植物成分(plant constituents)について
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「植物に含まれる化学成分」索引

植物成分には一次代謝産物と二次代謝産物がある

 植物には様々な化学成分が含まれるが、大別すると無機化合物と有機化合物がある。植物を燃やした場合、灰となって残るものが無機物であり、ケイ酸塩、リン酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などからなる。植物成分としての無機物は注目されることはほとんどないが、人類は太古以来「灰汁」を食品のあく抜きや生薬の加工調製(たとえば漢方生薬ウバイ(烏梅)の調製など)などに利用してきており、全く役立たずというわけではない。しかし、植物成分として圧倒的に存在感のあるのは有機化合物であろう。大半は炭素・水素・酸素・窒素から構成されるので、燃やせば二酸化炭素や水などになるのであるが、これらは全て生体内の物質代謝系によって創りだされるものである。植物に限らず生物の創り出す有機化合物を「代謝産物(metabolites)」というのもそのためである。生物の代謝産物は大きく「一次代謝産物(primary metabolite)」と「二次代謝産物(secondary metabolite)」に分けることができる。一次代謝産物とは、生体を維持するのに必須の物質群であり、各分類群に属する生物にとっては共通に存在するものである。例えば、DNA、RNA、蛋白質、炭水化物、脂質など高分子化合物およびその構成単位である核酸、アミノ酸、単糖類、脂肪酸はほとんどの生物にとって欠くことのできないものである。その他、高等植物に含まれる繊維質であるリグニン、セルロースも機械的組織の基本的要素であるので、一次代謝産物とされる。これに対して、一次代謝系から派生してできたもので、生物にとって必ずしも必須とは目されないものが二次代謝産物と称されるものである。一次代謝産物は多くの生物にとって共通の化学成分であるのに対して、二次代謝産物はそれぞれの生物にとって固有の産物である点が根本的に異なる。いずれの代謝産物も人類にとっては重要な存在であるが、それぞれの利用のされ方には大きな差がある。人類は野菜や穀類などに含まれる一次代謝産物を栄養素として摂取しているのに対し、薬用として利用してきた植物の薬効成分はいずれも二次代謝産物である。地球上には高等植物だけでも25万種が存在するといわれているので、各生物種や生物群に固有の存在である二次代謝産物ライブラリーはきわめて膨大なものとなる。現在までに単離され構造の明らかにされた二次代謝産物だけでも相当数にのぼり、その化学構造の多様性もきわめて大きい。二次代謝産物は生物の物質代謝系により生産されるので生物の進化とともに”二次代謝産物の化学進化”も同時進行している(→高等植物の化学系統分類学参照)。すなわち、二次代謝産物は各生物種によって個々かってに創られるのではなく、共通の前駆体があって一定の経路(生合成経路という)にしたがって生体内で酵素系の支配をうけて合成される。したがって、二次代謝産物の生合成能を生物種固有の遺伝形質とみなすことができ、二次代謝産物の化学的多様性は種の進化、分化とともに構築されてきた所産といえる。この地球上に蓄積された二次代謝産物ライブラリーは生物多様性により生み出されたといってよい。実際、二次代謝産物の中には構造的に類似するものあるいは共通の部分構造を有するものがあり、それに基づいて多種多様な二次代謝産物を分類することが可能である。有史以来、人類が薬として利用してきたのは膨大な化学的多様性のうちのごくわずかな部分にすぎない。今後、科学技術の進展とともにその割合は多くなると見られるが、膨大な数の二次代謝産物を分類、整理することは必要不可欠である。ここでは二次代謝産物を次の二つのカテゴリー、すなわち生合成経路に基づくもの(イソプレノイド、ポリケチドなど)、構造的には雑多なものでも共通の特性を有するもの(サポニン、タンニン、アルカロイドなど)として分類し説明を加える。後者に関しては必ずしも明瞭なプロトコールに従って命名されているわけではなく慣用名というべきものが多い。代表的な二次代謝産物の生合成経路についても説明するが、基本的には酵素反応のメカニズムに関するものであるので理解するには高度な有機化学的知識を要する。また、それぞれの経路から創られる物質群には相応の総称名が与えられることもあるが、必ずしも構造的特徴と一致するとは限らない。同じ基本骨格を有する物質群でも高等植物と微生物では生合成的起源が異なることもしばしばあるが、ここでは高等植物の二次代謝産物を挙げておく。