『つながるいのち 生物多様性からのメッセージ』 (山と渓谷社刊)       
    児童文学者 那須正幹(なす・まさもと)さん       
 子どもを魅了する「昆虫少年」の心
>>>抜粋>>>
 小学生時代はいつも学級委員に選ばれる優等生だったが、「平均的ないたずら小僧」を自認する。よそのイチジクを失敬したり、線路に耳を当てて電車が近づく音を聞いたり。そんな元気いっぱいの少年もしくじることがあった。踏み切り内でトンボを追いかけていたのを注意され、悪態をついたら踏み切りの管理人に捕まってしまったのだ。校長先生に言いつけると脅された。
「大変なことになったと思ったら、とっさに言い訳が口をついて出てきたんです。
『実はお袋が病気で寝ているので、僕は早く家に帰っておかゆを作って食べさせなければいけんのです』と。
 それでまんまと放免してもらいましたが、以後、その踏切を通るのが嫌でね。まあ、あのころから話を創作する作家の素質があったのですかね」
 どこが「平均的」なのだろう。そうだとすれば、那須さんのような、あるいはそれ以上の「個性豊かな子ども」がごろごろいたのか。
(本書146−147Pから)

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初めてのインタビュー集■■■
 この本は「生物多様性」をキーワードに、各界の識者や文化人17人の生の声を集めている(下に一覧)。日本環境ジャーナリストの会生物多様性研究会のメンバーがインタビューを分担し、『山と渓谷』『世界週報』などに発表したものを1冊にまとめたものだ。環境ジャーナリストの会としては初めての取り組み。私は児童文学者の那須正幹さんを担当した。04年7月に同会理事である佐藤年緒さんの呼びかけでスタートし、生物多様性研究会発足、2誌への記事掲載を経て出版を迎えた。
 地方に住んでいると、頻繁に開かれる東京での打ち合わせに出るのはなかなか難しいのだが、生物多様性には非常に興味があったので当初の会議に出席した。出版まではいくつものハードルを越えなければならなかった。環境ジャーナリストの会のメンバーは新聞社、出版社、放送などに勤務する人から、私のようなフリーまで条件はばらばらだし、それぞれの関心や価値観も違う。だれにインタビューするのか、本の性格やタイトルはどうする−などについて、一つひとつ詰めていくには編集責任者(3人)の相当の苦労があったようだ。
 私は途中から会議にはあまり出席することができなくなったのだが、私は取材候補者として、在住の山口県内から児童文学者の那須さんと萩焼作家Mさんを推薦した。那須さんの名前はよく知っており、「いつかはお会いしたい」と思っていたので、とても好都合な企画だった。
 
■■■笑いと感銘の3時間■■■
 ちょうど那須さんを取材しようとしたとき、他の本の企画(こちらは無期延期中)で訪れた日本自然保護協会で、那須さんの人気シリーズ『ズッコケ三人組』の担当編集者であるIさんにお目にかかった。なんという偶然! 以前私が勤めていた新聞社にも那須さんと親しい知人がいるのだが、Iさんとのご縁を大切にして仲介をお願いすることにした。
犬を連れて散歩中の那須さん Iさん経由でメールを送ると、間もなく那須さん本人から電話が入り、取材日時を決めた。取材は今年3月下旬。テープレコーダーとカメラ持参で自宅を訪ねた。何せ2100万部以上売れた日本児童文学史上のベストセラー『ズッコケ三人組』の作者である。どんな人かと期待しながら、玄関のベルを鳴らした。それから3時間、那須さんの楽しいキャラクターに引かれ、あっという間にインタビューが終わってしまった。途中で何度も大笑いをしたインタビューというのも珍しい。
 本筋の生物多様性については、さすがという他なかった。手塚治虫にあこがれていた昆虫少年時代、高校時代の生物部入部、大学の林学科在籍と生物多様性を語るには十分な経歴。「生物多様性と同じように子どもの適性や能力も多様である」「クマなどの野生生物と人間は共存すべし」などと、自然への思いや自然と児童文学とのかかわりなどについて、わかりやすく奥の深い話を聞かせてもらった。

■■■少年の心失わず■■■
 那須さんの人物像を描くポイントは野山で遊んだ少年時代の体験だと思った。いつまでも少年の心を失わない那須さん。やさしく、いたずらが好きそうな(!?)目を見ながら話を聞いていると、『ズッコケ三人組』がベストセラーになった理由がよく理解できた。
 その日は自宅でのポートレート、翌日には散歩中の写真をそれぞれ撮影した。さらに那須さんが生まれ育った広島市西区斐己本町を訪問、近所の人に昔の町の様子や那須さんのことを聞いたり、太田川や斐己小学校などの写真を撮ったりした。
 原稿執筆はいつものように、ノートやテープの内容を文字にすることから始め、全体の構成や細部の表現などを考えながら肉付け、刈り込みをしていった。先に書籍用に原稿を書き、次にその原稿を少し削って短くした『世界週報』用とした。生物多様性という難しい言葉をわかりやすく伝えるために、那須さんのキャラクターと自然のつながりをどう表現するかに一番エネルギーを費やした。いたずらの部分は「困った人ですねえ」と、思わずつぶやきながらキーボードを叩いていた。線路で遊んでいた部分は、ちょうど尼崎のJR脱線事故があったばかりだったので、ちょっと気がかりだったが…。
 先に原稿が掲載された『世界週報』7月12日号に比べると、書籍の方は分量が多くなり、写真の枚数も多くなった。「インタビューを終えて」が加わったので、『世界週報』に載せることができなかった原爆とのかかわりも少し紹介した。
 手前味噌ではあるが、ユニークな本に仕上がったと思う。自然や環境に関心のある人だけでなく、「人間多様性」に興味のある多くの人に読んでもらいたい1冊である。

<本のメニュー>
[営み]
内山節 山村の哲学者 伝統的な「村」の営みと生きものの世界 滝川 徹=文/●佐藤洋一郎 植物遺伝学者 農業と里の多様性の復権を 寺田千恵=文/●佐藤昭人 藍師 天然の色を後世に伝える 佐藤 淳=文・写真
[いのち]
南正人 ピッキオ社長 「クマとの共存」を請負う会社 岸上祐子=文/●羽山伸一 日本獣医畜産大学助教授 現場で働くプロを育て、人の手で自然の復元を 中野美鹿=文/●岡安直比 サル学者・WWFジャパン自然保護室長 熱帯林と干潟 命の揺籃を見つめて 水口 哲=文/●永田芳男 植物写真家 花の声に耳を傾けて撮りたい 岡山泰史=文/●高野 肇 森林総合研究所主任研究官 危機にさらされる小笠原の動植物 芦崎 治=文・写真/●濱田隆士 古生物学者 マンモス絶滅の謎を解く 佐藤年緒=文・写真
[こころ]
那須正幹 児童文学者 子どもを魅了する「昆虫少年」の心 吉田光宏=文・写真/●小久保隆 環境音楽作曲家・音環境デザイナー 自然の織りなす調和を伝えたい 小島和子=文/●萱野 茂 二風谷アイヌ資料館館長 アイヌの「心」が教えてくれるもの 田中泰義=文
[地球]
岩槻邦男 兵庫県立人と自然の博物館館長 地球は種と種がつながる生命系 中野美鹿=文/●柴田敏隆 コンサベーショニスト 『沈黙の春』から「故郷」の再生へ 水口 哲=文/●加藤尚武 哲学者 時代や地域を問わない「万物一体」の環境思想 関 智子=文/●レスター・ブラウン 環境経済学者 中国の経済成長でアマゾンの生物が危ない 織田創樹・村田佳壽子=文 /●毛利 衛 日本科学未来館館長・宇宙飛行士 宇宙で見つめた人と生命のゆくえ 佐藤年緒=文
発行12月5日 1500円(外税) ISBN:4-635-31021-3
(2005・12・6)■