シグナルとシグナレス
宮沢賢治


ガタンコガタンコ シュウフッフッ
さそりの赤眼が 見えたころ
四時から今朝も やって来た
遠野の盆地は まっくらで
つめたい水の 声ばかり

ガタンコガタンコ シュウフッフッ
凍えた砂利に 湯気を吐き
火花を闇に まきながら
蛇紋岩の 崖に来て
やっと東が 燃え出した

ガタンコガタンコ シュウフッフッ
鳥がなき出し 木は光り
青々川は ながれたが
丘もはざまも いちめんに
まぶしい霜を 載せていた

ガタンコガタンコ シュウフッフッ
やっぱりかけると あったかだ
僕はほうほう 汗が出る
もう七八里 はせたいな
今日も、一日 霜ぐもり

ガタンガタン ギー シュウシュウ


「シグナルとシグナレス」

本線の立派な新式信号機のシグナル。
軽便鉄道の木製の信号機のシグナレス。
二人(二機?)の恋物語。
勘違いしたり、思い詰めたり、それはそれは真剣で、
美しい恋なのです。
シグナルとシグナレス
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好きなフレーズを二、三。


『又あなたはだまってしまったんですね。やっぱり僕がきらいなんでしょう。もういいや、どうせ僕なんか噴火か洪水か風かにやられるにきまってるんだ。』


『でもなんですか、僕たちは春になったら燕にたのんで、みんなにも知らせて結婚の式をあげましょう。どうか約束して下さい。』
『だってあたしはこんなつまらないんですわ』
『わかってますよ、僕にはそのつまらないところが尊いんです。』


『ええ、とうとう、僕たち二人きりですね。』
『まあ、青じろい火が燃えてますわ。まあ地面も海も。けど熱くないわ。』
『ここは空ですよ。これは星の中の霧の火ですよ。僕たちのねがいが叶ったんです。ああ、さんたまりや。』
『ああ。』
『地球は遠いですね。』
『ええ。』

にほんごであそぼふぁんさいと

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