生薬と一般医薬品との相違-生薬の特徴
→ホーム
  1. 生薬の定義
  2. 生薬は品質差が大きい
  3. 生薬は多成分系薬物である
  4. 生薬はそれ自体優れた薬物輸送システムである
  5. 漢方薬と民間薬の違い
  6. 薬食同源について考える

1.生薬の定義

 生薬とは一般通念として広く浸透しているように動植物などの天然の素材を原料とする医薬品と考えて差し支えないが、一方で伝統的に食品にも生薬にも用いられるグレーゾーンに属するもの(特に香辛料に多い)が少なからずあることも確かである(→生薬兼食品の例を参照)。そのため、行政当局は食薬区分の判定基準を設け、行政指導によりそれを徹底させている(→生薬と食品の区別を参照)。公定書である日本薬局方(以下、日局と略称する)に収載される品目は薬事法により医薬品と定義されているが、その中には多くの「生薬」も含まれている。医薬品としての生薬はどのように定義されているのだろうか?日局には生薬総則というのがあり、医薬品としての生薬を定義している。それによれば、 第1条で医薬として用いられる生薬の範囲を次のように規定している(→日局収載生薬の基原および部位別分類は別ページに示す)。

  1. 動植物の薬用とする部分:植物の葉、根、花、果実など
  2. (動植物の)細胞内容物:デンプン、精油、油脂、ロウなど
  3. (動植物の)分泌物:センソなど
  4. (動植物の)抽出物:カンテンなど
  5. 鉱物

 第2条で、上述の素材に簡単な加工を加えたものであること、第3条で、原則として乾燥したものであることとし、以上の3条で事実上「生薬の定義」を行っている。(動植物の)細胞内容物や分泌物、抽出物のように、一般通念的に生薬とは思われないものも含まれるが、これは欧米のcrude drug(わが国では生薬と訳した)と称するものがこれらを含むことを考慮したものである。生薬総則では他に生薬特有の品質管理についても規定している(→生薬総則を参照)。また、生薬は漢方薬のように熱湯で煎じて服用するものと思われがちであるが、生薬特有の製剤が存在し、日局にも多く収載されている。

2.生薬は品質差が大きい

 漢方をはじめとする伝統医学では生薬を用いた薬物療法が主流である。その使用法は経験的であるが、原料の採集、加工に至るまで長い歴史の間に蓄積された知恵に基づいている。しかし、王朝の交代や異文化との接触時などで社会的混乱があった場合には確立した伝承療法に撹乱がみられることがしばしばある。わが国の漢方医家が江戸時代に実証主義の立場から旧来の漢方を再評価したのもここに理由がある(→漢方医学概説を参照)。生薬は天産物であるので、同一名でも需要地によりその基原が異なることもしばしばある。例えば、オウレン(黄連)はわが国ではCoptis japonicaを歴史的に用いてきたが、中国ではC. chinensisであった。コウボクは中国ではMagnolia officinalisであるが、わが国では和厚朴(わこうぼく)と称するM. obovataを用いる。このような例は他にも多くあり同様な薬効があるとして用いるのであるが、これはわが国の伝統医学として独り立ちした漢方が国産資源の中から代用品を求めた結果である。したがって、中国の中医学とわが国の漢方では用いる生薬に相違があるのであるから、両者を完全に同一視することはできない。したがって漢方は日本で根ざした伝統医学として認識すべきである。同一名の生薬でも基原が異なる場合があり、仮に同種であったとしても産地、採集時期などによる成分含量の変動があることは事実であるので、その結果として品質の差が大きいことは避けられない生薬の構造的問題であるということができよう。したがって生薬を用いて治療を行う漢方などの伝統医学においては以上のことは必ず留意すべきことであるが、将来的にはクローン植物の大量栽培などバイオテクノロジーの技術を用いた生薬原料の均質化が期待されよう。

3.生薬は多成分系薬物である

 生薬には多種多様な化学成分が含まれている(→植物成分についてを参照)が、明確な薬効を示すものは少なく有効成分がはっきりしないものが多い。たとえ有効成分が明らかであっても生薬として服用する限りおびただしい種類の化学成分とともに服用していることになる。したがって生薬では成分の相互作用も考慮する必要がある。例えば、ゲンノショウコは下痢止め薬であって収斂(しゅうれん)剤であるタンニンが薬効成分とされる。投与量を増やすと便秘になると思われがちであるが、実際に便秘とはならないとされる。これにはゲンノショウコの副成分であるフラボノイドが関与している。大量の服用によってフラボノイドの瀉下作用が顕在化しタンニンの作用を打ち消すのである。これと全く逆の例が瀉下(しゃげ)剤であるダイオウである。ダイオウには瀉下作用成分であるセンノシドのほかにタンニン(ラタンニン;rhatanninなど)が含まれ、大量投与の場合にはその収斂作用による下痢止め効果が作用し、瀉下作用を調節する形となる。末期癌患者の疼痛除去の際、大量のモルヒネが投与されるが、副作用として重篤な便秘が起きる。この場合、便秘を解消するためには大量のセンナ末が用いられるが、同じ薬効成分センノシドを含むダイオウは収斂作用をもつタンニンを含むため使用はできない。チンピ、トウヒの水性エキスには交感神経作動成分であるシネフリンが含まれるので、ラットの摘出子宮に対してチンピ、トウヒエキスのいずれも弛緩作用を示す。一方、ゴシュユの水性エキスにはチンピ、トウヒに匹敵する含量のシネフリンが含まれるにも関わらず、ラット摘出子宮の弛緩作用は見られない。これはゴシュユエキスにはラット子宮を収縮させる成分が含まれ、シネフリンの弛緩作用に拮抗しているからである。以上はある生物活性に対して全く逆の作用を示す成分が同じ生薬に共存する例であるが、複数の生薬を配合して用いる漢方処方では生薬間の相互作用により薬理活性に変化が起きることがある。生薬の例ではないが、グレープフルーツ(Citrus paradisi)が一般医薬品との相互作用で薬物の作用や副作用を増強させることは今日では広く知られており、薬剤師の服薬指導で必ず言及することになっているほか、多くの薬の添付文書にも記載されている。グレープフルーツには6',7'-dihydroxybergamottinをはじめフラノクマリン(フロクマリンともいう)骨格を有する一群の二次代謝物が含まれ、これが消化管壁に存在する薬物代謝酵素(CYP3A4など)を阻害する結果、薬物のバイオアベイラビリティが上昇し血中濃度が高まって薬物作用が増強されると説明されている。実際にグレープフルーツからCYP3A4の阻害活性成分として単離同定されたのは6,7-ジヒドロキシベルガモチン(右構造式)であるが、他にも多くのフラノクマリンが含まれると思われる。フラノクマリンはグレープフルーツ特有の成分ではなく、ミカン科やセリ科の植物に比較的広く分布する。セリ科基原生薬のうち、トウキビャクシハマボウフウボウフウはフラノクマリンを含む(→セリ科生薬、植物のフラノクマリンの構造式を参照)ので、これらを含む漢方処方では薬効成分のバイオアベイラビリティが上がって薬理作用を増強させる役割を果たしていると推察される。一般に漢方処方で用いられる生薬は一部を除いて作用は緩慢なのでフラノクマリンが薬物代謝酵素を阻害しても全く問題はなく、逆に多くの処方にこれらセリ科基原生薬が配合されるのは緩慢な活性を強めるため好ましいともいえる。むしろセリ科生薬を含む漢方処方薬と一般医薬との併用に十分注意する必要があろう。また、最近、健康野菜として人気を集めているセリ科植物アシタバAngelica keiskeiもフラノクマリンを含むので、セントジョーンズワートと同様に一般医薬との相互作用に注意を払う必要があろう。

4.生薬はそれ自体優れた薬物輸送システム(Drug Delivery System)である

 漢方で処方される生薬のほとんどは熱水で抽出される。生薬に含まれる化学成分はすべてが水溶性ではないのであるが、実際は脂溶性のものの多くがエキス内に浸出していることが知られている。これは生薬には高分子から低分子まで多様な化学成分が含まれ、包摂や複合体形成などによりもともと水溶性の低いものも水エキスとして抽出されるのである。別の言葉でいえば生薬はそれ自体で優れた薬物輸送システム(Drug Delivery System)であることを示唆するものであろう。一方、精油成分のような揮発性成分は熱湯抽出の間に水との共沸により多くが揮散してしまう。またサポニンなどのように糖が結合した配糖体では熱水抽出で一部分解する。しかし精油や配糖体が薬効に関わる場合では直接粉末として用いることによりこうした薬効成分のロスを回避することができる。精油含量の高い生薬を多く含む漢方処方薬では安中散などをはじめとして散剤が多いのはかかる理由によるものと推察される。
 また、意外と知られていないことであるが、薬の中には生薬以外の代替品がないという範疇の薬物群もある。その代表例が瀉下剤(しゃげざい)であり、この分野では合成医薬の代替品がなくダイオウセンナ、アロエの3種でほぼ独占されている。漢方の食毒のように便秘は健康によくないという考えは世界共通のようで最も需要の多い薬物の一つである。ダイオウ、センナの薬効成分はセンノシドといわれるアンスロンニ量体であるが、これが純薬として利用されるようになった(プルゼニド錠剤など)のはごく最近のことであり、その使用も重篤な便秘に限られ腹痛や嘔吐などの副作用もあるので生薬製剤のように気軽に使えるものではない。センノシドは真の薬効成分ではなく、経口投与から大腸に至るまで吸収されることなく輸送された後、腸内細菌によって代謝されて生成したアンスロンが大腸の蠕動を刺激して瀉下作用を示すことが明らかにされている(→重要な漢方薬ダイオウ(大黄)について参照)。他に、去痰薬といわれるものも生薬以外に選択肢の乏しい薬物群である。これらの多くはサポニンが薬効に関わっていると考えられ、咽喉粘膜に対して効率良く作用させるため、エキス剤よりむしろ散剤として処方されるのが普通である。ゲンノショウコなど収斂性下痢止め薬も同様である。保健強壮薬あるいは滋養強壮薬も生薬の特徴を生かした薬物群といえる。以上のような薬効成分を精製して使うだけのアドバンテージが乏しいケースではこれからも生薬として利用され続けるであろう。

5.漢方薬と民間薬の違い

 生薬といえば天然物、とりわけ植物起源の薬物であるが、世間では全ての生薬は漢方薬と考えることが多い。無論、これは誤解であり生薬学においては使用法に大きな差があることから民間薬漢方薬とを区別している。漢方薬とは漢方医学の独特の理論に基づいて処方される薬物である。この中にはチクセツニンジン(竹節人参)などのように中国の伝統医学では使わないわが国独自の漢方薬もある。一方、民間薬とは医師や薬剤師の関与なしに民間で伝承的に用いられる薬物である。民間薬の用法は全て口伝によるもので、理論的裏づけがあるわけではなく、漢方薬のように複数の生薬を配合して使うことはない。漢方薬には生薬の採集、加工時から品質維持に関して経験的な規定でもって管理されているが、民間薬ではそういうことはない。日本薬局方収載生薬の中で、民間薬起源とされるものはキササゲ、ゲンノショウコ、シャゼンソウ(車前草)、センブリ、ジュウヤク(十薬)がある。ゲンノショウコ、センブリ、ジュウヤクはわが国古来の民間薬であるが、キササゲが薬用に用いられるようになったのは比較的新しい。シャゼンソウはオオバコの全草を基原とするものであるが、種子はシャゼンシ(車前子)と称し漢方薬である。ジュウヤクはドクダミを基原とする生薬であるが、元来民間薬であったものを漢方でも用いるようになったものである。日本薬局方で生薬の範疇に入れられるものには精油、デンプン類、脂肪油などのように必ずしも伝承的に用いられてきたわけではないものも含むので、最近では民間薬と、漢方薬など体系的伝統医学で用いられる生薬を合わせて伝承医薬と総称することが多い。

6.薬食同源について考える

 アフリカに生息するチンパンジーはある種の植物を薬草として食べるという報告がある。また、チンパンジーのような高等な類人猿でなくとも、イエネコが庭に生える草を食べて「毛玉」を排出することはペット好きの人にはよく知られたことであり、これもイエネコによる薬草の利用と考えられなくはない。生薬という天然起源の薬物は前述の動物よりはるかに知能の高い人類が無数の試行錯誤を繰り返して選抜したものといってよいだろう。その中には食と薬の中間の性質をもつものもあったはずである。
 いわゆるミカンはおいしい果実であるが、そのミカンの木は栽培種であって野生しない。ミカンの原種はいずれも酸味が強くて食に適さず、現在われわれが食するミカンは祖先が気の遠くなるほど長い時間をかけて改良を加えた結果である。一方で、ミカンを世界でもっとも早く栽培したのは中国人といわれ、最初は食用ではなく薬用であったという説がある。オレンジの皮をジャムとしたものがマーマレードであるが、当初は薬用であったといわれる。ここに食と薬の分化の原点がある。
 今日、人類は三大栄養素のうち、炭水化物を穀類から、脂肪およびたんぱく質を豆類、動物肉から摂取するが、一方でさほど三大栄養素の含量が高くない野菜、果実などを摂取する。野菜、果実を摂取するのはビタミンなど補助栄養素の摂取のためであるが、フラボノイドなどをはじめとする相当量の二次代謝物(生物が物質代謝で作り出す種固有の化学成分群)も含まれている。二次代謝物は栄養学の立場からは全く役に立たないものであるが、最近の研究ではこうした二次代謝物の存在が健康維持に役立っているという報告がなされている。フラボノイドは一般に瀉下作用があり、毎日適当量を摂取することで快通をもたらすといわれ、実際、フラボノール類にはかなり強い瀉下作用が報告されている。漢方流にいえばいわゆる食毒を拝し病気を断つということになり、すなわち健康によいということになる。一時期、ワインが心疾患の予防によいとして流行したことがある。フランス人は高脂肪食かつ喫煙率が高いにもかかわらず意外と心疾患の羅病率が低い(いわゆるフレンチパラドックス)のはフランス人がワインを多く飲用するためというのである。ワインにはブドウのアントシアニンに由来するポリフェノールが多く含まれるので、その抗酸化作用により心血管系が保護されるためと説明され、ワインが飲めない下戸にはアントシアニンを多く含むサプリメントをと健康雑誌の通俗記事には関連記事が満載である。確固たる科学的根拠があるわけではないが、健康維持には薬食同源が最高と多くの人が支持しているのは確かである。薬食同源とは食品、ハーブ、生薬に比較的普通に含まれる二次代謝物を利用した健康維持思想と考えてよさそうである。漢方薬で繁用される生薬の多くは薬理活性試験で作用が緩慢のものであるが、薬食同源と観点からは注目されているものが多い。また、米国のデザイナーフード計画の癌予防プログラムでリストアップされているものも同類の物が多い(→関連ページを参照)。最近、ハーブとして輸入され、補助食品として販売されるものもこうした類のものである。



バイオアベイラビリティとは?
 生体内に摂取された薬物は基本的に生体外異物(xenobiotics)なので、生体はそれを排除しようとする。実際には、生体内各所にP450と称される薬物代謝酵素が存在し、薬物を代謝、分解して排出する。特に、薬物を経口投与すると必ず通過する消化管壁には薬物代謝酵素があり、投与した薬物は分解されていく。従って、投与した薬物が全てそのままくすりとして作用するわけではない。バイオアベイラビリティとは投与した薬物がどれだけの量で、どういう速さで生体内に取り込まれるかという薬物の利用率ないし利用能のことをいう。生物学的利用率ともいう。代謝されて失活したものを除いてどれだけくすりとして使われるかをいう。