イチョウ葉の有害成分ギンコール酸について
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1.ギンコール酸含量の高い市販イチョウ葉エキスに注意!

 イチョウ(Ginkgo biloba L.)の葉や乳液に触れるとかぶれるという人は少なからずいる。これはイチョウにアレルゲン性物質が含まれるからである。イチョウ葉に含まれるのはギンコール酸を始めとするアルキルフェノール誘導体(他に微量物質としてギンコール、ビロボールがある)であり、粗エキス中に2.2%含むという報告がある。一方、イチョウ葉エキスとして事実上の標準品であるEGb761ginkgolic_acidではドイツ連邦厚生省(the Commission E of the former Federal German Health Authority (Bundesgesundheitsamt, BGA))によりギンコール酸含量の上限は5ppmと定められているが、実際に含まれる含量は2~3ppm程度という。EGb761はアルツハイマー性痴呆症など必然的に長期投与の必要な症状に用いられるので、この規制は安全性の観点から当然のことである。しかしながら、品質の標準化が徹底されているEGb761以外のイチョウ葉エキスでは、かなり問題がありそうである。例えば、米国で販売されるイチョウ葉エキスの中には、500ppmから90000ppmに達するものまであったという。すなわち、ギンコール酸含量が粗エキスよりも濃縮されたものもあったというから驚かされる。一方、2002年11月25日朝日新聞朝刊で報道されたように、わが国で販売されるイチョウ葉エキス、イチョウ葉加工食品(ティーバッグ型など)にも多量のギンコール酸を含むものがあったという。当然、未加工のものは多量のギンコール酸が含まれていることになるのだが、ギンコール酸は疎水性の高い物質とはいえ、ティーバッグ型のイチョウ葉末からでも上述の基準を大幅に上回る量のギンコール酸が抽出されても不思議ではないので、注意が肝要であろう。EGb761に含まれるレベル(5ppm以下)であれば、52週の長期試験で全く毒性が見られなかったという確かな報告(→イチョウ葉エキス(EGb761)の薬理活性を参照)があるのでそれほど心配はないといえるが、大幅に上回るレベル、例えば一桁以上多く含まれる場合、お茶などのように毎日の服用は好ましくないというべきであろう。ギンコール酸の毒性としてアレルギーを起こすことはよく知られているのであるが、アレルギーは個人差が激しく、中にはイチョウで全くアレルギーを起こさないという人もかなりいる。したがって、アレルギーを起こさないから大丈夫というのも早計すぎる判断である。新聞報道では専らアレルギー性物質としての注意喚起に終始していたのであるが、実はギンコール酸について、最近、様々な毒性が報告されているのでここに紹介する。

2.ギンコール酸の毒性について

 最近、ニワトリの胚の培養神経細胞を用いた実験で、ギンコール酸が濃度依存的に神経毒性を示すことが確認されている。ギンコール酸はtype-2C型のプロテインフォスファターゼを特異的に活性化させ、それに伴ってアポトシスおよびネクローシスが起きて神経細胞死を起こすとされている。また、死に至らない細胞でも核の縮小やクロマチンの縮合などの形態的変化を起こすことも明らかにされた。更に、ヒト角膜細胞HaCaT、赤毛サルの腎臓小管細胞LLC-MK(2)を用いた培養系でも細胞毒性が確認されている。ギンコール酸の変異原性、すなわち遺伝子毒性については以前から知られており、これにともなって発癌性の恐れのある物質とされているが、今のところ、直接裏付けるような報告はない。イチョウ葉エキスの長期投与においては、ギンコール酸の細胞毒性についても十分配慮する必要があると思われる。

3.EGb761はギンコール酸を除去したボタニカルドラッグである

 最近、わが国でもイチョウ葉エキスに対する関心が急速に高まってきた。わが国にはイチョウはごく身近に存在する植物だけに、自家製のエキスをつくるケースも多いようである。また、イチョウ葉の乾燥粉末をそのまま健康食品として販売されているものもあり、一般国民の間でも警戒心は薄いように見える。また、これに対する行政当局の対応も実に緩慢である。欧米で標準的に使われているものは上述の有害物質を除去したEGb761やそれに準じるものであり、その製造過程では通常の純薬に匹敵するほどの複雑な工程を経ている(→EGb761(イチョウ葉エキス)とは何かを参照)。したがって、EGb761は生薬エキスあるいはそれに準じるものではなく、いわゆる”ボタニカルドラッグ”ともいうべき新しい形態の医薬品といってよいだろう。すなわち、天然の素材に乾燥などのごく簡単な加工を施した伝統的薬物である生薬、生薬や薬用植物の薬効成分を精製したものないしそれをモデルとして創製した純薬に続く第三のくすりである。米国では一貫して医薬品は化学的に純粋でなくてはならないというポリシーをとってきたが、最近では一定の薬効、安全性さえ確保されれば必ずしも純粋でなくてもよいという風に変わりつつある。最近、この観点に立った天然素材からの医薬品創製が活発になりつつある。