複合生合成経路について
→ホーム
  1. 1.シキミ酸と酢酸-マロン酸の複合経路
  2. 2.シキミ酸とイソプレノイドの複合経路(非ポリケチドキノン類)
  3. 3.アミノ酸とマロン酸あるいはイソプレノイドの複合経路

1.シキミ酸と酢酸-マロン酸の複合経路

1-1.フラボノイドとイソフラボノイド(→イソフラボノイドへジャンプする)

 この経路で生合成される主な二次代謝産物として、フラボノイド(flavonoid)やスチルベノイド(stilbenoid)が挙げられる。これらはいずれもシキミ酸経路に由来するp-ヒドロキシケイヒ酸CoA(p-coumaroyl CoA)に3単位のマロニルCoA (malonyl CoA)が結合したcoumaroyl triketide(図1の赤い枠で示したもの)が縮合閉環して生成する。coumaroyl triketideの閉環で最初に生成するフラボノイド種はカルコン(chalcone)という1,3-ジフェニルプロパノイド(→こちら参照)であり、2',4,4',6'-Tetrahydroxychalconeとイソリキリチゲニン(Isoliquiritigenin)の2種のカルコン誘導体がある。後者は6'-deoxy型で、triketide部の一部が還元されたものである。いずれのカルコンもイソメラーゼの作用で閉環して酸素複素環を形成し、それぞれナリンゲニン(Naringenin)とリキリチゲニン(Liquiritigenin)というフラバノン(flavanone)を生成する。フラボノイドの中で1,2-ジフェニルプロパノイド骨格(→こちら参照)を有するものをイソフラボノイド(isoflavonoid)として区別し、それ以外を狭義のフラボノイドと称する。イソフラボノイドとフラボノイドの違いはフェニル基の結合位置がフェニルプロパノイドのC3鎖の2位、3位のいずれかということであって、その生合成の分岐点となる物質はナリンゲニン(Naringenin)あるいはリキリチゲニン(Liquiritigenin)というフラバノンである。「狭義のフラボノイド」の大半はナリンゲニンを前駆体として図1に示すように様々な酸化、還元過程を経て生成される。「狭義のフラボノイド」は複素環部の酸化レベルにより、それぞれフラボン(flavone)、ジヒドロフラボノール(dihydroflavonol)、フラボノール(flavonol)、ロイコアントシアニジン(leucoanthocyanidin)、カテキン(catechin)、アントシアニジン(anthocyanidin)に分類される。この中でカテキンは縮合型タンニンの構成要素(→こちらを参照)であり、フラボノイドよりむしろポリフェノールとしてタンニンに含められることが多い。アントシアニジンは植物色素として広く分布する。フラボノールも広く分布するフラボノイドの一種であり、その例としてクエルセチン(Quercetin)とその配糖体ルチン(Rutin)が挙げられる。ルチンはマメ科エンジュ(花蕾をカイカと称し、古来止血薬として用いられてきた)、タデ科ソバや同属種シャクチリソバなどの果実(食用)などに多量に含まれ、カイカではその含量は10~20%に上る。ルチンには一過性で作用は弱いながら血管収縮、毛細血管透過抑制作用が認められ、かつてはその作用に基づいてビタミンPと称された。そのほか、ドクダミ科ドクダミ(全草をジュウヤクと称し、緩下、利尿薬として用いる)にもクエルセチンの配糖体であるクエルシトリン(構造式はこちら;Quercitrin)が含まれ、ルチンと同様な作用があるほか、利尿、瀉下、抗菌などの作用が認められている。また、ケンフェロール(Kaempferol)もクエルセチンに次いで広く分布するフラボノイドであり、バラ科ノイバラの果実(エイジツと称し瀉下薬として用いる)に配糖体として多く含まれている。エイジツの瀉下活性成分はマルチフロリンA(構造式はこちら;Multiflorin A)を始めとするケンフェロール配糖体である。フラバノンも天然に広く分布し、ミカン科ダイダイウンシュウミカンなど柑橘類の果実に含まれるナリンギン(Naringin)、ヘスペリジン(Hesperidin)はその配糖体である。ミカンの圧搾ジュース中に混じる白い沈殿はこれらフラバノンの配糖体であり、うちナリンギンに苦味があるので、製造過程でナリンギナーゼを用いて分解し苦味を除去している。
 以上のフラボノイドは複数の科あるいは種に含まれる広分布成分であるが、ある一群の植物に固有のフラボノイドで生薬の薬効成分として一定の役割を有するものもある。たとえば、シソ科コガネバナ(根をオウゴンと称し、各種漢方処方に配合される要薬)にバイカレイン(Baicalein)、オウゴニン(Wogonin)など2-フェニル基に酸素官能基をもたないフラボンとその配糖体バイカリン(Baicalin)が含まれる。このうち、バイカレイン、バイカリンにはI型アレルギー反応を抑制するほか、利胆(胆汁分泌)、利尿、抗炎症作用など漢方における薬効を考える上で重要な薬理作用が報告されている。一般に、フラボノイドは治療薬創製の素材とは縁遠い存在であったが、最近、フラボン骨格をもつ医薬品フラボキサート(Flavoxate)が開発され、頻尿の治療に用いられている。

図1 フラボノイドとスチルベノイドの生合成経路

 一方、イソフラボノイドは5-deoxy型フラバノンであるリキリチゲニンを前駆体として、図2に示すように、酸化酵素P450による3位の水素の引き抜きで2位のフェニル基の転位反応が起きてイソフラボンが生成する。更にその2位に水酸基が導入され、様々な生合成反応を経てロテノイド(rotenoid)、プテロカルパン(pterocarpan)やクメスタン(coumestan)など4環性イソフラボノイドを含む多様な骨格群が構築される(→こちらを参照)が、その生合成過程の詳細はフラボノイドほど明らかにされていない。イソフラボノイドはフラボノイドに比べて天然における分布はずっと限られている。大半はマメ科ソラマメ亜科に局在し、ごくわずかがアヤメ科アヤメ属などに散見されるにすぎない。しかし、生物活性の観点から見ると注目すべきものが多い。例えば、ムラサキウマゴヤシなどの牧草を始めとするマメ科植物に比較的広く分布するイソフラボンであるゲニステイン(Genistein)や4環性のクメステロール(Coumesterol)にはエストロゲン作用が知られており、オーストラリアなど牧畜産業の盛んな地域では家畜の不妊等の被害が出たことこともある。また、マメ科デリスDerris ellipticaの根には4環性イソフラボノイドの一種ロテノン(Rotenone;構造式は図2参照)が含まれ、かつては殺虫剤として使われた。ロテノンの殺虫作用はミトコンドリアの呼吸鎖のうち、NADH-CoQレダクターゼ系部位の電子伝達の阻害に基づく呼吸阻害によるものである。また、イソフラボノイドの中にはメディカルピン(Medicarpin;構造式は図2参照)を始めファイトアレキシン(phytoalexin;寄生菌が植物体内に侵入したとき、宿主である植物細胞により生合成される抗菌性物質の総称)が多いのも注目に値する。
 マメ科クズ(根をカッコンと称し、葛根湯など漢方の要薬に配合される)はイソフラボノイド含量の非常に高い植物の一つであるが、 プエラリン(Puerarin)やダイズィン(Daidzin)のほか、これらのアグリコンであるダイゼイン(Daidzein)が含まれる。特にダイゼインには鎮痙作用があり、古方派漢方医学において「主治項背強也(主として背中のこわばるものを治す)」(吉益東洞(1702-1773)「薬徴」)の効があるといわれ、葛根湯の薬効成分の一つと考えられている。ダイズィン・ダイゼインはマメ科ダイズにも含まれるが、これらイソフラボンが骨粗しょう症を予防する効果があるとして、イソフラボンを多く含む機能食品がサプリメントとして販売されている。特に、欧州ではダイズを原料とするわが国の伝統的食品である納豆が機能食品Nattoとして販売されている。最近開発された骨粗しょう症治療薬であるイプリフラボン(Ipriflavone)もイソフラボン骨格を有する物質であることは興味深い。クズの同属植物でタイ北部の産地に生えるPueraria mirificaの塊根は回春強壮薬として用いられた民間薬であるが、プエラリン、ダイズィン、ダイゼイン、ゲニステイン、クメステロールなどクズに含まれるイソフラボノイドのほか、特有成分として卵胞ホルモンであるエストラジオールと同等の強い活性をもつミロエステロール(Miroestrol)が含まれる。ミロエステロールはイソフラボノイド骨格にイソプレノイドのジメチルアリル基(DMAPP)が導入されて複雑な骨格が形成されたものである。最近、プエラリア・ミリフィカ、プエラリアあるいはガウクルアという商品名で豊胸等の美容目的やイソフラボン補給を目的とするサプリメントとしてタイより輸入、販売されているが、安易な使用はすべきではない(→こちらを参照)。

図2 イソフラボノイドの生合成経路

1-2.スチルベノイド

 スチルベノイドはフラボノイドと同様にp-ヒドロキシケイヒ酸CoA(p-Coumaroyl CoA)に3単位のマロニルCoA(Malonyl CoA)が結合したcoumaroyl triketideが閉環して生合成されるが、図1に示すように閉環様式が異なり、フラボノイドではCoAの結合した末端カルボニルは閉環に加わるが、スチルベノイドでは加わらない。更に、スチルベノイドの生合成では末端カルボニルはカルボン酸として残る場合と、脱炭酸して失われる場合がある。前者の例としてはユキノシタ科アマチャの甘味成分であるフィロズルチン (Phyllodulcin)があり、この場合は閉環してイソクマリン(isocoumarin)環を形成している。いわゆるスチルベンは後者であり、タデ科ショクヨウダイオウなど非薬用ダイオウに含まれるラポンチシン(Rhaponticin)が例として挙げられる。また、ユリ科バイケイソウ属に含まれ、またブドウ科ブドウVitis viniferaの果実のファイトアレキシンとして見いだされたレスベラトロール(右構造式;Resveratrol)は、もっとも構造の簡単なスチルベンながら、強い抗酸化作用、発癌予防効果が報告され注目を集めつつある。マメ科ナンキンマメなどレスベラトロールに富む食材や生薬を発癌予防のサプリメントとして応用する研究が活発に行われている。中国ではタデ科イタドリの栽培によりレスベラトールの大量供給が計画されていることは本物質に対する市場の関心の高さがうかがえる。最近、レスベラトロールの酸化カップリングにより生成したオリゴスチルベンやポリスチルベン誘導体の植物からの単離報告が多く、タンニンに次ぐポリフェノールとして今後の研究の展開が注目される。
2.シキミ酸とイソプレノイドの複合経路
 メバロン酸(非メバロン酸由来ではグリセルアルデヒド-3-リン酸とピルビン酸)から生成するイソペンテニルピロリン酸(IPP)は異性化してジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)となるが、DMAPPはアルキル化剤として様々な二次代謝産物に結合する。前述のイソフラボノイドの一つロテノン(図2)では芳香環に結合し、酸素官能基ととともにヒドロフラン環を形成する。クマリン類(→こちら参照)を始め芳香環の多くがシキミ酸由来であるから、セリ科やミカン科植物に多く見られるプレニルクマリン(prenylcoumarin)やフロクマリン(furocoumarin)類はシキミ酸とイソプレノイドの複合経路で生合成されることになる。ここでは、イソプレノイドが基本母核の形成に関わっているものだけを取り上げる。
 アントラキノンは酢酸-マロン酸に由来するポリケチド経路で生合成されることを別に述べた(→こちらを参照)が、酸素官能基の位置に反映されている(→ポリケチド則)ことからその経路を推定できる。しかし、アカネ科アカネの根に含まれる色素アリザリン(Alizarin)の基本骨格は完全なアントラキノンであるが、その構造は図3に示されるようにポリケチド則に全く合わない。それはアントラキノン骨格がポリケチドではなく、シキミ酸由来のナフトキノン(あるいはその互変異性体)にイソプレノイド由来のC5単位が導入されて構築されるからである。ムラサキ科ムラサキの根に含まれるナフトキノン系色素シコニン(Shikonin)はp-ヒドロキシ安息香酸とゲラニル二リン酸(GPP)から生合成されることが標識化合物を使った投与実験で証明されたが、その経路の詳細は明らかでない。

図3 アリザリン、シコニンの生合成経路


3.アミノ酸とマロン酸あるいはイソプレノイドの複合経路

 アミノ酸経路を参照。