回復請求制度がその時
効を援用する者にとつてきわめて実益の多い制度であることにかんがみれば、援用者に存する事情(それが
主観的事情であつても)によつてその援用資格を限定することに十分の理由があり、そして、援用者におい
て自己が援用資格者であることを主張立証しない限りその者が右時効による保護を与えられないと解すれ
ば、結果として、援用者の主観的事情によつて援用資格を限定することになるとしても、それほど不安定な限
定基準を定めたことにはならないと考えるのである。
 裁判官大怺一郎、同吉田豊、同団藤重光、同栗本一夫、同本山亨、同戸田弘の意見は、次のとおりであ
る。
 一 相続回復請求権は、相続人でないのにかかわらず相続人であるように見られる地位に在る者(以下、
「表見相続人」という。)が、自己の相続人としての地位を主張して真正相続人の地位(相続資格)を争い、そ
の相続人の地位を侵害している場合において、真正相続人が自己の相続人の地位を主張して表見相続人
に対して侵害の排除を求める権利である。民法八八四条が相続回復請求権について消滅時効の規定を設
けたのは、表見相続人が外見上いつたん相続により相続人としての地位を取得したような事実状態が生じた
のち相当年月を経てから右事実状態を覆滅して真正相続人にその地位を回復させることによつて惹起され
る当事者又は第三者の権利義務関係の混乱を防ぐという要請に出たものであり、真正相続人と表見相続人
のいずれか一方に早期にかつ終局的に相続人の地位を確定させて、両者の間の相続人の地位に関する争
いを短期間のうちに収束することを目的としたものである。
 そこで問題は、共同相続人相互間における持分権侵害の排除を求める請求に同条を適用することが相当
かどうかである。多数意見は、これを積極に解したうえでその適用がある場合をなるべく限定しようとするの
であるが、われわれは、はじめからその適用かないものと解するのである。
 二 思うに、相続回復請求の制度は、もともと昭和二二年法律第二二二号による改正前の民法(旧法)の
規定、さかのぼつてはボワソナード草案に基づく旧民法の規定に由来するものであつて、その制度の沿革・
本質に徴すると、本来真正相続人が表見相続人から相続人の地位を回復することを目的とするものである。
すなわち、旧民法証拠篇一五五五条が「遺産請求ノ訴権」を「相続人又ハ包括権原ノ受贈者若クハ受遺者ノ
権原ニテ占有スル者」に対する権利として規定し、かつ、同規定について個々の相続財産の買主、特別受遺
者その他特定権原に基づきその占有を取得した者は右訴権の対象とはならないとの解釈がおこなわれてい
たことに徴すれば、旧民法は相続回復請求権を相続人の地位を包括的に回復することを目的とする権利と
して定めていたことが明らかである。家督相続回復請求権について定めた旧法九六六条は、右旧民法の規
定の趣旨を引き継いだものであるから、真正家督相続人が表見家督相続人から家督相続人の地位を回復
すべき場合について規定したものである。そして、遺産相続回復請求権について定めた旧法九九三条は、右
九六六条を単に準用したものであるから、真正遺産相続人が表見遺産相続人(遺産相続人でないのにかか
わらず遺産相続人であるように見られる地位に在る者)から遺産相続人の地位を回復すべき場合について
規定したものであつて、遺産相続人相互間の関係について規定したものではないと解すべきである。けだ
し、遺産相続人はすべて真正な相続人の地位を有する者であり、遺産相続人相互間で相続権侵害が生じて
も、相続人の地位の回復ということは考えられないからである(旧法下の遺産相続回復請求権についての判
例のうちに、多数意見の引用する遺産相続人相互間の相続権に関する争いの事案に関するものがある。右
判例は、遺産相続人相互間の右争いに同法九九三条が適用されるかどうかについてなんら言及していない
が、かりに右争いに同規定が適用されるとの判断を前提としてその事件の結論を導いたとすれば、右前提た
る判断はこれを改めるべきものと考える。)。現行民法八八四条は旧法九九三条をそのまま引き継いだもの
であるから、真正共同相続人が表見共同相続人(相続人の地位を有しないのにかかわらず共同相続人であ
るように見られる地位に在る者)から相続人の地位を回復すべき場合について規定したものであつて、共同
相続人相互間の関係について規定したものではないと解すべきであり、そう解するのが、相続人の包括的な
地位の回復を目的とする相続回復請求権の制度の趣旨にそうゆえんである。
 なるほど、相続人の地位の回復のため裁判で相続財産全体について抽象的・包括的に相続権の確定・帰
属を求めてみても、個々の相続財産については裁判の効力が及ばず、かつ、現在では戸主の制度もないか
ら、右のような包括的請求(地位の回復請求)をする実益がなく、訴訟上は相続財産を構成する個々の不動
産、動産等について相続権の侵害排除、回復を求めるという方法によるほかないのであるが、この請求も相
続人の地位の回復を目的としたものであることに変りはない。ところが、共同相続人はすべて真正な相続人
の地位を有する者であるから、これらの者の間に相続人の地位の回復ということは考えられない。相続人の
地位と相続権とは別個の観念であつて、共同相続人は自己の相続分をこえる部分については相続権を有し
ないだけであり、そのため相続人の地位がないものということはできない。したがつて、共同相続人の一人が
他の共同相続人の相続持分権を侵害した場合でも、相続人の地位の回復ということが本来考えられないこ
れらの者の間においては、持分権の侵害排除、回復を求めるために相続回復請求権によることはできない
のであつて、この請求に民法八八四条を適用することは、相続回復請求制度の沿革・本質にそぐわないもの
である。
 三 さらに、右のような相続権の侵害排除、回復を求める個別的請求は、相続回復請求という特別の請求
であるといつてみても、その実質は、相続財産を構成する個々の不動産、動産等の所有権(共有持分権)そ
の他に基づく妨害排除請求(物権的請求)であることを否定することはできない。したがつて、右のような請求
に民法八八四条を適用するとすれば、実質上、本来消滅時効にかかることのない物権的請求権を時効で消
滅させる結果を招くこととなる。
 また、かりに右のような侵害排除、回復を求める請求をとくに相続回復請求として取り扱う実益があるとす
れば、それは相手方がその請求について同条所定の短期消滅時効を援用してこれを防ぐことができる点の
みに存するのであり、侵害排除、回復を求める者にとつて実益は考えられない。
 以上のように、相続権に対する侵害排除、回復を求める請求に同条を適用すると、本来消滅時効にかかる
ことのない物権的請求権を実質的に時効で消滅させる結果となり、かつ、もつぱら請求の相手方にのみ利益
をもたらす結果となることを考えれば、同条は、もともと、前記相続関係早期安定の要請にそのまま従つて弊
害を生じない場合に限つて適用される規定というべきである。表見相続人が真正相続人の相続権を侵害し
た場合は、共同相続人相互間におけるような公平円満な遺産分割を考慮する必要はなく、相続財産を、真正
相続人に帰属させるか、あるいは表見相続人のもとに形成された事実状態(相続の外観)を尊重して表見相
続人に帰属させるかだけを決めれば足りるから、相続関係早期安定の要請をそのまま容れても他に弊害を
生じないのであつて、ここに同条の存在意義を見出すことができるのである。ところが、共同相続人相互間に
おいては、後記の共同相続制度の趣旨に従つてまず相続財産の公平円満な分配を実現しなければならな
いのであるから、右のような相続関係早期安定の要請をそのまま容れるべきでなく、同条を適用することは
相当ではない。
 四 そもそも共同相続制度は、真正な相続人の地位を有するすべての相続人に何時でも相続分に応じた
相続財産の分配をうける権利を保障するものであり、その権利を実現する手段として遺産分割の方法が設
けられているのである。被相続人の死亡と同時に開始された相続財産の共有状態は遺産分割によつて解消
し、個々の相続財産が各相続人に帰属することとなるのであるが、共同相続制度の趣旨に照らすと、遺産分
割は、相続財産の帰属主体を早期に確定することよりも、相続財産を公平円満に分割することを目的とする
ものといいうるのである。また、相続財産の共有関係は、相続開始の時に数人の相続人が被相続人との間
に一定の身分関係を有していたという理由で、法律上当然に生じるものであるが、民法は、遺産分割前は、
ある相続人が被相続人とともに生活していたとか、被相続人の事業を承継したとか、あるいは相続財産を事
実上独占支配していたとかいつた事実によつて、その相続人の法律により与えられた相続持分権が変動し、
他の相続人の犠牲において右持分権が拡張することを認めていない。これらの事実は、遺産分割にあたつ
てはじめて考慮されるべきものであり(民法九〇六条参照)、それまでは、公平円満な遺産分割の目的を達
成するために、それに必要な相続財産共有の状態が維持されなければならない。そのため、共同相続人の
一人による相続財産に対する事実上の独占支配によつて他の共同相続人の持分権が侵害されたときは、
他の共同相続人は、共有持分権侵害として物権的請求権たる妨害排除請求権を行使して、何時でもその侵
害排除を求め、共有関係を回復することができるものとしなければならない。他の共同相続人の持分権を侵
害して相続財産を占有支配する共同相続人に、民法八八四条を適用して結果的にその財産の取得を認め、
相続財産共有の状態を早急に解消させることは、他の共同相続人の犠牲において専横な共同相続人を保
護する結果を招きやすく、共同相続制度の趣旨に反するものである。共同相続制度のもとにおいて当然達成
されなければならない公平円満な遺産分割という目的が、同じ相続に関する制度である民法八八四条所定
の消滅時効によつて実現を妨げられることは、法の予定しないところであり、共同相続人相互間の争いには
同規定は適用されないと解するのが相当である。このようにして相続財産共有の状態を維持することが、相
続財産の公平円満な分割に資し、ひいて被相続人を同じくする共同相続人相互間における円満な関係を維
持するのに有用であると考えられるのである。民法九〇七条が共同相続人は何時でも遺産分割を求めるこ
とができるものとしているのも、右のような趣旨に出るものというべきである。
 五 ところで、多数意見のいうように、共同相続人の一人による他の共同相続人の持分権に対する侵害が
生じた場合に、その侵害排除を求める請求について民法八八四条を適用する余地があるとすれば、持分権
を侵害された共同相続人は、将来の遺産分割に備えて、同条による時効を中断するために、かつ、その目的
のためにのみ、持分権を侵害した共同相続人を相手方として、侵害排除を求める訴を提起する必要があり、
この手続をとらない限り遺産分割に加われない危険を負わなければならない(もつとも、遺産分割の調停又
は審判の申立によつても時効は中断すると解されるが、右の申立が却下されると、時効中断はその効力を
失い、申立人がさらに既判力をともなう裁判によつて相続資格の有無等の確定を求めるため右のような訴を
提起しなければならず、その時にはすでに時効が完成し、結局遺産分割に加われなくなるおそれがある。)。
このようなことは、結局、公平円満な遺産分割を目的とする共同相続制度の趣旨にそわないものというべき
である。
 六 もつとも、共同相続人の一人が相続財産につき単独所有者として自主占有を継続し、その財産の単独
所有権を時効取得することにより、相続財産共有関係が解消することがありうることは認めなければならな
い(最高裁判所昭和四五年(オ)第二六五号同四七年九月八日第二小法廷判決・民集二六巻七号一三四八
頁参照)。多数意見は、このことをもつて民法八八四条を共同相続人相互間の争いに適用して相続財産共
有関係解消の結果を招くことを肯認する理由とするのである。しかし、もともと取得時効は法定の諸要件を充
たすことによりはじめて成立するものであるから、取得時効による相続財産共有関係の解消は、単なる一定
期間の権利不行使によつて成立する消滅時効によるそれとは、同一に論じることはできない。また、取得時
効による相続財産共有関係の解消は、相続財産が通常の共有物の性質をもち、かつ、通常の共有物につい
て共有者の一人が取得時効により単独所有権を取得することが認められることから生じる事態にすぎない。
右の取得時効その他共有物一般に共通の原因によつて共有関係が解消し、その結果相続関係が早期に確
定される場合があるからといつて、民法八八四条を共同相続人相互間の争いについて適用する根拠とする
ことはできないのである。
 七 また、多数意見は、自ら相続人でないことを知りながら相続人と称し、又はその者に相続権があると信
ぜられるべき合理的な事由がないのに自ら相続人と称して、真正相続人の相続権を侵害している者は、相
続回復請求制度の適用が予定される者(多数意見のいわゆる表見相続人)にはあたらないとしたうえ、共同
相続人相互間における相続持分権侵害についても右の理をあてはめて、共同相続人が、その本来の持分を
こえる部分が他の共同相続人の持分に属することを知りながらその部分も自己の持分に属すると称し、又は
その部分についてもその者に相続による持分権があると信ぜられるべき合理的な事由がないのにその部分
も自己の持分に属すると称して、他の共同相続人の持分権を侵害している場合は、相続回復請求制度の適
用がなく、この場合の持分権の侵害排除、回復の請求に対し被請求者たる共同相続人が相続回復請求権
の消滅時効を援用してこれを拒むことはできない、というのである。そして、多数意見は、共同相続人相互間
では共同相続人の範囲を知つているのが通常であるから、右制度の適用をみるのは特殊な場合に限られて
いると主張するのである。前記のように、相続回復請求の制度は、その消滅時効を援用する者にとつてのみ
実益のあるものであり、多数意見が共同相続人相互間における争いに右制度の適用される場合をできる限
り限定しようとするのも、ひつきよう、右消滅時効の援用資格を狭く解することによつて、民法八八四条が適
用される場合に生じる弊害を避けようとするものであろう。
 しかし、一般的な法理論からすれば、権利の侵害排除、回復の請求は、善意・無過失の侵害者又はその者
に権利があると信ぜられるべき合理的な事由がある侵害者に対してもすることができるのであり、まして、悪
意・有過失の侵害者又は右のような合理的な事由のない侵害者に対してはなおさらというべきである。しかる
に、多数意見が相続回復請求の場合には相続権侵害につき悪意の者又はその者に相続権があると信ぜら
れるべき合理的な事由のない者に対してその行使を否定するのは、多数意見のいう相続の回復を目的とす
る制度の本旨に照らしても、理論的根拠を欠くものといわなければならない。のみならず、一般に請求権の
消滅時効については、被請求者は、その者が善意・無過失であるかどうか故意・過失があるかどうかといつ
た主観的事情又はその者に権利があると信ぜられるべき合理的な事由があるかどうかといつた事情を問わ
ず、請求者の一定期間の請求権不行使の事実状態を理由に消滅時効を援用することができるというのが、
民法が規定する消滅時効に関する原理であつて、被請求者が多数意見のいう物権侵害者ないし不法行為
者にあたる者であるとしても、時効の援用を妨げられることはないはずである。しかるに、多数意見の見解に
従えば、相続回復請求権に関してのみ、被請求者に存する右のような事情によつて消滅時効の援用資格の
有無を区別する結果になるのであつて、民法の消滅時効制度の原則をそこなうものといわなければならな
い。さらに、共同相続人が他に相続持分権を有する共同相続人がいることを知らずに相続財産を独占支配し
ているという場合は、かなりひろく考えられる。たとえば、共同相続人の一人が、ほかに、他人の戸籍に実子
として届け出られた共同相続人、被相続人に認知された共同相続人、被相続人の死後親子関係が確定され
た共同相続人、相続開始時に胎児であつた共同相続人、被相続人の死後被相続人との協議離婚又は協議
離縁が取り消された共同相続人、被相続人の死後廃除が取り消された共同相続人等のいることを知らずに
相続財産を独占している場合、また、共同相続人の一人が、他の共同相続人の無効の相続放棄の申述、無
効の持分権譲渡の意思表示等につきその無効原因のあることを知らずに相続財産を独占している場合など
は、いずれも他に相続持分権を有する共同相続人のいることを知らなかつたものといいうるのであるから、多
数意見のいうように共同相続人相互間における相続財産に関する争いが相続回復請求制度の対象となる
のは特殊な場合に限られるものではない。そして、これらのうち、たとえば他人の戸籍に実子として届け出ら
れた者などは、自己がまつたく関知しない事由によつて共同相続人であることが他の共同相続人に知られな
かつた者であつて、このような者が民法八八四条所定の期間が経過したという理由で共同相続から排除さ
れることは妥当を欠くものというべきである。
 八 さらに、多数意見は、共同相続人相互間の争いが第三者の取引の安全にかかわりをもつ場合を考慮
し、第三者保護の見地からも、右の争いに民法八八四条が適用されるべきことを主張するのである。
 しかし、右のような第三者保護の問題は、右の争いにおいて相続持分権を侵害された共同相続人の利益と
第三者のそれとを比較衡量して解決されるべきであり、共同相続制度の趣旨に徴するときは、第三者の利益
を共同相続人のそれより優先させるのは相当でなく、したがつて、第三者保護をもつて民法八八四条を適用
すべき理由としてはならない。しかも、第三者は取得時効、即時取得の制度によつて保護されることがあるの
であるから、われわれの見解によつても、第三者の利益が全くそこなわれるわけではないのである。
 のみならず、多数意見によると、結局、他の共同相続人の持分権を侵害した共同相続人が自己の持分をこ
えた部分について相続権を有しないことを知つているかどうか、又はその者に相続による持分権があると信
えられるべき合理的な事由があるかどうかという共同相続人に存する事情によつて第三者が保護されるか
どうかが決せられるのであり、したがつて、多数意見のいうところは、真の第三者保護にはならないのであ
る。
 九 要するに、共同相続人相互間における相続持分権の侵害排除、回復を求める請求に民法八八四条は
適用されないというべきでありり、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所
論の違法はなく、論旨はこれを排斥すべきものと考える。

昭54・1・23大阪高判 遺産の範囲、分割を定める家事調停の既判力
大阪高等裁判所?? ?? 第一二民事部
土地所有権確認等請求事件
主    文
     一、 本件控訴を棄却する。
     一、 控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一、 当事者の求める裁判
 一、 控訴人
 「一、原判決を取消す。二、原判決添付別紙物件目録記載の土地が控訴人の所有
であることを確認する。
 三、 被控訴人は控訴人に対し、右土地につき、原判決添付別紙登記目録記載の
所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。四、訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負
担とする。」との判決。
 二、 被控訴人
 「一、本件控訴を棄却する。二、控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決。
 第二、 当事者の主張
 一、 当事者双方の事実上の主張、証拠関係は次のとおり訂正、附加するほか、
原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
 原判決二枚目裏二行目の「昭和三三年頃より重い精神病のため、」とあるのを
「重い精神病のため昭和三三年頃から」と、同三枚目裏九行目の「右別紙(一)」
を「右(一)の別紙(1)」と各訂正し、同六枚目表八行目の「得」を削除する。
 第三、証拠(省略)
         理    由
 一、 当裁判所も原判決と同様、本訴請求は遺産分割の調停調書(京都家庭裁判
所昭和四〇年(家イ)第六七七号)の既判力に触れ、請求を棄却すべきものと判断
するのであつて、その理由は、次のとおり訂正、附加するほか原判決理由説示のと
おりであるから、これをここに引用する。
 原判決理由説示中、第一項全部、原判決七枚目表六行目の「第二本訴請求の理
由」とあるのを各削除し、同七行目の「前記のとおり、もし」とあるのを「本件土
地につき」と訂正し、同八、九行目の「証拠調べの結果をまつまてもなく、」を削
除し、同裏一行目の「調停」の前に「左記」を、同二行目と三行目の間に
「(一)、被相続人Aの遺産をその相続人である申立人及び相手方との間で次のと
おり分割する。本件土地を含む別紙(1)記載の不動産全部を双方の共有(持分各
二分の一)とする。(二)、当事者双方は右不動産の共有持分について、直ちにそ
の所有権移転登記手続をする。」を、同八枚目裏四行目の「等」の次に「と」を、
同五行目の「原」の前に「分割方法として」を各加入し、同六行目の「共有のまま
での分割方法に定める」とあるのを「共有のままとする」と訂正し、同一〇枚目表
二行目以下全部を削除する。
 二、 本件遺産分割の調停は、控訴人が担当調停委員から、登記簿上被相続人名
義となつている不動産は、その実質的所有権者のいかんにかかわらず遺産分割の対
象になるといわれたことによつて成立したものであるという控訴人主張の事実は、
当審証人Bの証言によつてもこれを認めることができないし、本件全証拠によるも
これも認めるに足りない。
 <要旨第一>三、 家事調停において、前認定のとおり遺産の範囲とその分割につ
き当事者間に合意が成立し、これを調書に</要旨第一>記載したときは家事調停が成
立し、遺産の範囲を定める記載部分は、訴訟事項に関する調停として確定判決と同
一の効力を有し、遺産の分割を定める記載部分は、乙類審判事項に関する調停とし
て確定した審判と同一の効力を有する(家事審判法二一条一項、九条一項乙類一〇
号)。
そして、右確定判決と同一の効力を有する部分は訴訟上の和解と同じく、それが要
素の錯誤その他の理由により効力を失わない限り既判力を有するが、確定審判と同
一の効力を有する部分は非訟事件の裁判とつて既判力を有しないものと解すべきて
ある。
 前示原判決の引用により認定したとおり、本件家事調停には、控訴人が主張する
ような要素の錯誤が存したことが認められず、右調停は有効に成立したというべき
であるから、そのうち、本件土地を含む一七筆の不動産全部を被相続人Aの遺産と
する条項は既判力を有するが、その分割方法としてこれを控訴人と被控訴人双方の
共有とし、持分を各二分の一とする条項は既判力を生ずるものではないのである。
 四、 控訴人は本訴において、本件土地は、控訴人が昭和三六年一〇月六日国か
ら買受けその所有権を取得したものて、被相続人Aの遺産ではないことを請求原因
としているが、かかる主張は前示本件家事調停の既判力に抵触し、許されない。
 <要旨第二>ところで、被控訴人は本案前の抗弁として、控訴人の本訴請求が既判
力に触れるのて訴を却下すべきてある</要旨第二>と主張するところ、民事裁判にお
ける既判力の対象は、紛争の原因たる私法上の権利または法律関係の存否てあつ
て、その存否が弁論終結時ないし和解、調停の成立時点において一たん確定されて
も、あらたに同一の権利または法律関係が発生、変更、消滅する可能性が存在する
から、民事訴訟における既判力の作用は一事不再理の原則と異なり、同一事項につ
き裁判所はさきになされた判断と異なる判断をすることがてきないという効力を持
つに過ぎないのである。
 したがつて、請求認容の確定判決があるのに勝訴者が再び同一の判決を求める訴
訟を提起した場合には原則として訴の利益を欠くため、訴却下の判決がなされるべ
きであるけれども、請求棄却の確定判決があるのに敗訴者が同一訴訟物につき前訴
判決と矛盾する訴を提起した場合には、再び請求棄却の判決がなされるにすぎない
(大判昭八・五・二三民集一二巻一二五四頁、最判昭二四・五・一八刑集三巻六号
七九九頁、最判昭二九・四・二〇裁判集民事一三号五八五頁参照)。
 本件家事調停の既判力ある条項は、控訴人が本訴において自己が所有権を有する
本件土地を被相続人Aの遺産であるとするもので、この点では前示請求棄却の確定
判決があるのにこれと矛盾する判決を求めた場合に準じて考えられるから、被控訴
人の本案前の抗弁は失当てある。しかし、調停成立時以後あらたに控訴人が本件土
地につき単独の所有権を取得したとの事実についてはその主張も立証もないばかり
か、却つて、相続財産はもともと共同相続人の共有に属するとされており(民法八
九八条)、本件においては前示のとおり、家事調停において遺産分割の方法として
控訴人と被控訴人の共有(持分各二分の一)と定めているのであつて、この部分は
前示のとおり既判力を有しないとはいうものの、少なくとも和解契約の合意として
の効力を有するものであつて、これに反する主張は民法六九六条により失当である
から、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものである。
 五、 以上のとおり、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は
結局相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法
九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

昭54・2・6東京高判 遺産分割審判に対する抗告-配偶者らの寄与
東京高等裁判所?? ?? 第二民事部
遺産分割審判に対する抗告、同附帯抗告事件
主    文
     原審判を取消す。
     本件を静岡家庭裁判所浜松支部に差戻す。
         理    由
 (抗告の趣旨及び理由)
 昭和五〇年(ラ)第四九一号抗告事件の抗告人A、同B、昭和五一年(ラ)第八
三五号附帯抗告事件の附帯抗告人C、同年(ラ)第一、〇〇八号附帯抗告事件の附
帯抗告人D、同E
の各申立の趣旨はそれぞれ「原審判を取消し、さらに相当の裁判を求める。」とい
うのであり、抗告理由及び各附帯抗告理由は、それぞれ別紙一ないし三記載のとお
りである。
 (当裁判所の判断)
 一 昭和五〇年(ラ)第四九一号事件の抗告理由について
 1 抗告人らは、昭和四五年八月ころ相続人間て遺産分割協議が成立しているか
ら、相手方Cには遺産分割請求権がなく、本件申立は不適法として却下すべきてあ
ると主張する。
 この点についての判断はその結論において原審判と同一であり、その理由は次に
附加するほか同一であるからこれをここに引用する。
 当審における抗告人審問の結果によつてもこれを覆えすことはできない。すなわ
ち、抗告人ら主張の協議内容については、相手方C及びI(同D、同Eの亡実父)
の各寄与分を考慮していないばかりでなくその内容がその希望に沿わないものであ
るとして、相手方らが激しくこれを争つている上、その協議内容として抗告人らが
履行を約束したという相手方D、同Eの学費援助、相手方Cの扶養(引取または金
銭仕送り)についてその後今日にいたるまで抗告人らが何ら履行していないことな
どを合せ考えると、右抗告人ら主張に沿う抗告人ら審問の結果は信用し難く、他に
これを認めることのできる的確な証拠もない。したがつて、この点の抗告人ら主張
は失当である。
 2 (一) 抗告人らは被相続人の遺産として書画、骨とう、刀剣類が多数ある
筈であると主張するが、これらが現に存在することを認めるに足りる証拠はない。
また、もしそれが後日発見された場合には、その財産について追加的に遺産分割を
申立てれば足り、その存在は何ら本件遺産分割の効力に影響を及ぼすものではな
い。
 この点の抗告人ら主張は失当である。
 (二) 抗告人らは、被相続人の遺産として、定期預金など多額の債権があるか
ら、これを本件遺産分割の対象とすべきてあると主張する。しかし、右のような債
権は相続開始とともに各法定相続分の割合に応じて当然に分割される(最高裁昭和
二九年四月八日判決参照)から、そのような債権が存在しているとしても、本件遺
産分割の対象とする余地はないというべきてある。この点の抗告人ら主張も失当で
ある。
 3 (一) 抗告人らは、被相続人が、原審判別紙目録記載の不動産(以下「本
件不動産」という。)のうち19、20の田についてのみ相手方D、同Eの親権者
Fに事実上耕作させていたのにすぎず、その余の田畑を同人に賃貸したことにもと
より耕作をしていたこともないから、これらの農地についてはFの賃借権の制限か
ないものとして評価すべきであると主張する。
 記録によると次の事実が認められ。
 Fは昭和二六年四月一日当時被相続人と同居していた被相続人の三男のIと婚姻
し、夫と共に被相続人の農業に協力し耕作に従事していたが、その後被相続人、相
手方C夫婦との折合いが悪くなり昭和三二年ころ被相続人夫婦と別居し、自己所有
の農地を耕作していたころも、その傍ら本件不動産中8、10、17、23の各田
を除く大部分の農地を耕作して被相続人の農業に協力していた。Iは昭和三七年一
月一六日に死亡したが、Fはその後被相続人が昭和四五年一月一九日死亡するまで
の間引続きIの農業を承継し、従前と同様に、本件不動産中前記農地を耕作してい
た。しかし、右農地の耕作については、IはもとよりFもまた農地法三条による農
業委員会の許可をえていなかつた。
 以上のとおり認定でき、右認定に反する相手方D、同Eの提出したFの賃料供託
通知書、農業委員会の耕作証明書から直ちにFが被相続人から賃借していたとの事
実を認めることはできず、当審におけるF審問の結果中右認定に反する部分は信用
し難い。
 以上の事実によると、Iは、農業を主宰する被相続人の家族の構成員(別居後も
同じ)として、家業の農業に協力し、被相続人の農地を事実上耕作していたもので
あり、FはIの生存中は同人とともに、その死亡後は単独で、Iと同様に被相続人
の農業に協力し事実上耕作していたものというべきである。I及びFが被相続人か
らもつぱら耕作すべき田を特定され耕作に従事していたけれども、そのことは右の
ように理解する妨げとなるものではない。(もつとも、このように解したとして
も、後に述べるように、I、F夫婦の実子てある相手方D、同Eに対する具体的な
分割財産の特定に関しその考慮の対象となることはいうまでもない。)。したがつ
て、原審判が本件不動産中5、7、11ないし16、18ないし21、24ないし
28の田につきFの賃借権の制限があるものとして評価し、これを遺産評価額算定
の基礎としたのは、違法てあり、この点の抗告人ら主張は理由があり、その違法は
結論に影響を及ぼすものであるから、原審判はこの点においてすでに取消を免れな
い。
 (二) 抗告人らは、原審判は本件不動産中4の宅地についてGに賃貸中と説示
しながらその評価にあたりその賃借権の制限のある場合から除かれ、賃貸借の制限
のない価額て評価した違法があると主張する。しかし、記録によると、同4の宅地
はGに賃貸中であり、鑑定書上もその賃貸借の制限かあるものとしてこれを金一〇
〇万円と評価したものであることがその理由(第五)の記載から明らかであり、原
審判はその評価額を採用し遺産評価算定の基礎としたものであることが認められる
から、原審判にはこの点についての違法はない。抗告人らの上記主張は失当であ
る。
 (三) 抗告人らは、原審における本件不動産の評価鑑定は不公平偏頗であるか
ら、これに基づく原審判の遺産評価は違法である旨主張する。しかし、原審におけ
る鑑定人のした本件不動産の評価は、宅地を農地より低額に評価したものもないで
はないが、その評価理由の記載からそれを首肯できないわけではなく、また、敷地
と地上建物を相続人の一人に分割する場合でも特に敷地の評価額を高額に評価すべ
き根拠に乏しいから、この点につき考慮しないで評価しても不当とはいえない。こ
れらの点についての抗告人らの非難ば当らないというべきである(もつとも、評価
時点と裁判時点との間に長年月を経過し評価を異にすることが予測される場合には
不動産の時価につき再鑑定を要することはいうまでもない。)。
 4 抗告人らは、原審判は遺産の具体的分割に際し物件の種類その性質、各相続
人の職業及び社会的地位などの点の考慮に欠けるところがあり、ことに新たに相続
人ら間の共有関係をもうけたことは遺産分割の精神に反し違法であると主張する。
 遺産分割の審判においては、民法九〇六条に従い一切の事情を考慮して具体的な
分割財産、分割方法を定めるかぎり違法であるとはいえない。記録によると、原審
判は各相続人の分割希望財産(但し、抗告人らは本件遺産分割自体に反対し抗告人
Aの単独相続を強調する。)、各農地の位置関係、従前の占有使用、耕作関係、各
職業、社会的地位などを考慮し各相続人に分割すべき方法、及び分割財産の特定、
債務負担を定めていることが認められるから、原審判にこの点の違法があるとはい
えない。したがつて、抗告人らの上記主張は失当である。もつとも、原審判には、
現物分割の困難性の点からか特段の事由の説示もなく審判て新たに共同相続人間の
共有関係を設定しその分割を後日に延引し、一部分割禁止と同様の結果を来たした
点、余り広くない田を複雑に細分して各相続人に帰属させた結果管理耕作に著しく
困難な状況を生むにいたつた点などにおいてその配慮が十分でなかつたことは否定
できないが、それは妥当性の有無に止まり違法性の問題ではない。
 二 昭和五一年(ラ)第八三五号および同年(ラ)第一、〇〇八号事件の抗告理
由について
 <要旨>遺産相続における寄与分なる観念は、個人経営の農業や商業等において
は、事実上、事業主を中心とする</要旨>家族成員の協力によつて事業が営まれる場
合が多く、かかる場合においては、右の協力的活動によつて財産の維持または増加
に寄与した相続人に対して、事業主が死亡しその遺産を分割する際に、法定相続分
とは別に、右協力に対する対価関係の清算が認められるのでなければ、社会の実態
に即さず、また、かかる協力をしない相続人と対比して不公平の感を免れないとい
う理念を内容とするものであろう。
 当裁判所は、相続財産の維持または増加についても公平の原理を基本とする不当
利得の原則の適用があつてしかるべきであるから、相続財産の維持または増加に寄
与した程度が配偶者については民法第七五二条に基づく通常の協力扶助の程度を超
え、直系卑属については同法第七三〇条に基づく通常の相互扶助の程度を超えるも
のであり、かつ、その評価額が当該事業の費用として相応である限り(所得税法五
七条参照)、遺産の分割に際し、法定相続分とは別に、かかる寄与分なる観念を認
めても、法定相続分を定める民法の精神に反しないと考える。そして、遺産の分割
に際しては、かかる寄与分の共益費用的性格にかんがみ、まずこれを評価算定して
これを相続財産の価額から控除し、残額につき法定相続分に従つて算出された価額
に右寄与分の評価額を加えた価額をもつて当該相続人の取得分とし、しかる後に民
法第九〇六条、家事審判規則第一〇九条に則り具体的配分を行うべきてあると解す
る。
 もとより、相続財産の維持、増加に協力する形態は、右のような労務の提供に限
られず、資金を提供して相続財産の一部を買戻し、あるいは新たに取得するなど種
々の形態が考えられ、かかる協力の形態は被相続人が事業を経営する場合に限られ
ないわけであるが、このような協力についても、右に準じて当該相続人の寄与分を
評価算定するのが相当である。
 1 附帯抗告人Cの寄与分
 (一) 記録によると、次の事実が認められる。
 (1) 附帯抗告人Cは昭和一八年三月に四一歳で被相続人と再婚し、婚姻挙式
の上同居したが、先妻の子である抗告人らの反対があり同人らとの感情的な対立が
生ずることを虞れ婚姻届出が遅れていたところ、昭和三九年一〇月二七日にいたり
漸くその届出をするにいたつた。右Cは内縁に入つた後昭和二八年三月ころまで女
学校、中学校の教員として勤務し、その給与は自分の小遣いや職業費を除きすべて
家計費にあて、被相続人は別紙目録記載の農地総面積田二、七四七平方メートル
(二反七畝二一歩)、畑六一二平方メートル(六畝五歩)(それらは被相続人が家
督相続により取得したもの及び婚姻前に取得したものである。)を耕作して農業に
従事し、被相続人の若干の恩給も合わせて、漸く被相続人及びCの生計が維持でき
る状態であつた。
 (2) Cは昭和二八年三月ころ五一歳で教員を退職したが、退職金約七万円は
殆んど自己のリウマチの治療費にあて、その一部で土地(本件不動産以外のもの。
袋井市a字bc番d宅地七二・七六平方メートル)を取得し、実家からの援助をえ
てその地上に家屋を建てたが、この家屋は現在実妹Hに賃貸している。
 (3) Cは、教員を退職後I夫婦とともに農業の手伝いをし、昭和三二年ころ
I夫婦が被相続人夫婦と別居して以後、被相続人死亡の昭和四五年一月一九日まで
の間は、被相続人とともに居住家屋周辺の別紙目録8、10、17、23の農地の
耕作に従事し、その後現在まで人手を雇うなどして右農地の耕作を続けている。
 (二) 以上の事実によれば、附帯抗告人Cは、少なくとも、教員を退職した後
の昭和二八年四月ころから被相続人が死亡した昭和四五年一月ころまでの間被相続
人の主宰する農業に事実上協力し、その結果、本件不動産が維持されたものであ
り、その協力の程度は妻としての通常の協力を越えたものというべきであるから、
本件遺産の分割にあたつては、まず、その寄与分を評価算定してこれを相続財産の
価額から控除し、残額につき法定相続分に従つて算出された価額に右寄与分の評価
額を加えた価額をもつて同人の取得分とし、しかる後に遺産の分割を実行すべきも
のである。原審判が、附帯抗告人Cにつき、右寄与分を全く考慮せず、同人の取得
分を法定相続分のみであるとして本件遺産分割を実行したのは失当であり、取消を
免れない。
 なお、附帯抗告人Cの寄与分の評価算定について付言すれば、同人の農作業の種
類、程度、期間および被相続人方の農業規模ならびに農業所得などから裁量により
合理的に算出した労務対価額(給与相当額)より、その期間における同人の生計費
相当額を控除した額が、これにあたると解する。
 2 附帯抗告人D、同Eの相続したIの寄与分
 (一) 記録によると次の事実か認められる。
 (1) 附帯抗告人D、同Eの亡父Iは昭和二四年一〇月末ころ(当時二八歳)
から被相続人の農業手伝いをしていたところ、被相続人はI(三男)を農業の後継
者に定め、Iが昭和二六年四月一二日Fと婚姻後も被相続人夫婦と同居し、そのこ
ろから事実上被相続人方の農業経営の主体となつて農業に専従した。
 (2) その後、被相続人夫婦とI夫婦との折合いがよくなかつたことから、昭
和三二年ころI夫婦が被相続人夫婦と別居して生活することとし、その際両者協議
し、当時六七歳になつた被相続人は老令で十分に耕作に従事できなくなつたため、
本件不動産1ないし3の宅地、その地上建物30、31を居住使用してその近隣の
同8、10、17、23の各田(全農地の約三分の一)を耕作するのに止め、その
余の農地はすべてIが事実上農業経営をも含めて承継の上耕作することとし、これ
らの農地をそのころ取得した自己所有農地と合わせて耕作に専従した。
 (3) FはIと婚姻後引続きIとともに農業に従事し、昭和三七年一月一六日
I死亡後もこれを承継して右各農地を耕作し現在にいたつている。
 (二) 以上の事実によると、Iは、昭和二四年一〇月末ころから昭和三七年一
月一六日に死亡するまでの間、被相続人の農業に事実上の経営者として専従してい
たもので、その協力の程度は通常の親族間の協力の程度をはるかに越えており、そ
の結果本件不動産が維持されたから、その維持につき寄与したものということがで
きる。したがつて、本件遺産の分割にあたつては、まず、附帯抗告人D、同Eが代
襲相続したものと認むべき右Iの寄与分を評価(その算定は、被相続人と生活を共
にした期間が異なるほか、前記Cに準ずる。)してこれを相続財産の価額から控除
し、残額につき各法定相続分に従つて算出された価額に右寄与分の評価額の二分の
一を加えた価額をもつて各附帯抗告人の取得分とし、しかる後に遺産の分割を実行
すべきてある。原審判が右の寄与分を全く考慮しないで本件遺産分割を実行したの
は失当であり、取消を免れない。
 3 なお、Fの寄与分について検討する。寄与分は相続人が遺産分割の手続にお
いて清算するものであるから、相続人でない第三者が遺産分割手続の中で寄与分の
主張をすることは許されないものと解するのが相当である。本件において、Fは相
続人ではない。したがつて、前記認定事実によると同人にその寄与分が肯認できな
いわけではないが、本件における同人の寄与分の主張は、これを認めることはでき
ない。しかし、Fは、右寄与分を附帯抗告人D、同Eに有利に考慮されたい旨の意
見を述べているので、本件遺産分割の審判にあたつては、右事情を民法九〇六条に
いう「その他一切の事情」として右附帯抗告人らの有利に考慮するのが相当であ
る。
 三 以上のとおりであるから、これと異なる原審判は失当であり、本件抗告、各
附帯抗告はそれぞれ右説示の範囲て理由があるので、家事審判規則一九条一項によ
り、原審判を取消した上本件を静岡家庭裁判所浜松支部に差戻すこととし、主文の
とおり決定する。

昭54・3・23最判 遺産分割後の母子関係存在と民784但書、同910との関係
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
土地持分所有権確認等
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人中島三郎、同谷口稔の上告理由一について
 相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人の一人及び同人から単独所有
権移転の登記をうけた第三取得者に対し、他の共同相続人は登記を経なくとも相続による持分の取得を対
抗することができるものと解すべきである。けだし、共同相続人の一人がほしいままに単独所有権移転の登
記をしても他の共同相続人の持分に関する限り無効の登記であり、登記に公信力のない結果第三取得者も
他の共同相続人の持分に関する限りその権利を取得することはできないからである(最高裁判所昭和三五
年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁参照)。そして、母と
その非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知をまたず分娩の事実により当然に発生するものと
解すべきであつて(最高裁判所昭和三五年(オ)第一一八九号同三七年四月二七日第二小法廷判決・民集
一六巻七号一二四七頁参照)、母子関係が存在する場合には認知によつて形成される父子関係に関する
民法七八四条但書を類推適用すべきではなく、また、同法九一〇条は、取引の安全と被認知者の保護との
調整をはかる規定ではなく、共同相続人の既得権と被認知者の保護との調整をはかる規定であつて、遺産
分割その他の処分のなされたときに当該相続人の他に共同相続人が存在しなかつた場合における当該相
続人の保護をはかるところに主眼があり、第三取得者は右相続人が保護される場合にその結果として保護
されるのにすぎないのであるから、相続人の存在が遺産分割その他の処分後に明らかになつた場合につい
ては同法条を類推適用することができないものと解するのが相当である。
 本件についてこれをみると、原審が適法に確定したところによれば、Aには、B(大正二年四月二八日生)、
上告人(同六年一月五日生)、C(同八年三月三〇日生)の三子があつたところ、B及び上告人についてはD
とその妻Eの三女及び四女として、CについてはFとその妻Gの長女として出生届がされ、Cは昭和一五年四
月八日に実母のAと養子縁組をしたので、昭和四四年八月二八日Aの死亡により、B及び上告人は非嫡出
子として、Cは養子として本件各土地を含む遺産を共同相続(相続分はCが二分の一、Bと上告人は各四分
の一)したのであるが、Cは戸籍上では自己が唯一の相続人になつていたところから、上告人及びBの了解
を得ることなく、昭和四五年六月三日本件各土地について自己単独の相続登記を経たうえ、同年一二月一
四日登記簿の記載のとおりCの単独所有であるものと信じていた被上告人H及び同Iに本件各土地を売り渡
したものであり、他方、上告人はAの死亡後検察官を被告としてAとの間の母子関係存在確認の訴を提起
し、上告人勝訴の判決が昭和四九年九月二〇日確定したというのである。右事実関係のもとにおいては、被
上告人らは、民法七八四条但書、九一〇条の類推適用によつて、保護されるべきものではなく、上告人及び
BにおいてCの単独所有権の登記の作出について有責である場合に民法九四条二項の類推適用によつて
保護される余地があるにとどまるものと解すべきものである。しかるに、原審が、民法七八四条但書、九一〇
条の類推適用を認め、被上告人らは保護されるべきものとして上告人の請求を棄却したのは、民法七八四
条但書、九一〇条の解釈を誤り、違法をおかしたものというべきであり、その違法は結論に影響を及ぼすこと
が明らかである。
 したがつて、論旨は理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、被上告
人らは善意の第三者として民法九四条二項の類推適用によつて保護されるべきである旨の被上告人らの主
張について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭54・5・31最判 「昭和四拾壱年七月吉日」との遺言は無効
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
遺言無効確認
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人繩稚登の上告理由について
 自筆証書によつて遺言をするには、遺言者は、全文・日附・氏名を自書して押印しなければならないのであ
るが(民法九六八条一項)、右日附は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきもので
あるから、証書の日附として単に「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されているにとどまる場合は、暦上の特
定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効で
あると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論
の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭54・7・10最判 遺留分の価額弁償
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
遺言無効確認
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人江谷英男、同藤村睦美の上告理由第一点について
 本件建物が無価値のものでなく、まだかなりの価値を有するものであるとする原判決の認定判断は、その
挙示する証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよ
う、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は判決の結論に影響のない点をと
らえて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について
 遺留分権利者が民法一〇三一条の規定に基づき遺贈の減殺を請求した場合において、受遺者が減殺を
受けるべき限度において遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れうることは、同法
一〇四一条により明らかであるところ、本件のように特定物の遺贈につき履行がされた場合において右規定
により受遺者が返還の義務を免れる効果を生ずるためには、受遺者において遺留分権利者に対し価額の
弁償を現実に履行し又は価額の弁償のための弁済の提供をしなければならず、単に価額の弁償をすべき
旨の意思表示をしただけでは足りないもの、と解するのが相当である。けだし、右のような場合に単に弁償
の意思表示をしたのみで受遺者をして返還の義務を免れさせるものとすることは、同条一項の規定の体裁に
必ずしも合うものではないぱかりでなく、遺留分権利者に対し右価額を確実に手中に収める道を保障しない
まま減殺の請求の対象とされた目的の受遺者への帰属の効果を確定する結果となり、遺留分権利者と受遺
者との間の権利の調整上公平を失し、ひいては遺留分の制度を設けた法意にそわないこととなるものという
べきであるからである。
 これを本件についてみるのに、原審の確定したところによれば、被上告人は、遺贈者亡Aの長女で唯一の
相続人であり、遺留分権利者として右Aがその所有の財産である本件建物を目的としてした遺贈につき減殺
の請求をしたところ、本件建物の受遺者としてこれにつき所有権移転登記を経由している上告人は、本件建
物についての価額を弁償する旨の意思表示をしただけであり、右価額の弁償を現実に履行し又は価額弁償
のため弁済の提供をしたことについては主張立証をしていない、というのであるから、被上告人は本件建物
につき二分の一の持分権を有しているものであり、上告人は遺留分減殺により被上告人に対し本件建物に
つき二分の一の持分権移転登記手続をすべき義務を免れることができないといわなければならない。
 したがつて、これと同趣旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は採用するこ
とができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭54・12・3福岡高判 遺産分割後の被認知者の価額賠償請求について
福岡高等裁判所?? ?? 第二民事部
遺産分割後の価額請求事件
主    文
     一 原判決を次のとおり変更する。
     1 各控訴人は各被控訴人に対し、金二九七万七六四二円及びこれに対
する昭和四六年四月二八日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支
払え。
     2 各被控訴人のその余の請求を棄却する。
     二 訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を被控訴人らの
負担とし、その余を控訴人らの負担とする。
     三 この判決の一1項は仮に執行することができる。
         事    実
 控訴人ら各代理人は、「原判決中各控訴人ら関係敗訴部分を取り消す。被控訴人
らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とす
る。」旨の判決を求め、被控訴人ら代理人(以下被控訴代理人という。)は、「本
件各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり加え
るほか、原判決の事実摘示(原判決二枚目記録二三丁―裏一三行目から原判決四枚
目―記録二五丁―裏一二行目までと原判決添付物件目録とを含む。)と同一である
から、これを引用する。
 一 被控訴代理人は、次のように述べた。
 1 Aは昭和四三年四月九日死亡し、亡Aとその妻であつた亡Bとの間の三男C
は、熊本家庭裁判所玉名支部に亡Aの相続について相続放棄の申述をし、同年六月
二九日右申述が受理された。
 2 二2ないし4の控訴人Eの主張事実を否認もしくは争う。
 被控訴人らは、原審において鑑定人Dの鑑定書が提出された段階で早期終結を強
く希望したが、控訴人Eにおいて再鑑定を申請し、その鑑定のために長期間を要し
ているうちに土地価格の上昇によりかえつて右控訴人にとつて不利益な鑑定結果と
なつたものである。控訴人らの抗争は全く無益なものというほかなく、被控訴人ら
は、控訴人らの右無益な抗争により甚大な損害を被つている。遺産分割後の価額請
求における遺産評価の基準時については、控訴人E主張の請求時説には根拠がな
く、その基準時は事実審の口頭弁論終結時に接着する時期とせらるべきである。
 3 三2、3の控訴人Gの主張事実のうち、被控訴人らを加えて遺産分割がなさ
るべきであつたのに、本件遺産分割が被控訴人らを除外してなされたことを認める
が、その余は否認もしくは争う。
 控訴人らにおいて被控訴人らを除外して本件遺産分割をなしたため、被控訴人ら
は、法律の規定に従つて遺産分割後の価額請求に及んだのである。
 二 控訴人E代理人は、次のように述べた。
 1 一1の被控訴人ら主張事実を認める。
 2 原判決は、遺産分割後の価額請求においては支払時の時価を基準として遺産
を評価すべきであることを前提に、その支払請求訴訟の口頭弁論終結時に可能な限
り接近した時点の価額で評価するのが相当であるとし、原審鑑定人Fの鑑定にかか
る昭和四八年四月一八日当時の価格によつて本件遺産を評価しているが、それは誤
りであつて、価額請求時の時価によつて算定するのが相当である。本件請求訴訟は
昭和四五年六月二六日提起されているから、これを請求時として右日時における時
価を算定し、その後における価格の増減を斟酌すべきではないところ、右鑑定人の
鑑定にかかる昭和四五年六月二六日当時の本件遺産の時価は金五九二四万円とされ
ているので、右時価をもつて本件遺産の価格とすべきである。
 3 仮に、遺産分割後の価額請求において支払時の時価を基準として遺産を評価
すべきであるとしても、本件遺産の所在地である熊本県荒尾市は、昭和四八年一二
月二七日都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域とに区分したため、市街化調
整区域内の土地の価格は暴落しているところ、本件遺産の大部分は右市街化調整区
域内に存することとなつたにもかかわらず、右鑑定人の鑑定は全くこの事実を顧慮
していない。のみならず、同鑑定が基礎にして算出しているところの取引実例は、
同市が都市計画区域を前叙のように区分した昭和四八年一二月二七日以前の実例で
あるから、右鑑定は、相当でない。
 4 荒尾市は、昭和五〇年五月一日地価公示法に基づく標準地一七か所の公示価
格を設けているが、そのうち調整区域内の土地価格は利用の現況が住宅の場合にお
いてすら一平方メートル当り金三〇〇〇円くらいであつて、右鑑定人の鑑定に比し
て極めて低額である。更に、原判決後の諸事情に照らすと、原判決は、不合理かつ
不公平な結果を来たしている。
 三 控訴人G代理人は、次のように述べた。
 1 一1の被控訴人ら主張事実を認める。
 2 原判決は、被控訴人らの本件各請求を遺産分割後の価額請求として認容した
が、法令の解釈を誤つた違法なものである。すなわち、本件の場合においては、遺
産分割の手続がなされた当時、既に相続人たり得る被控訴人らが存していたのであ
るから、被控訴人らを除外してなされた遺産分割の協議は無効であり、被控訴人ら
を加えた全共同相続人により再度遺産分割をやり直さなければならないのにこの点
を看過した原判決には法令の解釈を誤つた違法があるというべきてある。
 3 原判決後の諸事情に照らすと、原判決は、不合理かつ不公平な結果を招来し
ているから、破棄されるぺきである。
 四 証拠(省略)
         理    由
 一 原判決添付物件目録(一)ないし(一四)記載の各不動産(以下本件(一)
ないし(一四)の各不動産という。)が亡Aの所有であつたところ、同人が昭和四
三年四月九日死亡したこと、控訴人ら両名及びCが亡Aの嫡出の子であつたが、C
が熊本家庭裁判所玉名支部に亡Aの相続について相続放棄の申述をし、同年六月二
九日右申述が受理されたこと、控訴人ら両名が本件(一)ないし(一四)の各不動
産につき原判決添付目録記載のような遺産分割をし、これを原因とする熊本地方法
務局荒尾出張所昭和四三年一〇月四日受付第四六八三号所有権移転登記を経由した
こと、亡Aの死亡後である昭和四四年七月一一日被控訴人ら三名が亡Aの子である
ことを認知する旨の裁判が確定し、被控訴人らが同年八月一日熊本県荒尾市長に対
し認知の届出をしたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。
 二 控訴人Gは、右のような場合においてはあらためて遺産分割をやり直すべき
であつて遺産分割後の価額請求は許されない旨主張するので、この点につき判断す
る。
 認知は出生の時にさかのぼつてその効力を生ずるのであるから(民法七八四条本
文)、相続の開始後認知によつて相続人となつた者も、法律上、相続開始の時点に
おいてすでに相続人であつたものとして取扱われ、相続財産につき分割の請求をな
しうるのであるけれども、分割その他の処分によつて一旦新たな法律関係が形成さ
れた後に、その法律関係を全部覆滅してあらためて現物分割を行うことは実際上き
わめて困難であるばかりでなく、関係人の法律関係を複雑にし、ひいては適法にな
された処分の効力に影響を及ぼすことにもなる。そこで、他の共同相続人がすでに
分割その他の処分をしてしまつていた場合には、認知によつて相続人となつた者
は、価格賠償額による賠償支払いのみを請求することができるだけで、相続財産の
現物分割を請求することはできないものとすることによつて、相続の開始後認知に
よつて相続人となつた者の相続権を実質的に保証するとともに、すでに相続財産の
上に利害関係を生じた他の共同相続人等と右相続人との利害の調整をはかることと
したのが民法九一〇条の趣旨であると解するのが相当であるから、控訴人Gの前記
主張は独自の見解であつて採用することができない。
 三 そこで、遺産分割後の価格賠償額請求における遺産評価の基準時について考
察する。
 <要旨第一>前叙二で説示した民法九一〇条の趣旨からすれば、同条の価格賠償額
請求は、新たな現物分割に代わるも</要旨第一>のであるから、賠償額は現物と等価
てあることが当然に前提とされていると解されるので、その価額の支払請求におけ
る価格賠償額算定の基準時は、現実に支払いがなされる時であり、被認知者におい
て当該価格賠請求する訴訟にあつては現実に支払いがなされる時に最も近接した時
点としての事実審判決に接着する口頭弁論終結の時であると解するのが相当であ
る。さすれば、右価格賠償額の支払請求の訴訟における価額算定の基準時は請求が
なされた時によるべきであるとする控訴人Eの主張は失当である。
 四 当審での口頭弁論終結当時における本件各不動産の価額について判断する。
 当審証人Hの供述、原審における検証の結果並びに当審における鑑定人Iの鑑定
の結果及び各項につき附加した証拠によれば、次の事実が認められる。
 1 本件(四)の土地は、その正確な位置の確認は困難であるが、a団地入口の
北方約八〇メートルあたりの山林傾斜地の一部と推認される。また、本件(五)な
いし(七)の各土地もその正確な位置の確認は困難であるが、有明海提防敷地の外
にあつて満潮時には海面下に没する浸蝕地であり、通常の方法では土地として利用
することが不可能である。
 2 本件(一三)の建物は、昭和四六年一月一五日火災により滅失し、本件(一
四)の建物は、昭和四五年八月台風のため全壊した。
 3 本件各不動産の所在地である熊本県荒尾市は、昭和四八年一二月二七日都市
計画区域を市街化区域と市街化調整区域とに区分したため、市街化調整区域内の土
地の価格が低落したところ、本件(三)、(四)、(八)の各土地は右市街化調整
区域内に存する。そして、国家の総需要抑制策や土地税制の新設等により、本件各
不動産の価格は昭和四八年一二月以降ほぼ横ばいに推移してきている。
 4 昭和五二年九月当時、これよりさき前叙3のように都市計画区域を市街化区
域と市街化調整区域とに区分された後の本件各土地の利用状況、取引事例その他の
諸事情によれば、本件(一)、(二)の各土地が計金一一〇万九〇〇〇円、本件
(三)の土地が金四三万八〇〇〇円、本件(四)の土地が金三八万六〇〇〇円、本
件(五)ないし(七)の各土地については、一平方メートルが六一〇円、本件
(八)の土地が金八七二万七〇〇円、本件(九)ないし(三)の各土地が計金三〇
五九万九〇〇〇円である。
 以上の事実を認めることができる。
 そして、本件(五)の土地が八二平方メートル、本件(六)の土地が三三三平方
メートル、本件(七)の土地が二八七平方メートルであることは前叙一のとおりで
あるから、本件(五)ないし(七)の一各土地の地積が合計七〇二平方メートル、
本件(五)ないし(七)の各土地価格が金四二万八〇〇〇円(610円×702=
428220円一〇〇〇円未満切捨て)となり、本件各土地の価格が別紙不動産価
額計算表記載のとおりであり合計金四一六八万七〇〇〇円となることは計数上明ら
かである。当審鑑定人Iの鑑定の結果中前認定に反する部分は採用しない。
 ところで、原審鑑定人Fの鑑定の結果は、昭和四八年四月当時、本件(四)の土
地の存在確認が不能であり、本件(五)ないし(七)の各土地が提外地であつて利
用不能であり、本件(一三)、(一四)の各建物は滅失しているとして、本件
(一)、(二)の各土地が計金一〇九万四〇〇〇円、本件(三)の土地が金四九万
円、本件(八)ないし(三)の各土地が計八九二二万円であり、その合計が金九〇
八〇万四〇〇〇円であるとするが、当審証人H、同Fの各供述によれば、同鑑定の
基礎とされた取引事例は荒尾市が都市計画区域を前叙のように区分した昭和四八年
一二月二七日以前のものであり、右鑑定の結果は右区分後の土地の価格を反映して
いるとはいえないので、これを採用しない。
 他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
 五 控訴人一は、亡Aにつき金四二三万九三二五円の相続債務が存したところ、
同控訴人において全額弁済したから右金額を相続財産の価額から控除すべきである
と主張するので、この点につき判断する。
 <要旨第二>亡Aにつき右金額の相続債務が存したところ、控訴人一がこれを全額
弁済したことは、当事者間に争いが</要旨第二>ない。しかし、遺産分割の対象とな
るものは被相続人の有していた積極財産だけであり、被相続人の負担していた消極
財産である金銭債務は、相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分
割承継されるので、遺産分割後の価額請求においては、被相続人の有していた積極
財産だけを算定の基礎とすべきであつて、被相続人の負担していた金銭債務を右積
極財産の算定額から控除すべきものではないと解するのが相当であるから、控訴人
一の右主張は採用することができない。
 六 前叙一のとおりCが相続放棄の申述をして受理されたので、亡Aの相続人は
控訴人ら両名(嫡出)と被控訴人ら三名(非嫡出)との合計五名であつて、被控訴
人ら三名の相続分がそれぞれ七分の一であるから、その相続分に相当する価額は五
九五万五二八五(41.687.000円×1/7で円未満切捨て)である。した
がつて、各被控訴人は、民法九一〇条により各控訴人に対し、その二分の一である
金二九七万七六四二円(但し、円未満切捨て)ずつの支払いを求める請求権を有す
る。
 七 してみると、各控訴人は各被控訴人に対し、本件遺産分割後の価格賠償額金
二九七万七六四二円及びこれに対する昭和四六年四月一七日付請求の趣旨・原因拡
張申立書送達の日の翌日であることが記録上明白な同年四月二八日から支払いずみ
に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、各被控訴人
の本件請求は、各控訴人に対し前記各金員の支払いを求める限度で正当として認容
し、その余は失当として棄却すべきである。
 八 よつて、以上と結論を異にする原判決を民訴法三八四条、三八六条に従い変
更することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、九六条、八九条、九二条、九
三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決
する。

昭55・3・24東京高判 嫡出親子関係不存在確認の訴の性質
東京高等裁判所?? ?? 第三民事部
親子関係不存在確認請求事件
 主    文
     一 原判決を次のとおり変更する。
     1 本籍山梨県富士吉田市ab番地亡A(昭和四八年三月二七日死亡)
と控訴人Bとの間の親子関係が存在しないことを確認する。
     2 被控訴人らの控訴人C及び控訴人Bとの間の親子関係が存在しない
ことの確認を求める訴はいずれも却下する。
     二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人B
の、その余を被控訴人らの各負担とする。
         事    実
 控訴人ら訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟
費用は、第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴
人ら訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判
決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
 (控訴人らの主張)
 原判決四枚目表一行目の「被告Bが」の次に「A、控訴人Cとの間に約三〇年に
わたつて継続してきた親子としての法的関係が一挙にくつがえされることになり、
控訴人Bが」を加える。
 (被控訴人らの主張)
 1 控訴人らの右主張は争う。
 2 被控訴人らが控訴人らの間の親子関係不存在確認を求めるのは、亡Aと控訴
人Bとの間の親子関係を戸籍上抹消するについて必要とするからである。すなわ
ち、嫡出親子関係不存在確認の訴は父母及び子の三者間に合一にのみ確定すべき必
要的共同訴訟であり、したがつて、父母及び子の全員が当事者にならなければなら
ないところ、父母の内一方が死亡している場合は生存する父又は母と子が当事者と
なるべきものだからである。本件においては、戸籍上の父Aが死亡しているので、
同人と控訴人Bとの間の親子関係がないことの確認を求めるためには、戸籍上の母
である控訴人Cと控訴人Bの双方を相手方とする必要がある。
 (証拠の関係)(省略)
         理    由
 一 被控訴人らの本訴請求の趣旨は、「控訴人Bは控訴人Cと亡Aとの間の子で
ないことを確認する。」というにあり、また、被控訴人らが本訴により控訴人らの
間の親子関係不存在の確認を求める利益は、「亡Aと控訴人Bとの間の親子関係を
戸籍上抹消するについて必要なためである。けだし、嫡出親子関係不存在確認の訴
は父母及び子の三者間に合一にのみ確定すべき必要的な共同訴訟であり、したがつ
て、父母及び子の全員が当事者にならなければならないところ、父母の内一方が死
亡している場合は生存する父又は母と子が当事者となるべきものだからである。本
件においては、戸籍上の父Aが死亡しているので、同人と控訴人Bとの間の親子関
係がないことの確認を求めるためには、戸籍上の母である控訴人Cと控訴人Bの双
方を相手方とする必要があるからである。」というにある。すなわち、被控訴人ら
が、本訴で必要としているのは、亡Aと控訴人Bとの間の父子関係の不存在確認で
あつて、控訴人らの間の母子関係不存在確認は、嫡出親子関係不存在確認の訴を提
起する必要上、付加したにすぎないことが明らかである。そこで、かような場合に
おいて、被控訴人らは、控訴人らの間の母子関係不存在確認の結果をもたらす嫡出
親子関係不存在確認の訴を提起することが許されるかどうかについて検討する。
 1 被控訴人らは、亡Aと控訴人Bとの間の父子関係不存在確認の訴を提起する
には、嫡出親子関係不存在<要旨>確認の訴の形態をとるべきものであるとの前提で
本訴を提起している。しかしながら、嫡出親子関係不</要旨>存在確認の訴は、子が
父母の間の嫡出子であるかどうかという法律関係が訴訟物であるところ、かような
訴の形態は、旧民法下においては、家の制度の中核をなす家督相続の問題があり、
そのために嫡出子、庶子、私生子の区別があり、その相続の順位について詳細な定
めがあつたから、嫡出性の有無の確認の必要があつたのであるが、現行民法におい
ては、嫡出子と非嫡出子との区別はあるものの、それが争われるのは、相続分の割
合に関してのみであり、そのほかには、嫡出親子関係の存否確認の必要性は殆んど
考えられないのである。したがつて、現行法のもとにおいては、右例示のような特
別の事情がある場合は別として、父子関係、母子関係を合一にのみ確定すべき嫡出
親子関係存否確認の訴訟形態はすでに普遍性を失つているというべきである。もつ
とも、現在においても、戸籍上父母を同一にする子相互間の訴訟について、嫡出親
子関係存否確認の訴訟形式がとられているが、これは、父子関係及び母子関係の存
否確認がともに必要である場合、従来から行われてきた嫡出親子関係存否確認訴訟
の形式を便宜踏襲してきたとみるのが相当であり、右訴訟の実質は、父子関係及び
母子関係両者の併合訴訟であると善解するのが相当である。(したがつて、請求の
趣旨は、「某は、父、母の間の子でないことを確認する。」という表現よりも正確
には、「某は、父及び母のそれぞれの子でないことを確認する。」とすべきもので
ある。)。もし、このような解釈をとらずに、被控訴人ら主張の如く、嫡出子出生
届のなされている子と父母との関係は、常に合一にのみ確定すべきものであるとす
れば、母子関係について確定の利益がない場合にも、その有無について審理、判断
しなければならないことになり、この場合、故なく第三者をして母子関係の存否と
いう重大な法律関係に容喙させることになり、著しく不合理な結果を招来すること
になろう。
 このようにみてくると、本件においては、亡Aと控訴人Bとの間の父子関係不存
在が確認され、その関係の戸籍訂正がなされれば足りることが被控訴人らの主張に
照らして明らかである。さらに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成した
と認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証によれば、被控訴人らと控
訴人らとの間の戸籍上の身分関係は、被控訴人らが亡Aとその先妻亡Dの子、控訴
人Cが亡Aの後妻、控訴人Bが亡Aと後妻である控訴人Cの子となつていることが
認められるから、被控訴人らと控訴人らとの間の身分関係は姻族とされているにす
ぎず、したがつて、両者の法律関係は、扶助、扶養について、法定の特別の事情が
ある場合においてのみ、それらの義務を負担することが予想されるに止まり(民法
第七三〇条、第八七七条二項参照)、しかも本件においては、右特別の事情のある
ことについては、何らの証拠がない。
 してみれば、被控訴人らは、単に控訴人らと親族というだけで、控訴人らの間の
母子関係の存否確定について法律上直接の利害関係を有するとはいえないから、確
認の利益がないというべきである。
 2 次に、被控訴人らは、控訴人Bの戸籍上の父であるAが死亡しているから、
戸籍上の母である控訴人Cを当事者に加える必要があると主張する。
 しかし、嫡出親子関係存否確認訴訟の実質は、父子関係及び母子関係の併合形態
であり、しかも本件において、控訴人らの間の母子関係の存否について、確認の利
益がないこと前記のとおりである以上、本件は亡Aと控訴人Bとの間の父子関係の
不存在確認訴訟のみについて審理判断すべきことになるところ、かような場合にお
いて、人訴法第二条二項を類推適用するときには、生存する控訴人Bを相手方とし
て同人と亡Aとの間の父子関係の不存在確認をすることができるものと解するのが
相当であり、したがつて、控訴人Cを当事者に加える必要はないというべきであ
る。この点に関する被控訴人らの主張は採用することができない。
 3 以上によれば、被控訴人らの本訴請求は、控訴人Bと亡Aとの間の父子関係
不存在確認については訴の利益があるが、控訴人らの間の母子関係不存在確認の訴
については利益がないというべきである。
 二 そこで、進んで、右父子関係の存否について判断するのに、その方式及び趣
旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき
甲第一号証、第二、第三号証の各一、二、原審における控訴人C本人尋問の結果
(第一回)及び弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人Bは、亡Aの子でないのに、虚
偽の出生届により同人の子として戸籍の記載がなされたことが認められ、これに反
する証拠はない。
 三 控訴人らは控訴人Bについてなされた出生届は亡A及び控訴人Cと控訴人B
との間の養子縁組届とみなされるべきであると主張するが、前頭甲第一号証によれ
ば、右出生届は昭和一七年一一月二一日亡Aによつてなされたと認められるとこ
ろ、右届出施行当時の民法八四七条、七七五条によれば、養子縁組は法定の届出に
よつて法律上効力を生ずべき要式行為であり、嫡出子出生届をもつて養子縁組届と
みなすことは許されないと解すべきである(最高裁判所昭和五〇年四月八日第三小
法廷判決、民集二九巻四号四〇一頁参照)から、右主張は採用することができな
い。
 四 次に、控訴人らは本訴請求が権利の濫用であつて許されないと主張するの
で、この点について判断するのに、控訴人Bが昭和一七年以来、約三〇有余年に亘
り、亡Aの子として戸籍に記載されていたのに、本訴によりその法的地位を一挙に
失うことは、まことに同情を禁じえないものがある。しかし、さればといつて、戸
籍上亡Aを父とする被控訴人らにおいて、同じく亡Aの子として戸籍上記載されて
いる控訴人Bに対して親子関係がないことの確認を求める道を閉すことは真実に合
致した戸籍訂正をし、かつ真実の身分関係を明らかにする身分法上の権利の放棄を
強いることになるから、到底許されないことというべきである。
 そして、控訴人らの主張する権利濫用に関する事実及び本件記録に顕われた一切
の事情を参酌してみても、被控訴人らの控訴人Bに対する本訴請求をもつて権利の
濫用と認めることはできないというべきである。
 五 以上によれば、被控訴人らの本訴請求は、これを亡Aと控訴人Bとの間の父
子関係及び控訴人らの間の母子関係の各不存在確認訴訟とみて前者については正当
としてこれを認容することとし、後者については訴の利益を欠くものとしてこれを
却下することとする。よつて、原判決を右の判断の趣旨に従つて変更することと
し、訴訟費用の負担について、民訴法第九六条、第八九条、第九三条を適用して、
主文のとおり判決する。

昭55・11・27 死亡退職金が遺族固有の権利とされた事例
最高裁判所第一小法廷(大阪高等裁判所)
退職金(通称 日本貿易振興会退職金請求)
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告人及び上告補助参加人代理人腰岡實の各上告理由について
 原審の適法に確定したところによれば、被上告人の「職員の退職手当に関する規程」二条・八条は被上告
人の職員に関する死亡退職金の支給、受給権者の範囲及び順位を定めているのであるが、右規程による
と、死亡退職金の支給を受ける者の第一順位は内縁の配偶者を含む配偶者であつて、配偶者があるときは
子は全く支給を受けないこと、直系血族間でも親等の近い父母が孫より先順位となり、嫡出子と非嫡出子が
平等に扱われ、父母や養父母については養方が実方に優先すること、死亡した者の収入によつて生計を維
持していたか否かにより順位に差異を生ずることなど、受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相
続人の順位決定の原則とは著しく異なつた定め方がされているというのであり、これによつてみれば、右規
程は、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めた
もので、受給権者たる遺族は、相続人としてではなく、右規程の定めにより直接これを自己固有の権利とし
て取得するものと解するのが相当であり、そうすると、右死亡退職金の受給権は相続財産に属さず、受給権
者である遺族が存在しない場合に相続財産として他の相続人による相続の対象となるものではないという
べきである。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認すべきであり、原判決に所論の違法はない。論旨
は、いずれも採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭55・12・4最判 公正証書遺言における盲人である証人の立会い
最高裁判所第一小法廷(大阪高等裁判所)
所有権移転登記等抹消登記手続
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人藤森龍雄、同坂速雄、同曽我乙彦の上告理由第一点及び第二点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第三点について
 民法九六九条一号は、公正証書によつて遺言をするには証人二人以上を立ち会わせなければならないこ
とを定めるが、盲人は、同法九七四条に掲げられている証人としての欠格者にはあたらない。のみならず、
盲人は、視力に障害があるとしても、通常この一事から直ちに右証人としての職責を果たすことができない
者であるとしなければならない根拠を見出し難いことも以下に述べるとおりであるから、公正証書遺言に立
ち会う証人としての適性を欠く事実上の欠格者であるということもできないと解するのが相当である。すなわ
ち、公正証書による遺言について証人の立会を必要とすると定められている所以のものは、右証人をして遺
言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態のもとで自己の意思に基づき遺言の趣旨を公証人
に口授するものであることの確認をさせるほか、公証人が民法九六九条三号に掲げられている方式を履践
するため筆記した遺言者の口述を読み聞かせるのを聞いて筆記の正確なことの確認をさせたうえこれを承
認させることによつて遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後日の紛争を未然に防止しようとすることにあ
る。ところで、一般に、視力に障害があるにすぎない盲人が遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な
精神状態のもとで自らの真意に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をする能力ま
で欠いているということのできないことは明らかである。また、公証人による筆記の正確なことの承認は、遺
言者の口授したところと公証人の読み聞かせたところとをそれぞれ耳で聞き両者を対比することによつてす
れば足りるものであつて、これに加えて更に、公証人の筆記したところを目で見て、これと前記耳で聞いたと
ころとを対比することによつてすることは、その必要がないと解するのを相当とするから、聴力には障害のな
い盲人が公証人による筆記の正確なことの承認をすることができない者にあたるとすることのできないことも
また明らかである。なお、証人において遺言者の口授したところを耳で聞くとともに公証人の筆記したところ
を目で見て両者を対比するのでなければ、公証人による筆記の正確なことを独自に承認することが不可能
であるような場合は考えられないことではないとしても、このような稀有の場合を想定して一般的に盲人を公
正証書遺言に立ち会う証人としての適性を欠く事実上の欠格者であるとする必要はなく、このような場合に
は、証人において視力に障害があり公証人による筆記の正確なことを現に確認してこれを承認したものでは
ないことを理由に、公正証書による遺言につき履践すべき方式を履践したものとすることができないとすれ
ば足りるものである。このように、盲人は、視力に障害があるとはいえ、公正証書に立ち会う証人としての法
律上はもとより事実上の欠格者であるということはできないのである。
 そうすると、本件公正証書による遺言につき証人として立ち会つたAは、盲人であつたが、証人としての欠
格者であるということはできないところ、原審の確定するところによれば、右Aは、公証人が読み聞かせたとこ
ろに従い公証人による遺言者Bの口述の筆記が正確であることを承認したうえ署名押印したというのであつ
て、その間右Bの口授したところを耳で聞くとともに公証人の筆記したところを目で見て両者を対比するので
なければ公証人による筆記の正確なことを確認してこれを承認することができなかつたというべき特段の事
情が存在していたことは窺われないのであるから、右Aが証人として立ち会つた本件公正証書による遺言に
方式違背はなく、右遺言は有効であるといわなければならず、これと同趣旨の原審の判断は正当であつて、
原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官本山亨、同中村治朗の各反対意見が
あるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官本山亨の反対意見は、次のとおりである。
 わたくしは、上告理由第三点について、中村裁判官の反対意見に同調する。
 裁判官中村治朗の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由第三点については、多数意見と異なり、盲人は公正証書による遺言において証人となる資
格を有しないとの見解をとるものであり、したがつて、これと異なる見解に立つ原判決には法令の解釈を誤つ
た違法があるとしてこれを破棄するのが相当であると考える。以下に、その理由を述べる。
 一 民法九七四条は、遺言の証人又は立会人となることができない者を列挙しているが、これらのいずれ
にも該当しない者であつても、民法が各種の遺言につきそれぞれ証人又は立会人として果たすべき責務とし
て定めているところをその趣旨、目的に沿つて果たすことができない者は、当該遺言における適法な証人又
は立会人としての資格を欠き、かかる証人又は立会人の関与のもとになされた遺言が法定の方式に適合し
ない遺言としてその効力を否定されることとなる場合がありうることは、おそらくこれを認めざるをえないであ
ろう。しかし、いかなる者が右のような証人又は立会人としての資格を欠く者にあたるかについては、もとより
一律にこれを論定することはできず、各種の遺言のそれぞれの場合につき、そこで証人又は立会人の果た
すべき責務として要求されている事項を適切に遂行する能力ないし資格を有するかどうかによつてこれを決
するほかはない。
 二 本件における問題は、盲人が民法九六九条に定める公正証書による遺言(以下「公正証書遺言」とい
う。)において証人となる資格を有するかどうかである。これにつき、多数意見は、盲人について右の資格を
否定すべき理由はないとし、そのように解する理由として、公正証書遺言において証人が果たすべき職責と
して法が要求するところは、(1) 遺言者に人違いがないことの確認、(2) 遺言者が正常な精神状態のもとで
自己の意思に基づいて遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認、(3) 公証人による右口述の
筆記が正確であることの確認と署名、押印の三点であるところ、このうち(1)と(2)は盲人でもすることができる
ことは明らかであり、(3)の筆記の正確性の承認についても、法は、遺言者の口述内容と公証人の読み聞か
せた内容とを耳で聞き、両者を対比して正確性の有無を確かめれば足りるとし、それ以上に筆記されたとこ
ろを眼で見て右の対比を行うことまでは要求していないと解されるから、盲人でも十分に証人としての責務を
果たすことができるとし、右のような口述内容と朗読内容との聞きくらべのみによつては筆記の正確性を識別
することができず、更に眼で見てこれを確かめなければならないというような場合が仮にありうるとしても、そ
れは稀有のことであろうから、その場合には、単に当該証人による筆記の正確性の承認が法定の方式に違
背するとしてその特定の遺言の効力を否定すれば足り、更に進んで盲人の証人資格を一般的に否定する必
要はないと論じている。この見解に対して私が疑問とし、かつ、賛同することができないのは、右(3)の筆記の
正確性の確認については、遺言者の口述内容と公証人による読み聞かせの内容とを耳で聞いて両者を対
比し、その間に相違がないかどうかを確かめれば足りるとして、これを前提にして事を論じている点である。
 三 確かに、民法九六九条三号によれば、公証人は、遺言者の口述を筆記したのち、それを遺言者及び証
人に読み聞かせなければならないが、更にそのうえに筆記をこれらの者に示すことまでは要求されておらな
い。しかし、このことは、公証人に対して最小限右の読み聞かせをすることを要求しているというだけのことで
あつて、遺言者や証人が筆記を見せることを求めた場合にこれを拒絶することができることまでを意味するも
のでないことは当然であり、右の規定から直ちに、証人は、筆記の正確性を確認するにあたり、公証人の読
み聞かせが筆記に即して正しくなされているかどうかを確かめる必要はないとする趣旨であると言い切れる
かどうかは、大いに疑問である。すなわち、
 (一) まず指摘すべき点は、正確性(すなわち遺言者の口述内容との一致)が求められるのは筆記内容で
あつて、公証人の朗読内容ではない、ということである(民法九六九条四号は、「筆記の正確なことを承認し」
と言つている。)。遺言者の口述内容と公証人の朗読内容とを比較するのは、筆記の正確性を確かめるため
の一手段であつて、それ自体が目的ではなく、したがつて、公証人の朗読内容自体の正確性(すなわち筆記
内容との一致)に疑問があれば、それを直接筆記そのものについて確かめる必要があるし、それがまた証人
に要求されている責務であると思われる。法は証人にそこまでは要求していないというのは、肝腎の最後の
詰めのところを甘くするものか、又は公証人は常に筆記内容を正しく朗読するものであるとの命題を前提とす
るものではないかと考えざるをえない。
 (二) もつとも、公証人がことさら遺言者の口述内容と異なる内容を書面に記載しながら、読み聞かせの際
には口述どおりの内容を読みあげるというようなことは、あるとしてもおそらく稀有のことであろうから、法はそ
のような稀有の場合をも念頭に置いて規定を設けたものと解することは合理的でないという議論も十分考え
られる。確かに、公証人がそのような非違行為を行うがごときことは極めて異例に属するというのは、おそらく
そのとおりであろう。しかし、そうであるからといつて、法は異例に属する公証人の非違行為についてはその
存在の可能性を前提としないで規定をしていると考えるべきである、というのは相当ではない。法は、証人に
対し、公証人の行動に対する監視の責務をも課しているのであり、このことは、民法九七四条が公証人と一
定の身分関係等を有する者につき一般に証人又は立会人としての適格性を否定していることからも窺われ
るところであるし、更に、もし公正証書遺言における証人の関与に公証人に対する監視機能が含まれていな
いとすれば、このような場合における証人の関与そのものの意味ないし必要性は多分に失われることにもな
ろう。そして、このような証人の監視は、当然に公証人のすべての行為に向けられるべく、この場合、極めて
異例に属するような非違行為については、そこまで監視の眼を向ける必要がないとする理由は、これを見出
し難いと思われるのである。
 なお、これに対しては、公証人の読み聞かせが筆記内容を正確に反映していないという疑いがあれば、証
人は筆記の正確なことの承認を拒否することができるから、これによつて右の監視機能を果たすことができ
るとの反論があるかもしれない。しかし、このような疑いをもつこと自体がその場の状況に依存するのであつ
て、この状況を現実に眼のあたりにする者にして始めて右のような疑いを抱くことが可能となる場合も想定さ
れるのであるから、右の反論は理由がないと思われるし、更に証人の立会、監視による公証人の非違行為
の抑制効果をも無視することができないと考える。
 (三) そればかりではない。法が公正証書遺言に証人の関与を求めているのは、右の証人の監視によつて
現実に公証人の非違行為を防止する機能を果たさせるということのほかに、かかる証人の介在によつて公
正証書遺言の正しい成立が担保されているという外形を作出し、これによつて公正証書遺言の信頼性を確
保するという意味合をも有しているのである。すなわち、遺言は関係者の利害に深刻、重大な影響を及ぼす
ものであるが、それが問題となる時には遺言者はすでにこの世を去つていてその真意を直接確かめる術は
なく、しかも事は密室内での出来事であるため、関係者はとかく遺言の真否に疑念を抱き、あるいはそれが
深刻、陰湿な紛争の種となつたり、あるいは関係者に深い不信と不満のしこりを永く残したりすることとなる
場合が少なくなく、法が遺言を要式行為とし、これに対して特に厳格に過ぎると思われるほどの厳しい形式の
枷を施しているのも、この点に対する慎重な配慮の結果にほかならないのであるが、関係者の右のような疑
念は、遺言に公証人が関与した場合には、その際の公証人の行為が適正であつたかどうかに対しても向け
られるのであり、このような疑念を解消するためにも、公証人の非違行為を十分に監視、抑制することのでき
る証人がこれに立ち会い、そのような非違がなかつたことを確認したという形式上の担保が存在することが
必要なのであつて、法はこのような配慮のもとに上記のような規定を設けたものと考えられるのである。そう
すると、この観点からしても、遺言公正証書の作成に際しての公証人の行為には、異例のものであると否と
を問わず、適正を欠く点は一切なかつたことが証人の監視によつて十分に保障されているという外形が作出
されることが必要であるといわなければならないであろう。
 私は、右のような理由から、証人が公証人による遺言者の口述内容の筆記の正確性を確認するについて
は、原則として口述内容と公証人の朗読内容とを耳で聞いて比較するのみで足りるとし、その前提のもとに
盲人の証人資格を原則的に肯定する多数意見には同調することができず、反対に右の証人資格を否定す
べきものと考えるのである。確かに、このような私の見解は、あまりにも形式にとらわれた解釈であり、事情
の変化に伴つてある程度要式性の緩和が要請されていることに即応しないものであるとの批判があるかもし
れない。しかし、要式性の緩和といつても、そこにはおのずから限度があり、法が現にとつている要式性の基
本的趣旨と相容れないと思われるところまで緩和をはかることは、すでに解釈の限界を超えるものと考えざ
るをえず、多数意見のとつている緩和的解釈(私は一種の緩和的解釈だと思うのであるが。)の底にある考
慮には同感するところが少なくないけれども、解釈論としてはどうしてもそこまで踏み切ることができないので
ある。
 なお、民法九六九条四号の筆記の正確性の承認について私見のような厳格な解釈をとり、盲人の証人資
格を否定するとすれば、勢い盲人による公正証書遺言の可能性をも否定することとならざるをえなくなつて不
当である、との批判があるかもしれない。この点については、私は、両者を必ずしも同一に解する必要はな
く、盲人の証人資格を否定することは、当然には盲人による公正証書遺言の可能性の否定につながるもの
ではないとの考えをもつているが、ここではこれに立ち入ることを避けたいと思う。
 以上の次第で、私は、盲人に公正証書遺言における証人資格を肯定した原判決には法令の解釈を誤つた
違法があり、右違法が原判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れないと
考える。

昭56・4・3最判 遺言方式の具備行為と相続欠格事由
最高裁判所第二小法廷(福岡高等裁判所)
遺言無効確認
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人荒木新一、同荒木邦一、同田辺宜克の上告理由第一について
 終結した口頭弁論を再開するかどうかは原審の専権に属するところであり、記録にあらわれた本件訴訟の
経過に照らすと、原判決にその他所論の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。
 同第二、一について
 民法八九一条三号ないし五号の趣旨とするところは遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対し
相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするにあることにかんがみると、相続に関する
被相続人の遺言書がその方式を欠くために無効である場合又は有効な遺言書についてされている訂正が
その方式を欠くために無効である場合に、相続人がその方式を具備させることにより有効な遺言書としての
外形又は有効な訂正としての外形を作出する行為は、同条五号にいう遺言書の偽造又は変造にあたるけ
れども、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨で右の行為をし
たにすぎないときには、右相続人は同号所定の相続欠格者にはあたらないものと解するのが相当である。
 これを本件の場合についてみるに、原審の適法に確定した事実関係の趣旨とするところによれば、本件自
筆遺言証書の遺言者であるA名下の印影及び各訂正箇所の訂正印、一葉目と二葉目との間の各契印は、
いずれも同人の死亡当時には押されておらず、その後に被上告人Bがこれらの押印行為をして自筆遺言証
書としての方式を整えたのであるが、本件遺言証書は遺言者であるAの自筆によるものであつて、同被上告
人は右實の意思を実現させるべく、その法形式を整えるため右の押印行為をしたものにすぎないというので
あるから、同被上告人は同法八九一条五号所定の相続欠格者にあたらないものというべきである。それゆ
え、同被上告人を相続欠格者にあたらないとした原審の判断は、結論において正当であり、論旨は、結局、
原判決の結論に影響を及ぼさない部分を論難するに帰し、採用することができない。
 同第二、二について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、被上告人らの請求を認容した原審の判断に所論の違
法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官宮ア梧一の反対意見があるほか、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官宮ア梧一の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由第二、一につき多数意見と見解を異にし、論旨を採用して原判決中被上告人Bに関する部
分を破棄すべきものと考える。その理由は、次のとおりである。
 遺言書又はその訂正が方式を欠くため無効である場合に、遺言者の相続人がその方式を具備させること
により有効な遺言書又は訂正の外形を作出したときは、右相続人は、遺言者の意思を実現させるためにした
かどうかにかかわらず、民法八九一条五号所定の相続欠格者にあたるものと解すべきである。多数意見
は、欠けていた方式を具備させた相続人が、遺言者の意思を実現させるために法形式を整える趣旨で右の
行為をしたにすぎないときには、相続欠格者にあたらないというのであるが、法はそのような例外を規定して
はいない。遺言書又はその訂正は、それが法定の方式を具備していない場合には、たとえその内容が遺言
者の最終意思に合致するときであつても、法律上は遺言又はその訂正としての効力を生じえないのであつ
て、それがなかつたものとして相続が行なわれなければならないことはいうまでもない。欠けていた方式を相
続人が具備させて有効な遺言書又は訂正の外形を作出することは、そのことが発見されない場合には、相
続による財産取得の秩序を乱す結果となり、また、相続的協同関係を破壊することとなるのは明らかであつ
て、この点は、右のような偽造変造行為をした者が遺言者の意思を実現させるために法形式を整える趣旨で
右の行為をしたかどうかによつて左右されるべき問題ではない。相続人が、遺言者の真の最終意思を知つ
ているからといつて、ほしいままに、遺言書を全く新たに作出したり、有効に作成されている遺言書を訂正し
たときには、遺言書を偽造又は変造した者として相続欠格者となることについては、おそらく異論があるま
い。このことは、法が遺言について厳格な方式を要求していることとも関連しているのであり、遺言に関する
限り、相続欠格との関係においても、適式な遺言を離れて遺言者の最終意思を云々することは許されないも
のというべきである。したがつて、遺言書又はその訂正が方式を欠くため無効である場合に、ほしいままにそ
の方式を具備させて有効な遺言書又は訂正の外形を作出した相続人は、遺言者の意思を実現させるために
右の行為をしたかどうかにかかわりなく、民法八九一条五号所定の相続欠格者にあたるものと考える。原審
の適法に確定した事実関係のもとにおいては、被上告人Bは、同号所定の相続欠格者にあたることが明ら
かであり、本件遺言書の効力のいかんによつてその権利又は法律関係に影響を受けるものではないから、
本件遺言無効確認の訴についての原告適格を欠くものといわなければならない。原審が同被上告人の原告
適格を肯定して同被上告人の請求につき本案の判断をしたのは、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右
違法が同被上告人の請求に関する部分の限度において原判決に影響を及ぼすことは明らかであつて、原判
決中右部分は破棄を免れず、論旨は理由があり、右部分については同被上告人の本件訴を原告適格を欠く
不適法な訴として却下すべきものと考える。

昭56・9・11最判 遺言無効確認、共同遺言
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
遺言無効確認
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人高橋靖夫の上告理由第一について
 遺言無効確認の訴訟において原告である相続人に確認の利益があるか否かは、遺言の内容によつて定
めれば足り、原告が受けた生前贈与等により原告の相続分がなくなるか否かは、将来における遺産分割の
時に問題とされるべき事項であることにかんがみると、原則として右確認の利益の存否の判断においては
考慮すべきものではないと解するのが相当である。右と同趣旨の原審の判断は正当であり、論旨は採用す
ることができない。
 同第二について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件遺言無効確認の訴が固有必要的共同訴訟にあた
らないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の
見解に立つて原判決を非難するか、又は原判決の結論に影響を及ぼさない点を論難するものであつて、採
用することができない。
 同第三及び第四について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を
非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第五について
 同一の証書に二人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があ
るときでも、右遺言は、民法九七五条により禁止された共同遺言にあたるものと解するのが相当である。原
判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

昭56・10・30最判 公告期間を徒過した相続人の相続権
最高裁判所第二小法廷(昭51・11・24大阪高等裁判所)
相続権確認等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人鍛冶千鶴子、同鍛冶良堅の上告理由第一点について
 民法九五八条の規定による公告期間内に相続人であることの申出をしなかつた者については、たとえ右
期間内に相続人であることの申出をした他の者の相続権の存否が訴訟で争われていたとしても、該訴訟の
確定に至るまで右期間が延長されるものではないと解するのが相当である。これと同趣旨の原審の判断は
正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎ
ず、採用することができない。
 同第二点について
 民法九五八条の規定による公告期間内に相続人であることの申出をしなかつた者は、同法九五八条の二
の規定により、右期間の徒過とともに、相続財産法人及びその後に財産が帰属する国庫に対する関係で失
権するのであつて、特別縁故者に対する分与後の残余財産が存する場合においても、右残余財産について
相続権を主張することは許されないものと解するのが相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として
是認することができ、原判決に所論の違法はなく、右違法を前提とする所論違憲の主張はその前提を欠く。
論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭56・11・13最判 協議離縁と遺言の効力
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
所有権移転登記
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人花岡敬明の上告理由について
 一 本件について原審が認定した事実関係は、およそ次のとおりである。
 1 A(明治二七年三月一〇日生)は、大正八年二月一二日B(明治三三年七月二四日生)と婚姻したが、
Bとの間には実子はなく、Cとの間に出生した被上告人Dがただ一人の実子であつたが、同被上告人とは同
居していなかつた。
 2 A夫婦は、昭和七年九月二八日Aの実弟Eと養子縁組したが、同人の妻とBとの折合いが悪く十数年後
に別居し、また、昭和三五年六月二五日Eの子の被上告人Fと養子縁組したが、やはり同人の妻とBとの折
合いが悪く数年後に別居した。その後A夫婦は、昭和四八年三月ころ実子である被上告人Dと同居したが、
同人の妻とBとの折合いが悪く同年一〇月ころ別居した。
 3 ところで、その後Bが脳溢血で入院するということもあつたので、A夫婦は、終生老後の世話を託すべく、
今度は妻Bの実家筋のB家から上告人らを養子として迎えることを希望した。これに対し、上告人らは当初難
色を示したが、Aから「実子の被上告人Dには居住する家屋敷だけやれば十分であるから、もし上告人らが
養子となりA夫婦を今後扶養してくれるならば、他の不動産を全部遺贈してもよい」との趣旨の申出を受けた
ので、これを承諾し、昭和四八年一二月二二日A夫婦と養子縁組したうえ、同夫婦と同居し共同生活を営み
つつその扶養をしていた。
 4 そして、Aは、前記の約旨にしたがい、同月二八日公正証書により、その所有する現金、預貯金全部を
妻のBに遺贈し、不動産のうち市川市a丁目b番宅地三六・一三平方メートルを被上告人Dに遺贈するが、そ
の余の不動産全部を上告人両名に持分各二分の一として遺贈する旨の本件遺言をした。
 5 ところが、昭和四九年一〇月、上告人G及び実兄の訴外Hが経営していた加根与商事株式会社が倒産
したが、そのことにより上告人G及び訴外HがAに無断でA所有の不動産について右会社の永代信用金庫に
対する四億円の債務担保のため根抵当権設定等の登記をしていることが発覚した。そして、Aがこのことを
知つて激怒したため、上告人G及び訴外Hは、六か月以内に右根抵当権設定登記等を抹消し、かつ、Aから
右会社が借用していた一五〇〇万円を返還することを約し、その旨の念書をAに差し入れたが、右約束を履
行するに至らなかつた。
 6 そこで、A夫婦は、上告人らに対し不信の念を深くして、上告人らに対し養子縁組を解消したい旨申し入
れたところ、上告人らもこれを承諾したので、昭和五〇年八月二六日A夫婦と上告人らとの間で協議離縁が
成立し、上告人らはA夫婦と別居した。
 7 上告人らは、別居後A夫婦を扶養せず、被上告人D夫婦がA夫婦の身の廻りの世話をしていたが、A
は、昭和五二年一月八日死亡し、Bも同年二月一日死亡した。
  以上の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、すべて正当として是認することができ、その過程に所
論の違法はない。
 二 ところで、民法一〇二三条一項は、前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分につい
ては、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす旨定め、同条二項は、遺言と遺言後の生前処分その
他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する旨定めているが、その法意は、遺言者がした生前処分に表
示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもないから、同条二項にいう抵触とは、単に、後
の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみにとどまら
ず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかで
ある場合をも包含するものと解するのが相当である。そして、原審の適法に確定した前記一の事実関係によ
れば、Aは、上告人らから終生扶養を受けることを前提として上告人らと養子縁組したうえその所有する不
動産の大半を上告人らに遺贈する旨の本件遺言をしたが、その後上告人らに対し不信の念を深くして上告
人らとの間で協議離縁し、法律上も事実上も上告人らから扶養を受けないことにしたというのであるから、右
協議離縁は前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきであり、し
たがつて、本件遺贈は後の協議離縁と抵触するものとして前示民法の規定により取り消されたものとみなさ
ざるをえない筋合いである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違
法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自
の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

昭56・12・18最判 遺言書の誤記訂正とその効力
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所 )
延滞賃料
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人榎本武光の上告理由について
 自筆証書による遺言の作成過程における加除その他の変更についても、民法九六八条二項所定の方式を
遵守すべきことは所論のとおりである。しかしながら、自筆証書中の証書の記載自体からみて明らかな誤記
の訂正については、たとえ同項所定の方式の違背があつても遺言者の意思を確認するについて支障がな
いものであるから、右の方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である(最
高裁昭和四六年(オ)第六七八号同四七年三月一七日第二小法廷判決・民集二六巻二号二四九頁参照)。
しかるところ、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件においては、遺言者が書損じた文字を抹消し
たうえ、これと同一又は同じ趣旨の文字を改めて記載したものであることが、証書の記載自体からみて明ら
かであるから、かかる明らかな誤記の訂正について民法九六八条二項所定の方式の違背があるからといつ
て、本件自筆証書遺言が無効となるものではないといわなければならない。結論において同趣旨に帰着する
原判決は、結局正当として肯認することができ、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭57・3・4最判 遺留分減殺請求権の時効
最高裁判所第一小法廷(名古屋高等裁判所)
所有権持分移転登記等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人景山米夫の上告理由一について
 民法一〇三一条所定の遺留分減殺請求権は形成権であつて、その行使により贈与又は遺贈は遺留分を
侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰
属するものと解すべきものであることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四〇年(オ)第一〇
八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和五〇年(オ)第九
二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)、したがつて、遺留分減殺請求に
関する消滅時効について特別の定めをした同法一〇四二条にいう「減殺の請求権」は、右の形成権である
減殺請求権そのものを指し、右権利行使の効果として生じた法律関係に基づく目的物の返還請求権等をも
これに含ましめて同条所定の特別の消滅時効に服せしめることとしたものではない、と解するのが相当であ
る。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採
用することができない。
 同二について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、民法一〇四〇条の規定を類推適用して被上告人の本件
遺贈の目的の価額弁償の請求を認めた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違
法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭57・4・30最判 負担付死因贈与契約の取消し
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
遺言無効確認
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所金沢支部に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人増本一彦、同増本敏子の上告理由について
 負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担
の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重するの余り受贈者
の利益を犠牲にすることは相当でないから、右贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相
関関係、右契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右負担の履行状況にもかか
わらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえないと認められる特段の事情が
ない限り、遺言の取消に関する民法一〇二二条、一〇二三条の各規定を準用するのは相当でないと解す
べきである。
 しかるに、上告人主張の負担である債務の履行の有無及び右のような特段の事情の存否について審理す
ることなく、負担付死因贈与については遺贈の取消に関する民法一〇二二条(その方式に関する部分を除
く。)、一〇二三条の各規定が準用されるものと解すべきであるとして、本件負担付死因贈与契約はこれと抵
触する本件遺言によつて取り消されたことを理由に、本件遺言が右死因贈与契約の存在によつて無効とな
る余地はないとした原判決は、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが
明らかであるから、原判決は破棄を免れず、更に、審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととす
る。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭57・11・12最判 遺留分減殺請求の時効の起算点
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
所有権移転登記等抹消登記手続
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人石川功の上告理由について
 民法一〇四二条にいう「減殺すべき贈与があつたことを知つた時」とは、贈与の事実及びこれが減殺でき
るものであることを知つた時と解すべきであるから、遺留分権利者が贈与の無効を信じて訴訟上抗争してい
るような場合は、贈与の事実を知つただけで直ちに減殺できる贈与があつたことまでを知つていたものと断
定することはできないというべきである(大審院昭和一二年(オ)第一七〇九号同一三年二月二六日判決・民
集一七巻二七五頁参照)。しかしながら、民法が遺留分減殺請求権につき特別の短期消滅時効を規定した
趣旨に鑑みれば、遺留分権利者が訴訟上無効の主張をしさえすれば、それが根拠のない言いがかりにす
ぎない場合であつても時効は進行を始めないとするのは相当でないから、被相続人の財産のほとんど全部
が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては、無効の主張について、一
応、事実上及び法律上の根拠があつて、遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行
使しなかつたことがもつともと首肯しうる特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺することのできるも
のであることを知つていたものと推認するのが相当というべきである。
 これを本件についてみるのに、原審の適法に確定した事実及び記録によれば、(一) 訴外Aは、その妻であ
る上告人とかねて円満を欠いていたところ、昭和三三年ころには不仲の程度が甚しくなり、養子である訴外B
とともに家を出て被上告人C方で同被上告人と同棲して世話を受けた、(二) 訴外Aは、七四歳の高齢になつ
て生活力も失つていた時期である昭和四三年一二月二〇日に被上告人Cの自己及び訴外Bに対する愛情
ある世話と経済的協力に感謝し、かつ、自分の亡きあと訴外Bの面倒をみてもらうためにその唯一の財産と
もいうべき本件土地建物につき持分二分の一を被上告人Cに贈与し、同時に残りの二分の一を訴外Bに贈
与した、(三) 訴外Aは、昭和四九年六月二五日に死亡したが、上告人はその一か月後には本件土地建物
の権利関係について調査し、前記贈与の事実を了知していた、(四) そこで、上告人は、訴外Aの被上告人C
に対する本件贈与が右両者間の妾契約に基づいてされたもので公序良俗に反して無効であると主張して被
上告人Cの受領した本件土地建物の持分二分の一の返還を求める本件訴を提起した、(五) これに対し被
上告人Cらは右公序良俗違反の主張を争うとともに、本件第一審の昭和四九年一一月一一日の口頭弁論で
陳述した同日付準備書面において、かりに本件贈与が無効であるとしても、右返還請求は民法七〇八条に
より許されない旨を主張し、第一審判決においてその主張が容れられて本訴請求が排斥されたため、上告
人は、差戻前の原審の昭和五一年七月二七日の口頭弁論において、予備的に、遺留分減殺請求権を行使
して、被上告人Cに対し、本件土地建物の持分六分の一の返還を求めるに至つた、(六) 上告人がした本件
贈与無効の主張は、差戻前の原審において、贈与に至る前記事情及び経過に照らし公序良俗に反する無
効なものといえない旨判断されて排斥され、右判断は上告審の差戻判決においても是認された、というので
ある。右事実関係によれば、本件贈与無効の主張は、それ自体、根拠を欠くというだけでなく、訴外Aの唯一
の財産ともいうべき本件土地建物が他に贈与されていて、しかも上告人において右事実を認識していたとい
うのであるから、被上告人Cらから民法七〇八条の抗弁が提出されているにもかかわらずなお本件贈与の
無効を主張するだけで昭和五一年七月に至るまで遺留分減殺請求権を行使しなかつたことについて首肯す
るに足りる特段の事情の認め難い本件においては、上告人は、おそくとも昭和四九年一一月一一日頃には
本件贈与が減殺することのできる贈与であることを知つていたものと推認するのが相当というべきであつて、
これと同旨の説示に基づいて本件遺留分減殺請求権が時効によつて消滅したものとした原審の判断は、正
当として是認することができる。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


昭58・9・8最判 「妻何某」とした保険金受取人の指定の趣旨
最高裁判所第一小法廷(福岡高等裁判所)
保険金支払等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人仁科恒彦の上告理由書及び上告理由補充書記載の上告理由並びに上告代理人木村一八郎
の上告理由について
 生命保険契約において保険金受取人の指定につき単に被保険者の「妻何某」と表示されているにとどまる
場合には、右指定は、当該氏名をもつて特定された者を保険金受取人として指定した趣旨であり、それに付
加されている「妻」という表示は、それだけでは、右の特定のほかに、その者が被保険者の妻である限りに
おいてこれを保険金受取人として指定する意思を表示したもの等の特段の趣旨を有するものではないと解
するのが相当である。けだし、保険金受取人の指定は保険契約者が保険者を相手方としてする意思表示で
あるから、これによつて保険契約者が何びとを保険金受取人として指定したかは、保険契約者の保険者に
対する表示を合理的かつ客観的に解釈して定めるべきものであつて、この見地に立つてみるときは、保険契
約者が契約の締結に際して右のような表示をもつて保険金受取人を指定したときは、客観的にみて、右「妻」
という表示は、前記のように、単に氏名による保険金受取人の指定におけるその受取人の特定を補助する
意味を有するにずぎないと理解するのが合理的であり、それを超えて、保険契約者が、将来における被保険
者と保険金受取人との離婚の可能性に備えて、あらかじめ妻の身分を有する限りにおいてその者を保険金
受取人として指定する趣旨を表示したものと解しうるためには、単に氏名のほかにその者が被保険者の妻で
あることを表示しただけでは足りず、他に右の趣旨を窺知させるに足りる特段の表示がされなければならな
いと考えるのが相当だからである。それゆえ、保険契約者が、保険契約において保険金受取人を被保険者
の「妻何某」と表示して指定したのち、「何某」において被保険者の妻たる地位を失つたために、主観的には
当然に保険金受取人の地位を失つたものと考えていても、右の地位を失わせる意思を保険契約に定めると
ころに従い保険金受取人の変更手続によつて保険者に対して表示しない限り、右「何某」は被保険者との離
婚によつて保険金受取人の地位を失うものではないといわざるをえない。そして、以上の理は、会社、事務
所、官公庁、組合等の団体を対象とし、被保険者が死亡し又は所定の廃疾状態になつた場合に死亡保険金
又は廉疾保険金を支払う趣旨の団体定期保険契約についても妥当するものというべきである。
 これを本件についてみるのに、原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告人A、同Bの父であるCの
所属する大分県医師会は、昭和四八年七月一日、被上告人安田生命保険相互会社との間で、被保険者を
C、保険金受取人を「妻、D」、保険金額を四〇〇万円とする団体定期保険契約を、また、昭和五一年一〇月
一日、被上告人第一生命保険相互会社との間で、被保険者をC、保険金受取人を「妻、D」、保険金額を五
〇〇万円とする団体定期保険契約をそれぞれ締結し(以下これらを「本件各契約」という。)、本件各契約は
その後Cが死亡するまで毎年更新された、(2) 被上告人Eは、本件各契約締結当時Cの妻であつたが、訴
外Fとの不貞行為が原因で昭和五三年五月二三日Cと離婚することを余儀なくされ、同年一一月二四日右訴
外人と婚姻した、(3) 本件各契約が依拠する被上告人安田生命保険相互会社、同第一生命保険相互会社
の各団体定期保険普通保険約款三四条には、保険契約者は、被保険者の同意を得て死亡保険金受取人を
指定し又は変更することができ、併せて右指定又は変更はその旨を保険者に書面で通知してからでなけれ
ば保険者に対抗することができない旨が定められているが、本件各契約において右約款所定の保険金受取
人の変更手続がとられないまま、Cは昭和五五年一月二〇日に死亡した、というのである。右事実関係のも
とにおいては、本件各契約の保険金受取人は保険金受取人として表示された「D」すなわち被上告人Eであ
り、同人は自己の不貞行為が原因でCと離婚することを余儀なくされてその妻である地位を失い、Fと婚姻し
たからといつて、本件各契約の保険金受取人の地位を喪失したものとはいえないというべきであつて、これと
同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前
提とする所論違憲の主張はその前提を欠く。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を非難するか、又
は原判決の結論に影響しない部分についてその違法をいうものにすぎず、いずれも採用することができな
い。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条一、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。

昭59・4・27最判 熟慮期間の起算点
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
貸金等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人川崎敏夫の上告理由について
 民法九一五条一項本文が相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて三か月の期
間(以下「熟慮期間」という。)を許与しているのは、相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自
己が法律上相続人となつた事実を知つた場合には、通常、右各事実を知つた時から三か月以内に、調査す
ること等によつて、相続すべき積極及び消極の財産(以下「相続財産」という。)の有無、その状況等を認識
し又は認識することができ、したがつて単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提
条件が具備されるとの考えに基づいているのであるから、熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事
実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知
つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しな
いと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況
からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人に
おいて右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つ
た時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が
相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解する
のが相当である。
 これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実及び本件記録上明らかな事実は、次のとおりであ
る。
 1 第一審被告亡Aは、昭和五二年七月二五日、上告人との間で、Bの上告人に対する一〇〇〇万円の準
消費貸借契約上の債務につき、本件連帯保証契約を締結した。
 2 本件の第一審裁判所は、昭和五五年二月二二日、上告人が亡Aに対して本件連帯保証債務の履行を
求める本訴請求を全部認容する旨の判決を言い渡したが、亡Aが右判決正本の送達前の同年三月五日に
死亡したため、本件訴訟手続は中断した。そこで、上告代理人が同年七月二八日に受継の申立をしたが、
第一審裁判所は、昭和五六年二月九日亡Aの相続人である被上告人らにつき本件訴訟手続の受継決定を
したうえ、被上告人Cに対して同年二月一二日に、被上告人Dに対して同月一三日に、被上告人Eに対して
同年三月二日に、それぞれ右受継申立書及び受継決定正本とともに第一審判決正本を送達した。もつとも、
被上告人Eは、同年二月一四日に被上告人Dから右送達の事実を知らされていた。
 3 ところで、亡Aの一家は、同人が定職に就かずにギヤンブルに熱中し家庭内のいさかいが絶えなかつた
ため、昭和四一年春に被上告人Cが家出し、昭和四二年秋には亡Aの妻が被上告人D、同Eを連れて家出し
て、以後は被上告人らと亡Aとの間に親子間の交渉が全く途絶え、約一〇年間も経過したのちに本件連帯保
証契約が締結された。その後、亡Aは、生活保護を受けながら独身で生活していたが、本件訴訟が第一審に
係属中の昭和五四年夏、医療扶助を受けて病院に入院し、昭和五五年三月五日病院で死亡した。被上告人
Cは、同人の死に立ち会い、また、被上告人D、同Eも右同日あるいはその翌日に亡Aの死亡を知らされた。
しかし、被上告人Cは、民生委員から亡Aの入院を知らされ、三回ほど亡Aを見舞つたが、その際、同人から
その資産や負債について説明を受けたことがなく、本件訴訟が係属していることも知らされないでいた。当
時、亡Aには相続すべき積極財産が全くなく、亡Aの葬儀も行われず、遺骨は寺に預けられた事情にあり、被
上告人らは、亡Aが本件連帯保証債務を負担していることを知らなかつたため、相続に関しなんらかの手続
をとる必要があることなど全く念頭になかつた。ところが、被上告人らは、その後約一年を経過したのちに、
前記のとおり、第一審判決正本の送達を受けて初めて本件連帯保証債務の存在を知つた。
 4 そこで、被上告人らは、第一審判決に対して控訴の申立をする一方、昭和五六年二月二六日大阪家庭
裁判所に相続放棄の申述をし、同年四月一七日同裁判所はこれを受理した。
 右事実関係のもとにおいては、被上告人らは、亡Aの死亡の事実及びこれにより自己が相続人となつた事
実を知つた当時、亡Aの相続財産が全く存在しないと信じ、そのために右各事実を知つた時から起算して三
か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたものであり、しかも被上告人らが本件第一審判決正本の送
達を受けて本件連帯保証債務の存在を知るまでの間、これを認識することが著しく困難であつて、相続財産
が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があると認められるから、民法九一五条一項本文の熟慮期
間は、被上告人らが本件連帯保証債務の存在を認識した昭和五六年二月一二日ないし同月一四日から起
算されるものと解すべきであり、したがつて、被上告人らが同月二六日にした本件相続放棄の申述は熟慮期
間内に適法にされたものであつて、これに基づく申述受理もまた適法なものというべきである。それゆえ、被
上告人らは、本件連帯保証債務を承継していないことに帰するから、上告人の本訴請求は理由がないとい
わなければならない。
 そうすると、原審が、民法九一五条一項の規定に基づき自己のために相続の開始があつたことを知つたと
いうためには、相続すべき積極又は消極財産の全部あるいは一部の存在を認識することを要すると判断し
た点には、法令の解釈を誤つた違法があるものというべきであるが、被上告人らの本件相続放棄の申述が
熟慮期間内に適法にされたものであるとして上告人の本訴請求を棄却したのは、結論において正当であり、
論旨は、結局、原判決の結論に影響を及ぼさない部分を論難するものであつて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官宮ア梧一の反対意見があるほか、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官宮ア梧一の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由につき多数意見と見解を異にし、論旨を採用して原判決を破棄し、上告人の本訴請求を認
容すべきものと考える。その理由は、次のとおりである。
 民法九一五条一項所定の「自己のために相続の開始があつたことを知つた時」とは、相続人が相続の原
因事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を覚知した時をいうものと解するのが相当であり
(大審院大正一五年(ク)第七二一号同年八月三日第二民事部決定・民集五巻一〇号六七九頁参照)、相続
人において相続財産を認識したかどうかは、熟慮期間の起算点に影響を及ぼさないというべきである。原判
決は、熟慮期間につき、相続人が、前記各事実を覚知しただけでは足りず、相続財産の全部又は一部の存
在をも認識した時から起算すべきであるとするが、法は、熟慮期間については、相続人が相続について単純
若しくは限定の承認又は放棄のいずれを選択すべきかの決定をするため相続財産の有無・内容を調査すべ
きものとして(民法九一五条二項)ひとまず三か月の期間を定め、三か月の期間内に右の決定をすることに
ついて困難な事情がある場合に備えて期間伸長の途を開き(同条一項但書)、かくして相続財産調査のため
に十分ゆとりある期間を用意した上、その期間内に調査を終えて前記の選択権を行使するよう要求している
ことが明らかであるから、相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時から右期間を起算すべき
であると解する余地はない。多数意見は、相続人において相続財産が全く存在しないと誤信したために熟慮
期間を徒過し、かつ、その誤信について相当な理由があると認められるときには、熟慮期間は相続人が相続
財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきであるというので
あるが、法はそのような例外を規定していないし、却つて、明治二三年法律第九八号のいわゆる旧民法中財
産取得編三二四条一項四号が現行民法に継受されなかつた立法の経緯に徴すると、法は、意識的に右の
ような例外を認めないこととしたことが明らかであるから、右のような例外を認める多数意見は、法解釈の域
から立法論に踏み込んだものといわなければならない。相続の承認及び放棄の制度は、直接的には、相続
人の立場を重んじその保護を図るためのものというべきであるが、他面において、相続債権者等への配慮、
すなわち相続における権利関係をなるべく早く確定させようとの狙いもあるのであつて、熟慮期間は、右の権
利関係を確定させる基準となるものであるから、その起算点が多数意見のいうような相続人の相続財産につ
いての認識及びその相当性というような事情に影響されると解するのは、著しく法的安定性を害するもので
あり、そのような事情について関知しない相続債権者等に対し不測の損害を与えるおそれがある。のみなら
ず、今後、熟慮期間徒過後も例外的に限定承認又は放棄ができるとされる場合の右の相当性があるかどう
かの点をめぐつて、相続人と相続債権者等の間における解釈の対立から無用の紛争を引き起こすおそれも
ある。また、多数意見は、相続人において相続財産が全く存在しないと誤信し、かつ、そのように誤信したこ
とについて相当な理由があるときは、単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条
件を欠くとするものと解されるのであるが(その文脈上、かように解せざるをえない。)、その趣旨が、そのよう
な場合には右の選択をする期待可能性がないことを理由とするものであるとすれば、相続財産が全く存在し
ないと誤信した場合に限られないというべきであつて、相続財産の一部を認識しただけでその余は存在しな
いと誤信したため、あえて前記の選択権を行使しなかつた場合にも、選択すべき前提条件を欠くというべきで
あり、両者を区別すべき合理的理由はないと思われるが、かくては、結局、熟慮期間は具体的な相続財産の
存在を認識した時から起算すべきであるということに帰し、前記のとおり、法の趣旨に反することになることが
明らかである。民法は、単純承認を相続の原則的形態とみて、相続人が熟慮期間内に限定承認も放棄もし
ないときは、原則に従つて、単純承認をしたものとみなす旨規定しているが、同趣旨の規定は、明治三一年
法律第九号のいわゆる明治民法の実施以来、強行法規たる国法として本件相続開始時までに実に八〇余
年の長きにわたつて施行されてきたのである。しかも、昭和二二年にいわゆる新民法として改正されたのち
の相続の規定は簡潔となり、その知識も相当普及するに至つたことは諸子均分相続制に対する国民の対応
ぶりによつても知りうるところであるから、原判決のいうように、相続人が被相続人死亡当時積極・消極の遺
産が全く存在していないと認識している場合には、通常一般人としてはおよそ遺産相続ということは起こりえ
ないと考えるのが普通であつて、たとえ第一順位の相続人が被相続人死亡の事実を知つていたとしても、右
のような場合にわざわざ相続の承認、放棄に関する手続をしないのが通常である、などと法の不遵守を弁護
することは、相当でない。被相続人が積極・消極とも一切の遺産を有しないという場合は極めて稀有のことで
あるから、そのような例外の場合であると誤信している相続人に対し、限定承認又は放棄の手続をとるべき
ことを要求しても、著しく不合理であるとは到底考えられないのである。
 叙上の見地に立つて本件をみると、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、被上告人らの本件
相続放棄の申述は、熟慮期間の経過後にされたものであり、その効力を生ずるに由ないものであつて、上告
人の本訴請求は理由があるというべきであるから、原審が、これと異なる見解のもとに、本件相続放棄の申
述は熟慮期間内に適法にされた有効なものであるとして上告人の本訴請求を棄却したのは、法令の解釈適
用を誤つた違法があり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがつて、論旨は理
由があり、原判決は破棄を免れず、前記のとおり上告人の本訴請求を認容し、被上告人らの控訴を棄却す
べきである。


昭61・3・13最判 特定の財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えは、適法である
最高裁判所第一小法廷(大阪高等裁判所)
遺産確認(棄却)
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告人A代理人市木重夫の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を
非難するか、又は独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 なお、原審は、第一審判決添付の物件目録(一)ないし(七)、(一〇)及び(一一)記載の各不動産(但し、(一
〇)については共有持分二分の一。以下同じ。)が昭和三五年一月二〇日に死亡した訴外Bの遺産であり、
被上告人ら及び上告人らがその共同相続人(代襲相続人及び共同相続人の各相続人を含む。以下同じ。)
であるとの事実を確定したうえ、遺産分割の前提問題として、右不動産が右信忠の遺産であることの確認を
求める被上告人らの請求を認容すべきものとしているところ、このような確認の訴え(以下「遺産確認の訴え」
という。)の適否につき、以下職権をもつて検討することとする。
 本件のように、共同相続人間において、共同相続人の範囲及び各法定相続分の割合については実質的な
争いがなく、ある財産が被相続人の遺産に属するか否かについて争いのある場合、当該財産が被相続人の
遺産に属することの確定を求めて当該財産につき自己の法定相続分に応じた共有持分を有することの確認
を求める訴えを提起することは、もとより許されるものであり、通常はこれによつて原告の目的は達しうるとこ
ろであるが、右訴えにおける原告勝訴の確定判決は、原告が当該財産につき右共有持分を有することを既
判力をもつて確定するにとどまり、その取得原因が被相続人からの相続であることまで確定するものでない
ことはいうまでもなく、右確定判決に従つて当該財産を遺産分割の対象としてされた遺産分割の審判が確定
しても、審判における遺産帰属性の判断は既判力を有しない結果(最高裁昭和三九年(ク)第一一四号同四
一年三月二日大法廷決定・民集二〇巻三号三六〇頁参照)、のちの民事訴訟における裁判により当該財産
の遺産帰属性が否定され、ひいては右審判も効力を失うこととなる余地があり、それでは、遺産分割の前提
問題として遺産に属するか否かの争いに決着をつけようとした原告の意図に必ずしもそぐわないこととなる
一方、争いのある財産の遺産帰属性さえ確定されれば、遺産分割の手続が進められ、当該財産についても
改めてその帰属が決められることになるのであるから、当該財産について各共同相続人が有する共有持分
の割合を確定することは、さほど意味があるものとは考えられないところである。これに対し、遺産確認の訴
えは、右のような共有持分の割合は問題にせず、端的に、当該財産が現に被相続人の遺産に属すること、
換言すれば、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えで
あつて、その原告勝訴の確定判決は、当該財産が遺産分割の対象たる財産であることを既判力をもつて確
定し、したがつて、これに続く遺産分割審判の手続において及びその審判の確定後に当該財産の遺産帰属
性を争うことを許さず、もつて、原告の前記意思によりかなつた紛争の解決を図ることができるところである
から、かかる訴えは適法というべきである。もとより、共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係
は、基本的には民法二四九条以下に規定する共有と性質を異にするものではないが(最高裁昭和二八年
(オ)第一六三号同三〇年五月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁参照)、共同所有の関係を
解消するためにとるべき裁判手続は、前者では遺産分割審判であり、後者では共有物分割訴訟であつて
(最高裁昭和四七年(オ)第一二一号同五〇年一一月七日第二小法廷判決・民集二九巻一〇号一五二五頁
参照)、それによる所有権取得の効力も相違するというように制度上の差異があることは否定しえず、その差
異から生じる必要性のために遺産確認の訴えを認めることは、分割前の遺産の共有が民法二四九条以下
に規定する共有と基本的に共同所有の性質を同じくすることと矛盾するものではない。
 したがつて、被上告人らの前記請求に係る訴えが適法であることを前提として、右請求の当否について判
断した原判決は正当というべきである。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

昭61・3・20最判 921条3項(法定単純承認)にいう「相続財産」
最高裁判所第一小法廷(広島高等裁判所)
不動産所有権移転登記
主    文
     一 原判決中上告人敗訴の部分のうち樹木除去による損害賠償請求に係る部分についての本件上
告を却下する。
     二 原判決中前項の請求を除くその余の請求に係る部分のうち、(一) 第一次請求につき三六〇万
円に対する昭和四九年一二月三日から昭和五三年五月一一日まで年五分の割合による金員を超えて上告
人の控訴を棄却した部分、(二) 第二次請求につき三六〇万円に対する昭和四九年一二月三日から昭和五
四年二月二七日まで年五分の割合による金員を超えて上告人の控訴を棄却した部分、(三) 被上告人Aに
対する第三次請求につき三六〇万円に対する昭和四九年一二月三日から昭和五三年五月一一日まで年五
分の割合による金員を超えて上告人の控訴を棄却した部分について、原判決を破棄する。
     右各部分につき本件を広島高等裁判所に差し戻す。
     三 その余の本件上告を棄却する。
     四 第一項及び前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 一 上告代理人藤堂真二の上告理由四について
 原審は、(一) (1) 上告人は、昭和四九年七月頃、Bとの間で、昭和四二年頃以来引渡を受けて使用して
きた本件土地を代金三六〇万円で買受ける旨の売買契約(以下「本件売買」という。)を締結し、昭和四九年
一二月二日までに右代金全額を支払つた、(2) 上告人はBが司法書士であつたので本件売買に基づく所有
権移転登記手続を同人に依頼していたが、同人はその手続をしないまま、昭和五二年九月一六日に急死し
た、(3) 同人は右死亡前の同年一月二五日、山陽観光株式会社(以下「山陽観光」という。)に対し本件土地
を二重に売り渡した、(4) Bの相続人は被上告人ら三名であつたが、被上告人らは、同年一二月一六日、広
島家庭裁判所に対しBの相続に関し限定承認の申述をし、右申述は昭和五三年一月二六日に受理された
(以下「本件限定承認」という。)、(5) 山陽観光は同年五月二日、C(原判決中に「D」と表示されているのは
誤記と認める。)に対し本件土地を売り渡した、(6) 被上告人らは、本件土地につき共同相続登記をしたう
え、同月一二日、Bの山陽観光に対する前記売買の履行として、Cに対し所有権移転登記(以下「本件登記」
という。)をした、との事実を確定したうえ、(二) (1) 被上告人らが本件限定承認の申述に際し同家庭裁判
所に提出した財産目録には本件売買に伴つてBが上告人に対し負担していた相続債務の記載が脱漏してい
たため、本件限定承認は無効であり、被上告人らは、単純承認をしたことになるから、本件売買に基づく所有
権移転登記義務を承継した、(2) しかるに、被上告人らはCに対して本件登記をしたものであつて、右は、上
告人の本件土地の買主としての権利を侵害する不法行為であるとともに、右登記義務の履行を不能とする
債務不履行である、(3) よつて、上告人は被上告人らに対し、第一次的に不法行為を理由とし、第二次的に
債務不履行を理由とし、損害賠償として各自三六〇万円及びこれに対する昭和四九年一二月三日から完済
に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める、との上告人の請求に対し、(三) 財産目録に上
告人主張の相続債務の記載を脱漏したとしても本件限定承認を無効とする事由にはならないし、本件限定
承認が有効である以上、被上告人らは上告人に対し本件土地について所有権移転登記をすべき義務を負
わなくなつたと判断して、右各請求を全部棄却すべきものとしている。
 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
 民法九二一条三号にいう「相続財産」には、消極財産(相続債務)も含まれ、限定承認をした相続人が消
極財産を悪意で財産目録中に記載しなかつたときにも、同号により単純承認したものとみなされると解する
のが相当である。けだし、同法九二四条は、相続債権者及び受遺者(以下「相続債権者等」という。)の保護
をはかるため、限定承認の結果清算されるべきこととなる相続財産の内容を積極財産と消極財産の双方に
ついて明らかとすべく、限定承認の申述に当たり家庭裁判所に財産目録を提出すべきものとしているのであ
つて、同法九二一条三号の規定は、右の財産目録に悪意で相続財産の範囲を偽る記載をすることは、限定
承認手続の公正を害するものであるとともに、相続債権者等に対する背信的行為であつて、そのような行為
をした不誠実な相続人には限定承認の利益を与える必要はないとの趣旨に基づいて設けられたものと解さ
れるところ、消極財産(相続債務)の不記載も、相続債権者等を害し、限定承認手続の公正を害するという
点においては、積極財産の不記載との間に質的な差があるとは解し難く、したがつて、前記規定の対象から
特にこれを除外する理由に乏しいものというべきだからである。
 そうすると、原審の確定した前記の事実関係によると、本件売買に基づくBの上告人に対する義務は、未だ
履行されていなかつたのであるから、相続債務(消極財産)として財産目録に計上されるべきものと考えられ
るところ、上告人の前記の主張の趣旨とするところは、不明確ながらも、被上告人らは悪意で右相続債務を
財産目録に記載しなかつたものであつて同法九二一条三号に該当し、これによつて単純承認の効果を生じ
たものであることを前提として、被上告人らがCに本件登記をしたことにつき、第一次的に不法行為を理由と
し、第二次的に債務不履行を理由として損害賠償を求めるというにあるものと解されるから、以上の説示に
照らし、原審としては、右相続債務の財産目録への記載の有無、不記載の場合の被上告人らの悪意、被上
告人らそれぞれの相続分等を確定し、上告人の前記各請求の当否につき判断を加えるべきであつたという
べきところ、これと異なる見解に基づき、右の点につき審理を尽くすことなく、財産目録に上告人主張の相続
債務の記載が脱漏していても本件限定承認を無効とする事由にはならないとして、消極財産の不記載は単
純承認をしたものとみなされる事由に当たらないとの趣旨を判示したことに帰する原判決には、法令の解釈
適用の誤り、審理不尽ひいて理由不備の違法があるものというべきである。
 したがつて、原判決中、第一次請求につき右三六〇万円及びこれに対する本件登記の日である昭和五三
年五月一二日から完済までの年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分を棄却すべきであるとし
て上告人の控訴を棄却した部分、並びに第二次請求につき右三六〇万円及びこれに対する請求の趣旨変
更申立書の送達による催告の日の翌日であること記録上明らかな昭和五四年二月二八日から完済まで年
五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分を棄却すべきであるとして上告人の控訴を棄却した部分
は破棄を免れず、論旨は右の限度において理由があるが、右各請求のうち、その余の遅延損害金の支払を
求める部分は、上告人の主張を前提としても、第一次請求については本件登記の日の前日まで、第二次請
求については前記催告の日まで、前記各請求に係る損害賠償債務が遅滞に陥ると解すべき根拠はないか
ら、右各請求を認容する余地はなく、したがつて、原判決中石部分に係る請求を棄却すべきであるとして上
告人の控訴を棄却した原審の判断は、結局正当というべきであり、この部分に関する論旨は理由がない。そ
して、右破棄部分については、前示の観点から更に審理を尽くさせる必要があるので、右部分につき本件を
原審に差し戻すのが相当である。
 二 同三及び五について
 原審は、前記確定事実のほか、(一) (1) 被上告人Aは昭和五三年一月三〇日にBの相続財産管理人
(民法九三六条一項)に選任された、(2) 本件限定承認にかかる清算手続は未だ完了していない、との事実
を確定したうえ、(二) (1) 限定承認後の相続財産は全相続債権者の債権の弁済に充てられるべきもので
あるから、Bと山陽観光との間で本件土地についての売買がされても相続人はこれに応じた所有権移転登
記手続をしてはならない、(2) しかるに、被上告人らは法定の清算手続に違反してBの山陽観光に対する売
買の履行としてCに対し本件登記をし、このため上告人は本件売買の代金額相当の損害を被つた、(3) そこ
で、上告人は被上告人らに対し、民法九三四条に基づく損害賠償として各自三六〇万円及びこれに対する
昭和四九年一二月三日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める、との上告人
の第三次請求に対し、(三) (1) Bが山陽観光との間で本件土地の売買をしたとしても、その旨の所有権移
転登記がされる前に被上告人らが限定承認をした以上、本件土地は相続財産とされ、したがつて、本件土地
に本件登記をしたことは、民法九二九条に違反するものとして、財産管理人である被上告人Aの責任にとど
まるか否かは別として、同法九三四条による損害賠償責任を生じうる、(2) しかし、被上告人らの限定承認
にかかる清算手続は未だ完了しておらず、本件登記により上告人に生ずる損害の有無、その損害額はなお
確定していない段階にあるから、上告人の前記主張は失当である、として、右請求を全部棄却すべきものと
判断している。
 ところで、共同相続の場合において、民法九三四条に基づく損害賠償責任を負うべき者は相続財産管理人
に選任された相続人のみであり(同法九三六条三項、九三四条)、原審の確定したところによれば、本件限
定承認において相続財産管理人に選任された者は被上告人Aであるというのであるから、上告人の前記請
求のうち被上告人E及び同Fに対する請求は、失当として棄却を免れないものといわなければならない。した
がつて、右部分にかかる請求を棄却すべきものとして上告人の控訴を棄却した原審の判断は、結局正当と
いうべきである。また、上告人の右請求のうち、被上告人Aに対し三六〇万円に対する昭和四九年一二月三
日から昭和五三年五月一一日までの遅延損害金の支払を求める部分については、上告人の主張を前提と
しても、本件登記がされた同月一二日より前に右請求に係る損害賠償債務が遅滞に陥ると解すべき根拠を
欠くから、右請求を認容する余地はなく、したがつて、右部分に係る請求を棄却すべきものとして上告人の控
訴を棄却した原審の判断もまた結局正当というべきである。以上の点に関する論旨は理由かないことに帰す
る。
 しかしながら、上告人の前記請求中その余の部分(被上告人Aに対し、三六〇万円及びこれに対する本件
登記の日である昭和五三年五月一二日から完済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金の支払を求
める部分)について、限定承認に伴う清算手続が完了していない以上、民法九二九条違反を原因とする同法
九三四条の規定に基づく損害の発生の有無及びその額を確定することはできないとした原審の前記判断を
是認することはできない。すなわち、民法は、限定承認に伴う清算手続を公平に実施するため、一定の期間
(九二七条一項、九三六条三項)を設けて、相続債権者及び受遺者に請求の申出をさせることとし、相続人
又は相続財産管理人をして右期間内に相続財産及び相続債務の調査をさせて相続債務の弁済計画を立て
させるものとし、この調査等の必要上、この期間中は一般的に弁済を拒絶することができるものとの支払猶
予を与えるとともに(九二八条)、右期間満了後は、右期間内にした計算に従い、相続債権者に対し配当弁
済すべきものとしている(九二九条)のである。以上によると、右期間満了後は、所定の計算も完了し、各相
続債権者に対する弁済額も確定してこれを弁済することができるし、またその義務もあることが法律上予定
されているものというべきである。そうとすれば、一定の相続債権者に対し不当な弁済があつたとしても、そ
れによつて他の相続債権者に対して弁済ができなくなつた金額(これが、同法九三四条に基づく損害賠償
額にほかならない。)は、右期間満了後の段階においては、おのずから計算可能のはずであつて、清算手
続が完了しない限りはその算定が不能であるというべきものでないことは明らかである。原審としては、進ん
で被上告人Aの上告人に対する同法九三四条に基づく損害賠償責任の有無、上告人が本件登記によつて
被つた損害の額等を審理したうえ上告人の前記請求の当否を判断すべきであつたというべきであり、これと
異なる見解に立ち、右の点について審理を尽くすことなく、清算手続が完了していない以上損害額は確定し
ないとした原判決には、法令の解釈適用の誤り、審理不尽ひいて理由不備の違法があるものというべきであ
る。論旨は理由があり、原判決中、上告人の前記請求を棄却すべきであるとして上告人の控訴を棄却した部
分は破棄を免れない。そして、右部分については、前示の観点から更に審理を尽くさせる必要があるので、
右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
 三 上告人は、原判決中本件土地上の樹木除去に基づく損害賠償請求に関する上告人敗訴部分につい
て、上告理由を記載した書面を提出しない。
 四 よつてその余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条二項、三九九
条一項二号、三九九条ノ三、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭61・8・7大阪高判 共有持分権を譲渡した場合と共有物分割の訴えの適否
大阪高等裁判所?? ?? 第一一民事部
共有物分割請求事件
主    文
 一 本件各控訴を棄却する。
 二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事    実
 一 当事者の求めた裁判
 (控訴人A、同有限会社ロイヤル商事)
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人の各請求を棄却する。
 3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 (被控訴人)
 主文と同旨。
 二 当事者主張と証拠関係
 次に付加するほかは原判決事実摘示欄記載と同じである(ただし、原判決三枚目
裹四行目の「予備的」を「価格弁償の方法によりえないときは」と改める。)か
ら、ここにこれを引用する。
 (控訴人A)
 原判決別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「目録(一)記載の土地」とい
う。他の土地・建物についても同様の略称を用いる。)については現物分割が可能
である。
         理    由
 請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。
 目録(一)、(二)記載の各土地と目録(四)記載の建物の共有者は現在控訴人
ら三名と被控訴人の四名であるが、ここに至つた経過は次に認定のとおりである。
 成立に争いのない甲第一、二号証、第四号証および弁論の全趣旨によれば、目録
(一)、(二)記載の各土地は被控訴人の妻(亡)Bの所有であり、同(四)記載
の建物は被控訴人とBの共有(持分各二分の一)であつたこと、昭和五六年二月一
三日Bの死亡に伴い法定相続分にしたがい右各土地につき相続人である被控訴人が
二四分の一八、控訴人C、(亡)D、E、F、G、Hが各二四分の一の持分割合で
共同相続し、昭和五六年八月一日Hは自己の持分を控訴人有限会社ロイヤル商事に
売渡し、同月二日E、F、Gは各人の持分を控訴人Aに売渡し、Dの死亡(昭和五
九年八月八日)により同人の持分を控訴人Aが相続により取得したこと、目録
(四)記載の建物については同じく相続によりBの共有持分二分の一につき被控訴
人が四八分の一八(同人は元来同建物の持分二分の一の共有者である。)、その他
の前記相続人六名が各四八分の一の持分割合を取得し、右八月一日Hは自己の持分
を控訴人有限会社ロイヤル商事に売渡し、同月二日Eら三名は各人の持分を控訴人
Aに売渡し、Dの持分につき前同様に控訴人Aが相続により取得したことが認めら
れる。
 二 目録(一)、(二)記載の各土地および同(四)記載の建物についてそれぞ
れ被控訴人と控訴人らとの間で共有物分割の協議が整わないことは弁論の全趣旨に
より明らかである。
 <要旨>被控訴人は、共有関係の解消を求めて、目録(一)、(二)記載の各土地
については相続による共有持分二四分の</要旨>一八に基づき、同(四)記載の建物
については元来有していた共有持分四八分の二四と相続による共有持分四八分の一
八とを合せた共有持分四八分の四二に基づき第三者、他の相続人から共有持分を買
受けたものなどの控訴人らに対し共有物の分割を求めるものである。こうした共有
者間においては、相続人が、家庭裁判所に対して家事審判法九条一項乙類一〇号の
遺産分割審判を申し立てる方途によらず、先ず民法二五八条による共有物分割請求
訴訟を選択して地方裁判所にこれを提起しうると解すべきである。そして右訴訟の
確定後、相続人は遺産全体について右分割の結果を踏まえて家庭裁判所に遺産分割
の審判を申し立て具体的相続分に応じた遺産の分割を受けて終局的に相続による共
有関係の解消をえられることになる。
 共有物分割請求訴訟においては現物分割を原則とし、それが不能か又は分割によ
り著しく価格を損する虞れあるときは共有物の競売を命じてその売得金を共有持分
割合に応じて分割すべきであり(民法二五八条二項)、価格弁償による分割の方法
は許されないと解すべきである。そうであれば、価格弁償を求める被控訴人の主張
は採用するに由ないところである。
 三 次に、現物分割の可否を検討する。
 1 目録(一)記載の土地上には被控訴人が所有し同人とその母が居住する目録
(三)記載の建物があり、目録(二)記載の土地上には同(四)記載の建物がある
ことは当事者間に争いがない。
 2 目録(一)、(二)記載の各土地上にはそれぞれ目録(三)、(四)記載の
各建物がほぼ全面的に建てられてあり、かつ、いずれも区分所有の認められるよう
な建物でないことは原審被控訴人本人尋問の結果と弁論の全趣旨により認められ
る。
 3 前掲甲第一、二号証、第四号証によれば、目録(一)記載の土地の面積は七
〇・〇八平方メートル、同(二)記載の土地のそれは六六・一一平方メートル、同
地上にある目録(四)記載の建物の床面積は延べ四六・一一平方メートルであると
認められる。これらを前記認定の控訴人Aの共有持分二四分の四(建物については
四八分の四)、他の控訴人らの各二四分の一(建物については四八分の一)の持分
割合に応じて現物分割をすると、右(一)の土地については一一・六八平方メート
ルと二・九二平方メートル、(二)の土地については一一・〇一平方メートルと
二・七五平方メートル、(四)の建物については三・八四平方メートルと〇・九六
平方メートルとなる。
 4 以上の事実関係によれば、現物分割は不能、少なくともその価格を著しく損
するものというべきである。仮に目録(二)記載の土地と同(四)記載の建物を一
体として現物分割を試みても右理は同様である。さらに控訴人ら主張のように目録
(一)記載の土地の隣接地が控訴人らの所有であるとしても、右結論を左右するも
のではない。
 5 したがつて、目録(一)、(二)記載の各土地および同(四)記載の建物に
ついてこれを各競売に付しその売得金から競売費用を控除した金額を被控訴人、控
訴人らの共有持分割合に応じて配分するのが正当である。
 四 よつて、右と結論を同じくする原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも
理由がないからこれを棄却し(なお、共有物分割の訴えにおいては当事者が単に共
有物の分割を求める旨を申し立てれば足り、分割の方法を具体的に指定することは
必要でなく、被控訴人が原審において分割方法に応じて主位的・予備的請求として
申し立てる点は一個の訴えの請求原因の問題にすぎない。したがつて、原判決が主
文第一項において競売の方法による分割を命じている以上、主文第二項(原告の主
位的請求棄却)は不要であるが、本判決主文においてこの部分を取消すまでの必要
は認めない。)、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条、九三条を適用し
て、主文のとおり判決する。

昭61・11・20最判 不倫女性に対する包括遺贈と公序良俗
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
遺言無効確認等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人下光軍二、同佐藤公輝の上告理由第一について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、その判断の過
程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難す
るものにすぎず、採用することができない。
 同第二、第三について
 原審が適法に確定した、(1) 亡Aは妻である上告人Bがいたにもかかわらず、被上告人と遅くとも昭和四
四年ごろから死亡時まで約七年間いわば半同棲のような形で不倫な関係を継続したものであるが、この間
昭和四六年一月ころ一時関係を清算しようとする動きがあつたものの、間もなく両者の関係は復活し、その
後も継続して交際した、(2) 被上告人との関係は早期の時点で亡Aの家族に公然となつており、他方亡Aと
上告人B間の夫婦関係は昭和四〇年ころからすでに別々に生活する等その交流は希薄となり、夫婦として
の実体はある程度喪失していた、(3) 本件遺言は、死亡約一年二か月前に作成されたが、遺言の作成前
後において両者の親密度が特段増減したという事情もない、(4) 本件遺言の内容は、妻である上告人B、
子である上告人C及び被上告人に全遺産の三分の一ずつを遺贈するものであり、当時の民法上の妻の法
定相続分は三分の一であり、上告人Cがすでに嫁いで高校の講師等をしているなど原判示の事実関係のも
とにおいては、本件遺言は不倫な関係の維持継続を目的とするものではなく、もつぱら生計を亡Aに頼つて
いた被上告人の生活を保全するためにされたものというべきであり、また、右遺言の内容が相続人らの生活
の基盤を脅かすものとはいえないとして、本件遺言が民法九〇条に違反し無効であると解すべきではないと
した原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に
立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

昭62・4・23最判 遺言執行者がある場合の相続人の処分、「遺言執行者がある場合」
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
第三者異議
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人今井吉之の上告理由第一について
 遺言者の所有に属する特定の不動産が遺贈された場合には、目的不動産の所有権は遺言者の死亡によ
り遺言がその効力を生ずるのと同時に受遺者に移転するのであるから、受遺者は、遺言執行者がある場合
でも、所有権に基づく妨害排除として、右不動産について相続人又は第三者のためにされた無効な登記の
抹消登記手続を求めることができるものと解するのが相当である(最高裁昭和二八年(オ)第九四三号同三
〇年五月一〇日第三小法廷判決・民集九巻六号六五七頁参照)。これと同旨の見解に立つて、被上告人ら
が本件訴えにつき原告適格を有するとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。所論引
用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
 同第二について
 民法一〇一二条一項が「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする
権利義務を有する。」と規定し、また、同法一〇一三条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財
産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定しているのは、遺言者の意思
を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、右のような
法の趣旨からすると、相続人が、同法一〇一三条の規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し
又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人の右処分行為は無効であり、
受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行為の相手方たる第三者に対抗す
ることができるものと解するのが相当である(大審院昭和四年(オ)第一六九五号同五年六月一六日判決・
民集九巻五五〇頁参照)。そして、前示のような法の趣旨に照らすと、同条にいう「遺言執行者がある場合」
とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むものと解するのが相当であるから、相続
人による処分行為が遺言執行者として指定された者の就職の承諾前にされた場合であつても、右行為はそ
の効力を生ずるに由ないものというべきである。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違
法はない。論旨は、採用することができない。
 同第三について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を
非難するか、又は原審において主張、判断を経ていない事項につき原判決の違法をいうものにすぎず、採用
することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭62・5・27東京高判 遺言書の指印が無効とされた例
東京高等裁判所?? ?? 第一民事部
遺言書真否確認請求事件
主    文
     1 原判決を取り消す。
     2 原判決別紙亡A名義の遺言状記載の遺言は無効であることを確認す
る。
     3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
         事    実
第一 申立て
 一 控訴人ら
 主文と同旨
 二 被控訴人ら
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。
 第二 請求原因
 1 控訴人ら及び被控訴人らは、原判決別紙相続関係一覧表記載のとおりの身分
関係にあり、いずれも亡Aの相続人であるところ、被控訴人らは、控訴人らに対し
原判決別紙亡A名義の遺言状(乙第二〇号証、以下「本件遺言状」という。)記載
の遺言(以下「本件遺言」という。)が有効であると主張している。
 2 しかしながら、本件遺言状には自筆証書遺言の法定要件であるAの押印がな
いから、本件遺言は無効である。
 かりに本件遺言状のA名下の指印影らしきものがAの指印影であるとしても、指
印は民法九六八条一項にいう「印」に当らないから、本件遺言は無効である。
 口述型遺言の一つである危急時遺言は、死亡の危急に迫つた場合に慌ただしく作
成されるのが常であるから、方式を多少とも緩和することはよいとしても、この理
を書面の記載を中心とする書面型遺言の典型である自筆証書遺言にまで拡張するこ
とはできない。
 本件遺言状は、家庭裁判所の検認手続前に利害関係人によつて開披されているか
ら、右指印影らしきものをAの指印によるものとすることはできない。今となつて
は、これがAの指印影であることを確認する方法はない。
 3 よつて、控訴人らは、被控訴人らとの間において本件遺言が無効であること
の確認を求める。
 第三 請求原因に対する答弁
 1 請求原因事実1を認める。同2のうち本件遺言状に印顆による押印のないこ
とは認め、その余を否認し争う。
 2 本件遺言状は、Aがその意思に基づいて作成したものであるところ、自筆証
書による遺言に遺言者の印顆が押されていなくとも、その拇印ないし指印が押され
ていれば足りると解すべきであり、本件遺言状のA名下に同人の拇印ないし指印が
押されているから、本件遺言は有効である。
 遺言において、氏名の自書は、遺言者を明らかにすること及びその遺言が遺言者
の意思によるものであることを明確にするために必要とされ、押印は、氏名の自書
と同一の機能のほか、遺言者が遺言を自書し正式の遺言書とする意思のあつたこと
を担保する機能を持ち、その真意の確認手段としては第二次的なものである。この
ように、押印が氏名の自書と同一機能を果たすにすぎないため、自筆証書遺言にお
いて氏名のほかに押印を必要とする要件は緩和されるべきである。
 拇印は、古くから我国の慣行上、印そのものないしはそれと同等の役割を果たし
てきており、同一性の識別機能面からは実印以上ともいうべきものであるから、拇
印があれば押印の要件を充たしているというべきであり、指印も拇印と同様であ
る。
 第四 証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるか
ら、これをここに引用する。
         理    由
 一 1 控訴人らと被控訴人らとの身分関係が原判決別紙相続関係一覧表記載の
とおりで、いずれもAの相続人であること、本件遺言状(乙第二〇号証)は、原判
決別紙のとおりの様式、内容のA名義の遺言状であること、本件遺言状に印顆によ
る印影がないこと、被控訴人らが本件遺言が有効であると主張していることは当事
者間に争いがなく、乙第二〇号証、成立に争いのない同第一六号証によれば、本件
遺言状は毛筆で記載され、末尾のA名下には墨を使つて顕出された指紋(どの指に
よるものか判然としない。)と認められる小さな紋様(墨のつけすぎにより一部黒
く塗りつぶされている。)(以下、本件指印影という。)のあることが認められ
る。
 2 本件遺言状が作成されるに至つた経緯等は、次のとおり付加、訂正するほか
は原判決理由中原判決三丁裏三行目から六丁裏二行目までと同一であるから、これ
をここに引用する。
 (一) 原判決三丁裏五行目の「証人」の前に「被控訴人B本人尋問の結果によ
り成立を認めうる乙第二三号証の一ないし八、」を加え、同六行目の「これら」か
ら同九行目の「八」までを「被控訴人B本人尋問の結果によつてAが自書したと認
められる乙第二一号証の一、二、同第二二号証の一ないし三二、同第二三号証の一
ないし八の筆跡と乙第一九号証の一、二、乙第二〇号証の筆跡とは、筆跡自体及び
同本人尋問の結果により同一と認められること」と改める。
 (二) 同三丁裏一〇行目から同四丁表一行目にかけての1、2を全部削り、同
四丁表二行目の「3」を「1」と改め、以下同様同表の「4」ないし同六丁表の
「10」を「2」ないし「8」に順次繰り上げ訂正する。
 (三) 同四丁裏一三行目の「書き」から同一三行目末尾までを「本件遺言状
(乙第二〇号証)を自書し、右封筒にこれを入れて封をした。なお右封筒の表には
「遺言状」と裏には「A」と各記載した(乙第一九号証の一、二)。」と改め、同
五丁裏一行目の「直後、」の次に「右金庫からこれを取出し、」を加え、同六丁表
八行目の「以後」から同九行目の末尾までを「本件遺言状を自宅に保管していた
が、昭和五七年五月控訴人らから遺産分割調停の申立てがあつたのでその調停の席
上で既に開披されていた本件遺言状を提出し、昭和五八年四月家庭裁判所に本件遺
言状の検認を請求し、検認を経た。」と、同表末行の「であり、」から同裏二行目
末尾までを「であつた。同人は、以前小学校で教員をし、校長をもつとめた。」と
各改め、同二行目の次に「以上認定を左右するに足りる証拠はない。」を加える。
 3 以上の事実によれば、本件遺言状は、Aがその全文、目附、氏名を自署して
作成した(指印押捺の点を除く。)自筆証書遺言ということができる。
 <要旨>4(一) わが国では、一般に重要な文書の作成については、署名したう
えさらにその名下に印顆を押すことに</要旨>よつて文書作成を完結したとする法意
識ないし慣行があり、印顆押捺を重視する傾向が強く、法も、自筆証書遺言という
遺言者にとつて自己の生涯の財産を最終処分する重要な文書の作成につき厳格な要
式を定め、遺言者は、その全文、目附及び氏名を自書するのみならず、その印顆を
押さなければならないとしているのであつて、これは、遺言考にその真意に基づい
て慎重に遺言をさせ、かつは、遺言者の死後遺言がその真意に基づくものであるこ
とを確認しえ、のちに無用の紛争を生じさせないようにし、もつて遺言の真正を保
障しようとしたものと解される。もつとも時代の変遷により日常の社会生活のなか
において押印の持つ重みは徐々に失われてきてはいるが、しかし遺言という終意処
分の重要性を考えれば、自筆証書遺言における押印の持つ重みは現在もなおさほど
薄れてはいないと思われる。しかしまた、押印は遺言者の真意確認の手段としては
第二次的なものであり、法が要式を求めるのは、それが遺言の真正を保障するため
であるから、遺言が筆跡などから遺言者の真意に基づいて作成されたことが明らか
なような場合には、押印の要件は緩和すべきであり、さらには押印も不要であると
する見解があるが、しかし押印の要件の緩和が相当であるとしても、押印を欠く遺
言も有効であるとすることは法の明文の要求がある以上許されないというべきであ
る(遺言者の押印を欠く自筆証書遺言の効力に関する最三小判昭和四九年一二月二
四日・民集二八巻一〇号三四〇頁は、特殊事案についてのもので、右判断はこれに
抵触するものではない。)。
 (二) さて本件では、前記のとおり本件遺言状に印顆による印影はないが、そ
のA名下には指印影があるところ、指印も法の要求する印といえるかどうかゞ本件
の争点となつているので、以下この点について判断を加える。
 被控訴人らも主張するとおり確かに指印は同一性識別の観点からすれば、これに
勝るものはないというべきであるが、しかしわが国には一般に指印影を保存する慣
行はなく、しかも遺言の効力が争われる時点では遺言者は既に死亡しているから、
遺言状の指印影が遺言者の指印押捺にかゝるものであることを当該指印影によつて
確認する方法は通常はなく、指印は、右確認をするについて用を果さないから、印
として不適当である(印顆の場合は、通常遺言状の印影が遺言者の押捺にかゝるも
であることを印影によつて確認することができるのであつて、この点において印顆
と指印とは根本的に相異する。)。被控訴人らは、押印の要件は緩和すべく、指印
も印と認めるべきであるというが、印として役立たないものを印として認めるの
は、押印を不要とするに等しいからできないことであり、しかもこれを認めるとき
は、指印影が遺言者の押印にかゝるものかどうかを廻つて紛争が生じやすく、押印
を要求して紛争発生を防止しようとする法の趣旨に反する。さらに通常遺言者はい
つでも容易に印顆を押すことができるから、さらに印として指印を認めなければな
らない必要性は乏しく、これらのことを考え合せれば、自筆証書遺言において指印
を印と解するのは相当でない。
 もつとも指印の場合であつても、対照しうる遺言者の指印影の保存などから遺言
書の指印影が遺言者の指印押捺にかゝるものであることを当該指印影によつて確認
することができる場合があり、このような場合には、指印をも印に準ずるものと認
めて遺言を有効と解する余地はあるが、本件においては、証拠として本件指印影と
対照すべきAの指印影は提出されておらず、その他本件指印影がこれによつてAの
指印押捺にかゝるものであることを確認することのできる証拠は何らないから、指
印を印に準ずるものと解する余地もない。
 (三) 以上の次第で、本件遺言状は、前述のとおりAが作成したものであるこ
とは認められるが、印影としてはA名下に指印影があるのみであり、これをもつて
押印があると解することはできないから、その余の点について判断するまでもなく
本件遺言は押印を欠く無効のものというべきである。
 二 そうすると、控訴人らの本訴請求は理由があるからこれを認容すべきとこ
ろ、これと異なり控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は失当であつて取消を免れ
ず、本件控訴は理由があるというべきである。
 よつて、原判決を取り消し、控訴人らの本訴請求を認容し、民事訴訟法九六条、
九三条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

昭62・10・8最判 添え手による自筆証書遺言・無効例
最高裁判所第一小法廷(大阪高裁)
遺言不存在確認
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人宮川種一郎の上告理由第一点について
 自筆証書遺言の無効確認を求める訴訟においては、当該遺言証書の成立要件すなわちそれが民法九六
八条の定める方式に則つて作成されたものであることを、遺言が有効であると主張する側において主張・立
証する責任があると解するのが相当である。これを本件についてみると、本件遺言書が、遺言者であるAが
妻のBから添え手による補助を受けたにもかかわらず後記「自書」の要件を充たすものであることを上告人ら
において主張・立証すべきであり、被上告人らの偽造の主張は、上告人らの右主張に対する積極否認にほ
かならない。原審は、右と同旨の見解に立ち、本件遺言書については結局「自書」の要件についての立証が
ないとの理由により、その無効確認を求める被上告人らの本訴請求を認容しているのであつて、その判断の
過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第二点及び第三点について
 自筆証書遺言は遺言者が遺言書の全文、日附及び氏名を自書し、押印することによつてすることができる
が(民法九六八条一項)、それが有効に成立するためには、遺言者が遺言当時自書能力を有していたことを
要するものというべきである。そして、右にいう「自書」は遺言者が自筆で書くことを意味するから、遺言者が
文字を知り、かつ、これを筆記する能力を有することを前提とするものであり、右にいう自書能力とはこの意
味における能力をいうものと解するのが相当である。したがつて、全く目の見えない者であつても、文字を知
り、かつ、自筆で書くことができる場合には、仮に筆記について他人の補助を要するときでも、自書能力を有
するというべきであり、逆に、目の見える者であつても、文字を知らない場合には、自書能力を有しないという
べきである。そうとすれば、本来読み書きのできた者が、病気、事故その他の原因により視力を失い又は手
が震えるなどのために、筆記について他人の補助を要することになつたとしても、特段の事情がない限り、右
の意味における自書能力は失われないものと解するのが相当である。原審は、Aが、昭和四二年頃から老
人性白内障により視力が衰えたものの昭和四四年頃までは自分で字を書いていたことを認定しつつ、昭和
四五年四月頃脳動脈硬化症を患つたのち、その後遺症により手がひどく震えるようになつたことから、時た
ま紙に大きな字を書いて妻のBや上告人Cに「読めるか」と聞いたりしたことがあるほかは字を書かなかつた
こと、本件遺言の当日も、自分で遺言書を書き始めたが、手の震えと視力の減退のため、偏と旁が一緒にな
つたり、字がひどくねじれたり、震えたり、次の字と重なつたりしたため、Bから「ちよつと読めそうにありませ
んね」と言われてこれを破棄したことなどの事実を認定し、Aは、本件遺言書の作成日附である昭和四七年
六月一日当時、相当激しい手の震えと視力の減退のため自書能力を有していたとは認められないと判断し
ているのであるが、右認定事実をもつてしては、Aが前示の意味における自書能力を失つていたということは
できないものというべきであり、原判決には自筆証書遺言の要件に関する法律の解釈適用を誤つた違法が
あるというほかはない。
 しかし、後記説示のとおり、本件遺言書は、他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言が有効
とされるための他の要件を具備していないため、結局無効であるというべきであるから、原判決の右違法は
判決の結論に影響を及ぼさないというべきである。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判
断、事実の認定を非難するか、又は原判決の結論に影響を及ぼさない説示部分の違法をいうものにすぎ
ず、採用することができない。
 同第四点及び第五点について
 自筆証書遺言の方式として、遺言者自身が遺言書の全文、日附及び氏名を自書することを要することは前
示のとおりであるが、右の自書が要件とされるのは、筆跡によつて本人が書いたものであることを判定でき、
それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない。そして、
自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会を要しないなど、最も簡易な方式の遺言で
あるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐつて紛争
の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件につい
ては厳格な解釈を必要とするのである。「自書」を要件とする前記のような法の趣旨に照らすと、病気その他
の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、(1) 遺言者が証書
作成時に自書能力を有し、(2) 他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間
を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望み
にまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、
かつ、(3) 添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形
跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解す
るのが相当である。
 原審は、右と同旨の見解に立つたうえ、本件遺言書には、書き直した字、歪んだ字等が一部にみられる
が、一部には草書風の達筆な字もみられ、便箋四枚に概ね整つた字で本文が二二行にわたつて整然と書か
れており、前記のようなAの筆記能力を考慮すると、BがAの手の震えを止めるため背後からAの手の甲を上
から握つて支えをしただけでは、到底本件遺言書のような字を書くことはできず、Aも手を動かしたにせよ、B
がAの声を聞きつつこれに従つて積極的に手を誘導し、Bの整然と字を書こうとする意思に基づき本件遺言
書が作成されたものであり、本件遺言書は前記(2)の要件を欠き無効であると判断しているのであつて、原
審の右認定判断は、前記説示及び原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過
程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難す
るか、又は独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

昭63・4・25東京高判 相続放棄が無効であるとの主張が権利の濫用にあたるとされた事例
東京高等裁判所?? ?? 第一七民事部
土地所有権移転登記手続等請求事件
主    文
     原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め
た。
 当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加する外、原判決の事実摘示と
同一であるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決一〇枚目裏五行目、同一
一枚目表二、三行目、同五、六行目の各「持分二分の一」をいずれも「持分(二分
の一)の全部」に改める)。
 (控訴代理人の陳述)
 仮に、贈与の主張が認められないとしても、被控訴人の控訴人に対する本訴請求
は、信義則に反し、かつ、権利の濫用であるから、許されない。
 即ち、被控訴人は、控訴人らに対する本件相続財産の移転を目的として、本件相
続放棄の申述をし、その意図が実現された。その限りにおいて、被控訴人の意思表
示に何らの瑕疵もない。しかるに、被控訴人は相続放棄の無効を奇貨として、本件
相続財産を支配利用している控訴人から、本件相続財産を取り戻そうとしているの
である。もしこのようなことが許されるのであれば、被控訴人の相続放棄を信頼し
て、若年でありながら、長期間にわたりAの負債や相続税を支払いながら、ガソリ
ンスタンドを経営してきた控訴人の苦労及び財産関係は、ことごとく覆される結果
になる。しかも、被控訴人は相続放棄の代償として、本件相続財産のうちの二筆の
土地(合計約一五八坪)について、控訴人から贈与を受けているのである。
 (被控訴代理人の陳述)
 争う。
 控訴人は本件相続財産の取得を強く希望して、被控訴人に対し相続の放棄を迫
り、遂には脅迫をしたり、暴力を振るうまでになつた。そこで、被控訴人は控訴人
に、本件相続財産を取得した場合には、被控訴人に孝養を尽くし、その生活を保証
し、将来弟や妹の面倒をみるという条件を確約させたうえ、本件相続放棄をしたの
である。しかるに、控訴人は、被控訴人に孝養を尽くすどころか、ことあるごとに
乱暴を働き、右約束を全く履行しなかつた。これらの事情によれば、信義に反する
のは控訴人の方であり、控訴人を保護すべき理由は全くない。
 (証拠関係)(省略)
         理    由
 一 被控訴人の子であるAが昭和三八年八月中ごろ行方不明になり、昭和四一年
四月ごろ自殺死体で発見され、同年四月二〇日に同人の死亡の日を昭和三八年八月
一五日とする死亡届出がされ、その旨戸籍に記載されたこと、Aには妻子がなく、
同人の父Bは既に死亡しており、母である被控訴人が唯一の相続人であつたこと、
昭和四一年当時、Aの直系尊族としては被控訴人以外にBの母Cが生存しており、
被控訴人が相続の放棄をした場合にはAの遺産はすべてCにおいて相続することと
なる関係にあつたこと、しかるに、被控訴人は、自己が相続の放棄をした場合には
Aの遺産は被控訴人の子であつてAの弟妹に当たるD、控訴人、E及びFが相続す
ることとなるものと誤信し、D、控訴人、E及びFと相談の上、Aの遺産を右Dら
四名に相続させる目的で東京家庭裁判所に相続放棄の申立てをし、「申述人(被控
訴人)としてはAの弟や妹に相続させたく、したがつて、自分は相続したくありま
せんのでここに相続放棄の申述をします」と記載した相続放棄申述書を提出し、昭
和四一年八月一日、同裁判所の審問期日において、「被相続人の経営してきた事業
(モービル石油スタンド)を同人に代わつて行つてきている二男G(控訴人)と他
の子どもたち(D、E及びF)に相続をさせたく、私は放棄することにしまし
た。」旨陳述し、被控訴人の相続放棄の申述は同日受理されたこと、原判決別紙物
件目録(一)ないし(一三)記載の土地及び建物はAの遺産の一部であるが、控訴
人は(二)を除くその余の同目録記載の土地及び建物につき相続を原因として所有
権移転登記を経由していること、以上の事実については当事者間に争いがない。
 二 被控訴人は、被控訴人がした相続放棄の申述は法律行為の要素に錯誤がある
ものとして無効である旨主張して、控訴人に対し右相続放棄の無効確認を求めてい
るところ、右訴えの適否についての当裁判所の判断は、原判決五枚目裏九行目冒頭
から六枚目表九行目末尾までの説示と同一であるから、これをここに引用する。
 三 次に、被控訴人がした相続放棄の申述に無効原因があるかどうかについて考
察すると、相続の放棄は、家庭裁判所に対する申述という形式でその意思を表示し
なければならず、また、同裁判所がその申述を受理することによつて、はじめてそ
の効力が生じるのであるが、その性質は、あくまで法律行為であるから、これにつ
いて民法九五条の適用があるのは当然である(最高裁判所昭和三六年(オ)第二〇
一号、同四〇年五月二七日第一小法廷判決・家裁月報一七巻六号二五一頁参照)。
そして、相続放棄という制度が、遺産の債務超過等の場合に推定相続人に当該遺産
の相続を拒否する自由を与えるものであることは、疑いをいれないが、その機能に
おいては、現に特定の共同相続人に遺産を集中的に承継させるため、多く利用され
ていることを無視
 <要旨第一>することはできない。そうであるとすれば、相続放棄が特定人に遺産
を承継させる意図でなされた場合、か</要旨第一>かる相続放棄の結果、客観的、最
終的に誰が相続人になるかは、当該相続放棄者にとつて本質的に重要なものという
べきである。もつとも、かかる場合、相続の放棄をした結果、自己が相続人でない
ものとして扱われるという限度においては、当該放棄者の内心の意思と表示との間
に不一致は存しないのであるから、本件のように、当該放棄の結果、法律上正当な
相続人として認められるべき者が誰であるかに関する錯誤は、相続放棄をするに至
つた動機に存するものといわざるを得ないが、相続放棄が講学上いわゆる相手方の
ない単独行為である点に着目するならば、かかる動機は、少なくとも相続放棄の手
続において表示され、受理裁判所はもとより、当該相続放棄の結果反射的に影響を
受ける利害関係者にも知り得べき客観的な状況が作出されている場合においては、
表示された動機にかかる錯誤として、民法九五条により当該放棄の無効が認められ
るものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、前記認定のとおり、被控訴人が相続の放棄をした場
合にはAの遺産は真実はCがすべて相続することになるにも拘わらず、被控訴人
は、Aの弟や妹にその遺産を承継させる意図の下に、この意思を東京家庭裁判所に
おける審問の中で明確にしたうえ、相続放棄の申述をしているのであるから、被控
訴人がした本件相続放棄の意思表示は、民法九五条にいう法律行為の要素に錯誤が
ある場合に該当するものといわざるを得ない。
 四 そこで、控訴人の贈与の主張について判断する。
 控訴人のこの点に関する主張は、要するに、被控訴人が相続の放棄をすることに
よつて、控訴人を含むHの子らがAの遺産を直接承継するようになることを、実質
的にみて贈与と評価すべきである、というにすぎないものである。それ故、贈与そ
のものを直接認定しうるような証拠は存在しない。のみならず、Hが贈与をするた
めには、Aの遺産を一旦相続することが必要である。しかるに、前示のとおり、H
はその相続を拒絶したのである。また、控訴人を含むHの子らがAの遺産を共同相
続しても、控訴人が特定の遺産を単独で相続するためには、共同相続人の間で、遺
産分割の協議をすることが必要であるが、これには法律上Hの意思の関与を必要と
しない。これを要するに、Hは当時贈与をなしうる立場にないことを、十分認識し
ていたというべきであるし、また、Hの意思のみでは、控訴人に対する贈与を実現
することも、できなかつたのである。
 したがつて、控訴人の右主張は採用することができない。
 五 次に、控訴人の信義則違反及び権利濫用の主張について判断する。
 いずれも成立に争いのない甲第二〇号証、第二二号証の四、七、一一ないし一
三、第二三号証の一ないし八、乙第一号証、第六、七号証の各一、二、第八ないし
第一三号証、第二二ないし第二七号証、第二八号証の一、二、原本の存在及びその
成立に争いのない甲第一〇号証の一、原審における控訴人本人尋問の結果により真
正に成立したものと認められる乙第五号証、当審における控訴人本人尋問の結果に
より真正に成立したものと認められる乙第一四号証、原審証人I、当審証人Jの各
証言、原審及び当審における控訴人、同被控訴人(但し、後記信用しない部分を除
く)各本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
 (1) Aはそれまで勤めていた証券会社を退職して、祖父Kから贈与を受けた
土地において、ガソリンスタンドを経営することを計画し、昭和三八年三月七日豊
島物産株式会社を設立して、同年五月一七日提携先のモービル石油株式会社(以下
「モービル石油」という)との間で、石油製品等の販売契約等を締結したうえ、同
会社から金二〇〇〇万円を借入し、三階建のビルを建てる等して、そのための設備
を整えることにした。(2)控訴人は同年三月に高等学校を卒業したものである
が、Aからガソリンスタンドを手伝つてほしいと依頼されたので、同年七月初め頃
までにモービル石油の訓練センターでマネージヤーコースの受講を終了し、同年八
月一五日には危険物取扱者の試験を受けて、その免許を取得した。(3)ところ
が、Kが同年六月二〇日死亡すると、Aは、Kの相続問題、前記ビルを建てるにつ
いて母屋を取り壊すのに親族の一部から異議がでたこと、その他モービル石油との
契約条件についての不安等からノイローゼ状態になり、同年八月一五日頃から行方
不明になつた。(4)その後、モービル石油から控訴人及び被控訴人外五名を債務
者とする仮処分申請がなされたが、右事件は同年一二月二七日裁判上の和解により
終了した。しかし右和解条項によると、豊島物産株式会社がモービル石油の販売代
理店をやめたときは、控訴人らL家の一族はその住居である右ビルを明け渡すこと
になつていた。そこで、控訴人は未成年とはいえ、Aが現れるまでは自分がやる外
ないと決意し、昭和三九年四月六日よりガソリンスタンドの営業を開始した。
(5)昭和四一年四月一九日になつてAは自殺死体で発見された。控訴人はこれを
機に、モービル石油にたいする借財を返済して、廃業したいと考えたが、賛成する
者はいなかつた。当時被控訴人は宗教活動に熱心であり、Eは家を出ていて、あま
り手伝う気がなく、Fは高校生であつて、営業の中心になるのは、控訴人をおいて
外になかつた。(6)被控訴人から相談を受けていたDの夫Jは、モービル石油と
の関係からいつても、控訴人に営業を継続させる外ないと考え、控訴人にAの遺産
の大半を承継させることで、モービル石油に対する負債と相続税を負担することに
躊躇する控訴人を納得させ、被控訴人に対しては、控訴人に被控訴人の老後や弟妹
の面倒をみさせるということで説得し、弁護士Iの意見も徴したうえ、被控訴人に
相続放棄の手続きをすることを了承させた。(7)もつとも、控訴人は昭和四一年
八月一日被控訴人の老後を考えて被控訴人に対し、(一)板橋区a町b丁目c番
d、宅地三五三・七一平方メートル、及び(二)同所c番e、宅地一六八・〇〇平
方メートルを贈与した。また、Aの遺産のうち、現在、(一)同所f番g、畑五九
平方メートル、(二)同町h丁目i番d、畑一〇五平方メートルはEの所有名義に
なつており、(一)同町b丁目f番j、宅地四一・〇〇平方メートル、(二)同所
k番j、公衆用道路三五平方メートル、(三)同所k番五l、畑一〇八平方メート
ル(原判決別紙物件目録(七)、(一一)、(一二)記載の各土地)の各二分の
一、及び(四)同所k番g、畑九九平方メートルはFの所有名義になつている。
(8)ところがEがガソリンスタントを手伝うようになると、控訴人との間で紛議
が発生し、これに関連して、控訴人が被控訴人に暴力を振るうこともあつた。この
ような事情のため、控訴人は昭和四五年一一月二五日から昭和四六年二月頃まで及
び同年七月から昭和四八年一月までの間、ガソリンスタンドの経営をしなかつたこ
とがあつた。被控訴人とDは昭和四九年五月二五日、四五坪の土地を与えることて
Eに営業面から手を引かせようとしたが、Eが承知しなかつたため、結局実現しな
かつた。(9)被控訴人は、いずれも控訴人を相手どり、昭和五一年九月一〇日東
京地方裁判所に生活妨害禁止の仮処分を申請したり、昭和五六年六月頃東京家庭裁
判所に相続廃除の申立てをしたが、いずれも認められなかつた。(10)控訴人
は、昭和五二年七月一〇日以降豊島物産株式会社の代表取締役に就任し、名実とも
にガソリンスタンドの経営に従事しているが、モービル石油に対する金二〇〇〇万
円の貸金債務については、利息は支払つているものの、元金は未だ返済していな
い。一方、被控訴人は賃料収入で生活をしている。
 以上の事実を認めることができ、右認定に反する原審及び当審における被控訴人
本人尋問の結果の一部は、前掲各証拠と対比して信用することができず、他に右認
定を覆すに足りる的確な証拠はない。
 <要旨第二>右認定事実によると、控訴人は若年のため、モービル石油に対する借
財を負担してまで、ガソリンスタン</要旨第二>ドの経営を引き受けるのに躊躇を感
じていたにも拘わらず、Aの遺産の大半を承継するということで、やむなく承知し
たものであること、被控訴人の相続放棄には動機の錯誤が存し、登記申請手続に遺
漏があつたとはいえ、本件各不動産の登記名義が控訴人になつているのは、正しく
被控訴人の意図していたところと合致していること、被控訴人の老後や弟妹の面倒
をみるということは、被控訴人及びJの希望であつたにすきず、Aの遺産を承継す
る条件であつたとまでは解されないこと、もともと本件紛争は、控訴人とEとの軋
櫟に端を発し、被控訴人がEに加担したため、拡大したものと推認されること、被
控訴人の生活は賃料収入により安定しているのに対し、本件各不動産の所有名義を
被控訴人に返還するとすれば、控訴人はモービル石油に対する信用を失い、営業面
で苦境に立たされることが明らかであつて、このような事情を総合的に勘案すれ
ば、被控訴人が、同人のした相続放棄につき錯誤による無効を主張して控訴人から
本件各不動産の取戻しを図ることは、権利の濫用に当たるものとして許されないも
のと解するのが相当である。
 六 右によると、被控訴人は、C及びその承継人に対しては被控訴人がした相続
の放棄について錯誤による無効を主張することができるが、控訴人に対してはその
無効を主張することができない結果、本件各不動産は控訴人に対する関係では被控
訴人の所有に属さないこととなるので、控訴人に対し右相続の放棄の無効確認及び
本件各土地について所有権移転登記手続を求める被控訴人の本訴請求は、全部失当
として棄却すべきである。
 よつて、これと異なる原判決を取り消した上、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費
用の負担について民訴法九六条前段、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

平1・1・26大阪高判 保険金受取人の一人が被保険者を故殺した場合
大阪高等裁判所?? ?? 第七民事部
死亡保険金請求事件
主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
 1 原判決を次のとおり変更する。
 2 被控訴人アメリカン・ホーム・アシュアランス・カンパニーは控訴人に対
し、金三五〇万円及びこれに対する昭和六三年八月二五日から支払ずみまで年六分
の割合による金員を支払え(当審において請求減縮)。
 3 被控訴人日本火災海上保険株式会社は控訴人に対し、金五〇〇万円及びこれ
に対する昭和六三年二月六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
 4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 との判決並びに仮執行の宣言
 二 被控訴人ら
 主文同旨の判決
 第二 当事者の主張、証拠
 当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決の
事実摘示のとおりであるから、それを引用する。
 一 原判決の訂正
 1 原判決三枚目表八行目の「訴外亡A」を「控訴人の二女であるA」に、同三
枚目裏七行目の「亡B」を「控訴人の妻B」に、その一〇行目の「頃」を「に」
に、その末行の「両名の死亡時刻の前後は不明である」を「その死亡時刻は亡Aと
同時刻である」に各改め、同四枚目表二行目の「と推定される」を削る。
 2 同四枚目表七行目の末尾に続けて、「なお、控訴人は、昭和六三年八月二四
日に被控訴人アメリカン・ホーム・アシュアランス・カンパニーから、同被控訴人
主張の弁済金三六一万六四七五円(原判決認容の金三五〇万円及びこれに対する昭
和六三年二月六日から同年八月二四日まで年六分の割合による金員一一万六四七五
円)の支払を受けた。」を、その八行目から次行にかけての「七〇〇万円」の次に
「から右弁済金三五〇万円(元本分)を控除した残額三五〇万円(当審において請
求減縮)」をそれぞれ加える。
 二 控訴人の主張
 1 原判決は、亡Aの相続人を定めるに当たって、本件死亡事故が同女の推定相
続人である亡Bによって惹き起こされたものであるから同時死亡の推定規定が適用
される事案でないとして、亡Bは亡Aの現実の相続人たる地位を失わず、したがっ
て、本件事故は、「保険金を受け取るべき者」である亡Bの故意により生じたもの
であるから、被控訴人らは亡Bに対する保険金支払の責めを免れるというのである
が、原判決の右判示は、数人の死亡者の間でその死亡の先後が明らかでない場合に
生ずる相続人間の遺産分割や保険金の受領・支払の紛争を解決するために、昭和三
七年に新設された同時死亡の推定規定(民法三二条の二)の立法趣旨を忘却したも
のである。
 2 原判決は、亡Bの死亡と亡Aの死亡の先後が明らかでないから同時死亡の推
定規定の適用を受ける、との前提に立っているが、これは事実誤認である。甲第
四、第五号証(死体検案書)によると、右両名は共に昭和六二年八月一日午後一一
時一〇分の同時刻に死亡したと診断されており、他にこれを覆す資料はないから、
右両名の同時刻死亡には推定規定を適用すべきではない。
 3 原判決は、保険約款の免責規定が設けられた趣旨に則り、亡Bが「保険金を
受け取るべき者」に該当するとし、本件事故が同女の故意によって発生したもので
あることから同女に保険金給付請求権が発生することを回避させるための理論を展
開するが、保険金受取人を単に「相続人」と指定している場合は、被保険者死亡の
時における、すなわち保険金請求権発生当時の相続人たるべき者個人を受取人とし
て特に指定したものである、という最高裁判所第三小法廷昭和四〇年二月二日判決
に立脚する限り、亡Bはいかなる場合においても相続人とならず死亡保険金給付請
求権を取得することはないから、故意により保険事故を発生させる事態を阻止しよ
うとする免責規定の趣旨を逸脱することにはならない。
 三 被控訴人らの主張
 1 被控訴人アメリカン・ホーム・アシュアランス・カンパニーは昭和六二年八
月二四日控訴人に対し、金三六一万六四七五円(原判決認容の金三五〇万円及びこ
れに対する昭和六三年二月六日から同年八月二四日まで年六分の割合による金員一
一万六四七五円)を支払った。
 2 控訴人の主張は、原判決の認定を誤解したもので理由がない。ちなみに、原
判決は、亡Aの相続人を決定するに当たって、同時死亡の推定規定を適用し、相続
人は控訴人一人であると認定している。原判決は、亡Aの相続人を決定する次元で
は同時死亡の推定規定を適用するが、保険約款上の免責規定を適用する次元では右
推定規定は適用しないというのである。
 3 本件の争点は、保険約款の免責規定にいう「保険金を受け取るべき者」が保
険給付の予定対象者であるか、あるいは保険事故発生後の現実の受取人を指すかに
ある。控訴人引用の最高裁判所の判例は、保険事故発生後の現実の保険金受取人に
関するものであるから、右の争点を解決する鍵とはならない。また、右免責規定は
推定相続人全員に適用され、それぞれの行為が判断の対象になるのである。本件の
場合、亡Aの相続人は控訴人一人であるが、これはたまたま同時死亡の推定規定に
より一人になったというだけであるから、免責規定が推定相続人全員に適用される
という関係は、たまたま同時死亡の推定規定が適用され相続人が一人になったとい
う偶然的な要素によっては消長をきたさないものというべきである。
         理    由
 一 当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求(控訴人が当審において
減縮した請求部分は除く。)は理由がないものと判断するが、その理由は、次のと
おり付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、それをここに引用す
る。
 1 原判決八枚目裏二行目の「発生したもの」の次に「で、海中から引き揚げら
れたときは、右両名とも既に死亡していたもの」を、その四行目の「できる」の次
に「(なお、亡Bと亡Aが同時刻に死亡したことは当事者間に争いのないところで
あるが、右認定の事実によれば、右両名が同時刻に死亡したと断定することは困難
であるから、死体検案書(甲第四、第五号証)の記載にも拘らず、民法三二条の二
により同時に死亡したものと推定するのが相当な事案というべきである。)」を各
加え、その末行の「ものと推定される結果」を「ので」に、同九枚目裏一〇行目の
「同時死亡」から一〇枚目表六行目末尾までを「右「保険金を受け取るべき者」
と、「現実の保険金受取人」とは、その時期的な相違として、前者は「故殺中の段
階」における概念であり、後者は「死亡後の段階」における概念ということができ
る。右「故殺中の段階」とは、保険金を受け取るべき者の被保険者に対する故殺事
故の着手の時から被保険者の死亡に至るまでの段階のことである。」に各改める。
 2 原判決一〇枚目表六行目と七行目の間に次の文章を加える。
 <要旨>「ところで、本件保険約款においては、故殺中の段階において、保険金を
受け取るべき地位にある者が被</要旨>保険者を故殺するというような非難すべき行
為をした場合には、保険者(保険会社)はその故殺者に対する保険金支払いの責任
を免れ、これを拒否することができるとの趣旨を規定したものと解すべきであり、
同様の趣旨の規定は商法六八〇条一項二号にも置かれているところであるが、これ
は、右のような反社会的な犯罪行為をした者に対して保険金を支払うということ
は、保険契約における信義誠実の原則に反し、かつ、公益的見地からも許されない
との考えに基づくものというべきである。したがって、右免責事由に定める「保険
金を受け取るべき者」とは、故殺中の段階においてその地位にあれば十分であり、
必ずしもその者が被保険者の死亡後の段階における現実の受取人である必要はな
く、また、故殺中の段階において右地位にあれば、故殺者の死が被故殺者(被保険
者)の死亡よりも後である場合はもとより、その前若しくは同時であっても、その
故殺者に対する保険金支払の責任は免れ、さらに、「故殺中の段階において」、故
殺者が死亡保険金の一部受取人と推定されている場合には、故殺者の受け取るべき
部分についてのみその支払の責任を免れ、かつ、その免れた部分が他の受取権利者
の方に加算されることはないものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、本件各保険契約においては、前記のとおり、保険金
受取人はいずれも亡Aの「法定相続人」あるいは「相続人」とされていたのである
から、亡Aの死亡直前の段階、すなわち「故殺中の段階」においては、亡Aの死亡
による保険金を受け取るべき地位にある者はその父母である控訴人と亡Bであった
のであるが、亡Bの亡Aに対する故殺により、亡Bの受け取るべき保険金の部分に
ついての被控訴人らの支払の責任は保険約款により免れたものというべきである。
そして、右免れた部分を他の受取権利者である控訴人の方に回すということは、反
社会的な行為の結果を事実上容認することになるから適当ではなく、したがって、
亡Aの「死亡後の段階」において唯一の相続人となった控訴人の受け取るべき死亡
保険金は、亡Bの受け取るべきであった保険金の部分を除いたもの、すなわち控訴
人の本来受け取るべき部分のみに限られるものというべきである。確かに、「死亡
後の段階」と保険金受取人に関する契約条項のみに着目すれば、控訴人主張のよう
な結果になるのであるが、右考え方は、反社会的な行為に対する保険者の免責に関
する条項を無視するものとして、到底採用し難いものといわざるを得ない。」
 二 よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四
条一項により本件控訴を棄却することとし(なお、原判決主文第一項は控訴人の当
審における請求の減縮により失効した。)、控訴費用の負担につき同法九五条、八
九条を適用して、主文のとおり判決する。

平1・2・9最判 遺産分割協議と負担不履行による解除
最高裁判所第一小法廷(大阪高等裁判所)
更正登記手続等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人吉村洋、同今中利昭、同村林隆一、同松本司、同千田適、同釜田佳孝、同浦田和栄、同谷口
達吉の上告理由について
 共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議に
おいて負担した債務を履行しないときであつても、他の相続人は民法五四一条によつて右遺産分割協議を
解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了
し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残
るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法九〇九条本文により遡及効を有する遺産の再
分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。以上と同旨の原審の判断は、正当
として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を
論難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

平1・2・16最判 自筆証書の指印有効例
最高裁判所第一小法廷
遺言無効確認
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人石原俊一の上告理由一について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を
非難するものにすぎず、採用することができない。
 同二1について
 自筆証書によつて遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要
するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉
等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもつて足りるものと解するのが相当である。けだし、同条項
が自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまつて遺
言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印す
ることによつて文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保する
ことにあると解されるところ、右押印について指印をもつて足りると解したとしても、遺言者が遺言の全文、日
附、氏名を自書する自筆証書遺言において遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないし、いわゆる実印に
よる押印が要件とされていない文書については、通常、文書作成者の指印があれば印章による押印がある
のと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照らすと、文書の完成を担保する機能において
も欠けるところがないばかりでなく、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえつて遺言者の真意
の実現を阻害するおそれがあるものというべきだからである。もつとも、指印については、通常、押印者の死
亡後は対照すべき印影がないために、遺言者本人の指印であるか否かが争われても、これを印影の対照に
よつて確認することはできないが、もともと自筆証書遺言に使用すべき印章には何らの制限もないのである
から、印章による押印であつても、印影の対照のみによつては遺言者本人の押印であることを確認しえない
場合があるのであり、印影の対照以外の方法によつて本人の押印であることを立証しうる場合は少なくない
と考えられるから、対照すべき印影のないことは前記解釈の妨げとなるものではない。そうすると、自筆証書
遺言の方式として要求される押印は拇印をもつて足りるとした原審の判断は正当として是認することができ、
原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同二2について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、所論の抹消部分に訂正印を欠いていることは本件遺言
の効力に影響を及ぼさないとした原審の判断は正当として是認することができ(最高裁昭和五六年(オ)第三
六〇号同年一二月一八日第二小法廷判決・裁判集民事一三四号五八三頁参照)、原判決に所論の違法は
ない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
平1・3・28最判 共同相続人間における遺産確認の訴は、固有必要的共同訴訟に当る。
第3小法廷判決(広島高等裁判所)
建物収去土地明渡、遺産確認並持分所有権移転登記手続請求上告事件(棄却)
事実の概要
亡Aの共同相続人のうちXら8名とYとの間で、本件第3の土地が遺産に属するのか、それとも当初からYが宝購
入して得た土地であるのかについて争が生じた。XらはYを被告にして本件第3の土地が遺産に属することの確
認を求めて本件訴えを提起した(丁事件。他にYからXに対する訴えがあるが、省略)。
第一審裁判所は、Xらの請求を棄却した。控訴審は、遺産確認の訴えは共同相続人の全員につき合一に確定
すべき固有必要的共同訴訟である解し、本件の場合には当事者となっていない共同相続人が3名いることを理
由に、原判決を取り消して訴えを却下した。
Xらが上告して、本件不動産の登記名義人はYであり、当事者となっていない共同相続人はYに加担して行動し
ているものであって、Xらに同調することは期待できないので、Xらのみで提訴するに至ったのであり、これは保
存行為であるから許されると主張した。しかし、最高裁は、下記のように判示して上告を棄却した。
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人丸茂忍の上告理由第二点について
 遺産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴
えであり、その原告勝訴の確定判決は、当該財産が遺産分割の対象である財産であることを既判力をもつて
確定し、これに続く遺産分割審判の手続及び右審判の確定後において、当該財産の遺産帰属性を争うことを
許さないとすることによつて共同相続人間の紛争の解決に資することができるのであつて、この点に右訴えの
適法性を肯定する実質的根拠があるのであるから(最高裁昭和五七年(オ)第一八四号同六一年三月一三日
第一小法廷判決・民集四〇巻二号三八九頁参照)、右訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その
間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。これと同旨の
原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて
原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を
非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
平1・6・28名古屋高判 持分の一部が遺贈された場合で相続人がないとき、民255条の関係(消極)
名古屋高等裁判所?? ?? 民事第三部
所有権移転登記手続請求事件
主    文
     一 原判決を取り消す。
     二 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
     三 訴記費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。
         事    実
 控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人らは「本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張及び立証は、証拠に関して当審記録中の証拠目録記載
のとおりである旨の付加をするほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用
する。
         理    由
 一 成立に争いのない甲第一ないし第三号証によれば、亡Aは、昭和六一年二月
二一日公正証書遺言によって、被控訴人ら四名に対し、自己所有にかかる原判決添
付物件目録記載の不動産につき各一二分の一宛の持分(合計三分の一)を遺贈し、
同年三月九日死亡したこと並びに被控訴人らは右遺贈を原因として右不動産につき
各所有権一部移転登記をしたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
 <要旨>二 民法二五五条の解釈に関しては、持分権は制限された所有権であるか
ら、いわゆる弾力性があり、共有者</要旨>の一人が、その持分権を放棄すれば、右
持分権は他の共有者の持分の割合に応じて同共有者に帰属し、また共有者の一人が
相続人なくして死亡した場合も同様にして、その持分権は他の共有者に帰属すると
解するのが同条の文理にも適い、また立法の経過にも合するものというべきであ
る。即ち、同条後段の立法の沿革をたどると、不動産について、共有者の一人が相
続人なくして死亡した場合、これが国庫に帰属し、国と私人との共有関係が生ずる
ことの煩さを避ける目的と元々管理、使用していた他の共有者に帰属させるのが最
も社会通念に合しているとの政策的配慮から制定されたものと解される。
 右のとおり同条は、元々共有関係にあった者が持分権を放棄ないし相続人なくし
て死亡した場合が前提になっていると解すべきである。
 しかるところ本件では、昭和六一年二月二一日に公正証書遺言によってなされた
遺贈は、同年三月九日の夏枝の死によって効果を生じ、同女の死を契機にして初め
て、控訴人と被控訴人らは共有関係に立つに至ったもので、直ちに民法二五五条後
段にあたる場合ではないと解される。
 尤も死後共有関係に立つ点では、生前から共有である場合も遺贈によって共有に
なった場合も同様であり、遺言者に相続人がない場合は国庫に帰属することによる
煩さはいずれの場合も同様に生ずる虞れはある。しかしながら、遺贈によって共有
になった場合にも民法二五五条後段が適用されると解することは、持分を限って遺
贈した遺言者の意図を踏みにじる結果を引き起こしかねない点を考慮すると、この
場合は民法九五八条の三によって特別縁故者としての分与を求めるは格別、民法二
五五条後段が適用ないしは類推適用される場合にはあたらないと解するのが同条の
文理にも適い相当である。
 三 以上の通りであるから被控訴人らの本訴請求は民法二五五条の解釈を誤って
なした請求というほかはなく、じ余の点の判断をするまでもなく失当であるから棄
却を免れない。
 よって右と結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人らの請求をいずれも棄却
することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、
主文のとおり判決する。

平1・8・10大阪高判 縁組前の養子の子が代襲する場合
大阪高等裁判所?? ?? 第七民事部
相続財産確認等請求事件
主    文
     一 原判決を次のとおり変更する。
     1 原判決添付目録二記載の建物が被相続人Aの遺産であることを確認
する。ただし、右目録中の「a区b」を「a区c」と更正する。
     2 控訴人は、被控訴人Bに対し金二七〇万八六二六円及び内金一四〇
万一四四〇円に対しては昭和六一年一〇月五日から、内金一三〇万七一八六円に対
しては昭和六三年二月九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、被控訴
人C、同D及び同Eに対しそれぞれ金一三五万四三一三円及び各内金七〇万〇七二
〇円に対しては昭和六一年一〇月五日から、各内金六五万三五九三円に対しては昭
和六三年二月九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
     3 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
     二 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その一を被控訴人ら
の連帯負担とし、その余を控訴人の負担とする。 三 この判決の一の2は仮に執
行することができる。
         事    実
 第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
 1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 二 被控訴人ら
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 第二 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりで
あるからそれを引用する。なお、控訴人は本案前の主張を当審において撤回した。
 一 控訴人の主張
 1 原判決が本件建物(原判決添付目録二記載の建物、ただし、「a区b」を
「a区c」に訂正する。)はAの遺産であると認定したのは誤りである。原判決
は、「被告(控訴人)自身、遺産分割調停においては、Aには相当の資産があった
旨主張しているところであって、そのように資産のあったAが本件建物の建築費の
うち一五〇万円について被告(控訴人)の出捐を仰がねばならない合理的理由はな
い」旨判示しているが、控訴人がAの遺産分割調停において、Aに相当の資産かあ
ったと主張した趣旨は、遺産分割調停申立時である昭和六一年一〇月三日には相当
額の資産を有していたとの意味であって、本件建物を建築した昭和五〇年七月ころ
のことを述べたものではない。 2 本件建物及び本件土地(原判決添付目録一記
載の土地、ただし、「a区b」を「a区c」と訂正する。)は、控訴人に贈与ある
いは死因贈与されたものである。Aは、生前、自己が死亡した後の控訴人の生活を
心配し、本件建物及び本件土地を控訴人に与える旨しばしば控訴人やF夫婦に述べ
ており、死亡直前の昭和五九年一〇月二六日午後七時三〇分過ぎころ、右F夫婦に
対して「日頃言うたようにお願いします。」と言ったのであるから、本件建物及び
本件土地はその時控訴人に贈与され、あるいは死因贈与されたものであることが明
らかである。Aには他にも多くの財産が存するにもかかわらず、本件土地建物のみ
に言及していることからすれば、Aの意思を遺産分割方法の指定と解することはで
きない。
 3 原判決は控訴人が得たとされる利得額の算定を誤つている。
 (一) 本件建物には自動車一八台が駐車することは可能であるけれども、満車
状態にはなく、通常の契約車両台数は一〇台である。また、駐車料金も昭和六二年
一月までは一台当たり月額金一万五〇〇〇円であった。そして、青空部分(本件土
地のうちの本件建物敷地以外の部分)からの収益も、原判決が認定しているよりも
低額である。
 (二) 控訴人が本件賃料収入を得るについては、次のとおりの経費を要してい
る。
 (1) 本件建物の固定資産税及び都市計画税
 昭和五九年から昭和六一年まで毎年各金三万五四〇〇円
 (2) 本件土地の固定資産税及び都市計画税
 昭和五九年分 金一三六万二二二〇円
 昭和六〇年分 金一四九万八四四〇円
 昭和六一年分 金一六四万八二八〇円
 (3) 平野消防協力会会費
 昭和五九年から昭和六一年まで毎年各金三〇〇〇円あて合計金九〇〇〇円
 (4) 平野警察署管内モータープール組合費
 昭和五九年から昭和六一年まで毎年各金一万二〇〇〇円あて合計金三万六〇〇〇
 (5) 管理人給料
 昭和五九年から昭和六一年まで毎年各金一八万円あて合計金五四万円
 (6) 昭和六〇年一二月二日支払のガレージ外部フェンス工事代金二九万円
 (7) 昭和六一年三月一〇日支払いのシャッター修理代金二万五〇〇〇円
 二 被控訴人らの主張
 1 控訴人の当審における主張1及び2はいずれも否認する。
 2 控訴人の当審における主張3(一)記載の事実は、否認する。
 同3(二)(1)記載の事実は知らない。ただし、A生存中は同人が支払ってき
た。同(2)記載の事実は否認する。昭和五九年分はAが支払い、昭和六〇年以降
は控訴人二分の一、被控訴人らが二分の一を各負担している。同(3)及び(4)
記載の事実は知らない。仮に支払っているとしても昭和五九年分はAが支払ったも
のである。同(5)ないし(7)記載の事実はいずれも否認する。
 第三 証拠(省略)
         理    由
 一 Aの死亡とその相続関係及び本件建物の所有権の帰属に関する当裁判所の判
断は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決六枚目裏末行冒頭から九枚目裏末
行末尾までと同一であるから、それを引用する。
 1 原判決の訂正
 原判決七枚目裏七行目、同一〇行目、同九枚目裏三行目及び同五行目の各「被
告」をいずれも「原審における控訴人」に、同九枚目裏七行目の「前記6」を「前
記7」に各改める。
 2 被控訴人Cの相続権について
 控訴人は、被控訴人Cの相続権を争っているので、若干付言する。
 Aが昭和五九年一〇月二六日に死亡したこと、控訴人がAの妻であり、被控訴人
BがAと先妻Gとの間の長女であり、被控訴人Cが右Bと亡H(Aと控訴人の養
子)間の長女、被控訴人Dが右Bと右H間の二女であり、被控訴人EがAとI間の
子であってAにより認知されたものであることは当事者間に争いがなく、成立に争
いのない甲第一、第二号証によれば、右Hは昭和三九年二月二五日A及び控訴人の
養子となる縁組届出をし、同日、被控訴人Bと婚姻届出をしたこと、被控訴人Cは
右縁組届出の日の約二週間前の同年二月一二日に出生し、被控訴人Dは昭和四一年
八月二二日に出生したこと、右Hは昭和五二年六月九日死亡したことの各事実が認
められる。
 <要旨>原判決は、右事実関係の下においては、CはAの養子である亡Hの子であ
り、かつ、Aの</要旨>直系卑属(Bの子)でもあるから、亡Hの代襲者としてAの
遺産につき相続権がある旨判示したが、当裁判所も右見解に同調するものである。
 この点につき、右Cは亡Hの養子縁組前の子であるから、亡Hを通してAとは親
族関係を生ぜず、したがってAの死亡による相続に関して亡Hの代襲者にはなり得
ないとの考え方があるが、民法八八七条二項ただし書において、「被相続人の直系
卑属でない者」を代襲相続人の範囲から排除した理由は、血統継続の思想を尊重す
るとともに、親族共同体的な観点から相続人の範囲を親族内の者に限定することが
相当であると考えられたこと、とくに単身養子の場合において、縁組前の養子の子
が他で生活していて養親とは何ら係わりがないにもかかわらず、これに代襲相続権
を与えることは不合理であるからこれを排除する必要があったことによるものと思
われるところ、本件の場合には、右Cはその母Bを通じて被相続人Aの直系の孫で
あるから右条項の文言上において直接に違反するものではなく、また、被相続人と
の家族生活の上においては何ら差異のなかった姉妹が、亡父と被相続人間の養子縁
組届出の前に生れたか後に生れたかの一事によって、長女には相続権がなく二女に
のみ相続権か生ずるとすることは極めて不合理であるから、衡平の観点からも、右
Cには被相続人Aの遺産に関し代襲相続権があると解するのが相当である(ちなみ
に、本件のような事例において、戸籍先例は、縁組前の養子の子に代襲相続権を認
めている。昭和三五年八月五日民事甲第一九九七号民事局第二課長回答)。よっ
て、被控訴人Cに相続権がないとする控訴人の主張は失当というべきである。
 3 本件建物の所有権について
 控訴人は、本件建物は控訴人自身がその建築費用の大半を負担したと主張し、原
審及び当審における控訴人本人尋問の結果中には、本件建物を建築した昭和五〇年
当時、Aにはほとんど蓄えがなく、金三〇〇万円の建築費用のうち金一五〇万円は
控訴人が負担したとの部分が存する。しかし、成立に争いのない乙第九号証、原本
の存在とその成立に争いのない乙第一八号証によれば、Aは、昭和五〇年当時にお
いても、預貯金は別としても相当の不動産を所有していたことが認められる。ま
た、原審及び当審において、控訴人は、自己が出指した金員は、Aが撚糸工場を経
営していたときにその手伝いをして得た給料と、結婚の際持参した金五〇万円とを
加えたものである旨述べているが、前者はあいまいでその裏付けもなく、後者につ
いては、成立に争いのない甲第一号証、原審及び当審における控訴人本人尋問の結
果によれば、控訴人とAとが正式に婚姻の届出をしたのは昭和三八年一二月一八日
であるけれども、実際に嫁いで生活をしたのは昭和一七年四月一七日であると認め
られるから、右時期に控訴人が金五〇万円もの大金を持参金として所持していたと
は信じがたいところである。よって、本件建物の建築費用の負担に関する控訴人の
主張は採用できない。
 二 贈与又は死因贈与を受けたとの主張について
 当裁判所も、控訴人の右主張は採用し得ないものと判断するが、その理由は、原
判決一〇枚目裏一二行目と一一枚目裏五行目の各「被告」をいずれも「原審におけ
る控訴人」に、同一一枚目表三行目から四行目の「一〇月二五日」を「一〇月二六
日」に各改めるほかは、原判決一〇枚目裏一一行目冒頭から一一枚目裏八行目末尾
までと同一であるから、それをここに引用する。なお、Aが死に際して言及したの
が、控訴人と本件土地建物のことのみであったとしても、そのことにより右判断が
左右されるものではない。
 三 本件駐車場からの収益について
 1 本件駐車場(本件建物と青空部分とを合わせたもの)の賃貸による賃料収入
額について
 (一) 本件駐車場が賃貸されていることは当事者間に争いがなく、先に認定し
た事実(原判決七枚目表一一行目冒頭から同九枚目裏末行末尾まで)からすれば、
本件駐車場の貸主はAであったと推認することができる。
 (二) 本件建物を撮影した写真であることは当事者間に争いがなく、弁論の全
趣旨により淀屋橋法律事務所の職員が平成元年五月二六日に撮影したものと認めら
れる検甲第一ないし第八号証、当審における控訴人本人尋問の結果により真正に成
立したと認める乙第一九号証の一ないし四及び第二〇、第二二、第二三号証の各一
ないし五、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、本件建物内に駐車可能な
車両台数は一八台であって、通常、満車状態であること、右駐車料金は、昭和五九
年は一台当たり月額金一万二五〇〇円、昭和六〇年一月から昭和六二年六月までは
同じく金一万五〇〇〇円であり、同年七月からは同じく金一万七〇〇〇円となった
こと、青空部分は一括して賃貸しており、その賃料額は、昭和五九年から昭和六一
年一二月までは年額金一二二万円、昭和六二年一月から同年六月までは月額金一二
万円、同年七月からは同じく金一四万円であること、控訴人は、Jに本件建物のう
ちのガレージ一つを無料で貸与し、その代わりに本件建物の管理等を行わせている
ことが認められる。
 (三) 控訴人は、本件建物には一八台の駐車が可能であるけれども、現実に駐
車契約をしていたのは一〇台にすぎないと主張し、前掲乙第一九号証の一ないし
四、第二〇、第二二、第二三号証の各一ないし五及び当審における控訴人本人の供
述中には右主張に沿う部分か存する。しかし、控訴人本人は原審において、「ガレ
ージ収入はどのくらいか」との質問に対し、「ガレージの建物のある部分は一か月
三五万ないし三六万円であり、青空部分は一二万円くらい」と返答していること、
控訴人は当審において、駐車料金の受領帳は昭和五九年から存し、昭和六二年ころ
からは、ほとんどが銀行振込となったと述べているところ、結局これらの帳簿類は
提出されなかったことからすれば、控訴人の右主張を採用することはできない。
 (四) そうすると、A死亡後の昭和五九年一一月一日から昭和六一年七月末日
までの間の本件駐車場の賃料は、別紙計算書1の昭和六一年七月分までに記載した
とおり、合計金七四〇万四九九九円となり、同年八月一日から昭和六二年一二月末
日までのそれは、同計算書の昭和六二年一二月分までに記載したとおり、合計金六
六〇万七三三三円となる。
 2 本件駐車場経営のための経費について
 (一) いずれも成立に争いのない乙第三号証の一、二、原審における控訴人本
人尋問の結果によりいずれも真正に成立したと認められる乙第六、第七号証の各
一、二によれば、当審における控訴人の主張3(二)(3)(消防協力会費)、
(6)(フェンス工事代)及び(7)(シャッター修理代)記載の各事実を認める
ことができる。
 (二) 控訴人の主張3(二)(1)(本件建物の固定資産税等)については、
いずれも成立に争いのない乙第一号証の二、三によれば、控訴人は本件建物につき
昭和六〇年分と昭和六一年分の固定資産税等を支払ったと認められるけれども、昭
和五九年分については、その納税すべき時期からみて、Aが支払ったと認めるのが
相当である。
 (三) 控訴人の主張3(二)(2)(本件土地の公租公課)についてはこれを
認めるに足りる証拠はなく、かえって、当審における控訴人本人尋問の結果によれ
ば、A死亡後の本件土地の公租公課は、控訴人と被控訴人らとで二分の一あて負担
していることが認められ、その反面、A生存中のものはA自身が支払ったと推認す
ることができる。
 (四) 控訴人の主張3(二)(4)(組合費)については、いずれも成立に争
いのない乙第四号証の二、三によれば、控訴人は、昭和六〇年分と昭和六一年分は
その主張の組合費を支払ったと認められるけれども、成立に争いのない乙第四号証
の一によれば、昭和五九年度の組合費は、A死亡前に支払われていることが認めら
れるから、右組合費はAが支払ったものと認めるのが相当である。
 (五) 控訴人の主張3(二)(5)(管理人給料)については、原審における
控訴人本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第五号証によれば、J
作成名義の駐車場管理費の領収証明書が存することが認められるけれども、前述の
とおり、Jは本件建物のうちのガレージ一つを無料で使用しており、控訴人が管理
費と主張している金額が本件建物のガレージ一つ分の賃料額と符合していることか
らすると、前記証拠のみでは未だ控訴人主張の管理費を肯認することはできす、他
にはこれを認めるに足りる証拠はない。
 よって、昭和六一年七月末日までに控訴人において要した経費は、別紙計算書2
の昭和六一年七月分までに記載したとおり合計金三九万七八〇〇円であり、昭和六
一年八月から昭和六二年一二月末日までに要した経費は、同計算書昭和六二年一二
月分までに記載したとおり合計金七万一四〇〇円となる(なお、控訴人は昭和六二
年分の経費については具体的に主張していないが、少くとも前年度と同程度の通常
経費は要したものと推認されるところ、賃料収入につき昭和六二年一二月末日まで
の分を計上した関係で、これとの均衡上、同年分の経費についてもこれを計上し
た。)。
 3 以上によれば、本件駐車場からの収益額は、右1の賃料収入額から2の経費
を控除したものということになるところ、昭和五九年一一月一日から昭和六一年七
月三一日までの収益額は金七〇〇万七一九九円、同年八月一日から昭和六二年一二
月三一日までの収益額は金六五三万五九三三円となり、その合計額は金一三五四万
三一三二円となることが計数上明らかである。
 四 控訴人が、本件駐車場からの賃料を昭和五九年一一月一日以降すべて取得し
ていることは、当事者間に争いがなく、控訴人が経費を支出したことは右三におい
て認定したとおりである。
 五 被控訴人らが、本件不当利得金のうち昭和五九年一一月一日から昭和六一年
七月末日までの分については昭和六一年一〇月四日に控訴人に送達された本件訴状
によって、同年八月一日から昭和六二年一二月末日までの分については昭和六三年
二月八日の原審における本件口頭弁論期日においていずれも支払を催告したことは
記録上明らかである。
 六 以上によれば、被控訴人らの本訴請求のうち、遺産確認請求部分は正当とし
て認容すべきであり(ただし、原判決添付目録中「a区b」とあるのは、成立に争
いのない甲第六、第七号証(登記簿謄本)によれば「a区c」の誤りであることが
明白であるから、これを更正する。)、不当利得返還請求部分は、被控訴人Bに対
し、前記金一三五四万三一三二円のうち相続分の一〇分の二にあたる金二七〇万八
六二六円及び内金一四〇万一四四〇円に対しては昭和六一年一〇月五日から、内金
一三〇万七一八六円に対しては昭和六三年二月九日から各支払ずみまで民事法定利
率年五分の割合による遅延損害金の支払、被控訴人C、同D及び同Eに対し、それ
ぞれ前記金一三五四万三一三二円のうち各相続分の一〇分の一にあたる金一三五万
四三一三円及び各内金七〇万〇七二〇円に対しては昭和六一年一〇月五日から、各
内金六五万三五九三円に対しては昭和六三年二月九日から各支払ずみまで民事法定
利率年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるから
これを認容し、その余は失当として棄却すべきところ、原判決は一部結論を異にす
るのでこれを変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条本文、
九三条一項ただし書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、
主文のとおり判決する。

平1・11・24最判 特別縁故者への分与と民法255条の関係
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所 )
不動産登記申請却下決定取消
主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人出水順、同富阪毅、同松本研三、同東畠敏明の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
  第一審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、もとAの所有であったが、同人の死
亡により、同人の妻であるBとAの兄弟姉妹(代襲相続人を含む。)二八名、合計二九名の共有となった(Bの
持分は登記簿上二二六八〇分の一五一二〇、すなわち三分の二と登記されている。)。Bは昭和五七年七
月二八日死亡し、相続人がいなかったため、上告人らは、Bの特別縁故者として大阪家庭裁判所岸和田支
部へ相続財産分与の申立てをし、同支部は、昭和六一年四月二八日、本件土地のBの持分の各二分の一
を上告人らに分与する旨の審判をした。そこで、上告人らは、同年七月二二日、被上告人に対し、右審判を
原因とする本件土地のBの持分の全部移転登記手続(上告人ら各二分の一あて)を申請したところ、被上告
人は、同年八月五日、不動産登記法四九条二号に基づき事件が登記すべきものでないとの理由でこれを却
下する旨の決定をした(以下「本件却下処分」という。)。
 二 原審は、右事実関係の下において、共有者の一人が相続人なくして死亡したときは、その持分は、民
法(以下「法」という。)二五五条により当然他の共有者に帰属するのであり、法九五八条の三に基づく特別
縁故者への財産分与の対象にはなりえないと解すべきであるから、Bの持分も右財産分与の対象にはなら
ず、上告人らの登記申請は不動産登記法四九条二号により却下すべきであり、したがって、本件却下処分
は適法であるとして、本件却下処分を取り消した第一審判決を取り消して、上告人らの請求を棄却した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
  昭和三七年法律第四〇号による改正前の法は、相続人不存在の場合の相続財産の国庫帰属に至る手
続として、九五一条から九五八条において、相続財産法人の成立、相続財産管理人の選任、相続債権者及
び受遺者に対する債権申出の公告、相続人捜索の公告の手続を規定し、九五九条一項において「前条の期
間内に相続人である権利を主張する者がないときは、相続財産は、国庫に帰属する。」と規定していた。右一
連の手続関係からみれば、右九五九条一項の規定は、相続人が存在しないこと、並びに、相続債権者及び
受遺者との関係において一切の清算手続を終了した上、なお相続財産がこれを承継すべき者のないまま残
存することが確定した場合に、右財産が国庫に帰属することを定めたものと解すべきである。
  他方、法二五五条は、「共有者ノ一人カ……相続人ナクシテ死亡シタルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ帰
属ス」と規定しているが、この規定は、相続財産が共有持分の場合にも相続人不存在の場合の前記取扱い
を貫くと、国と他の共有者との間に共有関係が生じ、国としても財産管理上の手数がかかるなど不便であり、
また、そうすべき実益もないので、むしろ、そのような場合にはその持分を他の共有者に帰属させた方がよい
という考慮から、相続財産の国庫帰属に対する例外として設けられたものであり、法二五五条は法九五九条
一項の特別規定であったと解すべきである。したがって、法二五五条により共有持分である相続財産が他の
共有者に帰属する時期は、相続財産が国庫に帰属する時期と時点を同じくするものであり、前記清算後なお
当該相続財産が承継すべき者のないまま残存することが確定したときということになり、法二五五条にいう
「相続人ナクシテ死亡シタルトキ」とは、相続人が存在しないこと、並びに、当該共有持分が前記清算後なお
承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときと解するのが相当である。
  ところで、昭和三七年法律第四〇号による法の一部改正により、特別縁故者に対する財産分与に関する
法九五八条の三の規定が、相続財産の国庫帰属に至る一連の手続の中に新たに設けられたのであるが、
同規定は、本来国庫に帰属すべき相続財産の全部又は一部を被相続人と特別の縁故があった者に分与す
る途を開き、右特別縁故者を保護するとともに、特別縁故者の存否にかかわらず相続財産を国庫に帰属さ
せることの不条理を避けようとするものであり、そこには、被相続人の合理的意思を推測探究し、いわば遺贈
ないし死因贈与制度を補充する趣旨も含まれているものと解される。
  そして、右九五八条の三の規定の新設に伴い、従前の法九五九条一項の規定が法九五九条として「前
条の規定によつて処分されなかつた相続財産は、国庫に帰属する。」と改められ、その結果、相続人なくして
死亡した者の相続財産の国庫帰属の時期が特別縁故者に対する財産分与手続の終了後とされ、従前の法
九五九条一項の特別規定である法二五五条による共有持分の他の共有者への帰属時期も右財産分与手
続の終了後とされることとなったのである。この場合、右共有持分は法二五五条により当然に他の共有者に
帰属し、法九五八条の三に基づく特別縁故者への財産分与の対象にはなりえないと解するとすれば、共有
持分以外の相続財産は右財産分与の対象となるのに、共有持分である相続財産は右財産分与の対象にな
らないことになり、同じ相続財産でありながら何故に区別して取り扱うのか合理的な理由がないのみならず、
共有持分である相続財産であっても、相続債権者や受遺者に対する弁済のため必要があるときは、相続財
産管理人は、これを換価することができるところ、これを換価して弁済したのちに残った現金については特別
縁故者への財産分与の対象となるのに、換価しなかった共有持分である相続財産は右財産分与の対象に
ならないということになり、不合理である。さらに、被相続人の療養看護に努めた内縁の妻や事実上の養子
など被相続人と特別の縁故があった者が、たまたま遺言等がされていなかったため相続財産から何らの分
与をも受けえない場合にそなえて、家庭裁判所の審判による特別縁故者への財産分与の制度が設けられて
いるにもかかわらず、相続財産が共有持分であるというだけでその分与を受けることができないというのも、
いかにも不合理である。これに対し、右のような場合には、共有持分も特別縁故者への財産分与の対象とな
り、右分与がされなかった場合にはじめて他の共有者に帰属すると解する場合には、特別縁故者を保護する
ことが可能となり、被相続人の意思にも合致すると思われる場合があるとともに、家庭裁判所における相当
性の判断を通して特別縁故者と他の共有者のいずれに共有持分を与えるのが妥当であるかを考慮すること
が可能となり、具体的妥当性を図ることができるのである。
  したがって、共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手
続が終了したときは、その共有持分は、他の相続財産とともに、法九五八条の三の規定に基づく特別縁故
者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財
産として残存することが確定したときにはじめて、法二五五条により他の共有者に帰属することになると解す
べきである。
 四 以上によれば、大阪家庭裁判所岸和田支部の財産分与の審判を原因とする上告人らの登記申請を事
件が登記すべきものでないとしてした本件却下処分は違法であるところ、これを適法であるとした原判決に
は、法二五五条及び法九五八条の三の各規定の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に
影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件却下処
分の取消しを求める上告人らの本訴請求は正当として認容すべきものであるから、これと同旨の第一審判
決は正当であり、被上告人の控訴は理由がないものとして、これを棄却すべきである。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官香
川保一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官香川保一の反対意見は、次のとおりである。
 私は、原判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却すべきであるとする多数意見に、到底賛成することができ
ない。その理由は、次のとおりである。
 一 昭和三七年法律第四〇号による法の一部改正前において、法二五五条にいう「相続人ナクシテ死亡シ
タルトキ」とは、右改正前の法九五八条(相続人捜索の公告)の期間内に相続人である権利を主張する者が
ないとき(以下「相続人不存在確定のとき」という。)であり、他方右改正前の法九五九条一項により相続財産
が国庫に帰属するときも、右の法二五五条の場合と同様であることはいうまでもない。さらに、この場合、法
二五五条は、法九五九条一項の特別規定、すなわち相続財産である共有持分が他の共有者に当然帰属す
るものとして、国庫帰属に対する例外として規定されたものであることは多数意見のとおりである。そして、以
上のことは、右の改正前後においても実質的に同様であることは明らかである。
 二 しかるところ、多数意見は、右の改正により「法九五八条の三の規定の新設に伴い、従前の法九五九
条一項の規定が法九五九条として『前条の規定によって処分されなかつた相続財産は、国庫に帰属する。』
と改められ、その結果、……相続財産の国庫帰属時期が特別縁故者に対する財産分与手続の終了後とさ
れ、従前の法九五九条一項の特別規定である法二五五条による共有持分の他の共有者への帰属時期も右
財産分与手続の終了後とされることとなったのである。」として、相続人不存在確定のときにおいて、右新設
の法九五八条の三が法二五五条よりも優先適用され、共有持分が特別縁故者に分与されなかった場合に
はじめて他の共有者に帰属することとなるものとしているのである。しかし、法文解釈として右のように解する
多数意見には、到底賛同することができない。
  すなわち、多数意見も認めているとおり、右の改正前において、法二五五条と法九五九条一項の適用さ
れるのが相続人不存在確定のときであり、この場合前者が後者の特別規定であることから前者が優先して
適用される関係にあるところ、右の改正による新設の法九五八条の三の規定も、その適用されるのが相続
人不存在確定のときであって、改正前の法九五九条一項の規定と同じであるから、文理上その適用の優劣
を明らかにするため、当然のことながら法九五九条一項を改めて法九五九条とし、これを「前条(法九五八条
の三)の規定によつて処分されなかつた相続財産は、国庫に帰属する。」としたのである。換言すれば、多数
意見のいうとおり、「相続財産の国庫帰属の時期が特別縁故者に対する財産分与手続の終了後とされ」たの
であるが、このことは事理の当然のことである。そして、法九五八条の三は、清算後残存する相続財産一般
についての規定であり、法二五五条は、右の相続財産中の特別の共有持分についての特別規定であって
(この理は、多数意見が法二五五条を国庫帰属に関する規定の特別規定であるとするのと同じである。)、解
釈上法二五五条が優先して適用されるものとするのが当然であるから(このことは、法九五八条の三の規定
が新設された後である昭和四一年法律第九三号による借家法の改正により新設された同法七条ノ二第一項
の規定、すなわち「貸借人ガ相続人ナクシテ死亡シタル場合」に同項掲記の者が賃借人の権利義務を承継
する旨の規定が法九五八条の三の規定より優先して適用されるのも、借家法七条ノ二の規定が法九五八条
の三の一般規定に対する特別規定であるからである。)、もし、多数意見のように、法九五八条の三が法二
五五条よりも先に適用されるとするならば、法九五九条一項の改正と同じく、条文上法九五九条の「前条の
規定によつて処分されなかつた相続財産」から共有持分を除くか又は法二五五条の他の共有者に帰属する
持分を「法九五八条の三の規定によつて処分されなかつた持分」と改めるべきであるが、かかる改正がされ
ていない以上少くとも条文の文理解釈からは、多数意見のように、「相続財産の国庫帰属の時期が特別縁故
者に対する財産分与手続の終了後とされ、従前の法九五九条一項の特別規定である法二五五条による共
有持分の他の共有者への帰属時期も右財産分与手続の終了後とされることとなったのである。」とすること
は、論理上理解し難いし、その根拠を法二五五条が従前の法九五九条(又は改正後の九五九条)の特別規
定であることに求めるかのごときことも肯認し難いところである。
  以上のとおり特別規定である法二五五条よりも一般規定である法九五八条の三の規定が優先適用され
るとする解釈は、通常は許されるものではない。
 三 もちろん、法文の文理上からする解釈が極めて一般的に不合理であり、妥当性を欠くものである場合
には、文理上の解釈を採らず、合理的、妥当な解釈が許されるものであるところ、法九五八条の三を法二五
五条よりも優先適用すべきであるとする多数意見の理由とする点は、(1)相続財産のうち共有持分が特別縁
故者に対する財産分与の対象とならないことの合理的な理由がなく、(2)共有持分が債権者に対する弁済の
ため換価された場合の弁済後の残存現金が右財産分与の対象となるのに、換価されない場合にその分与
の対象とならないことは不合理であり、さらに(3)被相続人の遺言等がなされていなかった特別縁故者に対す
る保護が共有持分についてされないことは、不合理であり、家庭裁判所の相当性の判断によって特別縁故
者と他の共有者のいずれに帰属させるのが妥当かを決するのが具体的妥当性を図り得て合理的であるとい
うことである。
  しかし、もともと法九五八条の三は、相続人不存在確定のときに本来国庫に帰属すべき相続財産につい
ては、国庫帰属よりも相当な特別縁故者に帰属させる途を開くのが妥当であるとして、いわば恩恵的に分与
しようとする趣旨のものであって、遺贈ないし死因贈与の制度の補充を目的とするものではない(むしろ、一
般的には、遺言等をせずして死亡した被相続人の意思を尊重すべきである。)。他方、法二五五条の趣旨
は、本来共有関係なるものはいわば完全な財産権が他の共有持分によって制約されているものであるか
ら、その共有持分が放棄され又は相続人不存在確定のときには、右の制約がなくなるものとして当該共有持
分が他の共有者に帰属するものとするのが性質上適切妥当であるのみならず、共有者は、むしろ当該共有
財産に関し相互連帯的な特別関係にあるともいえるからであり、共有関係の解消に寄与する立法政策的配
慮も否定し得ないところであるから、共有持分を特別縁故者への分与の対象財産としないことをもって不合
理とすべきいわれはない。まして清算のための換価については、債権者の利益を他の共有者のそれよりも
尊重すべきが当然であり、残余の換価代金を他の共有者に帰属させる必要性も全くないのであって、この点
をとらえて前記の不合理を云々することは当たらない。以上要するに、法二五五条の規定が法文の文理に
従って法九五八条の三の規定より優先適用されるとすることが、極めて不合理で妥当性を欠く理由を見出す
ことは、到底できないものと考える。

平2・9・27最判 遺産分割協議の合意解除
最高裁判所第一小法廷(札幌高等裁判所)
土地所有権移転登記抹消登記手続
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人武田庄吉、同武田英彦の上告理由一について
 共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて
遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議
の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解される
から、原判決がこれを許されないものとして右主張自体を失当とした点は、法令の解釈を誤ったものといわ
ざるを得ない。しかしながら、原判決は、その説示に徴し、上告人の右主張事実を肯認するに足りる証拠は
ない旨の認定判断をもしているものと解され、この認定判断は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに
足りるから、上告人の右主張を排斥した原審の判断は、その結論において是認することができる。論旨は、
ひっきょう、原判決の結論に影響しない説示部分を論難するものであって、採用することができない。
 同二について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非
難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平2・10・18最判 公営住宅の相続権
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
建物明渡請求事件
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人大谷昌彦の上告理由一について
公営住宅法は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することに
より、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって(一
条)、そのために、公営住宅の入居者を一定の条件を具備するものに限定し(一七条)、
政令の定める選考基準に従い、条例で定めるところにより、公正な方法で選考して、入居
者を決定しなければならないものとした上(一八条)、さらに入居者の収入が政令で定め
る基準を超えることになった場合には、その入居年数に応じて、入居者については、当該
公営住宅を明け渡すように努めなければならない旨(二一条の二第一項)、事業主体の長
については、当該公営住宅の明渡しを請求することができる旨(二一条の三第一項)を規
定しているのである。
以上のような公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、そ
の相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はないというべきであ
これと同旨の原審の判断は、正当としてる。是認することができる。所論引用の判例は、
右判断と異なる解釈をとるものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見
解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同二について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認
することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。

平3・3・28東京高判 相続させる旨の遺言の場合には、遺言執行者は登記手続義務を負わない(上告)
第2民事部 判決→最判平11・6・11
損害賠償請求控訴事件(控訴棄却)
主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する平成元年11月24日から支払ずみまで年5
分の割合による金員を支払え。
 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
 主文同旨
第二 当事者の主張及び証拠関係
 当事者の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであり、また、
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人の主張
 控訴人の本件請求は、被控訴人が、本件遺言に基づき、遺言執行者として、控訴人のために本件各不動産
の所有権移転登記手続をすべき職務上の義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったことにより、控訴人
に被らせた損害の賠償を求めるものである。
 本件遺言は、本件各不動産を控訴人に遺贈する趣旨であるから、遺言執行者である被控訴人は、控訴人に
対して遺贈を原因とする所有権移転登記手続をすべき義務を負っていた。
 仮に被控訴人の主張するように、「甲に相続させる」との遺言により甲が単独で相続による所有権移転登記
を申請する{こと}が登記実務上認められているとしても、それは、遺言執行者が選任されていない場合のことで
あり、遺言執行者が選任されている場合には、遺言執行者が右登記申請手続を行うべきである(民法1013条)。
遺言執行者が選任されていれば、その者が登記手続をすると信頼するのが当然であって、被控訴人の登記申
請を待っていた控訴人が不利益を受ける理由はなく、控訴人が被った不利益は救済されるべきである。
二 被控訴人の主張
 遺言の文言が「甲に相続させる」とある場合には、甲からの相続による登記申請のみが受理されることは、
昭和47年7月17日民事甲第1442号法務省民事局長通達以来の確立した登記実務である。
 したがって、控訴人は、本件遺言公正証書を添付して、自己を単独所有者とする相続による所有権移転登記
の申請をなしうる立場にあったにもかかわらず、これを行わなかったため、他の相続人が法定相続人全員の法
定相続分に従った相続による所有権移転登記をしたのであるから、右の結果と被控訴人の行為との間に因果
関係はない。
 また、法定相続人全員の法定相続分に従った相続による所有権移転登記は、相続開始後いつでも相続人
の一人がすることができるのであるから、この点においても、右法定相続人全員の登記と被控訴人の行為との
間に因果関係はないというべきである。
理    由
一 請求原因1の事実(控訴人及び大野らがマサオの子であること)、同2の事実(マサオが昭和58年12月20
日に公正証書遺言をし、被控訴人を遺言執行者に指定したこと。ただし、遺言の内容は除く。)、同3の事実(マ
サオが昭和62年5月16日死亡したこと)及び同6の事実中、本件各不動産につき昭和62年9月1日控訴人
及び大野らを法定相続分に応じた共有者とし、登記原因を相続とする所有権移転登記がされたことは、当事者
間に争いがない。
 そして、原本の存在とその成立に争いがない甲第1号証によると、本件遺言は、「遺言者は、その所有する
左記不動産(本件各不動産)を長男控訴人に相続させる(第1条)。遺言者は、被控訴人を遺言執行者に指定
する(第2条)。」という内容であることが認められる。
 控訴人は、本件遺言は本件各不動産を控訴人に遺贈する趣旨であると主張するが、遺言の文言から当然に
そのように解することはできず、相続分の指定又は遺産分割方法の指定とみることもできるものである。
二 ところで、昭和47年4月17日民事甲第1442号法務省民事局長通達によると、「遺産のA不動産を長男
甲に相続させる」との遺言公正証書がある場合、相続人甲は、相続開始後、A不動産につき、相続を登記原因
とする所有権移転登記をすることができる、とされ、登記実務が同通達に従った取扱いをしていることは、当裁
判所に顕著である。「甲に相続させる」との遺言の趣旨はさまざまでありうるけれども、右通達及び登記実務の
取扱いは、当該遺言が甲に相続の効果を生じさせる趣旨のものとして登記申請がされた場合に、これを受理
することとしたものと解される。したがって、甲が右遺言によってA不動産につき自己のための所有権移転登記
をするには、当該遺言公正証書を相続証明書(不動産登記法41条)として添付し、甲単独で相続による所有
権移転登記の申請(同法27条)をすれば足りるのであり、これによって目的を達することができる。遺言執行
者が選任されている場合でも、遺言執行者と共同で申請する必要がないことは勿論であるし、また、遺言執行
者でなければ登記申請ができないとすべき理由もない(甲において右登記申請をすることが遺言執行者との関
係で民法1013条により制限されるとは解されない。。
 他方、民法1012条1項は、「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をす
る権利義務を有する。」と定めるが、右規定は、遺言執行者に対して、当該遺言の具体的内容に従いその執行
に必要な行為をする権利義務を認めたもので、遺言の執行とみる余地のない事柄についてまで何らかの行為
をする権利義務を認めたものではない。
 そうすると、本件において、控訴人は、本件遺言に基づき相続を原因とする所有権移転登記を単独で申請す
ることにより、本件各不動産について自己名義の所有権移転登記をすることができたものであり、このことに関
する限り、遺言執行者が遺言の執行としてなすべき事柄は何もないということができる。すなわち、右所有権移
転登記手続を遺言の執行と認める余地はなく、被控訴人が、遺言執行者の職務として、本件遺言に基づき控訴
人に対し右所有権移転登記手続をすべき義務を負っていたと解することはできない。
 もとより、被控訴人が控訴人の代理人として右登記申請手続を行うことは可能であるが、それは遺言の執行
とは別個の問題であり、遺言執行者の職務として右代理申請をなすべき義務までを当然に負うものとは解され
ない。控訴人において遺言執行者が登記手続をしてくれることを信頼したからといって、右結論を左右すること
はできない。
三 なお、遺贈による所有権移転登記については、受遺者と遺言執行者との共同申請によらなければならない
が、本件遺言が当然に遺贈と解されるものではないことは前示のとおりであるし、また、控訴人が本件で問題
にしているのは、被控訴人が控訴人名義の所有権移転登記をしなかったことそのものであるから、控訴人の
単独申請により右所有権移転登記の実行が可能であった本件において、遺贈を前提とする主張は失当とい
うほかない。
四 したがって、被控訴人が遺言執行者として本件遺言に基づき控訴人のために本件各不動産の所有権移転
登記手続をすべき職務上の義務を負っていたことを前提とする控訴人の請求は、その余の点について判断する
までもなく、理由がない。
 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、
控訴費用の負担につき民訴法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。
平3・4・19最判(香川判決) 「相続させる」遺言の解釈
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
土地所有権移転登記手続
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人小川正燈、同小川まゆみの上告理由第一点、第二点及び第三点について
 Aが第一審判決別紙物件目録記載の一ないし六の土地を前所有者から買い受けてその所有権を取得した
とした原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原審は、登記簿
の所有名義がAになったことだけから右事実を認定したのではなく、同人が台東不動産株式会社の社長とし
て相応の収入を得ていたことなどの事実をも適法に確定した上で、Aの売買による所有権取得の事実を認定
しているのであり、原審の右認定の過程に、所論の立証責任に関する法令違反、経験則違反、釈明義務違
反等の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第四点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するもの
にすぎず、採用することができない。
 同第五点及び第六点について
 一 原審の適法に確定した事実関係は次のとおりである。
 1 第一審共同被告BはAの夫、上告人(第一審被告)はAの長女、被上告人(第一審原告)はAの二女、第
一審共同原告CはAの三女で、いずれもAの相続人であり、第一審共同原告Dは被上告人の夫であるが、A
は昭和六一年四月三日死亡した。
 2 Aは、第一審判決別紙物件目録記載の一ないし八の土地(ただし、八の土地については四分の一の共
有持分)を所有していたが、(1) 昭和五八年二月一一日付け自筆証書により右三ないし六の土地について
「上出一家の相続とする」旨の遺言を、(2) 同月一九日付け自筆証書により右一及び二の土地について「上
出の相続とする」との遺言を、(3) 同五九年七月一日付け自筆証書により右七の土地について「Dに譲る」と
の遺言を、(4) 同日付け自筆証書により右八の土地のAの持分四分の一について「Cに相続させて下さい」
旨の遺言をそれぞれした。右各遺言書は、昭和六一年六月二三日東京家庭裁判所において検認を受けた
が、右の遺言のうち、(1)の遺言は、被上告人とその夫Dに各二分の一の持分を与える趣旨であり、(2)の遺
言の「上出」は被上告人を、(4)の遺言の「C」はCをそれぞれ指すものである。なお、Cは、右八の土地につい
てAの持分とは別に四分の一の共有持分を有していた。
 二 原審は、右事実関係に基づき、次のように判断した。
  右(1)、(3)におけるAの相続人でないDに対する「相続とする」「譲る」旨の遺言の趣旨は、遺贈と解すべき
であるが、右(1)における被上告人に対する「相続とする」との遺言、(2)の「相続とする」との遺言及び(4)の
「相続させて下さい」との遺言の趣旨は、民法九〇八条に規定する遺産分割の方法を指定したものと解すべ
きである。そして、右遺産分割の方法を指定した遺言によって、右(1)、(2)又は(4)の遺言に記載された特定
の遺産が被上告人又はCの相続により帰属することが確定するのは、相続人が相続の承認、放棄の自由を
有することを考え併せれば、当該相続人が右の遺言の趣旨を受け容れる意思を他の共同相続人に対し明
確に表明した時点であると解するのが合理的であるところ、被上告人については遅くとも本訴を提起した昭
和六一年九月二五日、Cについては同じく同年一〇月三一日のそれぞれの時点において右の意思を明確に
表明したものというべきであるから、相続開始の時に遡り、被上告人は前記一及び二の土地の所有権と三な
いし六の土地の二分の一の共有持分を、Cは前記八の土地のAの四分の一の共有持分をそれぞれ相続に
より取得したものというべきであり、Dは、前記(3)の遺言の効力が生じた昭和六一年四月三日、前記七の土
地の所有権を遺贈により取得したものというべきである。したがって、被上告人の請求のうち前記一及び二
の土地の所有権並びに三ないし六の土地の二分の一の共有持分を有することの確認を求める部分、Dの前
記七の土地の所有権を有することの確認を求める請求及びCの前記八の土地の四分の一を超え二分の一
の共有持分を有することの確認を求める請求は、いずれも認容すべきであり、被上告人のその余の請求(三
ないし六の土地の右共有持分を超える所有権の確認を求める請求)は理由がない。
 三 被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思
を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、そ
の者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済
関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮し
て遺言をするのであるから、遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の
意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地
位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をし
て、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的
な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と
解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわ
ち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮
しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法九〇八
条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法
として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可
能にするために外ならない。したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方
法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審
判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部
である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生
ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど
の特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ち
に当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合、遺産分割の協
議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとして
も、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。もっとも、そのような
場合においても、当該特定の相続人はなお相続の放棄の自由を有するのであるから、その者が所定の相続
の放棄をしたときは、さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになるのはもちろんであり、ま
た、場合によっては、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない。
  原審の適法に確定した事実関係の下では前記特段の事情はないというべきであり、被上告人が前記各
土地の所有権ないし共有持分を相続により取得したとした原判決の判断は、結論において正当として是認す
ることができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平4・3・13最判 保険金受取人が死亡した場合における受取人の変更に関する約款の解釈
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
保険金
主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人川木一正、同松村和宜、同長野元貞の上告理由について
 一 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (一) 訴外Aは、昭和五七年四月一日、上告人との間で、自己を被保険者、保険金受取人を訴外B、死亡
保険金を四五〇〇万円、保険期間を五年とする定期保険契約を締結した。
 (二) 右保険契約の約款(定期保険普通保険約款)二六条二項(以下「本件条項」という。)は、保険金の支
払理由の発生前に限り保険契約者又はその承継人が死亡保険金受取人を変更することができることを前提
として、「死亡保険金受取人の死亡時以後、死亡保険金受取人が変更されてないときは、死亡保険金受取
人は、その死亡した死亡保険金受取人の死亡時の法定相続人に変更されたものとします。」と規定してい
る。
 (三) Bは昭和五七年八月二四日死亡し、Aは、保険金受取人を変更することなく、同年九月九日に死亡し
た。
 (四) Aの第一順位の相続人であるC及びD並びに第二順位の相続人であるE、F、G、H及びIは、いずれも
相続の放棄をした。
 (五) Aには相続人となるべき者がいないため、同人の相続財産(被上告人)の管理人にJが選任された。
 二 右事実関係の下において、原審は、(一) 本件条項は、被保険者でない保険金受取人(本件条項にい
う「死亡保険金受取人」)が死亡し、保険契約者においてその指定(本件条項にいう「変更」)をしないで死亡
した場合に関する商法六七六条二項の規定と異なり、「死亡保険金受取人は、その死亡した死亡保険金受
取人の死亡時の法定相続人に変更されたものとします」と規定しているから、保険契約者兼被保険者の死亡
時に生存する法定相続人を保険金受取人とする趣旨と解することはできない、(二) AがBの死亡後に保険
金受取人を変更しなかったのは、本件条項に従うことで足りるとしたものということができる、(三) Bの死亡
によって保険金受取人となったAの地位は、被保険者たる同人の死亡によって確定し、Aについて本件条項
を重ねて適用する余地はない、(四) 本件においては、特約である本件条項が商法の前記規定に優先して
適用される関係にあることを理由として、本件条項によれば、Bの死亡によって、その法定相続人であるA、
C及びDが本件保険金受取人たる地位を原始的に取得し、右三名は民法四二七条の規定により平等の割合
で保険金請求権を取得したものであり、Aの死亡により同人の保険金請求権は同人の相続財産に帰属した
として、本件保険金額の三分の一の支払を求める被上告人の請求を認容した。
 三 しかし、原審の右判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
  すなわち、本件条項の趣旨は、保険金受取人と指定された者(以下「指定受取人」という。)の死亡後、保
険金受取人の変更のないまま保険金の支払理由が発生して、右変更をする余地がなくなった場合には、そ
の当時において指定受取人の法定相続人又は順次の法定相続人で生存する者を保険金受取人とすること
にあると解するのが相当である。けだし、本件条項は、保険金の支払理由の発生前に限り保険契約者又は
その承継人が保険金受取人を変更することができることを前提として、指定受取人の死亡後に右変更がされ
ていないときには、保険金受取人が指定受取人の死亡時の法定相続人に変更されたものとすると規定して
いるのであるから、保険契約者又はその承継人が自らの意思で保険金受取人を変更することができる間に
右法定相続人の保険金受取人としての地位が確定することはあり得ず、この間に本件条項によって保険金
受取人とされた指定受取人の法定相続人が死亡したときは更にその法定相続人が保険金受取人に変更さ
れたものとされる結果、被保険者の死亡等により保険金の支払理由が発生して保険金受取人を変更する余
地がなくなったときは、その当時において生存する指定受取人の法定相続人又は順次の法定相続人の保険
金受取人としての地位が確定することになると解すべきであるからである。また、第三者を保険金受取人と
する生命保険契約を締結する者の現時の一般的意識を前提とするときは、保険金受取人が指定受取人の
法定相続人である保険契約者自身に変更されたものとされる場合でも保険の性質が保険契約者自身のた
めにするものに変わるものではないと解すべきであり、本件条項の文言からもこの場合を別異に扱うべき理
由はないから、本件条項の趣旨は、保険金受取人とされた保険契約者が死亡したときは、保険金受取人は
更にその法定相続人に変更されたものとすることにあると解すべきであって、死亡した保険契約者に保険金
受取人としての地位が残ると解すべきではない。そして、このことは、商法六七六条二項の規定に関する判
例(大審院大正一〇年(オ)第八九八号同一一年二月七日判決・民集一巻一号一九頁)の見解と一致するも
のであるから、右規定と本件条項の文言の相違をとらえて本件条項が商法の右規定と異なる趣旨を含むも
のと解すべきではない。
  そうすると、本件においては、特約である本件条項が優先して適用される関係にあるとしても、その趣旨
は、既に述べたところにあると解すべきであるから、指定受取人であるBの死亡によって、その法定相続人で
あるA、C及びDが保険金受取人としての地位を取得すべきこととなり、さらに、保険契約者兼被保険者であ
るAの死亡により、C及び、Dが保険金受取人となりその地位が確定したのであるから、結局、C、Dの両名が
民法四二七条の規定により平等の割合で保険金請求権を取得し、Aの保険金請求権が同人の相続財産に
帰属することはない。
 以上によれば、右と異なる解釈の下に被上告人の請求を認容した原判決には、法律行為の解釈に法令の
違背があり、これが判決に影響することは明らかであるから、この趣旨をいう論旨は理由があり、原判決は
破棄を免れない。そして、前記説示に徴すれば、被上告人の本件保険金請求を棄却した第一審判決は正当
であるから、被上告人の控訴を棄却することとする。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり判決する。

平5・1・19最判 受遺者の選定を遺言執行者に委託した遺言の効力
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
土地建物所有権移転登記抹消登記、遺言執行者の地位不存在確認
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人築尾晃治、同尾原英臣の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 亡Aの法定相続人は、いずれも妹である上告人らだけであったが、後記の本件遺言がされた時点では、
Aと上告人らとは長らく絶縁状態にあった。
 2 Aは、昭和五八年二月二八日、被上告人に遺言の執行を委嘱する旨の自筆による遺言証書(以下「本
件遺言執行者指定の遺言書」という。)を作成した上、これを被上告人に託するとともに、再度その来宅を求
めた。
 3 Aは、同年三月二八日、右の求めに応じて同人宅を訪れた被上告人の面前で、「一、発喪不要。二、遺
産は一切の相續を排除し、三、全部を公共に寄與する。」という文言記載のある自筆による遺言証書(以下
「本件遺言書」という。)を作成して本件遺言をした上、これを被上告人に託し、自分は天涯孤独である旨を述
べた。
 4 被上告人は、Aが昭和六〇年一〇月一七日に死亡したため、翌六一年二月二四日頃、東京家庭裁判
所に本件遺言執行者指定の遺言書及び本件遺言書の検認を請求して同年四月二二日にその検認を受け、
翌二三日、上告人らに対し、Aの遺言執行者として就職する旨を通知した。
 二 遺言の解釈に当たっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解
釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり、そのため
には、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考
慮することも許されるものというべきである。このような見地から考えると、本件遺言書の文言全体の趣旨及
び同遺言書作成時のAの置かれた状況からすると、同人としては、自らの遺産を上告人ら法定相続人に取
得させず、これをすべて公益目的のために役立てたいという意思を有していたことが明らかである。そして、
本件遺言書において、あえて遺産を「公共に寄與する」として、遺産の帰属すべき主体を明示することなく、
遺産が公共のために利用されるべき旨の文言を用いていることからすると、本件遺言は、右目的を達成する
ことのできる団体等(原判決の挙げる国・地方公共団体をその典型とし、民法三四条に基づく公益法人ある
いは特別法に基づく学校法人、社会福祉法人等をも含む。)にその遺産の全部を包括遺贈する趣旨である
と解するのが相当である。また、本件遺言に先立ち、本件遺言執行者指定の遺言書を作成してこれを被上
告人に託した上、本件遺言のために被上告人に再度の来宅を求めたという前示の経緯をも併せ考慮する
と、本件遺言執行者指定の遺言及びこれを前提にした本件遺言は、遺言執行者に指定した被上告人に右団
体等の中から受遺者として特定のものを選定することをゆだねる趣旨を含むものと解するのが相当である。
このように解すれば、遺言者であるAの意思に沿うことになり、受遺者の特定にも欠けるところはない。
 そして、前示の趣旨の本件遺言は、本件遺言執行者指定の遺言と併せれば、遺言者自らが具体的な受遺
者を指定せず、その選定を遺言執行者に委託する内容を含むことになるが、遺言者にとって、このような遺
言をする必要性のあることは否定できないところ、本件においては、遺産の利用目的が公益目的に限定さ
れている上、被選定者の範囲も前記の団体等に限定され、そのいずれが受遺者として選定されても遺言者
の意思と離れることはなく、したがって、選定者における選定権濫用の危険も認められないのであるから、本
件遺言は、その効力を否定するいわれはないものというべきである。
 三 以上と同旨の理解に立ち、本件遺言を有効であるとした原審の判断は、正当として是認することがで
き、原判決に所論の違法は認められない。所論引用の大審院判例は、事案を異にし本件に適切でない。論
旨は、独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでこれを非難するか、又は原審の専権に属する事
実の認定を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

平5・1・21最判 無権代理人を本人が共同相続した場合の無権代理行為の効力
最高裁判所第一小法廷(仙台高等裁判所)
貸金
主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は、被上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人佐々木健次の上告理由について
 一 原審が適法に確定した事実は、次のとおりである。
 (一) 訴外Aは、昭和五七年二月二日、訴外Bから二〇〇万円の融資を依頼されたが、Bに対し、さきにA
がBに貸し付け、未回収となっていた貸金債権六〇〇万円に金利を加え、これに依頼された新規の融資分
二〇〇万円を加えた八五〇万円について、改めてBが借用証書を書き換え、上告人の父であるCがそれに
連帯保証人として署名捺印することを求めた。そこで、Bは、上告人に対し、短期間内に自己の責任で債務
全額の処理をすることを誓って、借用証書に連帯保証人としてのCの名による署名捺印を依頼した。
 (二) 上告人は、前同日、Cから代理権を授与されていなかったにもかかわらず、その了解を得ずにBの依
頼に応じ、貸金額八五〇万円、借主B、弁済期昭和五七年四月二〇日、遅延損害金年三割、公正証書を作
成すべきこと等を内容とする借用証書に連帯保証人としてCの名を記載し、預かっていた同人の実印を押捺
し、同人が右貸金債務について連帯保証をする旨の契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結した。
 (三) 被上告人は、昭和五七年五月一一日、Aから、Bに対する前記八五〇万円の貸金債権の譲渡を受け
た。
 (四) Cは、昭和六二年四月二〇日に死亡し、同人の妻の訴外D及び上告人が、Cの権利義務を各二分の
一の割合で相続により承継した。
 二 原審は、右事実関係の下において、無権代理人が単独で本人を相続した場合に限らず、無権代理人と
他の者とが共同で本人を相続した場合であっても、その無権代理人が承継すべき被相続人(本人)の法的地
位の限度では、本人自らしたのと同様の効果が生じるとした上、本件においては、Dと無権代理人たる上告
人とが、金銭債務について、本件連帯保証契約の当事者たる本人の地位を各二分の一の割合により相続承
継し、この地位は既に確定的なものとなっているのであるから、無権代理人たる上告人が相続により本人た
るCの地位を承継した分について、本人自らが本件連帯保証契約をしたのと同様の効果が生じ、上告人がそ
の連帯保証責任を負うべきであり、上告人は、被上告人に対し、Cの連帯保証のうち上告人が相続承継した
二分の一に相当する部分、すなわち、被上告人の請求額の二分の一の四二五万円及びこれに対する弁済
期の翌日である昭和五七年四月二一日から完済まで約定の年三割の割合による遅延損害金の支払をすべ
きことを命じた。
 三 しかし、原審の右判断は、これを是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 すなわち、無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する
権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に対して効力
を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるもので
あるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解
すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追
認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為
は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。そして、以上のこと
は、無権代理行為が金銭債務の連帯保証契約についてされた場合においても同様である。
 これを本件についてみるに、前記の事実関係によれば、上告人は、Cの無権代理人として本件連帯保証契
約を締結し、Cの死亡に伴い、Dと共にCの権利義務を各二分の一の割合で共同相続したものであるが、右
無権代理行為の追認があった事実について被上告人の主張立証のない本件においては、上告人の二分の
一の相続分に相当する部分においても本件連帯保証契約が有効になったものということはできない。
 四 そうすると、以上判示したところと異なる見解に立って、被上告人の上告人に対する請求を前記のとお
り一部認容した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ず、その違法は
判決に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨をいう論旨は、理由があり、その余の点について判断
するまでもなく、原判決中の上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、右説示に徴すれば、被上告人の請
求は棄却すべきものであり、これと結論を同じくする第一審判決は正当であり、被上告人の右部分に対する
控訴は理由がなくこれを棄却すべきものである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官三好達の反対意見がある
ほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官三好達の反対意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見と異なり、原判決を維持し、上告人の上告を棄却すべきものと考えるので、以下その理由
を述べる。
 一 無権代理人が本人を単独相続した場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の
地位を生じたものと解するのが相当であるとされている(最高裁昭和三九年(オ)第一二六七号同四〇年六
月一八日第二小法廷判決・民集一九巻四号九八六頁)。これは、大審院以来裁判実務が一貫して採用し、
また理論付けにおいて異なるところがあるにしても、その結論は、学説の大方の支持も得てきていたところで
ある。しかし、本来追認という行為によってのみ有効となるべき無権代理行為につき、本人の死亡により開始
した相続の効果だけから、本人又は相続人による何らの行為なくして、これを有効なものとするのには、理論
的に困難な点があることは否定できないのであって、この結論を導く理論付けについて判例、学説等が必ず
しも一致していないのもその故である。それにもかかわらず、そのような法理が採られてきている根底にある
ものは、自ら無権代理行為をした者が本人を相続した場合に、本人の資格において追認を拒み、その行為
の効果が自己に帰属するのを回避するのは、身勝手に過ぎるという素朴な衡平感覚であるといえよう。して
みれば、右法理は、次のように理論付けるのが相当である。すなわち、本人を相続した無権代理人が、自ら
した無権代理行為につき、相手方からその行為の効果を主張された場合に、本人を保護するために設けら
れた追認拒絶権を本人の資格において行使して、追認を拒むことは、信義則に違背し、許されないといわな
ければならず、このように無権代理人において追認を拒み得ない以上、相手方は、追認の事実を主張立証
することなくして、無権代理人たる相続人に対しその行為の効果を主張することができることとなり、結局相
続人は、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位におかれる結果となる(最高裁昭和三五年
(オ)第三号同三七年四月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻四号九五五頁参照)。
 二 これまで、この法理が採られてきたのは、本人の相続人が無権代理人のみである場合、あるいは無権
代理人が共同相続人の一人であるが、他の共同相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合につ
いてであるが、無権代理人が他の相続人と共に共同相続をした場合においても、相手方から、その相続分に
相当する限度において、無権代理行為の効果を主張されたときには、同様に考えるのが相当である。けだ
し、その行為の効果が自己に帰属するのを回避するため、その追認を拒むことが信義則に違背することは、
唯一の相続人であったときと同様であるのみならず、他の共同相続人が追認しておらず、又は拒絶した事実
を自己の利益のために主張することもまた、自ら無権代理行為をした者としては、同じく信義則に違背するも
のとして、許されないというべきであるからである。そうしてみると、無権代理人は、相手方から、自己の相続
分に相当する限度において、その行為の効果を主張された場合には、共同相続人全員の追認がないことを
主張して、その効果を否定することは信義則上許されず、このように無権代理人において追認がないことを
主張し得ない以上、相手方は、追認の事実を主張立証することなくして、無権代理人たる相続人に対して、そ
の相続分に相当する限度において、その行為の効果を主張することができることとなり、無権代理人たる相
続人は、右の限度において本人が自ら法律行為をしたと同様な法律上の地位におかれる結果となるという
べきである。
 多数意見は、無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合は、共同相続人全員において追認
をしなければ、無権代理行為が有効となることはないとするが、この点は私も肯認するところである。私の意
見も、共同相続人全員の追認がない場合に、無権代理行為それ自体が、たとえ無権代理人の相続分に相
当する限度においても、当然に有効となるとするものではなく、ただ、信義則適用の効果として、相手方は、
右の限度においては、追認の事実を主張立証することなくして、無権代理人たる相続人に対しその行為の効
果を主張することができることとなるというのである。
 三 付言するに、私の意見は、二に述べたように、無権代理行為それ自体がその相続分に相当する限度に
おいて有効となると説くものではない。したがって、これを有効とすることに伴う難点が生ずることはなく、それ
を理由とする批判は当たらないといえる。すなわち、部分的に有効とすることに伴う難点は、部分的有効は相
手方に不利益をもたらし、かえってその保護に欠けるというものであるが、私の意見は、無権代理人が相手
方からその相続分に相当する限度で無権代理行為の効果を主張された場合には、追認がないことを理由と
して、これを否定することはできないとするものであるにすぎないから、相手方において、民法一一五条の取
消権を行使し、あるいは同法一一七条により無権代理人の責任を追及するという法的手段を採ることを妨げ
るものでないことはいうまでもなく、相手方に対し何ら不利益をもたらすことはないのである。
 なお、このように、相続分に相当する限度において、相手方に対して無権代理行為の効果を否定すること
ができないとすることは、特定物の取引行為等に関しては、相手方と他の相続人その他関係人との法律関
係を複雑にするとの批判があり得よう。しかし、相手方は、右の限度での無権代理行為の効果を主張した以
上、たとえその結果複雑な法律関係を生じても、それは自らの選択によるものといわなければならないし、他
の相続人その他当該特定物に法律関係を有する者に及ぼす影響としては、共同相続人の一人が、相続財
産たる物件につき、自己の相続分と共に、他の共同相続人の相続分についてもその無権代理人として、他と
取引をした場合、あるいは当該物件につきその相続分の限度において他と取引をした場合に生ずる法律関
係の複雑さと径庭はないといえるから、他の相続人その他においては、これを甘受せざるを得ないというべき
である。

平5・3・26大阪高判 遺産分割協議の無効確認を求める訴えと固有必要的共同訴訟
大阪高等裁判所?? ?? 第一一民事部
遺産分割協議無効確認請求、同参加事件
主    文
     原判決を取り消す。
     原判決別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物を控訴人の所
有とする旨を定めた、昭和五三年一月二五日付亡Aの遺産分割に関する協議が無効
であることを確認する。
     控訴費用は、第一、二審(参加によるものを含む)とも控訴人の負担と
する。
         事実及び理由
 第一 申立て
 一 控訴人の控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人らの請求を棄却する。
 3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 二 被控訴人らの答弁
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 三 参加人の参加請求の趣旨
 原判決別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物を控訴人の所有とする
旨を定めた、昭和五三年一月二五日付亡Aの遺産分割に関する協議が無効であるこ
とを確認する。
 四 参加請求に対する控訴人の答弁
 参加人の請求を棄却する。
 第二 事案の概要
 本件は、被控訴人ら及び参加人が控訴人に対して遺産分割協議の無効確認を求め
る事案である。
 一 争いのない事実
 1 Aは、昭和五二年一二月二日死亡し、その遺産として原判決別紙物件目録記
載一の土地及び同目録記載二の建物(以下、合わせて「本件不動産」という。)が
存在する。
 Aの相続人は、その妻の参加人、Aと先妻B(昭和五〇年九月八日死亡)との間
の二男の被控訴人C、同三男の被控訴人D及び同四男の控訴人である(長男は死
亡)。
 2 本件不動産について、被控訴人ら、参加人及び控訴人との間で、これらを被
訴人の所有とする旨を合意したことが記載された昭和五三年一月二五日付「遺産分
割協議書」と題する書面(以下「本件協議書」という。)が存在し、この書面には
被控訴人ら、参加人及び控訴人の住所、氏名が記載され、その名下にそれぞれの印
影が顕出されている。
 二 争点
 昭和五三年一月二五日付遺産分割協議(以下「本件協議」という。)の成立及び
その効力
 三 争点に関する当事者の主張
 1 控訴人
 被控訴人ら、控訴人及び参加人は、昭和五三年一月二五日、控訴人方に集まり、
Aの遺産の分割について協議し、その結果、本件不動産を控訴人の所有とする旨の
本件協議が成立した。
 2 被控訴人ら及び参加人
 被控訴人らはいずれも同日控訴人方を訪ねたことはないし、相続人全員が集まっ
て遺産分割協議がされたことはない。
 第三 証拠(省略)
 第四 当裁判所の判断
 一 前述のように、本件不動産について、昭和五三年一月二五日付で本件協議書
が存在し、この書面には被控訴人ら、参加人及び控訴人の住所、氏名が記載され、
その名下にそれぞれの印影が顕出されていることは当事者間に争いがないところ、
当審における被控訴人ら及び参加人各本人尋問の結果によれば、右各印影は被控訴
人ら及び参加人それぞれの印によって顕出されたことが認められ、原審及び当審に
おける控訴人本人は、同日、相続人全員が控訴人方に集まり、本件協議書は、控訴
人が書面を作成し、各相続人がそれぞれ押印して四通を作成し、各一通づつを持ち
帰った旨供述するところである。
 しかしながら、原審及び当審における被控訴人C並びに当審における被控訴人D
及び参加人各本人尋問の結果によれば、同日は平日であって、勤務を有する被控訴
人らが同日控訴人方を訪ねたことはないと認められ、これに反する右控訴人本人の
供述は採用できず、同日、相続人全員が控訴人方に集まり、協議した結果、本件協
議が成立したとの主張が採用できないのは明らかである。
 なお、前述のように、本件協議書に押捺された各印影が相続人らの印によって顕
出されたことが認められるので、本件協議書の作成によって遺産分割協議が成立し
たのではないかとの疑いが生じるので検討するに、本件協議書に顕出された被控訴
人らの各印影については、これらが何時いかなる経緯によって顕出されたかは、こ
れを明らかにする証拠はないところ、前記各本人尋問の結果によれば、控訴人は、
同月ころ被控訴人らの印影が既に顕出された本件協議書を参加人の住居(本件不動
産の一部)に持参して押印を求め、渋る参加人に被控訴人らは納得して押印したな
どと述べて強く押印をせまり、参加人においては視力が十分でなくその内容を確認
できないまま、やむなく、控訴人のいうままに押印に応じたこと、控訴人及び被控
訴人らは、参加人が後妻であり、かつAと婚姻して約一年程度であったこともあっ
て、参加人が本件不動産に相続による権利を主張することを警戒し、その相続分の
割合について弁護士に相談するなどしていたこと、本件協議書の作成には本件不動
産を参加人に渡さないようにする目的があったこと、そして、控訴人は参加人から
本件協議書に押印を得た後、いやがらせを続けるなどして、参加人が本件不動産か
ら退去せざるを得ないように仕向け、その結果、参加人は同年四月には本件不動産
を退去したこと、本件不動産のほかAの遺産としては、A、その先妻Bほかの名義
の預金があったが、その帰属については何ら協議がされていないこと、本件協議書
作成の後、控訴人が本件不動産について登記手続を試みたことはなく、また他の遺
産の分割の話もされないまま推移したこと、被控訴人らから平成三年五月に至って
遺産分割の申入れがされたが、控訴人はこれに対して当初本件協議の存在を主張せ
ず、右分割協議に応じる姿勢を示していたことの各事実が認められ、これに反する
控訴人本人の供述部分は採用できない。これらの事実によれば、本件協議書は、参
加人に本件不動産を取得させないための仮装として、遺産分割以外の目的で作成さ
れた可能性が大きいといわなければならず、これによって、控訴人と参加人間にお
いてはもとより控訴人と被控訴人らの間においても遺産分割協議の成立を認めるこ
とはできない。
 以上によれば、本件協議は成立したとは認められず、その効力は有しないものと
いうべきである。
 二 よって、被控訴人ら及び参加人の本件協議が無効であることの確認請求は理
由があり、これを認容すべきであるところ、原判決の被控訴人らと控訴人との間の
判決はこれと同旨である。
 <要旨第一> ところで、遺産分割協議が無効であることに確定した場合、改めて
遺産分割の協議をすることが必要と</要旨第一>なり、右協議が調わないとき又は協
議することができないときは家庭裁判所における調停、審判によることとなるが、
遺産分割は相続人全員で合意することが必要であるから、遺産分割協議が一部相続
人の間だけで無効ということになれば、改めて遺産分割の協議をすることは困難が
予想されるし、家庭裁判所が審判をするについては分割を不可能とする場合も予想
され、著しく不都合を招来する。したがって、遺産分割協議の無効確認を求める訴
えは、相続人全員の間に合一に確定することを要する固有必要的共同訴訟と<要旨第
二>いうべきである。しかるところ、本訴は原審において被控訴人らが控訴人を相手
として遺産分割協議の無</要旨第二>効確認を求めたもので、相続人の一人である参
加人を欠いており不適法というべきであったが、固有必要的共同訴訟において共同
訴訟人となるべき者の一部を遺脱した場合、その者が共同訴訟参加をすれば、右訴
訟の欠缺を補正することができ、第一審が右欠缺を看過して実体判決をしたとき
は、控訴審においても、遺脱者が共同訴訟参加することによって右欠缺を補正する
ことができるというべきである。そこで、本訴は、参加人が当審において共同訴訟
参加をしたことによって適法な訴えとなったものということができるが、右補正前
にした原判決がその関与した当事者間では控訴審の判断と同一になるとしてもこれ
を維持することは困難といわなければならない。すなわち、固有必要的共同訴訟は
共同訴訟人となるべき者全員について一個の判決がされるべきであり、原判決はそ
の一部の者に対する判決にすぎないからである。
 そこで、原判決を取り消し、被控訴人ら及び参加人の控訴人に対する請求を認容
し、訴訟費用については民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決す
る。

平5・4・6最判 自賠法にいう「被害者」 
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
損害賠償
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人大澤孝征、同近藤文子、同中松村夫、同福嶋弘榮の上告理由第一の一1について
 自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)七二条一項に定める政府の行う自動車損害賠償保障事業
は、自動車の運行によって生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らか
でないため被害者が同法三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときは、政府がその損害
をてん補するものであるから、同法七二条一項にいう「被害者」とは、保有者に対して損害賠償の請求をす
ることができる者をいうと解すべきところ、内縁の配偶者が他方の配偶者の扶養を受けている場合におい
て、その他方の配偶者が保有者の自動車の運行によって死亡したときは、内縁の配偶者は、自己が他方の
配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、保有者に対してその賠償を請求する
ことができるものというべきであるから、内縁の配偶者は、同項にいう「被害者」に当たると解するのが相当
である。
 そして、政府が、同項に基づき、保有者の自動車の運行によって死亡した被害者の相続人の請求により、
右死亡による損害をてん補すべき場合において、政府が死亡被害者の内縁の配偶者にその扶養利益の喪
失に相当する額を支払い、その損害をてん補したときは、右てん補額は相続人にてん補すべき死亡被害者
の逸失利益の額からこれを控除すべきものと解するのが相当である。けだし、死亡被害者の内縁の配偶者
もまた、自賠法七二条一項にいう「被害者」として、政府に対して死亡被害者の死亡による損害のてん補を請
求することができるから、右配偶者に対してされた前記損害のてん補は正当であり、また、死亡被害者の逸
失利益は同人が死亡しなかったとすれば得べかりし利益であるところ、死亡被害者の内縁の配偶者の扶養
に要する費用は右利益から支出されるものであるから、死亡被害者の内縁の配偶者の将来の扶養利益の
喪失に相当する額として既に支払われた前記てん補額は、死亡被害者の逸失利益からこれを控除するのが
相当であるからである。
 原審の確定した事実関係によれば、上告人らはいずれも本件交通事故によって死亡したA(当時満六二
歳)の妹であるが、Aには内縁の配偶者Bがおり、同人の生計は専らAの収入によって維持されていたとこ
ろ、被上告人は、自賠法七二条一項に基づき、Bに対して、同人がAの死亡によって喪失した将来の扶養利
益に相当する額として既に七〇〇万九六三一円(原判決四枚目表に「七〇〇万円」とあるのは誤記)を支払
った、というのであり、以上の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。したがっ
て、被上告人がBに対して支払った右てん補額は、上告人らが請求するAの逸失利益の額からこれを控除す
べきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨
は、これと異なる見解に立って原判決の違法をいうものであって、採用することができない。
 同第一の一2について
 所論は、原審の判断を経ていない事項につき原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 同第一の二について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非
難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

平5・6・23東京高判 遺産分割審判に対する抗告事件−非嫡出子の差別問題(特別抗告あり)
東京高等裁判所?? ?? 第三民事部→特別抗告 平7.7.5
遺産分割審判に対する抗告事件
主    文
     原審判主文第2項及び第3項を次のとおり変更する。
     「2 相手方Aは、その余の当事者に対し、代償金として以下の各金員
を本審判確定の日から四か月以内に支払わなければならない。
     (1) 抗告人に対し、金一九六九万五七五〇円
     (2) 相手方Bに対し、金七八五万三八七五円
     (3) 相手方C、同D、同E及び同Fに対し、各金二四六万一九六八
     3 手続費用は第一、二審を通じて各自の負担とする。」
         理    由
 一 抗告の趣旨及び理由
 抗告の趣旨は、主文と同旨の裁判を求めるというのであり、その理由は、別紙の
とおりである。
 二 当裁判所の判断
 <要旨>1 当裁判所は、民法九〇〇条四号但書前段の規定は、憲法一四条一項の
規定に違反し、無効であると解す</要旨>る。その理由は、次のとおりである。
 (一) 憲法一四条一項所定の「社会的身分」とは、出生によって決定される社
会的な地位又は身分をいうと解されるところ、嫡出子か嫡出子でないかは、本人を
懐胎した母が、本人の父と法律上の婚姻をしているかどうかによって決定される
(民法七七二条)事柄であるから、子の立場から見れば、正に出生によって決定さ
れる社会的な地位又は身分ということができる。そうだとすると、民法九〇〇条四
号但書前段の規定は、嫡出子と非嫡出子とを相続分において区別して取り扱うもの
であることが明らかであるから、憲法一四条一項にいう「社会的身分による経済的
又は社会的関係における差別的取扱い」に当たるというべきである。
 そして、憲法一四条一項の法の下における平等の要請は、事柄の性質に即応した
合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣
旨と解すべきであるから、民法九〇〇条四号但書前段の規定による嫡出子と非嫡出
子との間の差別的な取扱いが、はたして合理的な根拠に基づくものであるかどうか
が問われることになる。
 (二) ところで、社会的身分を理由とする差別的取扱いは、個人の意思や努力
によってはいかんともしがたい性質のものであり、個人の尊厳と人格価値の平等の
原理を至上のものとした憲法の精神(憲法一三条、二四条二項)にかんがみると、
当該規定の合理性の有無の審査に当たっては、立法の目的(右規定所定の差別的な
取扱いの目的)が重要なものであること、及びその目的と規制手段との間に事実上
の実質的関連性があることの二点が論証されなければならないと解される。
 そこで、以下右の二点について検討を加える。
 (三) 立法の目的の重要性について
 民法九〇〇条四号但書前段の立法の目的は、正当な婚姻を奨励尊重することにあ
り、いいかえれば、適法な婚姻に基づく家族関係を保護することにあると説かれて
いるが、ここで念頭に置かれているのは、いわゆる「妾の子」に対して「妻の子」
の利益を保護することにより、結果的に法律婚を尊重しようという旧家族制度に由
来する沿革的思想にほかならない。
 もっとも、右規定の立案に際しては、憲法の原則である個人の尊厳と平等の立場
から問題が提起されたが、他方では、非嫡出子に相続権を与えること自体に対する
反対論があり、正当の婚姻を重んずるという建前から旧民法の規定による差別的取
扱いがいわば妥協の産物としてそのまま存置される形となった。そして、右のよう
な賛否両論を踏まえて、民法の一部を改正する法律(昭和二二年法律第二二二号)
が成立するに際しては、その審議の経緯にかんがみ、衆議院において、「本法は、
可及的速やかに、将来において更に改正する必要があることを認める。」旨の附帯
決議がなされた。
 その後、昭和五四年七月一七日付けで法務省民事局参事官室から公表された相続
に関する民法改正要綱試案の二において、非嫡出子の相続分の平等化が図られた
が、当時の世論調査の結果等にかんがみ、時期尚早としてこの部分の改正は見送ら
れた経緯がある。なお、右試案と同時に公表された説明中には、非嫡出子の相続分
の平等化を図る根拠として、次のとおり述べられている。
 「試案は、非嫡出子は、嫡出でないことについてみずから何の責任もないのに、
現行法のように、その相続分を、親を同じくする嫡出子の二分の一として区別する
ことは、法の下の平等の理念に照らし問題があること、及び両者の相続分を同等と
しても、配偶者の相続分には変わりがなく、法律婚主義と直接抵触するものでもな
いこと等の理由により、非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分と同等とするのが適
当であるとする意見によったものである。」
 当裁判所は、適法な婚姻に基づく家族関係を保護するという立法の目的それ自体
は、憲法二四条の趣旨に照らし、現今においてもなお、尊重されるべきであり、こ
れが重要なものであることを肯定する。
 しかしながら、嫡出子と非嫡出子との相続分を同等としても、これにより配偶者
の相続分はなんらの影響を受けるものではないし、仮りに、配偶者の側に実質的な
不平等が生ずることがあるにしても、寄与分の制度を活用することにより是正可能
であることが留意されるべきである(なお、生みの親の心情からしても、遺産の分
配につき嫡出子と非嫡出子との間に分け隔てされることを当然とする者はいないの
ではないかと考えられるし、相続制度の対極にある父母に対する扶養の観点からし
ても、嫡出子も非嫡出子も双方平等に義務を負っていることが指摘され得る。)。
 もとより、適法な婚姻に基づく家族関係の保護が、尊重されるべき理念であるこ
とはいうまでもないが、他方で、非嫡出子の個人の尊厳も等しく保護されなければ
ならないのであって、後者の犠牲の下で前者を保護するような立法は極力回避すべ
きであろう(因みに、本件記録によれば、抗告人は非嫡出子であるという理由だけ
で、これまで屡々他人から白眼視されただけでなく、本件の係争法条である民法九
〇〇条四号但書前段を盾に相続関係人から極めて冷ややかな遇いを受けたことが認
められる。そして、抗告人と同様の立場にある者の多くが、右と同じような仕打ち
を受けていることは、半ば公知の事実でもあることからすれば、まさに、同法条
は、結果的にしろ、非嫡出子に対する差別心を人々の心に生じさせ、かつ助長する
役割を果しているともいえるのであり、このような現実は軽視されてよいとは決し
ていえない。)。
 そして、この点に関する近時の諸外国における立法の動向を見ると、非嫡出子に
ついて権利の平等化を強く志向する傾向にあることが窺われ、さらに、国際連合に
よる「市民的及び政治的権利に関する国際規約」二四条一項の規定の精神及び我が
国において未だ批准していないものの、近々批准することが予定されている「児童
の権利に関する条約」二条二項の精神等にかんがみれば、適法な婚姻に基づく家族
関係の保護という理念と非嫡出子の個人の尊厳という理念は、その双方が両立する
形で問題の解決が図られなければならないと考える。
 (四) 目的と規制手段との間の実質的関連性について
 民法九〇〇条四号但書前段の規制が非嫡出子の相続分を嫡出子のそれの二分の一
とすることにより、すなわち、妻の子の利益を妾の子のそれよりも重視することに
より、結果的に法律婚家族の利益が一定限度で保護されていること自体は、否定し
がたい。その意味では、右の規制と立法目的との間には、一応の相関関係があると
いえる。
 しかしながら、右の規制があるからといって、婚外子の出現を抑止することはほ
とんど期待できない上、非嫡出子から見れば、父母が適法な婚姻関係にあるかどう
かはまったく偶然なことに過ぎず、自己の意思や努力によってはいかんともしがた
い事由により不利益な取扱いを受ける結果となることが留意されるべきである。こ
れは、たとえていえば、正に「親の因果が子に報い」式の仕打ちであり、人は自己
の非行のみによって罰又は不利益を受けるという近代法の基本原則にも背反してい
ることが見逃されてはならない。
 次に、民法九〇〇条四号但書前段の規制は、一律に非嫡出子の相続分を嫡出子の
それの二分の一としているから、たとえば、母が法律婚による嫡出子を儲けて離婚
した後、再婚し、子を儲けた場合に、再婚が事実上の婚姻にすぎなかったときは、
母の相続に関しても、嫡出子と非嫡出子とが差別される結果となり、同号但書前段
が本来意図している法律婚家族の保護(その実質がいわゆる妾の子よりも妻の子を
保護することにあることは前叙のとおりである)を越えてしまう結果を招来するこ
と、このような場合には、いいかえれば、規制の範囲が立法の目的に対して広きに
すぎることが指摘されなければならない。
 以上のとおり、民法九〇〇条四号但書前段の規制は、目的に対して広すぎるとい
う意味で正確性に欠けるだけではなく、婚外子の出現を抑止することに関しほとん
ど無力であるという意味で、適法な婚姻に基づく家族関係の保護という立法目的を
達成するうえで事実上の実質的関連性を有するといえるかどうかも、はなはだ疑わ
しいといわざるを得ないのである。
 (五) そうだとすると、民法九〇〇条四号但書前段の差別的取扱いは、必ずし
も合理的な根拠に基づくものとはいい難いから、憲法一四条一項の規定に違反する
ものと判断せざるを得ない。
 2 以上の見地に立って原審判の当否を検討するに、原審判が相続人の相続分を
算定するに当たり、民法九〇〇条四号但書前段の規定を適用したのは違法であるか
ら、原審判中の該当部分を以下のとおり改める。
 (一) 原審判四頁一〇行目から五頁初行までを次のとおり訂正する。
 「そして、上記Gと抗告人との相続分は平等と解すべきであるから、相続分は、
相手方A二分の一、抗告人四分の一、G四分の一(すなわち、これを更に承継した
相手方B八分の一、相手方C、同D、同E及び同F各三二分の一)である。」
 (二) 同八頁七行目の「申立人」から八行目の「である。」までを次のとおり
訂正する。
 「抗告人が四分の一の一九六九万五七五〇円、相手方Bが八分の一の九八四万七
八七五円、相手方C、同D、同E及び同Fが各三二分の一の二四六万一九六八円で
ある。」
 (三) 同一〇行目の「一一一三六五〇〇円」を「七八五万三八七五円」に訂正
する。
 3 よって、原審判の主文第2項及び第3項を本決定主文のとおり変更し、手続
費用の負担について、家事審判法七条、非訟事件手続法二五条、二九条、民訴法九
六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。

平5・9・7最判 商法六七六条二項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」の意義
最高裁判所第三小法廷(福岡高等裁判所)
保険金
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人宜野座毅の上告理由について
 一 商法六七六条二項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」とは、保険契約者によって保険金受取
人として指定された者(以下「指定受取人」という。)の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保
険者の死亡時に現に生存する者をいうと解すべきである(大審院大正一〇年(オ)第八九八号同一一年二
月七日判決・民集一巻一号一九頁)。けだし、商法六七六条二項の規定は、保険金受取人が不存在となる
事態をできる限り避けるため、保険金受取人についての指定を補充するものであり、指定受取人が死亡した
場合において、その後保険契約者が死亡して同条一項の規定による保険金受取人についての再指定をす
る余地がなくなったときは、指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡
時に現に生存する者が保険金受取人として確定する趣旨のものと解すべきであるからである。この理は、指
定受取人の法定相続人が複数存在し、保険契約者兼被保険者が右法定相続人の一人である場合において
も同様である。
 二 そして、商法六七六条二項の規定の適用の結果、指定受取人の法定相続人とその順次の法定相続
人とが保険金受取人として確定した場合には、各保険金受取人の権利の割合は、民法四二七条の規定の
適用により、平等の割合になるものと解すべきである。けだし、商法六七六条二項の規定は、指定受取人の
地位の相続による承継を定めるものでも、また、複数の保険金受取人がある場合に各人の取得する保険金
請求権の割合を定めるものでもなく、指定受取人の法定相続人という地位に着目して保険金受取人となるべ
き者を定めるものであって、保険金支払理由の発生により原始的に保険金請求権を取得する複数の保険金
受取人の間の権利の割合を決定するのは、民法四二七条の規定であるからである。
 三 そうすると、Aが被上告人との間で、昭和六一年五月一日、被保険者をA、保険金受取人をAの母であ
るB、死亡保険金額を二〇〇〇万円とする生命保険契約を締結したが、Bが同六二年五月九日に死亡し、
次いでAが同六三年一一月一三日に保険金受取人の再指定をすることなく死亡し、Bの法定相続人としてA
及び上告人らの四名がおり、Aの法定相続人として上告人ら以外に一一名の異母兄姉等がいるとの原審が
適法に確定した事実関係の下においては、上告人ら及びAの一一名の異母兄姉等の合計一四名が保険金
受取人となったものというべきであるから、右死亡保険金額の各一四分の一について上告人らの請求を認
容し、その余を棄却すべきものとした原審の判断は正当として是認することができる。前記大審院判例は、所
論の趣旨を判示したものとはいえない。論旨は、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

平6・7・18最判 死亡保険金
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
保険金
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人大西英敏の上告理由について
 保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段
の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする
旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。けだし、保険金受取人を単に「相続人」と指定する
趣旨は、保険事故発生時までに被保険者の相続人となるべき者に変動が生ずる場合にも、保険金受取人
の変更手続をすることなく、保険事故発生時において相続人である者を保険金受取人と定めることにあると
ともに、右指定には相続人に対してその相続分の割合により保険金を取得させる趣旨も含まれているものと
解するのが、保険契約者の通常の意思に合致し、かつ、合理的であると考えられるからである。したがっ
て、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合に、数人の相続人がいると
きは、特段の事情のない限り、民法四二七条にいう「別段ノ意思表示」である相続分の割合によって権利を
有するという指定があったものと解すべきであるから、各保険金受取人の有する権利の割合は、相続分の
割合になるものというべきである。
 これを本件についてみると、原審の確定した事実は、次のとおりである。(1) 上告人の妻であるAは昭和六
一年七月一日被上告人との間で、被保険者をA、事故による死亡保険金を一〇〇〇万円、保険期間を五年
とするなどの内容の積立女性保険契約(以下「本件契約」という。)を締結したところ、Aは昭和六三年九月二
八日事故により死亡した。(2) 本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記入はされていなか
ったが、同欄には「相続人となる場合は記入不要です」との注記がされており、また、本件契約の保険証券の
死亡保険金受取人欄には、「法定相続人」と記載されている。(3) Aの相続人は配偶者である上告人及び兄
弟姉妹(代襲相続人を含む。)の一〇名であり、上告人の法定相続分は四分の三である。
 右事実関係によれば、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記載はされていなかったが、
同欄には前記のような注記がされていたのであるから、Aは右注記に従って保険金受取人の記載を省略した
ものと推認するのが経験則上合理的であり、したがって、Aは本件契約に基づく死亡保険金の受取人を「相
続人」と指定したものというべきである。そうすると、前に説示したところによれば、上告人は、本件契約に基
づく死亡保険金につき、その法定相続分である四分の三の割合による権利を有することとなる。
 原審は、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記載がないことから、本件契約においては
保険金受取人の指定がなかったものとし、仮に右の指定があったと推認されるとしても、保険金の帰属割合
についてまでの指定はなかったとし、本件においては、本件契約に適用される保険約款の定めによってAの
法定相続人が死亡保険金の受取人となり、その割合は民法四二七条により平等の割合になるものと判断し
たが、右認定判断には、経験則違背ないし保険契約者の意思解釈を誤った違法があるというべきであって、
右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れな
い。そして、本件については、被上告人の抗弁の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原
審に差し戻すのが相当である。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平7・1・24最判 相続させる旨の遺言の場合には、遺言執行者は登記手続義務を負わない。
第3小法廷判決(平3・3・28東京高等裁判所)
損害賠償請求上告事件(上告棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
上告代理人行木武利の上告理由について
 本件遺言により上告人に本件各不動産の遺贈があったとは解されないとした原審の判断は、原判決挙示の
証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原審の適法に確定したところによれば、本件遺言は、本
件各不動産を相続人である上告人に相続させる旨の遺言であり、本件遺言により、上告人は甲野松夫の死亡
の時に相続により本件各不動産の所有権を取得したものというべきである(最高裁平成元年(オ)第一七四号
同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。そして、特定の不動産を特定の相続
人甲に相続させる旨の遺言により、甲が被相続人の死亡とともに相続により当該不動産の所有権を取得した
場合には、甲が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行として右
の登記手続をする義務を負うものではない。これと同旨の見解を前提として上告人の請求を排斥した原審の判
断は正当として是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、独自の見解に立って
原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平7・1・30最判 搭乗者傷害保険の死亡保険からの損害額控除
最高裁判所第二小法廷(高松高等裁判所)
損害賠償
主    文
     一 原判決を次のとおり変更する。
     1 被上告人らは各自、上告人Aに対し二四四六万三三五三円、上告人Bに対し二三二八万三九五
三円及び右各金員に対する昭和六三年八月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
     2 上告人らのその余の請求を棄却する。
     二 訴訟の総費用はこれを五分し、その一を上告人らの、その余を被上告人らの負担とする。
         
理    由
 一 上告代理人宮竹良文の上告理由一の1ないし3について
  所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することがで
き、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難する
ものにすぎず、採用することができない。
 二 同一の4について
 1 原審の適法に確定した事実によれば、上告人らの子であるCは昭和六三年八月一一日被上告人D運
転の自動車に同乗中、被上告人E運転の自動車との衝突事故により傷害を受けて同日死亡し、Cの相続人
である上告人らは、被上告人Dが締結した自家用自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)に適用さ
れる保険約款中の搭乗者傷害条項(以下「本件条項」という。)に基づき、本件保険契約の相手方である保
険会社から死亡保険金一〇〇〇万円を受領した。
   本件訴訟は、上告人らがCの相続人として、自動車損害賠償保障法三条の規定に基づき被上告人らに
対しCの死亡により被った損害の賠償を請求するものであるところ、原審は、上告人らがCの死亡により被っ
た損害額は上告人Aが二四四六万三三五三円、同Bが二三二八万三九五三円であるとした上、本件条項に
基づき上告人らが受領した前記死亡保険金一〇〇〇万円は右損害をてん補するものであるとし、被上告人
らは連帯して上告人らに対し、右損害額から五〇〇万円ずつを控除した額である上告人Aにつき一九四六
万三三五三円、同Bにつき一八二八万三九五三円及び右各金員に対する不法行為の日である昭和六三年
八月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があると判断した。
 2 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
   原審の適法に確定した事実によれば、(1) 本件保険契約は、被上告人D運転の前記自動車を被保険
自動車とし、保険契約者(同被上告人)が被保険自動車の使用等に起因して法律上の損害賠償責任を負担
することによって被る損害をてん補するとともに、保険会社が本件条項に基づく死亡保険金として一〇〇〇
万円を給付することを内容とするものであるが、(2) 本件保険契約の細目を定めた保険約款によれば、本
件条項は、被保険自動車に搭乗中の者を被保険者とし、被保険者が被保険自動車の運行に起因する急激
かつ偶然の外来の事故によって傷害を受け、その直接の結果として事故発生の日から一八〇日以内に死亡
したときは、保険会社は被保険者の相続人に対して前記死亡保険金の全額を支払う旨を定め、また、保険
会社は、右保険金を支払った場合でも、被保険者の相続人が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位
取得しない旨の定めがある、というのである。
   このような本件条項に基づく死亡保険金は、被保険者が被った損害をてん補する性質を有するもので
はないというべきである。けだし、本件条項は、保険契約者及びその家族、知人等が被保険自動車に搭乗
する機会が多いことにかんがみ、右の搭乗者又はその相続人に定額の保険金を給付することによって、こ
れらの者を保護しようとするものと解するのが相当だからである。そうすると、本件条項に基づく死亡保険金
を右被保険者の相続人である上告人らの損害額から控除することはできないというべきである。
   以上によれば、上告人らの被った損害額から前記死亡保険金を控除すべきものとした原審の判断には
法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この趣旨
をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定したところによれば、上告人らの損
害は上告人Aにつき二四四六万三三五三円、同Bにつき二三二八万三九五三円であるというのであるから、
被上告人らは、自動車損害賠償保障法三条にいう運行供用者として、Cの相続人である上告人らに対し、連
帯して右各金員及びこれに対する不法行為の日である昭和六三年八月一一日から支払済みまで民法所定
の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。
 よって、原判決を主文第一項のとおり変更することとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、
八九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平7・3・7最判 特定の財産がいわゆる特別受益財産であることの確認を求める訴えの適否
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
相続財産の範囲確認
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人小川休衛、同入倉卓志の上告理由について
 上告人の本件訴えは、第一審判決添付の物件目録記載の各不動産が被相続人AからB(被上告人C、同
D、同E及び同Fの被相続人)、被上告人G及び同Hに対し生計の資本として贈与された財産であることの確
認を求めるものである。
 民法九〇三条一項は、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは
生計の資本としての贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に
右遺贈又は贈与に係る財産(以下「特別受益財産」という。)の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定
相続分又は指定相続分の中から特別受益財産の価額を控除し、その残額をもって右共同相続人の相続分
とする旨を規定している。すなわち、右規定は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に特別
受益財産の価額を加えたものを具体的な相続分を算定する上で相続財産とみなすこととしたものであって、
これにより、特別受益財産の遺贈又は贈与を受けた共同相続人に特別受益財産を相続財産に持ち戻すべ
き義務が生ずるものでもなく、また、特別受益財産が相続財産に含まれることになるものでもない。そうする
と、ある財産が特別受益財産に当たることの確認を求める訴えは、現在の権利又は法律関係の確認を求め
るものということはできない。
 過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のため
に最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして
許容される(最高裁昭和四四年(オ)第七一九号同四七年一一月九日第一小法廷判決・民集二六巻九号一
五一三頁参照)が、ある財産が特別受益財産に当たるかどうかの確定は、具体的な相続分又は遺留分を算
定する過程において必要とされる事項にすぎず、しかも、ある財産が特別受益財産に当たることが確定して
も、その価額、被相続人が相続開始の時において有した財産の全範囲及びその価額等が定まらなければ、
具体的な相続分又は遺留分が定まることはないから、右の点を確認することが、相続分又は遺留分をめぐる
紛争を直接かつ抜本的に解決することにはならない。また、ある財産が特別受益財産に当たるかどうかは、
遺産分割申立事件、遺留分減殺請求に関する訴訟など具体的な相続分又は遺留分の確定を必要とする審
判事件又は訴訟事件における前提問題として審理判断されるのであり、右のような事件を離れて、その点の
みを別個独立に判決によって確認する必要もない。
 以上によれば、特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとし
て不適法である。本件訴えを却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。右
判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、原判決の結論に影響しない部分の違法をいう
ものに帰し、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平7・3・17大阪高判 遺言者の生存中であっても、例外的に遺言の無効確認を求めることができるか(上告)
大阪高等裁判所第5民事部判決→最判平11・6・11
遺言無効確認請求控訴事件(原判決取消・差戻)
主    文
 一 原判決を取り消す。
 二 本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
事    実
第一 控訴の趣旨
 一 原判決を取り消す。
 二 被控訴人甲野サクラが、平成元年一二月一八日、奈良地方法務局所属公証人丙川ジロウ作成同年
八四九号公正証書によってした遺言は、無効であることを確認する。
第二 当事者の主張
 一 当事者の主張は、原判決一枚目裏九行目から同二枚目裏七行目まで(第二 事案の概要)のとおりで
あるから、これを引用する。ただし、原判決二枚目表五行目の「土地建物を「土地建物の持分一〇〇分の五五」
と改める。
第三 証拠
 本件記録中の原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理    由
 一 確認の訴えは、即時確定の利益がある場合、換言すれば、現に、原告の有する権利又は法律的地位に
危険又は不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許
される。
 ところで、本件は、被控訴人サクラの推定相続人である控訴人が、被控訴人サクラのなした被控訴人乙山
ハルオを受遺者とする本件遺言が方式違反及びサクラの意思能力欠如により無効であると主張して、サクラ
の生存中に、被控訴人らとの間でその無効確認を求めるものである。本件において、控訴人が保護を求めて
いる利益ないし法律的地位は、遺言者が死亡したときに、本件遺言による遺贈に基づく法律関係がないという
控訴人の利益ないし地位である。
 ところで、遺贈は死因行為であり、遺言者の死亡によりはじめてその効果が発生するものであることは、被
控訴人主張のとおりである。そして、遺言者は生存中は何時でも既にした遺言を任意に取り消すことができる
から、一旦遺贈がなされたとしても、そのままの効力が生じるかは、遺言者の自由意思にかかっている点で、
不確定なところがある。したがって、遺言者の生存中は、遺言の無効確認を求める訴えは、原則として不適法
であると解される(最高裁判所昭和三一年一〇月四日第一小法廷判決、民集一〇巻一〇号一二二九頁)。
 二 しかしながら、前記争いのない事実に、甲一ないし六号証、一一号証を総合すると、サクラ(明治四四年
二月一五日生)は、既に昭和六三年ころから痴呆症状があらわれ、様子観察を受けていたが、夫甲野アキオ
(明治四四年八月五日生、平成二年一一月二八日死亡)の入院により、自分も平成元年四月一三日から同年
五月一四日まで奈良市春日病院に入院し、その後夫の再入院により、平成二年二月二八日アルツハイマー型
老人性痴呆、白内障の診断を受けて、天理市奈良東病院に入院し、一時退院後、同年七月一七日に再入院し、
現在に至るまで同病院の治療を受けていること、控訴人(昭和一四年二月一一日生、サクラの養子、昭和一七
年一〇月三一日養子縁組)は、平成三年三月二六日に、サクラを禁治産者とし、控訴人を後見人とする旨の家
事審判を申し立てた(奈良家庭裁判所平成三年(家)第三二六号、第三二七号)のに対し、被控訴人乙山ハル
オ(サクラの甥)も、同年四月八日に、サクラを禁治産者とし、被控訴人乙山ハルオを後見人とする旨の家事審
判を申し立てた(奈良家庭裁判所平成三年(家)第三九一号、第三九二号)こと、そこで奈良家庭裁判所は、
サクラの主治医である奈良東病院の丁川トシオ医師に対しサクラの精神鑑定(判断力、責任能力、自己管理
能力の有無)につき鑑定を命じたこと、同医師は、平成四年四月八日にサクラに対し簡易知能評価テストを実
施した結果、二五点満点中僅か五点に過ぎなかったことを踏まえ、アルツハイマー型老年痴呆であると診断し
、判断力、責任能力及び自己管理能力はないとの鑑定意見を提出し、サクラが高年令であること、過去の入
院歴、二年間にわたる経過観察が芳しいものでないこと等を総合して、回復は望めないと診察したこと、同家
庭裁判所は右鑑定の結果に基づいて、日常生活での異常な行動はないものの、財産の管理等について合理
的な判断をする能力は全くなく、その高齢からして病状が改善される見込みはないので心神喪失の常況にあ
ると認定、判断し、平成五年三月一五日に、「サクラを禁治産者とする。被控訴人乙山ハルオをその後見人に
選任する。」との審判をし、同審判は確定したことが認められる。
 右認定事実によれば、サクラは既に相当の高齢である上、長期間にわたりアルツハイマー型老人性痴呆で
入院治療を受けているが、現在の精神能力は合理的な判断能力を欠如しており、平成五年には心神喪失の
常況にあるとして禁治産宣告を受け、病状は回復の見込みがない状況にあるのであって、これらの事情にかん
がみると、サクラが生存中に本件遺言を取消し、変更する可能性はないことは明白である。
 このように遺言者が遺言を取消し、変更する可能性がないことが明白な場合には、将来必ず生じる遺言者の
死亡を待つまでもなく、その生存中であっても、例外的に遺言の無効確認を求めることができるとするのが、紛
争の予防のために必要かつ適切と解すべきであり、本件遺言無効確認の訴えは適法というべきである(前記
最高裁判例はこのような事案に関するものではない。)。
 三 以上によれば、控訴人の本件訴えは適法と認められるので、民事訴訟法三八八条に従い、これを不適法
として却下した原判決を取り消したうえ、本件を第一審裁判所である大阪地方裁判所に差し戻すこととして、主
文のとおり判決する。


平7・7・5最判 非嫡出子の相続分規定は合憲か
最高裁判所大法廷(平5.6.23東京高等裁判所)
遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告
主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         
理    由
 抗告代理人榊原富士子、同吉岡睦子、同井田恵子、同石井小夜子、同石田武臣、同金住典子、同紙子達
子、同酒向徹、同福島瑞穂、同小山久子、同小島妙子の抗告理由について
 所論は、要するに、嫡出でない子(以下「非嫡出子」という。)の相続分を嫡出である子(以下「嫡出子」とい
う。)の相続分の二分の一と定めた民法九〇〇条四号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)は憲
法一四条一項に違反するというのである。
 一 憲法一四条一項は法の下の平等を定めているが、右規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨
のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱
いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではない(最高裁昭
和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日大法廷判決・民集一八巻四号六七六頁、最高裁昭和三
七年(あ)第九二七号同三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五七九頁等参照)。
 そこで、まず、右の点を検討する前提として、我が国の相続制度を概観する。
 1 婚姻、相続等を規律する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない
旨を定めた憲法二四条二項の規定に基づき、昭和二二年の民法の一部を改正する法律(同年法律第二二
二号)により、家督相続の制度が廃止され、いわゆる共同相続の制度が導入された。
 現行民法は、相続人の範囲に関しては、被相続人の配偶者は常に相続人となり(八九〇条)、また、被相
続人の子は相続人となるものと定め(八八七条)、配偶者と子が相続人となることを原則的なものとした上、
相続人となるべき子及びその代襲者がない場合には、被相続人の直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ第一順
位、第二順位の相続人となる旨を定める(八八九条)。そして、同順位の相続人が数人あるときの相続分を
定めるが(九〇〇条。以下、右相続分を「法定相続分」という。)、被相続人は、右規定にかかわらず、遺言で
共同相続人の相続分を定めることができるものとし(九〇二条)、また、共同相続人中に、被相続人から遺贈
等を受けた者(特別受益者)があるときは、これらの相続分から右受益に係る価額を控除した残額をもって相
続分とするものとしている(九〇三条)。
 右のとおり、被相続人は、遺言で共同相続人の相続分を定めることができるが、また、遺言により、特定の
相続人又は第三者に対し、その財産の全部又は一部を処分することができる(九六四条)。ただし、遺留分に
関する規定(一〇二八条、一〇四四条)に違反することができず(九六四条ただし書)、遺留分権利者は、右
規定に違反する遺贈等の減殺を請求することができる(一〇三一条)。
 相続人には、相続の効果を受けるかどうかにつき選択の自由が認められる。すなわち、相続人は、相続の
開始があったことを知った時から三箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない
(九一五条)。
 九〇六条は、共同相続における遺産分割の基準を定め、遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類
及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする旨
規定する。共同相続人は、その協議で、遺産の分割をすることができるが(九〇七条一項)、協議が調わない
ときは、その分割を家庭裁判所に請求することができる(同条二項)。なお、被相続人は、遺言で、分割の方
法を定め、又は相続開始の時から五年を超えない期間内分割を禁止することができる(九〇八条)。
 2 昭和五五年の民法及び家事審判法の一部を改正する法律(同年法律第五一号)により、配偶者の相続
分が現行民法九〇〇条一号ないし三号のとおりに改められた。すなわち、配偶者の相続分は、配偶者と子
が共同して相続する場合は二分の一に(改正前は三分の一)、配偶者と直系尊属が共同して相続する場合
は三分の二に(改正前は二分の一)、配偶者と兄弟姉妹が共同して相続する場合は四分の三に(改正前は
三分の二)改められた。
 また、右改正法により、寄与分の制度が新設された。すなわち、新設された九〇四条の二第一項は、共同
相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法
により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時
において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみ
なし、法定相続分ないし指定相続分によって算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分と
する旨規定し、同条二項は、前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判
所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切
の事情を考慮して、寄与分を定める旨規定する。この制度により、被相続人の財産の維持又は増加につき
特別の寄与をした者には、法定相続分又は指定相続分以上の財産を取得させることが可能となり、いわば
相続の実質的な公平が図られることとなった。
 3 右のように、民法は、社会情勢の変化等に応じて改正され、また、被相続人の財産の承継につき多角
的に定めを置いているのであって、本件規定を含む民法九〇〇条の法定相続分の定めはその一つにすぎ
ず、法定相続分のとおりに相続が行われなければならない旨を定めたものではない。すなわち、被相続人
は、法定相続分の定めにかかわらず、遺言で共同相続人の相続分を定めることができる。また、相続を希望
しない相続人は、その放棄をすることができる。さらに、共同相続人の間で遺産分割の協議がされる場合、
相続は、必ずしも法定相続分のとおりに行われる必要はない。共同相続人は、それぞれの相続人の事情を
考慮した上、その協議により、特定の相続人に対して法定相続分以上の相続財産を取得させることも可能で
ある。もっとも、遺産分割の協議が調わず、家庭裁判所がその審判をする場合には、法定相続分に従って遺
産の分割をしなければならない。
 このように、法定相続分の定めは、遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて、補充的に機能す
る規定である。
 二 相続制度は、被相続人の財産を誰に、どのように承継させるかを定めるものであるが、その形態には
歴史的、社会的にみて種々のものがあり、また、相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社
会事情、国民感情なども考慮されなければならず、各国の相続制度は、多かれ少なかれ、これらの事情、要
素を反映している。さらに、現在の相続制度は、家族というものをどのように考えるかということと密接に関係
しているのであって、その国における婚姻ないし親子関係に対する規律等を離れてこれを定めることはでき
ない。これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断にゆ
だねられているものというほかない。
 そして、前記のとおり、本件規定を含む法定相続分の定めは、右相続分に従って相続が行われるべきこと
を定めたものではなく、遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であるこ
とをも考慮すれば、本件規定における嫡出子と非嫡出子の法定相続分の区別は、その立法理由に合理的な
根拠があり、かつ、その区別が右立法理由との関連で著しく不合理なものでなく、いまだ立法府に与えられた
合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる限り、合理的理由のない差別とはいえず、これを憲法
一四条一項に反するものということはできないというべきである。
 三 憲法二四条一項は、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する旨を定めるところ、民法七三九条一
項は、「婚姻は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによつて、その効力を生ずる。」と規定し、い
わゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用し、また、同法七三二条は、重婚を禁止し、いわゆる一夫一婦
制を採用することを明らかにしているが、民法が採用するこれらの制度は憲法の右規定に反するものでない
ことはいうまでもない。
 そして、このように民法が法律婚主義を採用した結果として、婚姻関係から出生した嫡出子と婚姻外の関
係から出生した非嫡出子との区別が生じ、親子関係の成立などにつき異なった規律がされ、また、内縁の配
偶者には他方の配偶者の相続が認められないなどの差異が生じても、それはやむを得ないところといわな
ければならない。
 本件規定の立法理由は、法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに、他方、被
相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡出子に嫡出子の二分の一の法定相続分を認めるこ
とにより、非嫡出子を保護しようとしたものであり、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解
される。これを言い換えれば、民法が法律婚主義を採用している以上、法定相続分は婚姻関係にある配偶
者とその子を優遇してこれを定めるが、他方、非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図った
ものであると解される。
 現行民法は法律婚主義を採用しているのであるから、右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠
があるというべきであり、本件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の二分の一としたことが、右立法理
由との関連において著しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものという
ことはできないのであって、本件規定は、合理的理由のない差別とはいえず、憲法一四条一項に反するもの
とはいえない。論旨は採用することができない。
 よって、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、裁判官園部逸夫、同可部恒雄、同大
西勝也の各補足意見、裁判官千種秀夫、同河合伸一の補足意見、裁判官中島敏次郎、同大野正男、同高
橋久子、同尾崎行信、同遠藤光男の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定す
る。
 裁判官可部恒雄の補足意見は、次のとおりである。
 私は、非嫡出子の相続分についての本件規定が憲法一四条一項に違反する旨の所論は理由がないとす
る多数意見に与する者であるが、右規定をもって違憲とする個別意見に鑑み、多数意見に付加して、以下に
若干の所見を述べておくこととしたい。
 一 民法は法律婚主義を採り、しかも一夫多妻ないし一妻多夫を禁ずる一夫一婦制を採用している。現実
の社会における男女の結付きの態様は様々で、国により時代により多くの変遷のあることが伝えられるが、
なお、法が一夫一婦制による法律婚主義を採用していること自体については、我が国においても、今日、格
別の異論を見ないところといってよいであろう。いま問題とされているのは、法律婚主義の是非ではなく、婚
姻制度が法律婚主義による場合、必然的に生ずべき婚外子と婚内子との相続分割合の当否にほかならな
い。
 およそ資産を有する者は、何びとであれ、これを生前に贈与し、遺贈し、又は相続分の指定をすることがで
きるが、かかる措置が採られない場合の補充的規定として本件規定を含む相続分に関する定めが置かれ、
法定相続人の第一は被相続人の配偶者とされている。配偶者が子と共同で相続する場合につき、その法定
相続分は、かつての三分の一から昭和五五年法律第五一号による改正により二分の一に増大された。それ
では残余の二分の一を相続する者は誰か。それは相続人の筆頭者として、また多くの場合、老後の生計を
被相続人の遺産によることを余儀なくされる配偶者として、最大の関心事とならざるを得ない事項であろう。
欧米諸国に比し、不動産価格が異常に高額に上る我が国の現状において、遺産の主たるものが居住用不
動産である場合を想起すれば、まことに無理からぬことといえる。
 配偶者が二分の一とされる法定相続分の、残余の二分の一の相続人として予定される者は、もとより被相
続人の子であるが、この場合、一夫一婦制による法律婚主義を採る以上、配偶者に次ぐ相続人となるべき者
が婚内子であることは、法の当然に予定するところというべきであろう。もとより社会の実情として、被相続人
の子が婚外子として出生する現実の可能性を否定することはできず、法律婚の外で出生した者も被相続人
の子としてその相続人たることは否定されるべきではない(我が国においては、欧米におけると異なり、婚外
子による相続を否定する考えに乏しいといってよい)。しかし、相続分の割合に至るまで婚内子(嫡出子)と一
律平等でなければならないとすることは、被相続人との間に法律婚による家庭を築いた配偶者の立場からし
ても、たやすく容認し難いところであろう。
 以上の所見に対しては、嫡出子と非嫡出子との相続分に差等を設けても婚外子(非婚出子)の出生を妨げ
ることはできないとする議論がある。しかし、今ここで論ぜられているのは、この両者の扱いを必ずしも同等
にしない(相続分に差等を設ける)ことが、果たして法律婚を促進することになるかという、いうなれば安易な
目的・効果論の検証ではなく、およそ法律婚主義を採る以上、婚内子と婚外子との間に少なくとも相続分に
ついて差等を生ずることがあるのは、いわば法律婚主義の論理的帰結ともいうべき側面をもつということな
のである。
 二 次に、特段の言及を要するのは「家」の制度との関係である。
 戦後、日本国憲法の制定施行に伴い、旧民法の「家」の制度は廃止され、家族は「戸主」の下における生活
共同体ではなく、両性の合意のみに基づいて成立した婚姻による夫婦を中心とするものに変容した。
 もっとも、正当な法律婚による夫婦も必ずしも子に恵まれるとは限らず、この場合、法の予定するところは
「養子」の制度であるが、血統の継続を尊重する立場からは、婚内子であると否とを問わぬ血統の承継者が
要求されることになる。その背景をなすのが「家」の制度であって、血統の承継の要求は男系たると女系たる
とを問わない。本件がそのよい例である。
 この事案において、亡aは一人娘(長男死亡のための一人子)であって、a家の後継者としての婿養子選び
のための試婚が繰り返された挙句、婚姻に至らなかった相手方甲との間に出生した子乙の相続人の一人が
被相続人aの遺産につき遺産分割の申立てをしたものであるが、aが後に迎えた婿養子との間に子がなけれ
ば、形式上婚外子となった乙がaの家系を継ぐことになったであろう。これが「家」の制度であって、「家」の制
度は、むしろ血統の維持・承継のため婚外子を尊重するものであり、嫡出子と非嫡出子との間の相続分につ
いての差等の問題が、「家」の制度と無関係であることは、大陸法系諸国のそれと対比するまでもなく明らか
なところである。
 三 本件規定の合違憲性を論ずるに当たっては、内外の法制を比較検討するにとどまらず、我が国の社会
事情の下における紛争の実態として、本件規定が憲法一四条一項所定の平等条項違反を現実に招来せし
めているか、を事案に即して観察する必要がある。ここで特に指摘すべきものは、本件と同時に審理される
別件(平成五年(ク)第三〇二号)にみる如き事案である。以下にその概略を記すこととする。
 この事案において、被相続人甲には、非嫡出子としてA女、B男、C男の三名、嫡出子として前妻乙の連れ
子を養子としたD男、E男及び乙との間に出生したF女の六名があったところ、B男が乙の妹と婚姻して家業
を継ぎ、一家の中心的存在となっている。甲の死亡により遺産相続の問題を生じたが、A、C、D、Eの四名は
それぞれの法定相続分をB男に譲渡して同人の側に与したため、F女は一人孤立した形で、相続分もB男が
九分の七、F女が九分の二となったところ、原審は、F女の申立てにかかる遺産分割事件において、B男の居
住する土地建物を分割することなく、B男よりF女に相応の調整金を支払うべきものとした。
 これに対し、B男から、甲の子六名は嫡出子たると非嫡出子たるとを問わず、その法定相続分はそれぞれ
一律に六分の一(すなわち一八分の三)であるべきにかかわらず、F女の相続分を、これを超える九分の二
(すなわち一八分の四)として算出された右調整金の支給は、憲法一四条一項に違反するとして特別抗告に
及んだ、というのが別件であって、平等条項違反の論旨は、右にみるような具体的紛争にそぐわないものと
するほかはない。
 四 本件ないし別件にみるような紛争の実態については前述のとおりであるが、一般に、男女の結合、婚
姻の実情については千差万別というべきものがあろう。しかし、立法の実際においては、婚外子に相続権を
認めるべきか否か、これを認めるとして婚内子(嫡出子)と一律平等の扱いを是とすべきか、もし相続分にお
いて差等を設けるとすれば幾許を可とすべきか、千差万別の実情の中においても、立法として一律画一的な
線を引くことを余儀なくされる。
 いま本件において論ぜられているのは、しばしば引用されるアメリカの判例に見られるような、非嫡出子(婚
外子)に被相続人の子としての権利それ自体を否定した立法の当否ではなく、婚外子をも被相続人の相続
人の一に加えることを当然の前提とした上での、相続分割合の当否をいうものにほかならない。
 これを要するに、一夫一婦制による法律婚主義を採用し、これを維持すべきものとする前提に立つ以上、
生前贈与、遺贈又は相続分の指定のない場合の補充的規定としての相続分に関する民法の定めにおい
て、嫡出子の一に対し非嫡出子をその半ばとした本件規定の当否は、もとより立法裁量の範囲内に属し、違
憲の問題を生ずべき実質を有しないものといわなければならない。
 裁判官大西勝也の補足意見は、次のとおりである。
 私は、本件規定による非嫡出子の相続分の定めが、合理的理由のない差別として憲法一四条一項に違反
するものとはいえない、とした多数意見に同調するものであるが、その理由として考えているところを若干補
足することとしたい。
 一 現行民法が法律婚主義を採用している以上、婚姻関係から出生した嫡出子と婚姻外の関係から出生
した非嫡出子との間に、親子関係の成立や相続に関する規律において、何らかの差異が生じたとしてもやむ
を得ないし、また、正当な婚姻関係とこれによって形成された家族を保護するとともに、非嫡出子の保護をも
図ったとされる本件規定の立法理由に合理的根拠があると考えられることは、いずれも多数意見のいうとお
りである。
 本件規定は、旧法制定当時の同様の規定が昭和二二年の改正の際にもそのまま維持されたものであっ
て、いずれもそれぞれの時点における我が国の社会的諸条件の下においては、それなりの合理性を有して
いたものといえるであろう。
 二 しかし、その後の我が国の社会事情、国民感情等の変化には著しいものがある。
 まず、相続財産は、かつては多くの場合、子孫の生活手段としての家産であったが、職業の世襲が例外的
になった現在では、そのような意味はほとんど失われようとしており、家族資産の意義の変化に伴い、相続
の根拠に関する社会の意識にも変化が見られることは明らかであって、昭和五五年に行われた配偶者相続
権の拡大等もこの変化に沿ったものということができる。
 家族についてみても、かつては数世代が共同して生活を営むことにより構成するのが通常であったが、現
在では少子、高齢化が進むとともに、一世代か二世代の小人数の家族が多数を占め、さらには、いわゆるシ
ングルライフも次第に増加しつつあるし、婚姻についても、事実婚ないし非婚の増加の傾向を指摘する向き
もある。
 このように、相続及び相続と密接な関連を有する婚姻、親子ないしは家族の形態とこれらの点についての
国民の意識は、激しく変化してきたし、現在もなお流動を続けている。
 三 我が国を取り巻く国際的な環境の変化もまた見逃すことはできない。
 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号)二四条は、すべての児童は、出生に
よるいかなる差別もなしに、未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって家族、社会及び国に
よる措置についての権利を有する、とし、同二六条は、法律は、出生又は他の地位等のいかなる理由による
差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する、と定め、さらに、児童の権利に関する条
約(平成六年条約第二号)二条は、児童に対し、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこ
の条約に定める権利を尊重し、及び確保する、と規定している。
 また、ヨーロッパ諸国の大部分は、非嫡出子の増加現象が一つの契機となって、おおむね一九六〇年代こ
ろまでに、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分と同等とする法改正を行ったし、最近でも、嫡出家族保護の
伝統が強くて平等化を図る法改正が実現しなかった国もあるが、完全な平等には至らないとしても、配偶者
や嫡出子の権利との調整を図りながら、平等化に向かっている国も存在する。
 四 以上のように、本件規定の対象とする非嫡出子の相続分をめぐる諸事情は国内的にも国際的にも大
幅に変容して、制定当時有した合理性は次第に失われつつあり、現時点においては、立法府に与えられた
合理的な裁量判断の限界を超えているとまではいえないとしても、本件規定のみに着眼して論ずれば、その
立法理由との関連における合理性は、かなりの程度に疑わしい状態に立ち至ったものということができる。
 五 しかし、民法は、私人間の諸利益の調整の上に成り立っているから、一つの利益だけを他の利益と切
り離して考察するのは相当ではない。相続に関する規律は、取引行為におけるような純然たる財産的利益に
関するものとはいえないにしても、身分関係に関する強行規定とは異なり、結局は被相続人の財産を誰にそ
していかに分配するかの定めであり、しかも、本件規定は、被相続人の明示の意思としての遺言等がない場
合に初めて適用される補充的な規定にすぎない。相続の根拠については、種々の考え方があるとしても、推
定される被相続人の意思を全く無視することはできないし、ある者に対し相続によって得る利益をより強く保
障することが、他の者が従来有していた利益にいかなる影響を及ぼすかの観点からする検討も必要である。
本件規定の合理性を検討するに当たっては、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分と平等とした場合、配偶
者その他の関係人の利益を保護するための措置が必要かどうか等を含め、相続、婚姻、親子関係等の関連
規定との整合性をも視野に入れた総合的な判断が必要であるといわなければならない。
 以上の点を考慮すると、立法政策として改正を検討することはともかく、現時点においては、本件規定が、
その立法理由との関連において、著しく不合理であるとまでは断定できないというべきである。
 裁判官園部逸夫は、裁判官大西勝也の補足意見に同調する。
 裁判官千種秀夫、同河合伸一の補足意見は、次のとおりである。
 私たちは、非嫡出子の相続分に関する本件規定が憲法一四条一項に反するものとはいえない、とする多
数意見に同調するものであるが、なお、次の点について付言しておきたい。
 一 一般に、ある法律の規定について、制定当時においては合理的理由があったが、その後の時の経過と
ともに対象とする事柄をめぐる諸事情が変化し、その合理性が疑問とされる事態の生じることは、あり得ると
ころである。このような事態に対処するには、当該法規を改廃し、あるいは新法を制定するなど、国会の立法
作用によるのが本来の姿であり、また、それが望ましくもあることは多言を要しない。
 二 本件においてもその理は異ならないのであって、本件規定も制定以来半世紀を経る間、非嫡出子をめ
ぐる諸事情に変容が生じ、子の権利をより重視する観点からその合理性を疑問とする立場の生じていること
は、理解し得るところである。しかしながら、これに対処するには、立法によって本件規定を改正する方法に
よることが至当である。
 ことに、本件規定は親族・相続制度の一部分を構成するものであるから、これを変更するに当たっては、右
制度の全般に目配りして、関連する諸規定への波及と整合性を検討し、もし必要があれば、併せて他の規定
を改正ないし新設すべきものである。また、本件規定に基づく相続関係の処理は、過去長年にわたって行わ
れてきたし、現在も行われつつある上、近い将来を見越しての準備もされていると思われる。したがって、本
件規定を変更する場合、その効力発生時期ないし適用範囲の設定も、それらへの影響を考慮して、慎重に
検討すべき問題である。これらのことは、すべて、国会における立法作業によって、より適切になし得る事柄
であり、その立法の過程を通じて世論の動向を汲み取るとともに、国民に対し、改正の趣旨と必要性を納得
させ、周知させることもできるのである。
 三 もっとも、ある法規の合理性が著しく失われて、憲法一四条一項に照らし、到底容認できない段階に達
しているときは、もはや立法を待つことはできず、裁判所が違憲を宣言することによって直ちにその適用を排
除しなければならない。しかし、本件規定については、現在まだその段階に達しているとは考えられない。
 裁判官中島敏次郎、同大野正男、同高橋久子、同尾崎行信、同遠藤光男の反対意見(裁判官尾崎行信に
ついては、本反対意見のほか、後記のような追加反対意見がある。)は、次のとおりである。
 一 私たちは、民法九〇〇条四号ただし書前段(以下「本件規定」という。)が非嫡出子の法定相続分を嫡
出子の法定相続分の二分の一と定めていることは、憲法一四条一項に違反して無効であり、原決定を破棄
すべきものであると考える。
 二 (相続制度と憲法判断の基準)
 相続制度は社会の諸条件や親族各人の利益の調整等を考慮した総合的な立法政策の所産であるが、立
法裁量にも憲法上の限界が存在するのであり、憲法と適合するか否かの観点から検討されるべき対象であ
ることも当然である。
 憲法一三条は、その冒頭に「すべて国民は、個人として尊重される。」と規定し、さらにこれをうけて憲法二
四条二項は「相続…及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等
に立脚して、制定されなければならない。」と規定しているが、その趣旨は相続等家族に関する立法の合憲
性を判断する上で十分尊重されるべきものである。
 そして、憲法一四条一項が、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は
門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」としているのは、個人の尊厳という
民主主義の基本的理念に照らして、これに反するような差別的取扱を排除する趣旨と解される。同項は、一
切の差別的取扱を禁止しているものではなく、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別は許容され
るものであるが、何をもって合理的とするかは、事柄の性質に応じて考えられなければならない。そして本件
は同じ被相続人の子供でありながら、非嫡出子の法定相続分を嫡出子のそれの二分の一とすることの合憲
性が問われている事案であって、精神的自由に直接かかわる事項ではないが、本件規定で問題となる差別
の合理性の判断は、基本的には、非嫡出子が婚姻家族に属するか否かという属性を重視すべきか、あるい
は被相続人の子供としては平等であるという個人としての立場を重視すべきかにかかっているといえる。した
がって、その判断は、財産的利益に関する事案におけるような単なる合理性の存否によってなされるべきで
はなく、立法目的自体の合理性及びその手段との実質的関連性についてより強い合理性の存否が検討され
るべきである。しかしながら、本件においては以下に述べるとおり、単なる合理性についてすら、その存在を
肯認することはできない。
 三 (本件規定の不合理性)
 本件規定の合理性について多数意見の述べるところは、民法が法律婚主義を採用している以上、婚姻関
係から出生した嫡出子と婚姻外の関係から出生した非嫡出子との区別が生じ、法定相続分につき前者の立
場を後者より優遇することに合理的根拠があるとの前提に立つものと解される。
 婚姻を尊重するという立法目的については何ら異議はないが、その立法目的からみて嫡出子と非嫡出子と
が法定相続分において区別されるのを合理的であるとすることは、非嫡出子が婚姻家族に属していないとい
う属性を重視し、そこに区別の根拠を求めるものであって、前記のように憲法二四条二項が相続において個
人の尊厳を立法上の原則とすることを規定する趣旨に相容れない。すなわち、出生について責任を有するの
は被相続人であって、非嫡出子には何の責任もなく、その身分は自らの意思や努力によって変えることはで
きない。出生について何の責任も負わない非嫡出子をそのことを理由に法律上差別することは、婚姻の尊
重・保護という立法目的の枠を超えるものであり、立法目的と手段との実質的関連性は認められず合理的で
あるということはできないのである。
 また、本件規定の立法理由は非嫡出子の保護をも図ったものであって合理的根拠があるとする多数意見
は、本件規定が社会に及ぼしている現実の影響に合致しない。すなわち、本件規定は、国民生活や身分関
係の基本法である民法典中の一条項であり、強行法規でないとはいえ、国家の法として規範性をもち、非嫡
出子についての法の基本的観念を表示しているものと理解されるのである。そして本件規定が相続の分野
ではあっても、同じ被相続人の子供でありながら、非嫡出子の法定相続分を嫡出子のそれの二分の一と定
めていることは、非嫡出子を嫡出子に比べて劣るものとする観念が社会的に受容される余地をつくる重要な
一原因となっていると認められるのである。本件規定の立法目的が非嫡出子を保護するものであるというの
は、立法当時の社会の状況ならばあるいは格別、少なくとも今日の社会の状況には適合せず、その合理性
を欠くといわざるを得ない。
 四 (非嫡出子に関する立法状況の変化、条約の成立と今日における不合理性)
 法律が制定された当時には立法目的が合理的でありその目的と手段が整合的であると評価されたもので
あっても、その後の社会の意識の変化、諸外国の立法の趨勢、国内における立法改正の動向、批准された
条約等により、現在においては、立法目的の合理性、その手段との整合性を欠くに至ったと評価されること
はもとよりあり得るのであって、その合憲性を判断するに当たっては、制定当時の立法目的と共に、その後に
生じている立法の基礎をなす事実の変化や条約の趣旨等をも加えて検討されなければならない。
 本件規定は、その立法当初において反対の意見もあったが、その立法目的は多数意見のいうとおり婚姻
の保護にあるとして制定されたものであり、またその当時においては、諸外国においても、相続上非嫡出子
を嫡出子と差別して取り扱う法制をとっている国が一般的であった。しかしながら、その後相続を含む法制度
上、非嫡出子を嫡出子と区別することは不合理であるとして、主として一九六〇年代以降両者を同一に取り
扱うように法を改正することが諸外国の立法の大勢となっている。
 そして、我が国においても、本件規定は法の下の平等の理念に照らし問題があるとして、昭和五四年に法
務省民事局参事官室は、法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づいて、非嫡出子の相続分は
嫡出子の相続分と同等とする旨の改正条項を含む改正要綱試案を発表したが、法案となるに至らず、さらに
現時点においても同趣旨の改正要綱試案が公表され、立法改正作業が継続されている。
 これを国際条約についてみても、我が国が昭和五四年に批准した、市民的及び政治的権利に関する国際
規約二六条は「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受け
る権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し…出生又は他の地位等のいかなる理由による差
別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と規定し、さらに我が国が平成六年に批
准した、児童の権利に関する条約二条一項は「締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその
父母若しくは法定保護者の…出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権
利を尊重し、及び確保する。」と規定している。
 以上の諸事実及び本件規定が及ぼしているとみられる社会的影響等を勘案するならば、少なくとも今日の
時点において、婚姻の尊重・保護という目的のために、相続において非嫡出子を差別することは、個人の尊
重及び平等の原則に反し、立法目的と手段との間に実質的関連性を失っているというべきであって、本件規
定を合理的とすることには強い疑念を表明せざるを得ない。
 五 (違憲判断の不遡及的効力)
 最後に、本件規定を違憲と判断するとしても、当然にその判断の効力が遡及するものでないことを付言す
る。すなわち最高裁判所は、法令が憲法に違反すると判断する場合であっても、従来その法令を合憲有効な
ものとして裁判が行われ、国民の多くもこれに依拠して法律行為を行って、権利義務関係が確立している実
態があり、これを覆滅することが著しく法的安定性を害すると認められるときは、違憲判断に遡及効を与えな
い旨理由中に明示する等の方法により、その効力を当該裁判のされた時以後に限定することも可能である。
私たちは本件規定は違憲であるが、その効力に遡及効を認めない旨を明示することによって、従来本件規
定の有効性を前提にしてなされた裁判、合意の効力を維持すべきであると考えるものである。
 裁判官尾崎行信の追加反対意見は、次のとおりである。
 本件規定が違憲とされる理由は反対意見に示されているが、私は、次の観点を加えれば、その違憲性はよ
り明らかになると考える。
 一 法の下の平等は、民主主義社会の根幹を成すものであって、最大限尊重されなければならず、合理的
理由のない差別は憲法上禁止されている(憲法一四条一項)。本件規定は、非嫡出子の法定相続分を嫡出
子の法定相続分の二分の一と定め、嫡出子と非嫡出子との間に差別を設けているが、右差別が憲法一四
条一項の許容する合理的なものであるといえるかどうかは、単なる合理性の存否によって判断されるべきで
はなく、立法目的自体の合理性及びその手段との実質的関連性についてより強い合理性の存否が検討され
るべきであることは、反対意見に示されているとおりである。右検討に当たっては、立法目的自体の合理性な
いし必要性の程度、差別により制限される権利ないし法的価値の性質、内容、程度を十分に考慮し、その両
者の間に実質的関連性があるかどうかを判断すべきである。
 二 憲法は婚姻について定めているが、いかなるものを婚姻と認めるかについては何ら定めるところはな
い。あり得る諸形態の中から、民法が法律婚主義を選択したのは合理的と認めるが、法律婚に関連する諸
要素のうちにも立法目的からみて必要不可欠なものとそうでないものとが区別される。必要性の高いものの
ためには、他の憲法上の価値を制限することが許される場合もあり、重婚の禁止はその例である。しかし、必
要性の低いものについては、他の価値が優先するべきで、これを制限することは許されない。
 本件規定は無遺言の場合に相続財産をいかに分配するかを定めるための補充規定である。人が、その人
生の成果である財産を、死後自らの選択に従って配偶者や子供など愛情の対象者に残したいと願うのは、
極めて自然な感情である。民法も、本人の意思を尊重して、相続財産の分配を被相続人の任意にゆだねて
いる(遺留分は別個の立法目的から定められたものであるからしばらくおく。)。この点をみれば、民法は相続
財産の配分について法律婚主義の観点から一定の方向付けをする必要を認めなかったと知ることができ
る。相続財産をだれにどのような割合で分配するかは、法律婚や婚姻家族の保護に関係はあるであろうが、
それらのために必要不可欠なものではない。もし民法が必要と考えれば、当然これに関する強行規定を設け
たであろう。要するに、本件規定が補充規定であること自体、法律婚や婚姻家族の尊重・保護の目的と相続
分の定めとは直接的な関係がないことを物語っている。嫡出子と非嫡出子間の差別は、本件規定の立法目
的からして、必要であるとすることは難しいし、仮にあったとしてもその程度は極めて小さいというべきであ
る。
 三 本件規定の定める差別がいかなる結果を招いているかをも考慮すべきである。双方ともある人の子で
ある事実に差異がないのに、法律は、一方は他方の半分の権利しかないと明言する。その理由は、法律婚
関係にない男女の間に生まれたことだけである。非嫡出子は、古くから劣位者として扱われてきたが、法律
婚が制度として採用されると、非嫡出子は一層日陰者とみなされ白眼視されるに至った。現実に就学、就職
や結婚などで許し難い差別的取扱いを受けている例がしばしば報じられている。本件規定の本来の立法目
的が、かかる不当な結果に向けられたものでないことはもちろんであるけれども、依然我が国においては、非
嫡出子を劣位者であるとみなす感情が強い。本件規定は、この風潮に追随しているとも、またその理由付け
として利用されているともみられるのである。
 こうした差別的風潮が、非嫡出子の人格形成に多大の影響を与えることは明白である。我々の目指す社会
は、人が個人として尊重され、自己決定権に基づき人格の完成に努力し、その持てる才能を最大限に発揮
できる社会である。人格形成の途上にある幼年のころから、半人前の人間である、社会の日陰者であるとし
て取り扱われていれば、果たして円満な人格が形成されるであろうか。少なくとも、そのための大きな阻害要
因となることは疑いを入れない。こうした社会の負の要因を取り除くため常に努力しなければ、よりよい社会
の達成は望むべくもない。憲法が個人の尊重を唱え、法の下の平等を定めながら、非嫡出子の精神的成長
に悪影響を及ぼす差別的処遇を助長し、その正当化の一因となり得る本件規定を存続させることは、余りに
も大きい矛盾である。
 本件規定が法律婚や婚姻家族を守ろうとして設定した差別手段に多少の利点が認められるとしても、その
結果もたらされるものは、人の精神生活の阻害である。このような現代社会の基本的で重要な利益を損なっ
てまで保護に値するものとは認められない。民法自体が公益性の少ない事項で当事者の任意処分に任せて
よいとの立場を明らかにしていることを想起すれば、この結論に達せざるを得ないのである。
 四 婚姻家族の相続財産に対する利害関係は、非嫡出子のそれと比べて大きいといわれる。普通、嫡出
家族の方が長い共同生活を営んでいるから情愛もより深く、遺産形成にもより大きく協力しているから、相続
分もより大きいのは当然とされる。それぞれの家族関係は千差万別で、右のような一般論で割り切り、その
結果他人の基本的な権利を侵害してよいかは、甚だ疑問である。あえていえば、非嫡出関係が生じる場合に
は、一般論の例外的な場合に当たることもあろう。しかし、仮にこの一般論に譲歩して婚姻家族の相続分を
より大きくしようとすれば、他人の基本的な権利に抵触することなく、かつ憲法上の疑義を生じさせるまでもな
く、その目的を達成する手段が存在する。つまり、遺言制度を活用すれば足りるのである。
 もともと遺産の処分は、被相続人の意思にゆだねられているのであって、遺族の期待に反する処理がされ
ても何人も異議を差し挟み得ない。それは生前処分の場合でも遺言による場合でも異ならない。被相続人の
意思が何であるか、親族関係が真にその名に値する愛情によって結ばれていたかが帰結を決定するのであ
る。これが本来の遺産相続の在り方であって、無遺言の場合の法定相続分の定めは全くの便法にすぎな
い。基本的人権に対する配慮が希薄であった立法当時には、本件規定は深く疑問を抱かれることもなく受容
されていた。本件規定が非嫡出子を不当に差別するものであり、その差別により生ずる侵害の深刻さを直視
するならば、そして他方、得ようとする利益は公益上のものでなく、当事者の意思次第で容易に左右できる性
質のものであることに思いを致せば、非嫡出子のハンディキャップを増大させる一因となっている本件規定の
有効性を否定するほかない。
 五 我々が目指す民主主義社会にとって法の下の平等はその根幹を成す重要なものであるが、本件規定
の立法目的には合理性も必要性もほとんどない上、結果する犠牲は重大である。しかも、本件規定がなくと
も具体的事情に適した結果に達する方途は存在する。本件規定の立法目的と非嫡出子の差別との間には
到底実質的関連性を認めることはできない。いわば無用な犠牲を強いる本件規定は、憲法に違反するもの
というべきである。

平8・1・26最判 全部包括遺贈に対する遺留分減殺請求
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
遺留分減殺
主    文
     本件上告を棄却する。
     原判決主文第一項を次のとおり更正する。
     「一 原判決中控訴人の所有権一部移転登記手続請求を棄却した部分を取り消す。
     被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録(一)ないし(三)及び(五)ないし(八)記載の各不動産につい
て、昭和六二年一一月二七日遺留分減殺を原因とし、控訴人の持分を二四分の一とする所有権一部移転
登記手続をせよ。」
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告人の上告理由第一の一、二について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 Aは、原判決添付別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)を所有していた。
 2 Aは、昭和五九年六月四日付け公正証書により、本件不動産を含む財産全部を上告人に包括して遺贈
する旨遺言した。
 3 Aは、昭和六二年七月六日死亡し、相続が開始した。
 4 Aの相続人は、同人の妻であるB及び上告人、被上告人を含む六人の子である。
 5 上告人は、同年一〇月一五日、本件不動産につき前記遺贈を登記原因として所有権移転登記手続を
し、その旨の登記がされた。
 6 被上告人は、Aの相続財産について二四分の一の遺留分を有している。
 7 被上告人は、上告人に対し、同年一一月二七日到達の書面で遺留分減殺請求権を行使する旨の意思
表示をした。
 8 上告人は、同年一一月三〇日、本件不動産のうち原判決添付別紙物件目録(四)記載の土地(以下
「(四)土地」という。)をC外二名に代金二億一九〇〇万〇〇七四円で売却し、同日、その旨の所有権移転登
記がされた。
 二 被上告人の本件請求は、前記遺留分減殺請求により被上告人が本件不動産につき遺留分割合に相
当する二四分の一の共有持分権を有するに至ったとして、(四)土地を除く本件不動産について遺留分減殺を
原因とする所有権一部移転登記手続を求めるとともに、上告人による(四)土地の売買は右共有持分権を侵
害するもので不法行為を構成するなどとして、前記売買代金の二四分の一に当たる九一二万五〇〇三円の
支払等を求めるものである。原審は、前記の事実関係の下において、上告人は前記包括遺贈によりAの死
亡の時点で同人が相続開始当時所有していた本件不動産を含む全遺産を取得したものであるが、遺留分権
利者である被上告人が遺留分減殺請求権を行使したことにより遺言による指定(全部)が修正され、右修正
された相続分の割合により、本件不動産を含む全遺産につき、上告人と被上告人との遺産分割前の遺産共
有の関係が成立したところ、このように遺産分割前の遺産共有の状態にある場合でも、相続人は、遺産を構
成する個々の不動産につき相続人全員の各相続分に従った共同相続登記を受けることができ、相続人の一
人が右遺産共有の状態に反して単独の相続による所有権移転登記を受けているときは、遺産共有権に基づ
きその是正を求めることができるのであるから、本件のようにいったん包括遺贈により遺産全部が受遺者で
ある相続人の一人に移転し、その後遺留分減殺請求権の行使により相続人間の遺産共有の関係になった
ような場合においても、その遺産を構成する個々の不動産につき受遺者である相続人が遺贈による単独の
所有権移転登記を受けているときは、これを各相続人の相続分に応じた共同相続の状態にあることを示す
登記に是正することが許されるべきであるとし、また、上告人は、故意に(四)土地を売却してその登記を経る
ことにより被上告人の同土地に対する持分権を喪失させたのであるから、前記売買代金の二四分の一に当
たる額の損害を賠償すべきであるとして、被上告人の本件請求を全部認容した。
 三 遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失
効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属すると
ころ(最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八
頁)、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留
分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当で
ある。その理由は、次のとおりである。
  特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺
者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、また、民法は、遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留
分を保全するに必要な限度で認め(一〇三一条)、遺留分減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか
否かを遺留分権利者の意思にゆだね(一〇三一条、一〇四三条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相
続財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として規定する(一〇三六条、
一〇三七条、一〇三九条、一〇四〇条、一〇四一条参照)など、遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求
をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特
定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割
の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈
は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その
限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからである。
  以上によれば、原審の適法に確定した前記の事実関係の下において、被上告人が本件不動産に有する
二四分の一の共有持分権は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないものであって、被上
告人は、上告人に対し、右共有持分権に基づき所有権一部移転登記手続を求めることができ、また、上告人
の不法行為によりその持分権を侵害されたのであるから、その持分の価額相当の損害賠償を求めることが
できる。原審の判断は結論において正当であり、論旨は採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨
は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 なお、原判決主文第一項は、「一 原判決中控訴人の所有権一部移転登記手続請求を棄却した部分を取
り消す。被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録(一)ないし(三)及び(五)ないし(八)記載の各不動産につい
て、昭和六二年一一月二七日遺留分減殺を原因とし、控訴人の持分を二四分の一とする所有権一部移転
登記手続をせよ。」とすべきものであったことが明らかであるから、民訴法一九四条により主文第二項のとお
り更正する。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平8・7・9東京高判 死因贈与による仮登記がある不動産と限定承認された場合の「相続によって得た財産」(上告)
東京高等裁判所?? ?? 第二民事部→最判昭平10・2・13
請求異議事件
主    文
     一 原判決を取り消す。
     二 被控訴人らの請求を棄却する。
     三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
         事実及び理由
 第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
 主文同旨
 二 被控訴人ら
 控訴棄却
 第二 事案の概要
 事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決記載のとおりである。
 (控訴人の当審における主張)
 原判決は、死因受贈者であり限定承認者である被控訴人らと相続債権者である控
訴人は対抗関係に立ち、相続に先立ち仮登記を取得した被控訴人らは死因贈与によ
る所有権の取得を控訴人に主張できるから、本件土地は民法九二二条の相続によっ
て得た財産に含まれない固有財産であると判断した。しかし、これは、被控訴人ら
が、相続人としての資格と死因受贈者としての資格を併有し、しかも限定承認して
いる事実、及び限定承認者は相続債務につきその全部を承継することを全く考慮し
なかったもので、判断を誤ったものである。本件土地は民法九二二条の「相続によ
って得た財産」に含まれ、被控訴人らと控訴人は対抗関係に立たず、当事者の関係
に立つというべきである。控訴人の権利と被控訴人らの権利には有償、無償の本質
的な差異があることや、相続債権者が受遺者に優先することが明定されている民法
九三一条の趣旨をふまえれば、単なる対抗関係として判断できないことは明らがで
ある。また、原判決が、本件死因贈与が子である被控訴人らへの扶養を含むから、
被控訴人らか本件土地の所有権を主張することについては公平の観点から許されな
いとすべき事情もないとしている点も何ら根拠がなく、被控訴人らが仮登記に基い
て第三者ではなく自らに対し本登記をした利己的行為、被控訴人Aが相続財産に属
する預金を引き出した行為を、法定単純承認とみなすべき処分に該当するとせず、
右各行為を相続財産の管理、保存行為と認定した点も失当であるといわなければな
らない。
 (被控訴人らの当審における主張)
 本件死因贈与については、被相続人Bの死亡前に始期付所有権移転仮登記がなさ
れており、死因贈与者の死亡と同時に所有権移転の効力が生じ、本件土地は民法九
二二条の「相続によって得た財産」の範囲からは離脱することになるもので、右仮
登記に基き本登記が経由されたときは、仮登記の順位保全の効力により、死因受贈
者はすべての相続債権者に優先することになる。また、本件死因贈与の目的である
本件土地は特定物であり、特定物の遺贈には民法九三一条は適用されないから、特
定物の死因贈与に同法の適用がないことは明らかである。本件相続について、限定
承認の効力を否定するような、単純承認とみなすべき事由も存在しない。
 第三 当裁判所の判断
 一 当裁判所は、本件土地は民法九二二条の「相続によって得た財産」に該当
し、控訴人が東京法務局所属公証人C作成昭和六二年第三〇八号の執行力ある公正
証書正本に基き平成六年一一月二九日に本件土地に対してした強制執行は適法であ
って、被控訴人らの本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり
である。
 <要旨>限定承認の手続は、相続債務が相続財産を超過するいわゆる債務超過又は
その可能性がある場合に、相続債</要旨>権者間において公平に相続財産を分配する
手続であって、一種の清算手続である。限定承認がなされると、限定承認者は「相
続によって得た財産」の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すること
とされ(民法九二二条)、同法九二九条、九三〇条の規定によって債権者に弁済し
た後でなければ、受遺者に弁済することができないとされ(同法九三一条)、受遺
者は相続債権者に劣後する地位に置かれている。これは遺贈は無償行為であること
に加え、権利変動の効力発生が遺贈者の死亡にかかり、遺贈者の生前は取消(撤
回)が自由であること(民法一〇二二条)によるものである。ところで、死因贈与
も無償行為であり、しかもその権利変動は贈与者の死亡にかかっており、民法一〇
二二条は方式に関する部分を除いて死因贈与に準用されるものと解されるので、死
因贈与の取消(撤回)も贈与者がその生前自由になしうるものである(仮登記後に
死因贈与が取り消されれば、その仮登記は抹消すべきものである)。そうであると
すると債務超過を念頭においた清算手続である限定承認において、遺贈と死因贈与
とを別異に扱うべき合理的理由はないものといわねばならない。
 そして、死因贈与には、贈与者の死亡を始期とする期限付贈与と贈与者の死亡当
時受贈者が生存することを条件とする停止条件付贈与とがあるが、いずれにせよ、
贈与者の死亡によって初めて権利変動の効力が生じるものであり、贈与の対象物は
被相続人の死亡の時まで贈与者である被相続人の財産に帰属していたものである。
特定不動産の死因贈与について仮登記がなされ、贈与者の死亡後に本登記がなされ
たとしても、右不動産は贈与者の死亡時、すなわち相続開始の時に贈与者から受贈
者に権利が移転するのであり、まさに、相続財産を減少することによって、死因贈
与に基づく権利移転の効果が生ずるのである。法律効果の発生を当事者の死亡にか
からせることのない、始期付き又は停止条件付きの法律行為について仮登記がなさ
れ、始期の到来又は条件成就が偶々行為者の死後発生し、仮登記に基づく本登記が
なされた場合には、仮登記の順位保全の効力により、仮登記の対象である不動産
は、相続開始時点においてすでに相続財産から離脱したものとして取り扱われる
が、これは、当該法律行為の効果が行為者の死亡とかかわりがないことによるもの
であり、行為者の死亡により効果の発生する死因贈与の場合とは事態が異なるもの
ということができる。
 したがって、被控訴人らのような推定相続人が被相続人との間で被相続人所有の
不動産について死因贈与を受ける契約を結び、その仮登記を取得しても、一種の清
算手続である限定承認の手続では、右の不動産を相続財産から離脱した財産であっ
て、被控訴人らの固有財産であると主張することはできず、右の不動産は、民法九
二二条の「相続によって得た財産」に該当し、相続債務の引当てになるものと解す
るのが相当である。
 二 したがって、被控訴人らの請求を認容した原判決は不当で、本件控訴は理由
がある。
 よって主文のとおり判決する。


平8・10・31最判 全面的価格賠償の方法による共有物分割の許否
最高裁判所第一小法廷(広島高等裁判所)
持分権確認並びに共有物分割
主    文
    原判決中、共有物分割請求に関する部分を破棄する。
     前項の部分につき本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人川岸伸隆の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要及び記録によって認められる本件訴訟の経過等は、次のとおりであ
る。
 1 亡A、亡B夫婦の長女である上告人C、その夫であり同夫婦の養子であるD及び二女であるE(承継前
の被上告人。以下「E」という。)の三名は、昭和四〇年七月八日、甲信用組合から原判決添付物件目録記
載の各不動産(以下「本件不動産」という。)を持分各三分の一の割合で買い受けた。本件不動産は、かつて
亡A及びその先代が所有していたものであり、一時甲信用組合に所有権が移転していたのを、右三名が共
同して買い戻したものであった。
 2 Dは、昭和六一年一一月三日に死亡し、同人の右持分は、上告人C及び子であるその余の上告人らが
それぞれ法定相続分に従って取得した。その結果、本件不動産についての共有持分は、上告人Cが一八分
の九、その余の上告人らが各一八分の一、Eが一八分の六となった。
 3 本件不動産のうち原判決添付物件目録記載一ないし三の土地上には、ほぼ一杯に同目録記載四の建
物(以下「本件建物」という。)が存在しており、しかも、本件建物は、構造上一体を成していることから、上告
人らとEの持分に応じた区分所有とすることができず、したがって、本件不動産を現物分割することは不可能
である。
 4 Eは、昭和四八年以来、本件建物に居住し、本件建物に接する平家建ての建物において薬局を営み、
その営業収入によって生活してきたが、そのことについては、上告人らとの間に特段の争いもなく推移してき
た。他方、上告人らは、それぞれ別に居住していて、必ずしも本件不動産を取得する必要はない。
 5 上告人らは、Eが本件不動産の分割協議に応じないため、本件不動産の共有物分割等を求める本件訴
えを提起したものであるが、本件不動産の分割方法として、競売による分割を希望している。これに対し、E
は、自らが本件不動産を単独で取得し、上告人らに対してその持分の価格を賠償する方法(以下「全面的価
格賠償の方法」という。)による分割を希望していた。
 6 原審で実施された鑑定の結果によれば、本件不動産の評価額は合計八二六万三〇〇〇円であり、仮
にこれを競売に付したとしても、これより高価に売却することができる可能性は低い。
 二 原審は、(1) 民法二五八条による共有物分割の方法として、全面的価格賠償の方法を採ることも許さ
れる旨を判示した上で、(2) 右一の事実関係等の下においては、本件不動産の分割方法として全面的価格
賠償の方法を採用するのが相当であるとし、競売による分割を命じた第一審判決を変更して、本件不動産を
Eの単独所有とした上、Eに対して上告人らの持分の価格の賠償を命じた。所論は、原審の右(1)、(2)の判
断に民法二五八条の解釈適用の誤りがあるというものである。
 三 そこで検討するに、原審の右(1)の判断は是認することができるが、右(2)の判断は是認することができ
ない。その理由は次のとおりである。
 1 民法二五八条二項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割す
ることが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売によ
る分割をすることができる旨を規定している。ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴
えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁
量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分
割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現
物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。
 そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上
の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる(最高裁昭和
五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)のみならず、当
該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び
分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総
合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、そ
の価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価
格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共
有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価
格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきであ
る。
 したがって、これと同旨の原審の前記(1)の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法
はない。所論引用の前記大法廷判決は、価格賠償をもって現物分割の場合の過不足を調整することができ
る旨を判示しているにとどまり、右の判断はこれに抵触するものではない。この点に関する論旨は採用する
ことができない。
 2 次に、本件について全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情が存す
るか否かをみるに、本件不動産は、現物分割をすることが不可能であるところ、Eにとってはこれが生活の
本拠であったものであり、他方、上告人らは、それぞれ別に居住していて、必ずしも本件不動産を取得する
必要はなく、本件不動産の分割方法として競売による分割を希望しているなど、前記一の事実関係等にか
んがみると、本件不動産をEの取得としたことが相当でないとはいえない。
 しかしながら、前記のとおり、全面的価格賠償の方法による共有物分割が許されるのは、これにより共有
者間の実質的公平が害されない場合に限られるのであって、そのためには、賠償金の支払義務を負担する
者にその支払能力があることを要するところ、原審で実施された鑑定の結果によれば、上告人らの持分の
価格は合計五五〇万円余であるが、原審は、Eにその支払能力があった事実を何ら確定していない。した
がって、原審の認定した前記一の事実関係等をもってしては、いまだ本件について前記特段の事情の存在
を認めることはできない。
 そうすると、本件について、前記特段の事情の存在を認定することなく、全面的価格賠償による共有物分割
の方法を採用し、本件不動産をEの単独所有とした上、Eに対して上告人らの持分の価格の賠償を命じた原
判決には、法令の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるというべきであり、この違法
が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があるから、原
判決中、共有物分割請求に関する部分は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻
すこととする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平8・11・7東京高判 保証債務と遺留分の基礎となる財産
東京高等裁判所?? ?? 第一九民事部
遺留分減殺、遺留分減殺移転登記手続請求事件
 主    文
     一 本件控訴を棄却する。
     二 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
         事実及び理由
 一 控訴の趣旨
 1 原判決中、控訴人らに関する部分を取り消す。
 2 被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。
 二 事案の概要
 次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の第二の一のうち、控
訴人らと被控訴人らとに関する部分のとおりであるから、これを引用する。
 1 原判決五枚目裏四行目の「少なくとも」を「遅くとも」に改める。
 2 控訴人らの当審における新主張
 訴外株式会社吉川百貨店は、平成元年一〇月二七日三菱銀行町田支店から五〇〇
〇万円を借り入れ、Aは同訴外会社の債務を連帯保証した。また、訴外ヨシモト商
事株式会社は、平成二年三月一日ダイヤモンド抵当証券株式会社から五〇〇〇万円
を借り入れ、Aは同訴外会社の債務を連帯保証した。そして、右のAの連帯保証債
務について、前者につき平成五年五月二一日Aの遺産から五〇〇〇万円の弁済がさ
れ、後者につき平成六年八月二三日Aの遺産から一〇〇〇万円の弁済がされた。
 したがって、被控訴人らの遺留分計算の基礎となる純資産は原審認定額より六〇
〇〇万円少ない一億三三七九万六三六六円となり、その結果被控訴人らを除く控訴
人らが取得した遺産の純資産額は、原審被告Bが原審認定額より一〇〇〇万円少な
い二八六一万一五九四円、控訴人Cが原審認定額より五〇〇〇万円少ない三〇三三
万七九一六円、控訴人D及び同Eが各三七四二万三四二八円となる。そして、これ
に基づき計算すると、被控訴人らが遺留分減殺によりAの遺産に対して取得する持
分は、別紙遺留分侵害割合算出表のとおり、原審被告Bに対し、一万分の五五四、
控訴人Cに対し、一万分の五七〇、控訴人D及び同Eに対し、各一万分の八三三と
なる。
 三 当裁判所の判断
 控訴人らの当審における新主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及
び理由の第二の二のうち、控訴人らと被控訴人らとに関する部分のとおりであるか
ら、これを引用する。
 控訴人らは、右純資産のほかにAが三菱銀行に対する五〇〇〇万円の連帯保証債
務及びダイヤモンド抵当証券株式会社に対する五〇〇〇万円の連帯保証債務(その
うちのAの分として弁済した一〇〇〇万円)を負担していたから、これらをAの純
資産の額から控除すべきであると主張する。
 <要旨>しかしながら、保証債務(連帯保証債務を含む)は、保証人において将来
現実にその債務を履行するか否</要旨>か不確実であるばかりでなく、保証人が複数
存在する場合もあり、その場合は履行の額も主たる債務の額と同額であるとは限ら
ず、仮に将来その債務を履行した場合であっても、その履行よる出捐は、法律上は
主たる債務者に対する求債権の行使によって返還を受けうるものであるから、主た
る債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならず、
かつ、その履行による出指を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みが
ないような特段の事情が存在する場合でない限り、民法一〇二九条所定の「債務」
に含まれないものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、仮にAが
相続開始時において控訴人ら主張の連帯保証債務を負担していたとしても、当時、
右の特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠は全くない。そうすると、控
訴人ら主張の債務額を純資産額から控除することはできない。
 なお、控訴人らはAの遺産から右連帯保証債務につき弁済がされた旨を主張する
が、右の特段の事情が本件の相続開始時に存在すると認められない以上、右弁済
は、右認定判断を左右しない。
 四 結論
 よって、原判決は相当であって、本件控訴は棄却を免れない。

平8・11・26最判 相続債務がある場合の遺留分侵害額の算定
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
遺留分減殺請求に基づく持分権確認並びに持分権移転登記手続
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人和田誠一郎の上告理由一の4について
 一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 Aは、平成二年六月二九日、すべての財産を上告人に包括して遺贈する旨遺言した。
 2 Aは、平成二年七月七日死亡した。同人の法定相続人は、妻である被上告人B並びに子である被上告
人C、同D、上告人及びEである。
 3 Aは、相続開始の時において、第一審判決別紙物件目録の本件不動産の項の一ないし二九記載の不
動産(以下「本件不動産一」などという。)及び同目録の売却済み不動産の項の(一)、(二)記載の不動産(以
下「売却済み不動産(一)」などという。)を所有していた。
 4 被上告人らは、上告人に対し、平成三年一月二三日到達の書面をもって遺留分減殺請求権を行使する
旨の意思表示をした。
 5 平成二年一二月一八日、本件不動産六ないし八につき、平成三年二月七日、本件不動産二、五及び二
八につき、それぞれ相続を登記原因として上告人に所有権移転登記がされ、また、同日、本件不動産二九に
つき上告人を所有者とする所有権保存登記がされた。
 6 上告人は、被上告人らから遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示を受けた後、同人らの承諾を得
ずに、売却済み不動産(一)を三億二七三二万〇四〇〇円で、同(二)を七二三七万五〇〇〇円で、それぞれ
第三者に売り渡し、その旨の所有権移転登記を経由した。
 二 被上告人らの本件請求は、遺留分減殺請求により被上告人らが本件不動産一ないし二九につき、本
件の遺留分の割合である二分の一に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分(被上告人Bは四
分の一、同C、同Dは各一六分の一の割合の持分)を取得したと主張して、本件不動産一ないし二九につき
右各持分の確認を求め、かつ、本件不動産二、五ないし八、二八及び二九につき、遺留分減殺を原因とし
て、右各持分の割合による所有権一部移転登記手続を求めるものである。なお、被上告人らからは、前記一
3記載の不動産のほか普通預金債権、預託金債権等の相続財産が存在する旨の主張がされており、上告
人からも、第一審判決別紙相続債務等目録記載の相続債務の存在等が主張されている。
 三 原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、被上告人らの請求を認容した。
 1 上告人は、遺留分減殺の意思表示を受けた後、遺産を構成する売却済み不動産(一)、(二)を第三者に
合計三億九九六九万五四〇〇円で売却し、その旨の所有権移転登記を経由したことにより、遺留分減殺請
求により被上告人らに帰属した右各不動産上の持分を喪失させたから、被上告人らは、上告人に対し、右持
分の喪失による損害賠償請求権を有する。
 2 被上告人らは、本訴において、右各損害賠償請求権と上告人が相続債務を弁済したことにより被上告
人らに対して有する各求償権とを対当額で相殺する旨意思表示した。上告人が弁済したとする相続債務の
額に被上告人Bは四分の一、同C、同Dは各一六分の一の割合を乗じて求償権の額を算定すると、その額
が右各損害賠償請求権の額を超えないことは明らかであるから、右求償権は相殺により消滅したというべき
である。
 3 そうすると、上告人主張の相続債務は、遺留分額を算定する上でこれを無視することができ、したがっ
て、負担すべき相続債務の有無、範囲並びに相続財産の範囲及びその相続開始時の価額を確定するまで
もなく、被上告人らは、遺留分減殺請求権の行使により、本件不動産一ないし二九につき、本件の遺留分の
割合である二分の一に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持分を取得したというべきである。
 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失
効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に遺留分権利者に帰属するところ、遺言者の
財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利
は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないものであって(最高裁平成三年(オ)第一七七二
号同八年一月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)、前記事実関係の下では、被上告人ら
は、上告人に対し、遺留分減殺請求権の行使により帰属した持分の確認及び右持分に基づき所有権一部移
転登記手続を求めることができる。
 2 被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法一〇二九条、一〇三〇条、
一〇四四条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額
を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八
条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相
続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべ
きものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって
得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定
するものである。被上告人らは、遺留分減殺請求権を行使したことにより、本件不動産一ないし二九につき、
右の方法により算定された遺留分の侵害額を減殺の対象であるAの全相続財産の相続開始時の価額の総
和で除して得た割合の持分を当然に取得したものである。この遺留分算定の方法は、相続開始後に上告人
が相続債務を単独で弁済し、これを消滅させたとしても、また、これにより上告人が被上告人らに対して有す
るに至った求償権と被上告人らが上告人に対して有する損害賠償請求権とを相殺した結果、右求償権が全
部消滅したとしても、変わるものではない。
 五 そうすると、本件では相続債務は遺留分額を算定する上で無視することができるとし、負担すべき相続
債務の有無、範囲並びに相続財産の範囲及びその相続開始時の価額を確定することなく、被上告人らは本
件各不動産につき本件の遺留分の割合である二分の一に各自の法定相続分のそれを乗じて得た割合の持
分を取得したとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論に影響を
及ぼすことは明らかである。その趣旨をいう論旨は理由があり、その余の点を判断するまでもなく、原判決は
破棄を免れない。そして、右の点につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すことにする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平8・12・17最判 遺産たる建物の相続開始後の使用関係
最高裁判所第三小法廷
土地建物共有物分割等
主    文
     原判決中、上告人ら敗訴の部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人小室貴司の上告理由第一点について
 一 本件上告に係る被上告人らの請求は、上告人ら及び被上告人らは第一審判決添付物件目録記載の
不動産の共有者であるが、上告人らは本件不動産の全部を占有、使用しており、このことによって被上告人
らにその持分に応じた賃料相当額の損害を発生させているとして、上告人らに対し、不法行為に基づく損害
賠償請求又は不当利得返還請求として、被上告人ら各自の持分に応じた本件不動産の賃料相当額の支払
を求めるものである。
 二 原審の確定した事実関係の概要は、(一) aは昭和六三年九月二四日に死亡した、(二) 被上告人bは
aの遺言により一六分の二の割合による遺産の包括遺贈を受けた者であり、上告人ら及びその余の被上告
人らはaの相続人である、(三) 本件不動産はaの遺産であり、一筆の土地と同土地上の一棟の建物から成
る、(四) 上告人らは、aの生前から、本件不動産においてaと共にその家族として同居生活をしてきたもの
で、相続開始後も本件不動産の全部を占有、使用している、というのである。
 三 原審は、右事実関係の下において、自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使
用する持分権者は、これを占有、使用していない他の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得て
いるのであるから、格別の合意のない限り、他の持分権者に対して、共有物の賃料相当額に依拠して算出さ
れた金額について不当利得返還義務を負うと判断して、被上告人らの不当利得返還請求を認容すべきもの
とした。
 四 しかしながら、原審の右判断は直ちに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
  共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居
してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相
続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の
相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場
合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主と
なり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきであ
る。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであった
ことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様に
おける無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるから
である。
  本件についてこれを見るのに、上告人らは、aの相続人であり、本件不動産においてaの家族として同人と
同居生活をしてきたというのであるから、特段の事情のない限り、aと上告人らの間には本件建物について右
の趣旨の使用貸借契約が成立していたものと推認するのが相当であり、上告人らの本件建物の占有、使用
が右使用貸借契約に基づくものであるならば、これにより上告人らが得る利益に法律上の原因がないという
ことはできないから、被上告人らの不当利得返還請求は理由がないものというべきである。そうすると、これ
らの点について審理を尽くさず、上告人らに直ちに不当利得が成立するとした原審の判断には、法令の解釈
適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいう
ものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免
れない。そして、右部分については、使用貸借契約の成否等について更に審理を尽くさせるため、原審に差
し戻すこととする。
  よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平9・1・28最判 相続欠格の要件
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
相続権不存在確認等、所有権移転登記抹消登記手続
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人山田齊の上告理由第一の一について
 相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に
関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者
には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条五号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為
をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが(最高
裁昭和五五年(オ)第五九六号同五六年四月三日第二小法廷判決・民集三五巻三号四三一頁参照)、遺言
書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する
著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳し
い制裁を課することは、同条五号の趣旨に沿わないからである。
 以上と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨
は採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに
帰するものであり、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

平9・2・25最判 価額弁償金を支払わなかったときは、所有権移転登記せよ
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
遺言無効確認等
主    文
     一 原判決主文第一項の2及び3を次のとおり変更する。
     1 被上告人は、上告人に対し、被上告人が上告人に対して民法一〇四一条所定の遺贈の目的の
価額の弁償として二二七二万八二三一円を支払わなかったときは、第一審判決添付第一目録記載の各不
動産の原判決添付目録記載の持分につき、所有権移転登記手続をせよ。
     2 上告人のその余の請求を棄却する。
     二 その余の本件上告を棄却する。
     三 訴訟の総費用はこれを五分し、その二を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。
         
理    由
 第一 上告代理人樽谷進の上告理由一について
   所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することがで
き、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定
を非難するものにすぎず、採用することができない。
 第二 同二及び三について
 一 所論は、要するに、本件において上告人が求めているのは現物返還のみであり、被上告人もまた、単
に価額弁償の意思表示をしたにとどまり現実の履行もその履行の提供もしていないのであるから、原判決主
文第一項3のごとき条件付判決をすることは民訴法一八六条に違反するのみならず、右のごとき判決をして
も、登記手続上、上告人の遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続を防止することができないばかり
でなく、価額弁償の時期により次の手続が異なるという不安定な結果となるのであって、上告人はかかる判
決を求めていないし、また、本件は現物返還を請求している事案であって、価額弁償算定の前提となるべき
目的物の価額算定の基準時を事実審口頭弁論終結時とするのは相当でない、というのである。
 二 上告人の求めているのが単なる現物返還のみであり、原判決主文第一項3に趣旨不明確な点がある
ことは所論のとおりであって、これを是正すべきことは後記説示のとおりであるが、被上告人は、原審におい
て、後記のとおり、単に価額弁償の意思表示をしたにとどまらず、裁判所が定めた価額により民法一〇四一
条の規定に基づく価額弁償をする意思がある旨を表明して、裁判所に対して弁償すべき価額の確定を求め
る旨の申立てをしているのであるから、原審がこれに応えて上告人の持分の移転登記請求を認めるに当た
り、弁償すべき価額を定め、その支払を解除条件として判示したのはむしろ当然であって、そのこと自体を民
訴法一八六条に違反するものということはできない。また、目的物の価額算定の基準時を事実審口頭弁論
終結時より後にすることができないのは事理の当然であって、この点の所論は採用の限りでない。
 三 以下、所論に鑑み、原審における被上告人の申立ての趣旨及びこれに対する原審の判断の当否につ
いて、職権をもって検討する。
  1 上告人の予備的請求は、上告人から被上告人(受遺者)に対する遺留分減殺請求権の行使により上
告人に帰属した遺贈の目的物の返還(不動産については持分の確認及び移転登記手続)を求めるものであ
るところ、被上告人は、右請求に係る財産のうち第一審判決添付第一目録記載の各不動産(以下「本件不動
産」という)の持分については、裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定に基づく価額の弁償をな
すべき旨の意思を表明して弁償すべき価額の確定を求める旨の申立てをしている。そして、原審の適法に確
定したところによれば、(一) Aは、昭和六二年一月五日付け目筆証書により全財産を被上告人に遺贈する
旨の遺言をした後、同月二六日に死亡した、(二) Aの相続人は、被上告人(長男)、B(次男)及び上告人
(次女)の三名である、(三) Aの遺産である本件不動産につき、同年七月二日までに、本件遺言に基づき被
上告人に対する所有権移転登記が経由された、(四) 上告人は、同月三〇日、被上告人に対して遺留分減
殺請求権を行使する旨の意思表示をした、(五) 右遺留分減殺の結果、上告人は、本件不動産についてい
ずれも原判決添付目録記載の割合による持分を取得した、(六) 原審口頭弁論終結時における右持分の価
額は合計二二七二万八二三一円である、というのである。
  2 原審は、右事実関係の下において、被上告人は上告人に対して本件不動産の前記持分の返還義務
(持分移転登記義務)を負うが、右義務は価額の弁償の履行又は弁済の提供によって解除条件的に条件付
けられているとして、予備的請求のうち本件不動産に関する部分については、「上告人が本件不動産につい
て前記持分権を有することを確認する(主文第一項1)。被上告人は、上告人に対し、右持分について所有権
移転登記手続をせよ(同2)。被上告人は、上告人に対し二二七二万八二三一一円を支払ったときは、前項
の所有権移転登記義務を免れることができる(同3)。上告人のその余の請求を棄却する。」旨の判決を言い
渡した。
 四 そこで、その当否につき判断する。
  1 一般に、遺贈につき遺留分権利者が減殺請求権を行使すると、遺贈は遺留分を侵害する限度で失効
し、受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するが、この場合、受
遺者は、遺留分権利者に対し同人に帰属した遺贈の目的物を返還すべき義務を負うものの、民法一〇四一
条の規定により減殺を受けるべき限度において遺贈の目的物の価額を弁償して返還の義務を免れることが
できる。もっとも、受遺者は、価額の弁償をなすべき旨の意思表示をしただけでは足りず、価額の弁償を現実
に履行するか、少なくともその履行の提供をしなければならないのであって、弁償すべき価額の算定の基準
時は原則として弁償がされる時と解すべきである。さらに、受遺者が弁償すべき価額について履行の提供を
した場合には、減殺請求によりいったん遺留分権利者に帰属した権利が再び受遺者に移転する反面、遺留
分権利者は受遺者に対して弁償すべき価額に相当する額の金銭の支払を求める権利を取得するものという
べきである(最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七
六八頁、最高裁昭和五三年財第九〇七号同五四年七月一〇日第三小法廷判決・民集三三巻五号五六二
頁参照)。
  2 減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的物の返還を求める訴訟において、受遺者が事実審口頭
弁論終結前に弁償すべき価額による現実の履行又は履行の提供をしなかったときは、受遺者は、遺贈の目
的物の返還義務を免れることはできない。しかしながら、受遺者が、当該訴訟手続において、事実審口頭弁
論終結前に、裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定による価額の弁償をなすべき旨の意思表
示をした場合には、裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定め
た上、受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として、遺留分権利者の目的物返還請求を認容すべき
ものと解するのが相当である。
    けだし、受遺者が真に民法一〇四一条所定の価額を現実に提供して遺留分権利者に帰属した目的物
の返還を拒みたいと考えたとしても、現実には、遺留分算定の基礎となる遺産の範囲、遺留分権利者に帰属
した持分割合及びその価額の算定については、関係当事者間に争いのあることも多く、これを確定するため
には、裁判等の手続において厳密な検討を加えなくてはならないのが通常であるから、価額弁償の意思を有
する受遺者にとっては民法の定める権利を実現することは至難なことというほかなく、すべての場合に弁償
すべき価額の履行の提供のない限り価額弁償の抗弁は成立しないとすることは、同法条の趣旨を没却する
に等しいものといわなければならない。したがって、遺留分減殺請求を受けた受遺者が、単に価額弁償の意
思表示をしたにとどまらず、進んで、裁判所に対し、遺留分権利者に対して弁償をなすべき額が判決によっ
て確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明して、弁償すべき額の確定を求める旨を申し
立てたという本件のような場合においては、裁判所としては、これを適式の抗弁として取り扱い、判決におい
て右の弁償すべき額を定めた上、その支払と遺留分権利者の請求とを合理的に関連させ、当事者双方の利
害の均衡を図るのが相当であり、かつ、これが法の趣旨にも合致するものと解すべきである。
  3 この場合、民法一〇四一条の条文自体からは、一般論として、原判決主文第一項3のように受遺者が
現物返還の目的物の価額相当の金員を遺留分権利者に支払ったときは登記義務を免れると理解することに
さして問題はないけれども、現実に争いとなってこれを解決すべき裁判の手続においては、何時までにその
主張をなすべきか、その価額の評価基準日を何時にするか、執行手続をいかにすべきか等の手続上の諸問
題を無視することができない。その意味では、原判決主文第一項3のごとき判決は法的安定性を害するおそ
れがあり、その是正を要するものといわなければならない。一方、受遺者からする本件価額確定の申立て
は、その趣旨からして、単に価額の確定を求めるのみの申立てであるにとどまらず、その確定額を支払う
が、もし支払わなかったときは現物返還に応ずる趣旨のものと解されるから、裁判所としては、その趣旨に副
った条件付判決をすべきものということができる。弁償すべき価額を裁判所が確定するという手続を定めるこ
とは、この手続の活用により提供された価額の相当性に関する紛争が回避され、遺留分権利者の地位の安
定にも資するものであって、法の趣旨に合致する。
  4 なお、遺留分権利者からの遺贈の目的物の返還を求める訴訟において目的物返還を命ずる裁判の
内容が意思表示を命ずるものである場合には、受遺者が裁判所の定める額を支払ったという事実は民事執
行法一七三条所定の債務者の証明すべき事実に当たり、同条の定めるところにより、遺留分権利者からの
執行文付与の申立てを受けた裁判所書記官が受遺者に対し一定の期間を定めて右事実を証明する文書を
提出すべき旨を催告するなどの手続を経て執行文が付与された時に、同条一項の規定により、意思表示を
したものとみなされるという判決の効力が発生する。また、受遺者が裁判所の定める額について弁償の履行
の提供をした場合も、右にいう受遺者が裁判所の定める額を支払った場合に含まれるものというべきであ
り、執行文付与の前に受遺者が右の履行の提供をした場合には、減殺請求によりいったん遺留分権利者に
帰属した権利が再び受遺者に移転する反面、遺留分権利者は受遺者に対して右の額の金銭の支払を求め
る権利を取得するのである。
 五 そこで、以上の見解に立って本件をみるのに、上告人は遺留分減殺により本件不動産について原判決
添付目録記載の割合による持分を取得したが、受遺者である被上告人は原審において裁判所が定めた価
額により民法一〇四一条の規定に基づく価額の弁償をなすべき旨の意思を表明して弁償すべき額の確定を
求める旨の申立てをしており、原審口頭弁論終結時における右持分の価額は二二七二万八二三一円であ
るというのであるから、被上告人が同条所定の遺贈の目的の価額の弁償として右同額の金員を支払わなか
ったことを条件として、上告人の持分移転登記手続請求を認容すべきである。
   以上の次第で、原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすこと
が明らかである。そこで、職権により原判決を破棄し、上告人の申立ての趣旨を害さず、かつ、被上告人の
原審における申立ての趣旨に副った主文とすべく原判決を一部変更した上、その余の上告を棄却することと
する。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九二条に従い、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。


平9・3・14最判 遺産確認の訴えは,共同相続人全員の間で合一に確定するための訴えである
第2小法廷 判決(東京高等裁判所)
遺産確認等請求本訴、共有持分権不存在中間確認請求反訴・上告事件(棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人宮崎富哉の上告理由について
 共同相続人甲、乙、丙のうち甲と乙との間において、ある土地につき甲の所有権確認請求を棄却する旨の判
決が確定し、右確定判決の既判力により、甲が乙に対して相続による右土地の共有持分の取得を主張し得な
くなった場合であっても、甲は右土地につき遺産確認の訴えを提起することができると解するのが相当である。
けだし、遺産確認の訴えは、特定の財産が被相続人の遺産に属することを共同相続人全員の間で合一に確定
するための訴えであるところ(最高裁昭和五七年(オ)第一八四号同六一年三月一三日第一小法廷判決・民集
四〇巻二号三八九頁、最高裁昭和六〇年(オ)第七二七号平成元年三月二八日第三小法廷判決・民集四三
巻三号一六七頁参照)、右確定判決は、甲乙間において右土地につき甲の所有権の不存在を既判力をもって
確定するにとどまり、甲が相続人の地位を有することや右土地が被相続人の遺産に属することを否定するもの
ではないから、甲は、遺産確認の訴えの原告適格を失わず、共同相続人全員の間で右土地の遺産帰属性に
つき合一確定を求める利益を有するというべきである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することが
できる。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平9・3・25最判 預託金会員制ゴルフクラブの会員の死亡により相続取得ができるとされた事例
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
会員権確認等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人井上二郎、同上原康夫、同中島光孝の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
 1 上告会社は、「泉南カンツリークラブ」という名称の預託金会員制ゴルフクラブ(以下「本件ゴルフクラブ」
という。)を経営する会社である。同クラブの平成五年三月二六日に改正される前の会則には、(1) 本件ゴ
ルフクラブに上告会社の推薦により選任される理事長、理事等によって構成される理事会を置き、理事会
は、本件ゴルフクラブにおけるゴルフプレイに関する一切の管理運営に当たる、(2) 本件ゴルフクラブに入会
を希望する者は、理事会の承認を得た上、上告会社の定める入会保証金を預託しなければならず、会員
は、会費その他の料金の支払義務を負う、(3) 入会保証金は、これを全額上告会社に差し入れ、原則として
三年間据え置き、退会の際にその時点における入会保証金の額を利息を付さず返還するものとし、会員は、
右返還を受けた際にその会員としての資格を失うものとする旨の規定が存在していたが、右会則及びこれに
基づいて定められた細則(以下、これらを併せて「本件会則等」という。)には、正会員が死亡した場合におけ
る右会員としての地位の帰すうに関する規定は存在しなかった。なお、右細則二六条には、「本クラブに入会
希望者で会員券業者から買入れをした会員券は理事会で調査の上本理事会の承認を得た後、会員として
登録されるものとする。」との規定が存在した。
 2 Aは、昭和五四年五月ころ、上告会社に対して入会保証金二〇〇万円を預託して、本件ゴルフクラブの
正会員となった。
 3 Aは、昭和五七年一二月五日死亡し、同人の相続人間において、同人の子である被上告人が右正会員
としての地位を承継する旨の遺産分割協議が成立した。
 4 なお、前記の会則改正前に、本件ゴルフクラブにおいては、正会員が死亡した場合に、その相続人が理
事会の承認を得て正会員となった例が存在した。
 二 本件は、Aの相続人である被上告人が、上告会社に対し、被上告人が本件ゴルフクラブの理事会の承
認を停止条件とする同クラブの正会員としての地位を有することの確認等を求めるものである。
 上告会社は、一般にゴルフクラブは会員相互間の人的な信頼関係を基礎とする親睦的団体であり、会員
契約は右のような団体に入会する契約の性質を有するところ、右は、預託金会員制ゴルフクラブにおいても
異なるところはなく、その会員としての地位に含まれる権利義務のうちゴルフ場施設を利用し得る権利は、そ
の性質上一身専属的なものであって、会則等に特別の定めのない限り、会員の死亡によって消滅し、相続
の対象にはならないと主張して争っている。
 三 原審の確定したところによれば、Aが有していた本件ゴルフクラブの正会員としての地位は、上告会社
との間で締結した預託金会員制ゴルフクラブである本件ゴルフクラブへの入会契約に基づく契約上のもので
あり、その具体的な権利義務の内容は、会則の規定によって定められるものである。ところで、前記細則二
六条によれば、本件ゴルフクラブにおいては、正会員はその地位を理事会の承認を得て他人に譲渡し得る
旨が定められていると解するのが相当であり、したがって、本件ゴルフクラブにおいては右の限りで会員の固
定性は放棄されているのであって、他方、右のような正会員としての地位の譲渡について本件ゴルフクラブ
の理事会の承認を要するものとして、会員となろうとする者を事前に審査し、会員としてふさわしくない者の入
会を認めないことにより、ゴルフクラブの品位を保つこととしているものと解される。
 本件会則等においては「正会員が死亡した場合におけるその地位の帰すうに関しては定められていない
が、右のような正会員としての地位の譲渡に関する規定に照らすと、本件ゴルフクラブの正会員が死亡しそ
の相続人が右の地位の承継を希望する場合について、本件会則等の趣旨は、右の地位が譲渡されたとき
に準じ、右相続人に上告会社との関係で正会員としての地位が認められるか否かを本件ゴルフクラブの理
事会の承認に係らしめ、右の地位が譲渡されたときに譲受人が踏むべき手続についての本件ゴルフクラブ
の会則等の定めに従って相続人が理事会に対して被相続人の正会員としての地位の承継についての承認
を求め、理事会がこれを承認するならば、相続人が上告会社との関係で右の地位を確定的に取得するとい
うところにあると解すべきである。けだし、正会員としての地位の変動という結果に着目すれば、それが譲渡
によるものか会員の死亡に伴う相続によるものかで特に選ぶべきところはなく、前記のとおり本件ゴルフクラ
ブにおいては会員としての地位の譲渡が認められていて、会員の固定性は既に放棄されているのであって、
会員が死亡した場合に、相続人自身がこれを承継することを禁ずべき根拠は見いだし難い上、本件会則等
は、右正会員としての地位が、単に金銭的な権利義務のみならずゴルフ場施設の利用権も一体的に含むも
のとして、いわゆるゴルフ会員権市場において売買や担保設定のために広く取引されることを想定している
のであって、右のような取引の対象とされた正会員としての地位につき、上告会社との関係において地位の
保有者の変更手続が行われる前に右地位の名義人が死亡した場合には、当該取引の対象とされた権利義
務の一部が消滅することを当然の前提としていたとは解し難く、また、会員が死亡し相続人が右市場等にお
いて右の地位を処分することを希望した場合についても、これが妨げられると解すべき理由は見当たらない
ほか、本件ゴルフクラブの親睦的団体としての性格の保持についても、正会員としての地位が譲渡された場
合に準じ、会員の死亡によるその地位の承継について理事会の承認を要するとすることで、その趣旨を実現
することは可能であると考えられるからである。
 四 右と同旨の見解に立って、被上告人が本件ゴルフクラブの理事会の承認を停止条件とする同クラブの
正会員としての地位を有することを確認するとした原審の判断は、これを是認することができる。所論引用の
最高裁昭和五〇年(オ)第二七〇号同五三年六月一六日第二小法廷判決・裁判集民事一二四号一二三頁
は、本件とは事案を異にし、論旨は、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平9・9・12最判 全部包括遺贈と相続人の不存在
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
貸付信託金請求及び同当事者参加
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告人らの上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 Aは、平成三年六月八日付けの遺言書により、同人が死亡した場合には同人の財産全部を上告人Cに
贈与する旨の遺言をした。
 2 Aは、平成四年七月二八日、被上告人の神戸支店から、貸付信託に係る信託契約の受益証券(ビッグ)
を代金四五〇万円で購入した。同受益証券については、平成五年八月五日以降、受益者の請求により、受
託者が買い取ることができる旨の定めがあった。
 3 Aは、平成五年四月一日に死亡した。同人には、相続人は存在しない。
 4 上告人Bは、平成五年六月二九日、神戸家庭裁判所により、Aの前記遺言の遺言執行者に選任され
た。
 5 上告人Bは、平成五年八月五日、被上告人に対し、前記受益証券の買取り及び買取金の支払を求めた
が、被上告人はこれを拒んだ。
 二 本件は、右事実関係の下において、上告人Bが、被上告人に対し、主位的に前記受益証券の買取金
四六〇万七二九二円及びこれに対する遅延損害金の支払を、予備的に原判決別紙記載のとおりの信託総
合口座の名義をAから上告人Cに変更する手続を求め、原審において訴訟に当事者参加した上告人Cが、
上告人Bに対し、同上告人が被上告人に右買取金の支払を求める権利を有しないことの確認を、被上告人
に対し、右買取金及びこれに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求めるものである。
  原審は、Aには相続人が存在しなかったから、遺言執行者である上告人B及び包括受遺者である上告人
Cは、民法九五一条以下に規定されている相続人の不存在の場合の手続によることなくAの相続財産を取
得することはできないとして、上告人Cの上告人Bに対する前記確認請求を認容し、上告人Bの請求及び上
告人Cのその余の請求は棄却すべきものとした。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
  遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、民法九五一条にいう
「相続人のあることが明かでないとき」には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条から九五
九条までの同法第五編第六章の規定は、相続財産の帰属すべき者が明らかでない場合におけるその管
理、清算等の方法を定めたものであるところ、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し(同法九九〇
条)、遺言者の死亡の時から原則として同人の財産に属した一切の権利義務を承継するのであって、相続財
産全部の包括受遺者が存在する場合には前記各規定による諸手続を行わせる必要はないからである。
 四 そうすると、右とは異なり、Aには相続財産全部の包括受遺者である上告人Cが存在するにもかかわら
ず、Aに相続人が存在しなかったことをもって、同人の相続財産について民法九五一条以下に規定された相
続人の不存在の場合に関する手続が行われなければならないものとした原審の前記判断は、法令の解釈
適用を誤ったものというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は
理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、貸付信託に係る信託契約の内容等に則し
て各当事者の請求の趣旨及び原因を整理するなど、更に審理を尽くさせる必要があるから、原審に差し戻す
こととする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平9・11・13最判 取り消された遺言の復活
最高裁判所第一小法廷(高松高等裁判所)
遺言無効確認等
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人河村正和、同柳瀬治夫の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係等の概要は次のとおりであり、この事実認定は原判決挙示の証拠関係に照
らして首肯することができる。
 1 Aは、平成三年一一月一五日に死亡した。その法定相続人は、妻であるB並びに子である上告人ら、被
上告人及びCの合計五名である。
 2 亡Aは、昭和六二年一二月六日、自筆証書によって、その遺産の大半を被上告人に相続させる内容の
遺言。(以下「甲遺言」という。)をした。
 3 亡Aは、平成二年三月四日、自筆証書によって、被上告人に相続させる遺産を減らし、甲遺言の内容よ
り多くの遺産を被上告人以外の者に相続させる内容の遺言(以下「乙遺言」という。)をした。乙遺言の末尾に
は、「この遺言書以前に作成した遺言書はその全部を取り消します」との記載がある。
 4 さらに、亡Aは、平成二年一一月八日、自筆証書によって、「Dに渡した遺言状は全て無効としE弁護士
のもとで作成したものを有効とする」と記載された遺言(以下「丙遺言」という。)をした。丙遺言にいう「Dに渡
した遺言状」とは乙遺言書を指し、「E弁護士のもとで作成したもの」とは甲遺言書を指している。
 5 被上告人は、甲遺言に基づき、第一審判決添付第一ないし第三物件目録記載の各不動産について、
相続を原因とする所有権移転登記を行った。
 二 本件訴訟は、上告人らが、乙遺言により甲遺言が失効したとして、甲遺言の無効確認を求めるととも
に、右各不動産について法定相続分に従った共有登記への更正登記手続を求めるものである。これに対
し、被上告人は、亡Aは、丙遺言によって甲遺言と同一の内容の新たな遺言をしたものであり、仮にそうでな
いとしても、民法一〇二五条ただし書の類推適用により、丙遺言によって甲遺言が復活すると主張している。
原審は、甲遺言の復活を認めるべきであるとして、上告人らの本訴請求をいずれも棄却した。
 三 ところで、遺言(以下「原遺言」という。)を遺言の方式に従って撤回した遺言者が、更に右撤回遺言を
遺言の方式に従って撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希
望するものであることが明らかなときは、民法一〇二五条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊
重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解される。これを本件について見ると、前記一の事実関係
によれば、亡Aは、乙遺言をもって甲遺言を撤回し、更に丙遺言をもって乙遺言を撤回したものであり、丙遺
言書の記載によれば、亡Aが原遺言である甲遺言を復活させることを希望していたことがあきらかであるか
ら、本件においては、甲遺言をもって有効な遺言と認めるのが相当である。
 四 そうすると、前記一の事実関係の下において、甲遺言の復活を認めるべきであるとした原審の認定判
断は、是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。

平10・2・13最判 死因贈与の受贈者が限定承認をした相続人であるとき
第二小法廷判決(平8・7・9東京高等裁判所)
請求異議事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人田中紘三、同田中みどりの上告理由について
 不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与
に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に
照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができないというべきである。
けだし、被相続人の財産は本来は限定承認者によって相続債権者に対する弁済に充てられるべきものである
ことを考慮すると、限定承認者が、相続債権者の存在を前提として自ら限定承認をしながら、贈与者の相続人
としての登記義務者の地位と受贈者としての登記権利者の地位を兼ねる者として自らに対する所有権移転登
記手続をすることは信義則上相当でないものというべきであり、また、もし仮に、限定承認者が相続債権者に
よる差押登記に先立って所有権移転登記手続をすることにより死因贈与の目的不動産の所有権取得を相続
債権者に対抗することができるものとすれば、限定承認者は、右不動産以外の被相続人の財産の限度にお
いてのみその債務を弁済すれば免責されるばかりか、右不動産の所有権をも取得するという利益を受け、
他方、相続債権者はこれに伴い弁済を受けることのできる額が減少するという不利益を受けることとなり、限
定承認者と相続債権者との間の公平を欠く結果となるからである。そして、この理は、右所有権移転登記が
仮登記に基づく本登記であるかどうかにかかわらず、当てはまるものというべきである。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、(一) 本件土地の所有者であった服
部庸一は、昭和六二年一二月二一日、本件土地を上告人らに死因贈与し(上告人らの持分各二分の一)、
上告人らは、同月二三日、本件土地につき右死因贈与を登記原因とする始期付所有権移転仮登記を経由し
た、(二) 庸一は平成五年五月九日死亡し、その相続人は上告人ら及び中鉢圭子であったが、圭子につい
ては同年七月九日に相続放棄の申述が受理され、上告人らは同年八月三日に限定承認の申述受理の申立
てをし、右申述は同月二六日に受理された、(三) 上告人らは、平成五年八月四日、本件土地につき右(一)
の仮登記に基づく所有権移転登記を経由した、(四) 被上告人は、庸一に対して有する債権についての執行
証書の正本に庸一の相続財産の限度内においてその一般承継人である上告人らに対し強制執行することが
できる旨の承継執行文の付与を受け、これを債務名義として本件土地につき強制競売の申立てをし、東京地
方裁判所は平成六年一一月二九日強制競売開始決定をし、本件土地に差押登記がされたというのであるか
ら、限定承認者である上告人らは相続債権者である被上告人に対して本件土地の所有権取得を対抗するこ
とができないというべきである。そうすると、本件土地が限定承認における相続債権者に対する責任財産には
当たらないことを理由とする上告人らの本件第三者異議の訴えは棄却すべきものであり、これと同旨の原判
決の結論は正当である。論旨は、原判決の結論に影響のない事項についての違法をいうものであって、採用
することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平10・2・26最判 相続人に対する遺贈と民法1034条にいう目的の価額
最高裁判所第一小法廷(広島高等裁判所)
遺留分減殺
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人鶴田岬の上告理由二の1について相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合にお
いては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法一〇三四条にいう目的
の価額に当たるものというべきである。けだし、右の場合には受遺者も遺留分を有するものであるところ、遺
贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが、
このような結果は遺留分制度の趣旨に反すると考えられるからである。そして、特定の遺産を特定の相続人
に相続させる趣旨の遺言による当該遺産の相続が遺留分減殺の対象となる場合においても、以上と同様に
解すべきである。以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はな
く、論旨は採用することができない。
 その余の上告理由について
 原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認する
ことができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平10・2・26最判 内縁の夫婦の一方の死亡後に他方が右不動産を単独で使用する旨の合意の推認
最高裁判所第一小法廷(福岡高等裁判所)
不当利得返還(破棄差戻し)
主    文
     原判決中、上告人敗訴の部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人保田行雄の上告理由について
 一 原審の確定した事実及び記録によれば、本件の事実関係の概要は次のとおりである。(1)上告人と岡
部Aとは、昭和三四年ころから内縁関係にあって、楽器指導盤の製造販売業を共同で営み、本件不動産を
居住及び右事業のために共同で占有使用していた。(2)Aは昭和五七年に死亡し、本件不動産に関する同
人の権利は、同人の子である被上告人が相続により取得した。(3)上告人は、Aの死亡後、本件不動産を居
住及び右事業のために単独で占有使用している。(4)上告人と被上告人との間では、本件不動産の所有権
の帰属をめぐる訴訟が係属し、被上告人は本件不動産がAの単独所有であったと主張し、上告人はAとの共
有であったと主張して争っていたところ、右訴訟において、本件不動産は上告人とAとの共有財産であったこ
とが認定され、上告人がその二分の一の持分を有することを確認する旨の判決が確定した。
 二 本件は、被上告人が上告人に対し、上告人が本件不動産を単独で使用することによりその賃料相当額
の二分の一を法律上の原因なく利得しているとして、不当利得返還を求めるものであり、原審は、上告人の
持分を超える使用による利益につき不当利得の成立を認めて、被上告人の請求を一部認容した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 共有者は、共有物につき持分に応じた使用をすることができるにとどまり、他の共有者との協議を経ずに当
然に共有物を単独で使用する権原を有するものではない。しかし、共有者間の合意により共有者の一人が
共有物を単独で使用する旨を定めた場合には、右合意により単独使用を認められた共有者は、右合意が変
更され、又は共有関係が解消されるまでの間は、共有物を単独で使用することができ、右使用による利益に
ついて他の共有者に対して不当利得返還義務を負わないものと解される。そして、内縁の夫婦がその共有
する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間に
おいて、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認す
るのが相当である。ただし、右のような両者の関係及び共有不動産の使用状況からすると、一方が死亡した
場合に残された内縁の配偶者に共有不動産の全面的な使用権を与えて従前と同一の目的、態様の不動産
の無償使用を継続させることが両者の通常の意思に合致するといえるからである。
 これを本件について見るに、内縁関係にあった上告人とAとは、その共有する本件不動産を居住及び共同
事業のために共同で使用してきたというのであるから、特段の事情のない限り、右両名の間において、その
一方が死亡した後は他方が本件不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相
当である。そうすると、右特段の事情の有無について審理を尽くさず、不当利得の成立を認めた原審の判断
には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨
はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、右部分につ
き、右特段の事情の有無について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平10・2・27最判 「相続させる」遺言の遺言執行者と賃借権確認請求
第二小法廷判決(東京高等裁判所)
土地賃借権確認、借地権確認請求事件
主    文
 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
 被上告人の訴えを却下する。
 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理    由
 一 本件訴訟は、被上告人が、亡笹川賢雄の遺言執行者である上告人に対して、第一審判決添付物件目
録一記載の土地(以下「本件土地」という。)につき被上告人が賢雄との間で締結した賃貸借契約に基づく賃
借権を有することの確認を求めるものである。原審は、上告人に被告適格があるものと扱い、本件請求は理
由があると判断して、これを認容した第一審判決の結論を維持して上告人の控訴を棄却した。
 二 そこで、職権により上告人の被告適格について検討する。
 1 特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言をした遺言者の意思は、右の相続人に相続開始
と同時に遺産分割手続を経ることなく当該不動産の所有権を取得させることにあるから(最高裁平成元年(オ)
第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)、その占有、管理について
も、右の相続人が相続開始時から所有権に基づき自らこれを行うことを期待しているのが通常であると考えら
れ、右の趣旨の遺言がされた場合においては、遺言執行者があるときでも、遺言書に当該不動産の管理及び
相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者は、
当該不動産を管理する義務や、これを相続人に引き渡す義務を負わないと解される。そうすると、遺言執行者
があるときであっても、遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産についての賃借権
確認請求訴訟の被告適格を有する者は、右特段の事情のない限り、遺言執行者ではなく、右の相続人である
というべきである。
 2 これを本件についてみるに、記録によれば、次の事実が認められる。
 (一) 本件土地を所有していた賢雄は、平成三年七月三日に死亡し、その相続人は笹川賢一(長男)、笹川
博美(二男)、被上告人(三男)、山岸由美子(長女)の四名である。
 (二) 賢雄を遺言者とする遺言公正証書が存在し、その内容の要旨は次のとおりである。
 (1) 本件土地の持分二分の一を賢一に、持分二分の一を被上告人に相続させる。
 (2) 東京都新宿区所在の土地建物を博美に相続させる。
 (3) 預貯金のうちから二〇〇〇万円を由美子に相続させる。
 (4) 預貯金の残額は、遺言執行者の責任において、遺言者の負担すべき公租公課、医療費その他相続
税の支払等に充当すること。
 (5) 博美を祖先の祭祀主宰者及び遺言執行者に指定する。
 (三) 被上告人は、本件土地を占有している。
 3 右事実によれば、本件土地は賢雄の死亡時に賢一と被上告人が相続によりそれぞれ持分二分の一ずつ
を取得したものであり、右1記載の特段の事情も認められないから、本件訴訟の被告適格を有するのは、遺言
執行者である上告人ではなく、賢一であり、上告人を被告とする本件訴訟は不適法なものというべきである(な
お、本件遺言が無効とされる場合には上告人は遺言執行者の地位にないことになるから、この場合においても
上告人を被告とする本件訴訟は不適法である。)。
 4 原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであって、
論旨について判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、第一審判決
を取り消して、本件訴えを却下すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平10・3・10最判 遺留分減殺請求前に譲渡した場合の弁償価額
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
共有持分売却代金
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人根本孔衛、同三嶋健の上告理由第三点の2について
 遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に減殺を受けるべき受遺者が遺贈の目的を他人に譲り渡
した場合には、民法一〇四〇条一項の類推適用により、譲渡の当時譲受人が遺留分権利者に損害を加え
ることを知っていたときを除き、遺留分権利者は受遺者に対してその価額の弁償を請求し得るにとどまるもの
と解すべきである(最高裁昭和五三年(オ)第一九〇号同五七年三月四日第一小法廷判決・民集三六巻三
号二四一頁参照)。そして、右の弁償すべき額の算定においては、遺留分権利者が減殺請求権の行使によ
り当該遺贈の目的につき取得すべきであった権利の処分額が客観的に相当と認められるものであった場合
には、その額を基準とすべきものと解するのが相当である。
 原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人及び被上告人らは、昭和六〇年五月二四日に死亡した
Aの子であるが、Aはその死亡時において本件土地についての借地権の二分の一の割合による持分を有し
ていたところ、上告人は、右借地権持分の遺贈を受け、平成二年三月一三日、練馬ホーム株式会社に対し、
これを自身の有する残りの二分の一の割合による持分と共に当時における客観的に相当な額である二億八
八二九万九九六〇円で売却し、被上告人らは、その後の平成四年二月一〇日、上告人に対し、右遺贈につ
き遺留分減殺請求の意思表示をしたというのである。
 右事実関係の下において、遺留分権利者である被上告人らは、減殺請求権の行使により、それぞれ前記
借地権の二〇分の一の割合による持分を取得すべきであったとした上、民法一〇四〇条一項本文の類推適
用により受遺者である上告人が各被上告人に対して弁償すべき額について、右借地権の売買代金の二〇
分の一に当たる一四四一万四九九八円をもって相当とした原審の判断は、これを是認することができる。所
論引用の最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五元年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六
八頁は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是
認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠
の取捨判断、事実の認定を非難し、独自の見解に基づき原判決の法令違背を主張するか、又は原審の裁
量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができない。よって、裁判官全員一致の
意見で、主文のとおり判決する。

平10・3・13最判 遺言公正証書作成には、証人の立会いを要する
第二小法廷判決(仙台高等裁判所)
遺言無効確認等請求事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人藏大介の上告理由第七の二及び三について
 民法九六九条に従い公正証書による遺言がされる場合において、証人は、遺言者が同条四号所定の署名
及び押印をするに際しても、これに立ち会うことを要するものと解すべきである。けだし、同条一号が公正証書
による遺言につき二人以上の証人の立会いを必要とした趣旨は、遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後日
の紛争を未然に防止しようとすることにあるところ、同条四号所定の遺言者による署名及び押印は、遺言者が、
その口授に基づき公証人が筆記したところを読み聞かされて、遺言の趣旨に照らし右筆記が正確なことを承認
した旨を明らかにし、当該筆記をもって自らの遺言の内容とすることを確定する行為であり、右遺言者による署
名及び押印について、これが前記立会いの対象から除外されると解すべき根拠は存在しないからである。
 原審の適法に確定した事実関係によれば、(1) 真鍋秀光は、平成三年七月一八日、仙台法務局所属公証
人伊藤豊治に対し、本件遺言公正証書の作成を嘱託し、伊藤公証人は、同日午後六時ころから六時三〇分こ
ろまでの間に、秀光の入院先の病室において、加藤久良及び近藤節子を証人として立ち会わせた上、秀光か
ら遺言の趣旨の口授を受けて本件遺言公正証書の原案を作成し、これを秀光に読み聞かせたところ、秀光は、
筆記の正確なことを承認して遺言者としての署名をしたが、同人が印章を所持していなかったことから、手続は
いったん中断された、(2) 伊藤公証人は、被上告人が秀光の印章をその自宅から持ってきた後の同日午後
七時三〇分ころ、前記病室において、近藤の立会いの下、再度筆記したところを読み聞かせ、秀光は、その内
容を確認した上、これに押印した、(3) 右秀光の押印の際、加藤は、これに立ち会わず、病院の待合室で待
機していたが、待合室に戻ってきた伊藤公証人から、秀光の押印を得て完成した本件遺言公正証書を示され
たというのである。
 右のとおり、証人のうちの一人である加藤は、秀光が本件遺言公正証書に押印する際に立ち会っていなか
ったのであるから、本件遺言公正証書の作成の方式には瑕疵があったというべきである。しかし、秀光は、い
ったん証人二人の立会いの下に筆記を読み聞かされた上で署名をし、比較的短時間の後に近藤立会いの下
に再度筆記を読み聞かされて押印を行い、加藤はその直後ころ右押印の事実を確認したものであって、この
間に秀光が従前の考えを翻し、又は本件遺言公正証書が秀光の意思に反して完成されたなどの事情は全
くうかがわれない本件においては、本件遺言公正証書につき、あえて、その効力を否定するほかはないとま
で解することは相当でない。してみると、上告人らの本件遺言無効確認等請求を棄却すべきものとした原審
の判断は、結論において是認することができる。論旨は、結局、原判決の結論に影響しない事項についての
違法をいうものに帰し、採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の
下においては、上告人らの本件請求を棄却すべきものとした原審の判断は、是認できないではない。論旨は
採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平10・3・24最判 特別受益と遺留分減殺の対象
最高裁判所第三小法廷(仙台高等裁判所)
遺留分減殺請求本訴、損害賠償請求反訴
主    文
     原判決中本訴事件に関する部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 一 上告代理人大野藤一の上告理由について
 1 本訴事件は、亡Aの相続人であり遺留分権利者である上告人らが、Aからその生前に土地の贈与を受
けた被上告人らに対し、遺留分減殺請求権を行使した結果上告人らに帰属した右の土地の持分についての
移転登記手続を求めるものであるところ、原審の確定した事実関係及びこれに基づく判断は、次のとおりで
ある。
 (一) Aは、昭和六二年八月二〇日に死亡した。Aの相続人は、妻である上告人B、子である同C及び被上
告人Dである。同Eは同Dの配偶者であり、同峰成及び同繁久は同Dの子である。
 (二) Aは、昭和五三年当時、第一審判決添付物件目録1ないし9記載の土地(以下、同目録記載の番号
により「1の土地」などという。)を所有していたが、同年一〇月一六日に一、3及び6の土地を被上告人E、同
峰成及び同繁久に、4の土地を同Dにそれぞれ贈与し、同五四年一月一六日に2及び5の土地を被上告人
らに贈与した。
 (三) 被上告人らに贈与された1ないし6の土地の右贈与の時点における価額とA所有の財産として残さ
れた7ないし9の土地の右時点における価額を相続税・贈与税の課税実務上の財産評価方法にのっとって
比較すると、固定資産税倍率方式により算出され、贈与税申告の際にも用いられた1ないし6の土地の価額
は合計一一七五万三〇四九円であり、路線価方式により算出された9の土地の価額は一三九七万二〇〇
〇円(一平方メートル当たり一万四〇〇〇円)であるから、7及び8の土地の価額を算出するまでもなく、A所
有の財産として残された7ないし9の土地の価額が被上告人らに贈与された1ないし6の土地の価額を上回
るものということができる。そして、当時Aの財産が減少するおそれもなかったから、右贈与が遺留分権利者
である上告人らに損害を加えることを知ってされたとはいえない。
 (四) 以上によれば、1ないし6の土地は遺留分減殺の対象とならないことが明らかであるから、その余の
点について判断するまでもなく本訴事件についての上告人らの請求は理由がない。
 2 しかしながら、9の土地の相続税・贈与税の課税実務上の価額を路線価方式により一三九七万二〇〇
〇円(一平方メートル当たり一万四〇〇〇円)とした原審の事実認定は是認することができない。その理由
は、次のとおりである。
 原審が、乙八三号証の一、二及び同八四号証の一ないし三により昭和五三年及び同五四年時点における
9の土地に面する路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路又は水路)である道路の路線価が
一平方メートル当たり一万四〇〇〇円であると認定し、これに同土地の登記簿土の地積である九九八平方
メートルを乗じて、同土地の課税実務上の価額を一三九七万二〇〇〇円であると認定したことは、原判決の
説示から明らかである。ところで、路線価とは、路線に接する宅地について評定された一平方メートル当たり
の価額であって、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに設定されるも
のであり、また、路線価方式とは、宅地についての課税実務上の評価の方式であって、路線価を基として計
算された金額をその宅地の価額とするものであり、特段の事情のない限り宅地でない土地の評価に用いるこ
とはでろまでの間、本件土地に土砂を搬入掲乙号証から9の土地に面する道路の路線価が一平方メートル
当たり一万四〇〇〇円であると認定することができるとしても、9の土地の当時の現況が傾斜地を含む山林
であることは鑑定の結果などから明白であるから、前掲乙号証から9の土地の相続税・贈与税の課税実務上
の価額を一三九七万二〇〇〇円(一平方メートル当たり一万四〇〇〇円)と認定することはおよそできない
筋合いである。この点において、原判決には証拠に基づかずに事実を認定した違法があり、この違法は判決
に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決のうち本訴事件に関する部分はすべて破
棄を免れない。
 二 さらに、職権をもって検討すると、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続
開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の
個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のな
い限り、民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解する
のが相当である。けだし、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法一〇四四条、九
〇三条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法一〇三〇条の定め
る要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するに
もかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが
起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。本件についてこれ
をみると、相続人である被上告人Dに対する4の土地並びに2及び5の土地の持分各四分の一の贈与は、格
別の事情の主張立証もない本件においては、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与に当たるも
のと推定されるところ、右各土地に対する減殺請求を認めることが同被上告人に酷であるなどの特段の事情
の存在を認定することなく、直ちに右各土地が遺留分減殺の対象にならないことが明らかであるとした原審
の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。よ
って、原判決のうち上告人らの被上告人Dに対する本訴事件に関する部分は、この点からも破棄を免れな
い。
 三 以上に従い、原判決のうち本訴事件に関する部分については、更に審理を尽くさせるため、これを原審
に差し戻すこととする。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平10・6・11最判 遺留分減殺請求行使と遺産分割請求の関係
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
遺留分減殺、土地建物所有権確認
主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人辰口公治、同小川征也、同岩下孝善の上告理由について
 一 本件は、上告人らが被上告人に対し、遺留分減殺を原因として、第一審判決別紙物件目録記載の不
動産(以下「本件不動産」という。)の所有権及び共有持分の一部移転登記手続を求め、また、被上告人が
上告人らに対し、本件不動産の所有権及び共有持分を有することの確認を求めた事案であり、上告人らが、
減殺すべき遺贈があったことを知った時から元年の間に遺留分減殺の意思表示をしたか否かが争われてい
るものである。
 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 1 Aは、平成五年一一月一〇日に死亡した。Aの相続人は、実子である上告人ら及び同年三月一一日に
Aと養子縁組をした被上告人である。
 2 Aは、昭和六三年七月二〇日付け公正証書遺言をもって、本件不動産の所有権及び共有持分を含む
全財産を被上告人に遺贈していた。
 3 上告人らは、平成六年二月九日、Aの遺言執行者から右公正証書の写しの交付を受け、減殺すべき遺
贈があったことを知った。
 4 上告人らの代理人である小川征也弁護士は、同年九月一四日、被上告人に対し、「貴殿のご意向に沿
って分割協議をすることにいたしました。」と記載した同日付けの普通郵便(以下「本件普通郵便」という。)を
送付し、被上告人は、そのころこれを受領した(なお、被上告人は、第一審において、本件普通郵便が遺産
分割協議を申し入れる趣旨のものであることを認める陳述をしている。)。
 5 被上告人は、本件普通郵便を受領した後、相談のためにB弁護士を訪れ、遺留分減殺について説明を
受けた。
 6 小川弁護士は、同年一〇月二八日、被上告人に対し、遺留分減殺の意思表示を記載した内容証明郵
便(以下「本件内容証明郵便」という。)を発送したが、被上告人が不在のため配達されなかった。被上告人
は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知っ
たが、仕事が多忙であるとして受領に赴かなかった。そのため、本件内容証明郵便は、留置期間の経過によ
り小川弁護士に返送された。
 7 被上告人は、同年一一月七日、小川弁護士に対し、多忙のために右郵便物を受け取ることができない
でいる旨及び遺産分割をするつもりはない旨を記載した書面を郵送しており、本件内容証明郵便の内容が
本件遺産分割に関するものではないかと推測していた。
 8 小川弁護士は、平成七年三月一四日、被上告人に対し、上告人らの遺留分を認めるか否かを照会する
同日付けの普通郵便を送付し、被上告人は、遅くとも同月一六日までにこれを受領したが、この時点では、
既に平成六年二月一〇日から民法一〇四二条前段所定の元年の消滅時効期間が経過していた。なお、上
告人らは、終始、前記遺贈の効力を争っていなかった。
 二 上告理由一は、本件普通郵便による申入れが遺留分減殺の意思表示を包含するか否かの争点に関
するものである。
 1 原審は、この点につき、被上告人は本件普通郵便を受け取る前に上告人らから遺留分減殺の意向を示
されておらず、本件普通郵便の内容は、極めて簡単なものであって、上告人らが遺留分減殺請求権を行使
することについては全へ触れられていないから、遺留分減殺の意思表示を含むものとはいえないと判断し
た。
 2 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (一)遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留
分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、。被相続人の全財産が相続人の一部の者
に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには法律上、遺留分殺によ
るほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議
の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると
解するのが相当である。
 (二)これを本件について見るに、前記一の事実関係によれば、Aはその全財産を相続人の一人である被
上告人に遺贈したものであるところ、上告人らは、右遺贈の効力を争っておらず、また、本件普通郵便は、遺
留分減殺に直接触れるところはないが、少なくとも、上告人らが、遺産分割協議をする意思に基づき、その申
入れをする趣旨のものであることは明らかである。そうすると、特段の事情の認められない本件においては、
本件普通郵便による上告人らの遺産分割協議の申入れには、遺留分減殺の意思表示が含まれていると解
するのが相当である。
 三 以上と異なる原審の判断には、遺留分減殺に関する意思表示の解釈を誤った違法があるといわざるを
得ず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨は、理由がある。
 (三)上告理由二は、本件内容証明郵便による遺留分減殺の意思表示が被上告人に到達したか否かの争
点に関するものである。
 1 原審は、前記一の事実関係の下において、次のとおり判示して、右意思表示の到達を否定した。
 すなわち、本件普通郵便を受け取ったことによって、被上告人において、上告人らが遺留分に基づいて遺
産分割協議をする意思を有していると予想することは困難であり、被上告人としては、小川弁護士から本件
内容証明郵便が差し出されたことを知ったとしても、これを現実に受領していない以上、本件内容証明郵便
に上告人らの遺留分減殺の意思表示が記載されていることを了知することができたとはいえない。そうする
と、本件内容証明郵便が留置期間経過によって小川弁護士に返送されている以上、一般取引観念に照ら
し、右意思表示が被上告人の了知可能な状態ないし勢力範囲に置かれたということはできず、また、上告人
らとしては、直接被上告人宅に出向いて遺留分減殺の意思表示をするなどの他の方法を採ることも可能で
あったというべきであり、上告人らの側として常識上なすべきことを終えたともいえない。さらに、被上告人に
おいて、正当な理由なく上告人らの遺留分減殺の意思表示の受領を拒絶したと認めるに足りる証拠もない。
 2 しかしながら、原審の右判断も是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (一)隔地者に対する意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法
九七条一項)、右にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知さ
れることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解され
る(最高裁昭和三三年(オ)第三一五号同三六年四月二〇日第一小法廷判決・民集一五巻四号七七四頁参
照)。
 (二)ところで、本件当時における郵便実務の取扱いは、(1)内容証明郵便の受取人が不在で配達できな
かった場合には、不在配達通知書を作成し、郵便受箱、郵便差入口その他適宜の箇所に差し入れる、(2)
不在配達通知書には、郵便物の差出人名、配達日時、留置期限、郵便物の種類(普通、速達、現金書留、そ
の他の書留等)等を記入する、(3)受取人としては、自ら郵便局に赴いて受領するほか、配達希望日、配達
場所(自宅、近所、勤務先等)を指定するなど、郵便物の受取方法を選択し得る、(4)原則として、最初の配
達の日から七日以内に配達も交付もできないものは、その期間経過後に差出人に還付する、というものであ
った(郵便規則七四条、九〇条、平成六年三月一四日郵郵業第一九号郵務局長通達「集配郵便局郵便取
扱手続の制定について」別冊・集配郵便局郵便取扱手続二七二条参照)。
 (三)前記一の事実関係によれば被上告人は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便
(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り(右(二)(2)参照)、その内容が本件遺産分割に関するもので
はないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けて
いた等の事情が存することを考慮すると、被上告人としては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意
思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべ
きである。また、被上告人は、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあった
ものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法
を指定することによって(右(二)(3)参照)、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領する
ことができたものということができる。そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示
は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到
達したものと認めるのが相当である。
 (四)以上と異なる原審の判断には、意思表示の到達に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、右違
法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨も、理由がある。
 四 以上のとおり、原判決はいずれの点からしても破棄を免れず、上告人らが被上告人に対して遺留分減
殺の意思表示をしたことを前提として改めて審理をさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。よって、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平10・7・17最判 追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
根抵当権設定登記抹消登記手続請求本訴、同反訴(破棄自判)
主    文
一 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
二 被上告人兵庫県信用保証協会は、上告人らに対し、第一審判決別紙物件目録記載の(一)ないし(三)
の各物件について同判決別紙登記目録記載の(一)の各登記の
抹消登記手続をせよ。
三 被上告人株式会社第一勧業銀行は、上告人らに対し、同物件目録記載の(一)ないし(三)の各物件につ
いて同登記目録記載の(二)の各登記の抹消登記手続をせよ。
四 被上告人Aは、上告人らに対し、同物件目録記載の(一)ないし(三)の各物件について同登記目記載の
(三)の各登記の、同物件目録記載の(三)の物件について同登
記目録記載の(四)の登記の、同物件目録記載の(四)の物件について同登記目録記載の(五)の登記の抹
消登記手続をせよ。
五 被上告人株式会社コミティは、上告人らに対し、同物件目録記載の(一)の物件について同登記目録記
載の(六)の登記の、同物件目録記載の(二)の物件について同
登記目録記載の(七)の登記の、同物件目録記載の(三)の物件について同登記目録記載の(八)及び(九)
の各登記の抹消登記手続をせよ。
六 被上告人株式会社コミティの反訴請求を棄却する。
七 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告人Bの代理人八代紀彦、同佐伯照道、同西垣立也、上告人C及びDの代理人新原一世、同田口公
丈、同浜口卯一の上告理由二について
 一 原審の適法に確定した事実等の概要は、次のとおりである。
 1 Eは、第一審判決別紙物件目録記載の各物件(以下「本件各物件」という。なお、右各物件は、同目録
記載の番号に従い「物件(一)」のようにいう。)を所有していたが、遅くとも昭和五八年一一月には、脳循環
障害のために意思能力を喪失した状態に陥った。
 2 昭和六〇年一月二一日から同六元年四月一九日までの間に、被上告人兵庫県信用保証協会は物件
(一)ないし(三)について第一審判決別紙登記目録記載の(一)の各登記(以下「登記(一)」という。なお、同
目録記載の他の登記についても、同目録記載の番号に従い右と同様にいう。)を、被上告人株式会社第一
勧業銀行(以下「被上告銀行」という。)は物件(一)ないし(三)について各登記(二)を、被上告人Aは物件
(一)ないし(三)について各登記(三)、物件(三)について登記(四)、物件(四)について登記(五)を、被上告
人株式会社コミティ(以下「被上告会社」という。)は物件(一)について登記(六)、物件(二)について登記
(七)、物件(三)について登記(八)及び登記(九)をそれぞれ経由した。しかし、右各登記は、同六〇年一月
一日から同六一年四月一九日までの間に、Eの長男であるFがEの意思に基づくことなくその代理人として被
上告人らとの間で締結した根抵当権設定契約等に基づくものであった。
 3 Fは、昭和六元年四月一九日、Eの意思に基づくことなくその代理人として、被上告会社との間で、Eが
有限会社あざみの被上告会社に対する商品売買取引等に関する債務を連帯保証する旨の契約を締結し
た。
 4 Fは、昭和六元年九月一日、死亡し、その相続人である妻のG及び子の上告人らは、限定承認をした。
 5 Eは、昭和六二年五月二一日、神戸家庭裁判所において禁治産者とする審判を受け、右審判は、同年
六月九日、確定した。そして、Eは、同人の後見人に就職したGが法定代理人となって、同年七月七日、被上
告人らに対する本件各登記の抹消登記手続を求める本訴を提起したが、右事件について第一審において審
理中の同六三年一〇月四日、Eが死亡し、上告人らが代襲相続により、本件各物件を取得するとともに、訴
訟を承継した。
 二 本件訴訟において、上告人らは、被上告人らに対し、本件各物件の所有権に基づき、本件各登記の抹
消登記手続を求め、被上告会社は、反訴として、上告人らに対し、Eの相続人として前記連帯保証債務を履
行するよう求めている。被上告人らは、本件各登記の原因となる根抵当権設定契約等がFの無権代理行為
によるものであるとしても、上告人らは、Fを相続した後に本人であるEを相続したので、本人自ら法律行為を
したと同様の地位ないし効力を生じ、Fの無権代理行為についてEがした追認拒絶の効果を主張すること又
はFの無権代理行為による根抵当権設定契約等の無効を主張することは信義則上許されないなどと主張す
るとともに、被上告銀行及び被上告会社は、Fの右行為について表見代理の成立をも主張する。これに対
し、上告人らは、Eが本訴を提起してFの無権代理行為について追認拒絶をしたから、Fの無権代理行為がE
に及ばないことが確定しており、また、上告人らはFの相続について限定承認をしたから、その後にEを相続
したとしても、本人が自ら法律行為をしたのと同様の効果は生じないし、前記根抵当権設定契約等が上告人
らに対し効力を生じないと主張することは何ら信義則に反するものではないなどと主張する。
 三 原審は、前記事実関係の下において、次の理由により、上告人らの請求を棄却し被上告会社の反訴
請求を認容すべきものとした。
 1 Eは被上告銀行及び被上告会社が主張する表見代理の成立時点以前に意思能力を喪失していたか
ら、右被上告人らの表見代理の主張は前提を欠く。
 2 上告人らは、無権代理人であるFを相続した後、本人であるEを相続したから、本人と代理人の資格が
同一人に帰したことにより、信義則上本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じ、本人であ
るEの資格において本件無権代理行為について追認を拒絶する余地はなく、本件無権代理行為は当然に有
効になるものであるから、本人が訴訟上の攻撃防御方法の中で追認拒絶の意思を表明していると認められ
る場合であっても、その訴訟係属中に本人と代理人の資格が同一人に帰するに至った場合、無権代理行為
は当然に有効になるものと解すべきである。
 四 しかしながら、原審の右三2の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権
代理行為が有効になるものではないと解するのが相当である。けだし、無権代理人がした行為は、本人がそ
の追認をしなければ本人に対してその効力を生ぜず(民法一一三条一項)、本人が追認を拒絶すれば無権
代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行
為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続したとしても、右追認拒絶の効果
に何ら影響を及ぼすものではないからである。このように解すると、本人が追認拒絶をした後に無権代理人
が本人を相続した場合と本人が追認拒絶をする前に無権代理人が本人を相続した場合とで法律効果に相
違が生ずることになるが、本人の追認拒絶の有無によって右の相違を生ずることはやむを得ないところであ
り、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張することがそれ自体信義則に反するものであると
いうことはできない。
 これを本件について見ると、Eは、被上告人らに対し本件各登記の抹消登記手続を求める本訴を提起した
から、Fの無権代理行為について追認を拒絶したものというべく、これにより、Fがした無権代理行為はEに対
し効力を生じないことに確定したといわなければならない。そうすると、その後に上告人らがEを相続したから
といって、既にEがした追認拒絶の効果に影響はなく、Fによる本件無権代理行為が当然に有効になるもの
ではない。そして、前記事実関係の下においては、その他に上告人らが右追認拒絶の効果を主張することが
信義則に反すると解すべき事情があることはうかがわれない。
 したがって、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼ
すことが明らかである。論旨は理由があり、原判決はその余の上告理由について判断するまでもなく破棄を
免れない。そして、前記追認拒絶によってFの無権代理行為が本人であるEに対し効力を生じないことが確
定した以上、上告人らがF及びEを相続したことによって本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地
位を生じたとする被上告人らの主張は採用することができない。また、前記事実関係の下においては、被上
告銀行及び被上告会社の表見代理の主張も採用することができない。上告人らの請求は理由があり、被上
告会社の反訴請求は理由がないから、第一審判決を取り消し、上告人らの請求を認容し、被上告会社の反
訴請求を棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平10・10・13名古屋高判 遺産分割及び寄与分を定める処分申立審判に対する即時抗告事件
名古屋高等裁判所?? ?? 民事第三部
遺産分割及び寄与分を定める処分申立審判に対する即時抗告事件
主    文
     一 原審判を次のとおり変更する。
     二 抗告人A、同B、何Cの本件遺産分割の申立て及び寄与分を定める
処分の申立てをいずれも却下する。
     三 手続費用は、原審及び当番とも、抗告人A、同B、同Cの負担とす
る。
         理    由
 一 本件各抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告人A、同B、同Cの抗告状及び抗告
理由書(二通)、抗告人Bの抗告理由書、抗告人Dの抗告書及び抗告理由書、抗告
人Eの抗告書及び抗告書・抗告理由書(二通)、抗告人Fの抗告書及び抗告書・抗
告理由書記載のとおりである。
 二 当裁判所の認定事実
 次のとおり付加するほか、原審判四枚目表の一一行目冒頭から五枚目裏の二行目
末尾までと同一であるから、これを引用する。
 1 原審判五枚目裏一〇行目末尾の後に、次のとおり加える。
 「なお、同判決の理由中で、物件4、9はGの固有財産であったと説示されてい
る。
 (5) 本件においては、前の審判で遺産であるとされた物件は三一筆で、その
相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価合計は、それぞれ一億八八〇三万
八四三四円、三億八二一六万五五六三円であるのに対し、判決で遺産でないとされ
た物件のうち、物件4の相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価は、それ
ぞれ一五五万一六四五円、三三〇万四二六〇円で、物件9の相続開始時及び右審何
時の昭和六二年ころの時価は、それぞれ四七八万二五四〇円、一〇一二万〇九二〇
円であるにとどまる。」
 三 当裁判所の判断
 <要旨>1 前の遺産分割の審判において、その対象となった物外の一部が、その
後の判決によって遺産でないとさ</要旨>れたときには、その遺産でないとされた物
件か前の審判で遺産の大部分または重要な部分であると扱われていたなどの特段の
事情のない限り、遺産でないとされた物件についての前の審判による分割の効力の
みが否定され、その余の物件についての分割は有効であると解するのが相当であ
る。
 けだし、右の特段の事情のある場合には前の審判による遺産分割の意味が失われ
るので、前の審判を無効とすべきであるか、そうでない限り、前の審判そのものを
無効とすべき理由はないからである。そして、このように解したとしても、遺産で
ないとされた物件を取得するとされた相続人は、民法九一一条に基づき、他の相続
人に対し、その相続分に応じた担保責任を求めることができると解するのが相当で
あるから、格別不当な結果が生じるものではない。
 2 しかるに、前記認定(引用にかかる原審判の認定を含む。)のとおり、本件
においては、前の審判で遺産であるとされた物件は三一筆で、その相続開始時及び
右審判時の昭和六二年ころの時価合計は、それぞれ一億八八〇三万八四三四円、三
値八二一六方五五六三円であるのに対し、判決で遺産でないとされた物件のうち、
物件4の相続開始時及び右審判時の昭和六二年ころの時価は、それぞれ一五五万一
六四五円、三三〇万四二六〇円で、物件9の相続開始時及び右審判時の昭和六二年
ころの時価は、それぞれ四七八万二五四〇円、一〇一二万〇九二〇円であるにとど
まること、前の審判で、物件4を所得するとされたHは他に物件2、6、11、3
1を取得するとされ、物件9を取得するとされたGは他に物件1、5、8、10、
12、13、18、19、24、27、28、29、30を取得するとされていた
ことからすれば、右の特段の事情はないというべきである。したがって、物件4、
9については前の審判による分割の効力が否定されるものの、その余の物件につい
ての遺産分割は有効であると認められる。
 そうとすれば、本件においては、前の審判によって被相続人の遺産は全て分割済
みであって、すでに分割すべき遺産か存しないので、抗告人A、同B、同Cの本件
遺産分割の申立て及び寄与分を定める処分の申立ては不適応であるから、これを却
下すべきである。
 四 結論
 よって、右と異なる原審判を変更することとし、手続費用の負担につき家事審判
広七条、非訟事件手続法二六条を適用して、主文のとおり決定する。


平11・1・21最判 相続債権者が相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することの可否
最高裁判所第一小法廷(大阪高等裁判所)
根抵当権設定仮登記本登記手続(破棄自判)
主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         
理    由
 上告人の上告受理申立て理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 亡Aは、平成元年九月二五日、被上告人に対する四億円の債務を担保するため、原判決別紙物件目
録記載の不動産に、極度額四億四〇〇〇万円の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定したが、そ
の設定登記手続はされなかった。
 2 Aは、平成七年一月三〇日に死亡した。
 3 被上告人は、本件根抵当権について、仮登記を命ずる仮処分命令を得て、平成七年三月二〇日、平成
元年九月二五日設定を原因とする根抵当権設定仮登記(以下「本件仮登記」という。)を了した。
 4 その後、Aの法定相続人全員が相続の放棄をし、平成八年四月一五日、被上告人の申立てにより、B
が亡A相続財産(上告人)の相続財産管理人に選任された。
 二 本件は、被上告人が、本件根抵当権につき、上告人に対し、本件仮登記に基づく本登記手続を請求す
るものである。原審は、大要次のように判示して、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消し、被上
告人の請求を認容した。
 相続財産法人は、被相続人の権利義務を承継した相続人と同様の地位にあるから、被上告人と亡Aとの
間に根抵当権設定契約がされている以上、被上告人の請求には理由がある。民法九五七条二項において
準用する九二九条ただし書の「優先権を有する債権者」とは相続開始時までに対抗要件を備えている債権
者を指すと解すべきであるから、これに当たらない被上告人が登記手続を求める実益はないといえなくもな
いが、実益がないというのも、飽くまで相続財産法人が存続し、右ただし書が適用される限りにおいてのこと
にすぎないばかりでなく、抵当権者が抵当権設定者に対して設定登記手続を請求する権利の実現を図るこ
とができるのは当然のことである。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 相続人が存在しない場合(法定相続人の全員が相続の放棄をした場合を含む。)には、利害関係人等
の請求によって選任される相続財産の管理人が相続財産の清算を行う。管理人は、債権申出期間の公告を
した上で(民法九五七条一項)、相続財産をもって、各相続債権者に、その債権額の割合に応じて弁済をしな
ければならない(同条二項において準用する九二九条本文)。ただし、優先権を有する債権者の権利を害す
ることができない(同条ただし書)。この「優先権を有する債権者の権利」に当たるというためには、対抗要件
を必要とする権利については、被相続人の死亡の時までに対抗要件を具備していることを要すると解するの
が相当である。相続債権者間の優劣は、相続開始の時点である被相続人の死亡の時を基準として決するの
が当然だからである。この理は、所論の引用する判例(大審院昭和一三年(オ)第二三八五号同一四年一二
月二一日判決・民集一八巻一六二一頁)が、限定承認がされた場合について、現在の民法九二九条に相当
する旧民法一〇三一条の解釈として判示するところであって、相続人が存在しない場合についてこれと別異
に解すべき根拠を見いだすことができない。
 したがって、相続人が存在しない場合には(限定承認がされた場合も同じ。)、相続債権者は、被相続人か
らその生前に抵当権の設定を受けていたとしても、被相続人の死亡の時点において設定登記がされていな
ければ、他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく優先権を対抗することができないし、被相続人
の死亡後に設定登記がされたとしても、これによって優先権を取得することはない(被相続人の死亡前にさ
れた抵当権設定の仮登記に基づいて被相続人の死亡後に本登記がされた場合を除く。)。
 2 相続財産の管理人は、すべての相続債権者及び受遺者のために法律に従って弁済を行うのであるか
ら、弁済に際して、他の相続債権者及び受遺者に対して対抗することができない抵当権の優先権を承認する
ことは許されない。そして、優先権の承認されない抵当権の設定登記がされると、そのことがその相続財産
の換価(民法九五七条二項において準用する九三二条本文)をするのに障害となり、管理人による相続財産
の清算に著しい支障を来すことが明らかである。したがって、管理人は、被相続人から抵当権の設定を受け
た者からの設定登記手続請求を拒絶することができるし、また、これを拒絶する義務を他の相続債権者及び
受遺者に対して負うものというべきである。
 以上の理由により、相続債権者は、被相続人から抵当権の設定を受けていても、被相続人の死亡前に仮
登記がされていた場合を除き、相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することができないと解
するのが相当である。限定承認がされた場合における限定承認者に対する設定登記手続請求も、これと同
様である(前掲大審院判例を参照)。なお、原判決の引用する判例(最高裁昭和二七年(オ)第五一九号同二
九年九月一〇日第二小法廷判決・裁判集民事一五号五一三頁)は、本件の問題とは事案を異にし、右に説
示したところと抵触するものではない。
 3 したがって、被上告人には、本件根抵当権につき、上告人に対し、本件仮登記に基づく本登記手続を請
求する権利がないものというべきである。
 四 以上のとおりであるから、被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断には法令の解釈適用を
誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原
判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した事実によれば、被上告人の請求を棄却した第一審判決は
正当として是認すべきものであって、被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平11・3・9最判 被相続人の生存中に相続人に対し売買を原因としてされた所有権移転登記について
第3小法廷判決(大阪高等裁判所)
所有権移転登記等抹消登記手続、所有権移転登記手続、損害賠償請求事件
主    文
一 原判決中被上告人らの上告人安祐司に対する更正登記手続請求及び上告人朝銀奈良信用組合に対する
右更正登記手続についての承諾請求に関する部分を次のとおり変更する。
1 上告人安祐司は、第一審判決別紙物件目録一記載の各物件に関し、被上告人安玉順に対しては持分二一
分の七について、同安美智子及び同安和子に対しては各持分二一分の四について、いずれも真正な登記名義
の回復を原因とする持分移転登記手続をせよ。
2 上告人朝銀奈良信用組合は、被上告人らに対し、第一審判決別紙物件目録一記載の各物件について奈良
地方法務局昭和五四年八月一五日受付第三一四二〇号をもってされた根抵当権設定登記を、上告人安祐司
の持分についての根抵当権設定登記に改めるとの更正登記手続をせよ。
二 上告人安祐司の右登記手続請求以外の請求に関する上告を却下する。
三 訴訟の総費用は上告人らの負担とする。
理    由
 一 上告代理人宮崎乾朗、同板東秀明、同田中英行、同大石和夫、同玉井健一郎、同辰田昌弘、同関聖、
同塩田慶、同松並良、同河野誠司、同水越尚子、同下河邊由香の上告理由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、
又は原審の認定しない事実に基づいて原判決の違法をいうものであって、採用することができない。
 二 職権により、被上告人らの上告人祐司に対する更正登記手続請求及び上告組合に対する右更正登記
手続についての承諾請求について判断する。
 1 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。(1) 第一審判決別紙物件目録一記載の各物
件(以下「本件物件」という。)は、昭和五四年当時、安奎五の所有に属するものであった。本件物件について
は、同年七月二六日受付により、同日売買を原因とする奎五から上告人祐司に対する所有権移転登記がされ
ている。しかし、実際には、奎五と上告人祐司との間には、本件物件について売買契約又は贈与契約は締結
されていない。(2) 本件物件については、その後の昭和五四年八月一五日受付をもって、債務者を上告人
祐司、根抵当権者を上告組合、極度額を三〇〇〇万円などとする根抵当権設定登記がされている。(3) 
奎五は、昭和五九年九月一一日に死亡し、相続及びその後の持分譲渡により、本件物件について、いずれ
も同人の子である上告人祐司がその二一分の六の持分を、被上告人玉順が二一分の七の持分を、その余
の被上告人らがそれぞれ二一分の四の持分を取得した。
 2 本件において、被上告人らは、上告人祐司に対しては、奎五から上告人祐司に対する右所有権移転登記
について、これを昭和五九年九月一一日相続を原因とし同上告人及び被上告人らの各持分を右のとおりとする
所有権移転登記に改めるとの更正登記手続をするよう求め、上告組合に対しては、右更正登記手続について
承諾をするよう求めているところ、原審は、奎五と上告人祐司との間において売買契約又は贈与契約が締結さ
れた事実は認められないとして、これらの請求を認容した。
 3 しかし、被相続人の生存中に売買を原因として相続人の一人に対する所有権移転登記がされた場合、
被相続人の死亡後に、右登記を相続を原因とするものに改めるとの更正登記手続をすることはできないものと
解すべきである。けだし、右登記がされた当時被相続人は生存中で、同人につき相続が開始することがあり
得ないのは明らかであり、右更正登記手続は、帰するところ、実体法上は生ずることのない物権変動を原因と
する登記を行うものであって、これを認めることはできないからである。
 4 しかしながら、記録によれば、本件において、被上告人らは、登記簿上は上告人祐司の単独所有に係る
ものとして権利関係が表示されている本件物件につき、被上告人ら各自の現在の持分に応じて右表示を是正
するよう求めているにほかならず、その請求が意図するところは、上告人祐司に対する関係では被上告人ら
各自の持分についての真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続を、上告組合に対する関係で
は本件物件全部についての根抵当権設定登記を上告人祐司の持分についての根抵当権設定登記に改める
との更正登記手続を、それぞれ求めていると解することができ、右各請求はいずれも理由があるものというべ
きである。したがって、原判決中上告人祐司に対する更正登記手続請求及び上告組合に対する右更正登記
手続についての承諾請求に関する部分は、主文第一項に記載のとおり変更すべきである。
 なお、原判決中右登記手続請求以外の請求に関する部分について、上告人祐司は上告理由を記載した書
面を提出しないから、同上告人の右部分に関する上告は、不適法として却下することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平11・6・8大阪高判 持戻免除と遺留分の基礎となる財産
大阪高等裁判所?? ?? 第10民事部
遺留分減殺請求事件
 主    文
      一 本件控訴を棄却する。
      二 控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
第一 当事者の求める裁判
 一 控訴人
  1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
  2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
  3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 二 被控訴人ら
   主文と同旨。
第二 当事者の主張
 一 原判決の引用、補正
  1 当事者双方の主張は、次の二、三のとおり附加するほかは、原判決の「第
二事案の概要」欄(七頁九行目から二二頁一行目まで)に記載のとおりであるか
ら、これを引用する。
  2 ただし、次のとおり補正する。
   (一) 原判決八頁一一行目の次に行を改め、次のとおり加える。
    「以上の贈与はいずれも、aが子供達に生計の資本として贈与したもので
あり、民法九〇三条一項所定の特別受益に当たる。」
   (二) 同九頁一行目の「預金」を「同V記載の預金」と改める。
   (三) 同頁四ないし六行目を次のとおり改める。
    「原判決添付の別紙生前贈与目録T記載1ないし23の農地の相続開始時
の評価額は、同農地の該当評価額欄記載のとおりである。」
   (四) 同末尾添付の別紙生前贈与目録U「b」欄記載1の土地評価額を、
本判決添付の別紙生前贈与目録U「b」欄記載1の土地評価額に改める。
   (五) 同九頁一一行目の「原告c」を「被控訴人c」と改める。
   (六) 同一七頁一〇、一一行目の「(ただし、原告bの家屋は一〇〇万円
と評価する。)」を削る。
   (七) 同一八頁五、六行目の「別紙記載のとおりである」の次に「(ただ
し、被控訴人bの家屋は一〇〇万円と評価する。)」を加える。
   (八) 同二〇頁九行目の次に行を改め、次のとおり加える。
    「(当事者双方の主張の対比)
      当事者間で争いがある評価額は、本判決添付の別紙遺産目録、同生前
贈与目録記載の・ないし・である。その主張の相違点は、本判決添付の別紙『争い
ある評価額の主張、認定の対比』記載の・ないし・のとおりである。」
二 控訴人の当審補充主張
1 遺留分の算定と特別受益、持戻免除の意思表示(争点1)。
 被相続人が、生前、共同相続人の一人に対してなした贈与(特別受益)に
ついて、持戻免除の意思表示がある場合には、第三者に対する一般贈与と同様に、
相続開始前一年間に行われたとき、及び当事者双方に遺留分侵害の意思があるとき
にのみ、右贈与を遺留分算定の基礎財産に加算すべきである(民法一〇三〇条)。
    もし、持戻免除の意思表示がある場合にも、生前贈与財産を遺留分算定の
基礎財産に算入するとなると、持戻が行われない他の場合、すなわち特別受益を受
けた相続人が相続を放棄した場合、相続欠格事由が発見され、あるいは廃除の審判
が確定した場合にも同様に扱わなければならない。ところが、これらの者は共同相
続人ではないから、この種の贈与を当然に遺留分算定の基礎財産に加算する条文上
の根拠がなく、均衡を失する。
aは、控訴人に対する贈与の際、あるいは本件遺言において、控訴人に対
する特別受益の持戻免除の意思表示をしている。しかも、控訴人の受けた生前贈与
は、相続開始の一年以上前にされたものであるから、遺留分算定の基礎財産に算入
すべきではない。
2 高校進学の特別受益(争点2)
原判決が、被控訴人らの特別受益額を、高校教育に必要であった費用に限
定したのは不当である。被控訴人らは、高校卒業の資格を得て就職することが可能
になったのであり、高校進学の利益は教育費用だけにとどまらない。被控訴人らの
進学による特別受益額は、原判決の認定額一〇〇万円をはるかに超える金額であ
る。
  3 生前贈与財産の評価額(争点3)
    原判決は、本件遺産や生前贈与財産の評価額を、相続開始時のd鑑定の評
価額によっている。ところが、別紙生前贈与目録T記載番号26、27の小作権
(以下、26、27の小作権という)のみ、相続開始後に道路拡幅のために買収さ
れた価額によっている。これは整合性を欠き、根拠のないもので不当である。
 三 被控訴人らの主張
  1 遺留分の算定と特別受益、持戻免除の意思表示(争点1)。
(一) aが控訴人に法定相続分をはるかに超える農地を贈与したのは、農
業を承継させようとしたのではなく、あくまで親として何らかの生活の糧を残して
やりたいとの意図からにすぎない。かかる事実関係下において、aの生前贈与又は
本件遺言に持戻免除の意思表示があったとする原判決の認定は誤りである。
(二) 民法一〇四四条が九〇三条三項を準用したのは、遺留分権利者の最
低限度の生活を保護し、共同相続人間の公平を図る趣旨からである。民法九〇三条
三項は、明文で「遺留分に関する規定に反しない範囲内で」と規定しており、共同
相続人間の公平を図ろうとする本条項の趣旨から、容易に原判決の結論を導きうる
ものである。
2 高校進学の特別受益(争点2)
(一) 被控訴人e
被控訴人eが高校に在学した昭和三四年から昭和三七年当時、既に高校
への進学は珍しいことではなく、高校教育は義務教育に準じたものになっていた。
高校進学に要する学資は、「生計の資本」に該当しない。かかる学費を特別受益と
認めた原判決の判断は不当である。
   (二) 被控訴人b
     被控訴人bが高校に入学した昭和三〇年頃は、授業料のみならず、生活
費も今よりはるかに低額であったから、一〇〇万円の原審認定は何ら不当なもので
はない。
  (三) 被控訴人c
原判決が高校教育に必要であった費用一〇〇万円を特別受益と認定して
いるが、被控訴人cは不服である。被控訴人cが高校に進学した昭和二五年頃は、
高校進学率も高くなっており、高校へ行くことが珍しくなくなっていた。被控訴人
cは、高校在学中も農作業や牛の世話をしており、一家の労働を担っていた。特に
利益を得たものではない。
  3 遺産、生前贈与財産の評価額(争点3)
被控訴人eは、原判決の遺産、生前贈与財産の評価額中、次の諸点に不服
がある。
(一) 原判決は、別紙遺産目録T記載5の建物(以下、控訴人の旧自宅建
物という)の評価額を零としている。しかし、控訴人は現在も右建物の一部を倉庫
として使用しており、右建物は現在も家屋としての機能を果たしている。したがっ
て、少なくとも固定資産税の課税評価額二五万三三〇〇円で評価すべきである。
   (二) 原判決は、別紙生前贈与目録U記載「e」欄1の土地(以下、被控
訴人eの土地という)の評価額について、f鑑定(一〇八七万円)を排斥し、d鑑
定どおりの認定(一四四七万一〇〇〇円)をしている。
しかし、被控訴人eの土地は、建築基準法上の接道要件を充たしておら
ず、建物の再築ができない土地である。ところが、d鑑定は、接面街路条件を標準
よりわずか〇・〇四ポイント減じた評価にとどまっており、現況を無視した鑑定で
ある。
原判決は、被控訴人eの土地の評価に当たり、被控訴人eが行った盛り
土工事費用、ブロック工事費用、上水道敷設工事費用合計一三七万五二六四円を控
除しておらず、不当である。
         理    由
第一 認定、判断の大要
  当裁判所の認定、判断の大要は、原判決と同様であり、次のとおりである。
 一 aは、平成元年二月aの全財産を控訴人に贈与する旨の自筆証書遺言をし、
平成四年八月死亡した。aの相続人は、aの子である控訴人及び被控訴人らであ
る。そこで、被控訴人らは控訴人に対し、遺留分減殺の意思表示をした上、本訴で
遺留分減殺を請求した。
 二 aの遺産は、別紙遺産目録T記載の不動産、同U記載の債権、同V記載の預
金である。aは、生前、いずれも生計の資本として、控訴人、被控訴人らに対し、
次のとおり贈与していた。
  1 aは昭和六三年五月控訴人に対し、別紙生前贈与目録T記載の農地(以
下、本件農地という)の所有権及び小作権を贈与した。
  2 aは昭和四三年頃被控訴人eに対し、同目録U記載の「e」欄の土地建物
(被控訴人eの土地建物)を贈与した。
  3 aは、昭和四三年から昭和四五年にかけて、被控訴人bに対し、同目録U
記載の「b」欄の土地建物(以下、被控訴人bの土地建物という)を贈与した。
  4 aは昭和五〇年頃被控訴人cに対し、同目録U記載の「c」欄の川崎製鉄
の株式二万株を贈与した。
 三 aは、控訴人に対する本件農地の生前贈与について、持戻免除の意思表示を
していた。しかし、aの右意思表示は、遺留分に関する規定に反しない範囲で効力
を有するにすぎないので、控訴人の受けた生前贈与(本件農地)も含めて遺留分算
定の基礎財産を算出すべきである。
四 被控訴人らが高校教育を受け、高校卒業の資格を得て就職することが可能と
なったことを、特別受益と評価できる。その相続開始時の評価額は、各一〇〇万円
と認めるのが相当である。
 五 aの遺産及び生前贈与財産の評価額は、別紙遺産目録のTUV、別紙生前贈
与目録のTUの各評価額欄(ただし、・ないし・については、別紙「争いある評価
額の主張、認定の対比」・ないし・の裁判所認定額)記載のとおりである。
 六 被控訴人らの侵害された遺留分額及び控訴人に対する遺贈財産額に対する割
合は、次のとおりである。
  1 被控訴人eの侵害された遺留分額は二〇一五万七九五五円であり、控訴人
に対する遺贈財産額に対する割合は一万分の一四二一である。
  2 被控訴人bの侵害された遺留分額は一九九八万三七五五円であり、控訴人
に対する遺贈財産額に対する割合は一万分の一四〇九である。
  3 被控訴人cの侵害された遺留分額は三一六六万一九五五円であり、控訴人
に対する遺贈財産額に対する割合は一万分の二二三二である。
第二 原判決の引用、補正
一 前示第一の認定、判断の理由は、次の第三ないし第五のとおり附加する外
は、原判決の「第二の二 当事者間に争いのない事実」(八頁三行目から九頁末行
目まで、ただし前示補正後のもの)、同「第四 判断」(二二頁五行目から三九頁
五行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 二 ただし、次のとおり補正する。
  1 原判決二三頁二行目の「原告らは」を「被控訴人らを」と改める。
2 同二八頁末行目の次に行を改め、次のとおり加える。
   「証拠(甲A一一)によると、別紙生前贈与目録U記載24、25の土地の
小作権の評価額は、三六八万二〇〇〇円、三四五万四〇〇〇円であることが認めら
れる。」
3 同三七頁一〇行目の一億四一八〇万〇四三八円の次に、「(本判決添付の
別紙遺産目録U末尾の・、同「争いある評価額の主張、認定の対比」・の裁判所の
認定額)」を加える。
  4 同頁一一行目の一億一八〇一万三〇〇〇円の次に、「(本判決添付の別紙
生前贈与目録T末尾の・、同「争いある評価額の主張、認定の対比」・の裁判所の
認定額)」を加える。
5 同頁末行目の一六四四万四〇〇〇円の次に、「(別紙生前贈与目録U記載
『e』欄末尾の・、同「争いある評価額の主張、認定の対比」・の裁判所の認定
額)」を加える。
  6 同頁同行目の一六六一万八二〇〇円の次に、「(別紙生前贈与目録U記載
『b』欄末尾の・、同「争いある評価額の主張、認定の対比」・の裁判所の認定
額」を加える。
7 同三八頁一行目の四九四万円の次に、「(別紙生前贈与目録U記載『c』
欄の・、同「争いある評価額の主張、認定の対比」・の裁判所の認定額」を加え
る。
第三 遺留分の算定と特別受益、持戻免除の意思表示(争点1)の検討
一 遺留分算定の基礎財産
   法は、遺留分算定の基礎となる財産は、相続開始時の被相続人の財産と贈与
した財産であるとし、その合計価額から債務の全額を控除して算定する旨を定めて
いる(民法一〇二九条)。そして、右の贈与につき、その範囲、要件を民法一〇三
〇条が規定する。そのほかに、民法一〇四四条は、九〇三条の共同相続人の特別受
益者の持戻し規定を準用しており(この場合、同条の相続分は遺留分と読み替えら
れる)、これにより特別受益の持戻しを行い、遺留分算定の基礎財産とすることに
なる。
   このようにして、一〇三〇条の他に九〇三条の準用規定により、右遺留分算
定の基礎財産の算入、遺贈・贈与の範囲が定められているのである。それ故、遺留
分の基礎財産として相続開始時の相続財産に加算されるのは、一〇三〇条の贈与の
他に、民法九〇三条の特別受益(遺贈、生計の資本としての贈与)があるといえ
る。
二 特別受益と持戻免除
1 被相続人が特別受益の持戻規定(民法九〇三条一、二項)と異なる意思表
示(持戻免除)をしたときは、遺留分規定に反しない範囲内でその効力を有する、
と定められている(民法九〇三条三項)。これが遺留分の基礎財産算入に準用され
る場合、どのように考えるべきかが問題となる。
    すなわち、被控訴人ら主張のように、共同相続人に対する贈与(特別受
益)について、被相続人の持戻免除の意思表示がある場合にも、これを考慮するこ
となく、無制限に遺留分算定の基礎財産に算入すべきかである。控訴人は、被相続
人の持戻免除の意思表示がある場合には、第三者に対する贈与(民法一〇三〇条)
と同じく、相続開始前一年内になされた贈与、もしくは当事者双方に加害の認識の
ある贈与に限り、遺留分算定の基礎財産に算入すべきであるという。
2 これは、民法九〇三条が遺留分に準用されたとき、同条三項をどう解すべ
きかにかかっている。この問題について、持戻免除は遺留分算定の基礎財産の算入
には効力を有する余地はないと考える。その理由はこうである。
民法九〇三条三項は、持戻免除の意思表示が遺留分規定に反しない範囲内
でその効力を有する旨を規定している。しかし、これを準用し遺留分算定の基礎財
産の算出を行う場合に、贈与の価額の持戻しをした場合の遺留分と、持戻免除を認
め持戻しをしない場合の遺留分とを比較すれば、必ず前者が後者を上回り、遺留分
の額を定める民法一〇二八条に反することは明らかである。また、そもそも、遺留
分の規定は被相続人の処分の自由を制限するものであるし、遺留分算定のために持
戻しを行うのに、これを行わない場合の遺留分に反しないかを問うのは、同義反覆
的な矛盾である。それ故、民法九〇三条三項の遺留分規定の範囲内で、遺留分の基
礎財産を算定するための持戻しを免除することはできないから、持戻免除の意思表
示には同条三項によりその効力を有することはない。
    したがって、被相続人が持戻免除の意思表示をした場合に、その意思に従
い持戻を免除すべきことを民法九〇三条三項が規定しているが、それは相続分に関
する問題で、遺留分の基礎財産の算定には影響しないといえる。また、このように
解しないと、遺留分への準用でなく相続分を計算するうえでの本来の民法九〇三条
三項が無意味となる。そうであるから、被相続人が民法九〇三条一項所定の贈与に
ついて持戻免除の意思表示をしていても、被相続人の意思には関係なく、右贈与を
遺留分算定の基礎財産に算入すべきことになる。
このように考えられるから、遺留分の基礎財産の算定の場合は、持戻免除
の意思表示は無効としてこれを考慮することなく持戻しを行い、民法九〇三条一項
所定の贈与の価額を加算すべきである。したがって、持戻免除の意思表示がある場
合にも、それは同条三項に照らし無効で、民法九〇三条の準用がその効力を失わな
いから、同法一〇三〇条のみの贈与の加算に限定される理由はない。
なお、民法九〇三条所定の婚姻、養子縁組、生計の資本のための贈与でな
い共同相続人の受けた贈与の場合には、同法一〇三〇条による加算を行うべきであ
ると考える。
3 控訴人は、これに対し、相続放棄、相続欠格事由の存在、相続人廃除の審
判確定の場合との不均衡を指摘する。
    しかし、これらの者は共同相続人ではないから、そもそも民法九〇三条の
準用による持戻し規定の適用がないので、遺留分算定の基礎財産の計算上は、民法
一〇三〇条の贈与の加算規定によるほかない。遺留分制度は、被相続人の恣意から
相続人を守る制度であるから、被相続人のなす持戻免除の意思表示と、相続放棄、
相続欠格事由の存在、相続人廃除の審判確定との間に差異が生じても、やむを得な
いところがあるし、もともと、これらの場合に、持戻しを認めるか否かは立法政策
の問題といえる。
【要旨】4 以上のとおりであるから、被相続人が、共同相続人に対する贈与(特
別受益)につき、持戻免除の意思表示をしている場合であっても、これを無視し、
民法九〇三条一項に定める贈与の価額は民法一〇三〇条に定める制限なしに遺留分
算定の基礎財産に算入すべきである。
三 本件の検討
1 結 論
    控訴人及び被控訴人らは、aの子であり、aの共同相続人である。aが生
前、生計の資本として、控訴人に対し、本件農地の所有権及び小作権を贈与してい
た。右贈与は、民法九〇三条所定の特別受益に当たる(当事者間に争いがない事
実)。
    aは、控訴人に対する贈与の際、あるいは本件遺言において、控訴人に対
する特別受益の持戻免除の意思表示をしている(前示第二で原判決の引用により認
定した事実)。しかし、aが持戻免除の意思表示をしていることと無関係に、特別
受益の贈与(本件農地の所有権及び小作権の贈与)も無条件で遺留分算定の基礎財
産に算入すべきである。
2 具体的妥当性の検証
    以下、前示1の結論が、本件の具体的妥当性を損なわないことについて、
検証する。
   (一) 本件では、前示第二で原判決の引用により認定したとおり、aの遺
産が一億四一八〇万〇四三八円、特別受益たる生前贈与が一億五九〇一万五二〇〇
円、これらの総合計は三億〇〇八一万五六八三円である。
   (二) 被控訴人らが遺留分権を行使しなければ、前示三億〇〇八一万五六
八三円の内訳は、次のとおりとなる。
    (1) 控訴人の取得額は、生前贈与額一億一八〇一万三〇〇〇円と遺贈
額一億四一八〇万〇四三八円の合計二億五九八一万三四三八円である。
    (2) 被控訴人eの取得額は、生前贈与額一七四四万四〇〇〇円であ
る。
    (3) 被控訴人bの取得額は、生前贈与額一七六一万八二〇〇円であ
る。
    (4) 被控訴人cの取得額は、生前贈与額五九四万円である。
(三) 控訴人の主張を認め、控訴人に対する生前贈与を持戻の対象としな
ければ、遺留分侵害額は別紙遺留分の計算記載のとおりとなる。その結果、前示総
合計約三億〇〇八〇万円の内訳は、次のとおりとなる。
(1) 控訴人の取得額は、生前贈与額と遺留分減殺後の遺贈額の合計約
二億三二二五万円となる。
    (2) 被控訴人らの取得額は、一人当たり、生前贈与額と遺留分額の合
計が約二二八五万円となる。
(四) 他方、原判決及び本判決の結論によると、前示総合計約三億〇〇八
〇万円の内訳は、次の通りとなる。
(1) 控訴人の取得額は、生前贈与額と遺留分減殺後の遺贈額の合計約
一億八八〇〇万円となる。
    (2) 被控訴人らの取得額は、一人当たり、生前贈与額と遺留分額の合
計約三七六〇万円となる。
 (五) 前示第二で原判決の引用により認定したとおり、控訴人は、昭和一
八年に尋常高等小学校を卒業した後、aの農業を手伝い、昭和三〇年に結婚した後
もa夫婦と同居を続け農業を営んでいた。他方、被控訴人らは、昭和二八年、三三
年、三七年に高校を卒業し、被控訴人cは川崎製鉄に、被控訴人b及び同eは神戸
市役所に就職し、結婚してa夫婦とは世帯も別にした。
(六) しかし、右(五)の事実を考慮しても、控訴人に対する生前贈与を
持戻の対象と認めなければ、控訴人の取得額(生前贈与額と遺留分減殺後の遺贈合
計)は約二億三二〇〇万円となり、被控訴人らの一人当たりの取得額(生前贈与額
と遺留分額の合計額)は約二二八〇万円となる。これでは、控訴人の取得額は被控
訴人らの取得額の約一〇倍にも達し、aと本件当事者ら子供の前示生活経過に照ら
しても相当な均衡を失する。
     原判決及び本判決の認定では、控訴人の取得額が約一億八八〇〇万円、
被控訴人らの一人当たりの取得額が三七六〇万円となり、これが妥当な金額である
と考える。
第四 高校進学の特別受益(争点2)の検討
一 控訴人は、尋常高等小学校を卒業しただけであるのに、被控訴人らは、いず
れも高校を卒業している。原判決は、被控訴人らが高校卒業の資格を得て、川崎製
鉄や神戸市役所に就職することができたことから、右高校教育に必要であった費用
を特別受益と認め、右費用をいずれも一〇〇万円と認定している。
 二 控訴人は、高校進学の利益は教育費用だけにとどまらない、被控訴人らの進
学による特別受益額は、原判決認定額一〇〇万円ではあまりにも少なすぎると主張
する。
   しかし、控訴人が高等小学校を卒業したのは昭和一八年である。それに対
し、被控訴人cは昭和二五年から昭和二八年にかけて、被控訴人bは昭和三〇年か
ら三三年にかけて、被控訴人eは昭和三四年から昭和三七年にかけて、高校に在学
していた。我が国では、戦前、旧制中学に進学する者は非常に少なかったが、戦後
は、高校進学率が年を追うに従って上昇していった。昭和三〇年代以降は大半の者
が高校に進学している。
原判決は、控訴人は高等小学校を卒業して直ちに家業の農業を手伝っている
のに、被控訴人ら弟三人が高校に進学し、安定的な職業に就くことができたことを
特に考慮して、一人当たり一〇〇万円の特別受益を認めたものである。
   ところで、被控訴人らは全て地元の公立高校に進学している。したがって、
高校進学に伴う授業料や生活費も安くてすんだ。しかも、被控訴人らも、高校在学
中、全員が家業の農業の手伝いをしている(甲A一三、甲C二、被控訴人b本
人)。平成九年当時でも、被控訴人らが進学した公立高校の授業料は年間一八万円
にも満たなかった(弁論の全趣旨)。原判決が認定した高校進学に伴う特別受益額
各一〇〇万円は、被控訴人らの高校進学に要した一切の費用を考慮した金額であ
る。
三 以上の諸点を総合すると、原判決が認定した一人当たり一〇〇万円の特別受
益額が、少なすぎて不当とは認められない。控訴人の前示主張は採用できない。
第五 遺産、生前贈与財産の評価額(争点3)の検討
  控訴人は、原判決が認定した26、27の小作権価額が不満であるという。
他方、被控訴人eは、原判決が認定した控訴人の旧自宅の評価額、被控訴人eの土
地の評価額が不満であるという。以下、この点につき検討する。
  1 26、27の小作権価額二〇〇〇万円が、高すぎて不当であるとは認めら
れない。その理由は、原判決が二七頁末行目から二八頁末行目にかけて詳細に説示
するとおりである。控訴人の主張は、原判決を正解しないものであり、採用できな
い。
  2 控訴人の旧自宅の写真(検乙一の4、5)を一見するだけで明らかなよう
に、控訴人の旧自宅建物は朽廃寸前の建物であり、到底人が住めるような建物では
ない。原判決が同建物の客観的な評価額を零と認定したことが、不当であるとは認
められない。
 3 被控訴人eの土地は、北側が幅員約一・八メートルの里道と接する。現況
は有効幅員約三メートルの未舗装通路である。右土地は、建築基準法上の接道要件
を充たしていない。そこで、d鑑定(甲A一〇)は、被控訴人e土地の接道状況も
十分に斟酌した上で、右土地の平成四年八月二三日時点での評価額を、一平方メー
トル当たり七万三一〇〇円と認定している。
 被控訴人e土地の西側と、被控訴人b土地の東側が接している。被控訴人
bの土地の西側は国道一七五号線に接している(甲A一〇)。d鑑定(甲A一〇)
は、被控訴人bの土地について、被控訴人eの土地の西隣ではあるが、接道状況が
良好なので、平成四年八月二三日時点での評価額を、一平方メートル当たり九万一
二〇〇円と評価している。
    被控訴人e土地と同b土地とは、互いに隣接する土地であるが、その接道
条件の違いから、d鑑定は右のとおり差を設けているのである。d鑑定の被控訴人
e土地の評価額が、高すぎて不当であるとは認められない。
 4 原判決が被控訴人e土地の評価額を認定するに当たり、盛り土工事費用、
ブロック工事費用、上水道敷設工事費用を控除していないことが不当であるとは認
められない。その理由は、原判決が三三頁三行目から九行目にかけて詳細に説示す
るとおりである。被控訴人eの主張は、原判決を正解しないものであり、採用でき
ない。
第六 結 論
 一 以上によると、被控訴人らの本件各遺留分減殺請求は、原判決主文一項ない
し三項記載の限度で理由があるので、これを認容し、その余は理由がないので棄却
すべきである。
 二 よって、これと同旨の原判決(更正決定後のもの)は相当であり、本件控訴
は理由がないのでこれを棄却し、主文のとおり判決する。


平11・6・10最判 相続税の課税処分取消請求事件
第1小法廷判決(東京高等裁判所)
課税処分取消請求事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人和田良一の上告理由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認するに足り、右事実関係によ
れば、被上告人所部職員が実地調査をし上告人らに対して申告内容が不適正であることを指摘して修正申告
をするよう促し、これに応じて本件修正申告がされたというのであるから、国税通則法六五条五項にいう「更正
があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないとした原審の判断は、正当として是認することが
でき、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、
又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 上告人らの上告理由について
 相続財産に属する特定の財産を計算の基礎としない相続税の期限内申告書が提出された後に当該財産を
計算の基礎とする修正申告書が提出された場合において、当該財産が相続財産に属さないか又は属する可
能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出したことを納税者が主張
立証したときは、国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」があるものとして、同項の規定が適用されるも
のと解すべきである。しかしながら、上告人らが本件において「正当な理由」がある根拠として主張立証する
事実をもってしては、いまだ本件不動産が相続財産に属さないか又は属する可能性が小さいことを客観的に
裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出したことの主張立証として十分とはいえず、これに原
審の適法に確定したその余の事実関係を併せ考慮しても、上告人らに「正当な理由」があったと認めることは
できない。これと結論において同旨の原審の判断は、是認するに足りる。また、右事実関係の下においては、
所論のその余の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、
論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平11・6・11最判 被相続人が生存中の遺言無効確認の不適法
第二小法廷判決(阪高等裁判所)
遺言無効確認請求事件
主    文
 原判決を破棄する。
 被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人以呂免義雄の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告人は、上告人藤井ウメの養子で、同上告人の唯一の推定相続人であり、上告人田中清は、
上告人藤井ウメのおいである。
 2 上告人藤井ウメは、平成元年一二月一八日、奈良地方法務局所属公証人黒瀬孝導作成同年第
八四九号公正証書によって遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
 3 本件遺言の内容は、上告人藤井ウメの所有する奈良市西登美ヶ丘所在の土地建物の持分一〇〇
分の五五を上告人田中清に遺贈するというものである。
 4 奈良家庭裁判所は、平成五年三月一五日、上告人藤井ウメが、アルツハイマー型老人性痴呆で
ある旨の鑑定の結果に基づき、心神喪失の常況にあるとして、同上告人に対し禁治産宣告をした。
同上告人の病状は回復の見込みがない。
 二 本件訴えは、被上告人が上告人らに対し、本件遺言につき、上告人藤井ウメの意思能力を欠いた
状態で、かつ、公正証書遺言の方式に違反して作成されたと主張して、本件遺言が無効であることを
確認する旨の判決を求めるものである。
 三 原審は、遺言者の生存中に遺言の無効確認を求める訴えは原則として不適法であるが、前記
事実関係の下において、本件のように遺言者による遺言の取消し又は変更の可能性がないことが
明白な場合には、その生存中であっても遺言の無効確認を求めることができるとして、本件訴えを適
法と判断し、本件訴えを却下した第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差し戻した。
 四 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 本件において、被上告人が遺言者である上告人藤井ウメの生存中に本件遺言が無効であること
を確認する旨の判決を求める趣旨は、上告人田中清が遺言者である上告人藤井ウメの死亡により遺贈
を受けることとなる地位にないことの確認を求めることによって、推定相続人である被上告人の相続する
財産が減少する可能性をあらかじめ除去しようとするにあるものと認められる。
 2 ところで、遺言は遺言者の死亡により初めてその効力が生ずるものであり(民法九八五条一項)、
遺言者はいつでも既にした遺言を取り消すことができ(同法一〇二二条)、遺言者の死亡以前に受遺者
が死亡したときには遺贈の効力は生じない(同法九九四条一項)のであるから、遺言者の生存中は
遺贈を定めた遺言によって何らの法律関係も発生しないのであって、受遺者とされた者は、何らかの
権利を取得するものではなく、単に将来遺言が効力を生じたときは遺贈の目的物である権利を取得す
ることができる事実上の期待を有する地位にあるにすぎない(最高裁昭和三〇年(オ)第九五号同三一
年一〇月四日第一小法廷判決・民集一〇巻一〇号一二二九頁参照)。したがって、このような受遺者
とされる者の地位は、確認の訴えの対象となる権利又は法律関係には該当しないというべきである。
遺言者が心神喪失の常況にあって、回復する見込みがなく、遺言者による当該遺言の取消し又は変更
の可能性が事実上ない状態にあるとしても、受遺者とされた者の地位の右のような性質が変わるもの
ではない。
 3 したがって、被上告人が遺言者である上告人藤井ウメの生存中に本件遺言の無効確認を求める
本件訴えは、不適法なものというべきである。
 五 そうすると、本件訴えを適法とした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この
違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れ
ない。そして、本件訴えを不適法として却下した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴は
棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平11・6・11最判 遺産分割協議と詐害行為取消権
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
貸金及び詐害行為取消請求事件
主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人松田義之の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 亡Bは、第一審判決別紙物件目録二記載の借地権を有する土地上に同一記載の建物(以下「本件建
物」という。)を所有し、右建物において妻であるCらと居住していた。
 2 Bは、昭和五四年二月二四日に死亡し、その相続人は、C並びに子である上告人A及び同Dの三名で
ある。上告人Aは昭和五二年に、同Dは同五七年に、それぞれ婚姻し、その後、他所で居住するようになった
が、Cは、本件建物に居住している。
 3 被上告人は、平成五年一〇月二九日、E及びFを連帯債務者として、同人らに対して三〇〇万円を貸し
渡し、Cは、同日、被上告人に対し、右金銭消費貸借契約に係るEらの債務を連帯保証する旨を約した。
 4 本件建物の所有名義人は亡Bのままであったところ、Eらの被上告人に対する右債務に基づく支払が遅
滞し、その期限の利益が失われたことから、被上告人は、平成七年一〇月一一日、Cに対し、右連帯保証債
務の履行及び本件建物についての相続を原因とする所有権移転登記手続をするよう求めた。
 5 C及び上告人らは、平成八年一月五日ころ、本件建物について、Cはその持分を取得しないものとし、上
告人らが持分二分の一ずつの割合で所有権を取得する旨の遺産分割協議を成立させ(以下「本件遺産分割
協議」という。)、同日、その旨の所有権移転登記を経由した。
 6 Cは、被上告人の従業員に対し、右連帯保証債務を分割して長期間にわたって履行する旨を述べてい
たにもかかわらず、平成八年三月二一日、自己破産の申立てをした。
 二 【要旨】共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解
するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産に
ついて、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、
相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができ
るからである。そうすると、前記の事実関係の下で、被上告人は本件遺産分割協議を詐害行為として取り消
すことができるとした原審の判断は、正当として是認することができる。記録によって認められる本件訴訟の
経緯に照らすと、原審が所論の措置を採らなかったことに違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本
件に適切でない。
論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平11・6・24最判 遺留分減殺請求と目的物の取得時効
最高裁判所第一小法廷(名古屋高等裁判所 金沢支部)
遺留分減殺請求事件
主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人作井康人の上告理由第一ないし第三について
 被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の額は、被相続人が相続開始時に有して
いた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の
基礎となる財産額を確定し、これに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定すべきものであり、遺留分の
侵害額は、右のようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し、
同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきである(最高裁平成五年(オ)第九四七号同八年一
一月二六日第三小法廷判決・民集五〇巻一〇号二七四七頁)。原審の適法に確定した事実関係の下にお
いては、被上告人らは、被相続人Cが相続開始時に有した債務を法定相続分に応じて相続したものというべ
きところ、遺留分算定の基礎となる財産額の確定に当たって右債務の額を控除すべきであるとしても、他方、
遺留分侵害額の算定に当たっては被上告人らが相続した債務の額を加算しなければならず、そのようにして
算定した遺留分侵害額は、原審認定の遺留分侵害額よりも多額となることが明らかである。したがって、原
審認定の遺留分侵害額は、遺留分減殺請求の相手方である上告人らにとって利益でこそあれ、何ら不利益
ではないから、論旨は、原判決の結論に影響しない事項の違法をいうことに帰し、採用することができない。
 同第五について
 【要旨】被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺
請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右
遺留分権利者に帰属するに至るものであり(最高裁昭和四〇年(オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第
一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第
二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)、受贈者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一
六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権
利者への権利の帰属が妨げられるものではないと解するのが相当である。けだし、民法は、遺留分減殺によ
って法的安定が害されることに対し一定の配慮をしながら(一〇三〇条前段、一〇三五条、一〇四二条等)、
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については、それが減殺請求の何年前にされたものであるか
を問わず、減殺の対象となるものとしていること、前記のような占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時
効取得し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、
遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利
者は、取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となることなど
にかんがみると、遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与の受贈者は、減殺請求がされれば、贈与か
ら減殺請求までに時効期間が経過したとしても、自己が取得した権利が遺留分を侵害する限度で遺留分権
利者に帰属することを容認すべきであるとするのが、民法の趣旨であると解されるからである。
 以上と同旨に帰する原審の判断は、是認するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用すること
ができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨
は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平11・7・19最判 共同相続人間の相続回復請求権と時効援用を立証すべき事項
第一小法廷判決(大阪高等裁判所)
不当利得金請求事件
主    文
 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理    由
 上告代理人竹下義樹の上告理由について
 一 本件は、亡松居庄七の共同相続人の一人である上告人が、他の共同相続人ないしその相続人である
被上告人らが庄七の相続財産である土地を売却して、その代金を被上告人らのみで分配し、上告人の相続権
を侵害したとして、被上告人らに対し不当利得の返還を求め、これに対し、被上告人らが、上告人の請求は相
続回復請求権の行使であるとし、同請求権は庄七の死後二〇年の経過により時効消滅したと主張している訴
訟である。
 二 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 庄七は、岐阜県大垣市西外側町二丁目四四番の宅地(以下「従前土地」という。)を所有していたが、
右土地は、大垣市を施行者とする土地区画整理事業の対象地となった。
 2 庄七は、昭和三〇年九月二四日に死亡した。庄七の相続人は、妻とめ、嫡出子である松居修造及び
山田静子並びに非嫡出子である上告人、被上告人松居久之助、同島本弘子、並川昭二及び中村忠雄であった。
 とめは、昭和四七年一二月一一日に死亡した。とめの相続人は、養子である被上告人松居敬二である。
 3 大垣市は、昭和五一年二月二七日、土地区画整理登記令二条四号に基づき、庄七の共同相続人らに
代わって、職権で従前土地につき所有権保存登記手続をしたが、その際、共同相続人らのうち被上告人敬二、
同久之助、同弘子、修造及び静子だけを共有持分権者として上告人、昭二及び忠雄を脱漏し、その共有持分を、
被上告人敬二が九分の三、同久之助及び同弘子が各九分の一、修造及び静子が各九分の二とした(以下「本
件登記」という。)。
 4 従前土地は、昭和五一年一〇月二七日付け換地処分により、同所四七番の宅地(以下「本件土地」という。)
に換地された。その後、修造の持分(九分の二)については被上告人松居弘泰がその全部を、静子の持分(九分
の二)については被上告人山田護及び同山田悠喜子が九分の一ずつを各相続し、その旨の持分移転登記を了した。
 5 被上告人らは、平成三年三月一〇日、本件土地を代金五〇〇二万二〇〇〇円で池田眞知子外一名に売却
し、持分全部移転登記を了し、代金を登記簿上の持分割合に応じて被上告人らのみで分配した。
 三 原審は、次のように判断して相続回復請求権の時効消滅を認め、上告人の請求を棄却すべきものとした。
 1 相続財産について、共同相続人のうちの数人において自己の本来の持分を超える部分が他の共同相続人
の持分に属することを知りながら、又は当該部分についても自己に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由
がないにもかかわらず、その部分もまた自己の持分に属するものであると称してこれを占有管理している場合
には、侵害者である相続人は相続回復請求権の消滅時効を援用して自己に対する侵害の排除の請求を拒むこ
とはできない。
 2 侵害者である相続人が侵害部分が他の共同相続人の持分に属することを知っていたかどうか、又は当該
部分についても自己に相続持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由があったかどうかは、相続権侵害行
為がされた時点を基準として判断すべきである。本件においては、昭和五一年二月二七日の本件登記によって
上告人の相続権侵害が開始されたものというべきである。
 3 被上告人らが侵害部分が上告人の持分に属することを知っていたこと、又は侵害部分についても被上告人
らに相続持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由がなかったことを認めるに足りる証拠はない。かえって、
本件においては被上告人らにおいて積極的に侵害行為をしたものではなく、大垣市の誤った代位登記により結
果的に上告人の持分を侵害することとなった経緯や庄七に関して極めて複雑な相続関係が生じていたことなど
にかんがみると、被上告人らにはこの点に関する悪意ないし過失はなかったものと推認される。
 四 しかしながら、原審の右三3の判断は、これを是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 共同相続人のうちの一人又は数人が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分について、
当該部分の表見相続人として当該部分の真正共同相続人の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持
分であると主張してこれを占有管理し、真正共同相続人の相続権を侵害している場合にも民法八八四条は適
用される。しかし、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、他に共同相続人がいること、ひい
て相続財産のうち自己の本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りな
がらその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、又はその部分についてもその者に相続による持分
があるものと信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらずその部分もまた自己の持分に
属するものであると称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されてい
る場合には当たらず、相続回復請求権の消滅時効を援用して真正共同相続人からの侵害の排除の請求を拒
むことはできない(最高裁昭和四八年(オ)第八五四号同五三年一二月二〇日大法廷判決・民集三二巻九号
一六七四頁)。
 2 真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が他に共同相続人がいることを知っていたかどうか
及び本来の持分を超える部分についてもその者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由
があったかどうかは、当該相続権侵害の開始時点を基準として判断すべきである。
 そして、相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同
相続人が、右の相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなか
ったことに合理的な事由があったこと(以下「善意かつ合理的事由の存在」という。)を主張立証しなければなら
ないと解すべきである。なお、このことは、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人において、相
続権侵害の事実状態が現に存在することを知っていたかどうか、又はこれを知らなかったことに合理的な事由
があったかどうかにかかわりないものというべきである。
 3 これを本件について見ると、次のとおりである。
 (一) 民法八八四条にいう相続権が侵害されたというためには、侵害者において相続権侵害の意思がある
ことを要せず、客観的に相続権侵害の事実状態が存在すれば足りると解すべきであるから(最高裁昭和三七
年(オ)第一二五八号同三九年二月二七日第一小法廷判決・民集一八巻二号三八三頁参照)、本件におけ
る上告人の相続権侵害は、大垣市が本件登記手続をしたことにより、本件登記の時に始まったというべきである。
 したがって、被上告人らが相続回復請求権の消滅時効を援用するためには、庄七の相続人であり、従前地
の所有名義人とされた被上告人敬二、同久之助、同弘子、修造(被上告人弘泰につき)及び静子(被上告人
護及び同悠喜子につき)について、本件登記の時点における前記の善意かつ合理的事由の存在をそれぞれ
主張立証しなければならない。
 (二) 原判決は、被上告人らに悪意ないし過失はなかったと判示しているが、上告人と被上告人久之助
及び同弘子が両親を同じくすることは証拠上明らかであり、同弘子が上告人と特に親しくしていた事実も認
定されていることにかんがみると、右判示にいう悪意ないし過失は、本件登記に上告人の相続権を侵害する。
部分が存することについての悪意ないし過失、すなわち本件登記が存在することを知っていたこと、又は本件
登記の存在を知らなかったことに合理的な事由がなかったことをいうものと解され、前記の善意かつ合理的事
由の存在について正当に認定判断しているものとは認められない(原判決は、被上告人久之助及び同弘子
については、同被上告人らが本件登記が存在することを知っていたかどうか、又は本件登記の存在を知らな
かったことに合理的な事由があったかどうかのみを判断して、右の善意かつ合理的事由の存在について認定
判断をしておらず、被上告人敬二については、信義則違反の主張に対する判示部分において、同被上告人が
本件登記の存在を知らなかったこと及び上告人の身分関係について正確に分からなかったことを認定している
ものの、同被上告人が他の共同相続人である上告人の存在を知らなかったことについての合理的事由の存在
を認定判断していない。)。また、被上告人弘泰、同護及び同悠喜子については、その被相続人である修造、
静子について右の善意かつ合理的事由の存在を認定判断すべきであるのに、原判決は、これについて何ら
認定判断をしていない
 (三) そうすると、被上告人らによる消滅時効の援用を認めた原審の判断は、民法八八四条の解釈適用
を誤ったものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の
趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人敗訴部分は、破棄を免れない。そして、被上告人らが相
続回復請求権の消滅時効の援用をするための要件の存否について更に審理判断させるため、右部分に
つき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平11・9・14最判 危急時遺言で民976条の口授があったとされた事例
第三小法廷判決(東京高等裁判所)
遺言無効確認等請求事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人北村行夫の上告理由について
 原審の適法に確定したところによれば、事実関係は次のとおりである。
 1 遺言者である亡大堀清吾は、昭和六三年九月二八日、糖尿病、慢性腎不全、高血圧症、両眼失明、
難聴等の疾病に重症の腸閉塞、尿毒症等を併発して静岡県済生会総合病院に入院し、同年一一月一三日
死亡した者であるが、当初の重篤な病状がいったん回復して意識が清明になっていた同年一〇月二三日、
被上告人に対し、被上告人に家財や預金等を与える旨の遺言書を作成するよう指示した。
 2 被上告人は、かねてから面識のある小中信幸弁護士に相談の上、担当医師らを証人として民法九七六
条所定のいわゆる危急時遺言による遺言書の作成手続を執ることにし、また、同弁護士の助言により同弁護
士の法律事務所の東澤紀子弁護士を遺言執行者とすることにし、翌日、その旨清吾の承諾を得た上で、清吾
の担当医師である日比育夫医師ら三名に証人になることを依頼した。
 3 日比医師らは、同月二五日、小中弁護士から、同弁護士が被上告人から聴取した内容を基に作成した
遺言書の草案の交付を受け、清吾の病室を訪ね、日比医師において、清吾に対し、「遺言をなさるそうですね。
」と問いかけ、清吾の「はい。」との返答を得た後、「読み上げますから、そのとおりであるかどうか聞いて下さ
い。」と述べて、右草案を一項目ずつゆっくり読み上げたところ、清吾は、日比医師の読み上げた内容にその
都度うなずきながら「はい。」と返答し、遺言執行者となる弁護士の氏名が読み上げられた際には首をかしげ
る仕種をしたものの、同席していた被上告人からその説明を受け、「うん。」と答え、日比医師から、「いいで
すか。」と問われて「はい。」と答え、最後に、日比医師から、「これで遺言書を作りますが、いいですね。」と
確認され、「よくわかりました。よろしくお願いします。」と答えた。
 4 日比医師らは、医師室に戻り、同医師において前記草案内容を清書して署名押印し、他の医師二名も
内容を確認してそれぞれ署名押印して、本件遺言書を作成した。
 右事実関係の下においては、清吾は、草案を読み上げた立会証人の一人である日比医師に対し、口頭で
草案内容と同趣旨の遺言をする意思を表明し、遺言の趣旨を口授したものというべきであり、本件遺言は民
法九七六条一項所定の要件を満たすものということができる。したがって、これと同旨の原審の判断は正当
として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するも
のにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平11・12・16最判 「相続させる」遺言と執行行為
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
土地所有権移転登記手続請求及び独立当事者参加並びに土地共有持分存在確認等請求事件
主    文
一 原判決中、平成一〇年(オ)第一四九九号・同第一五〇〇号各被上告人D及び同Eが同第一四九九号
被上告人・同第一五〇〇号上告人B及び同第一五〇〇号上告人Cに対し第一審判決別紙物件目録記載の
三ないし五の土地について共有持分権確認及び持分移転登記手続を求める部分を除く、その余の部分を破
棄する。
二 前項の破棄部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
三 右Bの上告中、第一審判決別紙物件目録記載の三ないし五の土地に関する部分を棄却する。
四 右Cの上告を棄却する。
五 第三項の部分に関する上告費用は右Bの負担とし、前項の部分に関する上告費用はCの負担とする。
         
理    由
 第一 本件事案の概要
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 F(以下「被相続人」という。)は、第一審判決別紙物件目録記載の一ないし五の土地(以下「本件各土
地」といい、各個の土地は「本件一土地」のようにいう。)等を所有しており、本件各土地の登記名義人であっ
たが、平成五年一月二二日に死亡し、相続が開始した。
 2 G、平成一〇年(オ)第一四九九号被上告人・同第一五〇〇号上告人B(以下「一審被告B」という。)、
H、同第一四九九号上告人・同第一五〇〇号被上告人補助参加人I(以下「補助参加人」という。)、J及びK
の六名は、いずれも被相続人の子であり、同第一五〇〇号上告人C(以下「一審被告C」という。)は、一審被
告Bの子であって被相続人の養子である。また、同第一四九九号・同第一五〇〇号各被上告人D及び同E
(以下「当事者参加人ら」という。)は、被相続人の長男である亡Lの子であり、その代襲相続人である。
 3 被相続人は、昭和五七年一〇月一五日、公正証書により、その所有する財産全部を一審被告Bに相続
させる旨の遺言(以下「旧遺言」という。)をした。
 4 被相続人は、昭和五八年二月一五日、公正証書により、旧遺言を取り消した上、改めて次の内容の遺
言(以下「新遺言」という。)をした。
 (一) 本件一土地をG、H、補助参加人、J及びKの五名(以下「Gら」という。)に各五分の一ずつ相続させ
る。
 (二) 本件二ないし五土地を一審被告B及び一審被告Cに各二分の一ずつ相続させる。
 (三) 被相続人所有のその他の財産は、相続人全員に平等に相続させる。
 (四) 遺言執行者として平成一〇年(オ)第一四九九号上告人・同第一五〇〇号被上告人A(以下「一審原
告」という。)を指定する。
 5 しかるに、一審被告Bは、平成五年二月五日、旧遺言の遺言書を用い、本件各土地について、自己名
義に相続を原因とする所有権移転登記をし、さらに、本件訴訟が第一審に係属中である平成七年四月六
日、本件三ないし五土地の各持分二分の一について、一審被告Cに対し、真正な登記名義の回復を原因と
する所有権一部移転登記をした。
 6 当事者参加人らは、平成五年九月二九日、他の相続人ら及び一審原告に対して遺留分減殺の意思表
示をし、右意思表示は、同年九月三〇日から同年一〇月八日までの間にそれぞれ到達した。
 二 記録によって認められる本件訴訟の概要は、次のとおりである。
 1 一審原告は、新遺言の遺言執行者として、一審被告Bに対し、本件一土地についてGらへの、本件二土
地の持分二分の一について一審被告Cへの各真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続を求
めた。これに対し、一審被告Bは、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言(以下「相続させ
る遺言」という。)がされた場合には遺言執行の余地はないとして、一審原告の原告適格を争うとともに、Gら
が、平成五年一月二三日、一審被告Bに対して相続分の放棄又は譲渡をし、本件一土地の共有持分権を失
ったと主張する。
 2 当事者参加人らは、遺留分減殺の意思表示をした上、本件各土地についてそれぞれ三二分の一の共
有持分権を取得したとして右1の訴訟に独立当事者参加をし、右共有持分権に基づき、(1) 一審原告に対
し、右共有持分権の確認を求めるとともに、(2) 一審被告Bに対し、右共有持分権の確認と遺留分減殺を
原因とする持分移転登記手続を求めた。これに対し、一審被告Bは、右遺留分減殺請求権の行使は権利の
濫用に当たり、一審被告Bの寄与分を考慮すべきであると主張するほか、Gらが右遺留分減殺請求権の行
使より前に本件一土地の共有持分を一審被告Bに対して譲渡したから、民法一〇四〇条一項本文により、
当事者参加人らは一審被告Bに対して本件一土地につき遺留分に相当する共有持分の返還等を請求する
ことができないと主張する。
 3 また、当事者参加人らは、遺留分減殺により取得した共有持分権に基づき、右2の訴訟とは別個に、一
審被告Cに対し、本件三ないし五土地についての共有持分権の確認と遺留分減殺を原因とする持分移転登
記手続を求めた。これに対し、一審被告Cは、右遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用に当たると主張す
る。
 三 原審は、一審原告の一審被告Bに対する訴え(二1)及び当事者参加人らの一審原告に対する訴え
(二2(1))については、遺言執行者である一審原告は当事者適格を有しないとして、いずれもこれを却下し、
当事者参加人らの一審被告Bに対する請求(二2(2))及び一審被告Cに対する請求(二3)については、い
ずれもこれを認容すべきものとした。平成一〇年(オ)第一四九九号事件は、一審原告が提起した上告であ
り、同第一五〇〇号事件は、一審被告らが提起した上告である。
 第二 平成一〇年(オ)第一四九九号上告代理人浅見雄輔の上告理由について
 一 上告理由は、被相続人の遺言執行者である一審原告が、一審被告Bに対し、本件一土地及び本件二
土地の持分二分の一について持分移転登記手続を求める訴えの当事者適格(原告適格)を有するか否かに
関するものである。
 二 原審は、前記の事実関係の下において、次のとおり判断し、一審原告の一審被告Bに対する右訴えを
不適法として却下した。
 1 新遺言は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨のものであり、右相続人らは、被相続人の
死亡の時に遺言に指定された持分割合により本件各土地の所有権を取得したものというべきである。そし
て、この場合には、当該相続人は、自らその旨の所有権移転登記手続をすることができ、仮に右遺言の内容
に反する登記がされたとしても、自ら所有権に基づく妨害排除請求としてその抹消を求める訴えを提起する
ことができるから、当該不動産について遺言執行の余地はなく、遺言執行者は、遺言の執行として相続人へ
の所有権移転登記手続をする権利又は義務を有するものではない。
 2 新遺言に「その他の財産」についての包括的な条項が含まれていることは、右のように解する妨げには
ならない。また、本件において、他に、遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかか
らせたなど、直ちに権利が承継されると解すべきでない特段の事情は存しない。
 3 したがって、被相続人の遺言執行者である一審原告は、一審被告Bに対する本件一土地及び本件二土
地の持分二分の一の持分移転登記手続請求に係る訴えについて、当事者適格を有しないというべきであ
り、右訴えは不適法である。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は、特段の事情がない限
り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有するものであり、これにより何
らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解さ
れる(最高裁平成元年(オ)第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参
照)。しかしながら、相続させる遺言が右のような即時の権利移転の効力を有するからといって、当該遺言の
内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない。
 2 そして、不動産取引における登記の重要性にかんがみると、相続させる遺言による権利移転について
対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず、甲に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは、民
法一〇一二条一項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解す
るのが相当である。もっとも、登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法二七条により甲が単独
で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の
職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成三年(オ)第一〇五
七号同七年一月二四日第三小法廷判決・裁判集民事一七四号六七頁参照)。しかし、【要旨】本件のよう
に、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を
経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環
として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲へ
の真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。
この場合には、甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登記手続請求をすることができるが、こ
のことは遺言執行者の右職務権限に影響を及ぼすものではない。
 3 したがって、一審原告は、新遺言に基づく遺言執行者として、一審被告Bに対する本件訴えの原告適格
を有するというべきである。
 そうすると、これと異なる原審の右判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の
結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨は、理由がある。
 第三 平成一〇年(オ)第一五〇〇号上告代理人奥川貴弥、同川口里香の上告理由について
 一 前記の事実関係によれば、当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産について三二分の一の
遺留分を有するものであるところ、上告理由は、当事者参加人らが一審被告らに対し、本件各土地につき遺
留分に相当する共有持分の返還等を請求することができるか否かに関するものである。
 二 原審は、次のとおり判断し、一審被告らの抗弁をいずれも排斥して、当事者参加人らの本訴請求を認
容すべきものとした。
 1 当事者参加人らの父である亡Lが、被相続人の夫である亡Mから多数の不動産の贈与を受け、亡Mの
相続に際して相続の放棄をした事実は認められるが、亡Lないし当事者参加人らが被相続人の相続に関し
て相続を放棄し、又は遺留分を主張しないとの約束をしていた事実を認めるに足りる証拠はなく、その他、全
証拠によるも、当事者参加人らの遺留分減殺請求権の行使が権利の濫用に当たると認めることはできな
い。
 2 寄与分は、共同相続人間の協議により定められ、協議が調わないとき又は協議をすることができないと
きは家庭裁判所の審判により定められるものであって、遺留分減殺請求に係る訴訟において抗弁として主
張することは許されない。
 3 一審被告Bの主張事実をもってしても、Gらは、被相続人の遺産相続についての話合いの結果、相続分
の放棄をし、又は共同相続人である一審被告Bに相続分を譲渡したというのであって、これが民法一〇四〇
条一項にいう「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したとき」に当たらないことは明らかで
ある。
 三 右1及び2の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認するこ
とができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非
難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。したがって、
一審被告Cの上告は既に理由がない。
 四 しかしながら、原審の右3の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)がされた場合において、遺留
分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受けるべき甲が相続の目的を他人に譲り渡したとき
は、民法一〇四〇条一項が類推適用され、遺留分権利者は、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を
加えることを知っていた場合を除き(同項ただし書)、甲に対して価額の弁償を請求し得るにとどまり(同項本
文)、譲受人に対し遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することはできないものと解するのが相当で
ある。また、同項にいう「他人」には、甲の共同相続人も含まれるものというべきである。したがって、当事者
参加人らが遺留分減殺請求をする前に、Gらが一審被告Bに本件一土地の共有持分を譲り渡したとすれ
ば、当事者参加人らは、同項ただし書に当たる場合を除き、一審被告Bに対して本件一土地につき遺留分に
相当する共有持分の返還等を請求することができない筋合いである。原審は、一審被告Bの主張を相続分
の放棄又は譲渡をいうものと解し、その主張自体からして同項に該当しないと判断したものと見られるが、記
録によれば、一審被告Bは、本件一土地についてGらが共有持分を譲渡したとも主張していることが明らか
であるから、原審としては、一審被告Bの主張する共有持分の譲渡の事実の有無を認定し、同項本文の適
用の可否について判断すべきものであった。
 そうすると、これと異なる原審の右3の判断には、法令の解釈適用の誤りないし判断遺脱の違法があり、こ
の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨は、右の趣旨をいうものと
して理由がある(付言するに、仮に当事者参加人らの一審被告Bに対する持分移転登記手続請求に理由が
あるとしても、本件一土地の登記原因については検討を要する。本件二土地の持分二分の一の登記原因に
ついても、同様である。)。
 第四 さらに、職権により次のとおり判断する。
 一 原審は、当事者参加人らが遺留分減殺請求に基づき一審原告に対して本件各土地について共有持分
権の確認を求める訴えについても、本件においては遺言執行の余地がなく、一審原告は当事者適格(被告
適格)を有しないとして、当事者参加人らの一審原告に対する右訴えを不適法として却下した。
 二 しかしながら、原審の右判断のうち本件一及び二土地に係る訴えに関する部分は是認することができ
ない。その理由は、次のとおりである。
 当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産について三二分の一の遺留分を有しており、一方、遺言
執行者である一審原告は、一審被告Bに対し、本件一土地についてGらへの、本件二土地の持分二分の一
について一審被告Cへの各持分移転登記手続を求めていて、これが遺言の執行に属することは前記のとお
りである。そして、一審原告の右請求の成否と当事者参加人らの本件一及び二土地についての遺留分減殺
請求の成否とは、表裏の関係にあり、合一確定を要するから、本件一及び二土地について当事者参加人ら
が遺留分減殺請求に基づき共有持分権の確認を求める訴訟に関しては、遺言執行者である一審原告も当
事者適格(被告適格)を有するものと解するのが相当である(これに対し、本件三ないし五土地については、
被相続人の新遺言の内容に符合する所有権移転登記が経由されるに至っており、もはや遺言の執行が問
題となる余地はないから、一審原告は、右各土地について共有持分権の確認を求める訴訟に関しては被告
適格を有しない。)。
 そうすると、原審の右判断のうち本件一及び二土地に係る訴えに関する部分には、法令の解釈適用を誤っ
た違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 第五 結論
 以上の次第で、原判決中、当事者参加人らが一審被告B及び一審被告Cに対し本件三ないし五土地につ
いて共有持分権確認及び持分移転登記手続を求める部分を除く、その余の部分を破棄した上、更に所要の
審理判断を尽くさせるため右破棄部分につき本件を原審に差し戻すこととし、一審被告Bの上告中、本件三
ないし五土地に関する部分及び一審被告Cの上告は理由がないので、これを棄却することとする。
 なお、一審被告Bの上告中、本件二土地に関する部分は理由がないが(ただし、その持分二分の一の登記
原因については、前記のとおりである。)、本件一及び二土地に関する本件訴訟は、一審原告、一審被告B
及び当事者参加人らの間において訴訟の目的を合一に確定すべき場合に当たるから、右部分については、
主文において上告棄却の言渡しをしない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平12・1・27最判 相続問題の前提問題としての親子関係の準拠法が日本の国際私法により決定された事例
第1小法廷判決(大阪高等裁判所)
所有権移転登記手続等請求上告事件(破棄自判)
主    文
一 原判決を次のとおり変更する。
  第一審判決を次のとおり変更する。
 1 被上告人甲野ハルコの平成六年一〇月二〇日以降の賃料相当額の金員支払請求に係る訴えを却下する。
 2 上告人は、被上告人甲野ハルコに対し、平成四年三月三日から同六年一〇月一九日まで、一箇月二万
三〇〇〇円の割合による金員を支払え。
 3 被上告人甲野ハルコのその余の請求を棄却する。
 4 上告人に対し、被上告人丙ミチオは第一審判決別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地の一〇八分の
一四の持分について、同丙アキコ及び同丙ナオコは同土地の各一〇八分の八の持分について、同甲野ハル
コ及び同甲野タロウは同土地の各一〇八分の三の持分について、昭和四五年五月一六日時効取得を原因と
する持分一部移転登記手続をせよ。
 5 上告人に対し、被上告人丙ミチオ、同丙アキコ及び同丙ナオコは第一審判決別紙物件目録(三)記載の
建物の各三六分の二の持分について、同甲野ハルコ及び同甲野タロウは同建物の各三六分の一の持分に
ついて、昭和四五年五月一六日時効取得を原因とする持分一部移転登記手続をせよ。
 6 上告人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟の総費用はこれを二分し、その一を上告人の、その余を被上告人らの負担とする。
理    由
 一 本件は、被上告人甲野ハルコが上告人に対し、第一審判決別紙物件目録(三)記載の建物(以下「本
件建物」という。)の持分権に基づき、その明渡し及び賃料相当額の金員の支払を求める第一事件と、上告人
が被上告人らに対し、本件建物及び同物件目録(一)及び(二)記載の土地(以下「本件土地」という。また、
本件建物と併せて「本件土地建物」という。)について時効取得を原因とする持分全部移転登記手続を求める
第二事件が併合された訴訟である。
 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 韓国籍を有する丙マサオ(後述のように後に日本に帰化した。)は、韓国籍を有する妻全如三との間に長
男被上告人丙ミチオ(昭和一五年一月一日生まれ)、長女被上告人丙アキコ(昭和一六年一二月二八日生ま
れ)及び二女被上告人丙ナオコ(昭和一八年三月一四日生まれ)をもうけた。同被上告人らはいずれも韓国籍
を有している。
 丙マサオは、鶴田博子とも男女関係があり、同人との間に、非嫡出子として被上告人甲野ハルコ(昭和二六
年三月二〇日生まれ)及び同甲野タロウ(昭和二八年八月三〇日生まれ)がある。同被上告人らはいずれも
日本国籍を有している。
 2 丙マサオは、昭和三六年三月一〇日に全如三と離婚し、同年九月、韓国に在住し韓国籍を有する丁ハル
オと婚姻した。
 3 丙マサオは、昭和三八年二月二七日に日本に帰化し、氏名を甲野アキオとする日本戸籍が編製されたが、
その際同戸籍に丁ハルオとの婚姻の事実が記載されなかった。
 4 甲野アキオは、昭和三八年五月二日に上告人と婚姻した。
 上告人は、右婚姻後、アキオ、被上告人ハルコ及び同タロウと同居していた。
 5 アキオは、昭和四五年五月一六日に死亡した。
 本件土地建物は、アキオの相続財産である。上告人は、アキオの死亡後、単独で本件土地建物を占有管理
している。
 6 昭和四六年一月二三日に被上告人ハルコ、同丙アキコ、上告人及びその親族らが集まり、アキオの相続
財産の処理についての話合いをしたが、何らの合意も成立しなかった。
 上告人は、同日から数箇月を経過しないうちに、遺産分割交渉を依頼した弁護士を通じ、アキオと上告人の
婚姻が重婚であるとの事実を知るに至った。
 7 丁ハルオは、昭和五二年九月四日に死亡した。
 8 被上告人ハルコは、平成二年、上告人に対し、アキオと上告人の婚姻は重婚であるとの理由で婚姻取消
しの訴えを提起し、平成四年三月三日に婚姻を取り消す旨の判決が確定した。
 9 上告人は、本件建物(店舗兼共同住宅)を戊山ミドリ外一四名に賃貸し、賃料として一箇月計四一万四
〇〇〇円を収受している。
 10 上告人は、本訴において、本件土地建物(又はその持分)について、二〇年間占有したことを理由とする
取得時効及び被上告人ハルコの相続回復請求権の消滅時効を援用した。
 二 原審は、次のように判断して、第一事件請求のうち本件建物明渡し及び右明渡し済みまで賃料相当額の
金員として月額四万五一一五円の支払を求める部分を認容してその余を棄却し、第二事件請求をすべて棄却
すべきものとした。
 1 アキオの死亡により、被上告人ハルコは非嫡出子として本件建物の一二分の一の持分を、丁ハルオは妻
として三分の一の持分をそれぞれ相続した。
 2 丁ハルオの死亡による相続人の範囲、順位、相続分については、平成元年法律第二七号による改正前の
法例(以下「旧法例」という。)二五条により韓国法が準拠法となる。一九七七年改正前の韓国民法七七三条、
七七四条、一〇〇〇条、一〇〇二条及び一〇〇九条により、丁ハルオの財産についての被上告人ハルコの相
続分は一三分の一である。したがって、同被上告人は、アキオからの相続と丁ハルオからの相続を合わせて、
本件建物の四六八分の五一の持分を有することになるから、上告人に対し、本件建物の賃料相当額の金員とし
て月額四万五一一五円(四一万四〇〇〇円の四六八分の五一)を請求することができる。
 3 上告人は、昭和四六年一月二三日から数箇月を経過するまでの間に、自己が相続人の地位になく、本件
土地建物につき所有権はもとより相続による持分もないことを知り、その後は、所有の意思をもって本件土地建
物を占有したものではないから、本件土地建物の所有権又は持分を時効取得することはできない。
 4 上告人は、自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、又は自己に相続権があると信ぜられる
べき合理的な事由があるわけではないにもかかわらず相続人であると称し、相続財産を占有管理することにより
これを侵害している者に該当するから、相続回復請求権の消滅時効が適用される余地はない。
 三 上告代理人勝部征夫、同高橋司、同桑森章の上告理由第二について
 原審の適法に確定した前記事実関係の下においては、上告人は、被上告人ハルコ及び同タロウと同居し、自
分以外にもアキオの相続人がいることを知っていたことが明らかであり、上告人がアキオの相続人として本件土
地建物について単独で占有を開始したからといって、上告人が本件土地建物を単独で所有する意思を表示した
ものとはいえない。したがって、上告人に本件土地建物全体の所有権について取得時効が成立しないとした原
審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、原審の認定に沿わない事実に基づいて原判決の違
法をいうものにすぎず、採用することができない。
 四 同上告理由第一について
 上告人による本件土地建物の持分の時効取得を否定した原審の前記二3の判断は是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
 民法一八六条一項の規定は、占有者は所有の意思で占有するものと推定しており、占有者の占有が自主占
有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が所有の意思のない占有に当たることについて
の立証責任を負う(最高裁昭和五四年(オ)第一九号同年七月三一日第三小法廷判決・裁判集民事一二七号
三一五頁)。そして、所有の意思は、占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因である権原又は
占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものである(最高裁昭和四五年(オ)第三一五号同年
六月一八日第一小法廷判決・裁判集民事九九号三七五頁、最高裁昭和四五年(オ)第二六五号同四七年九
月八日第二小法廷判決・民集二六巻七号一三四八頁、最高裁昭和五七年(オ)第五四八号同五八年三月二
四日第一小法廷判決・民集三七巻二号一三一頁参照)。
 これを本件について見ると、原審は、上告人がアキオ死亡後単独で本件土地建物を占有している事実を確定
しつつ、上告人が占有開始後に自己が所有者又は持分権者でないことを知ったという内心の意思の変化のみ
によって所有の意思の推定を覆しており、民法一八六条一項の所有の意思の推定が覆される場合について法
令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかで
ある。論旨は理由がある。
 そして、前記確定事実によれば、上告人は、アキオの相続人として、アキオが死亡した日である昭和四五年
五月一六日に本件土地建物の占有を開始し、その後二〇年間その占有を継続しているところ、自己がアキオ
の唯一の配偶者で三分の一の法定相続分を有するものとして占有を開始したと見るべきであるから、被上告
人らが他に上告人の占有が所有の意思のないものであることを基礎付ける事情を何ら主張していない本件に
おいては、本件土地建物の各三分の一の持分を時効により取得したものというべきである。そうすると、上告人
は、本件建物の共有者としてこれを占有していることになるが、被上告人ハルコは、本件建物の共有者である
上告人に対して本件建物の明渡しを求めることができる理由を何ら主張していない。よって、原判決中、第一
事件請求のうち本件建物の明渡請求を認容し、第二事件請求を全部棄却すべきものとした部分は、いずれも
破棄を免れない。
 五 同上告理由第四について
 1 準拠法の選択について
 (一) 渉外的な法律関係において、ある一つの法律問題(本問題)を解決するためにまず決めなければなら
ない不可欠の前提問題があり、その前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合、
その前提問題は、本問題の準拠法によるのでも、本問題の準拠法が所属する国の国際私法が指定する準拠
法によるのでもなく、法廷地である我が国の国際私法により定まる準拠法によって解決すべきである。
 これを本件について見ると、丁ハルオの相続に関する準拠法は、旧法例二五条により被相続人である丁ハル
オの本国法である韓国法である。韓国民法一〇〇〇条一項一号によれば、丁ハルオの直系卑属が相続人と
なるが、相続とは別個の法律関係である被上告人らが丁ハルオの直系卑属であるかどうか、すなわち丁ハル
オと被上告人らの間に親子関係が成立しているかどうかについての準拠法は、我が国の国際私法により決定
することになる。
 (二) 親子関係の成立という法律関係のうち嫡出性取得の問題を一個の独立した法律関係として規定して
いる旧法例一七条、一八条の構造上、親子関係の成立が問題になる場合には、まず嫡出親子関係の成立に
ついての準拠法により嫡出親子関係が成立するかどうかを見た上、そこで嫡出親子関係が否定された場合に
は、右嫡出とされなかった子について嫡出以外の親子関係の成立の準拠法を別途見いだし、その準拠法を適
用して親子関係の成立を判断すべきである。
 旧法例一七条によれば、子が嫡出かどうかはその出生当時の母の夫の本国法によって定めるとされており、
同条はその文言上出生という事実により嫡出性を取得する嫡出親子関係の成立についてその準拠法を定める
規定であると解される。そうすると、出生以外の事由により嫡出性を取得する場合の嫡出親子関係の成立につ
いては、旧法例は準拠法決定のための規定を欠いていることになるが、同条を類推適用し、嫡出性を取得する
原因となるべき事実が完成した当時の母の夫の本国法によって定めるのが相当である。
 したがって、被上告人丙ミチオ、同丙アキコ及び同丙ナオコが丙マサオと丁ハルオの婚姻によって丙マサオ・
丁ハルオ夫婦の嫡出子となるかどうかについては、右婚姻当時の丁ハルオの夫丙マサオの本国法である韓
国法が準拠法となり、被上告人ハルコ及び同タロウがアキオによる同被上告人らの認知によってアキオ・丁ハ
ルオ夫婦の嫡出子となるかどうかについては、アキオが同被上告人らを認知した当時(アキオが同被上告人ら
を認知したのは、丙マサオ(アキオ)が日本に帰化した後の昭和三八年三月一四日であることが記録上明らか
である。)のアキオの本国法である日本法が準拠法となるというべきである。
 そうすると、被上告人丙ミチオ、同丙アキコ及び同丙ナオコは、一九九〇年法律第四一九九号による改正前
の韓国民法七七三条により大山ハルオとの間にいわゆる継母子関係が生じ、その嫡出子たる実子と同様に
扱われ(なお、韓国においては、同条に規定する法定母子関係が成立するためには、母と子が同一の家籍
(戸籍)内にあることを要しないと解されている。)、同被上告人らは丁ハルオの相続人となる(同改正法附則
一二条一項)。他方、被上告人ハルコ及び同タロウは、日本民法により丁ハルオの嫡出子であるとは認められ
ないことになる。
 (三) 右のように丁ハルオの嫡出子であるとは認められない被上告人ハルコ及び同タロウについて、更に丁
ハルオとの間に嫡出以外の親子関係が成立するかどうかを検討する。
 旧法例一八条一項は、その文言上認知者と被認知者間の親子関係の成立についての準拠法を定めるための
規定であると解すべきであるから、その他の事由による親子関係の成立については、旧法例は準拠法決定のた
めの規定を欠いていることになる。その他の事由による親子関係の成立のうち、血縁関係がない者の間におけ
る出生以外の事由による親子関係の成立については、旧法例一八条一項、二二条の法意にかんがみ、親子関
係を成立させる原因となるべき事実が完成した当時の親の本国法及び子の本国法の双方が親子関係の成立を
肯定する場合にのみ、親子関係の成立を認めるのが相当である。
 したがって、アキオが被上告人ハルコ及び同タロウを認知することによって丁ハルオと同被上告人らの間に親
子関係が成立するかどうかについては、右認知当時の丁ハルオの本国法である韓国法と同被上告人らの本国
法である日本法の双方が親子関係の成立を肯定するかどうかを見るべきであり、日本法では丁ハルオと同被上
告人らの間に親子関係が成立しないから、韓国法の内容を検討するまでもなく、丁ハルオと同被上告人らの間
の親子関係は否定され、結局、同被上告人らは、丁ハルオの相続人にはならないというべきである。
 (四) 右と異なり、丁ハルオと被上告人ハルコ間の親子関係の成立について、韓国法を準拠法としてこれを
肯定した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすこ
とが明らかである。論旨は、右の趣旨をいうものとして理由がある。原判決中、第一事件請求のうち本件建物
の賃料相当額の金員支払請求につき、被上告人ハルコが丁ハルオの相続人であることを前提に計算した額の
支払を命じた部分は、破棄を免れない。
 2 被上告人らの各相続分について
 (一) 丁ハルオは、アキオの相続財産につき、昭和五五年法律第五一号による改正前の民法九〇〇条の
規定により三分の一の相続分をもって相続した。
 丁ハルオの死亡による相続に関し、韓国法によれば、前記のように丁ハルオとの間に法定母子関係が存す
る被上告人丙ミチオ、同丙アキコ及び同丙ナオコが直系卑属として同順位で相続人となるが、同一家籍内にな
い女子の相続分は男子の四分の一となる(一九七七年法律第三〇五一号による改正前の韓国民法一〇〇九
条一項、前記一九九〇年改正前の同条二項、右一九七七年改正法附則五項、右一九九〇年改正法附則一
二条一項)。被上告人丙アキコ及び同丙ナオコが丁ハルオと同一家籍内にない女子であったことは記録上明ら
かである。
 そうすると、アキオの相続財産に関する被上告人らの各取得分は、次のとおりとなる。
 (二) 被上告人丙ミチオについて
 被上告人丙ミチオは、丁ハルオが相続した本件土地建物の各三分の一の持分につき、その六分の四を相続
するから、丁ハルオから本件土地建物の各一八分の四の持分を相続した。同被上告人は、アキオの死亡により、
その嫡出子として本件土地建物の各一二分の二の持分を既に相続しているから、合計で各一八分の七の持分
を取得したことになる。
 (三) 被上告人丙アキコ及び同丙ナオコについて
 被上告人丙アキコ及び同丙ナオコは、丁ハルオが相続した本件土地建物の各三分の一の持分につき、丁ハ
ルオと同一家籍内にない女子としてそれぞれその六分の一を相続するから、丁ハルオから本件土地建物の各
一八分の一の持分を相続した。同被上告人らは、アキオの死亡により、その嫡出子として本件土地建物の各
一二分の二の持分を既に相続しているから、合計で各一八分の四の持分を取得したことになる。
 (四) 被上告人ハルコ及び同タロウについて
 被上告人ハルコ及び同タロウは、アキオの死亡により、その非嫡出子としてそれぞれ本件土地建物の各一二
分の一の持分を取得した。
 六 結論
 以上説示したところによれば、本件の結論は、その余の上告理由について判断するまでもなく、次のようになる。
 1 上告人は本件土地建物の各三分の一の持分を時効取得したというべきであり、被上告人ハルコの第一事
件請求のうち本件建物明渡請求は棄却すべきである。
 2 被上告人ハルコの第一事件請求のうち賃料相当額の金員支払請求は、上告人が本件建物の賃借人らか
ら収受している賃料につき、同被上告人の本件建物の持分割合に相当する分について不当利得の返還を求め
るものであると解される。しかしながら、共有者の一人が共有物を他に賃貸して得る収益につきその持分割合を
超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る請求部分は、
将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないから(最高裁昭和五九年(オ)第一二九
三号同六三年三月三一日第一小法廷判決・裁判集民事一五三号六二七頁参照)、同被上告人が上告人に対し
原審口頭弁論終結日の翌日である平成六年一〇月二〇日以降の賃料相当額の金員支払を請求する部分に係
る訴えは、却下を免れない。
 同被上告人の原審口頭弁論終結日までの賃料相当額の金員支払請求部分については、同被上告人が相続
した本件建物の持分である一二分の一から上告人が時効取得したその三分の一を控除し、一八分の一の持分
に相当する限度で認容すべきである。すなわち、被上告人ハルコの上告人に対する本件建物の賃料相当額の
金員支払請求は、一箇月当たり四一万四〇〇〇円に一八分の一を乗じた二万三〇〇〇円の限度で認容すべ
きである。
 3 記録によれば、本件土地は登記簿上アキオの所有名義のままであり、本件建物には相続を原因として
金節(丁ハルオの従兄弟)が三分の一、被上告人丙ミチオ、同丙ナオコ及び同丙アキコが各一二分の二、被
上告人ハルコ及び同タロウが各一二分の一の各持分を有することとする所有権移転登記が経由されているこ
とが明らかである。したがって、上告人の第二事件請求は、被上告人らに対し、本件土地については被上告人
らの各法定相続分の各三分の一に相当する持分(被上告人丙ミチオは五四分の七、同丙アキコ及び同丙ナオ
コは各五四分の四、同ハルコ及び同タロウは各三六分の一。これらの分母を共通にすると、同丙ミチオは一〇
八分の一四、同丙アキコ及び同丙ナオコは各一〇八分の八、同ハルコ及び同タロウは各一〇八分の三となる。)
につき、本件建物については各登記された持分の各三分の一に相当する持分(被上告人丙ミチオ、同丙アキコ
及び同丙ナオコは各三六分の二、同ハルコ及び同タロウは各三六分の一)につき、昭和四五年五月一六日時
効取得を原因とする持分一部移転登記手続を命じる限度で認容すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


平12・2・24最判 具体的相続分の価額又は割合の確認の利益
最高裁判所第一小法廷(広島高等裁判所 岡山支部)
具体的相続分確認請求事件
主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
上告代理人松岡一章の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
 民法九〇三条一項は、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは
生計の資本としての贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に
その贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分又は指定相続分の中からその遺贈又は贈
与の価額を控除し、その残額をもって右共同相続人の相続分(以下「具体的相続分」という。)とする旨を規
定している。具体的相続分は、このように遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又は
その価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるとい
うことはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留
分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、右のような事件を離れて、これのみを別個
独立に判決によって確認することが紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはで
きない。
 したがって、【要旨】共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴え
は、確認の利益を欠くものとして不適法であると解すべきである。
 以上によれば、上告人の本件訴えを却下すべきものとした原審の判断は、是認することができる。右判断
は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものであっ
て、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平12・3・8東京高判 遺留分減殺の順序-死因贈与の取扱い
東京高等裁判所?? ?? 第20民事部
遺留分減殺請求事件
 主    文
     一 原判決中控訴人関係部分を取り消す。
     二 被控訴人らの控訴人に対する請求をいずれも棄却する。
     三 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
         事    実
第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
   主文と同旨
 二 被控訴人ら
  1 本件控訴を棄却する。
  2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
  本件の事案の概要は、次のとおり訂正し、付加し、又は削除するほかは、原判
決の「第二 事案の概要」中の控訴人と被控訴人ら関係部分に記載のとおりであ 
るから、これをここに引用する。
 一 原判決八頁一行目の「(」の次に「丙三。」を、同九行目の「死因贈与契約
書」の次に「(乙二七の一)」をそれぞれ加える。
 二 原判決九頁一一行目の「)」の次に「、相続人に対する贈与は民法一〇三〇
条に該当しない限り遺留分減殺の対象とならないか(争点3)」を加える。
 三 原判決一〇頁一行目の「3」を「4」と、同二行目の「4」を「5」とそれ
ぞれ改める。
 四 原判決一一頁一一行目の「Aが」の次に「東京土地の」を加える。
 五 原判決一二頁七行目の「Bから」の次に「相続により」を加え、同一一行目
の「遺留分減殺」から同一三頁一〇行目の「また、」までを削る。
 六 原判決一六頁一一行目から同一七頁七行目までを次のとおり改める。
  「 仮に右相続分の譲渡が認められないとしても、C及びDは、相続分譲渡の
効力いかんにかかわらず、代襲相続人として自己の有する遺留分の権利を控訴人に
譲渡してこれを承継させる意思をも有していたものと解することができるから、控
訴人による遺留分の権利の承継は認められるべきである。」
 七 原判決一八頁三行目の次に行を改めて
  「3 争点3(遺留分減殺の対象)について
    (一) 控訴人の主張
     (1) 被相続人から相続人への生前贈与のうち民法一〇三〇条の定め
る要件を満たさないものは、遺留分減殺の対象とならない。
       民法一〇四四条による同法九〇三条一、二項の準用の意味は、特別
受益の価額が遺留分の価額と等しいか又はこれを超えるときは、当該相続人は具体
的な遺留分を有しないことになるというにとどまり、右準用によって特別受益が無
条件で遺留分減殺の対象となるものではない。特別受益の持戻しと遺留分減殺請求
とは、その本質ないし制度の目的を異にするのであり、持戻し免除の意思表示がな
い限り特別受益は遺留分算定の基礎となる財産に含まれるとしても、そこから当然
に遺留分算定の基礎となった財産のすべてが遺留分減殺の対象となるとしなければ
ならない法理的又は論理的な必然性は存しない。
        遺留分減殺の対象となる贈与は、民法一〇三〇条に定める要件を
満たすもののみであり、特別受益もその例外ではない。
     (2) 本件において、AからBへの本件借地権の譲渡が認められると
すると、仮にそれが有償であると認められなかったとしても、Bにとっては特別受
益となる贈与であり、それは、代襲相続人であるC及びD、さらには、この両名か
ら相続分の譲渡を受けた控訴人にとっても特別受益となり、持戻しに服すべきもの
とされる可能性がないとはいえない。また、AからBへの本件借地権の譲渡が認め
られなかったとしても、控訴人が本件死因贈与契約により東京建物とともに本件借
地権を取得したものとして、控訴人の特別受益と解されるべきものとなる。
        そうすると、東京建物及び本件借地権は、遺留分算定の基礎に加
えられることになるが、本件借地権がBに譲渡された昭和四〇年六月はもとより本
件死因贈与契約が締結された平成三年五月一九日も、いずれもAについて相続が開
始された平成七年七月三一日より一年以上前であり、右いずれの時点においても、
Aは横浜物件を所有していたから、右譲渡又は本件死因贈与契約によって他の遺留
分権利者の遺留分が害されることはあり得ず、A、B及び控訴人のいずれにもその
認識がなかったことも明らかである。したがって、これらは、民法一〇三〇条所定
の贈与には当たらず、遺留分減殺の対象とならないから、東京物件については、遺
留分減殺請求は許されない。
    (二) 被控訴人ら
      控訴人の右主張は、争う。
      共同相続人の一人が被相続人から婚姻、養子縁組又は生計の資本とし
て受けた贈与は、相続分の前渡しと見られるから、それがされた時期及び加害の認
識の有無にかかわらず、遺留分算定の基礎となる財産となり、かつ、遺留分減殺の
対象となることは明らかである。」
  を加え、同四行目の「3 争点3」を「4 争点4」と、同六行目から同九行
目までを
  「 死因贈与は、民法一〇三三条により遺贈(遺贈に準ずる処分を含む。)を
減殺した後でなければ、減殺することができない。その理由は、次の (1)ない
し(3)のとおりである。
   (1) 死因贈与は契約であって、その当事者は行為能力者(成年者)であ
ることを要し、受贈者は、当事者双方の合意によって、贈与者の死亡時に自己が生
存することを法定条件とする不確定期限付き債権を取得するものであり、その権利
関係は契約時より確定して拘束力を生じており、その権利は民法一二九条によって
保存又は担保し得る。これに対し、遺贈は単独行為であって、遺言能力は満一五歳
に達するをもって足り、その性質は死因贈与と大きく異なり、しかも、受遺者は通
常遺言者の死後でなければ遺贈の事実を知り得ない。したがって、遺贈が単独行為
であることによる規定は死因贈与には準用されず、遺贈に関する規定のうち死因贈
与に準用されるのはその一部(例えば、民法九九四条等)にとどまるものというべ
きである。
   (2) また、死因贈与は、書面によらない場合は民法五五〇条によって取
り消すことは可能であるが、信義則上死因贈与の全部又は一部を取り 消すことが
やむを得ないと認められる特段の事情がない限り、同法五五四条によって同法一〇
二二条や一〇二三条が準用されることはないのであり、このことは、最高裁判例か
らも明らかである。
   (3) さらに、遺留分算定の基礎及び減殺対象の基準時に関し、贈与につ
いてはその行為時すなわち贈与契約成立時が基準とされている(民法一〇三〇条、
一〇三五条)。しかるに、死因贈与についてのみこれを契約成立時とせず、効力発
生時すなわち贈与者の死亡時とするのは筋が通らない。生前贈与であると死因贈与
であるとを問わず、右基準時は、契約成立時とすべきである。
     これを本件についてみるに、仮に東京物件についての本件死因贈与契約
が遺留分減殺の対象となるとしても、被控訴人らは、まず、横浜物件についてのE
への遺言による遺贈に準ずる取得処分に対して減殺請求をすべきであり、そうする
と、その減殺請求によって被控訴人らの遺留分は完全に充足されることになるか
ら、控訴人に対する遺留分減殺請求は理由がないことになる。」
  とそれぞれ改める。
 八 原判決一九頁二行目の次に行を改めて
  「(三) 被控訴人らの主張
     控訴人の主張は、争う。
     死因贈与は、遺贈に関する規定に従うのであるから、死因贈与も遺贈と
同じ順序で減殺される。」
  を加え、同三行目の「4 争点4」を「5 争点5」と改める。
 九 原判決二一頁一一行目の次に行を改めて次のとおり加える。
  「(三) 控訴人の主張
    (1) 遺留分減殺請求の相手方が遺留分を有する相続人である場合に
は、その相続人の有する遺留分は相続人としての固有の権利であって 他の相続人
の遺留分を侵害するものではないから、減殺対象の目的物件の価額から減殺請求の
相手方である相続人の有する遺留分額を控除した残額のみが民法一〇三四条にいう
「目的の価額」として減殺の対象となる。
    (2) したがって、仮に本件死因贈与契約が遺留分減殺の対象となると
しても、東京物件の価額から控訴人の有する遺留分額を控除した残額 のみが減殺
の対象となる。」
第三 証拠(省略)
         理    由
一 当裁判所は、被控訴人らの控訴人に対する本件各請求は理由がないからこれを
 棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、付加し、又は削除
 するほかは、原判決の「第三 当裁判所の判断」中の控訴人と被控訴人ら関係部
 分に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
 1 原判決二二頁六行目の「四」を「五」と改め、同行目の「一八の」の次に
「一ないし」を加え、同七行目の「一三」を「二三」と、同八行目の「三三」を 
「二  九の一ないし三、三〇、三一の一ないし五、三二、三三、三四の一ないし
四、三五、三六」と、同一一行目の「F」を「Aの妻F」とそれぞれ改める。
 2 原判決二三頁四行目の「戻り」の次に「、昭和二一年一二月ころ平家建て建
物一〇・二五坪を建築し」を加え、同七行目の「建物(東京建物)を新築し」を
「住宅金融公庫の融資に当選した大工のG名義で東京建物を新築し(したがって、
所有権保存登記は、同人名義でした。)」と改める。
 3 原判決二四頁四行目の「昭和三一年」の次に「一一月八日」を、同五行目の
「店舗」の次に「。同社とAとは、同日東京建物の一階について賃 貸借契約を締
結している。」を、同一〇行目の「半分を」の次に「同地上の前記平家建て建物と
ともに」をそれぞれ加える。
 4 原判決二五頁一行目の「締結し」の次に「、同月一五日」を加え、同八行目
の「本件建物」を「東京建物」と改める。
 5 原判決二六頁一行目の「一九日」の次に「、控訴人との間に」を加え、同二
行目の「これを公正証書にした」を「同月二八日付けで控訴人のために始期付所有
権移転仮登記(始期・Aの死亡)を経由した」と、同六行目から同七行目にかけて
の「有償譲渡した」を「有償譲渡した」とそれぞれ改める。
 6 原判決二七頁八行目の「所有名義を」の次に「真正な登記名義の回復を原因
として」を加える。
 7 原判決二九頁一一行目の「本件遺産」を「Aの遺産」と改める。
 8 原判決三〇頁二行目から同三一頁八行目までを削る。
 9 原判決三一頁九行目の「三 争点3」を「二 争点4」と改める。
 10 原判決三二頁一行目から同二行目にかけての「解する」から同三行目末尾ま
でを「解する余地もないではないが、他方、【要旨】死因贈与も、生 前贈与と同
じく契約締結によって成立するものであるという点では、贈与としての性質を有し
ていることは否定すべくもないのであるから、死因贈与は、遺贈と同様に取り扱う
よりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり、ただ民法一〇三三条及び一〇三
五条の趣旨にかんがみ、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次い
で、生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である。そして、
特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(以下「相続させる遺言」とい
う。)による相続は、右の関係では遺贈と同様に解するのが相当であるから、本件
においては、まず、原審相被告Eに対する相続させる遺言による相続が減殺の対象
となるべきものであり、それによって被控訴人らの遺留分が回復されない場合に初
めて、控訴人に対する死因贈与が減殺の対象になるというべきである。」と、同四
行目の「四 争点4」を「三 争点5」とそれぞれ改める。
 11 原判決三三頁一行目から同三四頁一一行目までを次のとおり改める。
  「 そうすると、被控訴人ら及び原審相被告Eの各遺留分額は、それぞれ九九
七万三四四八円となる。そして、被控訴人らが取得した遺 産の額はそれぞれ四四
九万七二四二円であるから、被控訴人らは、それぞれ五四七万六二〇六円ずつ遺留
分を侵害されていることになる。
    したがって、前示したところに従って、まず、原審相被告Eが相続させる
遺言による相続によって取得した遺産すなわち横浜物件から 遺留分減殺をすべき
ところ、相続人に対する遺贈を遺留分減殺の対象とする場合には、遺贈の目的の価
額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが遺留分減殺の対象となるのであり、
このことは、相続させる遺言による相続が遺留分減殺の対象となる場合も同様に解
すべきであるから(最高裁平成一〇年二月二六日第一小法廷判決民集五二巻一号二
七四頁参照)、横浜物件は、その価格六六七九万円から原審相被告Eの遺留分額九
九七万三四四八円を差し引いた残額五六八一万六五五二円の限度で減殺の対象とな
る。他方、被控訴人らの侵害されている遺留分額は、前記のとおり、それぞれ五四
七万六二〇六円であり、その合計は一〇九五万二四一二円であるから、原審相被告
Eが取得した右遺留分超過額五六八一万六五五二円を下回ることは明らかである。
そうすると、被控訴人らは、その侵害された遺留分全額を原審相被告Eに対する遺
留分減殺請求によって回復することができることになり、控訴人に対して遺留分減
殺請求をする必要はないことになる。したがって、その余の点(争点2、3)につ
いて判断するまでもなく、被控訴人らの控訴人に対する請求は、すべて理由がない
ことに帰する。」
二 よって、当裁判所の右判断と異なる原判決中の控訴人敗訴部分を失当として取
り消し、被控訴人らの控訴人に対する本件各請求を棄却することとして、主文のと
おり判決する。

平12・7・11最判 各個の財産についての価額弁償
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
土地建物共有物分割等請求事件
主    文
 一 原判決中、第一審判決別紙株式目録記載一ないし四及び六の各株式の分割請求及び株券の引渡請
求に係る部分を破棄する。
 二 前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 三 上告人のその余の上告を棄却する。
 四 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 一 事案の概要
 本件は、亡Aの共同相続人の一人であり相続財産全部の包括遺贈を受けた上告人に対して、遺留分減殺
請求をした他の共同相続人である被上告人らが、共有に帰した相続財産中の株式等について共有物の分
割及び分割された株式に係る株券の引渡し等を請求したものである。
 二 上告代理人高崎英雄の上告受理申立て理由第一について
 1 上告人は、遺贈を受け被上告人らからの遺留分減殺請求の対象となっている財産の一部である第一審
判決別紙株式目録記載六の株式のみについて、本件訴訟で民法一〇四一条一項に基づく価額の弁償を主
張している。
 2 原審は、同項の「贈与又は遺贈の目的の価額」とは、贈与又は遺贈された財産全体の価額を指すもの
と解するのが相当であり、贈与又は遺贈を受けた者において任意に選択した一部の財産について価額の弁
償をすることは、遺留分減殺請求権を行使した者の承諾があるなど特段の事情がない限り許されないものと
いうべきであり、そう解しないときは、包括遺贈を受けた者は、包括遺贈の目的とされた全財産についての共
有物分割手続を経ないで、遺留分権利者の意思にかかわらず特定の財産を優先的に取得することができる
こととなり、遺留分権利者の利益を不当に害することになるとして、上告人の価額弁償の主張を排斥し、右株
式を被上告人ら三、上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、右分
割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。
 3 しかし、【要旨1】受贈者又は受遺者は、民法一〇四一条一項に基づき、減殺された贈与又は遺贈の目
的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還義務を免れることができるものと解すべきである。
 なぜならば、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、そ
の返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきであ
り、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財
産を取得することが保障されているものではなく(民法一〇二八条ないし一〇三五条参照)、受贈者又は受
遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければ、遺留分権利者か
らの返還請求を拒み得ないのであるから(最高裁昭和五三年(オ)第九〇七号同五四年七月一〇日第三小
法廷判決・民集三三巻五号五六二頁)、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはな
らないからである。このことは、遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺贈された複数の財産で
ある場合には、各受贈者又は各受遺者は各別に各財産について価額の弁償をすることができることからも
肯認できるところである。そして、相続財産全部の包括遺贈の場合であっても、個々の財産についてみれば
特定遺贈とその性質を異にするものではないから(最高裁平成三年(オ)第一七七二号同八年一月二六日
第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)、右に説示したことが妥当するのである。
 そうすると、原審の前記判断には民法一〇四一条一項の解釈を誤った違法があるというべきである。
 三 同第二の三について
 1 原審は、第一審判決別紙株式目録一ないし四記載の新日本製鉄株式会社外三社の各株式について、
株式は一株を単位として可分であり、かつ、分割することによる価値の減少が認められないことを理由とし
て、右各株式を被上告人ら三、上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したと
きに、右分割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。
 2 しかし、右各株式は証券取引所に上場されている株式であることは公知の事実であり、これらの株式に
ついては、一単位未満の株券の発行を請求することはできず、一単位未満の株式についてはその行使し得
る権利内容及び譲渡における株主名簿への記載に制限がある(昭和五六年法律第七四号商法等の一部を
改正する法律附則一五条一項一号、一六条、一八条一、三項)。したがって、【要旨2】分割された株式数が
一単位の株式の倍数であるか、又はそれが一単位未満の場合には当該株式数の株券が現存しない限り、
当該株式を表象する株券の引渡しを強制することはできず、一単位未満の株式では株式本来の権利を行使
することはできないから、新たに一単位未満の株式を生じさせる分割方法では株式の現物分割の目的を全う
することができない。
 そうすると、このような株式の現物分割及び分割された株式数の株券の引渡しの可否を判断するに当たっ
ては、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等をも考慮すべ
きであり、この点について考慮することなく、右各株式の現物分割を命じた原審の判断には、民法二五八条
二項の解釈を誤った違法があり、これを前提として株券の引渡しを命じた原審の判断にも違法があるという
べきである。
 四 結論
 以上によれば、原判決中、第一審判決別紙株式目録記載一ないし四及び六記載の各株式の分割及び株
券の引渡しを命じた部分には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。したがって、論旨は
理由があり、原判決中、右部分は破棄を免れず、同目録記載一ないし四の各株式に関する請求について
は、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等を考慮した現物
分割の可否について、同目録記載六の株式に関する請求については、弁償すべき価額について、更に審理
判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除さ
れたので、棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

平13・3・13最判 「不動産を遺贈する」との遺言の解釈
第三小法廷判決(東京高等裁判所)
土地建物共有物分割本訴,遺言無効確認反訴請求事件
主    文
 原判決中第1審判決別紙物件目録一記載の土地の共有物分割請求に係る部分を破棄する。
 前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理    由
 上告代理人池原毅和,同森岡信夫の上告理由について
 1 本件訴訟は,亡竹内富美雄(以下「富美雄」という。)の相続人である上告人が,母である富美雄からの
遺贈によって第1審判決別紙物件目録一,二記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)の共有持分を
取得したと主張して,本件土地建物の他の共有持分者である被上告人らに対して,本件土地建物の共有物
分割を求めるものである。原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 本件土地建物について,富美雄は2分の1の共有持分を有し,被上告人らは各8分の1の共有持分を
有していた。本件建物は本件土地上に建っており,富美雄は,本件土地建物の外に不動産を有していなかった。
 (2) 富美雄は,平成4年4月20日付けで,その全文,日付及び氏名を自署し,これに印を押した遺言書
(以下「本件遺言書」という。)を作成した。本件遺言書の本文には,富美雄所有の不動産である東京都荒川
区西尾久7丁目60番4号を上告人に遺贈する旨の記載がある。
 (3) 富美雄は,平成6年1月3日に死亡した。
 (4) 富美雄の相続人は,小川サヨ子(長女),須賀恵美子(二女),後藤昭子(三女),吉川良子(四女),
上告人(二男),鈴木憲子(五女)並びに亡竹内義弥(長男,昭和48年6月13日死亡)の子である被上告人
染谷純子,同竹内一弥及び同橋美子の9名である。被上告人竹内隆子は,亡竹内義弥の妻である。
 (5) 本件遺言書作成当時,本件土地建物は,富美雄の自宅として用いられると共に,上告人らの同族会
社で廃品回収業を営む有限会社竹内商店(以下「竹内商店」という。)の事業所としても用いられ,竹内商店
の借入金を担保するために金融機関の抵当権が設定されており,本件土地建物なしに竹内商店の経営が成
り立たなかったことは明らかであった。そして,本件遺言書作成の前後において,竹内商店の経営の実権を
有していた被上告人竹内隆子とこれに反発する上告人とは反目し合っており,被上告人ら家族と上告人との
間には確執が続いていた。
 (6) 上告人と被上告人らの間では,本件土地建物の分割協議が調わない。
 2 原審は,以下のとおり判示して,上告人の本件土地の共有物分割請求を却下した。
 (1) 本件遺言書に記載された「西尾久7丁目60番4号」は,住居表示であり,文字どおりに解するならば,
同所所在の建物と解すべきことになる。
 (2) 前記1(5)の本件遺言書作成当時の事情によれば,富美雄が本件土地の共有持分を上告人に遺贈
する真意を有していたと解することはできない。
 (3) これらを総合すると,富美雄は本件建物の共有持分のみを上告人に遺贈したものと解すべきである。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 遺言の意思解釈に当たっては,遺言書の記載に照らし,遺言者の真意を合理的に探究すべきところ,本件
遺言書には遺贈の目的について単に「不動産」と記載されているだけであって,本件土地を遺贈の目的から
明示的に排除した記載とはなっていない。一方,本件遺言書に記載された「荒川区西尾久7丁目60番4号」は
,富美雄の住所であって,同人が永年居住していた自宅の所在場所を表示する住居表示である。そして,本件
土地の登記簿上の所在は「荒川区西尾久7丁目」,地番は「158番6」であり,本件建物の登記簿上の所在は
「荒川区西尾久7丁目158番地6」,家屋番号は「158番6の1」であって,いずれも本件遺言書の記載とは一
致しない。以上のことは記録上明らかである。
 そうすると,本件遺言書の記載は,富美雄の住所地にある本件土地及び本件建物を一体として,その各共有
持分を上告人に遺贈する旨の意思を表示していたものと解するのが相当であり,これを本件建物の共有持分の
みの遺贈と限定して解するのは当を得ない。原審は,前記1(5)のように本件遺言書作成当時の事情を判示し,
これを遺言の意思解釈の根拠としているが,以上に説示したように遺言書の記載自体から遺言者の意思が合
理的に解釈し得る本件においては,遺言書に表われていない前記1(5)のような事情をもって,遺言の意思解
釈の根拠とすることは許されないといわなければならない。
 4 以上のとおり,富美雄が本件建物の共有持分のみを上告人に遺贈したものと解すべきであるとした原審
の判断には,遺言に関する法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は原判決の結論に影響を及ぼすこ
とが明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり,原判決中上告人の本件土地の共有物分割請求を却下
した部分は破棄を免れない。そして,本件土地の分割方法につき審理を尽くさせる必要があるから,同部分を
原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平13・3・27最判 証人となることができない者が同席した公正証書遺言の効力
第三小法廷判決(福岡高等裁判所)
遺言無効確認請求事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人兼上告補助参加代理人有馬毅の上告理由一及び二について
 所論の点に関する原審の事実認定は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り,上記事実関係
の下においては,本件遺言当時,元重博文は意思能力を有しており,公証人は元重博文が口授した遺言の
内容を聞き取ったものであるとした原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法は
ない。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って
原判決を論難するものであって,採用することができない。
 同三について
 遺言公正証書の作成に当たり,民法所定の証人が立ち会っている以上,たまたま当該遺言の証人となる
ことができない者が同席していたとしても,この者によって遺言の内容が左右されたり,遺言者が自己の真
意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り,当該遺言公正証書の作成手
続を違法ということはできず,同遺言が無効となるものではないと解するのが相当である。
 ところで,本件において,受遺者である元重克巳の長女の永岡文江らが同席していたことによって,本件
遺言の内容が左右されたり,元重博文が自己の真意に基づき遺言をすることが妨げられたりした事情を認
めることができないとした原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。
 したがって,本件公正証書による遺言は有効であるというべきであり,これと同旨の原審の判断は正当で
あって,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平13・4・20最判 普通傷害保険契約に基づく死亡保険金請求の立証責任
第二小法廷判決(東京高等裁判所)
各保険金請求事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人山本隆夫,同根岸隆,同久利雅宣,同増田英男の上告受理申立て理由第一について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人会社は,被上告人らとの間で,第1審判決別紙第一事件保険契約及び同第二事件保険契約
記載のとおり被保険者をいずれもA,保険金受取人を同上告人あるいは被保険者の法定相続人(上告人B,
同C,同D及び同E)とする普通傷害保険契約(以下「本件各保険契約」という。)をそれぞれ締結した。
 (2) 本件各保険契約に適用される各保険約款(以下「本件各約款」という。)には,いずれも被保険者が急
激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して約款に従い保険金(死亡保険金を含む。)
を支払うこと及び被保険者の故意,自殺行為によって生じた傷害に対しては保険金を支払わないことがそれ
ぞれ定められている。
 (3) 本件各保険契約の被保険者であるAは,平成7年10月31日午後2時30分ころ埼玉県北足立郡a町
所在の5階建て建物の屋上から転落し,脊髄損傷等により死亡した(以下,これを「本件転落」という。)。
 2 上記事実関係に基づいて検討する。
 本件各約款に基づき,保険者に対して死亡保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶然な事故で
あることについて主張,立証すべき責任を負うものと解するのが相当である。けだし,本件各約款中の死亡
保険金の支払事由は,急激かつ偶然な外来の事故とされているのであるから,発生した事故が偶然な事故
であることが保険金請求権の成立要件であるというべきであるのみならず,そのように解さなければ,保険金
の不正請求が容易となるおそれが増大する結果,保険制度の健全性を阻害し,ひいては誠実な保険加入者
の利益を損なうおそれがあるからである。本件各約款のうち,被保険者の故意等によって生じた傷害に対し
ては保険金を支払わない旨の定めは,保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどま
り,被保険者の故意等によって生じた傷害であることの主張立証責任を保険者に負わせたものではないと
解すべきである。
 3 以上によれば,本件転落が偶然な事故であると認めることができず,したがって上告人らの本件各保険
契約に基づく各保険金請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断は,正当として是認することができる。
上記判断は,所論引用の判例に抵触するものではない。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することが
できない。
 よって,裁判官亀山継夫の補足意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官亀山継夫の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見に賛成するものであるが,次のことを付言しておきたい。
 本件各約款の合理的解釈としては,法廷意見のいうとおり,保険金請求者の側において偶然な事故である
ことの主張立証責任を負うべきものと解するのが相当である。しかしながら,本件各約款が,保険契約と保険
事故一般に関する知識と経験において圧倒的に優位に立つ保険者側において一方的に作成された上,保険
契約者側に提供される性質のものであることを考えると,約款の解釈に疑義がある場合には,作成者の責任
を重視して解釈する方が当事者間の衡平に資するとの考えもあり得よう。そして,かねてから本件のように被
保険者の死亡が自殺によるものか否かが不明な場合の主張立証責任の所在について判例学説上解釈が分
かれ,そのため紛争を生じていることは,保険者側は十分認識していたはずであり,保険者側において,疑義
のないような条項を作成し,保険契約者側に提供することは決して困難なこととは考えられないのであるから,
一般人の誤解を招きやすい約款規定をそのまま放置してきた点は問題であるというべきである。もちろん,
このような約款がこれまで使用されてきた背景には,解釈上の疑義が明確に解消されないため,かえって改正
が困難であったという事情があるのかもしれないが,本判決によって疑義が解消された後もなおこのような状況
が改善されないとすれば,法廷意見の法理を適用することが信義則ないし当事者間の衡平の理念に照らして
適切を欠くと判断すべき場合も出てくると考えるものである。

平13・7・10最判 相続分の譲渡と農地法許可
最高裁判所第三小法廷(東京高等裁判所)
不動産登記処分取消請求事件
主    文
       原判決を破棄する。
       被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
                         
理    由
        上告代理人綱剛,同小川彰,同島ア克美,同齋藤和紀,同山村清治,同藤岡園子の上告受
理申立て理由第二点について
        1 本件は,共同相続人の1人である上告人が,他の共同相続人のうちの一部の者からその相
続分の贈与を受けたとして,当該他の共同相続人と共同して,に相続登記がされていた相続財産である農
地について,「相続分の贈与」を原因とする持分全部移転登記を申請したところ,被上告人が農地法3条1項
の許可(以下,単に「許可」という。)を証する書面(以下「許可書」という。)の添付がないことを理由に申請を
却下する旨の決定をしたため,上告人が同却下決定の取消しを求める事件である。
 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 亡Aは,第1審判決別紙一ないし三記載の本件農地3筆を所有していたが,昭和46年8月8日,死亡し
た。
 (2) Aの法定相続人は,養子B,2女C,2男亡Dの長女である上告人,Dの2女E及びAの3男亡Fの長女
Gの5人である。
 (3) 平成3年3月14日,本件農地について,相続を原因とする所有権移転登記がされ,法定相続分に従っ
て,B,C及びGにつき各8分の2,上告人及びEにつき各8分の1の持分の登記がされている。
 (4) B及びCは,平成6年11月8日,自己の相続分全部をそれぞれ上告人に贈与した。
 (5) 上告人,B及びCは,共同して,平成7年1月23日,本件農地につき,上記相続分の贈与に基づき,登
記原因を「平成6年11月8日相続分の贈与」として,共有者B及びCの各持分の移転登記申請をしたが,申
請書には許可書が添付されていなかった。
 (6) 被上告人は,平成7年2月20日,上記登記申請に許可書の添付がないことを理由として,これを却下
する旨の決定をした。
 2 上記事実関係に基づき,第1審は,共同相続人間の相続分の譲渡については許可を要しないと解し,
上告人の請求を認容したが,原審は,概要次のとおり判示して,第1審判決を取り消し,上告人の請求を棄
却した。
 (1) 相続分の譲渡は,相続財産に対する包括的な持分を一括して譲渡するものであって個々の相続財産
に対する共有持分の個別譲渡とは区分されるが,その目的及び効果をみる限り,個々の財産に対する共有
持分の移転を内包する財産権に関する行為であって,農地法3条1項に定める農地の所有権等の移転を目
的とする法律行為に該当する。したがって,同項ただし書に相続分の譲渡を除外事由と定める規定がない以
上,原則どおり許可が必要となる。この場合に,その譲渡が共同相続人間で行われたか否かによって取扱
いを異にする余地はない。
 (2) 相続分の譲渡は,常に遺産分割に先行するとか遺産分割を前提とするというものではない。遺産分割
は相続人全員の協議によるものであり,その効果も相続開始時にそ及するが,相続分の譲渡は一部の相続
人のみによって行うことができ,その効果もそ及しない。したがって,農地法3条1項7号を相続分の譲渡に類
推適用することはできない。
 (3) 包括遺贈は包括的割合により相続財産を遺贈するもので,その効果は相続開始時に生ずるから,相
続に準じて許可を不要とすることが相当であるが,相続分の譲渡は,一部の相続人のみによって行うことが
でき,その効果もそ及しない。したがって,農地法3条1項10号,農地法施行規則3条5号を相続分の譲渡に
類推適用する余地はない。
 (4) 共同相続人間で相続分の譲渡がされたが農地の登記名義が被相続人のままとなっている場合には,
譲受人は許可書の提出を求められることなく相続を登記原因として直接所有権移転登記を受けることができ
るというのが登記実務であるが,それは不動産登記法の規定に準拠して行われているのであるから,これに
準拠する余地のない本件において登記を認めないことが,理由のない不平等なものということはできない。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する
譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し,譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分と
を合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり,分割が実行されれば,その結果に従って
相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。このように,相続分の
譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は,持分割合の数値が異なるだけで,相続によって取得
した地位と本質的に異なるものではない。そして,遺産分割がされるまでの間は,共同相続人がそれぞれの
持分割合により相続財産を共有することになるところ,上記相続分の譲渡に伴って個々の相続財産について
の共有持分の移転も生ずるものと解される。相続分の譲渡により生ずるこのような法的な状態は,譲渡前に
個々の不動産について相続の登記がされたか否かにより左右されるものではない。
 (2) 農地法3条1項は,農地に係る権利の人為的な移転のうち農地の保全の観点から望ましくないと考え
られるものを制限する趣旨の規定であるところ,相続によって生ずる権利移転も相続人が非営農者である場
合には農地の保全上は望ましいとはいえないものの,相続がそもそも人為的な移転ではなく,相続による包
括的な権利承継は私有財産制の下においては是認せざるを得ないものであることから,規制対象とはしてい
ないものと解される。そして,同項7号,10号,農地法施行規則3条5号は,遺産分割,特別縁故者への相
続財産の分与及び包括遺贈について,人為的な権利移転であり農地の保全上は望ましくないものも含まれ
ているにもかかわらず,その実質が相続による権利移転と異ならないかこれに準ずるものであることにかん
がみて,その規制を差し控えているものと解される。
 (3) 相続財産に農地が含まれているか否かを問わず,共同相続人間において個々の農地ではなく包括的
な相続人たる地位を譲渡すること自体は,農地法3条1項が規制の対象とするものではない。そして,共同相
続人間における相続分の譲渡に伴い前記のとおり個々の不動産についても持分の移転が生ずるのは,相
続により包括的な権利移転に伴って個々の財産上の権利も移転するのと同様の関係にあり,相続人の1人
である当該譲受人に農地についての権利が移転すること自体は同項の是認するところである。また,相続分
の譲渡による権利移転はその後に予定されている遺産分割により権利移転が確定的に生ずるまでの暫定
的なものであって,遺産分割による農地についての確定的な権利移転については許可を要しないとされてい
るのである。
 (4) 以上の点にかんがみれば,【要旨1】共同相続人間においてされた相続分の譲渡に伴って生ずる農地
の権利移転については,農地法3条1項の許可を要しないと解するのが相当である。このように考えるべきこ
とは,相続分の譲渡が一部の相続人のみによって行うことができることや,その効力が相続開始時にさかの
ぼらないことによって,左右されるものではない。
 そして,相続人は相続分の譲渡により生じている実体上の権利関係に符合するように登記簿の記載を改
めることを求める正当な利益を有するものというべきであって,相続財産である農地について既に相続の登
記がされていることは,その妨げとなるものではない。
 (5) したがって,【要旨2】許可書の添付がないことを理由に本件登記申請を却下した被上告人の決定に違
法がないとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,論旨は理由があ
り,原判決は破棄を免れない。そして,以上によれば,同決定を取り消すべきものとした第1審判決は正当で
あるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平13・11・22最判 遺留分減殺請求を債権者代位の目的とすることの可否
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
第三者異議事件
主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人冨永長建の上告理由について
 1 本件は,遺言によって被上告人が相続すべきものとされた不動産につき,当該遺言で相続分のないも
のとされた相続人に対して貸金債権を有する上告人が,当該相続人に代位して法定相続分に従った共同相
続登記を経由した上,当該相続人の持分に対する強制競売を申し立て,これに対する差押えがされたとこ
ろ,被上告人がこの強制執行の排除を求めて提起した第三者異議訴訟である。上告人は,上記債権を保全
するため,当該相続人に代位して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし,その遺留分割合に相当
する持分に対する限度で上記強制執行はなお効力を有すると主張した。
 2 【要旨】遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意
思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすること
ができないと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。
 遺留分制度は,被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るもの
である。民法は,被相続人の財産処分の自由を尊重して,遺留分を侵害する遺言について,いったんその意
思どおりの効果を生じさせるものとした上,これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを,専ら遺留
分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる(1031条,1043条参照)。そうすると,遺留分減
殺請求権は,前記特段の事情がある場合を除き,行使上の一身専属性を有すると解するのが相当であり,
民法423条1項ただし書にいう「債務者ノ一身ニ専属スル権利」に当たるというべきであって,遺留分権利者
以外の者が,遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないと解するのが相当
である。民法1031条が,遺留分権利者の承継人にも遺留分減殺請求権を認めていることは,この権利がい
わゆる帰属上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず,上記のように解する妨げとはならない。な
お,債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは,相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって
左右される極めて不確実な事柄であり,相続人の債権者は,これを共同担保として期待すべきではないか
ら,このように解しても債権者を不当に害するものとはいえない。
 3 以上と同旨の見解に基づき,本件において遺留分減殺請求権を債権者代位の目的とすることはできな
いとして,被上告人の第三者異議を全部認容すべきとした原審の判断は,正当として是認することができる。
所論引用の判例は,所論の趣旨を判示したものではなく,上記判断はこれと抵触するものではない。論旨は
採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平14・6・10最判 「相続させる」遺言と登記の要否
第二小法廷判決(東京高等裁判所)
第三者異議事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人永盛敦郎,同滝沢香の上告受理申立て理由について
 1 原審の認定によれば,本件の経過は,次のとおりである。被上告人は,夫である被相続人Aがした,
原判決添付物件目録記載の不動産の権利一切を被上告人に相続させる旨の遺言によって,上記不動産
ないしその共有持分権を取得した。法定相続人の1人であるBの債権者である上告人らは,Bに代位して
Bが法定相続分により上記不動産及び共有持分権を相続した旨の登記を経由した上,Bの持分に対する
仮差押え及び強制競売を申し立て,これに対する仮差押え及び差押えがされたところ,被上告人は,この
仮差押えの執行及び強制執行の排除を求めて第三者異議訴訟を提起した。
 2 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,特段の事情のない限り,何らの行為を
要せずに,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元
年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45竄S号477頁参照)。このように,「相続させる」
趣旨の遺言による権利の移転は,法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところ
はない。そして,法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については,登記なくして
その権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法
廷判決・民集17巻1号235頁,最高裁平成元年(オ)第714号同5年7月19日第二小法廷判決・裁判集
民事169号243頁参照)。したがって,本件において,被上告人は,本件遺言によって取得した不動産又
は共有持分権を,登記なくして上告人らに対抗することができる。
 3 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は,事案を異にし本
件に適切でない。論旨は,独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平14・7・12最判 推定相続人廃除申立て却下審判に対する抗告の可否
第二小法廷決定(東京高等裁判所)
推定相続人廃除申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
主    文
 本件抗告を却下する。
 抗告費用は抗告人の負担とする。
理    由
 職権により本件抗告の適否について検討する。
 遺言執行者が推定相続人の廃除を求める審判手続において,廃除を求められていない推定相続人が利害
関係人として審判手続に参加した場合に,その参加人は廃除の申立てを却下する審判に対して即時抗告をす
ることができない(家事審判規則100条2項,27条2項参照)。
 したがって,本件抗告は不適法なものとして却下を免れない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

平14・9・24最判 秘密証書遺言が無効になった事例
第三小法廷判決(東京高等裁判所)
遺言無効確認請求事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人斎藤勝,同片岡壽,同関根靖弘の上告受理申立て理由について
 原審の適法に確定した事実関係は,次のとおりである。
 亡Aは,財産全部を妻である上告人に相続させる旨の本件遺言をした。本件遺言書の記載は,表題,本文,
作成年月日並びに遺言者であるAの住所及び氏名から成るところ,そのうち,作成年月日である「平成十年
十一月拾五日」の記載のうちの「拾五」の部分及び氏名はAが自筆で記載したが,その余の部分はワープロで
印字されている。この印字部分は,上告人の子であるBの妻Cが,市販の遺言書の書き方の文例を参照し,ワ
ープロを操作して,その文例にある遺言者と妻の氏名をA及びDに置き換え,そのほかは文例のまま入力し,
印字したものである。Aは,本件遺言を秘密証書の方式によってすることとし,横浜地方法務局所属公証人和田
啓一及び証人2人の前に本件遺言書を入れた封書を提出し,自己の遺言書である旨及びA自身がこれを筆記し
た旨述べたが,遺言書の筆者としてCの氏名及び住所を述べなかった。
 上記事実関係の下においては,本件遺言の内容を筆記した筆者は,ワープロを操作して本件遺言書の表題
及び本文を入力し印字したCであるというべきである。Aは,公証人に対し,本件遺言書の筆者としてCの氏名
及び住所を申述しなかったのであるから,本件遺言は,民法970条1項3号所定の方式を欠き,無効である。
 これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,独自の
見解に立って原判決を非難するものにすぎず,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平14・11・5最判 死亡保険金の受取人を変更する行為と民1031条の遺贈又は贈与
最高裁判所第一小法廷(福岡高等裁判所)
死亡保険金支払請求権確認請求事件
主    文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人尾倉洋文の上告受理申立て理由について
 【要旨】自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は,民法10
31条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく,これに準ずるものということもできないと解するのが
相当である。けだし,死亡保険金請求権は,指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得する
のであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産を構成するも
のではないというべきであり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻
1号1頁参照),また,死亡保険金請求権は,被保険者の死亡時に初めて発生するものであり,保険契約者
の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであ
って,死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできな
いからである。
 これと同旨の見解に基づき,上告人らの予備的請求を棄却すべきものとした原審の判断は,正当として是
認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平15・3・24東京簡裁 相続放棄の熟慮期間の起算日
東京簡易裁判所?? ?? 民事第3室
貸金請求
主         文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金282万5400円及び内金39万円に対する平成14年10月
1日から支払済みまで年36パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 判断の基礎となる事実
  (1) 訴外A(以下,「訴外A」という。)は,被告の父親である訴外B(以下,「被告の父
親」という。)に対し,昭和59年4月17日,39万円を次の約定で貸し渡した。
   @ 利   息  年73パーセント
   A 損 害 金  年73パーセント
   B 弁 済 期  昭和59年5月から昭和60年9月まで毎月15日限り元金5000円
と利息を支払い,過不足金は最終日に精算する。
   C 特   約  分割金の支払を1回でも怠ったときは,期限の利益を失う。
(2) 訴外Aは,被告の父親に対し,平成5年4月ころ,上記貸金につき返還請求訴訟を
新宿簡易裁判所に提起した。同裁判所は,平成5年7月30日,被告の父親は訴
外Aに対し,「金149万1408円及び内金39万円に対する平成5年4月1日から
支払済みまで年36パーセントの割合による金員を支払え。」との全部認容の欠
席判決(以下,「前訴判決」という。)を言い渡し,同判決は,平成5年8月25日こ
ろ確定した。
  (3) 被告の父親は,平成9年12月25日,死亡した。
  (4) 訴外Aは,被告に対し,平成11年2月9日到達の書面で,被告の父親に対する上
記貸金の存在及び同人が平成9年12月25日に死亡した事実を通知し,その弁
済を求めるとともに,上記貸金債権を平成7年3月16日に訴外C(以下,「訴外
C」という。)に譲渡した旨通知した。
(5) 訴外Cは,被告に対し,平成14年7月30日到達の書面で,前訴判決に表示され
た債権を平成11年10月5日に原告に譲渡した旨通知し,その支払を求めた。
(6) しかし,被告はその支払をしないので,原告は,被告に対し,時効を中断するた
め,前記貸金残余の支払を求めて本件訴訟を提起した。
 (7) 本訴状副本は,平成14年11月3日,裁判所から被告に送達された。
(8) 被告は,第1回口頭弁論期日(平成14年11月27日)に出頭し,原告の前記(1)か
ら(5)の主張に対し,訴外Bの子であることを認め,その余の事実は知らないと述
べた。
(9)@ そこで,原告は,第2回口頭弁論期日(平成14年12月16日)において,被告
の父親が死亡した事実を証する書面として同人の除籍謄本及び被告の父親
に対する前記貸金債権の存在を証する書面として前訴判決正本等を提出し
証拠調べを求めた。
  A 前記証拠調べ終了後,被告は,直ちに,弁護士会の法律相談を受けた。
(10) 被告は,平成15年1月20日,東京家庭裁判所に対し,相続放棄の申述をし,平
成15年2月13日,受理された。
(以上の各事実は,当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実,証拠及び
弁論の全趣旨により認められる。)
2 主たる争点
被告の相続放棄の効力の有無−熟慮期間(民法915条1項本文)の起算日は いつ
か−
3 主たる争点に関する当事者の主張と反論
(1) 被告の主張
@ 被告は,第2回口頭弁論期日(平成14年12月16日)において,原告から被
告の父親の除籍謄本及び被告の父親に対する貸金債権を証明する判決正本
を見て,初めて被告の父親が死亡したこと及び被告の父親が生前負った債務
があることを知ったのであるから,同日をもって熟慮期間の起算日と解すべき
である。
A したがって,被告は,平成14年12月16日から熟慮期間の3ヶ月以内であ
る平成15年1月20日に相続放棄の申述をし,受理されたのであるから,本件
債務を相続しない。
(2) 原告の反論
@ 訴外Aは,被告に対し,平成11年2月9日到達の書面で,被告の父親が平成9
年12月25日に死亡した事実及び同人に対する貸金債権の存在を通知してい
るのであるから,同到達日をもって熟慮期間の起算日と解すべきである。
  A したがって,被告は,平成11年2月9日から熟慮期間の3ヶ月経過後である平
成15年1月20日に相続放棄の申述をし,受理されたのであるから,その申述
受理は無効であり,被告は本件債務を相続する。
第3 主たる争点に対する判断
1 当裁判所に顕著な事実,証拠(甲1から3,9,11,13,14,15,乙1,2,被告本
人)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められ,この認定に反する証拠
はない。
  (1) 被告と父親との交際状況等
   @ 被告は,昭和45年8月27日,父Bと母Dとの間に,東京都文京区で長女として
生まれ,兄弟姉妹はいないこと。
   A 被告は,生後まもなく父親が結核で入院したこともあって,岩手県釜石市にある
母親の実家に引き取られていたところ,被告が4歳のとき,親権者を母と定め
て両親が離婚し,そのまま父親やその親戚に会わなくなり,
以後,被告は父親の生活歴について全く知らないこと。中学生のころ,母親か
ら,父親が見知らぬ子供を連れて母親に会いに来たということを一回聞いたこ
とがあるのみで,父親がどこでどのような生活をしているか,その生死すら知
る由もなく,父親の顔すら覚えていないこと。
B 被告は,両親が離婚後,母親の実家から母親のもとに引き取られ千葉県市川市
に移り住み,母親と二人で生活をするようになり,その後,母親と東京都江東
区内に住まいを移し替えて生活していたこと。
   C 被告は,江東区立中学校を卒業後,すぐに就職し,結婚するまでの間,母親と
二人で生活していたこと。
D 被告は,22歳のときに結婚したが,結婚式を挙げることもなく,23歳で離婚
し,現在は,昼間は会社で一般の事務員として働き,夜はペットショップで販売
員として働いていること。
(2) 訴外Aから,平成11年2月9日に,第2,1(4)の通知を受けたときの被告の状況
@ それまで,被告は,母親やその親戚から,父親の死亡や借金の話など聞いたこ
とがなく,また,被告や母親に,父親が死亡したとか借金をしたとか伝える者な
ども全くいなかったこと。
  まして,被告の父親が訴外Aから借金をした昭和59年4月当時,被告は中学1
年生であり,また,死亡した平成9年12月当時,被告の父親は消息不明の状
況であり,いずれも知る由もなかったこと。
A そのような状況のなかで,平成11年2月,突然,28歳の被告が,見ず知らずの
他人である訴外Aから,父親の死亡や借金の通知を受け取ったこと。
    被告は,前記のとおり,父親がどこでどのような生活をしているか全く分からない
状況で調べようもなく,また,その通知書には父親の死亡を証する文書や借用
書などが添付されているわけでもなく,母親に聞いてもそのようなことは知らな
いというし,そのような通知書は来ていないということを聞いて,通知書に書い
てあることは,そのまま信じられるものではなかったこと。
  また,その通知書には,父親に対する貸金の譲受人とされる訴外洪逸の電話番
号が記載されているけれど,見ず知らずの他人に,父親の死亡や借金の有無
を電話で確認したとしても,本当のことを聞けるかどうかも分からないと思い,
気味悪いという気持ちとともに通知書を捨てたこと。
(3) 被告が父親の死亡と借金を知った時期
@ 被告は,平成14年11月3日に本訴状副本の送達を裁判所から受けたことか
ら,平成11年2月9日に前記通知書を訴外Aから受け取ったときとは異なり,重
く受け止めたものの,半信半疑の状態で第1回口頭弁論期日(平成14年11月
27日)に出席し,訴外Bの子であることは認めたが,父親の死亡や借金の事実
は知らないと答えたこと。
  A 被告は,第2回口頭弁論期日(平成14年12月16日)に出席し,原告から提出
された父親が死亡したことを証明する除籍謄本や父親に対する債権を証明す
る判決正本を見て,初めて父親が死亡し,生前負った債務がある事実を知った
こと。
2 以上のとおり,被告が,父親の死亡を知り,自己のために相続の開始があったこと
を覚知した日は,第2回口頭弁論期日である平成14年12月16日であることが認
められる。
   そうすると,平成14年12月16日から熟慮期間の3ヶ月以内である平成15年1月
20日にされた被告の相続放棄の申述とその受理は有効であるといわざるを得な
い。
3 よって,被告は,父親の相続に関しては,初めから相続人にならなかったとみなさ
れ,父親の債務を相続しないから,その余の点(原告の弁護士法73条違反)につ
いて判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。


平15・3・28最判 民法900条4号ただし書前段と憲法14条1項
第二小法廷判決(東京高等裁判所)
預金返還請求及び当事者参加事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。
理    由
 上告代理人宮川博史の上告理由について
 非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条
1項に違反するものでないことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁平成3年(ク)第143号同7年
7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁)。憲法14条1項違反をいう論旨は,採用することができない。
 その余の論旨は,違憲をいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,明ら
かに民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。
 よって,裁判官梶谷玄,同滝井繁男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判
決する。
 裁判官梶谷玄,同滝井繁男の反対意見は,次のとおりである。
 私たちは,非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定める民法900条4号ただし書の規定は憲法14条1項
に違反すると考える。その理由は,多数意見が引用する平成7年大法廷決定中の裁判官中島敏次郎,同大
野正男,同高橋久子,同尾崎行信,同遠藤光男の反対意見及び裁判官尾崎行信の追加反対意見と同旨で
あり,これらをここに引用する。
 更に補足しておきたいのは,次の点である。
 家族関係及び相続をめぐる近時の社会状況の変化は,国内外において著しいものがあり,この傾向は,
上記大法廷決定が出された平成7年以降も,嫡出子と非嫡出子の区別をなくしていくことを求める方向に進ん
でいることが明らかである。そして,この変化が,本件のような相続分の違いをもたらしている規定の改正を促
す大きな理由になっているものと考えられる。国内においては,法務大臣の諮問機関である法制審議会が平
成8年2月に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において民法900条4号ただし書の改正の方向が
示されているし,国際社会においては,国際連合の人権委員会が,市民的及び政治的権利に関する国際規約
40条に基づき我が国から提出された第4回報告を検討した上で,平成10年11月に同委員会で採択された最
終見解において,前回の検討に続いて改めて,我が国の相続権に関する婚外子差別について引き続き懸念
を有し,同規約26条に従い,すべての児童は平等の保護を与えられるという立場を再確認し,我が国が民法
900条4号を含む法律の改正のために必要な措置をとるよう勧告しているのである。
 また,今日,国際化が進み,価値観が多様化して家族の生活の態様も一様でなく,それに応じて両親と子供
との関係も様々な変容を受けている状況の下においては,親が婚姻という外形を採ったかどうかというその子
自らの力によっては決することのできない事情によってその相続分に差異を設けることに格別の合理性を見い
だすことは一段と困難となっているのである(最高裁平成10年(オ)第2190号同14年11月22日第二小法
廷判決・裁判所時報1328号1頁中の私たちの補足意見を参照。)。
 これらにかんがみると,現時点において,民法900条4号ただし書の規定が上記反対意見のいう違憲審査
基準,すなわち「立法目的自体の合理性及びその手段との実質的関連性についてより強い合理性」の基準
を充足し,合憲であるということは一層困難であるというべきである。


平15・4・25最判 通謀虚偽表示により遺産分割協議に基づいてした相続税の申告
第2小法廷 判決(福岡高等裁判所)
処分取消請求上告事件(棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。                    
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人河津和明,同鹿瀬島正剛の上告受理申立て理由について
 1 本件は,上告人が,亡父の相続に関して遺産分割協議に基づき相続税の申告をした後,他の相続人から
遺産分割協議無効確認の訴えを提起され,同訴訟において,上記遺産分割協議が通謀虚偽表示により無効
である旨の判決が確定したのを受けて,国税通則法(以下「法」という。)23条2項1号に基づき更正の請求をし
たところ,更正をすべき理由がない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,被上告人に対し,本件
処分の取消しを求めている事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 昭和60年10月26日に死亡した亡Aの相続人は,その妻及びその子である上告人外3人である(以下,
これらの相続人5人を一括して「本件相続人ら」といい,上告人以外の相続人を「他の相続人ら」という。)。
 (2) 本件相続人らの間において,昭和61年4月21日ころ,亡Aの遺産について遺産分割協議(以下「本件
遺産分割協議」という。)が成立した。
 (3) 上告人は,被上告人に対し,法定申告期限内である昭和61年4月25日,本件遺産分割協議に基づき,
課税価格を3億6838万5000円,納付すべき税額を1億6761万3500円とする相続税の申告をし,さらに,
同年7月3日,課税価格を3億6838万5000円,納付すべき税額を1億6796万2700円とする修正申告を
した(以下,併せて「本件申告」という。)。
 (4) 他の相続人らは,昭和62年9月4日,本件遺産分割協議が通謀虚偽表示により無効であると主張し,上
告人に対し本件遺産分割協議の無効確認を請求する訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。別件訴訟に
ついて,控訴審は,平成8年10月24日,本件相続人らは,上告人の主導の下に,配偶者に対する相続税額軽
減規定の適用による利益を最大限に受けるべく,相続税の申告期限内に遺産分割が成立したことにするために,
通謀の上,仮装の合意として本件遺産分割協議を成立させたと認定して,他の相続人らの請求を認容する判決
をし,同9年3月13日,これが確定した。
 (5) 上告人は,平成9年4月14日,被上告人に対し,別件訴訟の判決確定により亡Aの遺産は未分割の状
態にあり,法定相続分により計算した相続税を超える額について,本件申告に係る課税価格及び納付すべき
税額が過大になったとして,法23条2項1号に基づき,課税価格を9751万6000円,納付すべき税額を
4415万4300円とする更正の請求をした。これに対し,被上告人は,同年6月30日付けで,本件処分をした。
 3 上記事実関係によれば,上告人は,自らの主導の下に,通謀虚偽表示により本件遺産分割協議が成立
した外形を作出し,これに基づいて本件申告を行った後,本件遺産分割協議の無効を確認する判決が確定した
として更正の請求をしたというのである。そうすると,上告人が,法23条1項所定の期間内に更正の請求をしな
かったことにつきやむを得ない理由があるとはいえないから,同条2項1号により更正の請求をすることは許され
ないと解するのが相当である。したがって,本件処分は適法というべきであり,これと同旨の原審の判断は是認
することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平15・7・11最判 不実の持分移転登記に対する抹消登記手続請求をすることの可否
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
持分全部移転登記抹消登記手続等請求事件
主    文
       原判決を破棄する。
       本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人吉田允,同大西清,同住田正夫,同中野俊彦の上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) 甲は,第1審判決別紙物件目録一ないし四及び七ないし一二記載の各土地(以下「本件土地」とい
う。)を所有していた。
 (2) 甲は,平成5年1月18日に死亡し,甲の子である上告人ら,乙及び丙の4名が共同相続した。
 (3) 平成5年1月25日,本件土地につき,同月18日相続を原因として,上告人ら,乙及び丙の各持分を4
分の1とする所有権移転登記がされ,同日代物弁済を原因として,被上告人に対する乙持分全部移転登記
(以下「本件持分移転登記」という。)がされた。
 2 本件の主位的請求は,上告人らが,被上告人に対し,乙から被上告人への本件土地の持分の譲渡は
無効であるとして,本件持分移転登記の抹消登記手続を求めるものである。
 原審は,次のとおり判断して,上告人らの上記請求を棄却した。
 仮に,乙から被上告人に対する持分の譲渡が無効であり,本件持分移転登記が真実に合致しない登記で
あるとしても,上告人らの持分権は何ら侵害されていないから,上告人らは,その持分権に基づく保存行為と
して本件持分移転登記の抹消登記手続を請求することができない。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 【要旨】不動産の共有者の1人は,その持分権に基づき,共有不動産に対して加えられた妨害を排除する
ことができるところ,不実の持分移転登記がされている場合には,その登記によって共有不動産に対する妨
害状態が生じているということができるから,共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移
転登記を経由している者に対し,単独でその持分移転登記の抹消登記手続を請求することができる(最高裁
昭和29年(オ)第4号同31年5月10日第一小法廷判決・民集10巻5号487頁,最高裁昭和31年(オ)第1
03号同33年7月22日第三小法廷判決・民集12巻12号1805頁。なお,最高裁昭和56年(オ)第817号
同59年4月24日第三小法廷判決・裁判集民事141号603頁は,本件とは事案を異にする。)。
 4 以上によれば,乙から被上告人に対する本件土地の持分の譲渡が無効であれば,上告人らの主位的
請求は認容されるべきである。論旨は理由がある。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすこと
が明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。そこで,上記持分の譲渡の有効性について更に
審理判断させるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平15・11・13最判 遺産分割審判に対する即時抗告期間について
第一小法廷決定(東京高等裁判所)
遺産分割審判等に対する抗告却下決定に対する許可抗告事件
主    文
 原決定を破棄する。
 本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理    由
 抗告代理人飯田正剛の抗告理由について
 1 記録によれば,本件の経緯の概要は,次のとおりである。
 原々審は,平成14年3月27日,共同相続人である抗告人及び相手方らを当事者とする遺産の分割及び
寄与分を定める申立てについての審判(以下「本件審判」という。)をした。本件審判は同年4月2日に抗告
人に告知されたが,本件審判の当事者全員への告知が完了したのは同月8日であった。抗告人は,同月
22日に本件審判に対する即時抗告(以下「本件即時抗告」という。)をした。
 2 原審は,次のとおり判示して,本件即時抗告を却下した。
 (1) 本件即時抗告は,抗告人が本件審判の告知を受けた日から2週間の即時抗告期間を経過した後にさ
れたことが明らかであるから,不適法なものというべきである。共同相続人に対し最後に審判の告知がされ
た日から全員について即時抗告期間が進行する旨の抗告人の主張を採用することはできない。
 (2) 本件において,即時抗告期間の徒過が抗告人の責めに帰することのできない事由によるものであった
と認めることはできないから,訴訟行為の追完が認められるべきであるとする抗告人の主張にも理由がない。
 3 しかしながら,原審の判断のうち上記2(1)は是認することができるが,同(2)は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
 (1) 相続人は,遺産の分割の審判に対して即時抗告をすることができ,その期間は,相続人が当該審判の
告知を受けた日から2週間と定められている(家事審判法14条,家事審判規則17条,111条)。相続人は,
各自が単独で即時抗告をすることができるが,遺産の分割の審判は,相続人の全員について合一にのみ確
定すべきものであるから,相続人の1人がした即時抗告の効果は,他の相続人にも及ぶものであり,相続人
ごとに審判の告知を受けた日が異なるときは,そのうちの最も遅い日から2週間が経過するまでの間は,当
該審判は確定しないものと解される。そして,遺産の分割の審判の合一確定のためには,当該審判の確定
について上記のように解すれば足りること,各相続人は,それぞれ告知を受けることによって当該審判の内
容を了知し,各自の即時抗告期間内において即時抗告をするかどうかの判断をすることができること等にか
んがみると,各相続人への審判の告知の日が異なる場合における遺産の分割の審判に対する即時抗告期
間については,相続人ごとに各自が審判の告知を受けた日から進行すると解するのが相当である。そうする
と,相続人は,自らが審判の告知を受けた日から2週間を経過したときは,もはや即時抗告をすることは許さ
れないというべきである。
 また,寄与分を定める審判に対する即時抗告(家事審判規則103条の5)についても,上記遺産の分割の
審判に対する即時抗告の場合と同様に解すべきである。
 以上と同旨の原審の前記2(1)の判断は,正当として是認することができる。この点に関する論旨は採用す
ることができない。
 (2) 相続人ごとに審判の告知の日が異なる場合における遺産の分割の審判等に対する即時抗告期間につ
いては,上記のとおりに解すべきものであるから,本件即時抗告は,即時抗告期間が経過した後にされたも
のであることは明らかである。
 しかしながら,この場合における即時抗告期間に関しては,先例となるべき当裁判所の判例はなく,記録に
よれば,家庭裁判所における実務においては,告知を受けた日のうち最も遅い日から全員について一律に進
行すると解する見解及びこれに基づく取扱いも相当広く行われており,本件においても,抗告人が本件審判の
告知の日がいつであるかを原々審に問い合わせた際に,担当の裁判所書記官は,平成14年4月8日に相続
人全員に対する告知が完了した旨の上記の実務上の取扱いを前提とする趣旨の回答をしていること,抗告人
は,この回答に基づき,その日から2週間以内である同月22日に本件即時抗告をしたことが認められる。本件
におけるこれらの事情を考慮すると,抗告人は,その責めに帰することのできない事由により即時抗告期間を
遵守することができなかったものと認めるのが相当であり,本件即時抗告が即時抗告期間を徒過した不適法
なものとみることはできないというべきである(家事審判法7条,非訟事件手続法22条前段)。
 したがって,これと異なる原審の前記2(2)の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反が
ある。論旨はこの趣旨をいう限度で理由がある。
 4 以上によれば,その余の抗告理由について判断するまでもなく,原決定は破棄を免れない。そして,
本件即時抗告につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

平15・12・11最判 死亡保険金請求権の消滅時効の起算点−3年経過後の遺体発見
第一小法廷判決(東京高等裁判所)
保険金請求事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人山近道宣,同矢作健太郎,同熊谷光喜,同内田智,同和田一雄,同中尾正浩の上告受理申立
て理由第1点及び第2点について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) Aは,上告人との間で,Aを被保険者,その妻である被上告人を保険金受取人とする下記の各生命保険
契約(以下「本件各保険契約」という。)を締結した。 記 ア 契約日 平成2年5月1日
保険の種類 定期保険特約付・終身保険
保険金額 終身保険の死亡保険金 500万円
定期保険特約の死亡保険金 1500万円
傷害特約の災害死亡保険金 100万円
イ 契約日 平成3年11月21日
保険の種類 定期保険特約付・終身保険
保険金額 終身保険の死亡保険金 200万円
定期保険特約の死亡保険金 2800万円
傷害特約の災害死亡保険金 500万円
 (2) 本件各保険契約に係る保険約款(以下「本件約款」という。)には,保険金請求権の時効による消滅に
ついて,保険金を請求する権利は,支払事由が生じた日の翌日からその日を含めて3年間請求がない場合に
は消滅する旨の定め(以下「本件時効消滅条項」という。)がある。また,本件約款には,上記終身保険及び
定期保険特約の支払事由は,いずれも「被保険者が死亡したとき」と定められており,上記傷害特約の災害
死亡保険金の支払事由は,「不慮の事故による傷害を直接の原因として,その事故の日から起算して180日
以内に被保険者が死亡したとき」と定められている。
 (3) Aは,平成4年5月17日,自動車を運転して自宅を出たまま帰宅せず,行方不明となった。被上告人は,
同月19日,地元の警察署に捜索願を提出したものの,その行方,消息については,何の手掛かりもなく,そ
の生死も不明のまま,時が経過した。
 (4) Aが行方不明となってから3年以上が経過した平成8年1月7日,静岡県裾野市の芦ノ湖スカイライン杓
子峠展望台広場から自動車が転落する事故が発生したが,その搭乗者の救出作業中に,上記展望台広場か
ら直線距離で約120m下方の雑木林の中で,Aが運転していた自動車が発見され,その場所から上方約3m
の位置にある窪み付近でAの白骨化した遺体が発見された。現場の状況,その遺体の状態等から,Aは,運
転していた自動車が道路から転落したことにより負傷し,その傷害を原因として,平成4年5月ころに死亡した
ものと推認される。
 (5) Aが行方不明になる前のAの経済状態は相当苦しかったことがうかがわれるものの,それが直ちに自殺
に結び付くものと認めることはできず,Aの上記転落事故は,Aの運転の過誤により発生したものと推認される。
 (6) 被上告人は,平成8年11月7日,上告人に対し,本件各保険契約に基づき保険金の支払を求める本件
訴訟を提起した。上告人は,本件訴訟において,Aの死亡の日から3年が経過するまでの間に本件各保険契
約に係る保険金の請求がなかったから,本件時効消滅条項の適用により,被上告人の保険金請求権は時効
により消滅したなどと主張している。
 2 商法は,損害保険及び生命保険の保険金請求権について,2年を経過したときは時効によって消滅する
と定めている(同法663条,683条1項)。本件時効消滅条項は,生命保険の場合には,保険金請求権を発
生させる保険事故,殊に被保険者の死亡が保険金請求者の知らない間に生ずることが少なくないこと等を考
慮して,商法所定の上記消滅時効の期間を3年に延長したものである。本件時効消滅条項は,その消滅時効
の起算点を「支払事由が生じた日の翌日」と定めており,また,本件約款は,上記終身保険及び定期保険特
約の支払事由を「被保険者が死亡したとき」と定め,上記傷害特約の災害死亡保険金の支払事由を「不慮の
事故による傷害を直接の原因として,その事故の日から起算して180日以内に被保険者が死亡したとき」と
定めており,これらの定めを併せ読めば,本件約款は,上記終身保険,定期保険特約及び傷害特約に係る保
険金請求について,本件時効消滅条項による消滅時効の起算点を「被保険者の死亡の日の翌日」と定めてい
ることが明らかである。
 しかしながら,本件消滅時効にも適用される民法166条1項が,消滅時効の起算点を「権利ヲ行使スルコト
ヲ得ル時」と定めており,単にその権利の行使について法律上の障害がないというだけではなく,さらに権利
の性質上,その権利行使が現実に期待することができるようになった時から消滅時効が進行するというのが
同項の規定の趣旨であること(最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7
号771頁参照)にかんがみると,本件約款が本件消滅時効の起算点について上記のように定めているのは,
本件各保険契約に基づく保険金請求権は,支払事由(被保険者の死亡)が発生すれば,通常,その時からの
権利行使が期待できると解されることによるものであって,当時の客観的状況等に照らし,その時からの権利
行使が現実に期待できないような特段の事情の存する場合についてまでも,上記支払事由発生の時をもって
本件消滅時効の起算点とする趣旨ではないと解するのが相当である。そして,本件約款は,このような特段の
事情の存する場合には,その権利行使が現実に期待することができるようになった時以降において消滅時効
が進行する趣旨と解すべきである。
 上記の見解に立って本件をみるに,前記の事実関係によれば,Aは,平成4年5月17日に自動車を運転して
自宅を出たまま帰宅せず,被上告人は,同月19日に地元の警察署に捜索願を提出したものの,その行方,消
息については,何の手掛かりもなく,その生死も不明であったが,Aが行方不明となってから3年以上が経過し
た平成8年1月7日,静岡県裾野市の芦ノ湖スカイライン杓子峠展望台広場から直線距離で約120m下方の
雑木林の中で,Aが運転していた自動車と共に白骨化した遺体となって発見されたこと,その死亡時期は,A
が行方不明となった平成4年5月ころと推認されること等が明らかである。
 上記の事実によれば,被上告人の本件各保険契約に基づく保険金請求権については,本件約款所定の支
払事由(Aの死亡)が発生した時からAの遺体が発見されるまでの間は,当時の客観的な状況等に照らし,そ
の権利行使が現実に期待できないような特段の事情が存したものというべきであり,その間は,消滅時効は
進行しないものと解すべきである。そうすると,本件消滅時効については,Aの死亡が確認され,その権利行
使が現実に期待できるようになった平成8年1月7日以降において消滅時効が進行するものと解されるから,
被上告人が本件訴訟を提起した同年11月7日までに本件消滅時効の期間が経過していないことは明らかである。
 してみると,これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は,いずれも採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平15・12・25最判 「曽」の字は、社会通念上明らかに常用平易な文字である。-戸籍施行規.60条
第3小法廷 決定(札幌高等裁判所 )
市町村長の処分不服申立審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(棄却)
主    文
 本件抗告を棄却する。
 抗告費用は抗告人の負担とする。
理    由
 抗告代理人畠山稔,同山崎栄一郎,同近藤健一,同角井俊文,同高倉孝志,同及川正治,同其田史朗の
抗告理由について
 1 本件は,相手方が,子の名を「曽○」と記載した出生届の追完届を戸籍事務管掌者である抗告人に提出し
たところ,抗告人により,「曽」の字が戸籍法施行規則(以下「施行規則」という。)60条に定める文字でないこと
を理由として上記追完届の不受理処分がされ,これに対し,相手方が不服申立てをした事案である。
 2 戸籍法(以下「法」という。)50条1項が子の名には常用平易な文字を用いなければならないとしているの
は,従来,子の名に用いられる漢字には極めて複雑かつ難解なものが多く,そのため命名された本人や関係
者に,社会生活上,多大の不便や支障を生じさせたことから,子の名に用いられるべき文字を常用平易な文字
に制限し,これを簡明ならしめることを目的とするものと解される。
 法50条2項は,常用平易な文字の範囲は法務省令でこれを定めると規定し,施行規則60条が法50条2項
の常用平易な文字の範囲を定めている。同項による委任の趣旨は,当該文字が常用平易な文字であるか否
かは,社会通念に基づいて判断されるべきものであるが,その範囲は,必ずしも一義的に明らかではなく,時
代の推移,国民意識の変化等の事情によっても変わり得るものであり,専門的な観点からの検討を必要とする
上,上記の事情の変化に適切に対応する必要があることなどから,その範囲の確定を法務省令にゆだねたもの
である。施行規則60条は,上記委任に基づき,常用平易な文字を限定列挙したものと解すべきであるが,法50
条2項は,子の名には常用平易な文字を用いなければならないとの同条1項による制限の具体化を施行規則60
条に委任したものであるから,同条が,社会通念上,常用平易であることが明らかな文字を子の名に用いること
のできる文字として定めなかった場合には,法50条1項が許容していない文字使用の範囲の制限を加えたこと
になり,その限りにおいて,施行規則60条は,法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法,無効と解すべき
である。そして,法50条1項は,単に,子の名に用いることのできる文字を常用平易な文字に限定する趣旨にと
どまらず,常用平易な文字は子の名に用いることができる旨を定めたものというべきであるから,上記の場合に
は,戸籍事務管掌者は,当該文字が施行規則60条に定める文字以外の文字であることを理由として,当該文
字を用いて子の名を記載した出生届を受理しないことは許されないというべきである。裁判所が,以上の点につ
いて審査し,決定する権限を有することはいうまでもないところである。
 そうすると,市町村長が施行規則60条に定める文字以外の文字を用いて子の名を記載したことを理由として
出生届の不受理処分をし,これに対し,届出人が家庭裁判所に不服を申し立てた場合において,家庭裁判所
及びその抗告裁判所は,審判,決定手続に提出された資料,公知の事実等に照らし,当該文字が社会通念
上明らかに常用平易な文字と認められるときには,当該市町村長に対し,当該出生届の受理を命ずることが
できるというべきである。
 上記の見地に立って本件をみるに,「曽」の字が古くから用いられており,平仮名の「そ」や片仮名の「ソ」は,
いずれも「曽」の字から生まれたものであること,「曽」の字を構成要素とする常用漢字が5字もあり,いずれも
常用平易な文字として施行規則60条に定められていること,「曽」の字を使う氏や地名が多く,国民に広く知ら
れていることなど原審の判示した諸点にかんがみると,「曽」の字は,社会通念上明らかに常用平易な文字で
あるとした原審の判断は相当である。
 3 以上によれば,これと同旨の見解に基づき,抗告人に対し,相手方が子の名を「曽○」と記載して提出した
出生届の追完届の受理を命じた原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。


平16・2・26最判 実子が養子に対して提起した亡父の公正証書遺言無効確認請求訴訟
第1小法廷判決(大阪高等裁判所)
公正証書遺言無効確認請求上告事件(破棄差戻し)
主    文
 原判決を破棄する。
 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理    由
 上告代理人西村文茂,同多田徹,同小西博之の上告受理申立て理由第三及び同滝井繁男,同仲田隆明,
同橋口玲,同太田健義の上告受理申立て理由一について
 1 本件は,被上告人らが,上告人に対し,上告人の養親であり被上告人らの父であるAを遺言者とする平成
5年6月2日付け遺言公正証書(以下「本件公正証書」という。)による遺言(以下「本件遺言」という。)が無効で
あることの確認を求める事案である。被上告人らは,本件公正証書が公証人の署名押印を欠くものであったとし
て,民法の定める方式に違反し,無効であると主張している。
 2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) Aは,平成5年6月2日,証人2名と共に,大阪法務局所属公証人Bが執務する役場に赴き,B公証人に
対し,本件公正証書の作成を嘱託した。B公証人は,同日,同役場において,遺言内容をA及び証人に読み聞
かせて承認を受け,本件公正証書の原本の所定の欄に同人らの署名押印を得た。そして,B公証人は,同日,
本件公正証書の正本(以下「5年正本」という。)及び謄本(以下「5年謄本」という。)を作成し,これらをAに交
付した。
 (2) B公証人が作成した同日付け本件公正証書の原本の現在における記載内容等は,第1審判決別紙三
(ただし,1枚目表上部欄外のB公証人の書き込み部分及び押印部分を除く。)のとおりである。その本体は,
字枠及び罫線が印刷され袋とじにされた公正証書用紙が用いられ,全2枚表裏各12行であり,その2枚目表
9行目には遺言者であるAの署名押印があり,同10,11行目には,証人2名の各署名押印がある。その2枚
目裏6行目には,「公証人」の肩書記載の下の署名欄(以下「第1署名欄」という。)にB公証人の毛筆による署
名及び押印がされている。そして,同8行目から9行目にかけて「嘱託人Aのため,前同日正本壱通を交付する。」
との記載があり,同12行目の「公証人」の肩書記載の下の署名欄(以下「第2署名欄」という。)にも,B公証人
の毛筆による署名及び押印がされている。その1枚目裏及び2枚目裏の各欄外の左下部分には,それぞれ丁
数を示す漢数字の印字「一」,「二」があり,各葉の上部欄外にはB公証人の印による契印がされている。
 (3) 本件公正証書の原本と同じ日に作成された5年正本の2枚目裏6行目の署名欄には,B公証人の署名
押印に代えて,B公証人の記名とその押印があることを表示する記載(印という字を四角で囲ったもの。以下
「押印表示」という。)がされており,同7行目から9行目にかけて,「此の正本は,公正証書の原本に依り作成
し,請求者Aに交付する。前同日本職の役場において。」との記載があり,同12行目の「公証人」の肩書記載
の下の署名欄には,B公証人の毛筆による署名及び押印がされている。
 本件公正証書の原本と同じ日に作成された5年謄本の2枚目裏6行目の署名欄の記載は,5年正本の上記
記載と同じであり,同11行目の「公証人」の肩書記載の下の署名欄には,B公証人の毛筆による署名及び押
印がされている。
 (4) Aは,平成7年3月1日に死亡した。
 (5) B公証人は,平成8年4月22日,被上告人Dの申請に基づき,本件公正証書の謄本(以下「8年謄本」と
いう。)を作成し,これを同被上告人に交付した。
 8年謄本の記載内容等は,第1審判決別紙一のとおりである。その1枚目表1行目から2枚目裏6行目の「公
証人」の肩書記載までの部分は,原本と同様の記載がされており,上記「公証人」の肩書記載の下の署名欄に
は,B公証人の記名と押印表示が記載され,同8行目から9行目にかけて「右は謄本である。平成八年四月弐
拾弐日本職役場において。」との記載があり,同12行目の「公証人」の肩書記載の下の署名欄には,B公証人
の毛筆による署名及び押印がされている。その1枚目裏から2枚目表にかけて上部欄外に朱肉による契印と複
写された契印の記載があり,2枚目裏上部欄外に複写された契印の右側半分の記載がある。その1枚目裏及
び2枚目裏の各欄外の左下部分には,それぞれ丁数を示す漢数字が記載されている。
 (6) 本件公正証書の原本の作成状況等につき,第1審においてB公証人の書面尋問及び証人尋問が行われ,
原審においてB公証人の下で執務していた主任書記であるCの陳述書(以下「C書記の陳述書」という。)が提出
されたが,その内容は,いずれも,本件公正証書の作成日に,その原本にB公証人の署名押印がされたという
ものである。
 もっとも,本件公正証書の原本から8年謄本を作成した方法については,上記各証拠において,次のとおり,
それぞれ異なる内容の証言又は記載がされている。
 B公証人は,書面尋問に対しては,原本を複写したコピーの一部(2枚目裏6行目の第1署名欄以降の部分)
を原判決別紙1の線で切り取り,その下に白紙の公正証書用紙を重ねて再度複写し,そのコピーの第1署名
欄に公証人名のゴム印等を押し,末尾の第2署名欄に署名押印をしたと回答したが,証人尋問においては,
原本のコピーの一部を切り取った線は,上記の線と若干異なり,原判決別紙2のとおりであると証言した。
 また,C書記の陳述書には,同人が8年謄本の作成を担当したこと,その作成方法は,原本を複写したコピー
の第1署名欄以降の部分を,原判決別紙3のとおり切り取り,これに白紙の公正証書用紙をあてがって更に複
写したコピーの第1署名欄に公証人名のゴム印等を押し,末尾の第2署名欄にB公証人の署名押印を得たこと,
8年謄本の原本には間違いなくB公証人の署名押印があったこと等の記載がある。
 3 原審は,次のとおり判断して,被上告人らの請求を認容した。
 B公証人の書面尋問に対する回答及び第1審における証言(以下,これらを「B公証人の証言等」という。)
並びにC書記の陳述書の記載による8年謄本の作成方法は,それぞれ内容が異なり矛盾するものである。
 B公証人の証言等による8年謄本の作成方法は,8年謄本の2枚目裏欄外の左下に丁数を示す漢数字が
複写されていることと整合しない。
 また,C書記の陳述書は,B公証人の証言の難点を回避するために作成,提出されたものであり,そのB公
証人の上記証言自体も,実質的にはC書記が経験したことを同人から聞き取って行われたものであるところ,
上記のとおり信用性が疑わしいので,それに続くC書記の陳述書の信用性も疑わしい。さらに,8年謄本の2
枚目裏10行目から12行目までの文字記載が,本件公正証書の原本の当該部分と酷似していること,原本
のコピー紙を切り取るときに4か所に現れやすいコピーによるずれが8年謄本には全くうかがえないことなどに
照らしても,8年謄本の作成に当たり,原本の2枚目裏6行目第1署名欄以降の部分を切り取り,これに白紙
の公正証書用紙をあてがって複写したとのC書記の陳述書を採用することはできない。
 以上によれば,B公証人の証言等及びC書記の陳述書のうち,本件公正証書の原本の作成日にB公証人
の原本への署名押印がされたとする点については信用することができない。これに加えて8年謄本及び本件
公正証書の原本の細部にわたる各状態等を参酌すると,8年謄本は,本件公正証書の原本を,その2枚目
裏6行目の公証人の第1署名欄に署名押印がなく,同7行目から9行目までに文字記載がなく,同10行目か
ら12行目までには,「大阪市浪速区元町壱丁目拾壱番八号(三協ビル内)」,「大阪法務局所属」,「公証人」
の印字のみがある状態で複写した上,B公証人がその余の署名等を加えて完成させたものと推認するほかない。
 4 しかしながら,原審の上記認定判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,(1) B公証人の証言等及びC書記の陳述書の記載において,本件公正証書の原本
を利用して8年謄本を作成する具体的な方法の細部(原本のコピーの切り取り方)に食違いがあることは原審が
指摘するとおりであるが,上記各証拠は,本件公正証書の原本を複写したコピーの2枚目裏6行目の第1署名欄
(B公証人の署名押印がされていたとされる部分)以降の部分を切り取り,これに白紙の公正証書用紙をあてが
って更に複写したコピーの第1署名欄に公証人名のゴム印等を押し,末尾の第2署名欄にB公証人が署名押印
をしたという8年謄本の作成方法の主要な部分については,一致しており,その内容に食違いはないこと,
(2) 本件公正証書の原本の各葉上部欄外には,B公証人の印による契印がされているにもかかわらず,第1署
名欄の署名及び押印のみがされておらず,また,2枚目裏の7行目から9行目までが空欄であるにもかかわらず,
本来この部分の記載に続けて行を詰めて記載されるべき10行目以下の印字がされていたというのは,通常の
書類作成手順に照らして不自然であること,(3) 本件公正証書の原本が作成された平成5年6月2日には,その
原本に基づいて5年正本及び5年謄本が作成され,同日,Aに交付されたが,その5年正本及び5年謄本には,
いずれもその2枚目裏11行目又は12行目にB公証人の署名押印がされているのに,その原本についてのみ,
B公証人が殊更に民法所定の方式に従わずに第1署名欄に署名押印をせず,8年謄本作成の時点(平成8年4
月22日)まで,原審が説示するような不自然かつ不完全な状態のままで放置していたとは,通常考え難いこと
等が明らかである。さらに,記録によれば,(4) 大阪法務局は,毎年9月に公証原本の検閲等の公証事務の監査
を行っており,B公証人が所属する役場においても,平成5年9月1日に同年8月31日までの1年分の嘱託事件
について抽出調査による検閲が行われたが,その際,署名押印漏れ等の不当事例や誤りの指摘を受けなかった
こと,(5) 8年謄本は,本件公正証書の原本の閲覧を申し出た被上告人らに対し,B公証人が,書庫から搬出し
た原本を閲覧させた上で作成したものであるが,その際,被上告人らから,原本に公証人の署名押印がない旨
の指摘がされた形跡はないこと等の事情をうかがうことができる。
 以上の諸点にかんがみると,前記事実関係の下で,B公証人の証言等及びC書記の陳述書の記載において
本件公正証書の原本を利用して8年謄本を作成する具体的な方法の細部(原本のコピーの切り取り方)に食違
いがあること等の原審が説示する前記の事情を基に,公務員が職務上作成した公文書たる本件公正証書の原
本について,それが作成された時点はもとより,8年謄本が作成された時点においても,B公証人の署名押印が
なかったと認定することは,他にこれを首肯するに足りる特段の事情の存しない限り,経験則又は採証法則に反
するものというべきである。
 5 そうすると,本件において,上記特段の事情の存することについて認定説示することなく,本件公正証書が
作成された時点はもとより,8年謄本が作成された時点においても,その原本にB公証人の署名押印がなかった
とした原審の認定判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反又は採証法則違反の違法がある。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件については,上記特段の
事情の存否等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平16・4・20最判 共同相続人の一人が、遺産中の可分債権を行使した場合
第三小法廷判決(高松高等裁判所)
所有権移転登記手続等,更正登記手続等請求控訴,同附帯控訴事件
主    文
 原判決のうち上告人の第1次予備的請求に係る部分を破棄する。
 前項の部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。
 上告人のその余の上告を棄却する。
 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人中田祐児,同島尾大次の上告受理申立て理由第2について
 1 原審が確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) 上告人及び被上告人らは,いずれも亡A(以下「本件被相続人」という。)と亡Bとの間の子であり,
他の3名の子らと共に,本件被相続人の法定相続人である。
 (2) 本件被相続人の遺言に関しては,被上告人Cに全財産を相続させる旨の昭和57年9月4日付けの
遺言公正証書による遺言(以下「昭和57年遺言」という。)が存在するほか,平成4年8月24日付けの
「遺言状」と題する書面(以下「平成4年遺言」という。)が存在し,さらに,上告人に全財産を相続させる旨
の平成7年4月11日付けの「ゆいごん」と題する書面(以下「平成7年遺言」という。)が存在する。
 (3) Bは平成7年7月16日に,本件被相続人は同9年1月28日に,それぞれ死亡した。
 2 本件は,上告人が,被上告人Cに対し,@ 主位的請求として,本件被相続人が相続開始の時にお
いて有した財産で,同被上告人の単独所有の登記名義となっている第1審判決別紙物件目録記載1から
8までの各不動産(以下「本件各不動産」という。)につき,平成7年遺言によって上告人がすべて相続した
と主張してその所有権移転登記手続を求めるとともに,本件被相続人の死亡後に被上告人Cが解約し,払
戻しを受けた第1審判決別紙預貯金目録記載2の本件被相続人名義の貯金(以下「本件貯金」という。)に
つき,上告人が真実の権利者である旨,又は平成7年遺言によって上告人がすべて相続した旨主張してそ
の全額の不当利得の返還を求め,A 第1次予備的請求として,平成4年遺言は,本件被相続人の全財産
をBに相続させる趣旨の遺言であって昭和57年遺言と抵触するから,昭和57年遺言は取り消されたものと
みなされ(民法1023条1項),また,Bが本件被相続人より先に死亡したので平成4年遺言はその効力を
生じないことになるから(同法994条1項),上告人は相続分に応じて本件被相続人の相続財産を相続して
いると主張して,本件各不動産につき相続分に応じた持分の移転登記手続を求めるとともに,本件貯金に
つき相続分に相当する金額の不当利得の返還を求め,B 第2次予備的請求として,仮に,平成4年遺言
によって昭和57年遺言のすべてが取り消されたものとはみなされず,昭和57年遺言により被上告人Cが
本件被相続人の相続財産を相続している部分があるとされる場合には,遺留分減殺請求権の行使に基づ
き,本件各不動産につき遺留分割合に相当する持分の移転登記手続を求めるとともに,本件貯金につき
遺留分割合に相当する金額の不当利得の返還を求めるなどの事案である。
 3 原審は,@ 上記主位的請求につき,平成7年遺言は本件被相続人の有効な遺言と認めることがで
きず,本件貯金の権利者は本件被相続人であったとして,同請求を棄却すべきものとし,A 上記第1次
予備的請求につき,本件被相続人の相続についての遺産分割協議の成立や遺産分割審判の存在も認め
られないことから,同請求は,家事審判事項である遺産分割を求めるものにほかならないとして,同請求に
係る訴えを不適法なものとして却下し,B 上記第2次予備的請求につき,上告人の遺留分減殺請求権は
時効によって消滅しているとして,同請求を棄却した。
 4 しかしながら,上記第1次予備的請求に係る原審の判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 相続開始後,遺産分割が実施されるまでの間は,共同相続された不動産は共同相続人全員の共有に
属し,各相続人は当該不動産につき共有持分を持つことになる(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年
5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁)。したがって,共同相続された不動産について共有者の
1人が単独所有の登記名義を有しているときは,他の共同相続人は,その者に対し,共有持分権に基づく
妨害排除請求として,自己の持分についての一部抹消等の登記手続を求めることができるものと解すべき
である(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁,最高
裁昭和48年(オ)第854号同53年12月20日大法廷判決・民集32巻9号1674頁参照)。
 また,相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割
されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではないと解される(最高裁昭和27年
(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁,前掲大法廷判決参照)。したがっ
て,共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の
債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害と
なるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠
償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。
 5 そうすると,以上判示したところと異なる見解に立って,上告人の第1次予備的請求に係る訴え,すな
わち,上告人がその相続分に基づき本件各不動産について登記手続を求める訴え及び上告人がその相続
分に応じて分割取得した本件貯金を被上告人Cが解約し,払戻しを受けたことについて不当利得の返還を
求める訴えを却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理
由があり,原判決のうち上告人の第1次予備的請求に係る訴えを却下した部分は破棄を免れない。そして,
この部分について,更に審理を尽くさせる必要があるから,原審に差し戻すこととする。
 なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除
されたので,棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平16・7・6最判 相続人の地位確認の訴えは固有的必要的共同訴訟である
第三小法廷判決(東京高等裁判所)
相続権不存在確認請求事件
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人福地絵子,同福地明人の上告受理申立て理由について
 1 記録によれば,本件の概要は,次のとおりである。
 (1) A(以下「A」という。)は,平成9年3月14日死亡した。その法定相続人は,妻であるB並びに子である
上告人,被上告人,C及びDである。
 (2) 上告人は,被上告人がAの遺言書を隠匿し,又は破棄したものであり,被上告人がした上記行為は民
法891条5号所定の相続欠格事由に当たると主張し,被上告人のみを被告として,被上告人がAの遺産に
つき相続人の地位を有しないことの確認を求める本件訴訟を提起した。
 2 被相続人の遺産につき特定の共同相続人が相続人の地位を有するか否かの点は,遺産分割をすべき
当事者の範囲,相続分及び遺留分の算定等の相続関係の処理における基本的な事項の前提となる事柄で
ある。そして,共同相続人が,他の共同相続人に対し,その者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有
しないことの確認を求める訴えは,当該他の共同相続人に相続欠格事由があるか否か等を審理判断し,遺
産分割前の共有関係にある当該遺産につきその者が相続人の地位を有するか否かを既判力をもって確定
することにより,遺産分割審判の手続等における上記の点に関する紛議の発生を防止し,共同相続人間の
紛争解決に資することを目的とするものである。このような上記訴えの趣旨,目的にかんがみると,上記訴
えは,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要するものというべきで
あり,いわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。
 3 以上によれば,共同相続人全員を当事者としていないことを理由に本件訴えを却下した原審の判断は,
正当として是認することができる。所論引用の判例は,事案を異にし,本件に適切なものとはいえない。論
旨は,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平16・7・13最判 時効による農地の賃借権の取得については,農地法3条の規定の適用はない
第三小法廷判決(東京高等裁判所)
土地明渡請求事件 (棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人田中克俊の上告受理申立て理由3について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 第1審判決別紙物件目録記載(1)及び(2)の各土地(以下「本件土地」と総称する。)は,農地である。本件
土地は,上告人の所有であり,被上告人がこれを耕作して占有している。
 (2) A(以下「A」という。)は,昭和22年3月31日,自作農創設特別措置法16条の規定により本件土地の売
渡しを受けた。昭和58年10月12日,Aが死亡し,上告人がこれを相続した。
 (3) B(以下「B」という。)は,遅くとも昭和35年に,Aとの間で本件土地の賃貸借契約を締結した。Bは,それ
以降,賃料を支払い,本件土地を耕作して占有した。Bは,平成元年10月23日に死亡した。また,その妻は,
平成5年5月5日に死亡した。平成8年9月13日,B及びその妻の相続人間で遺産分割の調停が成立し,被上
告人が本件土地の賃借権を取得するものとされた。
 2 本件は,上告人が,本件土地の所有権に基づき,被上告人に対し,その明渡しを求める訴訟である。上告
人は,前記賃貸借契約は,農地法3条1項所定の許可を受けないでしたものであるから,その効力を生じない
旨を主張した。これに対し,被上告人は,時効による賃借権の取得については上記許可は不要である旨を主張
し,本件訴訟において,賃借権の取得時効を援用した。
 3(1) 他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,かつ,それが賃借の意思に基づくものである
ことが客観的に表現されているときは,民法163条の規定により,土地賃借権を時効により取得することがで
きるものと解すべきである(最高裁昭和42年(オ)第954号同43年10月8日第三小法廷判決・民集22巻10
号2145頁)。他方,農地法3条は,農地について所有権を移転し,又は賃借権等の使用及び収益を目的とす
る権利を設定し,若しくは移転する場合には,農業委員会又は都道府県知事の許可を受けなければならないこ
と(1項),この許可を受けないでした行為はその効力を生じないこと(4項)などを定めている。同条が設けられ
た趣旨は,同法の目的(1条)からみて望ましくない不耕作目的の農地の取得等の権利の移転又は設定を規
制し,耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ろうとするものである。そうすると,耕作するなどして農地
を継続的に占有している者につき,土地の賃借権の時効取得を認めるための上記の要件が満たされた場合に
おいて,その者の継続的な占有を保護すべきものとして賃借権の時効取得を認めることは,同法3条による上
記規制の趣旨に反するものではないというべきであるから,同条1項所定の賃借権の移転又は設定には,時
効により賃借権を取得する場合は含まれないと解すべきである。
 以上によれば,時効による農地の賃借権の取得については,農地法3条の規定の適用はなく,同条1項所定
の許可がない場合であっても,賃借権の時効取得が認められると解するのが相当である。
 (2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,Bにおいて本件土地の賃借権の時効取得の要件を
満たすべき占有がされたことは明らかであるから,その相続人として時効を援用した被上告人は,本件土地の
賃借権を時効取得したものというべきであり,当該賃借権に基づいて本件土地を占有するものと認められる。
 4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は,事案を異にし本件に
適切でない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平16・10・14最判 非嫡出子の相続分の民法900条4号但書き前段は、憲法14条1項に違反しない。
第1小法廷判決(東京高等裁判所 )
不当利得返還請求本訴,同反訴事件(上告事件)(棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人宮川博史の上告理由について
 非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条
1項に違反するものでないことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁平成3年(ク)第143号同7年7
月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁)。憲法14条1項違反をいう論旨は,採用することができない。
 その余の論旨は,理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するもの
であって,民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。
 よって,裁判官泉コ治,同才口千晴の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判
決する。なお,裁判官島田仁郎の補足意見がある。
 裁判官島田仁郎の補足意見は,次のとおりである。
民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条1項に違反するかどうかについての私の見解は,最高裁平成
14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事第209号397頁において私の補足意見
として述べたとおりであるから,これを引用する。
 裁判官泉コ治の反対意見は,次のとおりである。
 私は,民法900条4号ただし書前段の規定は,憲法14条1項に違反して無効であり,原判決は破棄すべき
であると考える。その理由は,最高裁平成14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集
民事第209号397頁における私の反対意見の中で述べたとおりである。
 裁判官才口千晴の反対意見は,次のとおりである。
 私は,民法900条4号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)が,非嫡出子の法定相続分を嫡出子
の相続分の2分の1と定めていることは,以下の理由により,憲法14条1項に違反し,無効であると考えるので,
多数意見に賛同することができない。
 憲法13条,14条1項は,個人の尊厳と法の下の平等を規定し,また,憲法24条2項は,相続に関する法律
は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない旨を規定している。このような憲法
の規定に照らすと,憲法は,相続に関する法制度としては,子である以上,男女長幼の別なく,均等に財産を
相続することを要求しているものというべきであり,子の社会的身分等を理由として,その法的取扱いに区別を
設けることは,十分な合理的根拠が存しない限り許されないと解するのが相当である。
 非嫡出子であることは,自分の意思ではどうにもならない出生により取得する社会的身分である。嫡出子と
非嫡出子とを区別し,非嫡出子であることを理由にその相続分を嫡出子のそれの2分の1とすることは,その
立法目的が,法律婚の尊重,保護という,それ自体正当なものであるとしても,その目的を実現するための手
段として,上記の区別を設けること及び上記数値による区別の大きさについては,十分な合理的根拠が存する
ものとはいい難い。したがって,本件規定は,人を出生によって取得する社会的身分により,合理的な理由もな
いのに,経済的又は社会的関係において差別するものといわざるを得ず,憲法14条1項に違反するものという
べきである。
 また,多数意見が引用する大法廷決定後,既に9年以上が経過し,その間,男女の結婚観等も大きく変わり,
非嫡出子が増加傾向にあるなど,立法当時に存した本件規定による相続差別を正当化する理由となった社会
事情や国民感情などは,大きく変動しており,現時点では,もはや失われたのではないかとすら思われる状況
に至っていることは,前掲第一小法廷判決中の島田仁郎裁判官の補足意見及び深澤武久裁判官の反対意見
で述べられているとおりである。このような状況に照らすと,非嫡出子が被る個人の尊厳や法の下の平等にか
かわる不利益は,憲法の基本原理に則り,できる限り早い時期に法律の改正によって救済すべきであるが,
それを待つまでもなく,司法においても救済する必要がある。
 以上の理由により,私は,本件規定は憲法14条1項に違反して無効であり,原判決は破棄すべきものと考える。


平16・10・26最判 共同相続人の1人がした預金払戻しと不当利得、信義誠実の原則
第3小法廷 判決(仙台高等裁判所秋田支部)
不当利得金返還請求上告受理申立て事件(棄却)
主    文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理    由
 上告代理人脇山弘の上告受理申立て理由1,2について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) Aは,第1審判決別紙預金目録記載の各金融機関(以下「本件各金融機関」という。)に対し,同目録記
載の各預金債権(原審が訂正した後のもの。以下,これらの預金債権を「本件各預金債権」といい,これらの預
金を「本件各預金」という。)を有していた。
 (2) Aは,平成3年4月30日,死亡した。上告人及び被上告人は,Aの子であり,本件各預金債権を各2分の
1の割合で法定相続した。
 (3) 上告人は,第1審判決別紙預金目録記載の各払戻年月日に,本件各金融機関から本件各預金の払戻し
を受けたが,その際,本件各預金のうち被上告人の法定相続分である2分の1に当たる金員(以下「被上告人
相続分の預金」という。)については,何らの受領権限もないのに,その払戻しを受けたものである。
 2 本件は,被上告人が,上告人は被上告人相続分の預金を無権限で払戻しを受けて取得し,これにより被
上告人は被上告人相続分の預金相当額の損失を被ったなどと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権
に基づき,被上告人相続分の預金相当額等の支払を求める事案である。
 これに対し,上告人は,本件各金融機関は被上告人相続分の預金の払戻しについて過失があるから,上記
払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず,したがって,被上告人が本件各金融機関に対して
被上告人相続分の預金債権を有していることに変わりはないから,被上告人には不当利得返還請求権の成立
要件である「損失」が発生していないなどと主張して,被上告人の上記請求を争っている。
 3 そこで検討すると,(1) 上告人は,本件各金融機関から被上告人相続分の預金について自ら受領権限が
あるものとして払戻しを受けておきながら,被上告人から提起された本件訴訟において,一転して,本件各金融
機関に過失があるとして,自らが受けた上記払戻しが無効であるなどと主張するに至ったものであること,(2) 
仮に,上告人が,本件各金融機関がした上記払戻しの民法478条の弁済としての有効性を争って,被上告人
の本訴請求の棄却を求めることができるとすると,被上告人は,本件各金融機関が上記払戻しをするに当たり
善意無過失であったか否かという,自らが関与していない問題についての判断をした上で訴訟の相手方を選択
しなければならないということになるが,何ら非のない被上告人が上告人との関係でこのような訴訟上の負担
を受忍しなければならない理由はないことなどの諸点にかんがみると,上告人が上記のような主張をして被上
告人の本訴請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されないものというべきである。
 4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は事案を異にし本件に
適切ではない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平16・10・29最判 死亡保険金請求権と民法903条(特別受益)
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
主    文
       本件抗告を棄却する。
       抗告費用は抗告人らの負担とする。
         
理    由
 抗告代理人宇津呂雄章,同今西康訓,同宇津呂修の抗告理由について
 1 本件は,AとBの各共同相続人である抗告人らと相手方との間におけるそれぞれの被相続人の遺産の
分割等申立て事件である。
 2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
 (1) 抗告人ら及び相手方は,いずれもAとBの間の子である。Aは平成2年1月2日に,Bは同年10月29
日に,それぞれ死亡した。Aの法定相続人はB,抗告人ら及び相手方であり,Bの法定相続人は抗告人ら及
び相手方である。
 (2) 本件において遺産分割の対象となる遺産は,Aが所有していた第1審の審判の別紙遺産目録記載の
各土地(以下「本件各土地」という。)であり,その平成2年度の固定資産税評価額は合計707万7100円,
第1審における鑑定の結果による平成15年2月7日時点の評価額は合計1149万円である。
 (3) A及びBの本件各土地以外の遺産については,抗告人ら及び相手方との間において,平成10年11月
30日までに遺産分割協議及び遺産分割調停が成立し(その内容は原決定別表1及び2のとおり。),これに
より,相手方は合計1387万8727円,抗告人X1は合計1199万6113円,抗告人X2は合計1221万499
8円,抗告人X3は合計1441万7793円に相当する財産をそれぞれ取得した。なお,抗告人ら及び相手方
は,本件各土地の遺産分割の際に上記遺産分割の結果を考慮しないことを合意している。
 (4) 相手方は,AとBのためにa市内の自宅を増築し,AとBを昭和56年6月ころからそれぞれ死亡するま
でそこに住まわせ,痴呆状態になっていたAの介護をBが行うのを手伝った。その間,抗告人らは,いずれも
A及びBと同居していない。
 (5) 相手方は,次の養老保険契約及び養老生命共済契約に係る死亡保険金等を受領した。
 ア 保険者をC保険相互会社,保険契約者及び被保険者をB,死亡保険金受取人を相手方とする養老保
険(契約締結日平成2年3月1日)の死亡保険金500万2465円
 イ 保険者をD保険相互会社,保険契約者及び被保険者をB,死亡保険金受取人を相手方とする養老保
険(契約締結日昭和39年10月31日)の死亡保険金73万7824円 
 ウ 共済者をE農業協同組合,共済契約者をA,被共済者をB,共済金受取人をAとする養老生命共済(契
約締結日昭和51年7月5日)の死亡共済金等合計219万4768円(入院共済金13万4000円,死亡共済
金206万0768円)
 (6) 抗告人らは,上記(5)の死亡保険金等が民法903条1項のいわゆる特別受益に該当すると主張した。
 3 原審は,前記2(5)の死亡保険金等については,同項に規定する遺贈又は生計の資本としての贈与に該
当しないとして,死亡保険金等の額を被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に加えること(以
下,この操作を「持戻し」という。)を否定した上,本件各土地を相手方の単独取得とし,相手方に対し抗告人
ら各自に代償金各287万2500円の支払を命ずる旨の決定をした。
 4 前記2(5)ア及びイの死亡保険金について
 被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人と指定
して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は,その保険金受取人が自らの固有の権利として取
得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属す
るものではないというべきである(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集1
9巻1号1頁参照)。また,死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険
契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないの
であるから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない(最高裁平成
11年(受)第1136号同14年11月5日第一小法廷判決・民集56巻8号2069頁参照)。したがって,【要旨】
[<u>]上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを
行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解
するのが相当である。もっとも,上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は,被相続人が
生前保険者に支払ったものであり,保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に
死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人
との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると
評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に
準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については,保険金の額,この
額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険
金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を
総合考慮して判断すべきである。[</u>]
 これを本件についてみるに,前記2(5)ア及びイの死亡保険金については,その保険金の額,本件で遺産分
割の対象となった本件各土地の評価額,前記の経緯からうかがわれるBの遺産の総額,抗告人ら及び相手
方と被相続人らとの関係並びに本件に現れた抗告人ら及び相手方の生活実態等に照らすと,上記特段の事
情があるとまではいえない。したがって,前記2(5)ア及びイの死亡保険金は,特別受益に準じて持戻しの対
象とすべきものということはできない。
5 前記2(5)ウの死亡共済金等について
 上記死亡共済金等についての養老生命共済契約は,共済金受取人をAとするものであるので,その死亡
共済金等請求権又は死亡共済金等については,民法903条の類推適用について論ずる余地はない。
 6 以上のとおりであるから,前記2(5)の死亡保険金等について持戻しを認めず,前記3のとおりの遺産分
割をした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

平17・7・11最判 相続分を超える預金払戻、不当利得返還請求事件
最高裁判所第二小法廷(札幌高等裁判所)
預金払戻,不当利得返還請求事件
主    文
1 原判決主文第3項を次のとおり変更する。
第1審判決主文第2項を次のとおり変更する。
(1) 被上告人らは,上告人に対し,それぞれ739万4976円及びこれに対する平成15年4月5日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを10分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人らの負担とする。
         
理    由
 上告代理人矢吹幸太郎,同矢吹徹雄,同佐々木麻希子の上告受理申立て理由について
 1 原審の適法に確定した事実関係等及び本件訴訟の経過の概要は,次のとおりである。
 (1) Aは,上告人に対し,定期預金債権等合計4436万9856円の預金債権(以下,これらの預金債権を
「本件預金債権」といい,これらの預金を「本件預金」という。)を有していたところ,平成10年3月28日に死
亡した。
 (2) Aの相続人は,Aとその前夫であるBとの間の子であるCと,Aとその後夫であるDとの間の子である被
上告人らの計3人であり,その法定相続分はそれぞれ3分の1である。
 Aの遺産には,本件預金債権の外に,札幌市a区甲b丁目c番所在の土地(以下「本件土地」という。)及び
その地上建物(経済的価値はない。)があった。
 (3) 被上告人Y1は,平成10年6月10日ころ,行政書士のEに対し,Aの遺産分割において本件預金債権
を取得する意向があるかをCに聞くように依頼した。Eは,上記依頼を受けて,Cの意向を確認したところ,同
人は,金銭はいらない旨の発言をするとともに,本件土地の時価についての調査結果を告げるなどして本件
土地の取得に強い意欲を示した。
 そのため,Eは,被上告人Y1に対し,Cが,金銭はいらない旨の発言をし,本件土地のみに関心を示してい
ることから,被上告人らだけで本件預金の全額の払戻しを受けても問題は生じないと助言した。そこで,被上
告人らは,平成10年6月24日,上告人の甲支店において,本件預金の全額の払戻しを受けた(以下,この
払戻しを「本件払戻し」という。)。
 (4) Cは,本件預金債権の3分の1を相続により取得したとして,上告人に対し,本件預金の3分の1に当た
る1478万9952円及び遅延損害金の支払を求める訴えを提起した(以下,この訴えに係る事件を「甲事件」
という。)。これに対し,上告人は,Cと被上告人らとが,本件払戻し前に,Cが本件預金債権を取得しないと
いう内容の遺産の一部分割の合意(以下「本件合意」という。)をしたなどと主張し,Cの甲事件請求を争っ
た。
 また,上告人は,被上告人らは,被上告人らだけがAの相続人であるかのように装って,本件払戻しを受け
たことにより,本件預金のうちCの法定相続分に相当する金員1478万9952円を不当に利得したと主張し
て,不当利得返還請求権に基づき,被上告人らに対し,上記の金員1478万9952円の各2分の1である7
39万4976円及びこれに対する本件払戻しの日以降の年5分の割合による利息金の支払を求める訴えを
提起した(以下,この訴えに係る事件を「乙事件」という。)。これに対し,被上告人らは,本件合意の存在を主
張するなどして,上告人の乙事件請求を争った。なお,乙事件の訴状は,被上告人らに対し,いずれも平成1
5年4月5日に送達された。
 甲事件と乙事件の口頭弁論は併合して審理された。
 (5) Cと被上告人らとの間で本件合意が成立したとまでは認められず,被上告人らは,本件払戻しのうちC
の法定相続分相当額の預金の払戻しを受ける正当な権限を有していない。また,この払戻しが債権の準占
有者に対する弁済に当たるということもできない。
 2 原審は,甲事件について,上告人に対し,1478万9952円及び遅延損害金をCに支払うことを命ずる
とともに,乙事件について,次のとおり判断し,上告人の被上告人らに対する請求を棄却すべきものとした。
 (1) 上告人の被上告人らに対する不当利得返還請求が認められるためには,上告人に「損失」が生じてい
ることが必要である。
 (2) そこで検討すると,上告人は,甲事件において,Cの請求を争っており,甲事件に係る判決が確定し,
同人に対して現実に弁済した後でなければ,上告人に「損失」は生じていないことになる。そうすると,上告人
の被上告人らに対する乙事件請求は,不当利得返還請求権の成立要件を欠くものであり,主張自体失当で
ある。
 3 しかしながら,原審の上記2(2)の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係等によれば,被上告人らは,本件預金のうちCの法定相続分相当額の預金については,こ
れを受領する権限がなかったにもかかわらず,払戻しを受けたものであり,また,この払戻しが債権の準占
有者に対する弁済に当たるということもできないというのである。そうすると,本件払戻しのうちCの法定相続
分相当額の預金の払戻しは弁済としての効力がなく,Cは,本件預金債権のうち自己の法定相続分に相当
する預金債権を失わないことになる。したがって,上告人は,本件払戻しをしたことにより,本件預金のうちC
の法定相続分に相当する金員の損失を被ったことは明らかである。そして,本件払戻しにより被上告人らが
Cの法定相続分に相当する金員を利得したこと,被上告人らの利得については法律上の原因が存在しない
こともまた明らかである。したがって,上告人は,被上告人らに対し,本件払戻しをした時点において,本件預
金のうちCの法定相続分に相当する金員について,被上告人らに対する不当利得返還請求権を取得したも
のというべきである。
 なお,前記事実関係によれば,被上告人らは,本件払戻しを受けた時点においては,本件預金のうちCの
法定相続分相当額の預金の受領権限を有しないことにつき悪意であったとまでは認められないものの,乙事
件に係る訴状の送達を受けた日である平成15年4月5日から悪意となったものと認めるのが相当である。
 以上説示したところによれば,被上告人らは,上告人に対し,それぞれ739万4976円及びこれに対する
平成15年4月5日から支払済みまで年5分の割合による利息金の支払義務を負うが,平成10年6月24日
から平成15年4月4日までの利息金の支払義務は負わないこととなる。
 そうすると,論旨は,この限度で理由があり,これと異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明ら
かな法令の違反がある。
 4 以上によれば,上告人の乙事件請求は,被上告人らに対し,それぞれ739万4976円及びこれに対す
る平成15年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余は棄
却すべきである。したがって,これと異なる原判決主文第3項を主文第1項のとおり変更することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平17・7・22最判 遺言書の解釈
最高裁判所第二小法廷(大阪高等裁判所)
親子関係不存在確認等,相続回復,土地所有権確認等請求事件
主    文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人平山芳明ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 原審が確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) Aは,兄であるCとその妻D(以下,この夫婦を「C夫婦」という。)の間に出生した上告人について,Aと
その妻B(以下,この夫婦を「A夫婦」という。)の嫡出子として出生の届出をし,Aを筆頭者とする戸籍には,
上告人はAの長男として記載されている。
 (2) Bは,昭和37年9月13日に死亡し,Aは,昭和62年12月26日に死亡した。Aの相続人は,Aの兄弟
であるC,E及び被上告人X1の3人であった。その後,Eが死亡し,被上告人X2,同X3,同X4,同X5,同X
6及び同X7がEの遺産を相続し,次いで,Cが死亡し,その配偶者及び子(上告人を含む。)がCの遺産を相
続した。
 (3) Aは,昭和57年5月11日付けの自筆の遺言書(以下「本件遺言書」という。)を作成していた。本件遺
言書は4項目から成るものであり,1項から3項までには,特定の財産について特定人を指定して贈与等す
る旨記載されており,4項には,「遺言者は法的に定められたる相續人を以って相續を与へる。」と記載され
ている。
 2 本件は,@ 被上告人X8を除く被上告人ら(以下「個人被上告人ら」という。)が,被上告人X1について
はAの死亡に伴う相続により,同被上告人を除く個人被上告人らについてはA及びEの各死亡に伴う順次の
相続により,第1審判決別紙相続財産目録記載のAの遺産(以下「本件遺産」という。)をそれぞれの法定相
続分に応じて取得したと主張して,上告人に対し,個人被上告人らが本件遺産について各法定相続分の割
合による持分を有することの確認等を求め,A 上告人が,本件遺言書によるAの遺言に基づき本件遺産を
遺贈されたなどと主張して,被上告人らに対し,上告人が本件遺産のうちの不動産について所有権を有する
ことの確認等を求めた事案である。
 3 原判決は,次のとおり判断して,個人被上告人らの上記@の請求についてはその全部を,上告人の上
記Aの請求については,上告人が本件遺産のうちの不動産についてAの相続人であるCの相続人として有
する相続分に相当する持分36分の1を有することの確認を求める限度で,それぞれ認容すべきものとした。
 本件遺言書は,1項から3項までには,特定人を指定して遺贈等をする旨の記載がされているが,4項には
「法的に定められたる相續人」とのみ記載されている。仮にAが本件遺言書1項から3項までに記載された遺
産を除く同人の遺産を上告人に遺贈する意思を有していたのであれば,同4項においても,同1項から3項ま
でと同様に,上告人を具体的に指定すれば足りるのにこれをしていない。以上のことからすると,同4項の
「法的に定められたる相續人」は,上告人を指すものでも上告人を積極的に排斥するものでもなく,単に法定
相続人を指すものと解するのが相当である。また,同1項及び3項では「贈与」の文言が用いられているが,
同4項では同文言が用いられていないことからすると,同項の「相續を与へる」を遺贈の趣旨であると解する
ことはできない。以上のような本件遺言書の記載に照らすと,本件遺言書4項は,同1項から3項までに記載
された遺産を除くAの遺産を同人の法定相続人に相続させる趣旨のものであることが明らかである。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 遺言を解釈するに当たっては,遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく,遺言者の真意を探究すべき
であり,遺言書が複数の条項から成る場合に,そのうちの特定の条項を解釈するに当たっても,単に遺言書
の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し,その文言を形式的に解釈するだけでは十分でなく,遺言
書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して,遺言者の
真意を探究し,当該条項の趣旨を確定すべきである(最高裁昭和55年(オ)第973号同58年3月18日第二
小法廷判決・裁判集民事138号277頁参照)。
 原審は,本件遺言書の記載のみに依拠して,本件遺言書4項の趣旨を上記のとおり解釈しているが,記録
によれば,Aは,Bとの間に子がなかったため,C夫婦の間に出生した上告人をA夫婦の実子として養育する
意図で,上告人につきA夫婦の嫡出子として出生の届出をしたこと,上告人は,昭和18年1月20日に出生し
てから学齢期に達するまで,九州在住のC夫婦の下で養育され,その後,神戸市在住のA夫婦に引き取られ
たが,上告人が上記の間C夫婦の下で養育されたのは,戦中戦後の食糧難の時期であったためであり,上
告人は,A夫婦に引き取られた後Aが死亡するまでの約39年間,A夫婦とは実の親子と同様の生活をしてい
たことがうかがわれる。そして,Aが死亡するまで,本件遺言書が作成されたころも含め,Aと上告人との間の
上記生活状態に変化が生じたことはうかがわれない。以上の諸点に加えて,本件遺言書が作成された当
時,上告人は,戸籍上,Aの唯一の相続人であったことにかんがみると,法律の専門家でなかったAとして
は,同人の相続人は上告人のみであるとの認識で,Aの遺産のうち本件遺言書1項から3項までに記載のも
の以外はすべて上告人に取得させるとの意図の下に本件遺言書を作成したものであり,同4項の「法的に定
められたる相續人」は上告人を指し,「相續を与へる」は客観的には遺贈の趣旨と解する余地が十分にある
というべきである。原審としては,本件遺言書の記載だけでなく,上記の点等をも考慮して,同項の趣旨を明
らかにすべきであったといわなければならない。ところが,原審は,上記の点等についての審理を尽くすこと
なく,同項の文言を形式的に解釈したものであって,原審の判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及ぼ
すことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄
を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平17・9・8最判 賃料債権と遺産分割
最高裁判所第一小法廷(大阪高等裁判所)
預託金返還請求事件
主    文
       原判決を破棄する。
       本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 上告代理人田中英一,同永井一弘の上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) Aは,平成8年10月13日,死亡した。その法定相続人は,妻である被上告人のほか,子である上告
人,B,C及びD(以下,この4名を「上告人ら」という。)である。
 (2) Aの遺産には,第1審判決別紙遺産目録1(1)〜(17)記載の不動産(以下「本件各不動産」という。)があ
る。
 (3) 被上告人及び上告人らは,本件各不動産から生ずる賃料,管理費等について,遺産分割により本件
各不動産の帰属が確定した時点で清算することとし,それまでの期間に支払われる賃料等を管理するため
の銀行口座(以下「本件口座」という。)を開設し,本件各不動産の賃借人らに賃料を本件口座に振り込ま
せ,また,その管理費等を本件口座から支出してきた。
 (4) 大阪高等裁判所は,平成12年2月2日,同裁判所平成11年(ラ)第687号遺産分割及び寄与分を定
める処分審判に対する抗告事件において,本件各不動産につき遺産分割をする旨の決定(以下「本件遺産
分割決定」という。)をし,本件遺産分割決定は,翌3日,確定した。
 (5) 本件口座の残金の清算方法について,被上告人と上告人らとの間に紛争が生じ,被上告人は,本件
各不動産から生じた賃料債権は,相続開始の時にさかのぼって,本件遺産分割決定により本件各不動産を
取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張し,上告人らは,本件各
不動産から生じた賃料債権は,本件遺産分割決定確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属し,
本件遺産分割決定確定の日の翌日から本件各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を
算定すべきであると主張した。
 (6) 被上告人と上告人らは,本件口座の残金につき,各自が取得することに争いのない金額の範囲で分
配し,争いのある金員を上告人が保管し(以下,この金員を「本件保管金」という。),その帰属を訴訟で確定
することを合意した。
 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,被上告人主張の計算方法によれば,本件保管金は被上告人の
取得すべきものであると主張して,上記合意に基づき,本件保管金及びこれに対する訴状送達の日の翌日
である平成13年6月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるもの
である。
 3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 遺産から生ずる法定果実は,それ自体は遺産ではないが,遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得
する権利も帰属するのであるから,遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上,遺産分割によって
特定の財産を取得した者は,相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうする
と,本件各不動産から生じた賃料債権は,相続開始の時にさかのぼって,本件遺産分割決定により本件各
不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして,本件口座の残金を分配すべきである。これによ
れば,本件保管金は,被上告人が取得すべきものである。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 【要旨】[<u>]遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属
するものであるから,この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権
は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定
的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるも
のであるが,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰
属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。[</u>]
 したがって,相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権
は,被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり,本件口座の残
金は,これを前提として清算されるべきである。
 そうすると,上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し,被上告人が本件保管金を取得
すべきであると判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすこ
とが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件については,
更に審理を尽くさせる必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平17・10・11最決 第2次被相続人から特別受益を受けた者がいるときの持戻しの要否
最高裁判所第三小法廷(大阪高等裁判所)
遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
○ 主文
原決定を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
○ 理由
抗告代理人米田宏己ほかの抗告理由について
1 本件は,先に死亡したAの遺産の分割申立て事件とその後に死亡した
同人の妻Bの遺産の分割申立て事件とが併合された事件である。
2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
(1) 抗告人と相手方らは,いずれもAとBの間の子である。Aは平成7
年12月7日に,Bは平成10年4月10日に,それぞれ死亡した。Aの法
定相続人は,B,抗告人及び相手方らであり,Bの法定相続人は,抗告人及
び相手方らである。
(2) 被相続人Aに係る遺産分割の対象となる遺産は,原決定別表1の番
号1〜5記載の不動産並びに同別表の番号6及び7記載の現金である。抗告
人及び相手方Y2には,Aとの関係で民法903条1項の特別受益がある。
(3) 被相続人Bは,原決定別表2の番号12及び13記載の不動産を所
有していたが,遺言公正証書により,これを相手方Xに相続させる旨の遺言
をした。同相手方は,Bの死亡により,同遺言に基づき,上記不動産を単独
で取得した。Bは,上記不動産以外に遺産分割の対象となる固有の財産を有
していなかった。
(4) 抗告人及び相手方Xは,相手方Y2はBから特別受益に当たる贈与を
受けた旨の主張をしている。
3 原審は,次のとおり判示して,Bに係る遺産の分割申立ては不適法で
あるとしてこれを却下し,上記2(2)記載のAの遺産について,Aとの関係
における特別受益のみを持ち戻して抗告人及び相手方らの各具体的相続分を
算定して,これを分割した。
(1) Bには,その相続開始時において,遺産分割の対象となる固有の財
産はなく,Aの遺産に対するBの相続分は,Aの遺産を取得することができ
- 2 -
るという抽象的な法的地位であって,遺産分割の対象となり得る具体的な財
産権ではない。そうすると,審判によって分割すべきBの遺産は存在しない
から,Bに係る遺産の分割申立ては不適法である。
(2) 上記Bの相続分は,上記(1)に記載した内容のものであるから,遺産
分割手続を要せずして,Bの相続人である抗告人及び相手方らに民法900
条所定の割合に応じて当然に承継される。そして,遺産分割手続によらない
承継には民法903条は適用されず,また,Bにはその相続開始時に遺産分
割の対象となる固有の財産もないから,相手方Y2について主張されている
Bからの特別受益を考慮する場面はない。したがって,Aの遺産について
は,Aとの関係における抗告人及び相手方Y2の各特別受益を持ち戻して算
定される抗告人及び相手方らの各具体的相続分に基づいて分割することとな
る。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由
は,次のとおりである。
遺産は,相続人が数人ある場合において,それが当然に分割されるもので
ないときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属し,こ
の共有の性質は,基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異に
するものではない(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日
第三小法廷判決・民集9巻6号793頁,最高裁昭和47年(オ)第121
号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁,最高
裁昭和57年(オ)第184号同61年3月13日第一小法廷判決・民集4
0巻2号389頁参照)。そうすると,共同相続人が取得する遺産の共有持
分権は,実体上の権利であって遺産分割の対象となるというべきである。
本件におけるA及びBの各相続の経緯は,Aが死亡してその相続が開始
し,次いで,Aの遺産の分割が未了の間にAの相続人でもあるBが死亡して
その相続が開始したというものである。そうすると,Bは,Aの相続の開始
と同時に,Aの遺産について相続分に応じた共有持分権を取得しており,こ
れはBの遺産を構成するものであるから,これをBの共同相続人である抗告
人及び相手方らに分属させるには,遺産分割手続を経る必要があり,共同相
- 3 -
続人の中にBから特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは,その持戻
しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない。
以上と異なり,審判によって分割すべきBの遺産はなく,Bとの関係にお
ける特別受益を考慮する場面はないとした原審の判断には,裁判に影響を及
ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由があ
り,原決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を
原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

平17・12・15最判 実体関係と異なる単独所有権移転登記が全部抹消できるとした事例
最高裁判所第一小法廷(福岡高等裁判所 宮崎支部)
土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件
主    文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 第1 上告人の上告理由について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合
に限られるところ,本件上告理由は,理由の不備をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであ
って,民訴法312条1項,2項に規定する事由に該当しない。
 第2 職権による検討
 1 原審の確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) 第1審判決別紙物件目録記載@〜Eの土地(以下「本件各土地」という。)は,もとA(以下「A」という。)
が所有していた。
 (2) Aは,昭和44年3月5日に死亡した。Aの法定相続人は,妻であるC並びに子であるB(以下「B」とい
う。),D,E(平成3年4月10日死亡),F及び上告人であった。Bは,平成9年11月3日に死亡した。Bの法
定相続人は,妻であるG及び被上告人を含む6人の子である。
 (3) 本件各土地について,平成10年4月8日受付により,「昭和44年3月5日B相続,平成9年11月3日
相続」を原因として,Aから被上告人に対する所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がされている。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各土地について,共有持分権に基づき,本件登記の抹消登
記手続をすることを求める事案である。
 被上告人は,上告人を含むAの相続人の間で,本件各土地をBが取得する旨の遺産分割協議が成立した
と主張したのに対し,上告人は,これを否認し争った。
 3 原審は,概要次のとおり判断し,上記遺産分割協議の成立が認められないとして上告人の請求を認容
した第1審判決を取り消し,本件を第1審裁判所に差し戻した。
仮に上記遺産分割協議の成立が認められないとしても,前記事実関係の下では,被上告人は,Aの相続
人であるBの相続人として本件各土地について共有持分権を取得していることになるから,本件登記は,こ
の共有持分権に関する限り,実体関係に符合するものである。したがって,Aの相続人の1人として自己の共
有持分権を有する上告人としては,被上告人に対し,本件登記の全部抹消を求めることはできず,被上告人
の共有持分権を除くその余の部分についてのみ,本件登記の一部抹消のための更正登記手続を求めること
ができるにとどまるものと解される(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民
集17巻1号235頁参照)。そして,このような更正登記を行うためには,A及びBの各相続人について,順
次,相続登記を行う形に本件登記を更正する必要があるから,各相続について相続人を確定し,その持分
割合等を認定する必要があるところ,この認定等のためになお審理を行う必要がある。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 更正登記は,錯誤又は遺漏のため登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に,その不一致を解
消させるべく既存登記の内容の一部を訂正補充する目的をもってされる登記であり,更正の前後を通じて登
記としての同一性がある場合に限り認められるものである(最高裁平成11年(オ)第773号同12年1月27
日第一小法廷判決・裁判集民事196号239頁参照)。
 前記事実関係によれば,原判決が判示する更正登記手続は,登記名義人を被上告人とする本件登記を,
@登記名義人を被上告人が含まれないAの相続人とする登記と,A登記名義人をBの相続人とする登記に
更正するというものである。しかし,この方法によると,上記@の登記は本件登記と登記名義人が異なること
になるし,更正によって登記の個数が増えることにもなるから,本件登記と更正後の登記とは同一性を欠くも
のといわざるを得ない。したがって,上記更正登記手続をすることはできないというべきである。
 そして,被上告人の主張する遺産分割協議の成立が認められない限り,本件登記は実体関係と異なる登
記であり,これを是正する方法として更正登記手続によることができないのであるから,上告人は,被上告人
に対し,本件各土地の共有持分権に基づき本件登記の抹消登記手続をすることを求めることができるという
べきであり,被上告人が本件各土地に共有持分権を有するということは,上記請求を妨げる事由にはならな
い。原審の引用する前記昭和38年2月22日第二小法廷判決は,共有不動産について,共有者の1人のた
め実体関係と異なる単独所有権取得の登記がされている場合に,他の共有者は,更正登記手続をすること
ができるから,全部抹消を求めることができない旨判示したものであり,更正の前後を通じて登記としての同
一性がある事案についての判決であって,本件とは事案を異にする。
5 以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決
は破棄を免れない。そして,被上告人の抗弁(遺産分割協議の成立)が認められるのであれば,上告人の本
訴請求は理由がないことになるから,本件においては,まず上記抗弁について判断すべきであるところ,原
判決は,前記のとおり,前記遺産分割協議の成否を確定していないので,これについて更に審理を尽くさせ
るため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平18・7・7最判 親子関係不存在確認請求と権利の濫用
最高裁判所第二小法廷(広島高等裁判所 )
親子関係不存在確認請求事件
主文
1 原判決のうち実親子関係不存在確認請求に関する部
分を破棄する。
2 前項の部分につき本件を広島高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人大迫唯志ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,被上告人が,戸籍上被上告人の弟とされている上告人は両親の実子
でも養子でもないと主張して,上告人と両親との間の実親子関係及び養親子関係が
それぞれ存在しないことの確認を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,大正12年▲月▲日,亡Aと亡Bの夫婦(以下「A夫婦」と
いう。)の長女として出生し,昭和5年▲月▲日,亡Dと亡Eの夫婦(以下「D夫
婦」という。)と養子縁組をし,その後,D夫婦の子として養育された。亡Cは,
大正14年▲月▲日,A夫婦の二女として出生した。
(2) 上告人は,昭和16年▲月ころ,亡Fと亡Gの夫婦(以下「F夫婦」とい
う。)の間に出生した。F夫婦は,Aに対し,上告人をA夫婦の嫡出子として出生
の届出をするように懇請し,Aは,上告人についてA夫婦の間に同月▲日に出生し
た長男として出生の届出をした。
(3) A夫婦は,上告人を同夫婦の実子として養育した。上告人は,高校卒業の
ころ,自分がA夫婦の実子ではないのではないかという疑問を抱いたことはあった
- 2 -
が,A夫婦を含む周囲の者からその旨を告げられることはなく,A夫婦の実子であ
ると思い続けていた。その後,上告人は,大学に進学し,卒業後,婚姻したが,昭
和51年までA夫婦及びCと生活を共にした。また,Cは,上告人の学費を負担す
るなど上告人の養育に協力した。Aは,昭和49年▲月▲日に死亡したが,生前上
告人が自分の子ではない旨を述べたことはなかった。Aの遺産はすべて妻であるB
が相続した。
(4) 上告人は,平成2年ころ実母であるGの喜寿を祝う集まりに呼ばれ,平成
5年ころには,自分が真実はF夫婦の間に生まれた子であることを認識するに至っ
たが,その後も,従前と同様に,B,C及び被上告人との間で家族としての関係を
継続し,同人らも,上告人がA夫婦の間の子であることを否定したことはなかっ
た。
(5) Bは平成8年▲月▲日に死亡した。その遺産は遺言によりすべてCが相続
したが,このような遺言がされたのは,遺産の主なものがBとCが居住していた自
宅の土地建物であり,Bの死後もCが引き続きこれに居住できるようにBが配慮し
たためであることがうかがわれる。
(6) 独りで生活していたCは,平成14年▲月▲日ころ自宅で死亡し,その約
10日後に発見された。Cは,Bの死亡後も,上告人がA夫婦の実子であることを
否定する旨を述べたことはない。
(7) 被上告人は,上告人がCの安否の確認をしなかったためにCの死亡の発見
が遅れたと思い憤りを感じていたところ,Cの法要の参列者を上告人が被上告人に
相談なく決めようとしたことなどに反発し,上告人とA夫婦との間の実親子関係を
否定するに至った。
- 3 -
3 上告人は,被上告人がD夫婦と養子縁組をした後,D夫婦の子として生活し
ていたこと,A夫婦は,生涯上告人との実親子関係を継続し,死亡するまでこれを
否定することはなかったこと,A夫婦は死亡したため,現在では,上告人がA夫婦
との間で養子縁組をすることはできない状況にあること,被上告人は,Cの死後,
その遺産の相続について上告人と話し合うなかで,上告人が,A夫婦と親子関係が
なく,Cの相続人ではないと主張するに至ったのであって,本訴請求は専ら被上告
人が上記遺産の独占を図る目的のものであることなどの事情に照らすと,本訴請求
は権利の濫用であると主張した。
4 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求をいずれも認容すべきものと
した。
身分関係を公証する戸籍にはその記載が正確であることを確保すべき要請がある
こと,身分関係の存否確認訴訟の判決には対世的効力があるからその訴えの提起者
に関する個別事情を重視するのは相当ではないこと,現在の特別養子縁組制度にお
いても厳格な要件と重大な効果が法定されていることに照らせば,本件訴訟に至る
経緯,本訴請求が認容されることにより上告人の受けるであろう精神的苦痛等を考
慮しても,本訴請求が権利の濫用に当たるとまでいうことはできない。
5 しかしながら,原審の上記判断のうち実親子関係不存在確認請求をすること
が権利の濫用に当たらないとした部分は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
実親子関係不存在確認訴訟は,実親子関係という基本的親族関係の存否について
関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,
これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するもの
- 4 -
であるから,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在
しないことの確認を求めることができるのが原則である。しかしながら,上記戸籍
の記載の正確性の要請等が例外を認めないものではないことは,民法が一定の場合
に,戸籍の記載を真実の実親子関係と合致させることについて制限を設けているこ
と(776条,777条,782条,783条,785条)などから明らかであ
る。真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲乙夫婦の嫡出子として記
載されている丙が,甲乙夫婦との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し,関
係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきた場合において,実親子関
係が存在しないことを判決で確定するときは,虚偽の届出について何ら帰責事由の
ない丙に軽視し得ない精神的苦痛,経済的不利益を強いることになるばかりか,関
係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。そし
て,甲乙夫婦が既に死亡しているときには,丙は甲乙夫婦と改めて養子縁組の届出
をする手続を採って同夫婦の嫡出子の身分を取得することもできない。そこで,戸
籍上の両親以外の第三者である丁が甲乙夫婦とその戸籍上の子である丙との間の実
親子関係が存在しないことの確認を求めている場合においては,甲乙夫婦と丙との
間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,判決をもって実親子関係の
不存在を確定することにより丙及びその関係者の被る精神的苦痛,経済的不利益,
改めて養子縁組の届出をすることにより丙が甲乙夫婦の嫡出子としての身分を取得
する可能性の有無,丁が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求
をする動機,目的,実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丁以
外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在
を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請
- 5 -
求は権利の濫用に当たり許されないものというべきである。
そして,本件においては,前記事実関係によれば,次のような事情があることが
明らかである。
(1) 上告人の出生の届出がされた昭和16年からBが死亡した平成8年までの
約55年間にわたり,上告人とA夫婦ないしBとの間で実の親子と同様の生活の実
体があり,かつ,被上告人は,Cの死亡によりその相続が問題となるまで,上告人
がA夫婦の実子であることを否定したことはない。
(2) 判決をもって上告人とA夫婦の実親子関係の不存在が確定されるならば,
上告人が受ける精神的苦痛は軽視し得ないものであることが予想され,また,土地
建物を中心とするA夫婦の遺産をすべて承継したCの死亡によりその相続が問題と
なっていることから,上告人が受ける経済的不利益も軽視し得ないものである可能
性が高い。
(3) A夫婦は,上告人が実の子ではない旨を述べたことはなく,上告人との間
で嫡出子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに,A夫婦が
死亡した現時点において,上告人がA夫婦との間で養子縁組をして嫡出子としての
身分を取得することは不可能である。
(4) 被上告人は,Cの死亡の発見が遅れたことについて憤りを感じたこと,C
の法要の参列者が被上告人に相談なく決めようとされたことなどから,上告人とA
夫婦との親子関係を否定するに至ったというのであるが,そのような動機に基づく
ものであったということは,被上告人が上告人とA夫婦との間の実親子関係を否定
する合理的な事情とはいえない。
以上によれば,上告人とA夫婦との間で長期間にわたり実親子と同様の生活の実
- 6 -
体があったこと,A夫婦が既に死亡しており上告人がA夫婦との間で養子縁組をす
ることがもはや不可能であることを重視せず,また,上告人が受ける精神的苦痛,
経済的不利益,被上告人が上告人とA夫婦との実親子関係を否定するに至った動
機,目的等を十分検討することなく,被上告人において上記実親子関係の存在しな
いことの確認を求めることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,判決
に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとし
て理由があり,原判決のうち実親子関係不存在確認請求に関する部分は破棄を免れ
ない。そして,以上の見解の下に被上告人の上記確認請求が権利の濫用に当たるか
どうかについて更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻す
こととする。
6 前記事実関係によれば,上告人はA夫婦の養子としての生活をしてきたもの
ではないから,被上告人が上告人とA夫婦との間の養親子関係が存在しないことの
確認を求めることが権利の濫用に当たるとはいえない。原判決のうち養親子関係不
存在確認請求に関する部分は,正当として是認することができ,同部分に係る上告
は,これを棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

平18・7・7最判 親子関係不存在確認請求と権利の濫用(東京)
最高裁判所第二小法廷(東京高等裁判所)
親子関係不存在確認請求事件
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人木津川迪洽,同石川慶一郎の上告受理申立て理由について
1 本件は,被上告人が,戸籍上被上告人の子とされている上告人との間の実親
子関係が存在しないことの確認を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人(明治41年生まれ)と亡A(明治40年生まれ)は,昭和12
年▲月▲日,婚姻の届出をした。同年▲月▲日,被上告人とAの夫婦(以下「A夫
婦」という。)の間に長男Bが出生した。
(2) Aは,上告人について,A夫婦間に昭和18年▲月▲日に出生した子とし
て出生の届出をしたが,上告人はA夫婦の実子ではなく,この届出は虚偽の届出で
あった。上告人は,同月ころから,A夫婦の下でその子として養育され,高校卒業
後,Aが経営していたそば店を手伝うようになった。
(3) Aは,昭和51年▲月▲日に死亡した。上告人は,Aの相続人としてAの
遺産の約3分の1相当を取得したものとされた。
(4) 被上告人は,平成6年ころ,上告人を相手方として,実親子関係不存在確
認を求める調停を申し立てたが,後でこれを取り下げた。
(5) 被上告人は,平成16年4月ころ,上告人を相手方として,再度,実親子
関係不存在確認を求める調停を申し立てたが,同調停は,同年6月,不成立により
終了した。
- 2 -
3 上告人は,被上告人が上告人との間で長期間親子としての社会生活を送って
きたものであり,Aの死後も平成6年まで実親子関係不存在確認調停の申立て等の
手続を採ることなく,しかも,同年に申し立てた調停を取下げにより終了させてい
ること,本訴請求は被上告人の相続を有利にしようとするBの意向によること,判
決をもって上告人の戸籍上の地位が訂正されると上告人が精神的苦痛を受けること
などの事情に照らすと,本訴請求は権利の濫用であると主張した。
4 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。
身分関係存否確認訴訟は,身分法秩序の根幹を成す基本的親族関係の存否につい
て関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図
り,ひいてはこれにより身分関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を
有する。被上告人は真実の身分関係の確定を求めて本件訴訟を提起したものである
から,上告人と被上告人との間で長年にわたり親子と同様の生活の実体があったこ
と,被上告人がAの死亡後も長期間にわたり実親子関係不存在確認訴訟を提起しな
かったことなどを考慮しても,被上告人の本訴請求が権利の濫用に当たるとはいえ
ない。仮に本訴請求が相続を有利にしようとするBの意向によるものであるとして
も,上記判断を左右しない。
5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
実親子関係不存在確認訴訟は,実親子関係という基本的親族関係の存否について
関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,
これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するもの
であるから,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在
- 3 -
しないことの確認を求めることができるのが原則である。しかしながら,上記戸籍
の記載の正確性の要請等が例外を認めないものではないことは,民法が一定の場合
に戸籍の記載を真実の実親子関係と合致させることについて制限を設けていること
(776条,777条,782条,783条,785条)などから明らかである。
真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲の嫡出子として記載されてい
る乙が,甲との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し,関係者もこれを前提
として社会生活上の関係を形成してきた場合において,実親子関係が存在しないこ
とを判決で確定するときは,乙に軽視し得ない精神的苦痛,経済的不利益を強いる
ことになるばかりか,関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることに
もなりかねない。また,虚偽の出生の届出がされることについて乙には何ら帰責事
由がないのに対し,そのような届出を自ら行い,又はこれを容認した甲が,当該届
出から極めて長期間が経過した後になり,戸籍の記載が真実と異なる旨主張するこ
とは,当事者間の公平に著しく反する行為といえる。そこで,甲がその戸籍上の子
である乙との間の実親子関係の存在しないことの確認を求めている場合において
は,甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,判決をもって実親
子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける精神的苦痛,経済
的不利益,甲が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動
機,目的,実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に甲以外に著し
い不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定す
ることが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は権利
の濫用に当たり許されないものというべきである。
そして,本件においては,前記事実関係によれば,次のような事情があること
- 4 -
が明らかである。
(1) 上告人は,昭和18年5月ころ以降,A夫婦の下で実子として養育され,
被上告人が平成6年に第1回目の調停を申し立てるまでの約51年間にわたり,上
告人と被上告人との間で実の親子と同様の生活の実体があり,かつ,被上告人は,
第1回目の調停申立てまでの間,上告人が被上告人の実子であることを否定したこ
とはなかった。
(2) 判決をもって上告人と被上告人との間の実親子関係の不存在が確定される
ならば,上告人が受ける精神的苦痛は,軽視し得ないものであることが予想され,
また,被上告人は,Aの遺産の相当部分を相続したことがうかがわれるので,被上
告人の相続が発生した場合に,上告人が受ける経済的不利益も軽視し得ないもので
ある可能性が高い。
(3) 被上告人が,上記第1回目の調停申立てをした動機,目的は明らかでない
し,その申立てを取り下げた理由も明らかではない。その後,約10年が経過して
再度調停を申し立て,更には本件訴訟を提起するに至ったことについても,被上告
人が上告人との間の実親子関係を否定しなければならないような合理的な事情があ
ることはうかがわれない。
以上によれば,上告人と被上告人との間で長期間にわたり実親子と同様の生活の
実体があったことを重視せず,また,上告人が受ける精神的苦痛,経済的不利益,
被上告人が上告人との実親子関係を否定するため再度調停を申し立てるなどした動
機,目的等を十分検討することなく,被上告人において上記実親子関係の存在しな
いことの確認を求めることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,判決
に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとし
- 5 -
て理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上の見解の下に被上告人の上
記確認請求が権利の濫用に当たるかどうかについて更に審理を尽くさせるため,本
件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平18・7・14最判 相続人が意思無能力者である場合の相続税申告書の提出義務
最高裁判所第二小法廷(名古屋高等裁判所)
求償金請求事件
主文
1 原判決のうち予備的請求に関する部分を破棄する。
2 前項の部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻
す。
3 上告人の主位的請求に関する上告を却下する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人水野正信の上告受理申立て理由第1について
1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) A(以下「A」という。)は,昭和62年9月8日に死亡し,その相続人
は,Aの妻であるB(以下「B」という。)と,いずれもAとBとの間の子である
C(以下「C」という。),D,E及び被上告人らである(相続人はBと子ら11
名の合計12名)。
(2) Bは,A死亡のころには,意思無能力であった。
(3) Aの相続人らは,Aの遺産の分割について協議をしたが,協議の成立には
至らなかった。
Cは,昭和63年3月,Aの遺産の相続に係る自らの相続税の申告をするととも
に,Bに代わって,Bの相続税の申告をした(以下,この申告を「本件申告」とい
う。)。本件申告によれば,課税価格は,相続人各人の合計が7億0407万40
00円,Bの分が1億8795万7000円であり,相続税の総額は2億6048
万7100円,Bの納付すべき税額は6953万8500円であった。
Cは,本件申告に基づき,銀行からB名義で借り入れた金員をもって,同月8
- 2 -
日,Bに代わって,Bの相続税6953万8500円を納付した(以下,この納付
を「本件納付」という。)。
被上告人らは,本件申告及び本件納付について同意したことはなかった。
(4) Bは,昭和63年9月28日に死亡し,その相続人は,前記Bの子ら11
名である。
(5) Cは,平成5年7月1日に死亡し,上告人は,Cの本件納付に係る債権を
相続した。
2 本件は,上告人が被上告人らに対し,主位的に,民法650条1項所定の委
任契約に基づく費用償還請求として,予備的に,同法702条1項所定の事務管理
に基づく費用償還請求として,本件納付に係る相続税6953万8500円の一部
である6953万円の11分の1に当たる632万0909円ずつの支払等を求め
る事案である。
3 原審は,主位的請求を棄却するとともに,予備的請求について,次のとおり
判断して,これを棄却した。
相続税法(平成4年法律第16号による改正前のもの。以下同じ。)27条1項
によれば,相続税の申告書の提出義務は,自己のために相続が開始したことを知っ
た日に発生するところ,相続税法基本通達(昭和34年1月28日付け直資10国
税庁長官通達,平成15年6月24日付け課資2−1による改正前のもの。以下同
じ。)27−4によれば,意思無能力者については,後見人が選任された日から申
告書の提出義務が生ずるものと解されるから,A死亡のころには意思無能力であ
り,後見人が選任されることもなかったBには,申告書の提出義務は発生していな
かった。そして,相続税法35条2項1号は,意思無能力者には適用されないと解
- 3 -
されるから,Aが死亡した日の翌日から6か月後の日である昭和63年3月8日の
経過後に,Bの相続税の申告書が提出されないままであったとしても,税務署長が
同号に基づいて税額を決定することはなかった。そうすると,本件申告は,Bの利
益にかなうものであったと認めることはできず,かえってBに納税義務を生じさせ
るという不利益なものであったと認められるから,上告人は,本件納付について事
務管理に基づく費用償還請求をすることはできない。
4 しかしながら,原審の予備的請求についての上記判断は是認することができ
ない。その理由は,次のとおりである。
相続税法27条1項は,相続又は遺贈により財産を取得した者について,納付す
べき相続税額があるときに相続税の申告書の提出義務が発生することを前提とし
て,その申告書の提出期限を「その相続の開始があったことを知った日の翌日から
6月以内」と定めているものと解するのが相当である。上記の「その相続の開始が
あったことを知った日」とは,自己のために相続の開始があったことを知った日を
意味し,意思無能力者については,法定代理人がその相続の開始のあったことを知
った日がこれに当たり,相続開始の時に法定代理人がないときは後見人の選任され
た日がこれに当たると解すべきであるが(相続税法基本通達27−4(7)参照),
意思無能力者であっても,納付すべき相続税額がある以上,法定代理人又は後見人
の有無にかかわらず,申告書の提出義務は発生しているというべきであって,法定
代理人又は後見人がないときは,その期限が到来しないというにすぎない。
また,相続税法35条2項1号は,同法27条1項又は2項に規定する事由に該
当する場合において,当該相続の被相続人が死亡した日の翌日から6か月を経過し
たときは,税務署長はその申告書の提出期限前でも相続税額の決定をすることがで
- 4 -
きる旨を定めている。これは,相続税の申告書の提出期限が上記のとおり相続人等
の認識に基づいて定まり,税務署長がこれを知ることは容易でないにもかかわら
ず,上記提出期限の翌日から更正,決定等の期間制限(平成16年法律第14号に
よる改正前の国税通則法70条)や徴収権の消滅時効(平成14年法律第79号に
よる改正前の国税通則法72条1項)に係る期間が起算されることを考慮し,税の
適正な徴収という観点から,国税通則法25条の特則として設けられたものであ
る。このことに照らせば,相続税法35条2項1号は,申告書の提出期限とかかわ
りなく,被相続人が死亡した日の翌日から6か月を経過すれば税務署長は相続税額
の決定をすることができる旨を定めたものと解すべきであり,同号は,意思無能力
者に対しても適用されるというべきである。
そうすると,本件申告時において,Bに相続税の申告書の提出義務が発生してい
なかったということはできず,昭和63年3月8日の経過後においてBの相続税の
申告書が提出されていなかった場合に,所轄税務署長が相続税法35条2項1号に
基づいてBの税額を決定することがなかったということもできない。したがって,
本件申告に基づく本件納付がBの利益にかなうものではなかったということはでき
ず,上告人の事務管理に基づく費用償還請求を直ちに否定することはできない。
5 以上によれば,税務署長が税額を決定することがないことを前提とする原審
の予備的請求に関する判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反が
ある。論旨は理由があり,原判決の予備的請求に関する部分は,破棄を免れない。
そこで,C自身がBの相続税納付のための費用を支出したといえるのかどうか等,
事務管理に基づく費用償還請求権の成否について更に審理を尽くさせるため,本件
を原審に差し戻すこととする。
- 5 -
なお,主位的請求に関する上告については,上告人は上告受理申立て理由を記載
した書面を提出しないから,これを却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平19・10・19最判 人身障害保険特約における保険金請求者が立証すべき事項
最高裁判所第二小法廷(高松高等裁判所)
保険金請求事件
主文
原判決を破棄する。
本件を高松高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人西嶋吉光の上告受理申立て理由について
1 本件は,自動車を運転していた者がため池に転落してでき死した事故について,そ
の相続人である上告人らが,保険会社である被上告人に対し,自動車総合保険契約の人身
傷害補償特約に基づき保険金の支払を請求する事案である。
2 原審の確定した事実等(裁判所に顕著な事実を含む。)の概要は,次のとおりであ
る。
(1) A(以下「A」という。)は,B株式会社の代表取締役であった。
(2) Aは,昭和57年ころに狭心症との診断を受け,平成9年6月12日に冠動脈バ
イパス手術を受けた後,狭心症発作予防薬等を定期的に服用していた。
(3) Aは,平成15年6月10日午前10時10分ころ,普通乗用自動車(以下「本
件車両」という。)を運転してBの事務所を出発したが,その約3分後,本件車両ごとた
め池に転落し(以下「本件事故」という。),同日午前11時55分ころ死亡した。Aの
死因は,でき死であった。
(4) 本件事故の現場は,緩やかな下り坂の先の三さ路の交差点である。上記下り坂の
前方にはため池があったが,Aは,上記下り坂を直進し,三さ路を左右に曲がることなく,
急ブレーキ等の回避措置も執らずそのまま上記ため池に転落した。なお,本件事故はAの
自殺によるものではない。
(5) Bは,被上告人との間で,自動車総合保険契約を締結していたが,同契約には,
被保険自動車を本件車両,被保険者を被保険自動車の正規の乗車装置又は当該装置のある
室内に搭乗中の者等,請求権者を被保険者(被保険者が死亡した場合はその法定相続人),
人身傷害補償を5000万円とする,次のような内容の人身傷害補償特約(以下「本件特
約」という。)が付加されていた。
ア被上告人は,日本国内において,次の各号のいずれかに該当する急激かつ偶然な外
来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者又はその父母,配偶
者若しくは子が被る損害に対して,この特約に従い,保険金を支払う。
(ア) 自動車の運行に起因する事故(以下「運行起因事故」という。)
(イ) 被保険自動車の運行中の,飛来中若しくは落下中の他物との衝突,火災,爆発又
は被保険自動車の落下(以下「運行中事故」という。)
イアに記載された傷害には,日射,熱射又は精神的衝動による障害を含まない(以下
「本件傷害除外条項」という。)。
ウ被上告人は,被保険者の極めて重大な過失によって生じた損害については,保険金
を支払わない。
エ被上告人は,被保険者がアに記載された事故の直接の結果として死亡したときは,
死亡による損害(葬祭料,逸失利益,精神的損害及びその他の損害)につき保険金を支払
う。
- 2 -
( ) 本件特約と同様に被保険者が急激か6 つ偶然な外来の事故によってその身体に被っ
た傷害に対して保険金を支払う旨定めた傷害保険普通保険約款には,被保険者の脳疾患,
疾病又は心神喪失によって生じた傷害に対しては,保険金を支払わない旨の条項(第3条
@(5)。以下「疾病免責条項」という。)が存在するが,本件特約には疾病免責条項は
存在しない。また,傷害保険普通保険約款には,本件傷害除外条項と同内容の条項は存在
しない。
(7) 上告人らは,いずれもAの法定相続人である。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のように判断して,上告人らの請求を棄却
すべきものとした。
本件特約の定める保険金支払事由である「外来の事故」とは,事故の原因が被保険者の
身体の内部ではなく,外部からの作用にあることをいい,被保険者の身体疾患等の内部的
原因による事故は,「外来の事故」ではない。したがって,保険金請求に係る事故が被保
険者の身体疾患等の内部的原因による事故でないことについては,保険金請求者が主張,
立証すべきである。
本件事故は,Aの既往症及び事故態様等を考慮すると,Aが狭心症による発作等の身体
疾患に起因した意識障害により適切な運転操作ができなくなったために発生したものであ
る疑いが強く,本件事故が「外来の事故」であることの立証がされたとはいえない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとお
りである。
(1) 前記事実関係によれば,本件特約は,急激かつ偶然な外来の事故のうち運行起因
事故及び運行中事故(以下,併せて「運行事故」という。)に該当するものを保険事故と
している。本件特約にいう「外来の事故」とは,その文言上,被保険者の身体の外部から
の作用による事故をいうと解されるので(最高裁平成19年(受)第95号同年7月6日
第二小法廷判決・裁判所時報1439号6頁参照),被保険者の疾病によって生じた運行
事故もこれに該当するというべきである。本件特約は,傷害保険普通保険約款には存在す
る疾病免責条項を置いておらず,また,本件特約によれば,運行事故が被保険者の過失に
よって生じた場合であっても,その過失が故意に準ずる極めて重大な過失でない限り,保
険金が支払われることとされていることからすれば,運行事故が被保険者の疾病によって
生じた場合であっても保険金を支払うこととしているものと解される。
このような本件特約の文言や構造等に照らせば,保険金請求者は,運行事故と被保険者
がその身体に被った傷害(本件傷害除外条項に当たるものを除く。)との間に相当因果関
係があることを主張,立証すれば足りるというべきである。
(2) 前記事実関係によれば,本件事故は,Aが本件車両を運転中に本件車両ごとため
池に転落したというものであり,Aは本件事故によりでき死したというのであるから,仮
にAがため池に転落した原因が疾病により適切な運転操作ができなくなったためであった
としても,被上告人が本件特約による保険金支払義務を負うことは,上記説示に照らして
明らかである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があ
る。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,支
払われるべき保険金の額等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこ
- 3 -
ととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


平21・1・22最判 共同相続人の一人が預金口座の取引経過開示請求権を単独で行使することの可否
最高裁判所第一小法廷(東京高等裁判所)
預金取引記録開示請求事件
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人千葉恒久,同亀井時子,同浅井通泰の上告受理申立て理由について
1 本件は,被相続人である預金者が死亡し,その共同相続人の一人である被上
告人が,被相続人が預金契約を締結していた信用金庫である上告人に対し,預金契
約に基づき,被相続人名義の預金口座における取引経過の開示を求める事案であ
る。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) Aは被上告人の父であり,Bは被上告人の母である。Aは平成17年11
月9日に,Bは平成18年5月28日に,それぞれ死亡した。被上告人はA及びB
の共同相続人の一人である。
(2) 平成17年11月9日当時,Aは上告人a支店において1口の普通預金口
座と11口の定期預金口座を有しており,Bは同支店において1口の普通預金口座
と2口の定期預金口座を有していた。
(3) 被上告人は,上告人に対し,A名義の上記各預金口座につき平成17年1
1月8日及び同月9日における取引経過の開示を,B名義の上記各預金口座につき
同日から平成18年2月15日までの取引経過の開示を,それぞれ求めたが,上告
人は,他の共同相続人全員の同意がないとしてこれに応じない。
3 預金契約は,預金者が金融機関に金銭の保管を委託し,金融機関は預金者に
同種,同額の金銭を返還する義務を負うことを内容とするものであるから,消費寄
- 2 -
託の性質を有するものである。しかし,預金契約に基づいて金融機関の処理すべき
事務には,預金の返還だけでなく,振込入金の受入れ,各種料金の自動支払,利息
の入金,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務(以下「委任事務
等」という。)の性質を有するものも多く含まれている。委任契約や準委任契約に
おいては,受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義
務を負うが(民法645条,656条),これは,委任者にとって,委任事務等の
処理状況を正確に把握するとともに,受任者の事務処理の適切さについて判断する
ためには,受任者から適宜上記報告を受けることが必要不可欠であるためと解され
る。このことは預金契約において金融機関が処理すべき事務についても同様であ
り,預金口座の取引経過は,預金契約に基づく金融機関の事務処理を反映したもの
であるから,預金者にとって,その開示を受けることが,預金の増減とその原因等
について正確に把握するとともに,金融機関の事務処理の適切さについて判断する
ために必要不可欠であるということができる。
したがって,金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の
取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。
そして,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相
続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契
約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求め
る権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)という
べきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由と
なるものではない。
上告人は,共同相続人の一人に被相続人名義の預金口座の取引経過を開示するこ
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とが預金者のプライバシーを侵害し,金融機関の守秘義務に違反すると主張する
が,開示の相手方が共同相続人にとどまる限り,そのような問題が生ずる余地はな
いというべきである。なお,開示請求の態様,開示を求める対象ないし範囲等によ
っては,預金口座の取引経過の開示請求が権利の濫用に当たり許されない場合があ
ると考えられるが,被上告人の本訴請求について権利の濫用に当たるような事情は
うかがわれない。
4 以上のとおりであるから,被上告人の請求を認容した原審の判断は,結論に
おいて是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官涌井紀夫裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官
宮川光治裁判官櫻井龍子)