OTCの王者アスピリンのお話 |
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風邪をひいて高熱と頭痛に悩むとき、たいていは医者の診察を受ける前に薬局でアスピリン(Aspirin)を買い求め服用する 1.アスピリンの起源はヤナギの成分サリシンにある
アスピリンの起源はある種のヤナギの成分であり、歴史的にははるかギリシア時代にまでさかのぼる。当時、もっとも尊敬される医者の
サリシンは実際に純薬として使われることはなかった。何故なら、サリシンは内服できないほどひどく苦かったからである(→関連ページ参照一般に配糖体は苦味の強いものが多い。)。サリシンを含むヤナギの樹皮の煎液も苦く、欧州人は何世紀もの間その鎮痛作用を求めてひたすら苦さに耐えてきたの 2.アスピリンの主要薬効は血栓予防であるアスピリンは発売以来100年以上になるが、今日でも世界で年間100億錠以上消費される。米国ではアスピリンは薬局ではなく、スーパーやコンビニエンスストアで食品や日用雑貨品とともに販売されているほどで、もっとも気軽に入手できる薬である(わが国でも検討されている)。アスピリンの本来の適用薬効は解熱鎮痛であるが、そのメカニズムが解明されたのは意外に新しい。1971年、アスピリンがプロスタグランジン(Prostaglandin; PG)の鍵生合成酵素であるシクロオキシナーゼ(cyclooxygenase)を阻害することが発見された(図参照)。体内での発熱は感染、組織破壊、炎症などの病的状態の結果として起きるのであるが、この時プロスタグランジンの一種であるPGE2の生合成が視床下部内で促進され、PGE2がcyclicAMPに媒介される過程を活性化して体温が上昇する。アスピリンはPGE2の生合成を阻害することで解熱作用を示すのであるが、正常値より体温が下がることはなく、また運動や環境温度の上昇などによって上昇した体温に対して影響を与えない。アスピリンは頭痛、筋肉痛、関節痛などの鎮痛に効果があるが、これもプロスタグランジンの生合成阻害によるものである。プロスタグランジンは機械的あるいは化学的刺激に対する疼痛受容体を感作させる働きがあるからである。アスピリンの鎮痛効果はモルヒネの10分の1にすぎないが、長期投与しても耐性、嗜癖はなく毒性も低いので、広く用いられる。とりわけ、慢性の術後痛や炎症による痛みではアスピリンによりもっともよい疼痛コントロールが得られる。欧米では、アスピリンは鎮痛目的、それもリウマチなどの関節痛で多用され、わが国とは違って解熱薬という意識は希薄である。前述したように、アスピリンは既に古典的薬物といってよいものであるが、現在、消費量はむしろ増加の傾向にある。2001年から、アスピリンの適用薬効として解熱、鎮痛のほか、心筋梗塞および脳梗塞再発予防作用が加えられた。アスピリンには血栓を予防する効果のあることは1950年代から指摘されており脳梗塞や狭心症の予防に効果があるといわれてきた。1988年、このようなアスピリンの効能を裏付ける注目すべき論文が米国の権威ある医学雑誌"New England Journal of Medicine"に掲載された。これは40歳以上の健康な医師22,071人をA、B二つのグループに分け、Aグループでは325mgのアスピリンを隔日投与、Bグループではプラシーボ(偽薬)としてデンプン錠を同様に投与し、二重盲検法により5年間の長期にわたって追跡調査を行った。その結果、Aグループでは104人の心臓発作患者が発生し、5人が死亡したのに対し、Bグループでは189人の発作患者中18人が死亡した。つまり、アスピリン投与群では発生率、死亡率ともにプラシーボ群に比べて有意の差をもって低い結果を得たのである。他の注目すべき知見として、アスピリン投与群では皮下出血や鼻出血などの頻度が32%大きく、輸血が必要とされたものの頻度も71%高いという結果が得られた。これはアスピリン投与による抗血小板作用の結果と考えられる。本論文の他にもアスピリンが狭心症や心筋梗塞の予防に効果があるという報告があるが、New England Journal of Medicine誌の論文がもっとも信頼できるデータを提供したとされ、以降米国では当該目的でアスピリンが本格的に使用されることになったのである。アスピリンは血小板の作用を抑制して血栓の生成を抑制するのであるが、これはアスピリンの少量投与でもっとも効率よく抑制され、大量投与ではむしろその効果は減弱する。これはいわゆる”アスピリンジレンマ”と呼ばれるものであり、次のように説明される。すなわち、血小板に対して相反する作用をもつトロンボキサンA2とPGI2の2つの因子があり、前者は血小板の機能を亢進して血小板を凝集させたり血管を収縮させたりする作用があり、後者は血小板の機能を抑制して血小板の凝集を抑えたり血管を拡張させたりする作用がある。トロンボキサンA2、PGI2ともにアラキドン酸からシクロオキシナーゼにより生合成されるものである(図参照)が、トロンボキサンA2をつくるシクロオキシゲナーゼは血小板内にあるのに対し、PGI2をつくるシクロオキシゲナーゼは血管内皮細胞に存在する。アスピリンは血管内皮細胞のシクロオキシゲナーゼ よりも血小板のシクロオキシゲナーゼ に対し高い親和性をもつので、低用量でもトロンボキサンA2の生合成を抑制できるが、高用量では血管内皮細胞のシクロオキシゲナーゼも阻害してPGI2の生合成を阻害してしまうので、全体として血栓抑制のの効果が減弱してしまうのである。以上、アスピリンの抗血栓作用は揺るぎない事実といってよいが、New England Journal of Medicine誌の論文でも指摘されているように、止血という観点でとりわけ注意を要する。例えば、外科手術や歯科での抜歯を受ける場合は、直ちにアスピリンの服用をとめる必要がある。アスピリンによるシクロオキシゲナーゼの阻害作用は非可逆的であるので服用をとめてもすぐにアスピリンの作用から抜け出ることはできず、新たに生成する血小板で置き換えられるまで待たねばならない。一般に、その期間は9日とされているので、出血を伴う手術を受ける場合、アスピリンの服用停止から9日以上待たねばならないことになる。解熱鎮痛薬としてアスピリンを服用する場合、一日最大で2〜3gであり、その錠剤も250〜330mgと用量が大きい。しかし、抗血栓薬としては1日80〜160mgが適当とされるので、解熱鎮痛薬用の錠剤は服用できない。以前は医療用「小児用バファリン(81mg錠)」が転用されていたが、薬局で入手できるOTCの「小児用バファリン」はアスピリンではなく抗血栓作用のないアセトアミノフェンでこれに伴うトラブルが頻発した。現在では、アスピリンの薬効適用が拡大されたのに伴い抗血小板薬「バファリン81mg錠」が2001年より発売され、また医療用「小児用バファリン(81mg錠)」の販売は中止されトラブルは解消している。 3.アスピリンの副作用について アスピリンは比較的副作用の少ない薬であるが、皆無ではない。主要な副作用として胃組織の損傷がある。これはアスピリンが胃酸の粘膜内への逆拡散を促し、またプロスタグランジンによる胃酸分泌抑制の効果が生合成阻害により失われるためである。しかし、この副作用は腸溶錠の使用により大幅に軽減することができる。わが国ではアスピリンはダイアルミネート製剤(緩衝錠)が主流であり、腸内で溶けるよう設計されている腸溶錠に比べて胃障害が必然的に多かった。米国では98%はアスピリン腸溶錠であるとの報告があるが、わが国ではようやく腸溶錠が販売されはじめたにすぎない。アスピリンが副作用として胃障害を起こすことは一般に広く定着しており、これを説得して腸溶錠を勧めるのは薬剤師の職務の重要な部分であろう。アスピリンはシクロオキシゲナーゼを阻害するのでロイコトリエンが増加する。その結果として気管支喘息を誘発することがあり、これをアスピリン喘息と呼ぶことがある。また、突発性の激しい発作を誘発することがあるので、特に喘息患者へのアスピリンの投与は控えるべきである。その他、因果関係が証明されたわけではないが、米国においてインフルエンザや水痘などのウイルス性疾患に解熱剤としてアスピリンを用いた小児にライ症候群が多発したため、医薬品等安全性情報として厚生労働省から幼児にアスピリンの使用を控えるよう注意喚起がなされている。小児用バファリンがアスピリンではなくアセトアミノフェンであるのもそのためである。
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